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輸入面からの物価抑制圧力はピークを過ぎ、今後の消費者物価は

 2013年央頃から始まった消費者物価上昇は国際商品市況の上昇に加え、金融緩和による為替レートの円安で、輸入品価格が高騰した影響であった。それが一巡すれば消費者物価の上昇は終焉し、日本銀行が目標とする脱インフレ、2%の物価上昇は実現しないと以前からこのレポートで指摘してきた。

 実際、今年に入って、特に4月以降は消費者物価のマイナス基調が定着し、日銀は脱インフレの失敗を認めざるを得なくなっている。そして、前回のこのレポート取り上げた原油価格にみられるように、国際商品市況は底入れから、上昇に転じている。となれば、今度は日銀が目標にする2%は想定できなくても、物価が上昇し始めるのではないか、上昇するとすれば、どの程度かが問題になる。

 原油や穀物などの国際商品市況は08年9月のリーマンショック後の世界的な景気後退で大幅に下落したが、09年には底入れから回復に向かっていた。10年の欧州ソブリン危機や米国、中国の経済回復力の弱さから、全体的には需要の伸びは弱くても、投機資金の流入で日本への影響の大きい原油価格は大幅下落の反動もあって上昇は顕著になっていた。ところが、米国のシェール革命で供給が増え、需要回復の弱さと相俟って需給バランスが崩れた。それが明らかになった14年頃をピークに原油価格は急落し、そして、採算悪化による減産で16年に入ってようやく価格は底入れした。

 ただし、このような国際商品市況に対し、日本の輸入価格指数は前年同月比で、円ベース、契約通貨ベース(主にドルベース)のいずれも12年末頃まではほぼ横ばい水準で推移していた。それ以降は急速に両者に乖離傾向が見られるようになり、契約通貨ベースが14年央まで横ばい傾向の推移の一方、円ベースは急上昇になった。日銀の政策もあって為替レートが急速に円安になったためである。12年の1ドル=80円を挟む展開から、13年の春以降は100円前後まで下落し、1ドル当たりの円の上昇率は前年同月比で20%台になり、円ベースの輸入物価指数の上昇率は同10%台後半になった。

 輸入物価指数上昇の影響が国内企業物価指数に波及したのは半年ほど後度で、国内企業物価指数が前年水準を上回るようになったのは13年4月からである。それが2か月ほど掛かって消費者物価指数に波及した。

 逆に、国際商品市況が横ばいから下落傾向になっても、国内企業物価指数は15年3月までは前年水準を上回っていた。為替レートが15年夏頃の120円台まで円安になった影響だが、円安よりも国際商品市況の値下がりによる輸入物価の下落効果の方が大きくなり、円ベースの輸入物価指数は15年1月から、そして、国内企業物価指数は15年4月から前年水準を下回るようになった。

 一方、15年末ごろから国際商品市況は底入れ傾向がみられ、為替レートも円高へと転換した。この影響を同様に比較すると、輸入物価指数の契約通貨ベースは15年9月の21.1%減をピークに最初は穏やかに、61年に入って急速に減少幅を縮め、9月は7.0%減である。しかし、円ベースでは円安のため、20%台の減少が続き、円高が一服した9月は17.7%減である。

 また、国内企業物価は16年9月まで前年水準を下回る推移だが、4〜7月までの4%台の減少幅から、9月には3.2%減にとどまっている。国際商品市況が持ち直し、円高は一時的かもしれないが、小康状態になり、国内企業物価は落ち込み幅が縮小する傾向がみられる。この状況が続けば、国内企業物価は前年比横ばいか、小幅でも前年を上回るようになるかもしれない。現状は、少なくとも輸入面からの物価引き下げの影響力は15年秋頃がピークで、一巡しつつあると推測できる。

 その一巡後に圧力が上を向くのか、下を向くのかは国際商品市況と為替レート次第になる。ただし、その結果として、消費者物価がどう変動するかは需給要因、個人消費の影響が大きい。もともと、消費者物価指数は輸入影響の少ないサービス業の占める比重が高いこともあり、輸入物価指数が円ベースで上下に40%ほどの変動幅で大きく変動しても、国内企業物価指数はこの間、10%にも満たない小幅で、消費者物価指数は消費税分を除けば2%程度にとどまっていることからも明かである。

 国際商品市況は世界経済の成長力が穏やかな状態であれば、回復傾向が続いても高騰は予測できない。原油は産油国に値上げ意欲はあり、共同で減産に取り組む可能性はあるが、値上がりすればシェールガス・油の生産が増加する。加えて、技術進歩によってシェールガス・油の生産コストは低下しているため、1バーレル60ドル台が限界と推測される。

 為替レートは投機要因もあり、円高、円安の両方の可能性があるが、金利では米国の金利引き上げが予想され、円安環境にある。その一方で、政府や企業が円安を望んでも、米国がドル高に反対している状況から判断すれば、かつてのような大幅な円高は見込めない。

 つまり、輸入面からは力は弱くても物価を引き上げる要因と判断できるが、13年から14年初め頃のような影響力は考えられない。結局、国内の消費者次第になる。消費者は所得が増えないなかで、税・保険料負担が高まって可処分所得の伸びは抑えられ、「年金カット法案」が話題になっている状況で、将来不安の払拭は期待できない。結果、消費抑制が続くと予測され、デフレの解消が遠いとなれば、消費者物価は横ばい程度かマイナスが今後も続くことになる。


国内企業・輸入物価と為替レートの伸び率の推移(前年同月比)


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| 2016年11月06日 | 景気 | comments(0) | - |

日銀「総括的な検証」の説得力

 日本銀行はデフレ対策で2013年1月に物価安定の目標を消費者物価上昇率で2%と定め、この実現のために4月に大規模な金融緩和「量的・質的金融緩和」を導入し、それから3年半ほど経った。2%に達しなくてもまだ消費者物価上昇率がプラスであれば、今後に期待ということもできるが、現状はマイナスである。この結果に対して、日銀が9月21日に発表した「総括的な検証」で、デフレが解消しない要因として、1.原油価格の下落、2.消費税引き上げ後の需要の弱さ、新興国経済の減速とそのもとでの国際金融市場の不安定な動き、を挙げている。これらは以前から黒田 東彦日銀総裁が記者会見で言い訳に使っていた要因で、いずれも説得力に乏しい。

 まず、国際価格(ドル建て)の原油価格は確かに、油種によって若干の時期のズレはあっても2011〜12年をピークに徐々に値下がり傾向になり、14年央からは急速に下落基調になった。しかし、それも15年に入って鈍化し、16年1月を底に回復に転じている。ただし、まだ低水準横ばいの推移ではある。

 日本経済への影響は円価格で見る必要がある。円価格は為替レートの影響があるため、円安から通関統計の原油及び粗油で14年8月がピークになり、ボトムは16年2月である。つまり、すでに原油輸入価格が底入れしてから半年以上も経っており、それが前年比ではまだ引き下げ要因であっても、前月比ではむしろプラス要因になる。ちなみに、資源エネルギー調査のレギュラーガソリン価格は16年3月の第1週をボトムに上昇に転じている。昨年までなら物価上昇目標の未達要因に挙げられるかもしれないが、現時点ではむしろ弱くても物価引き上げ要因になる。原油価格の下落を金融政策の効果を生まなかった要因にするなら、今後は期待できるとすべきである。

  以前の原油価格(ドル建て)が上昇から高水準横ばいで、円安から輸入価格(円建て)が上昇し、消費者物価全体を引き上げる要因になっていた時は、その影響を無視して金融緩和で脱デフレが始まったとしていた。確かに、金融緩和が円安要因でもあり、その効果も否定はできない。しかし、この経済レポートで何度か指摘したが、原油に代表される国際商品価格の上昇と円安による輸入価格の値上がりで物価が上がっても、それは脱デフレとは言い難い。原油価格の上昇に転じても無視し、下降時にはそれを強調するのは片手落ちと言わざるを得ない。また、円安に関しては、欧州ソブリン危機が解消に向かって円高圧力が低下した効果も無視できない。

 一方、消費税引き上げの個人消費への影響は予想以上といえる。従来であれば、引き上げ直後は駆け込み需要の反動もあり、消費が大幅に落ち込んでも、その後は徐々にでも回復に向かっていた。今回も反動減が少しは長引いても、従来のように回復すると見るのが一般的であり、その予想が日銀も外れたのは批判されることではない。

 しかし、その外れた原因、つまり消費者が財布の紐を締めたまま緩めない理由を考えなければ、検証の意味がない。それは結局、低い賃上げ、アベノミクスへの期待外れ、正規雇用化や社会保障制度などに期待が持てず、将来不安が高まっていることに求めることなる。賃上げは別として、政策批判にならざるを得ない。その検証が求められる。

 新興国経済や国際金融に関しては、もともと金融緩和時には国内の金融緩和で脱デフレ、物価の引き上げが可能として触れていない。もちろん、リーマンショックのような予想外の事態が発生すれば、言い訳に使っても批判はし難いが、世界景気の回復が期待や予想よりも低いのは事実としても、今さらそれを理由にするのは無理がある。

 検証するのであれば、それよりも従来のパターンと比較して世界景気の回復が遅れている問題、長期にわたって世界的に金融緩和・低金利政策が続いているにもかかわらず、低迷状態から脱せない要因が重要になる。つまり、構造的問題であり、そこまで踏み込まなければ説得力を持たない。

 また、金融緩和は予想物価上昇による需要拡大、デフレ脱却への期待が大きかったが、それが原油価格の値下がりで裏切られ、上手く行かなかった要因として強調されている。しかし、物価の予想自体に問題がある。企業は生産活動に必要な原材料仕入れ価格がどうなるかが経営計画を立てる上で重要なため、それを見通す担当者がいる。その専属を置く余裕のない中小企業でも仕入れ先の卸企業などから原材料価格見通し情報の入手に努め、上昇が予想されれば仕入れ量を増やして原材料在庫を積み増すのは当然であろう。

 これに対し、消費者は消費税の引き上げであれば、価格の値上がりは予想可能でも、金融緩和で物価上昇になると言われても、何が上がり、その額・率は予測不可能である。現実には、小売り・サービス店で見て初めて価格の上昇が分かるわけで、消費者にとっては消費者物価全体を予想できるわけはなく、単に毎日の買い物から値上がりを認識するだけである。消費者は家計簿を月間で集計しても、平均の物価上昇率は計算不可能である。

 予想物価上昇は消費者からみれば、値下がり傾向にある、横ばい、少し上がっている、かなり上げっている、高騰しているの4段階程度でしかなく、それも予想ではなく実感になる。かつ、もし予想できても、消費者のほとんどは将来不安の下、不十分な所得の中で、積極的に消費するようになるとは考えられない。また、企業も自社に関係する商品・サービスの価格以外は分からないわけで、予想物価上昇率調査は単に現状と短期的な先行きの予測を企業がどう判断しているかを知る材料に使える程度である。結局、出発点が間違っていれば、説得力のある説明は無理ということである。


                               原油価格の推移

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| 2016年10月01日 | 景気 | comments(0) | - |

平均消費性向は2015年7〜9月期から顕著に低下、回復はまだ先

 個人消費の不振が誰の目のも明らかになり、国民の将来不安の高まりがその背景にあるとの認識が広がってきた。金融緩和で為替レートが円安になり、消費者物価が上昇しても、円安による物価引き上げ効果が一巡すれば、物価上昇は終わると、この経済レポートで当初から指摘してきた。つまり、アベノミクス効果は一時的で、金融緩和でインフレ期待は生まれず、2%の物価上昇は達成できないと予想していた。その実態が確認され、消費にも影響しているが、安倍政権が発足した初期の消費はそれほど悪くはなかった。今回はその転換時期と要因を考える。

 消費者の消費行動は全所得のうちの消費支出割合の平均消費性向で量られ、景気判断の分析には速報性のある総務省統計局の「家計調査」の勤労者世帯(2人以上世帯)が資料として使える。ただし、以前にも取り上げたが、信頼性に留意する必要がある。

 家計調査は詳細に商品別の購入金額等が記入されているため、消費関連の分析では貴重な資料になる。逆に調査を引き受けて記入する方からは手間暇が大変で、回答者の引き受け手が少ない問題がある。このため、公務員が回答者を引き受けることが多くなり、回答が偏るという批判が以前からあった。最近のように女性就業が進めば、より引き受け手が減少する可能性が高くなっていると推測される。また、記入期間は半年間で、かつ毎月12分の1ずつ入れ替わり、継続性が維持されないことに留意、つまり、精度に若干疑問があることを前提に利用する必要がある。

 最近の平均消費性向をみると、年間では2012年の73.0%から13年74.0%、14年75.3%、15年73.8%で、14年がピークである。また、四半期別の推移は13年1〜3月期87.2%、4〜6月期72.9%、7〜9月期78.7%、10〜12月期64.6%で、大きく変動している。ボーナス等の臨時収入で季節的に収入が変動する一方、季節的な支出要因があり、平均消費性向は季節で変化は大きくなる。

 このため、前年比でみないと判断できない。同様に14年は90.1%、72.8%、78.5%、64.0%であり、消費税増税前の駆け込み需要で1〜3月期の伸びが高い。しかし、その後は前年とほぼ同水準の推移であり、平均消費性向でみる限り、消費税増税で消費抑制が始まったとはいえない。むしろ、14年の4〜6月期は駆け込み需要の反動減が見込まれるにも拘わらず、13年と同水準であれば、むしろ消費税増税の影響は無いと判断できるかもしれない。ただし、増税で価格が上昇したため、量的には駆け込み需要の反動減でも金額では支出が増え、平均消費性向が維持される結果になったといえる。

 この判断には収入との比較が必要になる。実収入と収入から税金、保険料などを差し引いた可処分所得では、13年1.0%増と0.3%増、14年0.7%減、0.6%減となっており、ほぼ同程度の増減率の推移である。収入の伸びが低ければ、可処分所得との伸びの格差は小さい。ちなみに、消費支出は13年1.7%増、14年0.1%減であり、同水準の生活維持であれば、少なくとも駆け込み需要の影響がほぼ消えた14年の後半は、増税分だけ支出が増える。14年の収入や可処分所得と消費支出の減少幅の格差が0.5ポイントしかないことから判断すれば、消費税増税で生活水準は低下することになるが、消費抑制への影響は大きいとはいえない。それは年間の平均消費性向が13年より高まっていることからも判断できる。つまり、生活水準維持を優先、まだ先行き不安は大きくはなかった。

 15年の四半期は1〜3月期が85.3%である。駆け込み需要の14年の同期とは別として、13年1〜3月期の87.2%は下回る。ただし、12年の1〜3月期の82.7%は上回り、増税の影響は判断し難い。そして、15年4〜6月期の73.0%は12〜14年の同期の73%前後とほぼ同水準であり、これから増税の影響が1年ほどで解消に向かっていたという見方もできる。

 ところが、その後の推移は15年7〜9月77.5%(前年同期比1.0ポイント減)、10〜12月期(同1.1ポイント減)、16年1〜3月期84.4%(同0.9ポイント減)、4〜6月期71.4%(1.6ポイント減)である。家計調査の精度に疑念があっても、平均消費性向の低下傾向は顕著である。これらの推移から、消費税増税の影響が解消に向かう可能性はみられたが、それは一時的現象で終わり、15年7〜9月期以降は消費税に関係なく消費抑制が強まったといえる。

 その要因としてはアベノミクス効果の幻想が明らかになったことにあると考えられる。それが国民に最も分かり易いのが消費者物価指数である。消費者物価指数(総合)の前年比上昇率は14年4月からの消費税増税の影響が15年3月で一巡し、3月までの2%台上昇から4月には0.6%増にまで急減した。その後も上昇率が低下傾向で、9月には一時的だが0.0%の横ばいを記録し、16年3月からはマイナスでの推移である。

 消費者物価指数は翌月末頃、4月の指数は5月末頃になり、この頃からインフレ期待、ひいては日本経済の成長が幻想と認識されるようになった。アベノミクス効果がマスコミなどで問われるようになり、アベノミクスの実態が国民、消費者に徐々に浸透していくと考えると、その影響で平均消費性向に7〜9月期から明確に現れるのはおかしくはない。そして、現状では消費税再増税を延期しても、平均消費性向の急回復を期待する要因は見つからないため、消費の回復は予想できない。

 足元の収入は増えなくても、将来に期待が持てれば、消費に積極的になるかもしれない。しかし、収入が増えない中で、アベノミクスの実態が明らかになれば、収入が増える夢は消える。その一方で、福祉は切り下げられ、消費抑制に向かうのは当然である。打ち上げ花火で国民を喜ばしても一時的な効果は明らかになっている。加えて、その費用は将来のツケになるだけであることを考えれば、むしろマイナスになる。このような政策が維持、拡大されれば、その収拾がより困難になるだけである。いずれにしろ、派手な花火ではなく、地道な取り組みが求められている。

平均消費性向の推移

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| 2016年08月31日 | 景気 | comments(0) | - |

景気と労働力需給指標の乖離の要因

 景気の現状の表現を楽観的な「穏やかな回復」、逆に厳しく「低迷」としても、いずれも期待される回復、拡大の状況からほど遠いことは政府も認めざるを得なくなっている。ところが、景気が労働力需給指標には反映せず、安倍首相はいわゆるアベノミクスの成果として雇用増を挙げている。昨年の9月1日付けのこの経済レポートで「GDP成長率と就業者数の伸びが乖離する要因」でも取り上げたが、むしろ乖離現象は酷くなっている。

 例えば、有効求人倍率(新規学卒者を除きパートタイムを含む、季節調整値)でみると、2013年11月に求人数が求職者数を上回る1水準を越えた後、前月比横ばいはあっても減少はなく、上昇一途の推移になっている。16年に入っても4月まで1.28、1.28、1.30、1.34の推移で、景気の影響を全く受けず、改善が一段と進んでいる。労働力需給は景気に対して遅行し、景気が頭打ちから下降に向かっても直ぐに悪化はしないが、いずれは景気変化を反映する。

景気回復が中断し、景気後退までは至らなくても長期的に回復中断状態が続いており、景気動向から判断すれば、労働力需給が改善を続けているのは異常といえる。その要因として、団塊の世代が60歳代後半になって退職年代に入ったためという見方があるが、高齢者の就業率が伸びていることを考えれば、それだけでは説明できまい。

 また、従来は労働力需給が逼迫、つまり有効求人倍率が1を大きく上回るようになれば、賃金が上昇するのが常であったが、今回は賃金上昇がみられないことも特徴として挙げられる。これは全体の平均賃金ではパートに代表される非正規雇用の増加で説明されるが、それでも2を大きく超える有効求人倍率のパートの需給逼迫が賃金に反映されないのも、従来の経済学では説明できない。

 この要因として、雇用の産業構造変化がある。産業別雇用を総務省「労働力調査」で、今回の景気回復局面で雇用が回復した13年からの推移をみると、全体の雇用者数は前年比で13年49万人、14年42万人、15年45万人と着実に増えている。そして、景気回復が期待を裏切っていると認識が広まってきている今年に入って、1〜4月は前年同期より90万人も増え、それまでの3年間の増加数と比較すればほぼ倍増で、むしろ雇用の拡大は加速の感がある。ちなみに、最近の雇用総数は5,700万人前後にまで達している。

 景気との関係では影響を受けないというよりも、逆転現象のようにみえる。月間でも前年同月比で15年12月に対して、16年1月からに急増しており、新年を迎えて企業は雇用拡大に乗り出したことになる。産業別で特に増加が顕著なのは医療・福祉で、13年から年間で28万人増、20万人増、27万人増、そして16年1〜4月の前年同期比27万人増と一貫して増加し、13〜15年は全体の増加数の半分ほどを占めている。高齢化による特に介護需要の増加を反映していると推測でき、また保育園拡大による保育士の増加もある。これは構造的な雇用者の増加であり、景気の影響は受け難い。

 このため、医療・福祉は16年1〜4月も増加数は変化がみられず、この期間の急増とは関係がない。他の産業は13年に景気回復を受けて雇用を拡大したところが多いが、いずれも一時的な現象に留まり、14年は医療・福祉を除けば全体では頭打ちである。そして、15年に盛り返し、16年に入って加速が付いており、景気の推移からみれば異常といえる。

 15年までと16年1〜4月との比較で、16年の増加が顕著なのは製造業9万人、運輸・郵便業9万人、卸売・小売業17万人、金融・保険業10万人、宿泊・飲食サービス業12万人である。このなかで、製造業は生産が回復していない状態での雇用増は不思議に思えるが、製造業の雇用者数は1,000万人前後で産業別では最も多く、以下、卸売・小売業1,000万人弱、建設業400万人前後、運輸・郵便業と宿泊・飲食サービス業300万人強などとなっている。1,000万人規模から考えれば、9万人は増加率からは小さい。

 これに対し、金融・保険業は150万人ほどの雇用者数に対して、10万人の増加は高い増加率になる。15年末頃から16年にかけての産業環境は為替レートの円高と株式の下落が進んでおり、むしろ業界にとってマイナスである。プラスは14年1月から始まったNISA(少額投資非課税制度)で、未成年者を対象とするジュニアNISAの口座開設が16年1月から始まった程度である。これで10万人もの雇用増とは考えられず、その要因は不明である。

 また、同様に雇用増の運輸・郵便業、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業のうち、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業は個人消費の影響が強く、14年4月からの8%への消費税引き上げ後の消費低迷からみれば、むしろ雇用は減少しても不思議ではない。個人消費の動向に逆行している要因としては、中国人の爆買いにみられる訪日外国人観光客の需要増が挙げられる。

 この要因であれば、運輸・郵便業も運輸業で訪日外国人の観光需要で運転手やガイドの採用を増やした結果と推測できる。15年までは外国人観光客需要に雇用を増やさずに対応していたのが、16年になってそれが限界にきたと考えれば、これら3産業は外国人観光客効果によることになる。

 ただし、爆買い需要は一巡傾向で、また15年末から着実に円高が進んでおり、従来の速度で外国人観光客の需要が増えることは期待し難い。それに加えて、今回の英国のEU脱退決定は円高、世界的な景気に対する先行き不安など外国人観光客需要を減少させる効果が予想される。このため、3産業の1〜4月の雇用増が今後も維持されるとは思えない。早ければ7月にも減少までには至らなくても、頭打ち傾向になると予測される。その一方で、構造的要因で増えている医療・福祉は今後も現在程度の年間20万台の雇用増は見込まれる。景気が大きく落ち込まない限り、医療・福祉が下支えすることで、今後も景気と雇用との乖離状態が維持される予測になる。

 一方、雇用が増えている医療・福祉の介護は低賃金であることは一般的にも認識されている。また雇用者数の多い卸売・小売業はパートやアルバイトの非正規雇用が多いのが特徴になっている。外国人観光客が2,000万人に増えて爆買いが続いたとしても、それは一時的滞在で、365日を通して暮らして消費する1億3,000万人近い日本の人口と比較すれば購買力は比較にならない。その日本国民が将来不安から節約に努めていれば、卸売・小売企業は引き続き販売価格の抑制努力が不可欠になり、ひいては雇用者の賃金も上げ難い。結局、労働需給が改善しても賃金は上昇しないことになる。労働需給と賃金の矛盾した状態も変わるとは思えない。

主要産業別雇用者数の前年(同期)比増減数の推移

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| 2016年07月09日 | 景気 | comments(0) | - |

10大費目に見る最近の消費者物価の特徴

 3月の消費者物価指数の前年同月比上昇率が総合で0.1%減、生鮮食品を除く総合で0.3%減といずれも値下がりに転じた。生鮮食品を除く総合は2015年10月の0.1%減以来、5か月、総合は13年5月の0.3%減以来、2年10か月振りの値下がりになる。物価への影響の大きい国際商品市況が11年をピークに、14、15年には顕著な下落傾向になっていた。また、為替レートの円安が15年11、12月の1ドル=120円台をピークに円高に転じ、16年3、4月は110円前後の推移になっている。15年3、4月は120円前後であり、前年比でも円高になる。これらの物価関連指標の動向から、前年比で消費者物価上昇率がマイナスになることは予想され、それが3月になった。以前からこのレポートで書いているように、日本銀行の政策効果による円安の影響が一巡しただけである。

 物価は需給とコストで決まるが、コスト上昇を価格に転嫁できるかどうかも需給の影響を受けるため、需給状況が鍵になる。もちろん、コスト上昇を価格に転嫁できずに赤字になれば、企業は存続できないため、価格への転嫁は行われる。問題は少なくともコスト上昇に見合うだけの値上げが実現できるかで、需給状況が悪ければ、利益を抑えるか、企業努力で値上げ幅を圧縮するしかない。

 コストはサービス業では人件費の比重が高く、商品は国際商品市況と為替レートを反映する。人件費は大企業の正社員は賃上げが行われても、中小企業や非正規社員は少額の賃上げでしかない。かつ、正社員より低賃金の非正規社員の採用が増えており、雇用者の平均賃金は微増程度の推移になっている。人件費上昇がサービス料金の値上げに波及しているが、需給面から抑制され、サービス物価は低い伸びにとどまる。

 一方、賃金が上昇しなければ、全体として所得の伸びは雇用の増加効果はあっても大きくはならない。加えて、税・保険料負担増で可処分所得の伸びが低くなる一方、社会保障の切り下げが行われていれば、生活防衛から消費は抑制される。最近では消費不況と言われるほど消費の低迷が続いており、熊本地震の日本経済への影響は直接的なものよりも、国民の不安感を高めて消費を抑制する間接的な効果の方が懸念される。

 いずれにしても需給関係は改善からはほど遠く、これからも期待できない。となれば、物価に関しては国際商品市況からのコスト要因次第になる。国際商品市況を原油で代表してみれば、OPECの平均価格で14年に1バレル当たり100ドルを下回って急落し、15年7月には50ドル、16年に入って1月には30ドルも割り込んだ。そこを底にしてようやく反転し、最近は40ドル程度に戻している。他の商品市況は原油ほどの変動ではないが推移は同様で、値下がり傾向から底入れ、そして回復傾向にある。

 消費税値上げの影響は別として、14、15年頃から国際商品市況が値下がりしたが、その一方で為替レートの円安が進行したため、円ベースの国際商品の輸入価格は値下がりに歯止めが掛けられた状態にあった。結果、消費者物価指数はほぼ横ばい圏で推移してきたが、16年に入って為替レートの円安が頭打ちから円高傾向になり、消費者物価指数が3月に前年同月比でマイナスになった。

 ただ、今回は以前の消費者物価の下落時と異なる要因がある。消費者物価の10大費目の前年同月比を見ると、原油価格の影響の大きい光熱・水道、交通・通信がそれぞれ8.5%減、3.0%減と大幅下落で、それ以外が上昇しており、費目間格差が目立つのが特徴といえる。天候要因による生鮮食品は別として、被服及び履物2.1%増、生鮮食品を除く食品2.0%増、教育1.7%増、教育娯楽1.7%増などが高い伸びではなくても上昇基調が続いている。

 教育は人口減を値上げで売り上げを維持していると推測され、被服及び履物は輸入品の比重が高くなっているため、特に、中国で人件費の上昇から輸入価格が値上がりしている影響と考えられる。これは教育娯楽の上昇要因になっている教育娯楽用耐久消費財も同様の事情と推測できる。企業は中国の人件費対策として、他国への工場移転を進めている。移転先のアジア諸国の人件費も順調な経済発展を前提にすれば、中国と同じになると推測される。ただし、現状は中国を始め成長が頭打ち傾向にあり、賃上げに歯止めが掛かり、短期的には徐々に上昇率の鈍化が予想される。

 一方、生鮮食品を除く食品で比重の大きい加工食品は、ガソリン価格が原油の輸入価格を直ぐに反映するのに対し、輸入原材料価格の変化から遅行する傾向にある。国際市況が上昇していた影響が今頃現れていると考えられるが、上昇のピークは過ぎつつある。また、食品価格の上昇が家計の消費を冷やす原因にもなっており、それが収まれば個人消費にはプラス要因になる。

 世界経済動向から予測すれば、国際商品市況が回復しても顕著な上昇にはならないため、消費者物価には引き上げ要因になってもその力は弱い。それよりも為替レートの影響が大きい。金融緩和策は手詰まり気味で、また国際的にも円安政策は行い難くなっており、輸入価格に影響するほどの円安は予想できない。一方で、需給関係の改善は少しは見込めても、大きくは期待できない。結局、消費者物価は円高傾向にならなければ、前年比横ばい前後、着実にでも円高が進めば、マイナスの推移が予想される。

10大費目消費者物価上昇率主要グラフ (2016年3月前年同月比)

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| 2016年05月01日 | 景気 | comments(0) | - |

2016年度の日本経済は1%台半ばの穏やかな回復でも過大?

 今年も終わりを迎え、来年度の日本経済の動向に注目が集まっているが、足元の2015年度の日本経済は1年前の見通しより回復力が弱かった。14年度は4月から消費税引き上げの影響で、実質GDP成長率は前期比で14年4〜6月期、7〜9月期と2四半期連続のマイナス成長の後、10〜12月期、15年1〜3月期は低成長でもプラス成長が続いた。年間成長率は1.0%減のマイナス成長になったが、これを受けて、15年度は着実な回復軌道を描くと期待された。4〜6月期は0.1%減と微減だが3四半期振りにマイナス成長に転落した。そして、7〜9月期は1次速報値では0.2%減になり、14年度と同様に2四半期連続のマイナス成長になったことで、回復力に疑問が生じた。

 ただし、これは2次速報値で0.3%増に上方修正され、2四半期連続のマイナス成長ではなくなったが、回復力が弱い状況に変わりはない。要因としては、企業収益の伸びと労働市場の改善による雇用者所得の増加から、回復を期待された最大需要項目の民間最終消費(個人消費)が停滞状態から脱せないためである。また、世界的な金融緩和が行われているにもかかわらず、世界経済の回復が遅れ、輸出が伸びないこともある。

 7〜9月期の2次速報値の上昇修正から、15年度の実質GDP成長率は年度下期に穏やかでも着実な回復を予想し、1%増程度の成長見込みになっている。それでも、1年前の15年度の各民間予測機関のGDP成長率見通しが名目1%台、実質1.5〜2.5%のプラス成長であったのと比較すれば、何れも回復力を過大評価していたといえる。主要因は個人消費と海外経済、つまり輸出を見間違ったことにある。

 その背景には過去の経験則に囚われているためと推測される。企業収益が賃金に反映し、個人所得が増えて消費が拡大するという見方である。逆に、従来とは異なり、企業収益は日本経済の成長力が弱いにもかかわらず好調である。一般的には、その要因として為替レートの円安が挙げられる。輸出産業は円安の恩恵を受け、輸入産業は円安によるコスト上昇を価格に転嫁できれば、収益の悪化は避けられる。かつ、輸入産業も海外投資収益には円安効果がある。

 これら以外に、企業のコスト削減意欲が強いことが無視できない。需要の伸びが低い、むしろ減少懸念のある中で、収益を確保するにはコスト削減が不可欠になる。その一つとして、労働コストの削減がある。賃金の高い正社員を削減し、低い非正規社員を増やしている雇用の実態は労働統計で明らかで、一般的にもよく知られている。つまり、企業収益が増えて賃金が増えるのではなく、賃金を増やさないことで企業収益を確保する効果は無視できない。もちろん、企業収益が好調であれば、長期的に賃金抑制を続けるのは難しいが、従来と同様に考えると判断を間違う。

 また、米連邦制度理事会(FRB)が12月に7年ぶりにゼロ金利政策を解除したが、2年ほど前からこのゼロ金利政策の転換が話題になりながら、実施が遅れてきたのは、基本的に投資機会がないためと考えられる。金融緩和、低金利で金を借り易い環境でも、収益に結び付く事業が見つからないため、設備投資が行われず、経済が成長しない構造になっている。

 特に、日本は人口減少で個別の商品は別として、消費全体に高い伸びは見込めなくなっており、民間設備投資が大きく伸びることは想定できない。加えて、税・保険料負担が引き上げられる一方で、社会保障が切り下げられる方向にあり、国民は将来不安から、所得が増えても貯蓄に回すと考えられる。いずれにしても、企業収益の増加や低金利が経済成長に効果がないというのではなく、従来と同じ様な期待は過大になり、実態はそれを下回る可能性が高い。

 今回の16年度見通しは、過去に例がないほど各予測機関間で乖離が少なく、名目GDP成長率は2%前後、実質GDP成長率は1.5%前後のいずれもプラス成長に収斂している。これらの見通しは、ヾ覿伴益の増加で民間設備投資が横ばい基調から低い伸びでも着実に増加する、⊆益に加えて雇用増から賃金が増え、個人消費は回復し、特に、16年1〜3月期には消費税の再増税から駆け込み需要が発生する、M⊇个浪困笋でも米国主導で世界経済が回復することで伸び率が高まる、などの判断による。民間や輸出の需要項目が伸びを高めるとしても、実質GDP成長率が1.5%前後の増加であれば、力強い回復・成長からはほど遠いといえる。

 また、16年度の消費者物価昇見通しは生鮮食品を除く総合で、15年度のほぼゼロ%上昇から、16年度は1%程度の上昇である。日本銀行の期待通りとはならなくても、その実現の可能性を思わせる数字である。16年度の物価関連の前提、見通しは、^拌悒譟璽箸15年度より1ドル当たり数円の円安、原油価格は15年度が底で、15年度は1バレル当たり数ドルの値上がり、になっており、輸入面からの物価上昇圧力はほとんど解消する。

 となれば、国内要因によって消費者物価が1%ほど上昇する見通しになる。そのためには、少なくとも平均で2〜3%の賃金の引き上げが前提になり、また、個人消費の伸びを実質で1%台半ばから2%程度の見通しになっていることからも、その程度の労働者全体の平均賃金の上昇が必要になる。ただし、正社員に対してその程度の賃上げが実施されても、今後も正社員の削減傾向が続くと予想され、非正規社員の賃上げが実施されても、平均ではマイナスでない程度と推計される。結果としては、16年度も各予測機関の経済見通しを実績が下回るのではないか。

 これ以外にも、見通しが外れる要因としては海外経済がある。海外経済が予想以上に回復、成長する可能性がないとはいえないが、それは低いのではないか。それよりも長期にわたる世界的な金融緩和でバブルが潜在し、それが顕在化してはじけることもあり得る。その場合は、これらの16年度経済のシナリオは完全崩壊になる。

2015年度の経済見通しの主要項目別一覧

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| 2015年12月29日 | 景気 | comments(0) | - |

物価の安定化と個人消費不振の乖離要因

 2015年4〜6月期の実質GDP成長率(2次速報値)が前期比0.3%減と、3四半期振りにマイナス成長を記録し、その要因の一つとして個人消費(民間最終消費支出)の不振が挙げられている。個人消費の不振はその通りだが、その理由として指摘される所得が伸びず、物価が上昇していて実質所得が増えないというのは正しいとはいえない。

 というのは、消費者物価上昇率(総合)は前年比で為替レートの円安と海外商品市況の上昇に加え、消費税増税の影響が最も顕著に現れた14年5月の3.7%増がピークで、その後は徐々に低下している。四半期で15年4〜6月期は0.5%増と、ピークの14年4〜6月期の3.6%増を3.1ポイントも下回り、最近の15年7、8月は2カ月連続で0.2%増とほぼ前年並みに留まっているからである。これからみれば、所得が増えなくても減少しない限り、実質所得のマイナス幅は縮小し、実質所得は改善に向かっていることになり、消費の不振を実質所得で説明するのは無理がある。

 消費に影響を与える要因として所得や物価以外に、将来の生活を考える上で政府の福祉政策が無視できない。また、所得は安倍首相が賃上げが広がっていると言っても、その恩恵が及ばない非正規職員が増えている問題がある。全体としては、厚生労働省「勤労所得統計」の名目の賃金をみると、低い伸びでも前年を上回る状態で推移しており、当面、この基調が大きく変化する要因は見当たらない。

 一方、物価に関しては、主婦の物価上昇感が強いというマスコミ報道が多い。消費者物価指数が安定化に向かっているのと、主婦の実感は異なっている。これは消費者物価指数の品目別の推移をみれば理解できる。8月の総平均が前年比0.2%増でも、生鮮食品を除く総合は0.1%減のマイナス成長になったのが注目されているように、生鮮食品は値上がりしており、8月の生鮮食品の消費者物価指数は7.6%増である。天候の影響を受ける生鮮食品物価は上下変動が大きいのが特徴だが、最近は長期的に上昇傾向にあり、基調として13年7月から値上がりしている。14年11、12月は微減だが、前年の両月が2桁前後の上昇であったことを考慮すれば、価格水準は高く、この両月でも値下がりしているとは感じなかったと思われる。

 日常的に購入する生鮮食品が値上がりしていれば、消費者物価指数が安定に向かっていても、物価上昇感が生じるのは当然である。また、輸入品の比重が高い生鮮食品を除く食料の消費者物価指数は8月も1.8%増と上昇が続いており、これも物価上昇感の要因になる。これが解消しない限り、物価面からみて消費に積極的になることは期待できない。

 今後に関しては、天候に影響される生鮮食品は別として、一段の物価安定、つまり値下がりが予想される。というのは、足元はまだ為替レートの円安の効果が残っているからである。為替レートが1ドル=100円台から120円前後へと急落したのは14年年末で、まだ1年も経っていない。このため、年年比でみれば、2割前後の円安で、一段の円安がなければ、輸入から店頭までの時間を考慮しても、年末から年初には円安効果は一巡するからである。

 現状が前年比で円安にもかかわらず、物価上昇率がゼロ基調になってきているのは、7月1日付けのこの経済レポートで書いたように、国際商品市況が下落しているためである。輸入物価指数(円ベース)は15年にはいって値下がりし、前年比で2桁近い値下がりになっている。これを受けて国内企業物価指数も4月から下落しており、それが波及して消費者物価指数の安定化をもたらしている。現状は国際商品市況が大幅に下落しているにもかかわらず、それを円安が下支えして打ち消して前年水準でほぼ均衡化している。

 国際商品市況は天候要因や投機的要因もあるが、基本的には世界経済による。世界経済の回復の遅れが最近の市況の下落をもたらし、現状では世界経済の回復力が弱いため、今後も少なくとも急上昇は予測できないため、日本の輸入物価指数、国内企業物価指数、ひいては消費者物価指数は生鮮食品は別として、為替レートでほぼ決まると考えられる。

 最近の推移からみて、年末には消費者物価のマイナス基調が明確になり、より一段の金融緩和で130円台、140円台への円安誘導が行われる可能性はある。一方、今まで効果の無かった金融緩和にまだ依存する政策が理解されるかどうか不明である。すでに、アベノミクスは効果なし、失敗という見方が海外にも広がりつつある。日本銀行の赤字国債の買い支え、東京オリンピックをお題目とする公共投資拡大による財政再建の先送りなどを考えれば、日本の経済政策、円への信頼が揺らぐ可能性が高まる。先の見えない円安政策が可能かどうかが問われる事態も予想され、今までと同様に行えるかどうかは疑問が残る。

 個人消費からみれば、生鮮食品は別として消費者物価が値下がりすれば、名目所得が増えなくても実質所得が増えるため、短期的には個人消費の回復が見込めるようになる。後は、福祉政策になるが、給付の切り下げや負担増が実施され、国民の将来不安はむしろ高まっている。また、労働者派遣法の改正は臨時雇用者の正社員化への期待を萎めさせることになり、いずれにしても将来不安の解消にはほど遠く、全体として考えれば、消費者物価上昇率がマイナス基調になっても消費の回復は穏やかなものに留まると予想される。いずれにしても、安倍政権は矛盾した政策が多く、これでは効果が期待できない。

為替レートと物価の推移(前年比伸び率)

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| 2015年10月03日 | 景気 | comments(0) | - |

GDP成長率と就業者数の伸びが乖離する要因

 先月のこの経済レポートで、2015年4〜6月期のIIP(鉱工業生産指数)が前期比で3四半期振りのマイナス成長になったことを取り上げたが、実質GDP成長率(1次速報値)も0.4%減のマイナス成長になった。個人消費が低迷し、内需の回復力が弱い状況のため、輸出によって成長が左右される構造にあり、4〜6月期に輸出が減少した影響が現れた。実質GDP成長率は14年度に消費税増税の影響もあって、3年振りにマイナス成長になった。15年度も基調としてはプラス成長でも、4〜6月期の速報値にみられるように、その足取りは重い。

 一方、労働市場は改善が続き、7月の有効求人倍率(季節調整値)は1.21倍と、92年2月の1.22以来、23年5カ月振りの高水準を記録している。もともと、労働統計は景気の遅行指標と言われ、景気とずれが生じるのは不思議ではないが、最近は労働統計とGDP統計に乖離が目立っている。

 総務省統計局「労働力調査」の就業者数は暦年で発表されているため、暦年と最近の四半期を原数値の前年同期比で、実質GDPと就業者数の伸び率を比較する。ちなみに、4〜6月期の実質GDP成長率は前期比ではマイナス成長だが、前年同期比では0.7%増、4四半期振りのプラス成長になる。

 まず、05年から年ベースで実質GDPと就業者数の伸び率を比較すると、11年まではほぼ同方向の推移である。10年は実質GDPが世界経済のリーマンショックからの立ち直りを受けて、前年比4.7%増の高い伸びになった。一方、就業者数は0.3%減と小幅でも減少である。これは前年が実質GDP同5.5%減の大幅減少に対し、就業者数同1.5%減と小幅に留まった影響と推測できる。

 企業は不況時に雇用を削減するが、非正規雇用者は解雇が比較的容易でも、正規雇用者はそうでもないため、就業者数の減少が遅れるのは当然といえる。これが労働統計は景気の遅行指標になる要因である。そして、それが12年に持ち越し、実質GDPが成長に転じても就業者数は減少傾向が続く要因になったと推測できる。ただし、非正規雇用者の増加はこの遅効性を短縮化することになる。

 また、実質GDP成長率と就業者数の伸び率を長期間の平均でみれば、企業は労働生産性を向上させるため、実質GDP成長率が就業者数の伸び率を上回るのが一般的である。つまり、実質GDPが成長しても、低成長であれば、就業者数が減少することはよくある。

 ところが、14年は実質GDPがマイナス成長率になったにもかかわらず、逆に、就業者数は増加している。四半期でみても、14年4〜6月期から15年1〜3月期まで4四半期連続で実質GDPのマイナス成長の一方で、就業者増で推移しており、従来からみれば、異常といえる。15年4〜6月期は実質GDPがプラス成長になったのに対し、就業者数の伸び率が1〜3月期より低下しただけで、14年の異常な状態が解消したとまではいえない。

 従来と異なる現象が生じているのは、何らかの構造変化が生じたためと考えられる。その変化として、非正規雇用の増加と労働力の減少見通し、高齢化、そして就業の産業構成変化の3つが挙げられる。

 非正規雇用、特に短時間労働のパートやアルバイトの増加は必要な1日当たり労働時間が同じであれば、雇用者数、就業者数を増やす効果を持つ。この影響は無いとはいえないが、短期的な構造変化でないため、最近の現象の説明要因にはならない。非正規雇用の多い就業構造の第3次産業化が進み、また、企業が日本の経済成長率の低下から、コスト削減を目的として非正規雇用化に力を入れだしたのは90年代からで、20年以上も前からである。そして、最近になって特に加速しているわけではないからである。

 また、労働力の減少見通し、高齢化は短期的な変化にはならない。労働力人口は労働者本人の意向を反映するため、正確性に欠ける欠点がある。それよりも、その母体になる人口が問題で、日本は人口の多かった団塊の世代がすでに65歳前後に達している。就業者数としてはまだ多く、年齢階層別では就業者数の増加数の大部分を占めている。しかし、体力や企業の雇用形態から考えれば、かなり前からフルタイムの労働者は少ないと推測され、これは非正規雇用の増加の1要因でもあり、同じことである。

 結局、就業の産業構成変化に求められる。就業者数は12年の6,270万人から、14年には6,351万人へと、81万人増加している。産業別就業者数で近年、最も増えているのは医療・福祉産業で、この2年間で706万人から757万人へと、51万人増である。就業者全体の増加の6割以上を医療・福祉産業が占め、景気にほとんど影響されず、うち高齢者のための福祉産業が増加の大半を占めると推測される。

 2年間で約50万人の増加は年間約25万人になり、6,000万人強の就業者の0.4%ほどになる。そして、この増加数は最近10年ほど安定的に着実に増加しおり、この2年間だけ特徴ではない。その影響が14年の実質GDPのマイナス成長で顕在化したといえる。09年は別として、1%未満の就業者数の変化の中で安定的に0.4%の増加があれば、下支え効果は大きい。例えば、医療・福祉産業を除けば、就業者全体の伸びが低かった14年10〜12月期と15年4〜6月期の就業者数は前年同期を下回り、マイナスの伸び率であれば、従来と違和感を生じなかったと思われる。

 医療・福祉産業の就業者が景気に関係なく安定的に増加し、加えて、非正規雇用によって就業者を増やす構造であれば、労働統計は景気指標に適しなくなる。これは労働者にとってプラスとみることもできるが、低賃金労働であることを考慮すれば、喜ぶべき構造変化とはいえない。

 また、日本経済のマクロの視点からは、実質GDPのマイナス成長下での就業者の増加は労働生産性の低下を意味する。人口・労働力の減少が避けられない時代を迎えて、経済発展のためには生産性の向上が課題になっている。それに対して、就業者増をプラスに評価することも可能だが、経済とは別の視点が必要になる。

実質GDPと就業者数の前年比伸び率の推移

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| 2015年09月01日 | 景気 | comments(0) | - |

4〜6月期のIIPは3四半期振りのマイナス成長の要因

 6月のIIP(鉱工業生産指数)速報値(季節調整値)は5月の前月比2.1%減から持ち直したが、同0.8%増に留まった。結果、4〜6月期のIIP成長率は1.5%減、昨年7〜9月期以来の3四半期振りのマイナス成長になった。景気は穏やかでも回復基調にあるというのが一般的な見方で、その判断は間違ってはいなくても、かなり穏やかな回復基調になる。

 内閣府は7月24日、第15循環の景気のピークを2012年3月、ボトムを12年11月に確定したと発表した。ボトムは以前に発表された暫定値と同じに対し、ピークは暫定値の4月より1カ月早くなった。ちなみに、IIP(季調値)はピークが12年1月の101.5、ボトムが11月の93.4である。いずれにしても12年12月以降は回復期になる。

 月間は別として、四半期ではIIP(季調値)は13年度中は成長を続けた後、14年4月からの消費税増税に伴う駆け込み需要とその反動で、14年4〜6月期は前期比3.0%減の大幅マイナス成長になった。この大幅マイナス成長で反動減はほぼ出尽くしたと推測されたが、次の7〜9月期も同1.4%減になり、回復力の弱さが明らかになった。

 しかし、その後は10〜12月期0.8%増、15年1〜3月期1.5%増となり、弱くても回復基調と見られていた。ただし、1〜3月期は四半期でみれば、1.5%増の比較的高い伸びだが、これは1月の水準が高かったためで、2、3月は2カ月連続のマイナス成長である。結果、3月の水準が1~3月期を1.6%も下回り、4〜6月期の回復力が弱ければ四半期でのマイナス成長は予想できた。この1.6%は1.5%とほぼ見合い、つまり、4〜6月期はい3月と同水準の推移だったことになる。景気回復が強調されていても、実態経済はそれほどでもなく、それがIIPに反映するのは当然である。

 日本経済は12年が不況期になるが、その主因は現在もギリシャ問題として尾を引いている10年に発生した欧州ソブリン危機、またはユーロ危機にある。その影響で日本の輸出が減少して景気後退に陥った。そして、欧州が完全でなくてもソブリン危機の最悪期から脱したことで、日本の輸出も底入れし、日本経済は12年11月をボトムに回復に転じたというのがこの間の景気循環の経緯になる。

 結局、消費税増税の攪乱要因はあるが、個人消費に代表される内需の回復力が弱い状態では、結局、アベノミクスに関係なく輸出次第というのが日本経済の現実である。為替レートの円安は輸出や海外投資の収益増で企業を潤すだけで、輸出の数量は海外景気の影響が大きい。一方、景気回復力が弱い要因の一つに挙げられる所得格差の拡大は、日本だけでなく世界的な現象であり、世界的に景気回復力は弱い。世界では景気が良いとされる米国も、金利引き上げの実施の先送りが続いており、回復力が期待ほどではないことを示している。

 このため、日本の輸出数量指数の前年比伸び率は12年後半が10%前後の落ち込みになり、その後は回復傾向といっても、かつてのように2桁台に乗るような伸びはなく、四半期ベースでは5%増にも達しない。この1年ほどの推移は前年同期比で、14年4〜6月期1.0%減、7〜9月期0.3%増、10〜12月期2.3%増、15年1〜3月期3.8%増、4〜6月期0.5%減である。

 この輸出数量指数とIIPの関係の分析はIIPの原指数の前年同期比と比較するのが望ましいが、消費税増税による変動があるため難しい。前年同期比と前期比の違いはあるが、輸出数量指数とIIP(季調値)の伸び率を比較すると、15年4〜6月期のIIP(季調値)のマイナス成長は輸出の不振の影響と考えられる。また、14年7〜9月期のIIP(季調値)の2四半期連続のマイナス成長も同期の輸出数量が0.3%増とほぼ頭打ちになった影響も大きいと推測できる。

 つまり、日本経済は世界経済による輸出動向で景気が変動する構造になっているといえる。そして、世界経済は米国は期待ほどではなくても回復傾向にある一方、欧州はギリシャ問題が解決からはほど遠い状況で、回復に力強さが欠け、中国も構造的問題を抱えながら何とか比較的高い成長を維持している状態である。このような世界経済から判断すれば、日本経済が輸出主導で着実な回復を続ける保証はなく、景気転換をいつ迎えてもおかしくはない。

 一方、4〜6月期のIIP(季調値)はマイナス成長になったが、製造工業(ほぼIIPと同じ)予測指数は7月0.5%増、8月2.7%増となっている。最近の予測指数は回答企業が期待を込めているためか、先行き高い伸びを見込み、実績は大幅に下方修正される傾向にある。ただ、それを見込んでも予測指数からは7〜9月期は前期比微増でもプラス成長が予想される。4〜6月期のIIPが景気後退のシグナルとは考え難くても、日本経済が順調な回復からはほど遠いことを表している。


鉱工業生産指数と輸出数量指数の成長率の推移

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| 2015年08月02日 | 景気 | comments(0) | - |

消費者物価上昇の沈静化と食料品値上げラッシュの消費への影響

 消費者税増税の影響が一巡する4月以降、消費者物価上昇率は対前年比で0%台に低下し、一時的にはマイナスになる可能性もあるという見方が2014年度末頃から一般にも広がってきた。事実、消費者物価上昇率は生鮮食品を除く総合で3月の2.2%増から、4月0.3%増、5月0.1%増と上昇率はほぼゼロに近づいている。

 日本銀行の黒田東彦総裁も事前にこの見通しを認めざるを得なくなり、昨秋に15年度の消費者物価2%上昇目標を放棄していたが、その後は目標を1年先送りした上、2%を2%程度と言い直している。1年先送りしても、少なくとも2%近くまでの消費者物価上昇が実現するには、世界的な異常気象でも発生して食料の国際価格が高騰しない限り、為替レートの円安しか可能性はないと考えられる。

 為替レートは14年秋頃から1ドル=100円台から110円台へと一段と円安傾向を徐々に強め、15年5月にはそれが加速する勢いになった。6月2日には一時的に125円台にまで円安になり、次は130円の壁を突破かと思われた。ところが、黒田総裁が10日の衆議院財務金融委員会で、為替動向に関して「実質実効為替レートでは、かなり円安の水準にある」と発言し、冷や水を浴びせたことで、125円台から一気に122円台まで戻した。

 消費者物価の2%程度上昇には円安が必要と考えられ、黒田総裁は円安歓迎と推測していたのが、この発言は矛盾しているように受け取れる。その要因を推測すれば、自国景気の足を引っ張るドル高を心配し始めた米国への配慮と、政府総債務残高の対GDP比ランキングで突出した世界第1位で、かつ赤字国債を買い支える日銀の金融政策への不信を背景に、近づく円暴落への懸念、の2つが挙げられる。もちろん、経済環境は常に変わる可能性があり、しばらくしてから再度の円安になった場合、同様の発言が行われるかどうかは不透明である。

 一方、政府やマスコミは個人消費が回復としていても、実態はそうではないことは先月の経済レポートで示したが、新年度に入っても個人消費にマイナスになる食料品の値上げ報道が相次いでいる。生鮮食品でない食料品の値上げと物価上昇率の低下は矛盾しているように受け取れるが、もともと、消費者物価指数に占める食料品の比重は4分の1程度で、その中の一部で値上がりしても影響は小さい。かつ、メーカーが値上げを発表しても、競争の激しい小売の価格にそのまま転嫁は難しいであろう。

 それよりも、相次ぐ値上げ発表の個人消費への影響が懸念される。主婦にとっては日常的に購入、消費する食料品の比重は、消費者物価指数に占め以上に感覚的にかなり高くなる。食料品メーカーが発表する値上げが現実にそれが実現するかどうかは別として、発表するだけで消費抑制効果は大きいと考えられるからである。

 食料品値上げの理由として、円安に加え、天候異変による世界的な生産減の一方で、中国をはじめとする海外での需要増による国際市況の上昇が取り上げられることが多い。現実に、輸入小麦の政府売渡価格は6月から3%引き上げられ、それを受けてパンやパスタなどの値上げ予定されている。これら以外にも、食料油、乳製品、ソースなども原材料の上昇を理由に軒並み値上げである。

 ところが、現実には国際商品の中で原油価格は先行して大幅下落しており、石油製品の国内価格は顕著に値下がりしている。原油、ガソリンに代表される石油製品に関してはマスコミで報道され、一般的に認識されているのに対し、同様に食料品の国際商品市況も値下がりしているにも関わらず、報道は少ない。

 IMF資料でみると、金融緩和による投機資金の流入もあって、中東のドバイ原油は12年3月のバレル当たり120ドル台まで上昇した。しかし、それをピークに、15年1月には40ドル台まで大幅に下落し、その後は戻してもピーク時の半値程度の60ドル前後の推移である。世界的な景気回復の弱さによる需要の低迷と、シェールオイル供給圧力で需給が緩和しているからである。

 食料品は天候要因があるため、原油と同様には考えられないが、生産や投機要因は別として、需要が景気の影響を受けることでは同じである。IMFの2005年=110とする食料価格指数は12年夏から13年夏頃までの170台後半から180台半ばの高水準横ばいから、その後は170を下回る水準まで低下し、一度は天候要因で14年4月に先行ピークと同水準の185台まで再騰した。消費税増税の影響を除けば、当時は原油や食料の国際商品市況の上昇から高止まり状況で、その下で円安が続き、消費者物価が上昇した。

 しかし、その後は原油よりは遅れ気味だが食料価格指数も着実に下落し、最新の15年5月はピークの185の77%、142まで低下している。この間、為替レートは105円から121円に13%ほどの円安で、食料の国際商品市況の値下がり幅の方が大きい。もちろん、その時の国際市況価格で購入しているわけではなく、また、日本に輸入して小売りまでの加工・輸送の時間が必要になる。国際市況が消費者物価まで波及するには、政府が管理する小麦ほどではなくても、数カ月は掛かると推測される。

 このため、穏やかな値下がりで、かつ、円安傾向であれば、その影響は打ち消され、原油のように急落しなければ、消費者物価に反映されるまでには時間が掛かる。円安が止まったとして、食料の国際商品市況の下落が消費者物価に波及するのはこれからになる。

 個別の食料品でみても、主要な食料品は全てピークを打っており、遅れ気味だった牛肉もオーストラリア・ニュージーランド産で14年9月がピークである。今後も世界の食料生産に打撃を与えるような異常気象は別として、穏やかな円安で留まれば、少なくとも黒田日銀総裁が延長した1年程度でみれば、輸入食料品価格は値下がりが予想される。

 また、今年の賃上げ率は6月頃までの給与額が厚生労働省から発表されると明確になるが、昨年を顕著に上回るほどは見込めない。つまり、賃金面からの消費者物価引き上げ要因はほとんどなく、同時にそれは収入の伸びも低いことを意味し、消費を拡大する効果も小さいと判断できる。

 以上から考えれば、為替レートの円安が止まるか穏やかな円安は、個人消費の回復が期待できる。その一方で、公約かどうかが不明になりつつあるが、黒田総裁のいう消費者物価の2%程度上昇の実現は遠のく。逆に、円安が歯止めが無くなるか、異常気象で食料品の国際市況が高騰すれば、その実現の可能性が高まっても、個人消費の回復は望めなくなる。結局、近年の厳しい経済環境下で理想的な経済回復パターンを頭で描いても、どこかに矛盾が生じるだけである。

食料価格指数、主要食料価格、原油、為替レートの推移


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