スポンサードリンク

輸出再下降で景気は後退へ

 日本経済は4月を底に3月の東日本大震災の打撃から立ち直ってきた。そこにタイの洪水が加わったが、洪水による減産は一部の企業・産業に留まり、11月中旬になって解決の見通しがみえるようになってきた。生産機能は正常化が期待できるようになる一方で、世界経済の変化の影響が日本の輸出にも波及しており、それに伴って景気が下降に向かう可能性が高まっている。


 日本の輸出を輸出指数の前年比推移でみると、2008年8月から減少傾向にあったところに、2008年9月のリーマン・ショック後の世界同時不況が加わり10月(速報)からは大幅減少になった。そして、09年2月の49.4%減を底に回復し、12月には12.0%増と前年を上回るようになった。前年水準の大幅減少の反動増効果で10年9月までは高い伸びになったが、10月以降は比較的安定した伸びに落ち着いてきた。


 ところが、東日本大震災によって生産設備が破壊され、輸出は海外市場に関係なく減少を余儀なくされた。減少は7月まで続き、生産機能の回復から8月に0.9%増の微減でも水面上に浮上した。生産機能回復が続いていると推測される9月も1.5%増に留まった。そして、10月の輸出は4.0%減の顕著な減少である。この間、輸出が抑制されていたことから推測すれば、海外で在庫不足状態になり、高い伸びになっても不思議ではない。低い伸びや減少は海外で景気悪化による需要不振の反映になる。


 10月の輸出は主要な国・地域別にみてもいずれも不振である。最大輸出地域のアジアは7.0%減で、8カ月連続の減少になるが、7.0%減は5月の7.9%減以来の大幅な落ち込みになる。米国は8月に5カ月振りに増加に転じた後、2カ月連続の4.7%減、EUは5カ月振り減少の2.1%減である。
 輸出減を円高の影響とする見方もあるかもしれないが、円高は08年頃から徐々に進んでいることから判断すれば、急にマイナス効果が生じることは考えられない。それよりも、米国は景気対策による景気回復一巡後の需要低迷、EUは経済危機が顕在化してきたといえる。一方、アジアは経済成長が鈍化していても、一定の成長は続いている。日本企業のアジアの位置づけは欧米への輸出基地であり、米国、EUへの間接輸出が打撃を受けているためと推測される。


 減少傾向が続くアジアは国別の輸出指数が不明なため、金額ベースでみると、10月のアジア全体で輸出は前年同月比6.6%減になり、輸出指数の減少幅に近い落ち込みである。国別ではシンガポール15.7%減、台湾14.4%減、香港10.4%減、マレーシア10.2%減などの落ち込みが目立っている。月によって国別では前年比伸び率の変動が大きい中で、特に、要因は不明だが、4月から6カ月連続の2桁台の減少が続く台湾の不振が特徴として挙げられる。また、10月にはタイの洪水の影響が出始めた時期になるが、タイへの輸出は5.1%減であり、それほど日本の輸出には影響はみられない。


 一方、10月の鉱工業生産指数(速報)は9月の前月比3.3%の大幅減少から同2.4%増に持ち直した。また、製造工業生産予測は10月見込み同2.3%増、11月見込み同1.8%増であり、これからみれば生産活動は引き続き増加基調が持続し、景気回復に変調はないといえる。


 ところが、10月の実現率は9月調査時の予測の0.6ポイント、11月の予測修正率は2.4ポイントのいずれも下方修正である。通常、景気下降期は実現率、予測修正率が下方修正、上昇期は逆になる。7月以降は実現率、予測修正率のいずれも下方修正が続いており、生産の回復力が企業の期待を裏切っている。輸出指数の変調の影響と考えられ、鉱工業生産が10〜12月期以降、頭打ちから減少に転じ、景気が下降に向かう可能性は高い。


主要国・地域別輸出指数の前年比伸び率の推移

※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
 PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。




経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス

| 2011年12月02日 | 貿易 | comments(1) | - |

タイ洪水の日本製造業への影響

 秋を迎えて、生産活動は東日本大震災の打撃からようやく脱しつつあったところに、新たにタイの洪水が懸念材料になっている。タイの洪水はタイ北部で7月下旬に始まり、それが徐々に南下していたが、日本では9月までほとんど報道されなかった。ところが、10月に入ると、日系企業が入居している工業団地にまで広がり、生産活動に影響が出始めた。その後、現地の部品生産の停止でトヨタの国内完成車生産が1割減産を余儀なくされるなど、日本国内の生産活動にまで影響が及んでいるからである。


 洪水は首都バンコクにも及び、洪水が収まるのは11月に持ち越しである。ほとんどの現地日系企業は直接、間接に大きな影響を受け、完全に復旧するのは年を越しそうである。タイ経済にとっては大打撃だが、日本経済全体への影響評価は大騒ぎするマスコミ報道に流されずに、冷静に客観的に行う必要がある。


 日本経済への影響を経済産業省「海外事業活動基本調査」で推測する。この統計には9月1日付けのこのレポートでも取り上げているように、海外の日系企業数、産業・業種別売上高、出荷先別売上高などが主要国・地域別に集計されている。当然、企業全てを網羅できるわけではないが、主要企業は回答していると考えられ、売上高のカバー率はかなり高いと判断できる。


 最新版の第40回の2009年度調査で、集計企業数全体は全世界で1万6,023、うちタイ1,283、8.0%、その中で製造業は全世界7,742、タイ817、10.6%になる。また、売上高全体は全世界165兆3,196億円、タイ10兆1,752億円、6.2%、製造業は全世界79兆1,593億円、タイ7兆9,000億円、10.0%となっており、日本企業のタイ進出は相対的に生産を目的としているといえる。


 タイ洪水の日本生産への影響は日本にどれだけ輸出されているかに係っており、それは出荷先別売上高で分かる。ところが、出荷先別売上高はタイにマレーシア、インドネシア、フィリピンを加えたASEAN4でしか発表されていないため、タイの日本への輸出はASEAN4の出荷先別売上高から類推するしかない。ちなみに、ASEAN4の製造業売上高のうちタイが51.6%占めており、タイの実態を反映しているとみてもよい。


 ASEAN4の売上高比率で日本向け輸出は20.1%でしかなく、現地販売51.7%、第3国向け輸出28.2%となっている。つまり、日本企業のタイへの製造業進出は日本に輸入するためよりも、現地の消費市場、最終製品を生産するための部品供給、第3国向け輸出のための生産が中心である。
  一方、工業統計表による2009暦年の製造業出荷額等は258兆1,545億円であり、タイの日系製造業売上高7兆9,000億円の2割程度は1%にも満たない。それが輸入されなくなっても、影響は軽微といえる。もちろん、トヨタは1割減産に追い込まれており、業種、企業によっては無視できない影響を受けていることは否定できない。


 タイの日系製造業売上高で割合が高いのは、輸送機械の59.3%が過半数を占めて突出して多く、以下、電気機械9.1%、電子部品・デバイス・電子回路を含む情報通信機械5.8%、化学4.5%、業務用機械3.8%、鉄鋼3.0%等が続く。企業数でも輸送機械が売上高割合よりも低いものの、26.9%で第1位である。輸送機械の進出が目立ち、かつ、相対的に工場規模が大きいことになる。


 これらの業種別で特徴的なのは、ASEAN4の出荷先別売上高で輸送機械(タイが61.0%)は日本向け輸出が6.2%しかないことが挙げられる。一方、現地販売61.0%、第3国向け輸出32.9%で、周辺国も含めて現地需要、第3国向け輸出のための生産が中心になる。現地での部品生産の停止で、完成車生産の1割もの影響を受けるトヨタは例外的といえる。


 逆に、日本向け輸出が多いのは情報通信機械(タイが23.8%)の47.3%、業務用機械(同76.6%)の32.0%、電気機械(同70.4%)の26.7%などである。業務用機械にはカメラが含まれ、タイには対日輸出のための電子部品工場が少ないことから、これらは最終製品であろう。年末商戦用の新製品販売に支障が出ているという報道があるように、これらの業種で製品輸入に影響はあっても、全体的にみれば一部の現象といえる。


 それらの製品を抱える業種や企業にとってはタイの洪水が打撃になる。加えて、浸水した設備の復旧費が必要になるため、日系企業の親企業は収益が悪化する。この減益が給与に波及し、個人消費を引き下げる効果など、景気へのマイナス効果も予想される。それでも、全体としてみれば、日本経済がタイの洪水で顕著な影響を受けるとは考え難い。

業種別タイ進出企業数・売上高構成比

※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
 PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。




経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス

| 2011年10月30日 | 貿易 | comments(0) | - |

TPP不参加の輸出への影響は深刻か

  TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加意向を菅首相が表明したのを契機に、以前からのFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)をめぐる対立論争が再燃している。一般的に農業関係者は反対、企業経営者は賛成という関係にあり、反対意見は農産品の関税が撤廃されることで、価格競争力のない農業が存続できなくなり、日本の農業、ひいては農業地域が崩壊する。これに対し、賛成意見は日本の農産品は品質が良いので、価格が高くても売れ、打撃は少ない。むしろ、日本経済を支える工業製品は輸出相手国の関税分だけ価格競争力が低下することになり、輸出は減少し、日本経済への打撃が大きいというのがそれぞれの主張である。


 これらとは別に、9参加国(米国、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ニュージーランド、オーストラリア、ペルー、チリ)に日本が加わったとして、10カ国のGDP中、米国と日本が90%、さらに参加を希望するカナダ、コロンビアを加えても85%ほどを占め、実態は日米間の自由貿易協定という冷めた見方もある。環太平洋で比較的経済規模の大きい韓国は米国と2007年に取り交わしたFTA(自由貿易協定)で、10年に内容を修正する追加交渉で合意しており、TPPに参加しない意向という。中国も不参加の意向である。


 ただし、GDPでTPPを考えるのは日本よりも米国の方になる。米国からみれば、日本以外は参加する環太平洋諸国の経済規模が小さければ、日本が参加しないTPPは意味がない。経済規模が比較的大きい韓国とはすでにFTAを結んでいるため、TPPによる経済効果は小さく、また、中国は強要できる関係にはない。結果、日本抜きのTPPは考えられないとすれば、米国は日本、菅首相に参加圧力、それも強圧を掛けていると推測できる。


 一方、TPP参加賛成の意見は不参加の場合の輸出減による日本経済への打撃が深刻と考えていることにある。つまり、TPP不参加の日本経済への影響はGDPよりも輸出市場規模の方が重要になる。9カ国の10年の輸出シェは通関統計で24.8%、カナダ、コロンビアを加えて26.2%であり、いずれにしても4分の1ほどを占める。うち、米国が15.4%で最大だが、その他は10%前後で、小さくはない。ただし、国別で輸出市場といえるのはシンガポール3.3%、マレーシア2.3%、オーストラリア2.1%の3カ国程度である。


 輸出品別にみれば、TPP不参加が日本の輸出へのマイナス効果は、FTAを着実に進める韓国との競合製品、主として乗用車や家電製品の輸出額になる。最大の米国で影響が考えられるのは、10年の対米輸出で27%を占める乗用車程度で、家電のTV受像器は0.4%でしかない。


 日本の対米TV受像器輸出が少ないのは、日本の海外工場(メキシコ)からの輸出になっている以外に、韓国に米国市場を奪われている影響が無視できない。逆にいえば、関税とは関係なく韓国との競争で負けている。ただし、韓国製品の主要部品は日本製が多いため、韓国の家電製品の生産、輸出が伸びると、日本からの対韓部品輸出が増える構造がある。結果、10年の韓国への輸出は5・5兆円に対し、輸入は2・5兆円と半分以下であり、韓国とは分業構造が形成されている。製品分野だけで韓国の進出を脅威とするのは、韓国を過大評価していることになる。もちろん、中・長期的に韓国が部品でも国際競争力を高める可能性はある。


 また、シンガポール、マレーシア、オーストラリアなどへも家電製品の輸出は少ない。現地生産が進んでいるのか、周辺国で生産して輸出している、または韓国に負けているためと推測される。一方、いずれも乗用車輸出は多いが、日本からの輸出シェア2、3%の何割かであり、輸出全体からみれば影響は微々たるものになる。また、韓国が先行しているが、日本もこれら3カ国とはFTAを締結したり、交渉中であり、TPP不参加の日本の輸出への影響はほとんど無視できるほどである。


 結局、米国への乗用車輸出が懸念材料になるといえる。自動車も以前から現地生産を進める方向にあり、TPP不参加はそれを促進する効果を持つ程度であり、米国への輸出に打撃というほどの事態は予想されない。それよりも、現地生産を進めるためには、日本車が米国で評価されて売れる必要があるが、乗用車でも韓国の競争力が向上している。韓国車の人気が高まり、日本車のシェアを蚕食する時期とTPP不参加が重なり、韓国車の伸びをTPP不参加を原因とする主張される可能性はある。


 日本の輸出構造から判断する限り、TPP不参加が日本の輸出、ひいては日本経済に深刻とは考えられない。


TPP参加国別輸出額(2010)構成

※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
 PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。




経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

| 2011年02月27日 | 貿易 | comments(0) | - |

中国・アジア向けで輸出主導の経済成長は可能

 2010年度の日本経済見通しで、民主党の経済政策で内需が回復するとは考えられず、結局、外需に頼るしかない。しかし、世界経済を牽引してきた米国は金融危機の後遺症で回復力は弱く、EUも同様である。アジア、特に中国は内需主導で経済回復が著しいため、中国を中心とするアジアへの輸出に期待するしかなくなっている。



図 アジアと中国の製品別輸出(2008年度)
続きを読む >>
| 2010年01月31日 | 貿易 | comments(0) | - |

輸出は2月が底でも、回復力が課題

 昨年秋以降、急落していた輸出は鉱工業生産と同様に2月が底に回復傾向にある。鉱工業生産の底打ちは減産による在庫調整の進展した結果だが、輸出が回復に転じた効果もある。輸出の動向は財務省「貿易統計」の輸出数量指数で推測できる。


 輸出数量指数は2008年6月に前年同月比で1.5%減と前年水準を下回り、翌7月は8.9%増と盛り返して浮上したが、8月の1.1%減以降は水面下に潜ったままである。それも、水深はどんどん深くなり、10月までは1桁台の減少だったが、11月には22.7%減、さらに09年1月には45.4%減とほぼ半減である。しかし、その後は2月を底に、3月41.1%減、4月35.9%減、5月36.0%減と減少に向かった時と比べれば遅々たる速度で、5月は回復中断気配がみられるが、減少幅は縮小傾向にある。



地域別輸出指数の前年比伸び率の推移
続きを読む >>
| 2009年07月01日 | 貿易 | comments(0) | - |

輸出の議論は貿易統計の数量指数で

 前回のレポートで景気が変調をもたらしている要因として、米国向けの減少から輸出の数量指数が2月からほぼ前年並水準まで低下していることを指摘したが、その後も輸出に関して議論の対象にはなっていない。理由として、金額ベースでは依然として高い伸びをしていることが挙げられる。


経済成長率を議論する場合は実質GDP(国内総生産)を取り上げ、名目GDPは物価上昇との関係で議論の対象になる程度である。GDPの需要構成項目(正確にはGDE=Gross Domesutic Expenditureの構成項目になる)としての輸出は当然、実質である。通常、貿易統計で何月の輸出の伸びは前年比○○%増・減という場合、金額ベースになる。それも円ベースで、国際商品はドルベースであるため、為替レートの影響も受け、これを輸出動向の判断には使えない。
続きを読む >>
| 2007年07月01日 | 貿易 | comments(0) | - |

2007年度の日本経済も輸出主導の回復感の乏しい上昇

 内閣府が12月8日、2006年7〜9月期の第2次GDP速報値を発表したのを受け、各機関の07年度経済見通しがほぼ出揃い、19日には政府見通しも閣議決定された。07年度経済見通しでは、各機関による格差がほとんどないのが特徴で、戦後最長の景気上昇期間記録「いざなぎ景気」を06年11月に抜いた後も、輸出主導で回復感が広がらないまま上昇を続ける予測で一致している。
続きを読む >>
| 2007年01月01日 | 貿易 | comments(0) | - |
スポンサードリンク
Copyright (C) 貿易 | 経済への視点. All Rights Reserved.