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2%物価上昇、脱デフレは実現するか

 昨年末に2%の消費者物価上昇を目標にする自民党阿部政権が成立し、その政策目標に日本銀行白川総裁が屈服したため、金融緩和が一段と進む見通しが強まってきた。これを受けて、為替レートが円安基調に転換し、株価上昇が上昇傾向にある。いわゆるアベノミクスに脱デフレ、景気回復への期待が強まり、1980年代後半の金融緩和で生じたバブル景気の再現までには至らなくても、そのような状況を予想する見方も散見されるようになっている。

 バブル期はそれまでの消費者物価上昇率は今日と同様にゼロ前後の推移だったのが、89年4月には景気回復で今回の目標になる2%台に乗せている。それからは一進一退で上昇軌道をたどり、ピークは90年11月の4.2%増である。

 最近の議論で物価が上昇すれば景気は回復とする、つまり脱デフレになると誤解、物価の下落とデフレを同一の現象として扱う傾向が強い。実際は、物価の下落は文字通り物の価格が下がる現象であるのに対し、デフレは供給過剰による景気が悪化している状態をいい、それに伴って物価が下落するが、意味は同じではない。物価が上昇していても景気が悪いスタグフレーションに陥ることもあるわけで、物価が上がれば良いというわけではない。

 長期にわたってデフレ状態が続いているため、そこからの脱出をアベノミクスに求める心情は理解できるが、この間の環境変化を認識しない見方でしかない。よくいわれていることでは、金融緩和の景気回復効果は低下しているという指摘がある。

 金融緩和でマネタリーベースの供給を増やしても、それが企業への貸出に結び付かない、逆に言えば企業の資金需要が弱いためである。最近の2012年のマネタリーベースの推移をみると、前年比で2桁台の伸びになっても日本銀行券発行高はほとんど増えず、その代わり日銀当座預金が増えるだけである。バブル期はマネタリーベースを増やせば日銀券発行高は増えていた。その一方で、例えば1987年をみると、日銀当座預金は年初はマイナスの伸びで、年央以降は2桁台の伸びでも日銀券発行高の伸び率はほとんど影響を受けていない。

 要因は87年頃の日銀券発行高は22兆、23兆円程度であるのに対し、日銀当座預金は約9分の1の3兆円にも満たない水準であり、両者間の前年比伸び率に相関性はほとんどなかった。これに対し、その後の長期にわたる金融緩和で日銀当座預金が積み上がり、12年12月では日銀券発行高84兆円、日銀当座預金40兆円となっており、日銀当座預金は日銀券発行高の2分の1近い水準にまで達しているからである。それだけ長期にわたって金融緩和が続けられる一方、金融機関が貸し出したいと思える企業の資金需要が弱いまま推移してきたことを示している。

 バブル期頃を振り返ると、実質GDP成長率は5、6%成長を続けており、日本の人口減少は予想されていたが、人口減少が国内需要を減少させる影響までは実感できなかった。また、中国への工場進出も始まっていても、今日ほどは海外進出が広がっていなかった。結果として、投資は国内中心であり、国内での資金需要は強かった。

 これは雇用・賃金面にも現れ、当時の完全失業率は2%台と労働需給は逼迫でなくても(ただし、89〜90年には逼迫傾向がみられた)、供給過剰とまではいえなかった。このため、賃上げ率は「賃金引き引き上げ等の実態に関する調査」(厚生労働省)の加重平均で当時の最も低い87年でも3.6%あり、最近の1%台、定昇を考慮すれば実質ゼロと比較すれば、まだ賃上げが実施されていた。そして、これが消費者物価を引き上げる要因にもなっていた。

 労働人口が増えなくても賃金が上昇していれば、個人消費は拡大でき、日本経済の将来に関してはむしろ楽観的だった。これが企業の投資資金需要になる一方、金融機関も積極的に貸出を拡大させ、それが投機になって株高、地価上昇をもたらすバブルを発生させた。

 これに対し、最近は労働需給の改善は進まず、下落傾向にある12年11月でもまだ4.1%と高水準で、一時金は大幅に縮小し、年収は減少基調にある。加えて、人口減少、高齢化で国内市場の先細り現象が現実化し、企業は国内での能力拡大は考えず、国内投資は最低限に抑えている。これが国内景気を悪化させ、海外市場依存を強めるとともに、国内での競争が激化し、物価の値下がりをもたらしている。

 金融機関はバブル後に苦しんだ経験がまだ残っており、貸し出し審査が甘くなることは予想されない。阿部政権が笛を吹いても踊る状況は考えられない。株価が値上がり期待で上昇しても限界があり、人口減少時代には地価の上昇も一部の限られた土地に留まる。消費者物価上昇率も景気、賃金面からみて2%を実現する可能性は非常に低い。ただし、景気回復に関しては、中国と米国が景気回復すれば、輸出主導の回復は十分予想される。また、歯止めのない金融緩和が続き、円への信頼が無くなった場合も想定されないわけではない。そのときは、状況は全く異なる。

マネタリーベース(前年同月比伸び率)の推移
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| 2013年02月01日 | 政策 | comments(0) | - |

製造業の衰退と工場立地構造変化

工場の海外立地・移転によって製造業が衰退しているというのが一般的な認識であろう。衰退は製造業の生産力自体の衰えと捉えられるが、一方、世界での相対的な地位低下という考えもあるかもしれない。前者であれば、日本経済の先行きは厳しいのに対し、後者であれば、再生の可能性はあるといえる。一般的には前者のイメージが強いと推測され、政治や人口問題などと共に日本経済への不安を高まる要因になっている。ただし、後者であっても、工場の立地構造変化による地域経済への影響は大きい。

韓国、中国などの新興国の台頭で、日本の製造業の地位が相対的に低下していることは否定できない。しかし、絶対的に低下、つまり生産力自体が衰退傾向にあるかどうかの判定は容易ではない。一般的にはその判定に出荷額(生産額)が使われるが、出荷額は景気による変動に加えて、物価の影響が大きい問題がある。円高とデフレ状態から物価が下落している状況では、出荷額が減少傾向にあるだけで生産力が衰退傾向にあるとはいえない。また、経済産業省「鉱工業生産指数統計」で生産能力指数が集計されているが、指数であるため実態が分かり難い問題がある。

それよりも同省「工業統計表」の用地・用水編の工場の延べ建築面積が生産設備に直結し、生産力の実態に近い。ただし、用地・用水編は従業者30人以上の工場を対象に集計しているため、小零細の工場が含まれない問題はある。それでも、従業者30人以上で出荷額等は同4人以上の9割ほどを占めており、これで全体の動向を推し量ることは可能と考えられる。

まず、工場の敷地面積は1996年の1万4,809ha(万平米)をピークに2010年は1万4,071ha、対96年比5.0%減の縮小傾向にある。主な要因は敷地面積の大きい素材産業の工場が減少してためである。ちなみに、従業者30人以上工場数は1991年の6万1,669工場をピークに2010年は約3割減の4万3,628工場である。ただし、従業者が減って29人以下になれば、集計対象でなくなるため、実際に工場がこれだけ無くなったとはいえない。この影響による敷地面積の縮小があっても、これらはもともと小規模工場であり、工場敷地面積全体への影響は小さいと推測できる。

また、工場の建築面積は90年代末頃から一進一退傾向にある。最近では、2008年の3万9,191haをピークに10年は1.7%減の3万8,510haだが、一進一退傾向から明確に縮小に向かっているとは言い難い。特に、08年以降は世界不況による人員削減で従業者29人以下になった影響は大きいと考えられる。

延べ建築面積は同様に08年の5万2,894haがピークだが、10年は微減の0.4%減の5万2,672haに留まっている。かつ、建築面積は09、10年の2年連続の減少に対し、延べ建築面積は10年は増加に転じている。もちろん、まだ発表されていないが11年は東日本大震災で大幅減少が避けられない。

敷地面積と延べ建築面積の乖離現象は敷地面積は化学や鉄鋼が減少しているのに対し、産業構造変化を反映して延べ建築面積は輸送用機械、食品などで増えている。ただし、延べ建築面積でみれば化学や鉄鋼も減少とはいえない。工場は閉鎖しても、研究所などはむしろ充実させているからである。

延べ建築面積をみる限り、生産能力は減少しているわけではないが、増加しているともいえない。産業構造の転換を伴いながらほぼ横ばい基調での推移とすれば、日本経済を維持、再生できる可能性はある。一方、全体的にはそうであっても地域別には問題がある。

地域別では格差が大きい。製造業の集積が進んでいる中央部で減少が顕著なのは関東臨海で、一方、東海は増加が目立っている。地方では九州、山陽、四国はまだ増加傾向にあるが、北海道、東北、北陸、山陽は頭打ちかむしろ減少し、地方でも2極分化傾向がみられる。

関東臨海は工場の延べ建築面積が減少、つまり製造業が衰退傾向でも、サービス業による経済発展が見込める。これに対し、地方は比重の高い第1次産業が長期衰退傾向にあり、サービス業に期待できず、製造業の誘致でなんとか地域経済の維持・発展を図ってきた。地方は製造業が減少にまで至らなくても、頭打ちや微増程度に留まれば、生産性の上昇を考慮すれば、従業者は減少することになる。その受け皿が無ければ経済の衰退が避けられない。延べ建築面積が微増程度では発展は期待できないのではないか。

結局、地域経済発展には地域の資源を有効活用するそれぞれの地域に合った戦略が必要という結論になる。このようなことは以前から言われてきたことで、それが難しいから工場誘致が進められてきた。1960年代に始まり、当時の平松大分県知事に名付けられて80年代に全国的にブームになった一村一品運動も、それによって大分県経済の活性化までには至っていない。その精神は大切だが、一部の町村レベルでは成功の可能性があっても、それで地域全体を引き上げるのは難しいことを示している。


工場の地域別延べ建築面積

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| 2012年10月30日 | 政策 | comments(0) | - |

電力価格引き下げにLNG輸入価格値下げ努力を

 東京電力の家庭向け電力価格の値上げが9月から8.46%で決まったが、今回の値上げ問題で電力の総括原価方式が広く知れ渡り、コストが高いほど電力会社が儲かる仕組みへの批判が高まった。無駄なコストとして福利厚生費、一般レベルと比べて高い人件費、福島原子力発電所の停止コストなどいろいろ指摘されいる。

 この議論の中で燃料費の問題が忘れられている。総括原価に含まれる燃料の原油やLNG、石炭などの価格は世界需給によって変動するため、燃料費は価格変動に合わせて調整される。この方法では他の費用と同様に高く買うほど利益になることでは同じだが、あまり俎上に載せられることはない。

 原子力発電が停止し、その代替エネルギーとしてLNG火力依存が高まり、通関統計の発表資料からLNG輸入価格が上昇していることは報じられている。ところが、このコスト上昇は仕方がないとしてあまり問題にされていない。もちろん、需要が増えたLNGを確保するために、一時的に高値で手当てすることはやむを得ないといえる。長期的には高価格でも価格転嫁できる現在の方式を変え、現状の異常な価格を引き下げる努力が行われるような原価方式が不可欠である。

 その方法の一つとして、電力会社間の競争が生まれる発送電分離があるが、その実現には時間が掛かるため、短期的にはLNG輸入価格の引き下げ必要になる。現状でも、シェールガスの供給が増え、世界的には天然ガスの需給が緩和する見通しになっているため、何をしなくてもLNGも値下げりすると考えられる。それに満足せず、より積極的な取り組みが求められる。

 LNGは天然ガス開発コストに加え、液化設備コストも掛かるため、LNG購入は巨額の投資を保証する長期契約になる。このため、長期価格で固定されるよううに思われるが、現実には競合関係にある他のエネルギー価格の影響を受ける。一般的には、需給を反映する原油価格の後追いで変化する傾向にある。

 例えば、IMFが発表している月間の統計で、原油の代表的なWTI価格は2008年6月のバーレル当たり133.93ドルがピーク、その後は09年2月の39.15ドルがボトムである。2月以降は回復し、11年3月からは頭打ちの100ドル前後の推移で、最近時は欧州危機を反映して下落傾向にあり、12年6月は82.36まで下がっている。このような推移は石炭でも同様である。

 一方、日本のLNG輸入の1割強を占めるインドネシア産LNGの日本での価格は立方メートル当たりで、過去ピークは08年7月の296.24ドル、その後のボトムは09年2月122.66ドルとなっている。ピークからボトムまでの下落率はLNGの方が少ないが、この間の推移はほぼ同じである。ところが、LNGは09年2月を底に回復傾向では同様でも、LNGは頭打ち現象がみられないで回復、上昇を続けている。11年4月には過去ピークを上回る300ドル台に乗せ、最近時の価格は12年4月から6月まで3カ月連続で411.75ドルとなっている。原油価格が頭打ちや値下がりしている影響を全く受けていないのは、11年3月の東日本大震災の影響を否定できない。

 液体と気体の違いはあるが、日本同様に天然ガスを輸入しているドイツは、ロシアからの輸入価格(ロシアとの国境での千立方メートル当たり価格)がインドネシア産LNG価格と似た推移になっている。ピークは08年の10月から09年1月まで4カ月間の576.72ドルで、その後のボトムは09年8、9月の222.48ドルになり、これ以降は値下がりはしても一時的、かつ微減で終わり、最近時は4、5月452.52ドル、6月452.16ドルである。

 ドイツは日本と天然ガスで似た推移になっているのは、ドイツは22年までに原子力発電の順次廃止を決めたことが影響していると推測される。ただし、12年6月価格はピーク時の8割程度の水準に留まっているのに対し、日本は過去ピークを4割ほど上回っており、LNG購入に価格をあまり考慮しない日本の姿勢が窺える。ちなみに、天然ガスはLNGにすると体積が600分の1ほどになるため、最近時のLNG立方メートル当たり411.75ドルは天然ガス千立方メートル当たりでは700ドル近くになり、ドイツの天然ガス購入価格価格より高い。

 一方、米国の天然ガス価格はシェールガス革命で全く異なる。ルイジアナ州のHenry Hubのスポット価格で、千立方メートル当たりピークが05年10月の490.82ドル、その後のピークが08年6月の456.57ドルで、そこから値下がりして09年9月の107.5ドルをボトムに回復に転じた。ところが、シェールガス開発が進んだことで、11年夏以降は値下がり傾向にあり、12年6月は4月の70.31ドルより戻しているが、ピーク時の5分の1以下の88.36ドルでしかない。

 日本の通関LNG輸入価格はインドネシア産LNG価格にみられるように上昇が続いているが、為替レートの円高効果で上昇幅は縮小されている。通関LNG輸入価格のピークは08年9月の8万1,095円で、値上がり傾向にあっても12年4〜6月は7万1,000円前後の推移である。為替レートは08年9月が1ドル=107円、4〜6月が80円強であり、ドルベースでは08年9月を上回っているが、円ベースでは逆になる。

 世界最大のエネルギー市場である米国での需給緩和は、世界レベルでもエネルギーは供給超過と判断できる。米国のエネルギー輸出戦略によって、米国エネルギー市場が世界市場に与える影響は変わる。米国の戦略は不明だが、現在、日本の輸入LNG価格の値上がりが長期的に続くと考えられない。国民生活、産業の競争力の維持には電力価格の引き下げが必要で、世界的なエネルギー需給緩和を日本の輸入価格に反映させる戦略的な取り組みが課題になる。


エネルギー資源価格の推移

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| 2012年07月29日 | 政策 | comments(0) | - |

大阪都構想で大阪経済は活性化できるか


 大阪都構想に関心はないが、イメージだけで首長選挙や国政にまで影響を与える現状は問題が多く、無視できない。大阪府が大阪都になれば、行政が効率化することで、大阪の経済を活性化するという意見はイメージ的にそう思わせているだけで、大阪都構想が実態経済に効果があるかどうかの分析はされていない。

 政府が非効率であるため、財政が悪化し、財源不足から国債発行が増えれば、金利が上昇して民間の投資活動を抑制する。また、将来の増税が予想されることで、国民が貯蓄に励む。結果、いずれも経済に悪影響をもたらすというのが経済学の見方だが、今の日本経済をみる限り、財政状態が悪くても、金利は上昇していない。一方、消費は低迷していても、その原因を財政悪化に求める人もいない。

 一地方自治体の公債発行が金利に影響を与えることは、今の日本ではあり得ない。また、効率化して人件費を抑制できても、無駄な公共投資に使えば財政状態は同じである。もちろん、人件費と公共投資では支出内容が異なるため、経済に波及するルートは違う。また、効率化するだけで、支出を抑制すれば、むしろ地域経済にとってはマイナスになる。

 地域経済は地域の産業構造と政府の政策による。そこでの地方自治体の役割は政治力で政府から金を持ってくる以外、地域に合った産業政策で望ましい産業構造にするしかない。ただし、歴史的に形成された産業の蓄積、自然環境、人材などの制約がある。当然、地方自治体の政策だけでは活性化の可能性がほとんど無い地域も存在する。日本の中では、大阪は産業の蓄積、人材などの面からみれば、産業政策効果が期待できる地域である。

 産業政策のない大阪都構想で大阪経済を活性化できるとは思えないが、活性化を主張する背景には、大阪経済の地盤沈下がある。地域の経済水準を図る方法はいろいろあるが、ここでは代表的な内閣府「県民経済計算」の1人当たり県民所得を使って測る。県民経済計算は今年の2月発表が2009年度統計と遅く、かつ、推計精度に問題はあるが、長期の推移から構造問題を考える資料としては十分利用できる。

 高度成長期の1960年度から大阪府と東京都の全国に対する1人当たり県民所得(1974年度までは旧「県民所得統計」)を比較すると、60年代半ば頃までは全国を100として、大阪府は140前後、東京都は160前後で推移してきた。つまり、大阪府は全国より4割ほど、東京都は6割ほど全国平均を上回り、大阪府は東京都よりは低いとはいえ、全国第2位の高所得県であった。

 その後は両都府共に減少傾向になった。東京都は70年代半ばから80年度までと90年代央に130台にまで下がったこともある。ところが、それ以下には下がらず、最近時では、05、06年度は150台である。それ以降は減少しているが、09年度は140.0で、全国水準を大きく上回っていることには変わりはない。

 一方、大阪府は上下はあっても長期的に下降傾向で推移し、03〜06年度は99台と僅かではあるが4年連続全国水準を下回るところまで下落している。09年度は103.2と全国水準を回復していても小幅である。結果、かつては全国第2位だった所得水準は、09年度には東京都、神奈川県、愛知県、滋賀県、静岡県、千葉県に次いで第7位にまで下がっている。

 1人当たり県民所得にみられる大阪府の経済地位の低下、相対的な所得の下落に不満を持つ府民が、これを変えるという意見に賛成するのは当然といえる。しかし、その方法と効果の関係を分析せず、無批判に受け入れるのは、後で後悔することになると予測できる。

 60年代半ば以降の両都府の低下は、高所得の大都市部から低い地方への所得再分配政策の影響と考えられ、その後の都府間格差は産業構造から分析できる。経済活動別県内総生産の産業構造をみると、1960年度は、大阪府は製造業が43.7%を占め、全国平均の30.5%を大幅に上回っていた。東京都も35.5%で、当時は製造業が大都市部の地域経済を支え、それが高所得をもたらしていた。

 また、卸売・小売業も大阪府25.3%、全国16.0%、東京都18.9%で、大阪府は高く、卸売機能が集積していたことが窺える。一方、東京都の構成比が全国を大幅に上回っていたのは金融・保険業やサービス業で、生産性の高い第3次産業、サービス業が集積し、首都で本社機能が集積していることを反映している。

 09年度には、製造業は大阪府15.6%、全国18.5%、東京都9.0%と、大阪府の産業構造も脱製造業へと変わった。また、卸売・小売業は大阪府18.3%、全国12.9%、東京都18.5%になり、大阪府の卸機能の低下が顕著である。一方、大阪府もサービス業が増えてサービス経済化が進んでいるが、金融・保険業は東京都の12.8%に対し、大阪府は5.7%でしかない。生産性の高い第3次産業、サービス業は東京都への一極集中が進展し、それが高所得を維持する要因になっている。

 また、製造業は80年代以降、輸出産業の電気機械、自動車等の機械産業の成長性が高く、日本経済を牽引してきた。ところが、大阪府は歴史的に集積しているのは、機械産業では家電が目立つ程度で、素材産業が相対的に多く、製造業の構造も相対的に所得の伸びが低い問題がある。日本経済の構造変化の中で大阪経済は地盤沈下してきた。東京から本当の首都を持ってこられるわけはなく、都構想よりもこのような産業構造問題に取り組まない限り、大阪府の復権は不可能である。

大阪府と東京都の一人当たり県民所得の対全国比の推移


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| 2012年04月01日 | 政策 | comments(0) | - |

消費者物価上昇率1%目標は実現するか

 日本銀行は2月14日に政策委員会・金融政策決定会合を開き、「金融緩和の強化について」と題して、「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しており、当面は1%を目途と」して「資産買入等の基金を55 兆円程度から65 兆円程度に10 兆円程度増額する。買入れの対象は長期国債とする」等の景気対策を発表した。日銀が米国に習って金融政策に物価目標を導入したことになるが、ささやかな1%目標は実現するかどうか、また、日本経済の現状で実現した場合、望ましい日本経済になるのかどうかは疑問がある。

 1985年からの消費者物価上昇率の推移をみると、日銀が目標にする1%以上の上昇になったのはバブル期とその影響がまだ残っていた80年代末から90年代初めの5年間と97年度の2.0%増、その後は11年間無くて2008年度の1.1%増になる。80年代末から90年代初めの5年間には89年度の3%の消費税導入が含まれるが、これは1年だけの上昇になり、それよりもバブルによる影響の方が大きい。

 バブルは日本が輸出主導の成長を続けていたことに対して、欧米から批判され、内需主導の経済成長にするために金融緩和したことで生まれた。金融緩和効果で土地や株価が上昇し、個人消費も拡大した。内需主導の経済成長がバブル効果で成功したかに思われたが、その一方で、消費者物価の推移にみられるように物価が上昇傾向になったため、日銀が金融引き締めに転じ、バブル景気は終焉した。その後は長期不況期に入ることになる。

 ちなみに、消費税が導入された89年度の2.9%増から、その影響が消えたはずの90年度は3.3%増で、むしろ上昇率は高まった。3.3%増はそれほど高くはないという見方もあるが、日銀は物価上昇に加速が付き始めたことに危機感を持ち、早めの対策をした結果、バブルが崩壊した。

 次の97年度は2.0%増だが、これは消費税が5%に引き上げられたのが原因で、翌98年度は0.2%増でしかない。これから考えれば、消費税を除けば93年度の1.2%増から08年度まで15年間、1%の上昇はなかったことになる。

 08年度は世界的なバブル景気で原油をはじめとする国際商品の高騰から輸入価格が上昇し、それが国内価格に転嫁されて消費者物価上昇をもたらした。逆に、世界的なバブルの崩壊で国際商品が下落した09年度は1.7%減と過去例のないマイナスである。

 過去の例からは、日銀が今議論になっている消費税の値上げで1%増を目指しているとは考えられないので、1%増には国内景気がバブルの有無に関係なく好景気になる、国際商品高騰や大幅な為替レートの円安による輸入価格の上昇が想定される。

 ただ、80年代末から90年代初めはバブル景気が春闘にも波及していたことに注意する必要がある。この頃は先月2月1日付けのこの欄で書いたグラフで示したように5%前後の賃上げがあり、これがサービス業の値上がり要因になっていた。この時の1%台上昇の最後の年の93年度でも春闘賃上げ率は4%程度であった。このため、98年度までは相対的にサービスの上昇率が財を上回っていた。

 一方、近年は春闘は実質的には無くなっており、賃金面からの上昇要因はない。これが08年度の上昇率に明確に表れ、物が1.7%増に対し、サービスは0.4%増の好対照である。

 今回の日銀の発表を受けて、為替レートは1ドル=80円台まで円安に戻し、株価も上昇傾向にある。それが設備投資や住宅投資、さらには個人消費の拡大に結び付き、力強い景気回復・拡大をもたらし、消費者物価上昇に結び付くとは予測できない。もし、可能性は少ないがバブルによる景気で物価が上昇すれば、過去のバブル崩壊が再来するだけになる。

 一方、輸入価格の上昇による消費者物価上昇に関しては、今の円安傾向からドル=100円を上回るような為替レートの大幅な円安は想定できない。また、世界的な金融緩和から再度、バブルが発生するとしても、それが世界経済の順調な拡大に結び付くことを期待するのは難しい。その時には、日本より先行して海外で金融引き締め、例えば原油の影響の大きい米国でインフレ対策から金融引き締めになり、世界経済が下降線になると予想され、日本経済への打撃が避けられない。

 結局、金融緩和で1%上昇は難しいと考えているが、それが実現しても別の問題が発生するだけである。


消費者物価上昇率の推移

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| 2012年02月29日 | 政策 | comments(0) | - |

経済環境からみて消費税引き上げは適時か

 野田首相は財政再建のために、消費税の10%への引き上げに政治生命を賭ける姿勢だが、それに対して反対も強い。反対の理由は財政支出削減への取り組みが不十分で、マニフェスト違反、またEUの財政危機問題が深刻化する経済環境の悪い時に消費税を上げると、経済を悪化させて税収増効果も小さい、という政治的側面と経済的要因の二つに分けられる。ここでは経済的要因を考える。


 これを考える場合、過去の消費税導入時と3%から5%に引き上げられた時の日本経済の経験は参考になる。3%の消費税導入は1989年4月になる。このときは1〜3月期に個人消費に駆け込み需要が発生し、4〜6月期にその反動減があったが、7〜9月期以降は個人消費は正常化に向かった。結果、消費税導入の影響は軽微で済んだ。


 実質GDP成長率は個人消費の影響で88年度の6.4%増から、89年度は4.6%増に減速したが、基調としては大きな変化にはならなかった。当時は世界経済が順調に拡大しており、日本経済は86年11月をボトムに輸出主導で回復・上昇期にあった。その後、90年8月に発生した湾岸危機で原油価格が上昇し、米国が金融引き締めに転じて世界経済の成長が頭打ちになることで、日本経済は輸出主導の成長が終わり、91年2月がピークになった。


 3%から5%への引き上げは97年4月になり、個人消費の駆け込み需要、反動減は同様だが、7月のタイを皮切りに始まったアジア通貨危機で輸出が減少になった。個人消費の反動減に加えての輸出の減少で一気に不況に突入し、消費税引き上げ翌月の5月が景気のピークになった。実質GDP成長率は96年度の2.9%増から、97年度は微減のゼロ成長に陥った。景気のボトムは99年1月になり、98年度も1.5%減で、初めて2年連続のマイナス成長を記録した。


  以上から、世界経済の影響は大きいことが窺える。もともと、日本経済は輸出の影響が大きく、世界経済を考慮するのは当然といえる。すでに、2011年12月1日付けのこのレポートで、輸出の回復力が弱く、10月の輸出数量指数が前年比マイナスになったことで、景気後退に向かう可能性を指摘した。


 輸出数量指数は10月の4.0%減の後、11月4.4%減、12月6.6%減となっており、懸念したことが現実化しつつある。12月の輸出指数は米国が前年を上回ったが、EU、アジアが2桁台のマイナスになったことで、落ち込み幅が拡大した。財政危機のEUの影響でアジアのEUへの輸出が減少し、それが日本にまで波及していると考えられる。当面の日本経済は復興特需がどこまで下支えできるかに掛かっている。


 今回の 消費税引き上げは14年4月から8%、15年10月から10%となっており、その頃はEUの問題が解決し、世界経済は回復・拡大基調に戻り、輸出が順調に伸びている可能性もある。それでも、不透明な今の時期に引き上げを決めなくても、13年でも十分間に合うということはできる。


 これは世界経済からみた影響だが、日本国内の経済環境も大きく変化している。特に、デフレの定着と消費への影響の大きい賃上げの終焉である。消費者物価のゼロ、マイナス成長は90年代後半から始まったが、当初は為替レートの円高による一時的な現象とみられていた。それが長期化し、今ではデフレ経済が前提になっている。デフレ経済下では、消費税を引き上げても、税収は期待したほど増えないことはこの間の税収をみれば明らかである。


 また、デフレ経済とも関係するが、春闘賃上げ率は80年代以降、趨勢的に低下してきている。90年代までは収入増の基本になるベースアップが実施されていた。ところが、中小企業(統計は08年まで)は99年以降、主要企業でも02年以降、1%台の賃上げ率に留まっている。賃上げ額は定期昇給にベースアップを加えた金額でることを考えると、1%台の賃上げ率はベースアップはほとんどゼロに近い。つまり、所得のベースの増加は無いことになる。


 もちろん、物価上昇がマイナスであれば、実質所得はそれだけ増えるが、実感は名目所得の方になる。その状況で消費税が引き上げられると、消費税負担感は強くなり、より節約ムードが高まり、景気に対してはマイナスになる。ちなみに、3%から5%に2%引き上げられた97年の賃上げ率は主要企業2.90%、中小企業2.63%で、僅かだが賃上げ率が上回っていたが、これからは逆転する。


 いずれにおいても、経済環境は消費税引き上げに適しているとはいえず、反対意見は説得力を持つ。消費税を引き上げても予定ほど税収が増えず、オーバーにいえば永遠に引き上げが続く心配もある。結局、難しくてもデフレを解消し、2、3%でも安定した経済成長が見込めるようになり、賃上げも行われるような取り組みが必要になる。


名目・実質GDP成長率の推移


消費者物価上昇率、主要企業・中小企業賃上げ率の推移



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| 2012年01月31日 | 政策 | comments(0) | - |

円高の度に起こる産業空洞化騒ぎ


 2010年10月に1ドル=80円台にまで円高が進み、80円を超えそうになり、マスコミが製造業からの国内生産では採算が採れなくなり、海外移転するという輸出関連企業の意見を紹介し、いわゆる産業の空洞化論が高まった。これに対して、同年11月1日付けのこの経済レポート「為替レートに関係なく進む海外立地」で、海外立地動向を経済産業省「海外事業活動基本調査」の海外生産比率[=現地法人売上高/(現地法人売上高+現地法人売上高)]の推移から、為替レートだけで海外立地が進んでいるわけではないことを説明し、以下の結論を書いた。
 「為替レートは海外立地にあまり関係しないといえる。もちろん、安い労務コストを求めての海外立地が進んでいることは間違いないが、それは為替レートに影響される以上の内外の労務コスト差があるためといえる。また、海外市場で売るには、現地市場のニーズにあった製品を設計・開発、生産する必要があり、海外市場立地は企業が国内市場の伸びが見込めず、海外市場で成長するためには不可欠になる」

 今回、8月に海外市場で為替レートが1ドル=75円台し、3月の東日本大震災直後の76円台を上回る円高を記録した。かつ、3月は一時的円高であったのに対し、今回は米国の政治経済状況からこの70円台の円高水準が長期化する可能性が高いため、3月には目立たなかった産業空洞化論が再燃している。また、今回の空洞化論は電力問題が絡んでいるのが新しい。

 現状でも前回の結論を変える必要はない。その理由を前回と同様に「海外事業活動基本調査」を使って分析するが、前回の海外生産比率に対し、今回は産業別の現地企業の販売先別売上高で行う。ただし、前回の10年11月1日付け経済レポートの海外生産比率は海外事業活動基本調査の第39回の08年度調査だが、今回はその後、発表された第40回の09年度調査による。

 現地企業の販売先別の09年度売上高構成は製造業全体で、現地売上61.9%、第3国向け輸出26.7%、日本向け輸出11.4%となっている。現地売上のうち、売上高全体に対する構成で現地の日系企業向け25.6%、地場企業向け34.5%、その他企業向け1.8%である。日系企業向けの中には販売先の日系企業の第3国向け輸出や日本向け輸出になる部品が含まれ、売上高構成よりも日本や第3国向けの輸出は大きいことに留意する必要がある。それでも、製造業の海外進出目的は現地市場の確保が中心と推測できる。

 主要産業で日本向け輸出の構成が大きいのは非鉄金属の45.2%になる。非鉄金属のアルミ精錬は生産コストに占める電力コストの比率が高く、電力価格の高い国内での生産が国際競争力を失ったため、アルミ地金はほとんど全量輸入依存になった影響である。

 また、業務用機械、電気機械、情報通信機械も日本向け輸出の構成が大きく、労働集約分野は比較的早期から海外に移転し、日本からみれば輸入産業である。同時に、これらの機械産業は第3国向け輸出構成も大きく、労働コストから国内では国際競争力が低下した分野を海外に移し、そこから日本や第3国に輸出する構造になっている。

 一方、機械産業の中で、輸送用機械は日本向け輸出が2.6%でしかないのに対し、第3国向け輸出が30.5%と顕著に大きい。これは自動車は大規模生産が必要な産業で、アジアへの立地が現地国市場だけでは不足し、周辺国市場への輸出も目的としているためと考えられる。

 海外立地の目的は現地市場確保と国内生産の国際競争力が低下・消失した産業分野の競争力回復にあり、為替レートの円高は国際競争力の低下・消失を加速する要因になる。その一方で、輸入品価格は値下がりし、国内の賃上げがほとんどゼロになっていることを考慮すれば、円高分の全てが価格競争力の低下に結び付くわけではない。過去の円高時の度に空洞化がいわれ、それを乗り越えてきた実績もある。

 空洞化は米国のように国際競争力の消失によって国内生産力が縮小し、ドル安になっても生産力が回復できない事態にまで至った状態と定義できる。日本が長期的にそのような状態には絶対に陥らないとはいえないが、為替レートの円高だけで、今のところそこまでは予想できない。

 ただし、今回は電力の問題が新しく加わっている。まず、電力不足に関しては、原子力発電の先行きが不透明だが、原子力に依存しなくても、省エネと火力発電によって克服できることが明らかになっている。

 その場合、天然ガスや石油の火力発電は燃料費の上昇もあって、電力価格の値上がりが国内生産コストを引き上げ、空洞化を促進すると懸念されている。空洞化との関係では、円高が燃料コスト引き下げ、ひいては電力価格要因であることを指摘しないのは片手落ちになる。それよりも、原子力発電が発電全体の3割を占めていた時でも、国内の電力価格は外国との比較で高かったことを考えれば、火力発電で電力価格の値上げを問題にするよりも、もともと高い電力価格の構造を問題にする方が先である。

主要産業別海外日系企業の販売先別構成


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| 2011年08月28日 | 政策 | comments(0) | - |

家庭の節電効果を考える

 5月1日付けのこのレポートで、需要面からみて東京電力の夏の計画停電の心配はないと書いたが、予想以上に需給に余裕が生まれている。企業は15%の電力削減が強制されているのに加え、家庭でも節電が進んでいることにある。


 家庭の電力需要動向は従量電灯で分かるが、夏・冬期は気象条件で大きく変動する。このため、気象の影響が少ないと考えられる春・秋頃の電力需要が家庭の節電効果を判断するのに適している。ただし、今年の4月は計画停電で電力供給が中断されているため、4月の統計は節電効果の資料としては適さない。


 また、電力会社別にみる場合、東北管内は地震や津波による家の崩壊、放射能汚染による避難所への移住、東北地域から他地域への移住などがある。結果、東北の需要統計は過去との比較ができない。もちろん、東京管内が多いと推測されるが、東北からの移住先の需要を膨らませるが、統計に影響するほどではないと考えられる。


 5、6月の従量電灯は電力事情を反映して地域間格差は大きい。5月は前年同月比で東北は別として、電力不足が懸念される東京の13.0%減のマイナスが最も大きく、最小は沖縄の1.5%減で、全国では8.9%減になる。6月は需要が増加傾向になり、沖縄の2.6%増と北海道の1.5%増はプラスである。東北を除いて最も少ない東京でも6.3%減に留まり、全国では4.9%減と減少幅は半減である。


 従量電灯の減少、節電は今回のように電力不足懸念からだけでなく、景気悪化で先行き不安からも生まれる。6月は徐々に電力不足に対する節電意識だけでなく、関東大震災による景気の先行き不安が薄れてきたといえる。それでも、東京だけでなく電力不足が懸念され始めた関西、中部以外の北陸、中国、四国なども軒並み3〜6%台の顕著な減少である。景気の先行き不安を考慮しても、沖縄は別として、全国的に節電意識が高まっている影響と推測できる。


 また、逆に好況になれば、従量電力需要が増えることが予想できる。この点に関しても、景気の先行き不安が解消に向かいつつあるとしても、好況という事態にまで改善するのはかなり先になる。むしろ、経済成長率の高い発展途上国は物価上昇問題を抱え、米国やECも楽観できる状態になく、為替レートの円高も考えれば、回復の頭打ち、再下降の可能性もある。


 これらから判断すれば、企業に15%節電が義務づけられている東京だけでなく、関西も電力不足の心配はないという結論になる。従量電灯は不況で節約が進む時は別として、基本的に電化の進展で増加基調にある。6月は生産活動が急速に回復に向かい、景気不安は解消に向かいつつある時期で、従量電灯の減少は電力不足に対する節電を反映した電力需要と考えられる。


 ちなみに、2010年度の従量電灯は最も伸び率が低い北海道で0.8%増、高い東京は猛暑を反映して7.6%増、全国で5.8%増と比較的高い伸びになった。これは猛暑効果に加えて、不況の09年度が北海道の0.5%増を除いて減少で、全国では2.5%減になった反動増もある。


 家庭の節電効果の推計は5、6月の従量電灯需要だけでは難しいが、7、8月の実績が分かっても、気象要因があるため同様に容易ではない。5、6月の実績から判断すれば、東京でも10%までには至らないが、1桁台の後半、その他の地域でも沖縄を除いて5%前後の節電効果があるのではないか。それだけ各家庭が節電努力していることは評価できる。


電力会社別電力需要量の前年比伸び率

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| 2011年08月01日 | 政策 | comments(0) | - |

電力需要から夏の計画停電を考える

  政府の電力需給緊急対策本部は4月8日、「夏期の電力需給対策の骨格」を発表した。これによると、夏までに4,500万kw前後の供給力を見込み、今夏のピーク需要を約5,500万kwを想定して1,000万kw程度、ただし、昨年並のピークの約6,000万kwを想定すれば、1,500万kw程度の供給力不足の恐れがあるとしている。この電力不足に対して、東日本大震災直後の計画停電への批判が強く、計画停電でなく節電によって切り抜ける方が望ましい。このため、政府は大口電力需要家の企業には最大の25%の節電を要請していた。


 政府が見込んでいる今夏の供給力約4,500万kwは、東京電力が3月25日に作成した7月末供給力見通し4,650万kwを前提にしている。その後、休止火力発電所の再開、ガスタービン発電機の設置などの見通しができたことから、東京電力は4月15日に7月末供給見通しを1割以上も多い5,200万kwに上方修正している。これを受けて、4月末になって政府は大口電力需要家も含めて一律に15%の節電に緩和している。


 東京電力は5,200万kwには揚水に電力を使う揚水発電が400万kw含まれるため、この400万kwは保証できないとしている。一方、400万kwは問題ない、現実にはまだ休止中の火力発電所で再開できるところがあり、5,500万kw程度は見込め、それほどの節電は必要ないのではという意見もある。


 これらは供給側の話だが、電力が不足するかどうかは需要側からもみなければならない。夏需は気温の影響が大きく、今夏の気象予想では昨夏のような猛暑にはならなくても、夏らしい暑さと予測されている。


  政府の前提としている東京電力の昨年ピーク需要の約6,000万kwは、7月23日の記録5,999万kwによる。ところが、実際の過去ピークは、特定規模電気事業者(PPS)による小売対象が50kw以上の需要家にまだ引き下げになった2005年以降では、07年8月22日の6,147万kwになる。これだと約6,000万kwの想定では不足する。


 昨夏の猛暑のイメージが強いため、10年が過去ピークと思ってしまうが、現実は異なる。原因は、猛暑で家庭用の電灯需要は昨年が多くても、景気は07年10月がピークになっており、PPSの対象になる50kw以上需要家の事務所、デパート、大規模飲食店、病院など向けの業務用や工場、鉄道など向けの産業用の需要が10年は07年を大幅に下回っているからである。


 この関係をピーク時とは異なるが、東京電力の8月の月間需要量で比較すると、10年の電灯は93億kwhで、07年の90億kwhより多く、猛暑の影響は明らかである。これに対し、10年の特定規模需要の業務用80億kwh、産業用91億kwh、計171億kwhに対し、07年はそれぞれ77億kwh、96億kwh、173億kwhと07年の方が多い。これに個人商店などが中心の50kw未満の特定規模外電力を合わせた全体では、10年277,7億kwh、07年278,2億kwhになり、07年の方が僅かだが上回る。


 もともと産業用は景気の影響を受け、東京電力の8月で近年ボトムになる09年は07年の13.5%減の83億kwhになる。夏の気温の影響は電灯のほか、特定規模外電力と業務用で大きい。


 猛暑の10年の電力需要を前年同月比の推移でみると、09年が冷夏であった影響もあり、電灯は6月までの1桁台の増加から、7月10.1%増、8月11.3増、9月33.7%増、10月6.7%増となっている。9月の異常ともいえる高い伸びは、残暑が厳しかったことを反映している。ただし、実数では8月が9月を上回る。特定規模外電力もほぼ同様の推移である。


 また、業務用は6月まで前年と同水準で推移していたのが、7月3.7%増、8月6.2%増、9月11.8%増となっており、電灯ほどではないが、猛将の影響は明らかである。 東京電力の需要量は電灯、特定規模外電力、業務用の伸び率が全国平均を上回り、気温の影響が大きいことを示している。


 月の3分の2ほどが震災の影響を受けた11年3月は産業用15.3%減、産業用と業務用を合わせた特定規模需要12.2%減、全体で5.9%減である。月の3分の2で15.3%減の産業用は月ベースでは30%以上の減少になる。震災後の生産活動の回復は遅れており、夏は減産状態からの脱出は難しい見通しで、前年比マイナス基調が続く可能性が高い。ちなみに、東京電力の電力需要全体の3分の1ほどを占める産業が10%減で、全体の3%強の減少になる。そこまでの減少が続くとは考えにくいが、マイナス要因であることは確かである。


 一方、昨年が猛暑であったことを考慮すれば、例年程度の暑さであれば、基調としては電灯、特定規模外電力、業務用は横ばい程度と考えられ。そこに15%を目標とする節電が加われば、産業用以外も全体として減少が期待できるが、コスト意識の弱い電灯がどこまで節電になるかが問題になる。


 ピーク時と月間需要量は異なるが、昨年ほどの猛暑でなければ、ピーク電力は6,000kwを超える可能性は少ない。また、電灯は不明でも、企業が節電努力すれば、十分乗り切れると考えられる。また、鉄道は10年8月の東京電力月間需要量で6億kwh、全体の1%にも満たないため、鉄道ダイヤを減らす必要はない。

電力需要の推移



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| 2011年04月29日 | 政策 | comments(0) | - |

消費税を上げれば、不況になるか

 7月11日の参議院選挙で民主党が大幅に議員数を減らした。影響の大小は別として、敗因の要因の一つとして、菅新首相の消費税増税発言があったことは否定できない。消費税増税反対の理由として基本的に何でも増税反対という以外に、所得が伸びない中で、生活水準を切り下げざるを得なくなり、このため消費税増税は不況の契機になる、というのがある。


 1989年4月からの3%の消費税導入時は景気が反転しなかった。一方、97年4月から実施された3%から5%への消費税率の引き上げ後に景気が上昇から下降に転換し、この印象が強く残っているためである。ちなみに、89年度の賃上げ率は5%台であり、3%の消費税でもまだ実質所得ベースの伸びはプラスになる。ところが、97年度の賃上げは2%台で、2%の消費税増税で実質所得ベースでは伸びはほぼゼロになる。近年の賃上げ率はほぼゼロであり、この点では97年4月からの方が参考になり、不況化の懸念は当然といえる。


 ただし、現実には、必ずしも前回の増税が不況をもたらしたとはいえない。というのは、その直後の97年7月に発生したアジア通貨・金融危機の影響も大きかったからである。


 消費税増税に関しては、5%から10%への引き上げが一つの案として挙げられているだけで、実施時期は実施するとしても、次回の衆議院議員選挙の後にすると言われている。また、低所得者対策などまだ何も決まっていない段階で、影響の大きさは判断できないが、実施時期の選択が大切ということはできる。


 前回の97年4月頃の日本経済は、93年10月を底に景気は回復・上昇期にあり、96年度の実質GDP成長率は2.9%増だった。現在からみれば比較的高成長率だが、当時としてはそれほど高いとはいえなかった。また、日本経済は80年代末のバブル崩壊からの回復が不十分で、病み上がりの体という判断から、消費税増税は時期尚早という意見があった。


 消費税増税の消費への影響は大きい。四半期別の成長率でみると、実施前の97年1〜3月期は増税前の駆け込み需要で実質民間最終消費が2.0%増の高い伸びになり、逆に、4〜6月期はその反動で3.5%減の大幅減少になった。このため、実質GDPもこの間に0.9%増から0.8%減へと、プラス成長からマイナス成長に転落した。


 そして、7〜9月期の実質GDPも0.5%減と2四半期連続のマイナス成長になり、景気が上昇から下降へと転落した。このときの記憶から、消費税の増税が日本経済を不況化したという印象が強い。ところが、同期の実質民間最終消費は0.8%増に小幅でも持ち直していた。


 07年7〜9月期に実質民間最終消費が持ち直しているにも関わらず、実質GDPがマイナス成長になったのは、97年7月に発生したアジア通貨・金融危機にある。この影響で実質輸出等が4〜6月期の3.9%増から、7〜9月期は1.0%減と、輸出が減少したからである。


 そして、実質輸出等が減少したことで、実質民間最終消費も10〜12月期以降は再び減少に向かった。結果、97年度の実質GDPはゼロ成長、08年度は1.5%減のマイナス成長に陥るほど、不況が深刻化した。加えて、当時はまだバブル崩壊の後遺症が残っていたため、97年11月には三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券など大手金融機関が相次いで経営破綻した。07年度はこれらの経営破綻と消費税増税が注目されるが、アジア通貨・金融危機があったことを忘れてはならない。


 3%から5%へ2%の引き上げで、07年度の民間最終消費は実質で1.1%減、名目で0.3%増であり、消費抑制に働いたことは確かである。現在は07年当時よりも所得の伸びが低いため、より影響は顕著になると予想される。


 増税分を強い社会保障に使っても、国民に強い社会保障政策への信頼を得るには時間が掛かる。短期的には、消費抑制による日本経済へのマイナスの影響は避けられない。現在は、それを短期間で克服できるほど日本経済の足腰は強くない。一方、欧州の危機は長期化しそうで、前回と同じ轍を踏まないように考えれば、短期的に消費税増税ができるような環境になるまでには時間が掛かりそうである。
2007年4月からの消費税5%への引き上げ前後の実質GDP成長率の推移


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| 2010年08月01日 | 政策 | comments(0) | - |
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