2023年10〜12月期実質GDP(1次速報、季節調整値)の成長率は7〜9月期の前期比0.8%減に続き、同0.1%減の2四半期連続のマイナス成長になった。欧米では2四半期連続のマイナス成長は後期後退と判断されるが、日本では景気判断は内閣府の景気動向指数研究会が景気動向指数に基づいて決定する。特に、今回はコロナ禍による一時的な変動要因があるため、景気のピーク時期の判断は難しいが、現在はピークを過ぎたと考えられる。
一部には株価高騰で景気が良いように報じるマスコミがあり、それを受け入れる雰囲気がある。基本的に投機で変動する株価は景気の判断には使えないが、景気が悪化したと思いたくない人は株価に判断を頼る。また、実質GDPは季調値の前期比で2四半期連続のマイナス成長になっても、名目GDPの原数値は物価上昇による水膨れで、この2四半期は前年同期比で6.9%増、4.9%増である。季調値のない企業の売上高は前年比になり、名目GDPの前年比を反映するため、まだ比較的順調な伸びが続いていることになる。
企業収益も輸出企業は円安の恩恵を受け、輸入原材料比率の高い企業は原材料コストの上昇を製品価格の値上げに転化して収益増加になっており、不況感を感じ難い状況にある。ただし、需要が減少すれば製品価格は値上げできず、むしろ値下がりする。
現状の実質成長であれば数量ベースの生産量はほぼ横這いの推移になり、生産が増えない、さらには減産に陥る企業が増えてくる。生産が増えなければ生産性の向上は難しく、生産コストを通じて収益に影響する。いずれにしても、実質GDPの動向が企業収益にも波及し、現在の雰囲気による景気評価の誤りを認識するまでに時間が掛かるのは通常のことである。
景気動向指数研究会の決定にはより時間が掛かる。同研究会は前回のピークを18年10月と判断したが、判断時期は2年近く経った20年7月であった。当時、アベノミクスによる景気拡大は戦後最長の景気拡大「いざなみ景気」の73カ月を抜いたと一部マスコミが騒いだが、結果は2か月足らなかった。もちろん、期間よりも成長率が問題で、当時の安倍首相に忖度して期間が長いのを強調していた。同研究会の判断を待っていれば、国民や企業は景気への対応が遅れる。
基本的に、景気が悪化すれば責任が問われる政府の景気判断は、割り引いて見る必要がある。例えば、政府見通しになる内閣府「月例経済報告」は、23年10〜12月期実質GDP(季調値)の2四半期連続マイナス成長発表後の2月の報告が「景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している」であり、全く実態を反映していない。
今回はコロナによる変動で季調値だけでは判断し難いため、原数値の前年同期比で見ると、実質GDP(原数値)の前年同期比で4〜6月期2.3%増、7〜9月期1.7%増、10〜12月期1.0%増とマイナス成長ではないが、急速に成長率が低下している。24年1〜3月期は低所得者への給付金があるため、マイナス成長が避けられても、4〜6月期にはマイナスになる可能性が高い。月例経済報告は「悪化傾向にある」とすべきである。
景気の悪化はGDPで比重の大きい民間最終消費、民間設備投資のマイナス成長と輸出の牽引力不足にある。個人消費の実質民間最終消費は季調値の前期比で4〜6月期から10〜12月期まで0.7%減、0.3%減、0.2%減、実質民間企業設備も同様に1.4%減、0.6%減、0.1%減で、いずれも3四半期連続のマイナス成長である。
一方、実質財貨・サービスの輸出はインバンド需要でサービスが増えても、財貨が伸び悩み、全体ではこの間、3.8%増、0.9%増、2.6%増で、低成長でもマイナス成長ではない。結局、民間最終消費と民間企業設備の不振がマイナス成長要因になる。ちなみに、原数値の前年同期比で実質GDPはプラス成長を維持しているが、実質の民間最終消費と民間企業設備は4〜6月期のプラス成長から、7〜9月期、10〜12月期は両方共に2四半期連続のマイナス成長である。
民間最終消費は春闘賃上げ額が低く、所得が増えない状況で物価上昇があれば、実質所得がマイナスになり、それに伴って支出、消費が増えないのは誰でも理解できる。一方、企業収益、特に大企業は為替レートの円安と製品価格の値上げで改善しており、長期的に企業収益は良好で、設備投資資金は余裕がある。また、長期的に低金利が続いているのも設備投資の促進要因であり、以前から民間企業設備の増加が期待されていた。
しかし、現実には民間企業設備は減少しなくても、年率で1、2%程度しか伸びていない。国内市場は人口減から成長を期待し難い時代で、設備能力増強には消極的になり、かつ、輸出が伸びても海外での設備増強に向かう傾向にある。一時は円安で海外から国内に立地戦略が変わるという声もあったが、最近ではほとんど聞かれなくなった。
また、欧米企業だけでなく、台頭するアジアの企業との競争力が激しい時代であり、国際競争の中で生き残り、成長するには研究開発投資が重要になる。現実には研究開発投資もそれほど増えていない。これが日本の生産性の伸びを低くしている要因でもある。逆に、企業収益が増えているにもかかわらず、設備投資を拡大しないのではなく、設備投資を拡大しないことで収益を維持、増加させている面もある。
同様に、長期的に賃上げを抑えて人件費を抑制しているのも収益増要因になり、支出抑制で収益を維持・拡大させているといえる。いずれも企業の経営戦略に依るもので、企業戦略が変われば現在の日本経済の長期低迷下での成長鈍化、マイナス成長からの早期脱出が見込める。
設備投資は成長に向けて積極的な投資が求められ、賃金に関しては今春闘で4〜6%と最近では高い賃上げを表明する企業が出現している。昨年も今回ほどではないが、高い賃上げを表明する企業がマスコミを賑わしたが、結果は厚生労働省「毎月勤労統計」の結果に見られるように、従来からほとんど給与額の伸びは高まっていない。
この理由として二つ考えられる。一つは、高い賃上げ表明の企業はほとんど大企業で、就業者の大半を占める中小零細企業の賃上げ額が増えなければ、全体では伸びない。もう一つは、雇用の非正規化である。正規職員に比べて非正規職員は大幅に賃金水準が低い。正規職員だけでなく、非正規職員の大幅賃上げを表明している企業もあるが、低賃金の非正規化を進めれば、賃上げしても全体として賃金、給与の伸びは抑えられる。
企業の投資行動、賃金、社員構成が改善されれば、日本経済の成長性が高まると期待できる。一方、それは企業収益を悪化させる可能性があり。一時的な成長性の向上で終わるかもしれない。また、賃上げによる賃金コストの上昇を製品価格に転嫁すれば、実質賃金は増えない。物価上昇によって名目GDPの成長率は高まっても、実質GDP成長率は変わらず、国民は相変わらず苦しい生活のままになる。結局、設備投資で生産性の向上を図る必要があるが、企業の認識はどうか。
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2023年12月の消費者物価指数は106.8になり、10月の107.1をピークに2か月連続で減少傾向になった。また、前年同月比では23年1月の4.3%増をピークに、12月は2.6%増まで着実に低下してきた。一方、異常気象の影響で、生鮮食品はこれまでの通常時よりはまだ高価格でも、異常な高騰期は過ぎて最近は値下がり傾向にある。生鮮食品を除く総合では前年比伸び率は減少傾向にあるのは同様だが、指数は10月から12月まで106.4の横這いである。
一方、全国より1カ月早く発表され、先行指標になる東京都区部の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で23年11月106.0、12月106.1から、24年1月は105.8と顕著な低下になった。これを受けて、全国も1月は低下が予想され、国際商品市況や輸入物価指数、国内企業物価指数の推移から、消費者物価指数は10〜12月期がピークになったと判断できる。
ただし、23年の消費者物価指数は政府の電気・ガス料金負担の激変緩和措置で引き下げられていたが、24年度は逆に一時的な上昇要因になる。23年1月から(支払いは2月から)、料金単価を電力は家庭用の低圧で3.5円/kWh、都市ガスは15円/?値引きする制度で、値下げ効果は消費者物価指数の1ポイントほどと推計される。
当初は12月までの1年間とされていた。しかし、物価高騰が長期化しているため、現状の措置が24年4月まで延長になり、5月からは半額にして維持される。その半分であっても、消費者物価指数は一時的に上昇する。今後、過去ピークを越える可能性は確率が低くてもある。
今回の物価上昇は国際商品市況の回復が契機になった。コロナ対策の収束による世界的な景気回復で、国際商品市況は2000年春頃から上昇し始めた。それを受けて、日本の輸入物価指数は同年6月から前月比でプラスに転じた。企業が輸入した原材料を加工して販売する製品の国内企業物価指数は、値上がり前の輸入原材料在庫があり、また、ユーザーとの値上げ交渉もあって輸入物価指数の上昇より遅れる。輸入物価から半年後の20年12月から前月を、21年3月から前年水準を上回るようになった。
一方、欧米では21年には消費者物価の上昇傾向が顕著になり、物価対策で22年には金利を引き上げ、景気引き締めに転じた。結果、需要の伸びが頭打ち傾向になり、商品によって異なるが、国際商品市況は22年春から夏頃にはピークを打ち、下降傾向になった。それを受けて、日本の輸入物価指数は少し遅れて頭打ち、下降に向かっている。
ただし、今回はソ連・ウクライナ、ハマス・イスラエルの戦争に加え、新たにイエメンの武装組織フーシの船舶への攻撃などが加わり、国際情勢の不安定な状況が長期化している。この影響で国際商品市況の下落が中断することが多く、国際商品市況は下降局面といっても一直線に進み難くなっている。
輸入物価指数のピークは国際商品市況の影響がほぼそのまま反映する契約通貨ベースで、22年7月の151.2になる。これは国際商品市況が安定していた20年を100とする指数であり、2年ほどで5割もの上昇になる。また、為替レートの影響を受ける円ベースのピークは、それを上回る同年9月の188.8になる。円ベースのピーク水準が高いのは円安の影響がある。ちなみに、前年比上昇率のピークは契約通貨ベースで21年10月の34.0%増、円ベースで22年9月の48.5%増になり、1年ほどのずれがある。
ピーク後は下降傾向にあるが、契約通貨ベースは23年8月の126.3で下げ止まり、その後は11、12月の129.2まで戻している。これは米国の個人消費が予想外に好調で、景気の基調が強いと評価され、一時的に国際市況が持ち直したためである。
一方、輸入物価指数の円ベースは23年7月の156.4で下げ止まって上昇に転じ、11月は167.0まで戻したが、12月には162.0に下がっている。為替レートが金融政策予想の影響を受け、22年末頃の1ドル=130円強から23年8、9月頃には150円前後まで円安になり、逆に年末には140円近くまで円高になった。この間の為替レートが短期的に大きく変動したからである。為替レートが円安を是正する基調であまり変化しなければ、契約通貨ベースと同様に低下傾向が続いたと考えられる。
国内企業物価指数は短期的に変動しない人件費や設備費などのコストの比重が高いため、原材料費の輸入物価指数よりも変化が遅れるだけでなく、上昇率も低くなる。指数のピークは22年4月の120.1で、前年比上昇率のピークは22年12月の10.6%増である。
輸入物価指数はピークを過ぎて基調として下降傾向にあり、この影響は国内企業物価指数にも反映する。しかし、まだそれは明確には現れず、23年12月の国内企業物価指数は119.9、ピークより0.2ポイント低いだけである。22年11月期以来、23年4月の120.1を除いて12月まで119台での小幅変動で、23年12月までほぼ横這いの推移である。
このような国内企業物価指数の推移を受けて、消費者物価指数(除く生鮮食品)は21年9月の99.9をボトムに上昇基調になったが、極めて歩みは遅い。2年ほど経った23年10月に106.4、ボトムの対21年9月比6.5%増になった後、11、12月も同じ106.4である。小幅の上昇ではあるが、消費者物価上昇は2年間も続き、特に、日常的に購入、消費する生産食品を含めて食料品の上昇が顕著で、所得が増えない環境下で国民の物価高感は強い。
消費者物価上昇テンポが遅いのは、企業は英品を大幅に値上げすると需要の減少が予想されるため、値上げを小出しにする傾向にあることも影響している。それが消費者物価指数のピークを分かり難くしているが、企業の値上げは一巡しつつある。そこに24年5月からの激変緩和措置を半額にする引き上げ効果が加わる。これは穏やかな下降傾向下での0.5ポイントほどの上乗せになり、この程度であれば、下降テンポを一時的に中断する程度で済み、基調を変化させるほどのインパクトはないと判断できる。
一方、34年度春闘を前にして、高い賃上げを表明する企業のマスコミ報道が相次いでおり、34年度春闘への期待が高まるかもしれない。それが多くの企業に波及すれば良いが、33年度のように裏切られる可能性がある。その場合は消費者物価指数が横這いや微減の推移では、実質所得は増えず、物価の高止まり感が残る。民間最終消費の回復が期待できず、日本経済の低迷状況が続くと予測される。
これまでの消費者物価の上昇を考慮すれば、消費が着実に増えるには少なくとも4、5%台の賃上げが必要になる。それは賃金コストを上昇させ、消費者物価上昇要因になるが、その一方で、労働者も少しは先行きに希望が持てるようなる。それによって民間最終消費の下支えで日本経済の成長が期待できるが、日本全体でそれだけの賃上げは難しいのでは。
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前回のこの経済レポートで、政府がコロナ禍対策で実施した政府の国民への現金給付に関して、これまでの給付では消費に回らず、貯蓄されるだけで、経済効果は小さいとして批判の声が多かった。しかし、今回の現金給付は低い伸びの雇用者収入の現金給与総額と高い名目消費支出の伸びとの乖離現状が見られたことから、従来と異なり、給付金は消費に回されて景気対策の効果があった。現金給付が消費者物価の上昇時になり、それが駆け込み需要の資金になって消費を下支えたと説明した。
結果、実質消費支出のマイナス成長への転落を引き延ばし、マイナスになっても小幅に留める効果をもたらしたと評価した。この評価の正否を国内家計最終消費支出の耐久財、半耐久財、非耐久財、サービスの4業態別の動向から判断すると、生活水準を維持するための特に非耐久財支出に貢献したといえる。
GDP統計の民間最終消費支出(以下、民間消費支出)から日本国内居住者の海外での直接購入を除き、非居住者の国内での購入、つまりインバウンド需要を加えたのが国内家計最終消費支出(以下、国内消費支出)になる。これが国民経済統計で公表されている。2022年度実績で国内消費支出は民間消費支出の名目315.8兆円、実質(2015暦年価格)298.1兆円に対し、国内消費支出はそれぞれ308.9兆円、291.4兆円、民間消費支出の97.81%、97.75%と高く、両支出の動向はほぼ同じである。
名目国内消費支出の22年度実績308.9兆円の内訳は、耐久財24.5兆円、全体の7.9%、半耐久財20.2兆円、同6.5%、非耐久財91.0兆円、同29.5%、サービス1,732兆円、同56.1%である。消費構造のサービス化を反映してサービスが過半数を占めている。ただし、ピークは07年度の59.8%であり、コロナ禍によって減少傾向が少し強まっている。ちなみに、実質ではピークは同じ07年度の59.9%、22年度は58.2%であ、実質ではコロナ禍の影響は軽微になる。
4業態別の主な内容は、1 耐久財は太陽光発電、自動車、携帯電話、TV、パソコン、楽器、2 半耐久財は寝具類、衣料品、履物、保健医療用品・器具、スポーツ用具・用品、TVゲーム機・ゲームソフト、園芸用品、書籍、装身具、3 非耐久財は食料品、光熱・水道、医薬品、新聞、雑誌、石けん、化粧品、4 サービスは外食、家事サ−ビス、保健・医療サービス、交通費、電話通信料、授業料、理美容サービス、などとなっている。
コロナ禍のような経済活動を低下させ、収入が減少する事態が発生したときは、日常生活に不可欠な生活必需品は、生活水準を維持するために一定の消費は維持され、その他の商品やサービスは抑制される。生活必需品としては一般的に食品、衣料品、燃料、履物、洗剤などが挙げられる。非耐久品が中心だが、半耐久品の衣料品や履物、サービスの交通、また、今日では含めるのが適切と思われる携帯電話などもある。
ほぼ毎日、購入の必要がある食料品や水、光熱は非耐久消費財になり、非耐久財は定常的に購入、消費される商品の比重が高い。このため、今回の景気対策の現金給付が消費者物価の上昇と重なって消費支出に回り、景気の下支え効果を発揮したと考えられる。
今回の消費者物価上昇は国際商品市況高騰の日本への波及で始まり、四半期では21年10〜12月期頃から前年同期比で上昇し始めた。その後、22年春頃に国際商品市況がピークを打って下降基調に転じたことで、消費者物価指数の上昇率は23年に入って1月の前年同月比4.3%増(四半期では22年10〜12月期の3.9%増)をピークに縮小傾向になり、11月は同2.8%増まで低下しているが、まだ賃金の伸びを上回っている。
国内消費支出の名目と実質の前年比伸び率の乖離から、国内消費支出の物価上昇が分かる。GDP統計の物価はデフレーターになり、消費支出のデフレーターは消費者物価指数に対応するが、同じではない。名目と実質の前年同期比伸び率は、図に見るように21年4〜6月期まではほとんど乖離せず、デフレーターの上昇率はほぼゼロであった。乖離、つまりデフレーターの上昇は消費者物価より1四半期先行して21年7〜9月期からになる。
しかし、乖離のピークは22年10〜12月期になり、名目国内消費支出5.5%増、実質国内消費支出1.7%増と乖離は3.8ポイントで拡大は止まり、デフレーターの方が上昇率が4%台になった消費者物価指数より低い。乖離幅は消費者物価指数と同様に縮小し、7〜9月期の2次速報値は3.1ポイントで、これは同期の消費者物価上昇率3.1%増と同様である。全体的には両統計間で格差は小さい。
業態別の特徴として、非耐久財の名目と実質の乖離が大きいことが挙げられる。非耐久財は国内消費支出全体より1四半期先行して21年4〜6月期から乖離し始め、ピークの23年10〜12月期は前年同期比で名目5.5%増、実質1.6%減で、乖離幅は全体ピークの3.8ポイントを大きく上回る7.1ポイントにもなる。23年7〜9月期2次速報値でもそれぞれ3.3%増、1.2%減で、乖離幅は4.5ポイントもある。今回の物価上昇は非耐久財で比重の大きい食料品が先行して値上がりし、かつ、上昇率が高いことが影響している。
当然、非耐久財以外の財・サービスは名目と実質の乖離は相対的に小さいが、図に見るように名目、実質共に前年同期比伸び率の変動が激しい。特に、耐久財や半耐久財は収入が増えなければ購入が抑制され易いからである。ただし、これは中間層以下の所得者で、今回のアベノミクスによる超金融緩和政策で株価や地価が高騰し、その恩恵を受ける中・高所得層は高額商品を購入しており、その影響で変動幅が激しくなっていると推測できる。サービス財はこの中間になり、保健・医療サービス、交通費、電話通信料、授業料など必要性の高い支出も含まれるためである。
通常、生活必需品であっても収入が前年比で1、2%台の増加に対し、物価が非耐久財のデフレーターで22年度下期から23年度に前年比5〜7%もの物価上昇になっていれば、支出が抑制されるのが通常である。支出を抑える消費行動から、量を減らせなくても価格の安い商品で我慢するからである。
今回は政府の給付金がそれを補う効果を発揮した。特に、食品に関しては事前にマスコミで値上げが報道され、保存できる食料品には駆け込み需要が発生する。それが低収入下での物価上昇にもかかわらず、22年4〜6月期まで5四半期間、微増でも前年同期比プラス成長をもたらしたと考えられる。その後は23年1〜3月期を除いて7〜9月期まで微減のマイナス成長だが、食料品は長期保存が難しいため、駆け込み需要の仮需が一巡して家庭での保存量が横這いになるだけで微減になる。
今後に関しては、減税は低所得者には関係なく、政府の給付金は全体として大幅減額で、物価上昇も沈静化すれば、仮需で積み上がった分はマイナスになる。当然、将来不安が大きい現状では貯蓄重視になり、消費は抑制に回る。積極的な消費行動になるには春闘で4、5%台の高額賃上げの実現が必要だが、一部の企業を除いて実現は期待し難い。
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内閣府が発表した2023年7〜9月期の実質GDP成長率の1次速報値は季節調整値で前期比0.5%減(年率換算2.1%減)になった。マイナス成長は3四半期振りで、その要因として民間最終消費支出と設備投資が弱含み、輸出も観光客のインバウンド需要はあっても財貨輸出が伸びず、牽引力が弱かったことが挙げられている。
22年度実績で実質GDPの56%と過半数を占める実質民間最終消費支出(以下実質消費支出)は季調値の前期比で23年1〜3月期0.7%増、4〜6月期0.9%減、そして7〜9月期0.0%減の推移であり、これだけを見れば、実質消費支出は持ち直しと評価することもできる。以前から指摘しているように、コロナ禍による異常変動を顧慮すれば、季節調整値を使うのは適切でない。コロナ対策のまん延防止等重点措置が22年3月に終了したのを考えれば、23年4〜6月期からの前年同期比の方が実態を把握できる。この推移から実質消費支出額は政府の給付金によって引き上げられており、実質消費支出は10〜12月期以降は一段と減少し、そして実質GDP成長率はマイナス成長が予測される。
消費支出の原資になる労働者の現金給与総額は最近の多かった22年10〜12月期でも全年同期比2.9%増でしかなく、少ない23年1〜3月期と7〜9月期は0.9%増である。一方、消費者物価指数の上昇率は22年4〜6月期から2%台に乗せ、図に見るように現金給与総額の伸びを上回るようになり、物価上昇分を差し引いた実質現金給与総額はマイナス状態が続いている。
つまり、実質収入がマイナス成長に陥る中で、実質消費支出は前年同期比で23年1〜3月期までのプラス成長から、4〜6月期0.0%減、7〜9月期0.2%減である。影響が顕著に現れるようになったのは23年度に入ってからになるが、まだ物価上昇の影響は軽微と言える。
収入全体では雇用者数も影響するが、雇用者は前年比0.4、0.5%増程度である。また、消費増要因としてコロナ禍で抑制した消費の回復効果を見込んでも、現金給与総額から見る収入と名目消費支出との伸び率の乖離が大き過ぎる。この解離を埋める要因として、この間に実施された新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金 や低所得者世帯への給付金などの政府の支給があげられる。20年度の実施された国民一人当たり10万円、総額12.7兆円の特別定額給付金や、22、23年の低所得者世帯への給付金だけでも15兆円を超えると推測され、これらだけでも22年度の名目個人消費支出313兆円の5%強になる。
国民への現金給付は選挙対策や、従来の例から見れば消費に回らず、貯蓄されるだけで経済効果は小さいとして批判の声は大きかった。しかし、現金給与総額と名目消費支出の伸びの乖離から判断すれば、従来と異なり、給付金は消費に回されたと言える。つまり、消費を下支えし、実質消費支出のマイナス成長への転落を引き延ばし、マイナスになっても小幅に留める効果をもたらしたと評価できる。
コロナ禍による経済の落ち込み対策として実施された現金給付が、予想外の消費拡大効果を発揮したのは、消費者物価上昇時であった影響が考えられる。日本経済が低成長を続け、賃金が増えない中での給付で、生活維持のための支出になったのではないか。現状の生活水準を維持するだけでも物価上昇分の消費拡大に繋がる。
図に見るように、今回の消費者物価上昇の特徴として、消費者物価指数(総合)の中で食料品の原材料の輸入依存度の高い食料工業製品の上昇が先行し、半年ほど遅れて異常気象によって生鮮食品が高騰してきたことが挙げられる。食料品の購入頻度は高いため、従来であれば、特に食料品を購入する主婦が節約意識を強める効果を持つ。それがそれほど顕在化せずにきているが、流通業界から消費抑制傾向が強まり、低価格品志向が広がってきたという意見がでている。小売業界はこの対策として、伸びている低価格のプライベートブランド商品の開発に力を入れている。
つまり、23年後半になって消費者の消費行動に変化が顕著になってきたが、その影響が消費支出、延いては実質GDP成長率にどう影響してくるかが問題になる。今回の物価上昇をもたらした国際商品市況の上昇は20年春頃から始まり、22年夏頃にピークに達した。日本への輸送には時間が掛かり、また企業が値上げは需要に影響するのを懸念し、当初は値上げを抑制していたため、日本の物価上昇は世界から遅れた。結果、物価上昇の沈静化も遅れている。
国際商品市況の水準のピークは22年夏頃になるが、日本の国内企業物価指数の前年同期比上昇率では22年10〜12月期、同飲食料品は23年1〜3月期、消費者物価指数(総合)は22年10〜12月期になった。国内企業物価指数の上昇率はピークを打った翌1〜3月期、同飲食料品は7〜9月期から下降傾向にあるのに対し、消費者物価指数(総合)は高止まり傾向にあり、長期化している。
特に、物価上昇期には消費者物価の食料工業製品や21年7〜9月期までの生鮮食品を別として、食料品の上昇が目立っている。当然、消費者は価格の値上がり対策として買いだめする。生鮮食品や食料品は鮮度や賞味期限があって買いだめし難いものもあるが、加工品、また生鮮食品でも冷凍保存できるものもある。給付金はエンゲル係数の高い低所得者が重視され、また所得に無関係に同額給付であっても、所得に占める比率は低所得者が高くなる。これから考えれば、従来と異なり、給付金が貯蓄でなく消費に使われたのは当然といえる。
給付金による買いだめ効果で消費は下支えされても、それは一時的で、その反動による消費抑制がある。反動は価格上昇がピークを打って下降に向かうと予想されれば生じる。既に国際商品市況は反落しており、前年同期比で国内企業物価指数の飲食料品は23年1〜3月期をピークに、4〜6月期はほぼ横這いだが、7〜9月期には下降傾向が見られる。
天候要因の大きい生鮮食品は別として、国内企業物価指数から遅れる消費者物価指数の食料工業製品の前年同期比上昇率は7〜9月期がピークになりそうである。値上げされる食料工業製品はまだありそうだが、すでに輸入小麦の政府売渡価格は10月から11.1%引き下げられており、それが年明けには小売製品に反映される見通しである。小売価格の値上げが一巡になれば、買いだめの反動で消費は一時的でも冷え込むと予想できる。需要の減少は価格引き下げ圧力になり、年が明ければインフレの雰囲気は一変する可能性が高い。
また、政府は引き続き給付金を給付する計画だが、これまでよりも規模は小さくなり、かつ貯蓄に回る比率が高くなると予想されるため、消費拡大効果は小さくなる。結果、今年末から来年にかけて消費支出は一段と冷え込み、インバウンド需要が好調というだけでは、年末以降の日本経済は厳しい見通しになる。
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国際通貨基金(IMF)が各国の名目国内総生産(GDP)の2023年見通しで、日本はドイツに抜かれて世界第3位から第4位に転落すると発表した。日本はアベノミクスで浮かれていたが、安倍政権下で年率1%増程度の実質GDP成長しか実現していない。その後はコロナ禍でマイナス成長に落ち込み、現在はまだそこからの回復過程に留まっている。このため、24年には着実に経済成長しているドイツに抜かれるのではと予測されていたのが1年早まっただけで、日本経済の長期低迷から4位転落は驚くことではない。
「経済、経済、経済」と岸田首相は10月の臨時国会で叫び、減税や低所得者世帯への給付金などの政策を打ち出しているが、これらは足下の短期的な経済対策でしかない。日本経済の現状からそれも重要だが、低迷を続ける長期的な視点からの政策が不可欠である。この問題を産業の成長性から考える。
内閣府「国民経済計算」ではマクロの需要面から見た実質GDPの数字が注目され勝ちだが、供給側の産業別の統計も含まれる。どの産業が日本経済を牽引、逆に足を引っ張ってきたかを1996年から最新の21年までの25年間で、金額では格差が大きいため産業別構成比を図にして比較する。図は16年までは5年間隔、その後は21年まで毎年で作成しており、間隔が前後で異なっていることに留意する必要がある。
実質GDPはこの間、96年の473兆円から18年の555兆円まで上下変動はあても基調として緩やかでも増加傾向にあったが、景気の悪化で18年をピークに下降に転じた。19年は微減の553兆円、前年比0.4%減に留まったが、コロナの影響で20年529兆円、同4.3%減になり、21年は回復しても540兆円、同2.1%増であり、まだ18年を2.7%も下回っている。
これらの中で、卸売・小売業は流通構造変化、運輸・郵便業はユーザーのコスト削減による合理化、宿泊・飲食サービス業は長期的な所得の伸び悩みで消費者の支出抑制などの要因で構成比は下降傾向にある。これらの産業は今後も期待し難いが、宿泊・飲食サービス業は外国人観光客が急増していた20年代後半は下げ止まり傾向が見られた。これから推測すれば、今後は観光客によるインバウンド需要で反転して穏やかな上昇に向かう可能性はある。
また、建設は12年まで(図では11年まで)着実に低下してきたが、その後は横這いから持ち直し傾向にある。これは東日本大震災の復興工事や五輪施設建設によると推測できる。足下では万博需要があるが、これらは一時的な需要であり、長期的な基調としては微減、良くても横這い程度と推測できる。
一方、増加しているのは製造業、高齢化に伴って需要が拡大している医療、福祉関連の保健衛生・社会事業、ITの発展に伴って成長している情報通信業、研究開発やITによる業務効率化を支援する専門・科学技術、業務支援サービス業などである。これらの産業が構成比で見たこの間の日本経済の成長産業ではあるが、いずれも成長性はそれほど高くはない。このため、需要構造、産業構造の変化から衰退が避けられない産業のマイナスを補って日本経済を押し上げる力が弱く、全体として長期的な低迷が続いてきた。
これらの産業の中で、以前から製造業は為替レートの円安や米中対立で、生産機能が中国から日本に戻るとする意見が専門家の間でも高まっていた。現実にはその可能性がほとんどないとこのレポートで主張してきたが、実質GDPに占める構成比がこの程度の増加では生産機能の復活とはいえない。それは現実の名目の生産額を見れば明らかで、この図の期間で名目製造業生産額のピークは97年の127兆円、名目GDPに占める割合は23.3%で、これに対し、最近時のピークは18年の115兆円に留まり、名目GDPに占める割合は20.6%でしかなく、構成比だけでなく金額でも減少傾向にある。ちなみに、実質の構成比は97年19.8%、18年20.6%である。
この実質と名目の逆転現象が生じる理由は、製造業の生産性の伸びが全産業平均を上回り、相対的に価格が安定、または値下がりしているため、名目よりも実質の成長率が高くなる。結果、構成比では実質が名目を上回る。一般的に、現実に比較する場合は名目で行われるため、他産業との比較で名目の成長性が低ければ全体を牽引しているとは言い難い。かつてのように製造業の高成長が求められるが、現実には企業の立地戦略から判断すれば難しい。
また、保健衛生・社会事業、具体的には医療や介護事業などになるが、医療は日本の医療の評価が高く、海外からの患者、つまり医療のインバウンド需要は存在する、しかし、治療する医者の供給には限界がある。一方、介護は高齢化で需要増が見込めても、現状では被介護者のコスト負担能力不足の問題がある。介護の自動化、ロボット化によるコスト削減が課題になり、その技術開発にはまだ時間が掛かる。
となると、今後も成長が見込める情報通信業と専門・科学技術、業務支援サービス業に日本経済成長の牽引役として期待するしかない。情報通信業の中核になるIT産業はそれ自体が成長産業とあると同時に、専門・科学技術、業務支援サービス業と同様に他企業の新技術・新製品開発を支援し、業務の自動化、効率化を促進してコスト・品質の競争力を高める役割を担っている。つまり、ほとんどの企業・産業の発展に貢献する産業として評価できる。
しかし、GAFAに代表される米国、テンセント、アリババ、バイドゥなどを擁す中国などと比較すれば、日本のIT企業は遅れている。IT産業自体も低成長に留まるが、その発展の遅れが他の産業の成長性を低下させ、日本経済全体の低迷をもたらしている。特に、図の推移から分かるように、専門・科学技術、業務支援サービス業の構成比の伸びは08年までの高成長から、その後は頭打ち傾向である。日本企業の積極性が失われてきているのを反映しているようである。
政府は発展戦略として成長産業のIT企業の誘致、育成に巨費を投じているが、資金は限られているわけで、産業の成長性だけでなく、他産業への波及効果も考えた戦略が必要である。「経済、経済、経済」のかけ声だけでなく、中・長期的な視点から日本経済を牽引する産業の育成が求められる。
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日本銀行は9月の金融政策決定会合で金融緩和策の現状維持を全会一致で決めた。日本経済に関して「個人消費は物価上昇の影響を受けつつも、緩やかなペースで着実に増加し」て「景気は緩やかに回復している」判断である。国民は消費者物価上昇率がピークを過ぎても、買物頻度の高い食料品の値上がりが続き、所得が増えない中で買い控え姿勢を強めている。景気判断で意見が異なることはよくあるが、日銀が個人消費は着実に増加していると主張する理由説明がないと、説得力は弱い。
GDPの過半数の56%を占める民間最終消費が増えなければ、世界的に物価対策で金融引き締め政策が強化されている状況で、海外市場も期待できないため、穏やかでも景気の回復は見込み難い。金融緩和策で円高への転換が見込めず、極めて穏やかに上昇率が低下する物価の基調は変わらない状況で、実質GDP成長率はマイナスに転落、景気は悪化する可能性が高い。
日銀は「『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する」としている。物価安定の目標は「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」だが、日本の消費者物価指数は原材料の輸入依存率が高い影響で、国際商品市況の高騰を受けて2021年末頃から上昇傾向になった。そして、前年同月比上昇率は22年4月に総合で2.5%増、総合(除く生鮮食品)で2.1%増と2%台に乗せ、最近時の23年8月のそれぞれ3.2%増、3.1%増まで17か月連続で2%を超えている。
これだけ長期に亘って2%以上の上昇になれば、金融政策を変えるのが当然と思われる。しかし、日銀の物価安定の目標は「賃金の上昇を伴う形で、2%の『物価安定の目標』を持続的・安定的に実現することを目指していく」としており、今年の賃金上昇は2%の物価上昇をもたらすほどではないため、政策転換しないと説明している。2%の物価上昇をもたらす賃上げ水準は示されていないが、賃上げを問題にしているのは、物価上昇を海外商品市況の影響を受ける物財と、コストに占める人件費の比重の高いサービスの価格を分けて考えているからである。
21年からの物価上昇は海外商品市況が値上がりした影響であり、市況が世界的な金融引き締め政策で値下がりに向かえば収束し、物価上昇は止まる。現実に、国際商品市況のピークは21年央になり、これを受けて日本の消費者物価指数は半年ほど遅れたが、図に見るように23年1月の総合で前年同月比4.3%増がピークである。生鮮食品を除いた総合のピークも同じ1月の4.2%増である。
ただし、その後の消費者物価上昇の減速速度は遅いことが今回の特徴として挙げられる。特に、主要な国際商品の市況が下がり難くなっている。世界経済への影響が大きい原油価格が過去ピークにまでは戻らなくても、早くも23年に入って再び上昇傾向にある。これは産油国のOPECプラスが原油市況対策で減産に取り組み、以前よりも産油国の価格維持意識が強くなって原油市況を下支えしているためである。また、小麦価格ではロシアとウクライナの戦争の影響で下がり難くなるなど、従来と比較すれば高止まり傾向にある。加えて、日銀の金融緩和策から円安傾向が続いているため、消費者物価上昇率の減速テンポは遅く、23年8月の前年同月比で総合3.2%増、生鮮食品を除いた総合3.1%増に留まる。
物価の高止まりに苦しんでいる国民は、為替レートの内外金利差による円安要因の金融緩和策の転換を期待していたと推測できる。しかし、日銀は賃上げによるサービス価格の上昇が見られず、現状は持続的・安定的な2%台ではないとして、金融政策維持である。
そこで、消費者物価指数統計で財・サービス別指数をみると、ほぼ100%輸入依存の原油価格の高騰を反映した石油製品に代表されるように、今回の消費者物価上昇要因の財物価が先行して上昇した。その後、財物価は国際商品市況の頭打ちを反映して前年同月比で23年1月の7.2%増がピークになり、これによってサービスも合わせた総合も同月がピークになった。その後、上昇率は下降に向かっているが、8月でも財物価は4.2%増と総合の3.2%増を1ポイント上回っている。
これは食料工業製品の小売価格の値上げが食料品原料輸入の上昇に遅れる傾向にあり、食料工業製品物価指数が8月の10.3%増まで上昇加速が続いている影響が大きい。ただし、輸入小麦の政府売渡価格が10月から前期より11.1%の引き下げられるため、食料工業製品物価指数も年内には頭を打つと予測できる。
また財物価指数上昇率が相対的に高いのはサービス物価指数上昇率が低いためだが、サービス物価指数も財より遅れたが上昇基調にある。22年8月からは前年水準を上回るようになり、そして23年7、8月の2か月連続で前年同月比2.0%増まで高まり、日銀の物価上昇目標水準に達している。
しかし、その中身が問題になる。上昇を牽引しているのは外食と通信・教養娯楽関連サービスで、それぞれの要因は、外食は原材料の食料品、通信・教養娯楽関連サービスは携帯電話と宿泊費の上昇にある。携帯電話は安い携帯電話サービスの終了、宿泊費は外国人観光客によるインバウンド需要効果であり、賃上げによる人件費の上昇効果もゼロではないとしても、8月1日付のこの経済レポートで示したように、物価の高騰下でもせいぜい2%程度であれば、人件費コストのサービス価格への波及は微々たるものになる。
現状では、日銀が求める2%の物価上昇をもたらす持続的な賃上げの実現は期待し難い。企業は株主への還元を重視し、収益を従業員に報いる意識は弱いように思える。もし、比較的高賃上げになったとしても、そのコストアップ分を価格に転化するだけであれば、物価上昇をもたらすだけで、実質賃金の増加にはならない。実質賃金・消費の拡大を通して経済成長に結び付けるには、コストアップを技術革新で抑える努力が必要だが、これまで積極的に設備投資しなかった企業が急に投資するようになるとは考えられない。
一方、労働者も争議をしてでも賃上げを実現する行動力は見えず、これでは日銀が期待するような賃上げは予想できない。となれば、消費者物価上昇率は穏やかな縮小傾向に留まり、実質所得は改善せず、民間最終消費は低迷し、経済成長も期待できない。
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内閣府が発表した2023年4〜6月期の実質GDP成長率(1次速報値、季節調整値)が前期比1.5%増、年率で6.0%増と予想外の高成長になった。1次速報値であり、最終的には下方修正される可能性はあるが、大幅な修正はないため、小幅の修正では低下しても高成長にあることに変わりはない。通常、高成長は評価すべきことだが、輸入減による外需の高い伸びあり、専門家にもどう評価すべきか戸惑いが見られる。その要因は物価上昇期の駆け込み需要と、逆に下降期の需要の反動減による輸入の大幅減少にある。
4〜6月期の実質GDPは前期比で内需は0.3%減のマイナス成長の一方、輸出が3.2%増と高成長になり、また、輸入が4.3%減の大幅減少になった。輸出増のGDPの成長寄与度は0.7ポイント、一方、輸入はGDPのマイナス要因で、この減少はGDPのプラス要因になり、輸入減の寄与度は1.1ポイントにもある。輸出入合わせて外需の寄与度がプラスの1.8ポイントにもなり、1.5%増の高成長をもたらした。
輸出は6月1日付けのこの経済レポートでも指摘したように、物財はインフレ対策による世界的な金融引き締め政策によって減少傾向にある。その一方で、コロナ対策の入国規制が緩和され、外国人観光客増によるインバウンド需要効果で輸出全体では増加している。今後は中国からの観光客が期待でき、当面は GDP成長要因になる。
問題は輸入で、輸入は国内景気が悪ければ減少するのが通常である。しかし、日本経済は特別悪いというほどではないが、景気の状況からは4〜6月期が前期比で横ばいか微減程度であれば理解できる。ところが、大幅な減少は予想外で、要因が分からない専門家は評価に困っている。もし、輸入が横ばいであれば1.1ポイントの寄与度がなくなり、0.4%増のプラス成長に留まれば日本経済の実感と合ったのであろう。
GDP の過半数を占める最大需要項目の実質民間最終消費は、1〜3月期の0.6%増のプラス成長から4〜6月期は0.5%減のマイナス成長になり、これが内需全体のマイナス成長の主因になっている。前回のこのレポートでも指摘したように、労働者の賃金の伸びが低ければ、消費者物価上昇に収入が追い付かず、民間最終消費が実質ベースでマイナスになるのは当然といえる。
ただし、コロナによる需要変動は季節調整では調整困難なことは以前から指摘している。このため、原系列(原数値)の前年同期比の推移の方が季節調整値の前期より日本経済の実態が判断できる。実質原系列の前年同期比の図でも明らかなように、コロナ対策による法規制や国民の自主規制による需要の減少は20年7〜9月期までが大きく、その後は徐々に緩和されて経済活動は正常化してきている。一部にはコロナの影響が残っているところもあるが、全体的にはほぼ正常化している。
原系列の主要需要項目別の図で影響が顕著だった輸出入も、落ち込み後の反動増が21年7〜9月期には一巡し、コロナ要因による変動はほぼ出尽くしていると判断できる。その後も大きく変動しているが、それは経済的要因による。
民間最終消費支出は長期的に収入が増えない中で、22年入って増加傾向にある。これは20、21年度頃に自粛で抑制した消費が復活した効果も考えられるが、消費者物価上昇の影響があると推測できる。消費者物価は21年末頃から国際商品市況の高騰と為替レートの円安の影響で上昇し始め、22年4月に前年同月比で2%増台に乗った。そして、23年1月の同4.3%増がピークになり、その後は3%台上昇で高止まりしている。
商品の値上がりが予想されれば、消費者はその前に買い急ぐため、消費は盛り上がるが、一時的現象でしかない。加えて、賃上げ率は低くて名目の収入が増えず、物価上昇で実質所得がマイナスになれば、実質消費もマイナスにならざるを得ない。ただし、現状はまだ自粛で抑制した消費の復活需要もあるため、すぐにはマイナスにならなくても、いずれはそうなる。23年4〜6月期の実質民間最終消費支出が前年同期比0.2%増と頭打ちになったのは、低い収入増と比較的高い物価上昇の影響が現れ始めたとみられる。
逆に、民間住宅は5四半期連続のマイナス成長から、23年4〜6月期は3.5%増とプラス成長に転じた。前1〜3期も同0.4%減と回復傾向であり、持ち直し傾向になっている。基調として日本経済の先行き見通しからは住宅需要増を期待し難いが、4月の前黒田日銀総裁の退任を契機に長期金利、住宅ローン金利の先高見込みからの駆け込み需要効果と推測できる。持ち直し傾向が続くことは予測できない。
コロナの影響が大きいときは別として、アベノミクスで企業収益は比較的好調なことから、民間企業設備への期待は大きい。しかし、現実には企業の設備投資は盛り上がらないままで、当面、世界経済の先行きが不透明な現状では設備投資が活発化する可能性はない。
以上のように内需が低迷する中で、輸出は物財が世界経済の頭打ち傾向を反映して減少傾向にあっても、コロナ対策による入国規制の緩和によって海外からのインバウンド需要が増加している。結果、サービス財の輸出増で全体として増加基調が見込める。
一方、輸入は季節調整値で23年4〜6月期が前期比4.3%減、年率では20%近い大幅マイナスで、原系列でも前年同期比1.6%減の小幅だがマイナスである。原系列で22年7〜9月期、10〜12月期は2四半期連続で同10%台の大幅増だった、23年1〜3月期は同4.2%増に留まり、4〜6月期のマイナス成長まで急速下降である。季節調整値では22年10〜12月期から前期比3四半期連続のマイナス成長の中で、23年4〜6月期は大幅マイナスに陥り、GDP成長率を高める効果が大きかったことから注目されたが、その要因は景気との関係は薄い。
為替レートの変動も含めて国際商品市況の高騰による駆け込み需要と、高騰一巡後の反動減、つまり価格効果が要因として挙げられる。国際商品市況は商品によってピーク時は異なるが、だいたい22年夏頃になる。ただし、日本への輸入は上昇や下落の市況変動を受けて購入、そして海上輸送して日本での通関までの期間を考えれば、市況変化と通関までの間に1四半期ほど掛かると考えられる。結果、図に見るように、輸入はコロナによる輸送困難な事態になったのも加わり、国際商品市況の上昇から21年4〜6月期頃から急増した。そして、22年夏頃に市況が反転したこととから、日本の通関では23年になって減少に転じ、それが顕著な数字として23年4〜6月期に表れた。
輸入は原系列では前年同期比で大幅マイナスが続きそうだが、季調値はすでに低水準になっているため、減少幅では21年4〜6月期頃がピークと推測できる。つまり、輸入減によるGDPへのプラス効果も解消に向かい、今後のGDP成長率は内需を反映することになる。個人消費の見通しが厳しい状況では、当面は低成長が予想され、さらにはマイナス成長もあり得る。
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4月1日付けのこの経済レポートで春闘を取り上げた。今年春ごろは業績が良く、賃上げに積極的な企業が企業のイメージアップの目的もあって、5%を超える高い賃上げを発表するところが少なくなかった。それをマスコミが取り上げ、今春闘の賃上げはかなり高くなり、個人消費の拡大を通して経済成長率を高める効果を期待する見方があったが、過大評価ではないかとレポートした。
最近では、労働団体の日本労働組合総連合会(連合)が6月末での最終的な回答結果をまとめ、賃上げ率は平均で3.58%、1994年以来およそ30年ぶりの高い賃上げになったと発表している。しかし、連合は大企業を中心に一部の企業の組合を組織しているだけで、従業員の約7割を占める中小零細企業が賃上げしない限り、全体の賃上げ率は低水準に留まる。当然、労働者全体の賃上げがどうなるかが問題である。
全体の賃上げ実績の統計は発表されるのがほぼ1年遅れになるため、厚生労働省「毎月勤労統計」で賃上げの実態を推測する。毎月勤労統計は従業者4人以下の小零細事業所が調査対象に含まれない問題はあるが、この統計で一般労働者やパートタイムの常用労働者の所定内給与によって推測する。5月までの統計が発表されており、労働者全体の今年のおおよその賃上げ率が判断できる。ただし、所定内給与は春闘賃上げ額の対象になる基本給のほかに、額は少ないが職務手当、家族手当などの諸手当を含んでいる。
また、一般労働者やパートタイムの常用労働者の定義は、「期間を定めずに雇われている労働者」と「1か月を超える期間を定めて雇われている労働者」となっており、常用労働者には一般的に春闘で賃上げの対象になる正社員以外の労働者も含まれることに留意する必要がある。それだけ賃上げ額・率は低くなるが、経済見通しの判断材料としては多くの労働者を含むこの方が適している。
まず、2023年の一般労働者の所定内給与の前年同月比の推移をみると、22年4月まで1%台の伸びが続いていたが、5月は2.0%増と94年以来約40年ぶりに2%台になった。賃上げ率が高まったといっても、マスコミで取り上げられている4%、5%という数字から見れば、かなり低い。もともと、それが収益性に優れた一部の企業であり、かつ、日本企業の労働者の大部分を占める中小企業は収益性が低いことから考えれば、現実の賃上げがその程度に留まっても驚くことではない。
また、賃上げが4月、5月で終わるわけではなく、賃上げ交渉が長引いて6月、7月へと遅れて、これから3%台、4%台に上昇する可能性もあり得る。しかし、これは毎年あることで、前年もずれ込んでいれば、今年だけ高くなるわけではない。ちなみに、前年の前年同月比の推移は一般労働者で3月1.0%増、4月1.0%増、5月1.1%増、6月1.1%増、7月0.9%増、8月1.5%増となっており、6月以降が特に高くなっているわけではない。これまでも春闘交渉が長引いている企業はあるとは思うが、話題にはならないことから判断すれば、月間の統計数字に影響を与えるような問題ではないと判断できる。
一方、23年の常用のパートタイムは所定内給与が3月の1.2%増から、4月2.3%増、5月2.4%増と一般労働者を上回る伸びである。近年、パートタイム需要は多く、パートタイムは季節的な需要変動が大きいため、月によって変動幅は大きく、23年1月は3.2%増と一時的だが3%台になっている。
パートタイムが需給逼迫で高い伸びになっているのは労働者にとって評価できるが、一般とパートを合わせた全体では、5月は1.7%増と低い一般の2.0%増を下回る伸びでしかない。これは5月の所定内給与額が一般の32.3万円に対し、パートは10.1万円と3倍以上もの格差があり、パートの労働者数が一般よりも前年比で増えている影響である。常用労働者の中で賃金水準の低いパートが増えることで、相対的に賃金水準が下がり、前年比伸び率が低くなる。
つまり、企業は賃上げ競争が激化する中で、低賃金のパート労働者の比重を高める雇用政策を採っていることを示して。これは一般労働者でも同様と推測できる。一般労働者は春闘賃上げ対象の正規社員と対象にならない非正規社員の両方が存在するが、通常、非正規社員は正規社員より賃金が安いため、企業は非正規社員の採用を増やしていると考えられる。もちろん、非正規社員も賃上げされるが、正規社員の賃上げを上回らないであろう。マスコミに取り上げられる賃上げ率が適用されるのは正規社員であり、全体の賃上げ率はマスコミ報道よりも低くなる。
一般労働者の5月の所定内給与伸び率2.0%を春闘賃上げ率が上回っている可能性は高いと判断できても、大手企業を対象とする春闘賃上げ率とは格差が大きいのは明らかである。いずれにしても2%程度の賃金上昇では今後、為替レートが大幅に円高に振れ、最近の3%台から物価上昇率が急降下しない限り、23年度の実質所得は2年連続で前年度を下回ることになる。つまり、賃金の状況から消費の拡大は見込めず、23年度の日本経済は世界経済の成長に期待するしかない。
一方、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が23年度の最低賃金の目安を全国平均で時給1002円、現在の961円から41円、4.3%増にすると決めた。10月から最低賃金が上がる見通しだが、地方で賃上げに結び付く効果が期待できる程度でしかない。所定内給与額の上昇率でみたように、すでに大都市部ではパート不足から賃上げが進んでおり、全体として所得拡大効果は小さい。
今春闘の賃上げ率はマスコミが騒ぐほどの上昇率にならなかったが、企業が人材確保のために賃上げが必要と考える契機になったのは明るい材料といえる。この雰囲気が後2、3年も続けば、労働者の所得が安定的に増加すると期待できる。ただし、その原資確保のためか、国際商品市況が下降速度は穏やかでもピークを打ち、為替レートの円安も天井が見えてきているにも関わらず、企業の値上げ意欲が依然として強い。これでは賃上げで収入が増えても、物価上昇で相殺され、経済成長には貢献しない。企業が人件費をはじめコストアップを吸収し、価格を引き上げない努力が今後の課題になる。
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内閣府発表の2023年1〜3月期2次速報値の実質GDP(2015年価格)は551.0兆円、前期比で0.2%増と、1次速報値の0.1%増を0.1ポイント上回った。これでもコロナ前に記録した過去ピークの19年7?9月期の557.4兆円を1.1%下回り、日本は世界的に見てコロナ禍からの回復の遅れが目立っている。 実質GDPの産業別構成比は第3産業が7割強と大多数を占め、製造業は2割強、その他は建設業、農業、鉱業などである。第3次産業が受けたコロナ過の影響とその後の回復動向から、第3次産業主導の日本経済の成長可能性を考える。
第3次産業活動指数総合(2015年=100、季節調整値)の過去ピークは実質GDPのピーク時の19年9月106.4である。その後は基調として下降傾向を辿り、ボトムは20年5月の86.7、ピーク時の18.6%減になる。ちなみに、実質GDPのボトムも20年4〜6月期になる。最近時のピークは23年2月の101.3、19年9月の先行ピーク比4.8%減になり、4月は101.0、同5.1%減で、先行ピークの回復までにはまだ時間が掛かりそうである。比重の高い第3次産業が先行ピークを回復しなければ、実質GDPも回復は困難である。
業種が多様で数の多い第3次産業から、比重の高い卸売業(第3次産業活動指数に占める割合13.5%)と小売業(同11.8%)、情報通信革命で成長産業の情報通信業(同9.5%)と、情報通信業の中でも経済産業省が進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)を担う情報サービス業(同4.1%)、コロナ過の影響の大きかった鉄道業(同1.8%)、飲食店、飲食サービス業(同4.1%)、そしてコロナ対策を担った医療業(同8.9%)の7業種の動向を取り上げる。
卸売業は先行ピークの19年9月でも106.2、つまり基準年の15年から4年ほど経ったピーク時でも6%ほどしか成長していない。翌月の10月には100を下回り、ほとんどゼロ成長であり、コロナによる不況の深化によって最悪期の21年1月には70.8まで急速に減少している。その後は持ち直しても、最近時で最高値になる23年4月で92.0、先行ピーク比13.4%減である。情報通信革新によって流通の中抜きが進み、流通構造変化から業界全体として衰退業種になっていると判断できる。
小売業は消費者の所得が伸びない中でコロナによって外出が制限され、コロナの影響の大きい業種の一つになる。それでも生活するために必要な財・サービスは購入する必要があり、先行ピークの19年9月の111.8から一進一退で減少してきた。加えて、外国人観光客によるインバウンド需要の激減もあって、ボトムは最近の23年1、2月の84.3になり、ピーク時比24.6%減である。その後はコロナ対策の規制緩和効果で4月は86.7、同22.5%減と回復は初期段階でしかない。
情報通信業は成長業種であってもTV、新聞、雑誌などの衰退産業も含まれ、全体では先行ピークが19年9月の107.7と成長産業と期待されているほど高くはない。ただし、20年5月に99.5で一度だけ100下回っただけで、その後は100を上回って穏やかだが一進一退で回復、成長軌道で推移している。個人の携帯電話需要は一巡しているが、企業が競争力を強化するためのIT関連投資が下支えしてきたと推測でき、23年4月は過去ピークを上回る109.5である。
情報サービス業は先行ピークが19年8月の109.1と高くはないが、ボトムは20年12月の101.0で100水準を下回った月はない。その後の回復、成長力は比較的高く、23年4月は126.7まで成長し、先行ピークを16.1%上回っている。産業界でDXが意識され、今後も成長が見込まれるが、人材が課題になる。
鉄道業は19年9月の111.7が先行ピークになり、外出規制の影響で20年3月から急減し、ボトムは20年5月の56.5にとどまり、先行ピークからほぼ半減である。50台は前月4月の59.1の2か月だけだが、その後も70、80台で低迷し、23年2月に90台まで戻したが、4月でも92.0、先行ピーク比17.6%減と低水準である。リモートワークの影響がまだ残っており、今後どうなるかは不明で、期待はインバウンド需要になる。
飲食店、飲食サービス業は鉄道業よりも厳しく、先行ピークの19年9月でも101.8でしかなく、ほとんどゼロ成長状態の推移であったところにコロナによる外出規制が加わった。結果、ボトムの20年4月にはピーク時の半分以下の41.7にまで急落し、6月には70台に戻した。その後はほぼ60〜80台の推移で、23年2月には90.1とコロナの影響がほとんど無かった20年2月の98.8の8.2%減まで回復したが、3月83.4、4月81.9と再び80台に低下し、本格的な回復にはまだ時間が掛かりそうである。
一方、医療業は景気の影響をほとんど受けず、19年7月の112.1が先行ピークである。コロナ禍初期の20年4月97.5、5月93.8の2か月は医療を控えたためか90台に減少し、その後は22年12月まではほぼ100台後半から110台の推移で、23年に入って上昇し、120台推移している。コロナ感染が減少し、それまで控えていた医療が増えたためと考えられる。この推移から見れば、もともと高齢化で医療は増加基調にあり、全体としてはコロナによる影響は小さいといえる。
日本経済全体の7割強を占める第3次産業が成長しなければ日本経済の発展可能性は低く、第3次産業の成長性が乏しいことが日本経済の低迷、そしてコロナ禍からの脱却を遅らせていると言える。ただし、比重の高い小売業や飲食店、飲食サービス業は個人消費の影響を受け、個人消費は可処分所得に制約されていることから考えれば、インバウンド需要以外は両業種が牽引する経済成長は期待し難い。また、インバウンド需要が為替レートの円安による低価格効果であれば、生産性は高まらない。生産性が低い状態での成長は先進国経済ではない。
これから考えれば、技術革新の中心にあって成長が期待されながら、これまでの情報サービス業を含めて情報通信業の成長性の低さが日本経済低迷の主要要因の一つになる。情報通信業は需要企業・業種の効率化、生産性を向上させて発展させる効果があり、かつ、輸出業種でもあり、日本経済を牽引する業種になり得る。
しかし、現状はマイナンバー制度の混乱で明らかなように、日本の技術レベルは低い。全体のシステム設計能力が劣っているためと推測できるが、単にIT人材の数を増やすのではなく、使い易くて効率的なシステムを構築する優秀な人材育成、そして国内で不足していれば海外からの導入が必要になる。その場合、海外人材に対しては日本の魅力度が問われる。
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ドイツ連邦統計局は5月25日、2023年1〜3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.3%減と発表した。22年10〜12月期の同0・5%減から2期連続のマイナス成長になり、同国の2四半期連続でマイナスになるとテクニカル・リセッションの景気後退として判断されることから、先進諸国の中で最初の景気後退公表国になった。
欧米は物価上昇対策から金融引締政策を強化してきた影響が顕在化し、景気後退に陥っても不思議ではない。特に、ドイツはエネルギーをこれまでパイプラインで安いロシアの天然ガスを輸入していたが、ロシアのウクライナ侵攻によって高価なLNG(液化天然ガス)への転換を余儀なくされた影響を受けている。エネルギーや石油化学原料のコスト上昇による企業収益の悪化や、物価上昇による消費抑制を通して景気を冷え込ませるため、景気後退入りが早くても不思議ではない。
欧米は22年に金融政策を引き締めに転換したが、当初は景気への影響は軽微にとどまり、徐々に景気への影響が現れる。これまで景気が頭打ち傾向になって物価が明確に安定に向かうのは23年後半以降という見方が多く、景気後退入りの議論までには至っていない。しかし、EU経済の中核であるドイツが景気後退入りしたことは、これから他のEU諸国の多くが続いて景気後退に陥ると予測できる。
経済予測に関しては希望を込めたものも多く、楽観的になる傾向にある。つまり、専門家の意見も正確性に欠け、各国の実態は分かり難いため、日本の輸出から世界経済を考える。日本の輸出は一般的に貿易統計の名目の輸出額が取り上げられるが、最近のように価格が大きく変化すると判断を誤る。実質ベースの輸出数量指数を使う必要がある。
その前に、名目の日本の輸出額を四半期ベースでみると、世界的に経済へのコロナの影響が最も大きかった20年中は前年水準を下回る推移だった。その後、21、22年は回復基調になり、23年1〜3月期も伸び率は縮小しても前年同期比4.8%増とプラス成長である。4月(速報値、以下同じ)も前年同月比2.6%増と前年を上回っている。この推移からは、世界経済は成長率が低下傾向になっていても、悪化とまでは言えないと思える。
ところが、2015年を100とする世界輸出数量指数では、前年同期比で20年の落ち込みから回復してきたのは21年7〜9月期までで、その後は回復が頭打ちになり、22年中はほぼ横這い基調である。そして、23年1〜3月期は同8.8%減の顕著な減少で、4月も前年同月比6.2%減で、輸出額とは乖離している。輸出額は円安と海外での物価高による水膨れ分がある。それが取り除かれる数量指数では、輸出環境を表す世界経済は頭打ちから下降に向かっていると推測できる。
ただし、地域・国別では格差は大きい。先行して景気後退になったドイツを含むEU輸出数量指数は21年1〜3月期までの前年同期比マイナスから、4〜6月期、7〜9月期は同2桁台の大幅な伸びで、その後は22年10〜12月期まで5四半期連続で1桁台でも比較的高い伸びを維持していた。しかし、23年にはいると1〜3月期同5.9%減、4月2.5%減と水面下に沈み、発表されたドイツの実質GDPの動向を反映している。
また、米国輸出数量指数は21年4〜6月期の1四半期だけ突出した伸びになり、その後は22年10〜12月期までの6四半期は基調としては前年水準を上回っている。ただし、EU輸出数量指数の伸びを下回る推移で、単純平均で3%台の伸び率である。そして、23年1〜3月期前年同期比5.0%減、4月前年同月比5.6%減とEUと同様に水面下に沈んでいる。
EUと米の推移は比較的似ているのに対し、中国は異なり、中国輸出数量指数は21年10〜12月期から先行して前年水準を下回った。コロナ対策で独自の強力な封じ込め政策を行った影響で、世界の中で中国経済は回復が遅れたからである。その後は前年同期比で減少幅が拡大傾向になり、23年1〜3月期には25.6%減まで落ち込んでいる。4月はコロナ対策が緩和された効果で、前年同月比10.0%減と減少幅は縮小しており、前年水準が低かったことから増加に転じると期待はできる。ただ、景気回復力が弱いため、大幅な増加は期待し難い。
アジア輸出数量指数には中国輸出数量指数が含まれ、指数の基準年2015年の実績で、中国はアジアの約3分の1も占めている。このため、中国が減少した影響は大きく、中国輸出数量指数が前年同期比で減少し始めた21年10〜12月期の翌四半期、22年1〜3月期からアジア輸出数量指数は減少になった。しかし、中国の比重と減少幅から計算すると、22年7〜9月期までは中国を除くアジア地域への輸出数量指数は前年水準を上回る。
しかし、22年10〜12月期からは中国を除くアジア地域も輸出数量指数は減少になる。23年4月は中国数量輸出指数の前年同月比10.0%減に対し、アジア輸出数量指数は同12.9%減と中国を上回る減少で、中国以外の地域への輸出が急速に減少している。EUや米国の景気の悪化の影響がアジアの景気に波及し、日本のアジア輸出にも及んできたと推測できる。これから考えれば、コロナ対策の緩和で中国輸出数量指数が増加に転じても、伸び率が2桁台の大幅増にならなければ、アジア輸出数量指数は減少傾向が続くことになる。
米国はいつ金利引き上げを止めるかを検討する段階だが、EUは米国より遅れる可能性が高く、景気刺激のために金利引き下げに転換するのは24年になる見通しである。この状況から考えれば、日本の輸出数量指数が底入れして本格的に回復に向かうのは、23年度内は期待し難い。
一方、輸出数量指数は23年1〜3月期には前年水準を下回ったが、内閣府が発表した同期の一次速報値の実質GDPは、原数値の実質輸出は前年同期比1.6%増とプラス成長になっている。同期の輸出26.8兆円の内訳は財貨21.2兆円、同3.5%減、サービス5.6兆円、25.3%増である。輸出数量指数に対応する財貨は減少しているのに対し、財貨の4分の1程度のサービスが大幅に増加し、サービス主導による増加である。
サービスはコロナ対策による入国規制で、ゼロ近くにまで激減していた外国人観光客が23年1月から入国規制が緩和され、23年に入って急増した効果である。今後も増加が期待できるが、すでに過去ピークの19年1〜3月期実績の6割まで回復していることから考えれば、今後は増加テンポの減速が予想される。
EUや米国の経済はドイツに続く形で悪化し、その影響は輸出に依存するアジア経済は、中国を除いて両地域・国の後を追う形になると予想される。中国経済は持ち直しが見込めるが、それだけでは牽引力は弱いため、日本も後追いでもEUや米国と同調した経済になるのは避けられない。ただし、今回のコロナによる変化で季節調整値も変調するため、景気のピーク判定は困難と予想され、海外ではドイツのように景気後退が判断されても日本は不透明のままの可能性もある。
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前回のこの経済レポートでも取り上げたように、今年度の賃上げ率を5%台と発表する大手の好収益企業が目立っている。また、厚生労働省と文部科学省が2月1日現在の状況を取りまとめた今年の大学等卒業予定者の就職内定状況は、大学生の就職内定率は90.9%(前年同期差+1.2ポイント)と高くなった。かつ、来年度の採用予定を今年度より増やすと回答する企業が多いという民間調査もあり、企業は積極的な経営に乗り出しているように見える。
そうであれば、企業は人員の充実だけでなく、民間設備投資も拡大が期待できることになる。しかし、内閣府の「機械受注統計」では当面、民間設備投資の回復は期待し難い。民間設備投資の2四半期(半年)程度の先行指標になる機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整値の月額で、コロナ禍前の先行ピークは2018年7~9月期の9,105億円だった。その後、20年4〜6月期の7,501億円をボトムに徐々に回復し、22年4〜6月期に先行ピークを1.6%上回る9,247億円まで戻したが、10〜12月期は8,676億円まで減少した。23年は2月までの発表だが1〜2月平均で9,088億円である。
1〜2月平均が先行ピーク近くまで再度回復しているのは明るい材料と言うこともできるが、この間の物価上昇を考慮する必要がある。18年7~9月期から22年10〜12月期間の民間設備投資のデフレータ上昇率は7.6%増であり、当然、機械受注の価格とは異なるが、実質ベースではまだ先行ピークを大きく下回っていると判断できる。ちなみに、実質民間設備投資(季調値)のピークは19年7〜9月期の93.4兆円、その後のボトムは20年7〜9月期の84.3兆円になり、22年10〜12月期はピークを4.0%下回る89.7兆円である。 これまでの民間設備投資の回復力は弱く、機械受注の動向からは少なくとも今年度上期は期待し難い。
一方、大学等卒業予定者の就職内定増だけでなく、厚生労働省「一般職業紹介状況」の有効求人倍率(季調値)では、パートタイムを除く一般で20年11月以降は1を超え、つまり求人数が求職者数を上回っている。さらに、パートタイムを含む一般では13年11月以降、10年近く1を超え、雇用の非正規化を反映してパート需要は増えている。ただし、パートタイムを除く一般も20年の8月1.00、9月0.99、10月0.99の3か月間を除けば、14年12月から1を超えている。
それだけ長期に亘って人手不足状況が続いていることになるが、需要が伸びて人手不足になって求人を伸ばしているのであれば、設備投資は増加すると考えられる。この設備投資と人手不足との矛盾は、退職者が多いと考えれば、理解できる。
最近、新入社員が定着しないという企業が増え、特に新卒にその傾向がある。企業は早期退職を見込んで採用計画を立てると推測すれば、大学等卒業予定者の就職内定を必要な採用数よりも増やす傾向になると考えられる。また、今春闘で大学新卒初任給の賃上げが目立っているが、理由が単に他社に流出しないように引き留める目的であれば、日本経済にとって明るい材料と評価はできない。
当然、時間給にそれほど差が無いパートは定着率がより悪くても不思議ではない。結果、常に人手不足状況で、有効求人倍率は高止まり状態になる。日本経済との関係でみれば、労働需給の有効求人倍率ではなく、民間設備投資の先行指標になる機械受注の方が実態を反映している。これで判断すれば、日本経済はコロナ禍から脱しつつあるが、脱却までにはまだ時間が掛かる見通しになる。
もともと、民間設備投資は景気に対して先行と遅効の両方の性格がある。設備は懐妊期間があるため、先行き需要が回復して増加が見込めるとなれば、市場を確保するためには他社に先駆けて先行投資し、供給力の拡大を図る必要がある。これは懐妊期間の長い重厚長大産業では重要になる。しかし、日本の現状は国内で重厚長大産業の成長は見込めず、この傾向は弱まっている。それでも、懐妊期間は短くても成長産業には先行投資が必要であることに変わりはない。
最近は、積極的に先行投資する意欲が見られないのは、長期的に日本経済が低迷しているためである。需要が増えれば、当初は操業の工夫や稼働率を上げる操業時間の延長などで供給増を図るが、それで対応できなくなればようやく設備増強に乗り出す。つまり、需要の後追い的な設備投資になる。これでは需要増に見合う程度の設備投資しか行われず、予想が外れて過剰設備を抱え、海外市場も含めて市場開拓に努力する事態には至らない。結果として設備投資の経済牽引力は弱くなり、経済成長率も低くなる。
GDPに対する民間設備投資の比率は実質ベースで1993年以降、14%台の中ばから16%台半ばの2%程度の間で推移している。名目ベースでもほぼ同様で、物価が安定していたため、実質と名目間の解離は小さい。この間がいわゆる日本経済の失われた30年間になる。ちなみに、この間の実質GDP成長率は10年度の3.3%増が最大で、それもリーマンショック後の08、09年度の2年連続マイナス成長後の回復期で、一時的現象で終わった。
第二次安倍政権が成立した2012年11月以降では、13年の実質GDP成長率2.7%増が最大になり、この時は14年4月1日からの消費税5%から8%への引き上げに対して、駆け込み需要が発生した効果である。この反動で14年度は0.4%減のマイナス成長に落ち込んでいる。ちなみに、13、14年度の実質ベースの民間設備投資の対GDP比は15.4%、15.9%であり、特に高まってはいなかった。
近年で実質ベースの民間設備投資の対GDP比が高かったのは88〜92年度で、この5年間の推移は17.4%、18.1%、19.1%、18.8%、17.4%である。また、実質GDP成長率は6.2%増、4.0%増、5.6%増、2.5%増、0.6%増となっており、当時のバブル効果による高成長が実現し、民間設備投資が盛り上がったが、GDP成長率の推移でみれば90年度で終わっていた。
ただし、民間設備投資はGDPに遅行し、この間の積極的な設備投資がその後の過剰整備になった。その処理に長年苦しんだ経験が長期に亘る低金利下でも、今日まで投資に慎重にさせる要因の一つになったと推測できる。マスコミ報道はアベノミクスを持ち上げたが、企業はそれほど踊らず、慎重な設備投資行動を堅持していた。この構造を転換するには最大需要項目の個人消費の回復が必要だが、賃上げがマスコミが騒ぐように高くなれば可能性はあるが、6月頃の賃金統計の発表を待たなければ判断できない。
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マスコミを通して今年の春闘発表を見ると、賃上げ率は5%を超える高い数字が続いている。採用競争で優位に立ち、かつ企業イメージの向上のために、賃金を引き上げる能力のある企業は、マスコミに取り上げられるように競って先行して発表するのは当然である。企業によっては組合の要求を上回っているところもある。これで現実に全体平均で高い賃上げが実現すれば良いが、そのような企業は一部でしかない。初期のマスコミ発表だけでは評価を誤り、日本経済の見通しを過大評価することになる。
賃上げできない、または低額の賃上げしかできない企業は注目されないように発表するが、高い賃上げを求める時代には低いのは無視する。発表時期も組合との交渉が難航するため遅くなる。結局、賃上げ原資になる全体の収益が問題で、財務省「四半期別法人企業統計調査」(金融業、保険業を除く)の収益状況から今回の賃上げを予想する。この調査は出資金または基金1,000万円以上の営利法人等を調査対象としおり、1,000万円未満は含まれないことに留意する必要がある。
前年同期比(以下同じ)で、売上高は2019年年度に入って4〜6月期から製造業が先行して減少になり、非製造業は7〜9月期から、また資本金規模別では資本金10億円以上の大企業が4〜6月期から、同1億〜10億円と同1,000万〜1億円(以下、資本金、同は省略)は7〜9月期から減少になった。これはコロナに関係なく、景気がピークを打って下降に転じたためである。ただし、業種間では当然、解離は大きい。そして、売上高が回復したのはコロナ対策が始まった後の21年4〜6月期からになり、これは製造業、非製造業、企業規模に関係なく一斉である。
この回復基調は22年10〜12月期までほぼ同様で、10〜12月期は全産業6.1%増、製造業9.2%増、非製造業4.9%増、10億円以上7.9%増、1億〜10億円5.6%増、1,000万〜1億円4.6%増と陰りは見えない。ただし、価格が上昇していることを考慮すれば、伸び率が1桁台の低い方は数量ベースでは前年比横這い、さらには減少のところもあると推測できる。
一方、経常利益はコロナ前から景気が後退期に入っていたため、製造業、非製造業共に19年4〜6月期から20年10〜12月期まで減益基調だったが、売上高よりも1四半期早く21年1〜3月期から回復基調に転じた。その後は製造業、非製造業共に増益を続け、22年10〜12月期に製造業が15.7%減の減益になり、非製造業は5.2%増の増益を維持したが、全産業では2.8%減と微減でも減益になった。
22年10〜12月期の資本金規模別では10億円以上はまだ6.4%増の増益だが、1億〜10億円2.9%減、1,000万〜1億円18.0%減と、中小企業の減益が顕著である。ただし、10億円以上はまだ増益といっても、前7〜9月期までは悪くても20%近い伸びであったことから考えると、増益でも23年1〜3月期以降の先行きは不透明といえる。
22年10〜12月期に減益になった製造業を主要業種で見ると、石油・石炭は赤字で、情報通信機械(34.4%減)、化学(26.9%減)、食料品(24.8%減)の3業種が減益で、かつ大幅減益になった。
石油・石炭や化学は原油価格高騰の恩恵を受けていたが、原油価格の値下がりで収益が急変したためで、前7〜9月期から減益になった。当面、両業種は厳しい状況が続きそうである。また、情報通信機械は前期は増益だったが、IT需要の景況悪化に急変した影響を受けた。IT業界はしばらく不況期になる予測で、情報通信機械の状況も同様になると考えられる。
一方、食料品は4〜6月期から3四半期連続の減益だが、4〜6月期、7〜9月期は1桁台の減益で、10〜12月期は減益幅が急拡大した。国際商品市況の上昇は頭を打って下落に転じているが、為替レートの円安で上昇した原材料価格の製品転化が遅れ、減益幅の急拡大になった。
この大幅減益で食料品業界は昨秋頃から大幅な食料品価格の値上げを相次いで打ち出しているが、消費者の抵抗が強いため、食料品業界の希望通りは難しい。また国際商品市況は世界経済から見れば、今後も穏やかでも値下がり、為替レートの円安傾向は欧米の金融問題で止まり、今後は円高基調であっても、着実に円高が進むところまでは見込めない。ただ、消費者の抵抗が強い一方、企業は値上げせざるを得ない状況で、部分的になっても値上げが浸透しつつある。結果として、10〜12月期か次の1〜3月期が経常収益の最悪期になるのではないか。
これらの4業種に対して、生産用機械、業務用機械、輸送用機械の10〜12月期は20%台の高い伸びで、いずれも輸出産業であり、円安効果による増益である。ただし、数量的には輸出は頭打ち傾向になっており、今後は世界経済から判断すれば減少になり、経常利益は頭打ちから減益に向かうと予測できる。
10億円以上が10〜12月期に増益になっているのは、これらの大手機械メーカーや非製造業の大企業に依ると推測できる。高い賃上げ率を発表しているのはこれらの大手企業だが、足下の景況はピークを越えつつある、または越えてはいても高い賃上げを行える余裕があるのだろう。もし、予想以上に収益が悪化しても、春闘時にボーナスを決めていない企業は、ボーナスの減額で対応できる。
問題は従業員の約7を占める中小零細企業で、1,000万〜1億円の企業は既に2割近い減益になり、小規模企業ほど減益になっていることから推測すると、1,000万円以下の中小零細企業はより厳しいことになる。ここでは大手の5%賃上げは夢のまた夢でしかない。機械産業の大手の高い賃上げ額は下請を踏み台にしているのが実態である。
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2023年1月の消費者物価(総合)が前年同月比4.3%増と、22年12月の同4.0%増に続いて2か月連続の4%台の上昇率になった。天候要因も加わってまだ上昇に歯止めが掛からない状態だが、為替レートが再び大幅な円安にならない限り、国際商品市況から見れば消費者物価上昇率は2月かそうでなくても近い。
ただし、消費者物価上昇率が急速に減速することは予測し難く、消費者物価の上昇は23年度の経済成長の大きなマイナス要因になる。世界的な金融引き締めで世界経済の成長が頭打ち傾向にあり、輸出には23年度の日本経済の牽引役を見込めない状況にある。このため、景気を下支えできる春闘賃上げの実現に期待が高まり、政府はもちろん財界も春闘の賃上げを支援する発言をしている。それでも、日本経済、企業の現状からは消費者物価上昇を上回る5%台はもちろん、4%台でなくても3%台にでも乗れば、労働者側にとっては大成功になるが、一部企業は別として全体平均では厳しい。
昨年末以降、マスコミは賃上げに積極的や大卒初任給の大幅引き上げ発表の企業を取り上げ、今春闘の賃上げに期待を持たせる雰囲気を醸成している。しかし、現実には企業の賃上げ発言は採用困難な一部の人材不足職種に留まり、また新入社員の初任給が大幅に引き上げられれば、それに伴って若い社員の賃金引き上げには影響しても、数の多い中高年の社員にまでは波及しない可能性が高い。
むしろ、一部職種の社員や新人を中心に若手社員の賃金引き上げのしわ寄せで、数の多い中高年社員の賃上げは抑制されると推測される。企業のイメージアップから賃金引き上げの発表はしても、全体平均の引き上げ率を発表する企業は例外的である。また、発表する企業はほとんど大企業で、マスコミは日本の雇用全体の約7割を占める中小企業に関心を向けていない。中小企業の賃上げがなければ、民間最終消費、GDPを引き上げる効果は小さい。
長期的に低賃上げが続き、国民の関心が薄れた結果、最近はあまり取り上げられないが、春闘賃上げ率は消費者物価上昇率、有効求人倍率、企業収益の3要因で説明される。物価は上昇し、求人倍率は1を上回る人手不足状態、企業収益は増益を続け、いずれも賃上げの引き上げ要因になる。ただし、企業収益は円安が止まり、輸出数量が頭打ちになっているため、輸出企業の先行きは厳しくなっている。同様に、原材料を輸入する素材産業は、国際商品市況上昇期には市況上昇前に輸入した原材料で製造した製品価格の値上がりで在庫の評価益が生まれるが、最近のように市況下降期は逆転して評価損が生じる。
いずれも企業収益はピークを過ぎ、外国人観光客のインバウンド需要が見込める企業は別として、23年度は減益を見込む企業が多いと推測でき、これが抑制要因になる。賃上げしたいと発言する企業経営者は少なくないようだが、23年の賃上げ率は22年を上回るのは確実といえても、3%台以上の賃上げ率は予想し難い。
3つの賃上げ要因では労働者側に有利な状況下にあり、収益見通しが少し厳しくなるなかで、労働者側がどこまで努力するかが問われる。それを最近の労働争議の件数・参加人員からみると、日本は諸外国に比べて労働運動の盛り上がりに欠け、賃上げを押し上げる交渉力は見込めない。
独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2022」で国際比較すると、雇用者の労働組合への参加割合、労働者組織率は21年で日本の17.1%に対し、米国は10.8%と低いが、英国は23.7%と高い国もあり、日本は特に高いとも低いともいえない。ただし、長期的には日本も含めて先進国は低下傾向にある。日本の組織率の低下要因として産業構造の変化によるサービス産業雇用者増と、それに雇用政策の転換の影響も加わって非正規雇用者の比率拡大が挙げられるが、これは各国共通と推測できる。
一方、労働争議(図では見やすいように日本を含めて4カ国だけ取り上げている)は年によって変動が大きい。このため、15〜20年の6カ年平均(米国と英国は15〜19年の5カ年平均)で日本は33件で、米国の16件に次いで少ない。英国98件、韓国118件と比較すれば格差は大きく、米国は低組織率を理由として考えられるが、争議対象を日本が「半日以上のスト(同盟罷業)としているのに対し、米国は「1日に満たない争議を除き」と1日以上に制約している定義格差もあり、必ずしも米国が日本より少ないとは言えない。ちなみに、6カ年平均で1,259件と突出して多いため、図に入れなかったドイツもある。
また、国間格差は参加人員でより大きくなる。同様の期間平均で日本の5千人に対し、英国69千人、韓国103千人、そして件数の少ない米国218千人である。ちなみに、件数の多いドイツは236千人である。
図の注で示しているように国によって定義が異なるが、それを考慮しても、日本は世界で労働争議、平均参加人員は少なく、争議の規模も小さい。もちろん、労働争議の原因は賃金だけではないが、諸外国に比べて労働争議が起こらないのは、少なくとも賃金への不満はあまりないと推測することはできる。
しかし、現実には低賃金のため結婚もできない、また結婚しても子供を育てられないという声が多く、低賃金に不満を持っている人は少なくない。また、出産対策から賃上げを求める意見もある。
賃上げ率は厚生労働者の民間主要企業ベースで、最近20年ほどの推移は14年にそれまでの1%台から2.19%と13年振りに2%台に乗り、その後、21年に再び1.86%と8年振りに2%を下回った。22年は2.20%と2%台に戻したが、この間には消費税が14年4月に5%から8%に、さらに19年10月には10%に引き上げられた。加えて、社会保険料の負担増があり、これまでの2%前後の賃上げでは手取り収入はほとんど増えず、労働者が賃金に満足して労働争議に至らなかったとは考えられない。
賃上げが低い理由として、企業が収益増を基本給の引き上げでなく、一時金、ボーナスに反映させる傾向にある。それに対し、労働者が争議によってでも賃金を上げる意識に乏しい結果、これまでの賃上げは底這いで推移してきた。また、これは主要企業の統計であり、中小零細企業はこれより低い。
極一部の労働組合を除いて闘争を放棄してきた状態から、消費者物価上昇で生活が苦しくなっても、急に労働争議してでも賃上げを求めるようになるとは思えない。一方、企業、特に雇用者の大半を占める中小企業は賃上げ原資が不足していれば、従業員の生活苦を理解して賃上げしたくてもできない。民間主要企業ベースで3%台の賃上げでも1994年の3.13%以来の約30年振りになり、ましてや4%、さらには5%台の賃上げはそれこそ異次元の賃上げになる。
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2019年の出生数が87万人と90万人を下回ったことで、出生数に注目が集まったのを受けて、20年9月1日付のこの経済レポートで少子化問題を取り上げた。関連資料を見れば誰でも懸念するように、出生数は減少の一途である。22年の実績はまだ不明だが、80万人を下回るのは確実になり、77万人程度と見込まれている。この間のコロナの影響に関しては、妊娠期間を考慮すれば20年は影響が少ないと推測できる。19、20年までの推移と比較して、21年実績、22年見込みの出生数の減少が特に悪化したわけではない。今後の出生数に関しても人口の年齢別構成の影響が大きく、これを認識しなければ少子化対策を誤ることなることになる。
労働力確保や日本経済を再生するため、深刻化する少子化問題に対して岸田首相は最初「異次元の少子化対策」、その後の施政方針演説では「次元の異なる少子化対策」に取り組むとしている。いずれにしても言葉より対策の内容が問題だが、人口の年齢別構成を踏まえていないため、効果的な施策は期待できない。
出生数に関しては、女性の年齢別出生率を合計した一生の間に生むとしたときの子どもの数の合計特殊出生率がよく使われる。合計特殊出生率は20年9月1日のレポートで書いたように、05年の1.26を底に15年の1.45まで回復傾向にあったが、これをピークに21年は1.30まで再下降している。
基本的に出生数は減少傾向にあり、その要因は女性の進学率、就業率の上昇に伴う晩婚化、未婚化の進展に加え、最近は非正規雇用の増加、雇用の不安定化、また所得の頭打ち、さらには減少にあることは一般的に認識されている。年齢別人口当たり出生数(年齢階級別出生率)の推移は、ピークが晩婚化に伴って1970年代頃の20歳代中頃から高齢化が進み、最近では30歳前後になっている。それだけでは長期的な出生数の減少傾向は分かっても、最近の出生数の減少が加速気味になっている理由は理解できない。
その理由として、5歳年齢別の人口当たり出生数と年齢別人口構成の変化が挙げられる。人口当たり出生数は5年間隔で、晩婚化で増加傾向の30〜34歳が05年、減少傾向にあったそれまで最大の25〜29歳を抜いた。また、35〜39歳、40〜44歳、45〜49歳の出生率も15年頃まで30〜34歳と同様に増加してきた。ただし、40〜44歳、45〜49歳の人口当たり出生数は少なく、出生率が増えても体力の限界があり、人口増効果は小さい。
合計特殊出生率が回復傾向から減少へと転換年になった15年以降では、20〜24歳は既に低水準になったこともあり、速度は鈍化でも依然として減少を続けている。一方、それまで増加傾向にあった年齢階級はいずれも頭打ち、または微減である。全体としてかつての30〜34歳、35〜39歳のように増加を期待できる年代は見当たらず、晩婚化による出産年齢の高齢化効果は出尽くしたといえる。つまり、ほとんど増加が期待できる年代が無くなり、前回のレポートから20、21年の実績から一段と悪化しているのが明らかになった。
一段と悪化した要因として人口の年齢構成があり、出生数の減少に歯止めが掛からなくなっている。出生数は敗戦直後の47〜49年に生まれた団塊世代と言われる年間268万〜270万人がピークで、その子供世代の団塊ジュニア世代が71〜74年に同200万〜209万人で次のピークになる。団塊ジュニア後は基調として減少傾向で推移し、その傾向が強まって22年見込みで80万人を割り込む結果となった。
この間に合計特殊出生率が05年の1.26から15年の1.45まで回復し、一時的に少子化問題を楽観視させた。2000年代は人口の多い団塊ジュニアが晩婚化によって出産率が高まる30〜34歳、35〜39歳になってきた効果で、出生数が増えて合計特殊出生率も下げ止まり、回復傾向になったのは一時的現象でしかない。
当然、団塊ジュニアが出生率急下降の年代になる40歳代に入れば、その後の年代の人口は減少するため、出生数の下降速度は徐々にでも高まる。団塊ジュニアは20年代には50歳代に移行することから予測すれば、出生数の維持には年齢階級別出生率が横這いや微増では不十分になる。大きく上昇しなければ、23年以降も減り続けるしかないが、大幅上昇は現実には不可能であろう。
ちなみに、21年10月1日の5歳階級別の女性人口のピークは、図のように出生数の少ない45〜49歳の480万人(外国人を含む、日本人だけでは470万人)になる。その下の年齢階級は30〜34歳の320万人(同304万人)まで急速に減少し、25〜29歳からは減少速度は鈍化するが、減っていくことには変わりはない。合計特殊出生率は下降に歯止めが掛からない状況から予測すれば、出生数減が加速する可能性が高い。
これを岸田首相がどこまで認識しているかは分からないが、異次元の少子化対策が必要な状況にある。出生数を増やす具体策は比較的成功しているフランスを参考にできるが、いずれにしても財政支出の拡大が必要になる。それを消費税の増税で賄うのであれば、所得、可処分所得の減少が少子化要因でもあり、政策が矛盾になる。財政に負担をかけない政策としては、例えば、効果はそれほど見込めないが、婚姻の増加要因にはなる選択的夫婦別姓制度がある。これは岸田首相が自民党内の反対者を説得すれば可能で、これぐらいは直ぐにでも取り組めば、少しは国民が首相の本気度を感じるのではないか。
女性の進学率の上昇、就労化を抑制する政策は不可能であり、財政状況を考慮すれば人口を増やすところまでの少子化対策は期待できない。また、日本の軍事強化にも財源問題があり、どこまで実現するかは別として、軍国化に向けての議論だけで出産促進にはマイナス効果になると考えられる。
また、少子化対策で何年か後に出生数が増加に転じても、労働力になるまでの期間、少なくとも20年間ほどの労働力、日本経済の再活性化をどうするかが課題になる。結局、この間の実効性のある少子化対策としては海外からの労働力の導入しか考えられない。1ドル=100円を大幅に上回る為替レートの円安によって、世界における日本の経済水準は下落一方だが、まだ発展途上国から見れば高い。また、治安や食文化など経済以外の生活環境が評価され、日本での就労希望はまだ多いと思う。それには、日本人と労働条件を同一にすることや日本国籍の取得条件の緩和などが必要になる。日本の経済水準の低下から残された時間はそれほどないため、早急に真剣に取り組むべき課題である。
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11月の消費者物価指数上昇率は総合で前年同月比3.8%増になり、10月の同3.7%増(マスコミが取り上げる生鮮食品を除いた総合ではそれぞれ3.7%増、3.6%増)を上回り、上昇に歯止めが掛からないようにみえる。しかし、上昇率は前月を0.1ポイント上回っただけで、10月までの上昇率の速度と比較すれば頭打ち傾向である。ようやく今回の物価上昇はピークを過ぎつつあると判断でき、その低下速度が今後の問題になる。
2022年8月までの統計データを使って説明した10月1日付けのこの経済レポートで、ドル価格の国際商品市況はピークが過ぎ、消費者物価の上昇は為替レートの動向次第と指摘した。その後、為替レートは円安が加速したが、10月21日の1ドル=151円を円安のピークとして、140円台へと円高に転じた。そして、12月13・14日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、それまでの0.75%の利上げが続くとみられていたのが、0.5%に引き上げ幅が抑えられた。それが事前に予想されたため、為替レートはFOMCの開催に先んじて11月中旬以降、円高傾向が強まった。
加えて、日本銀行は12月20日、金融政策決定会合を開き、長期金利の上限をそれまでの0.25%程度から0.5%程度へと引き上げた。これで黒田東彦総裁による2013年からの異次元の金融緩和が終焉し、日本も世界的にインフレ対策で進められている金融引き締め政策への転換を余儀なくされた。これによって130円台へと円高が一段と進んでいる。
ただし、日本銀行資料の中心相場でみれば、8月135.4円、9月143.1円、10月147.0円、11月142.4円であり、月平均で円高になったのは11月からになる。また、円高といっても大幅な円安水準からであり、今年の3月までの為替レートが110円台の推移であったことを考えれば、円高と評価はできない。8月からの前年同月比では23.1%増、29.9%増、30.0%増、24.8%増であり、11月でも大幅な円安水準になる。
日本銀行「輸入物価指数」の契約通貨ベースは前年同月比で5月27.7%増、6月27.6%増、7月26.3%増、8月22.0%増、9月21.6%増、10月16.4%増、11月8.6%増、と、国際商品市況の値下がりを受けて8月から上昇率の縮小傾向が顕著になっている。一方、為替レートの影響を受ける円ベースは10月までの円安で、この間の同上昇率は44.9%増、48.3%増、49.2%増、42.8%増、48.7%増、42.3%増、28.2%増である。
上昇率が明確に縮小したといえるのは、国際商品市況に値下がりに円高効果が加わった11月になる。この円ベースの輸入物価が消費者物価に波及するには時間が掛かるため、消費者物価上昇率は11月か12月がピークになる可能性が高い。しかし、ピーク後に短期間で消費者物価上昇が沈静化に向かうとは期待し難い。
品目別に消費者物価の前年同月比上昇率をみると、大きく3つのグループに分けられ、光熱・水道、生鮮食品が先行して大幅に上昇している。そして、これらよりも遅れて、上昇率は穏やかでもじりじりと食料(生鮮食品を除く、以下、食料は同様)、家具・家事用品、被服及び履物などが追随している。一方、ほとんど上昇していない品目がある。
先行している中で生鮮食品は天候も含めて自然環境変化の影響を受け、従来から上昇と下降を繰り返す特徴がある。今後の天候にも依るが、このサイクルから値下がりの時期に入る。
また、光熱・水道は国際商品市況の下落から比重の大きい原油価格はピークを打ち、既にガソリンは前年同期比で11月に値下がりしている。一方、電力料金は上限を規制され、現状は電力会社が値上げしていても不十分なため、その不足分の値上げがこれから実施される。それに対し、政府は電気代支援策として補助金を出すが、上昇率は低下しても値下がりまでには至らないと推測される。光熱・水道は全体として既に前年水準が上昇していることもあって、これまでの前年比2桁台の上昇から微増程度になると予想される。
これらの価格上昇先行品目だけでは消費者物価上昇は問題にはならなかった。食料は遅れて上昇してきたが、消費者物価指数の22,3%を占める中分類で最大の品目で、消費者物価指数に与える影響は大きい。これが国際商品市況の上昇で年初から上昇傾向になり、春頃から上昇に加速が付いてきた結果、消費者物価指数上昇が深刻化してきた。世界的な金融引き締めで景気は後退に向かい、需要の減少で国際商品市況は全体的に値下がりの方向にある。その中で、ロシアのウクライナ侵攻で穀物価格が値下がり難く、高水準で推移している。加えて、食料関係の商品市況は近年の世界的な異常気象の影響もある。
年明け後に値上げを発表された食料品数は多く、物価上昇の持続、さらには加速の懸念が広がっている。値上げに過去の輸入価格上昇分の販売価格への未転嫁を含めている物も多いと推測でき、値上げ幅が大きくなる見方もある。しかし、国際商品市況の下落と円高に転じた状況を考えれば、値上げの見送りや値上げ幅の圧縮が期待できる。その中で、幅広く使われる輸入小麦は、政府が輸入価格から年2回、4月と10月に価格を決めて製粉業者に売り渡す制度になっているが、物価対策で今年の10月は値上げされなかった。次回の23年4月は値上げする必要がなくなる可能性がある。円高効果を考えれば、食料価格は値下がりしなくても、上昇率は低下になる。
家具・家事用品、被服及び履物などは輸入依存度が高く、為替レートの影響を受け、円安に伴って上昇傾向になってきた。また、家事用品に含まれる電化製品は世界的な需要増で部品不足の発生もあって価格が上昇し、それに円安が加わり、春頃から上昇が加速してきた。これも世界経済の変化による需要減少で部品不足は解消し、国際価格が下落に転じている。価格上昇率は縮小し、為替レート次第だが前年比横這い水準程度までは下がるのではないか。
これまで消費者物価上昇をもたらした品目は、いずれも上昇率を大幅に縮小する見通しになり、これまで価格が安定していた品目の動向が問題になるが、現状で値上げが予定されているのは交通料金程度である。これ以外は賃金が引き上げられて労務コストが上昇しなければ、今後もほぼ横這いの推移が予想される。賃金は春闘の影響が大きく、これから消費者物価の上昇が沈静化していけば、春闘賃上げ率には抑制効果になる。
今後は、米国の金利引き上げ幅の縮小、日銀の異次元金融緩和からの転換に伴って僅かでも金利は上昇傾向になり、急速でなくても為替レートは円高に向かうと予測される。世界的な景気後退で国際商品市況は下落が見込まれるが、消費者物価指数に影響する食料関連の国際商品はロシアのウクライナ侵攻が長引く予想や異常気象の増加を考慮すれば、大幅な下落は期待できない。為替レートが大幅な円高にならなければ、消費者物価指数の短期間での安定化にはならず、上昇率が徐々に低下していく予想になる。その一方で、増え続ける国債残高がどこで円急落をもたらすかが懸念材料になる。
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2021年7〜9月期の実質GDP(国内総生産)の1次速報値は季節調整値で前期比0.8%減(年率換算3.0%減)の四半期振りのマイナスス成長と内閣府が発表した。前3四半期は1.0%増、0.1%増、1.0%増とプラス成長が続き、着実に回復傾向にあるという見方が多かったため、このマイナス成長は回復期待を裏切られたと受け止める意見が多い。
マイナス成長の要因として、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言や、半導体不足による乗用車の減産などで個人消費が落ち込んだことが挙げられている。個人消費への影響が大きいコロナ対策の影響緊急事態宣言、まん延防止等重点措置は何度も実施されている。しかし、最近は以前と比較すればコロナ対策による規制の影響は緩和されており、これらを個人消費不振の影響として取り上げても説得力は弱い。
以前にも指摘したが、今回のコロナ感染のような突発的な要因で経済が大きく変動すれば、季節的な要因で生じる経済統計の変化を除いた季節調整値で経済状況の評価はできない。それよりも原数値で基準年との比較で変化動向を見る方が相対的に正確な評価が可能になる。
基準年として19年が適切と考えられる。ダイヤモンド・プリンセス号の乗客で新型コロナウイルス感染が日本国内で確認されたのは20年1月で、その直後に政府が新型コロナウイルス感染症対策本部を設置した。つまり、19年はコロナ禍の日本経済への影響はほぼゼロといえる。当初の緊急対応策は日本への入国者への水際対策であり、日本経済への影響が本格化したのは、20年4月に発出された7都府県への緊急事態宣言からになるからである。
20年1〜3月期から原数値で四半期別に対19年比の実質GDP成長率の推移をみると、20年は2.1%減、10.3%減、5.4%減、0.9%減となっている。1〜3月期にコロナ禍の影響が出始め、緊急事態宣言下の4〜6月期が最も落ち込みが大きかった。4〜6月期の需要項目では民間最終消費の10.6%減の減少幅が大きいが、輸出の21.9%減はそれを上回る大幅な落ち込みである。
輸出を財貨とサービスに分けると、財貨の20.9%減を上回ってサービスが25.2%減である。水際対策で外国人観光客が急減し、インバウンド需要が大幅に落ち込んだためである。サービスの輸出は19年10〜12月期までの増加傾向が一転し、1〜3月期は11.7%減と早くも大幅減になった。一方、1〜3月期の財貨の輸出は2.5%減だが、前19年10〜12月期は前年同期比2.9%減である。減少幅はほぼ同じで、コロナの影響はほとんどない。
また、10〜12月期の実質GDP成長率が0.9%減と微減に留まり、21年1〜3月には19年水準回復の見方もあったのではと思える。しかし、これは19年10〜12月期が前年同期比1.9%減と低水準であったことで、19年の10〜12月期との比較ではその反動で相対的に減少幅が小さくなっているだけである。景気は既に18年10月をピークに下降局面にあったが、実質GDP成長率の四半期別推移は前年同期比で19年1〜3月期0.1%減、4〜6月期横這い、7〜9月期0.6%減とほぼ前年比横這いの推移から、1.9%減の10〜12月期は民間最終消費支出が冷え込んだ影響による一時的現象でしかない。これから判断すれば、20年7〜9月期、10〜12月期は水面下での穏やかな回復基調の推移になる。
同様に、21年は3.8%減、3.8%減、4.3%減、0.4%減の推移になっており、20年よりは減少幅は縮小し、10〜12月期は20年と同様の要因で微減に留まった。需要部門では特徴として民間住宅と民間企業投資が減少を続けていることが挙げられる。これは22年の7〜9月期まで同様の推移である。民間住宅は輸入原材料の上昇で価格が高騰し、減少幅は拡大傾向にある。また、民間企業設備は減少基調で推移しており、企業の景気感が回復していないことを示している。
一方、公的固定資本形成(公共投資)は7〜9月期から19年を下回るようになり、10〜21月期以降は顕著な減少である。財政支出をコロナ対策に向けた影響と推測できる。逆に、輸出はインバウンド需要減のマイナス要因が底を打ち、財貨の回復で10〜12月期に19年を上回るようになった。
22年は7〜9月期までの実質GDP成長率の推移は3.2%減、2.2%減、2.5%減で、21年より僅かではあるが、減少幅は縮小していると評価できる。これまでの推移からは全体としてみれば、回復力は弱いと判断せざるを得ない。
問題は今後の回復力になる。22年7〜9月期の実質GDP成長率は2.5%減になったが、事前の予想からみれば比較的良かったと評価できる。理由は消費者物価上昇率が22年に入って上昇傾向を強め、7〜9月期は前年同期比2.9%増まで高まったからである。物価上昇の影響で消費者の支出抑制が懸念されたが、原数値の名目民間最終消費が前年同期比7.2%増、実質で同4.0%増と高い伸びになったからである。まだ19年の水準に対しては低くても、物価動向を考慮すれば民間最終消費は予想以上に順調だったといえる。
その理由として、コロナ禍で繰り延べられていた需要の顕在化、事前に発表された10月からの製品価格の値上げに対して、駆け込み需要の発生などが考えられる。当然、10〜12月期は駆け込み需要の反動減の可能性がある。その一方で、10月から始まった旅行支援策の効果が出ている。全体的には所得増が期待し難い環境下、物価上昇から支出を抑制する声が広がっており、このマイナス効果の方が大きくなると予測できる。
また、輸出は入国規制の緩和でサービスのインバウンド需要増は見込めても、人数の多い中国はゼロコロナ政策で短期的には期待できず、財貨は世界的な金融引き締めによる金利引き上げで世界経済がピークを打って下降に向かっている。コロナ禍前でも財貨が輸出全体の約8割占めており、財貨の輸出が減少すれば輸出全体の減少は避けられない。加えて、財貨、製品は裾野が広いため、関連産業も含めて日本経済全体への影響力が大きいことにも留意する必要がある。
22年度下期の経済は上期までのコロナ禍からの脱出傾向が止まり、逆に反転して下降に向かう可能性が高いと予測できる。そして、23年度は世界景気と民間最終消費の回復次第になる。世界経済は物価対策による高金利が続くと予想され、短期的に景気の好転は期待し難い。また、民間最終消費は所得の伸び、つまり春闘による。日本の労働組合の状況からは高い春闘額を期待し難く、消費者物価上昇率が下がってきても、所得が伸びなければ限界がある。
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消費者物価の上昇傾向が強まり、輸入物価への影響の大きい為替レートへの関心が高まっている。為替レートの動向を判断するために日米の金利差が注目されているが、短期的には金利差が重要でも、基本的には国際収支の経常収支に依る。現時点では円安要因になる経常収支の赤字基調への転落までは至らず、当面、為替は日米の金利差に影響されると予想される。
経常収支に関しては比重の大きい貿易収支が取り上げられることが多い。ただし、物財価格の貿易統計に輸送費や保険等の貿易に伴うサービスコストを加えた通関統計の発表が先行するため、従来から通関統計の輸出入収支で経常収支が評価される傾向にある。長期的な趨勢として、物財の輸出は生産機能の海外移転によって伸びは鈍化傾向にある。結果、日本の貿易収支、通関統計は必ずしも黒字基調とは言い難く、赤字になる事態も発生している。
貿易収支は2011〜14年度に4年連続赤字になり、その後は黒字に転換していた。それが図に見るように国際商品市況の高騰で一変し、21年11月から22年8月(速報値)まで連続赤字で、21年度は赤字に転落している。先月のこの経済レポートで指摘したように、国際商品市況の高騰は沈静化しても、赤字要因として円安が取って代わり、為替レートの動向から悲観論が広がっている。
また、貿易収支よりサービスコストで輸入額が大きくなる通関統計では、11〜14年度はもちろん、15、18、19年度、そして、21年8月から連続赤字である。ちなみに、21年度の輸入は通関統計が貿易統計を4.7%上回っているのに対し、輸出は0.2%だけでほぼ変わらず、通関統計は赤字に陥りやすい。
このように通関統計が貿易統計よりも赤字になることが多くても、これまではいずれの赤字もあまり問題にされなかった。理由は為替レートが円高傾向にあったためである。しかし、今回は米国が物価対策で金利を引き上げ、日米金利差の拡大で歯止めが見えない円安で物価上昇が懸念されるようになり、日本の国際競争力を表す貿易収支、経常収支に関心が向けられるようになってきた。
国の競争力は物財だけでなく、サービス財も含めた総合的な経済力であり、貿易収支でなく、経常収支で評価する必要がある。経済が成長すれば、産業構造の中心は製造業からサービス経済に変化していく。結果、物財の貿易収支が赤字になっても、サービス財も合わせた経常収支が黒字であれば問題はない。
経常収支は貿易収支の他、1 輸送、旅行、知的財産権等使用料などのサービス収支、 2 親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払の直接投資収益や、株式配当金および債券利子の受取・支払などの第一次所得収支、3 居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る第二次所得収支、の合計である。第二次所得収支は政府の対外援助による支出が中心で、赤字だが経常収支を大きく変化させる要因にはならない。ちなみに、21年度の第二次所得収支の赤字額は2.5兆円である。
コロナ感染以前の19年から四半期別推移(22年は9月が発表前のため7、8月の合計)の図に見られるように、国際商品市況の高騰と円安の影響で輸入額が膨張し、貿易収支は21年7〜9月期以降、赤字基調が続いている。しかし、経常収支は月間では赤字になっても、四半期ではそれまでの兆円単位の黒字からは減少傾向だが、22年4〜6月期4,721億円、7、8月計2,879億円の黒字を維持している。
過去に遡れば、四半期別では13年10〜12月期の1.0兆円、14年1〜3月期の0.5兆円の2期連続の赤字以来、10年近く黒字基調が続いている。年度では第二次オイルショック後の80年度の赤字を最後に、赤字になったことはなく、それが40年を超える長期的な円高基調を支えてきた。
これから考えれば、四半期は別として22年度の経常収支が赤字になると、円安が一段と進み、最近の円安がその基調変化の先駆けになる可能性はある。しかし、貿易収支の大幅な赤字までの悪化は予想されず、長期的に拡大傾向にある第一次所得収支の下支えが見込める。第一次所得は21年度で21.6兆円、輸出額86.6兆円の25%にも達している。このため、経常収支は均衡化、悪くても一時的な小幅赤字程度で収まると考えられる。
最近の世界景気は欧米の金融政策の転換、金利引き上げと物価上昇による消費の抑制で、頭打ちから不況に向かう過程にあると判断できる。これを受けて、先月の経済レポートで指摘したように、国際商品市況は既に頭打ちから下降傾向にある。ただし、円安によって日本の輸入価格は国際市況の変化を反映せず、上昇を続けている。
このため、輸出は世界景気の変調で数量ベースでは伸びが見込めない。しかし、円ベースの輸出価格も輸入価格ほどではなくても上昇し、輸出額は増加している。世界的な金利引き上げ要因の物価上昇で、輸出製品の現地価格が上昇しており、日本製品の価格も引き上げられるからである。
また、数量ベースの輸出の減少は日本の景気を悪化させる。つまり、世界の景気の変化と同調するため、日本の輸入数量も減少に向かうことになり、これは輸出額の伸びを抑制することになる。当然、世界的な景気の悪化は投資収益の縮小要因になり、第一次所得収入を一時的に微減になる可能性がある。結局、当面は輸出入と第一次所得はいずれも縮小均衡に向かう予想になる。
これら以外の経常収支項目は少額で、全体への影響は小さい。サービス収支の旅行は黒字から赤字に転落したが、今後は入国規制の緩和で黒字化が見込める。また、サービス収支で日本の国際競争力の弱さを反映するその他サービスの通信・コンピュータ・情報サービスやその他業務サービスは赤字基調が続いており、短期的にはこの状態からの脱出は期待できない。逆に、黒字基調の知的財産権等使用料は、もともと短期的に大きく変化する項目ではなく、黒字基調が続くと予測される。全体として旅行の黒字化効果が期待できる程度である。
現状では、経常収支で比重の大きい輸出入と第一次所得が縮小傾向にあれば、為替レートへの波及効果は小さい。つまり、円安が進んでも経常収支への影響は少ないと考えられる。当面、為替レートは日米の金利差で変動すると判断でき、それは金利差が現実に変化しなくても、事前の予測段階で先行して変動する。金利差は日本の金融政策が変わる見込みがほとんどないため、米国次第になる。米国の物価が年末、年始頃にでも頭を打つ見通しになれば、金融政策の転換、日米の金利差の縮小を見込んで円高に転じる可能性が高い。年明けから春頃には円高になり、春以降には消費者物価上昇率の縮小が期待できる。
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8月の消費者物価指数(総合指数、2020年=100)は前年同月比で3.0%増になった。1991年11月の3.1%増以来、30年9カ月ぶりの3%台の増加率で、3月に同1%台、4月から3か月連続2.5%前後の増加から一段と上昇し、先行き不安が高まっている。今回の消費者物価の上昇は金融政策による為替レートの円安は別として、国内には上昇要因はなく、国際商品市況の高騰からの波及という事情は一般的に知られている。しかし、既に国際商品市況はピークを打ち、下降に転じていることはあまり知られていない。市況の変化から推測すれば、為替次第だが、消費者物価の上昇のピークも近いと期待できる。
この間の国内物価統計の動向は図に見るように、前年比上昇率で国際商品高騰の影響でまず輸入物価が上昇し、それとほぼ同時に国内企業物価が連動して値上がりした。しかし、それが消費者物価に波及するまでには半年ほどかかっている。また、輸入原材料が最終商品に加工されるまでには人件費や設備費が加わり、これらのコストは変化しないため、国際商品高騰の影響は最終製品段階に至るまでには圧縮される。また、輸送や加工工程が必要になり、時期はずれる。
特に、最終消費段階では収入の増えない消費者が値上げに抵抗するため、値上げには時間が掛かり、かつ、値上げ幅が圧縮される要因がある。また、消費者物価には物をあまり使わないサービス業の比重が高いこともある。
これまでの消費者物価上昇をもたらした国際商品価格の高騰を、日本への影響が大きいOPEC原油のバスケット価格で見ると、1バレル当たりで近年では2020年4月下旬の10ドル強の水準を底に上昇基調が続いていた。そして、22年3月からは100ドル台の推移になっていたが、6月14日の123.73ドルをピークに一進一退ながら徐々に下降基調にある。9月1日以降は100ドルを下回る水準で推移し、9月末は90ドル前後まで低下しているが、長期的に見ればまだ高価格水準である。
日本の輸入は原油をはじめ鉱物、穀物などの原材料が大半を占め、これは海上輸送になり、購入して通関までには1〜2か月ほど掛かる。このため、国際商品市況と通関時の価格にはそれだけずれが生じることに留意する必要がある。
国際商品市況のピークはOPEC原油では月間ベースで6月になるが、その他の鉱物、穀物などは分野別に見て3〜6月である。いずれにしても、一部を除けば国際商品市況のピークは過ぎている。ただし、それが日本の通関時の価格に反映するまでには時間が掛かり、ドルが大半になる契約通貨ベースの輸入物価指数(2020年=100、円ベースも同じ)の前年同月比上昇率は5月の27.7%増がピークである。ちなみに、契約通貨ベースの輸入物価指数でみればピークは7月の151.0になり、輸入価格は下落に転じたと判断できる。
一般的なイメージからいえば、3月に一部でも国際商品市況が下降に転じたのは早過ぎるのではと疑問を持たれるかもしれない。しかし、その前から米国は景気過熱で消費者物価の上昇が始まり、インフレ対策から米連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策の転換を検討していた。そして、3月に新型コロナウイルスによる経済危機対策でそれまで2年間続けてきた事実上のゼロ金利政策を解除し、約3年振りに政策金利を年0.00〜0.25%から年0.25〜0.50%に引き上げた。
金融緩和政策からの転換で商品市況のピークを迎えると予想されるようになれば、投機資金は減少する。そして、現実に金利が引き上げられれば、投機コストが高まるため、市況が上昇から下降に転じるのは当然である。もちろん、それぞれの商品の需要見通しでピークの時期は異なるが、金融引き締めで景気が冷え込んでくれば、時期に差はあっても需要が減少する商品は増加していく。その前に投機資金の流れに変化が生じ、実需に先行して商品市況はピークを打って下落に転じる。それが3〜6月になり、その後は世界的に景気が冷え込み、実需が減少するのを受けて一段と市況の下降に加速が付く。
日本の契約通貨ベースの輸入物価指数に国際商品市況の転換の影響が現れるのは1、2月遅れ、今回は7月の151.0がピークで、8月は149.2、前月比1.2%減、前年同月比21.7%増である。国際商品市況は世界的な景気の頭打ち、後退局面に向かいつつあるのを受けて、下落傾向が拡大している。このため、契約通貨ベースでは輸入物価指数の値下がりが続く見通しになる。
一方、国内の消費者物価は当然、円ベースの輸入物価指数がベースになり、為替レートの影響を受ける。対ドル為替レートは日銀のスポット中心相場の月中平均で、年初の1ドル=115円から徐々に円安傾向が強まり、4月120円台、6月130円台、9月140円台へと切り下がっている。米国が金利を引き上げているのに対し、日本はアベノミクスから政策を転換できず、ゼロ金利政策を続けている。このため、日米間の金利格差が拡大している影響で円安になっており、年内はこの傾向が続く見通しである。
円安によって輸入物価指数の上昇率は円ベースが契約通貨ベースを大きく上回って推移している。円の下落に歯止めが掛からず、両指数の上昇率の乖離幅は拡大傾向にある。ただし、8月は1ドル=135.24円で、7月の同136.63円から小幅円高になったため、円ベースの前年同月比上昇率は7月の49.1%増から、8月は42.5%増になり、契約通貨ベースの両月の同上昇率26.1%増、21.7%増よりも2.2ポイントほど縮小幅が大きかった。これは一時的現象で終わり、9月の為替レートの実績見込みは1ドル=143円台と大幅下落で、円ベースの上昇率が契約通貨ベースを大幅に上回るのは確実である。
今後に関しては国際商品市況の下落で契約ベースの輸入物価指数の値下がりが予想でき、円ベースは為替次第になる。為替レートが最近のような急速な円安傾向が続くとは思えないが、日米金利差が当面は縮小することは期待できない。円安傾向が止まり、少しでも円高に向かうには日米間の金利差が縮小する必要がある。それを日本の金利引き上げに期待できなければ、米国の金利引き上げの打ち止め、さらには引き下げへの転換時になり、23年に持ち越される。
それでも、円安が現状以上に大幅に進んでいくことまでは予測できないため、国際商品市況の下落傾向が顕著になれば、10月以降には円ベースでも輸入物価指数の伸び率は着実に低下していく。そうなれば、消費者物価指数の上昇にも歯止めが掛かると予測できる。消費者の値上げへの抵抗で、企業も原材料の値下がりが予想できるようになれば、値上げ幅の縮小、新規値上げの撤回に追い込まれる。天候の影響を受ける生鮮食品は別として、年内には消費者物価の上昇はピークを過ぎるのではないか。
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貿易統計の貿易収支は赤字基調が定着し、2022年7月(速報値)まで12か月連続の赤字になって注目を集めている。原因は原油や天然ガスのエネルギー価格に代表される国際商品の高騰に加え、為替レートの円安で輸入額が膨らんでいるためである。また、ロシアのウクライナ侵攻で国際商品の高騰が長期化していることもある。一方、直接投資や証券投資などの収益も含めた経常収支は、一時的に赤字になっても基調として黒字が続いている。
貿易収支は輸出額と輸入額との差になるが、輸出価格がドル建て価格であれば、円安効果によって貿易統計の円ベースの輸出額も拡大する。貿易赤字に関心が高まり、輸出は金額が増えていることもあって、動向は無視されがちである。貿易統計の輸出額の前年比伸び率は、世界的にコロナの影響で経済活動が縮小した20年は大きく落ち込んだ。そして、コロナの影響が軽微になった21年は反動増で大きな伸びになり、22年に入っても円安効果で7月も19.0%増と順調で、貿易赤字でも輸出に問題がないように思える。
これが名目の金額でなく、実質、数量の伸びであれば、輸出は問題ないと言えるが、金額が膨らんでいるだけで、実質的には縮小している。実質の輸出を貿易統計の輸出数量指数(2015年=100)の前年比伸び率で見ると、対世界輸出数量指数は20年は金額とほぼ同様の推移だが、21年に入って徐々に数量指数と金額の伸びが乖離し、数量指数が金額を下回る方向にある。
22年の輸出数量指数の推移は1月に前年水準を下回り、2月は待ち直したが、1〜3月期では前年同期比0.9%減のマイナスである。3月以降は7月まで減少を続け、数量指数と金額は対照的な推移である。ちなみに、7月は輸出金額の前年同月比19.0%増に対し、数量指数は同2.0%減であり、21ポイントもの乖離がある。日本銀行資料による東京市場のスポット、中心相場の月中平均は1ドルが21年7月の110.3円から22年7月は136.6円へと大幅な円安である。下落幅は23.8%になり、ほぼ輸出額と輸出数量指数の乖離幅と見合っている。輸出金額の増加は円安効果が大きいことを示している。
数量指数を主要な国・地域別に見ると格差があり、特に、21年実績で最大輸出市場国の中国の減少が顕著である。中国は21年10月以降、減少基調で推移し、22年は特に4〜6月期は前年同期比20%近い大幅なマイナスである。中国はゼロコロナ政策で厳しい隔離政策で経済活動を抑制している影響と考えられる。そこに最近は異常気象による水力発電の減少で電力供給不足も発生しており、日本の輸出回復にはまだしばらく時間が掛かりそうである。ただし、最近になって降雨報道があり、電力不足問題やコロナ問題が解決まで至らなくても改善されれば、政府の経済対策で回復が期待できる。また、中国を含むアジア全体も中国よりは軽微でも21年12月以降は減少基調である。
一方、中国に次ぐ輸出市場国の米国は月により前年比伸び率の変動は大きかったが、22年5、6月に2か月連続で微減になり、7月は6.2%減の顕著な減少になった。米国は物価対策で金融引き締め政策に転換し、22年3月に政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利を引き上げ、その後も段階的に引き上げている。物価抑制の実現には景気を冷やす必要があり、当面は金利引き上げで米国向け輸出は減少傾向が続くと予想される。
これらの国・地域に対し、EU輸出数量指数は基調として増加を続けており、前年同月比で22年7月は17.4%増と6月の6.7%増から急増で、21年9月の15.4%増以来の高い伸びである。EUは日本の輸出に占める割合は低いが、輸出数量指数の減少を微減に留めている。しかし、経済は米国以上に厳しい環境にあり、米国に追随する金融政策の転換 で、これまで増加基調であった輸出数量の減少は避けられない。
EUの消費者物価上昇率は米国同様に前年比10%増近くまで高まっている。ロシアのウクライナ侵攻に対して反対していることへの報復として、ロシアがEUへの天然ガス供給を抑制している影響で、既にエネルギー価格が高騰している。さらに、エネルギー需要期の冬に向けて米国以上に今後もエネルギー価格は上昇する見通しである。
消費者物価上昇率は米国同様に前年比10%近くなり、物価対策から欧州中央銀行(ECB)は米国より遅れて7月に主要政策金利の引き上げを実施した。天然ガス価格、そして天然ガス不足で輸入を増やしているLNGの価格上昇に加え、天候異変による水不足で電力不足に陥っている。物価上昇と電力不足による経済活動の低下で、これから景気が急速に下降に向かう可能性が高い。エネルギー問題から判断すれば、EUへの日本の輸出は減少に転じ、回復は短期的には見込めない。
輸出は数量指数で中国経済が深刻な事態にならなければ、アジアは微減程度で済む可能性はある。それでも、米国やEUが顕著な減少予測の下では、輸出の大幅な減少は避けられない。
一方、内需はもともと力強さに欠け、特に低迷を続ける個人消費の見通しは厳しい。消費者物価上昇率が海外と比べれば大幅に低い前年比2%台の上昇率でも、収入の伸びはそれを下回り、実質ベースの収入は前年を下回るマイナスの推移である。政府への信頼性が低い中では、消費支出抑制が強まり、個人消費は着実に減少に向かう可能性が高い。
輸出額と数量指数との前年比伸び率格差に見られるように、輸出数量が増えなくても輸出企業が受ける円安の恩恵は大きい。しかし、それを享受するのは輸出企業だけで、輸出産業界全体には広がらない。
輸出産業の代表、自動車産業で見れば、円安は企業収益の増益要因になるが、その恩恵を受けるのは自動車を輸出する大企業の完成車メーカーだけだからである。下請の部品製造企業の中小零細企業の部品価格、加工賃には反映されない。もちろん、円安で輸入原材料価格の上昇によるコスト上昇分は引き上げられているだろうが、部品製造企業の収益増までは考えられない。
個人消費に結び付く給与でみれば、完成車メーカーは収益の一部を主に一時金の形で正規職員の給与に反映させているだけで、賃金の基本になる給与の引き上げは抑えられている。当然、下請の部品製造企業は収益増にならなければ、給与は上げられない。これらの従業者の方が数は多いわけで、これでは円安効果の消費への波及はごく一部に留まる。この関係は民間設備投資でも同様で、輸出産業界全体が投資を活性化することは期待できず、内需の見通しも厳しくなる。
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銃殺された安倍元首相の葬儀を9月に国葬にすると閣議決定されたが、多くの反対意見がある。分野によって評価は異なると思うが、経済政策のアベノミクスをGDP統計で評価し、国葬に値するかどうかを考える。アベノミクスは金融緩和で流通するお金の量を増やし、デフレマインドを払拭する「大胆な金融政策」、政府が自ら率先して需要を創出する「機動的な財政政策」、規制緩和等によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会にする「民間投資を喚起する成長戦略」の3本の矢からなる。当初から金融・財政政策のマイナス面を懸念する声はあったが、日本経済に閉塞感が漂う中で、これらの大胆な経済政策への期待は大きかった。
第2次安倍政権が発足したのは2012年12月、安倍首相よって日本銀行総裁に黒田氏が就任したのが13年3月、そして同年4月に異次元といわれる「量的・質的金融緩和政策」が導入されたことから考えれば、13年度がアベノミクスの開始年と判断できる。
一方、安倍首相が辞職したのは20年9月、また、ダイヤモンドプリンセス号内で新型コロナウイルス感染症の集団発生が発生したのはその半年ほど前の同年2月、コロナ対策の緊急事態宣言が最初に行われたのが同年4月であった。コロナによる異常事態は20年度からになり、この年度を除いた19年度まではアベノミクスの下で経済運営、つまり安倍元首相の責任期間と判断できる。
12年度を基準に19年度までの7年間の日本経済の実質GDP成長率は年平均で1.0%増でしかなく、19年度が景気後退期でマイナス成長であったことを考慮して18年度までの6年間の平均成長率でみても1.2%増でしかない。年率1%前後の経済成長でしかなく、低成長からの脱出には成功できていない。アベノミクスが経済成長を高められなかったことは以前から指摘されている。
海外の経済環境は08年のリーマン・ショックを契機とする世界的な大不況があり、そこからの回復が10年の欧州ソリブン危機(または債務危機、通貨危機)で一時中断したが、その後は世界経済が再び、回復に向かっていた。世界経済の回復期に第2次安倍政権が発足したことから考えれば、日本の経済政策が特に変化しなくても、年率2、3%増程度の成長が数年続いても驚くことではなかったと推測できる。
この間の年度別の推移とその変化要因を主要需要項目から分析すると、年平均1%増程度の成長にしかならなかった理由がよく分かる。第二次安倍政権の経済政策の初年度になる13年度の実質GDP成長率は、前年度比(以下同じ)2.7%増と比較的高い成長率になった。需要項目別では民間最終消費支出2.9%増、民間住宅8.6%増、民間企業設備5.4%増、公的固定資本形成(公共投資)8.5%増と、いずれの内需項目も高い伸びである。一方、輸出の伸びは4.4%増に留まり、内需主導の成長である。
ところが、これは一時的現象でしかなく、初年度の経済成長率が比較的高くなったことがアベノミクスは成功と誤解を生む要因になった。それは翌年の14年度の成長率を見れば明らかで、14年度は0.4%減のマイナス成長に転落している。民間最終消費支出2.6%減、民間住宅8.1%減になったためである。原因は消費税が14年4月に5%から8%に引き上げられたためで、13年度の民間最終消費支出と民間住宅が高い伸びになったのは駆け込み需要が発生したからで、逆に、その反動減が14年度に生じたからである。
3本の矢のうちの、大胆な金融政策による金融緩和で株価が上昇し、その影響が13年度の民間最終消費支出と民間住宅を膨らませる効果があったかもしれないが、それは部分的でしかない。株高の恩恵は一部の人に留まり、14年度の反動減がそれを表している。
一方、民間企業設備は14年度も2.7%増であり、段階的に進めてきた法人税減税による資金面からの支援で、民間投資を喚起する成長戦略が効果を発揮していたように見える。しかし、リーマン・ショック後の落ち込みで、民間企業設備は先行ピークの06年度の87.2兆円から、09年度は72.2兆円へと17.2%も縮小していた。低水準からの回復で、14年度でも84.2兆円でしかなく、先行ピークを越えたのは87.8兆円になった16年度である。企業は減税で収益を上がっても設備投資や労働者の賃金引き上げに回さず、内部留保で貯め込んでいるのが実態で、これはマスコミもよく批判している。かつ、法人税減税による税収の減少を埋め合わせるため、消費税は19年10月にも10%に引き上げられ、民間最終消費は長期的に低迷し、少なくとも全体としてプラスとは言えない。
また、機動的な財政政策による積極的な公共投資で、13年度の公的固定資本形成は需要項目の中で8.5%増と最大の伸びになり、経済成長を牽引した。ところが、これは1年だけで、14年度2.3%減、15年度1.3%減と2年連続の減少である。13年度経済はアベノミクスが成功し、14年度は抑制したとしても、GDP成長率がマイナス後の15年度は増やすのが当然である。2年連続のマイナス後の16年度はプラスだが、0.5%増でしかない。
結局、金融緩和だけが堅持され、株式市場への投資資金流入は続き、株高によって株式投資する高所得者を潤した。それが高額商品の需要に結び付く効果はあっても、民間消費支出全体で見ればほとんど影響はない。同時に、不動産価格も上昇したが、低金利によって住宅需要が増えて価格上昇になったのではなく、民間住宅は12〜19年度の平均成長率で見れば0.4%増の横ばいでしかない。人口減少の影響があるとしても、タワーマンションブームがマスコミで話題になるだけで、住宅需要にも低金利の効果はなかった。
それよりも、金融政策は2年間で2%程度の消費者物価上昇を目標としていたが、それが実現できないことは2、3年で明らかになっていた。それでも金融緩和が今日まで維持され、世界的にインフレ対策から金融引き締め時代に入っても、日本だけが低金利で大量に発行してきた国債対策から金利を引き上げられないままである。結果、為替レートが円安になり、国際商品市況の高騰と合わさって物価上昇をもたらしている。
世界的な物価対策の金利引き上げで世界経済は不況局面に入り、需要の減少から国際商品市況はピークを打って値下がり傾向にある。しかし、日本は円安によって円ベースの輸入価格は下がらず、国際商品市況が大幅に値下がりしない限り、小麦のようにこれから値上げされるものもあり、物価は当面、高止まり傾向が予想される。
また、故安倍首相が成果として主張していた雇用の増加は数量ベースではその通りだが、雇用増の多くは女性と高齢者であり、低賃金、かつ雇用保証のない非正規雇用である。それが日本の労働生産性向上を妨げる要因になっている。かつ、正規雇用者の賃上げ率も低く、国民は収入が増えない中で生活水準の低下が避けられない。結果として、将来の生活不安は高まり、現在ではアベノミクスのマイナス効果だけ残った形である。これから判断すれば、故安倍首相は国葬に値しない。
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為替レートは昨年後半頃から円安傾向が見え始め、それまでは1ドル=100円台の推移だったが、110円台前半へと下降し、年明け後は110円台後半から、3月末頃には120円台の推移になった。そして、6月末頃は130円台半ばになり、円安に歯止めが掛からない状態にある。国際商品市況の高騰に加えて円安の影響で、消費者物価上昇率は昨年9月から前年を上回るようになってきた。今年の4月、5月は2カ月連続で前年同月比2.5%増まで上昇し、個人消費、延いては日本経済に悲観的な見方が広がっている。
前回のこのレポート「良い円安はあるか」で、国の価値を引き下げる円安が良いわけがないと書いたが、円安を評価する意見が相変わらず存在する。以前よりは賛同者が減っているが、円安で海外に出て行った日本の製造業の海外流出が止まり、さらには海外に立地した工場が日本国内に戻る。結果、日本の製造業が復活し、輸出増の一方、輸入減で日本経済の成長率も高まるという論理である。しかし、それが実現していないことは、これまでの日本の実態から明らかである。
以前から円安時にこの論理が何度か主張されてきた。最近では、アベノミクスで円安が進んだ時も同様の意見があり、アベノミクスで日本経済の復活の要因の一つとして挙げられていた。何度も同じ意見が繰り返されるのは、その正誤の確認までに時間が掛かり、それが明確になる頃には人の関心が薄れているため、何度も同様の意見が現れる。
具体的に企業が海外で工場の新増設を計画し、その時に円安になって国内での立地が適切として、国内での新増設に切り替える、さらには海外工場を閉鎖して国内に戻す可能性は否定できない。しかし、現実にはそれは例外的であるため、日本の輸出に影響しないが、その認識が広がらない。工場、製造設備が完成して日本の輸出入に反映するまでには短くても2、3年は掛かる。
円安から2、3年も経てば為替レートと工場立地の関係を論議する人は居ないためで、それを主張した人は過去の主張は間違っていたと認識してもても口をつぐむ。誤りを認めて反省する経済専門家を見たことがない。まだアベノミクスを覚えている人は多いと考えられるため、この間の日本の輸出入動向から製造業立地の円安効果を判断し、円安に期待するのは無駄なことを示したい。
第2次安倍政権が誕生したのは2012年12月、そして、黒田日銀総裁が就任したのが13年3月で、同総裁は4月に「異次元の金融緩和」とする量的・質的金融緩和によって、2%の消費者物価上昇を2年程度で実現すると宣言した。
消費者物価の上昇は実現しなかったが、為替レートには円安効果となって表れた。それ以前の09年10月、ギリシャの財政赤字の粉飾が発覚し、これを契機に始まった欧州債務危機の広がりで、円高が進んでいた。その後、欧州債務危機は11年末には最悪期から脱し、異常な円高が修正されつつあったところに、日銀の量的・質的金融緩和政策が加わり、円安が急速に進んで定着してきた。これを受けて海外に立地した工場が日本国内に戻るため、日本経済は回復、発展する、アベノミクス効果という評価が出てきた。
図に見るように、為替レートの円安は14、15年頃には定着し、その影響を貿易統計で確認するまでには時間が掛かるが、それを考慮しても、現在はそれから少なくとも5年以上は経っている。企業の工場立地戦略が為替レートの円安の定着で国内に回帰しているとすれば、それが統計の数字に反映するまでには十分な期間である。
輸出入を00年から数量指数(2015年=100)の推移で見ると、輸出は上下変動が大きく、特に08年9月のリーマンショック前、米国がバブル景気を謳歌した07年が最高水準である。その後の世界景気の回復で伸びているが、リーマンショック後のピークの18年でも07年水準を13.2%も下回っている。アベノミクスの円安で生産能力が拡大していれば、その輸出圧力で伸びが高まると予想できるが、そうはなっていない。むしろ、基調としては微減の推移で、今後も17年水準を上回る可能性はないと予測できる。
円安で海外販売製品を国内生産に転換した場合、輸出が伸びなければ、円安で輸出の採算は良くても、遊休施設の増加で経営は厳しくなる。そのような事例があればマスコミでも取り上げられるが、見当たらないことから考えれば、円安で国内に回帰した輸出工場はほとんどないと判断できる。
逆に、輸入数量指数は上下変動しながら増加基調にある。足下のこの2、3年はコロナの影響で低迷しているが、工場の国内回帰による生産・供給拡大の影響で輸入減少の可能性よりも、国内景気の不況による需要低迷を反映している。過去ピークは18年であり、脱コロナで景気が回復すれば、18年を上回ることは十分予想できる。
いずれにしても、14、15年年頃からの円安定着は、少なくとも輸出や輸入の基調に影響を与えるほど、工場立地に変化をもたらしていない。日本の海外立地は低賃金労働力を求めて発展途上国への移転から始まったが、近年は市場立地型に変化してきており、これは為替レートの影響を受け難い。もちろん、低賃金労働力を求める立地は現在でも存在するが、日本は円安といっても、まだ発展途上国と競うほどの低賃金ではない。
一方、円安が輸出に直接的に影響する分野はある。それは観光によるインバウンド需要で、これは円安効果が直接表れるためで、特に20年まで急増した経済発展で所得水準が向上したアジアからのインバウンド需要は、コロナ後の入国規制緩和で今後も期待できる。ただし、その要因が日本人の低賃金による低価格での商品・サービス提供であれば、経済発展として評価はできない。
また、最近は米中対立による脱中国や、コロナ禍の影響で世界的にサプライチェーンが混乱したことなどを、新しい日本回帰の要因として挙げる例もある。しかし、脱中国は中国以外の海外への移転になり、サプライチェーンを見直しても、コロナが終息すればコスト面から最適だったこれまでのサプライチェーンに戻ると予想でき、せいぜい海外での再編成になる。それよりも国内生産重視、サプライチェーンの見直しでは、日本人にとっては以前から言われていても進展しない食糧の自給率の向上が重要である。
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総務省が発表した4月の消費者物価指数(2020年=100)は前年同月比2.5%増となった。2%台の上昇は2008年9月の同2.1%増以来、13年7カ月振りになる。ただし、前回の08年は6月の同2.0%増から9月までの4か月間の2%台上昇で、ピークは7月の2.3%増であり、今回の4月はそれを上回った。 原油を中心とするエネルギー価格の上昇分だけで、この4月の2.5%増のうちの1.4ポイントを占めていたのに対し、前回の上昇時は1ポイント強である。エネルギー価格の上昇分だけ全体の上昇率を前回以上に引き上げたことになる。それよりも、前回は2%台上昇が4カ月で終わり、急速に沈静化したが、今回は2%台が続かなくても、上昇が長期化する可能性が高いのが懸念される。
前回の物価上昇は金融緩和による低金利で投機が活発化したことで始まったが、いつまでも投機が続けられるわけはない。07年頃には信用度の低い人に貸し付けるサブプライムローンの危機が言われるようになった。国際商品への投機をOPECのバスケット原油価格で見ると、2000年代に入って世界景気の拡大を受けて徐々に値上がりしていた価格が07年に加速が付き、08年3月には1バレル100ドルを超えるまでに高騰した。これは他の国際商品も同様で、日本の輸入物価指数(2015年=100、円ベース)も長期的に上昇基調で推移していた。
この影響で国内企業物価も上昇傾向にあったが、為替レートは安定、さらには円高(前年比上昇率ではマイナス)になっていたため、消費者物価への影響は軽微だった。当時は輸入物価、国内企業物価は長期的に上昇し、消費者物価は07年9月までは前年比ほぼ横這いで、10月以降から前年を上回るようになった。これに対し、今回は円安傾向が続き、為替レートが物価を引き上げる効果をもたらしていることに留意する必要がある。消費者物価は21年8月までは微減であり、9月から前年比増加になった。
前回は08年9月のリーマンショックでバブル崩壊が顕在化し、OPECのバスケット原油価格は7月上旬の140ドルをピークに徐々に下降に向かっていたのが、9月上旬に100ドルを下回り、10月以降は急落した。投機によって上昇していた他の国際商品の市況も同様で、輸入物価は8月の前年同月比27.2%増をピークに伸び率は低下し、11月には前年水準を下回るようになった。図には入っていないが、これを受けて国内企業物価は09年1月、消費者物価は同年2月から前年を下回るようになった。
今回は長期的に上昇していた前回の輸入物価と比較すれば、急激に上昇しているのが特徴で、それに引きずられて国内企業物価の上昇率も加速している。消費者物価は21年9月から前年比で上昇になり、22年4月に3月までの携帯電話料金の引き下げ効果が終わったこともあって、前年同月比2.5%増の高い伸びになった。 このため、携帯電話料金の影響を強調する意見が多い。しかし、輸入物価指数の前年比伸び率の推移を見ると、21年11月に前年同月比45.3%増で一度ピークを打っている。そして、22年3月の同34.0%増まで伸び率が下がり、4月は44.6%増とほぼ21年11月と同程度の上昇に戻っており、この影響は無視できない。
一方、今回の消費者物価上昇の大きな要因である原油は、OPECのバスケット価格で21年10〜11月頃に80ドル台前半まで上昇して一度、ピークを打った。12月には70ドル強の水準まで低下し、22年に入って再び上昇に転じ、2月後半には100ドル台に乗せ、その後は110ドル台へ穏やかな上昇基調で推移している。
輸入物価指数は同様に21年11月にピークになったが、22年4月の高い伸びは円安の影響が大きい。3月中旬からアベノミクスによる金融緩和を依然として維持する日本円の下落傾向が強まり、月間では4月が前年同月比15.5%減と、3月より6ポイント以上の大幅円安になっている。それが輸入物価を通して国内企業物価、消費者物価の上昇をもたらすため、4月の消費者物価上昇は携帯電話料金の要因だけではない。
かつて、円は金融危機や紛争など投資家がリスク回避する時に、避難通貨として買われる傾向にあった。しかし、前回のこの欄で指摘したように、日本経済の地盤沈下が顕著になり、それが世界的にも認識されてきた。このため、今回の2月から始まったロシアのウクライナ侵攻では、エネルギー逼迫予想から原油価格上昇をもたらす要因になった。その一方で、避難通貨でなくなった円は対ドルレートで値下がりしなくても、前回のように物価を引き下げる効果をもたらす値上がり、つまり円高にはならなくなった。
また、米国は21年央頃から物価上昇が顕著になるのに伴って金融政策の転換議論が活発化し、その実施が近づくにつれて原油価格は頭打ちから、値下がり傾向が見え始めていた。それが今回の侵攻で中断したが、米国の金利引締策は強化される方向にあるため、その影響で米国景気が頭打ちから後退に向かうと予測され、需要の減少から原油価格は値下がりが期待できる。
ただし、OPECにロシアなど非加盟の10カ国が参加したOPECプラスの結束力は崩れる傾向は見えない。このため、原油需要の減少に対しては供給減で対抗すると予想され、原油が顕著に値下がりすることは期待し難い。それでも、原油価格が値下がりすれば、日本の消費者物価への影響が大きいため、明るい材料になる。ただし、それが実現するにはまだ時間が掛かりそうである。
それよりも、新しく食料価格の上昇が問題になる。今回の侵攻でウクライナは小麦の輸出が困難になる一方、ロシアからの食糧輸入を抑制、禁止する動きが高まっている。また、米国の天候不順による穀物の不作で、家畜飼料不足にもなっている。食料品関連の国際商品市況が上昇し、食料品価格が軒並み値上がり傾向にある。
かつてのようにドル建て輸入価格上昇を円高で吸収する効果を期待できず、足下だけでなく、今後も食品原料価格の上昇見通しから、日本の食品メーカーの値上げ宣言が年明け以降、相次いでいる。石油製品は値上がりに対して、少しは節約で対抗できても、食品は節約するのは難しい。かつ、原油は需要減になれば、直ぐに値下がりが見込めるが、農産物生産は基本的に年単位になるため、影響が長期化する。
食品の値上がりに対して、収入が増えない現状では、消費者は少しでも安い店を探して購入するしかない。これが小売業に卸、メーカーの値上げに抵抗させ、消費者物価上昇を抑制する効果になる。それで値上げ幅は抑えられても、ゼロにはならないため、前年比2%台の消費者物価上昇がどこまで続くかは不明だが、原油主導から食品主導に変化しながら上昇が続くと見通される。当面、物価安定は望めない。当然、消費者は支出抑制の節約行動になり、輸出が伸びない限り、22年度の経済回復は厳しくなる。
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円の為替レートは対ドルで2021年の前半は100円台で若干値下がり気味の基調、つまり円安傾向で推移していた。後半には値下がり傾向が顕著になり、年末には115円前後まで低下した。そして、年明け後はその傾向が強まり、3月末頃には120円台、4月27日には130円台まで下落し、円安に歯止めが掛からなくなっている。
円安の速度が速いこと受けて、黒田東彦日銀総裁はこれを「悪い円安」として危機感を表明したが、現状を悪い円安とする前に「良い円安」があるのかを問う必要がある。基本的に円が安くなることは、国際比較で日本人が生産した物やサービスの価格が低下し、輸入する海外の物やサービスが高くなり、日本人の労働の価値が相対的に低下することを意味している。自らの価値が下がる円安を良いと考えること自体が正常ではない。
ただし、為替取引には投機が入るために、円が国際競争力から見て実力以上に上昇する場合があり、多くの輸出品・サービスの採算が取れなくなる事態もある。赤字でも市場確保のため、現地価格を値上げせずに輸出を維持する戦略もあるが、長期的にはできない。物やサービスの輸出価格を値上げすれば価格競争力を消失し、輸出ができなくなる一方で、輸入品・サービスは値下がりして増加し、国際収支が赤字になる問題が生じる。このような実力以上に上昇した円高に歯止めが掛かり、円安に転換するのは良い円安とする考えもできるが、それは行き過ぎた円高是正になる。是正と考えれば一時的な現象でしかない。
近年の円安の始まりは、12年12月に第二次安倍政権が発足し、その安倍政権下で13年3月に就任した黒田日銀総裁が、就任翌月4月に開始した異次元といわれる「量的 ・ 質的金融緩和政策」にある。この時、円高が終焉期を迎えていたのと金融緩和が重なり、急激に円安になった。
当時の円高の要因は、ギリシャの09年の政権交代によって国家財政の粉飾決算が明らかになり、ギリシャのソブリン(国債)危機が発生し、それが欧州全体に拡大したことにある。安全資産として円が買われたためで、欧州のソブリン危機が終息を迎え、円高が是正に向かっていたところに、過去例のない金融緩和を行った。この相乗効果で円安になったが、黒田総裁は政府と日本銀行の共通コミットメントとして、2%の消費者物価上昇を2年程度で実現すると公表していた。つまり、短期決戦であり、金融緩和が現在まで9年間も続くことは想定していない。円高是正を良い円安としても、9年も金融政策を維持して目標の2%上昇にほど遠い状況が続いてきた。その目的が長期的に達成されなければ、その理由説明が必要と思うが、何の説明もない。
円安は輸出産業・企業にとって価格競争面で有利、円高は逆になり、円高時には輸出産業・企業はこのままでは存続できないとして、政府に円安にするように求めて大騒ぎする。輸出産業の代表は自動車で、日本を代表する大企業が多く、また、消費財産業であり、広告も積極的に行っている。このため、政府やマスコミへの影響力が強いため、円高時には円安を求める声が拡大される傾向にある。逆に、円安に対しては反対する声が小さく、現在の日銀の政策に対しての状況もそうである。
この間の金融緩和も含めて安倍政権の政策、いわゆるアベノミクスは株価を引き上げた以外ほとんど効果がなかったことは、昨年あたりから国民にも認識されるようになってきた。ちなみに、図は国際比較するためにGDP成長率を暦年の数字にしているが、安倍政権下の13〜19年の9年間のGDP成長率は、単純平均で名目1.6%増、実質0.9%増、安倍政権の政策が本格的に浸透したのは14年からの8年間としても、名目は1.6%増と変わらず、実質は1.0%増と僅かに高くなるだけで、及第点からはほど遠い。マスコミの責任もあるが、この実態を国民が知るようになったのは昨年か、一昨年頃からである。
政策は国内の経済成長率だけでなく、国際的な地位からの評価も重要である。国際比較で自らの価値が下がる円安が良いわけがないことは、一人当たり名目GDPで国際比較すればよく分かる。日本の一人当たり名目GDP世界ランクが最も高くなったのは、最近では2000年の第2位で、これは1988年に次いで2回目になる。その後はこれを回復できず、逆に10番台から20番台へと順位を下げている。近年は13年以降、20番台の推移で、21年は14年に続いて28番の最下位になった。その時々の順位で一喜一憂しても意味があるとは思わないが、基調として低下しているのが良いわけがない。
人口は短期的に大きく変化しないため、世界比較の一人当たり名目GDPは名目GDP成長率と為替レートの影響が大きい。日本は物価が安定しているため、実質GDPが低成長であれば、名目GDPも低成長になる。その一方で、物価の安定は為替レートの円高要因になる。
為替レートはその時々の状況で変動するが、当然、図に見るように一人当たり名目GDPの世界順位は円高時には上昇し、円安時には低下する。黒田日銀総裁の金融緩和政策導入で円安が加速していた13、14年は、世界順位を下げ、その後は円安の一服状態で順位は横ばいから持ち直し傾向になっていた。しかし、21年は円安に加えて、コロナウイルス対策による景気の落ち込み後の回復で、世界から取り残された結果、14年に続いて2度目の最低記録である。
最近の円安は世界的に物価上昇対策で金利引き上げが進む中、日本はコロナ後の景気回復の遅れに加え、膨大な赤字国債を抱えた状況で、国債費の増加を避けるために金利を引き上げ難い問題がある。今後も内外の金利格差は拡大し、黒田日銀総裁が悪い円安と非難しても一段の円安が予想される。結果、22年の一人当たり名目GDPの世界順位はこれまでの20番台から30番台にまで低下する可能性が高い。
経済成長率が低いのはもちろん、一人当たり名目GDPの世界順位が低いのを喜ぶ国民はほとんどいないと思う。黒田日銀総裁がこれまでは良い円安だったと言っても、実態は低経済成長で、かつ世界順位は低下していなくても低水準横ばいであった。喜んでいたのは円安で利益が増える輸出企業・産業だけである。
第2次安倍政権以前は長期的に円高基調で推移してきた。円高は国際価格競争力の低下要因になる一方、輸出企業に競争力を取り戻すためにコスト削減努力を強いる効果を持ち、生産性向上要因にもなる。最近、日本の労働生産性が向上しない問題が取り上げられ、労働生産性への関心が高まっているが、円安はその要因の一つに挙げられる。いずれにしても、良い円安は存在しないと考えなければならない。
一方、ソ連のウクライナ侵略は容易に解決しそうにもないため、現在の政策を続ければ円安が進み、所得が伸びない状況で、消費者物価は上昇が避けられなくなっている。景気も不況に転落する可能性が高くなり、金融政策の転換が必要になっている。それで国債発行が難しくなっても、長期的な視点で無駄な財政支出の抑制になれば評価できる。
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国土交通省から2021年の土地需給を反映する1月1日時点(以下、各年同じ)の22年地価が公示された。ただし、地価は土地需給だけでなく、金融政策の影響が大きく、近年の金融緩和では実需以上に高地価になる。国土交通省の公示価格は住宅地、商業地、工業地があるが、工業地は新型コロナウイルスの影響は軽微と考えられ、住宅地と商業地の地価から三大都市圏の新型コロナウイルスの影響をみる。
まず、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の大部分と茨城県の一部)、名古屋圏(愛知県の名古屋市およびその周辺市町と三重県の一部)、大阪圏(大阪府の大部分と兵庫県の神戸市、京都府の京都市の両市およびその周辺市町、奈良県の一部)の三大都市圏と全国平均と比較する。
図に見るように、地価は新型コロナウイルスの影響を受けなかった21年まで、長期にわたる金融緩和で上昇してきた。三大都市圏は大阪圏の住宅地を除いて全国平均を上回る上昇で、全国的にみても大阪圏の住宅需要の不振が目立っている。この20年12月1日付けの経済レポート「維新の大阪の経済政策は効果があったのか」で示したように、大阪府経済の地盤沈下を反映している。大阪圏経済の動向は大阪府経済とほぼ同じである。
一方、商業地の地価は大阪圏経済の地盤沈下にもかかわらず、16年以降、20年まで三大都市圏で最も高い伸びを維持していた。商業地の地価は地域の経済状況だけでなく、地域外からの需要の影響を受ける。この間、為替レートの円安で日本商品・サービス価格が国際比較で下落する一方、中国をはじめアジア地域が急速に経済発展し、それに伴って個人の所得も伸びてきた効果で、海外からのいわゆるインバンド需要が急増してきた。大阪圏では大阪の雰囲気がアジア人をはじめ外国人を引きつけ、また古都京都は昔から海外でも人気があり、インバンド需要効果が大きかった。
逆に、新型コロナウイルス対策による外国人の入国規制でインバンド需要が急減した21年は、全国的に商業地の地価が値下がりしている中で、大阪圏と名古屋圏の落ち込みが目立つ。大阪圏はそれまでの高い上昇率を保ってきたことから考えれば、落ち込みは軽微でそれほどで悪くはないという見方もできる。しかし、金融緩和が地価を下支えていることを考慮すれば、実態は厳しいといえ、それが22年の地価に表れている。
22年は新型コロナウイルスの影響が軽減された結果、住宅地、商業地のいずれも持ち直し傾向にあり、名古屋圏の回復が顕著であるのに対し、大阪圏は前年比横這いである。インバンド需要が立ち直らない限り、大阪圏の商業地地価の回復は期待し難い。世界的にみれば新型コロナウイルス対策が不要になるまでには時間が掛かる可能が高いと考えられ、外国人観光客数は最悪期を脱しても、急回復は期待し難い。今後、インバンド需要は回復傾向になると見込めても、正常化までには時間が掛かりそうで、大阪圏経済の回復も遅れると予想できる。
また、名古屋圏は20年まで住宅地、商業地のいずれも地価の上昇率は東京圏よりも低い傾向にあるが、住宅地の地価は大阪圏を上回ってきた。21年の下落率は東京圏、大阪圏より大幅だが、22年は商業地だけでなく、住宅地も顕著な回復である。
日本経済の産業構造から地域経済をみれば、サービス経済化を担う東京圏の経済成長率が高くなる。この構造変化は製造業の相対的な地盤沈下をもたらし、これまで日本経済を牽引してきた工業地域は衰退を余儀なくされる。そのなかで、製造業の比重の高い名古屋圏を含む中部圏は自動車産業、特に世界1位の自動車メーカーにまで成長したトヨタ自動車の比重が高い。その効果で、大阪圏とは異なり、中部圏の中核になる名古屋圏の経済は、日本経済のサービス化にもかかわらず大阪圏と比較すれば地盤沈下を免れてきた。
しかし、長期的には電気自動車化による自動車産業の世界的な再編成が避けられない。電気自動車は部品点数が大幅に減少し、下請の企業数、従業者数も減少すると予想される。このため、トヨタ自動車が電気自動車でも成功し、現在の自動車メーカーの地位を維持できても、名古屋圏経済が現状のような住宅地、商業地の地価を三大都市圏の中で維持するのは厳しいと予想される。
また、新型コロナウイルス対策でリモートワークの拡大が予想されるようになり、それが人口の地方分散を通して東京一極集中構造にも影響するという意見もある。東京一極集中から分散化すれば、東京圏住宅地の地価の下落、または相対的に上昇が抑えられることになる。22年の地価ではその現象は見えず、人口統計からは東京都から周辺3県への移住が見られる程度である。
周辺3県からその先にまで移住になれば、東京一極集中構造の解体が始まったと言えるが、現状のリモートワークではそこまでは予想できない。週に何回かのリモートワーク程度では、会社への通勤時間から遠距離への移住は難しい。
もちろん、出勤がほとんどなくなれば、全国どこでも、さらには海外への移住も可能になる。一方、会社に出勤しなければ、多くの人は単に労働力を提供する存在になって生じる疎外感や、企業組織人としての意識の維持などが問題になる。それが実現すれば、真の‘新しい資本主義’になるが、あり得ない。
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2021年10〜12月期の実質GDP(1次速報の季節調整値)は前期比1.3%増と7〜9月期の0.7%減から2四半期振りのプラス成長になったと、内閣府が発表した。9月までに緊急事態宣言・まん延防止等重点措置等が解除された効果で、1.3%増は年率では5.4%増になり、比較的高い成長といえる。その一方で、事前に予想した成長率見通しを下回ったという専門家の意見もある。
需要項目では民間最終消費が前期比で2.7%増と比較的高い伸びになり、このほか民間設備投資0.4%増や輸出1.0%増がプラス成長になった。これらの統計からは順調な回復のように思えるが、21暦年の実質GDP成長率は1.7%増に留まる。これまでの2年間は19暦年0.2%減、20暦年4.5%減であり、21暦年はピークの18暦年の水準を3.1%も下回る。3年間は水面下にあり、4年目の22年暦年がピークを越えるがどうかが注目される。
海外と比較すると、例えば米国は19年2.3%増、20年3.4%減から、21年は5.7%増と19年水準を回復しており、日本は回復の遅れが顕著である。アベノミクス下で株価が上昇して浮かれていても、10年代の日本経済の成長率が海外と比較して低成長だったことは、昨年頃からマスコミでも取り上げられ、一般的に認識されるようになった。今回の新型コロナウイルス禍の影響下でも同様の状況にある。
この21年の状況をコロナ影響前の19年と比較して特徴をみるため、四半期別に20年と21年の2年間、GDP主要需要項目の原数値で2年前同期比伸び率の推移をみてみる。図から分かるように、16〜17年のブーム後、微減から減少傾向が続く民間住宅建設は別として、他の需要項目は最初の緊急事態宣言発令の影響が顕著に現れた20年4〜6月期に大幅に落ち込み、その後は一進一退の回復傾向にある。
それでも、季節調整値で順調な回復になった21年10〜12月の実質GDPは2年前同期比0.2%減で、まだ2年前の19年の水準を回復していない。かつ、19年10〜12月期は10月1日からの消費税10%への引き上げの影響で民間最終消費が落ち込んだ時期になり、実質GDP成長率は前年同期比1.7%減(2年前同期比では1.9%減)である。これから評価すれば、順調に回復しているとは言えない。
民間最終消費は19年10月からの消費税引き上げで、19年10〜12月期が前年同期比2.6%減と落ち込んだ反動で、2年前同期比で21年10〜12月期は0.3%増と19年7〜9月期の1.1%増以来、9四半期振りのプラス成長である。3年前の18年10〜12月期に対しては2%強下回る水準でしかない。
また、輸出も21年10〜12月期は2年前同期比で0.1%増と僅かだが19年水準を回復している。これも2年前は米中問題で輸出が減少した時期に当たり、19年10〜12月期の輸出の前年同期比は1.9%減である。
22年の年明け後に沖縄・山口・広島県からは始まったまん延防止等重点措置の適用の影響で、2年前同期比で22年1〜3月期の民間最終消費は回復中断になり、実質GDPはマイナス幅の拡大が予想される。結局、21年度の実質GDPは新型コロナウイルスの影響が最も大きかった20年度からは回復しても、19年度の水準を四半期で一度も上回らずに終わる可能性が高い。
22年の4月以降は新型コロナウイルスの影響が薄れるとして、どの需要項目が日本の景気を牽引するかが問題になる。日本の実質GDPは消費税の引き上げによって暦年、年度のいずれも18年が先行ピークになり、22暦年・年度はそれを回復できるかどうかが注目されるが、2月末のロシアのウクライナ侵攻がなくても厳しい見通しだった。
ちなみに、22暦年の実質GDPが18暦年を超えるには、速報値の21暦年から3.2%増成長が必要になる。最近の日本経済の成長率から考えれば、かなりの高成長になり、実現困難と思える。その一方で、21年は新型コロナウイルスの影響がまだかなり残っていたことから考えれば、その影響がほぼ一掃されるプラス効果を見込めば、十分可能とみることも可能である。
日本経済が成長するためには、比重の高い需要の成長が欠かせない。22暦年の実質GDPの構成比でみると、民間最終消費53.9%、政府最終消費21.5%、輸出19.1%、民間企業設備15.8%などが大きい。これらを合計すると100%を超えるが、GDPにはマイナスの需要項目になる輸入18.9%が含まれているためである。この中で、ほとんどが公務員の人件費の政府最終消費を除き、景気との関連性が強いのは民間最終消費、輸出、民間企業設備の3需要項目になり、この3つを合わせれば全体の9割を占める。
最大需要項目の民間最終消費(実質)は名目の収入額と物価上昇、消費性向などで決まるが、名目の収入は影響の大きい春闘賃上げ額が大幅に増える見込みはない。また、物価はロシアのウクライナ侵攻の影響は別として、これまで世間で騒がれるほどの値上がりが実現しなくても、これからは上昇が予想される。少なくとも実質ベースの収入の増加率が高まるとは考えられない。この状況で生活の先行き不安が解消されるとは思えず、名目の収入の伸びを上回る支出増は基本的に予想できず、実質では物価上昇分がマイナス要因になる。民間最終消費で期待できるのは、新型コロナウイルスや部品不足による供給不足の影響で抑えられた消費の復活程度でしかなく、日本の景気を牽引するには力不足になる。
民間企業設備は景気と関係性の低いIT関連投資は別として、基本的には民間最終消費や輸出などが増加し、その生産のための新規・更新・拡大投資が盛り上がらないと高い伸びにはならない。つまり、民間最終消費に期待できなければ、輸出次第になり、輸出に景気回復の牽引役を求めるしかない。
輸出は米国経済が21年は順調に回復、成長してきたが、物価上昇から金融引き締めに転換しつつあり、先行き不透明になっている。中国経済もゼロコロナ政策によって行動制限される、また不動産不況の深刻化が懸念され、2大輸出市場の見通しが厳しい状況ではあまり期待できない。輸出数量指数を見ても既に21年9月以降、前年水準を上下するほぼ前年並の推移になっており、図のようにGDPの輸出も同様である。ただし、これには新型コロナウイルス感染による部品不足による生産制約や、海運の混乱の問題などもある。これらは徐々に解消に向かうと考えら、少しは明るい材料もある。
この状況で、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。両国からの日本への直接的な影響は小さくても、エネルギー、小麦の価格上昇が長期化すれば、消費者物価上昇を通して民間最終消費への影響は大きい。また、ロシアと関係の深いEU経済が影響を受ければ、それが日本に波及する。民間最終消費、輸出の見通しがより一層厳しくなり、22暦年・年度は先行ピークの18年を4年振りに超えるどころか、プラス成長も難しくなりそうである。
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消費者物価指数は総合の前年同月比で2021年9月に0.2%増と、13か月振りに前年水準を上回り、その後も徐々に伸び率が高まって11月0.6%増、12月0.8%増と伸び率の1%台乗せが近づき、物価上昇が懸念されるようになってきた。季節的要因で変動する生鮮食品を除く総合では11、12月の2か月連続で0.5%増だが、その一方で、携帯電話の通信料の値下げによる影響が1.5ポイントもあり、この要因がなければ日本銀行の物価上昇目標2%になる意見も見られ、物価が上昇していく雰囲気が広がりつつある。
消費者物価指数が上昇傾向になったのは、国際商品の原油や穀物、金属などの高騰に、新型コロナの影響による輸送コスト増も重なって上昇してきた輸入価格の国内価格への転嫁による。国際商品、特に国内価格への影響の大きい原油価格は年末に向けて頭打ち、値下がり傾向もみられたが、21年末頃からウクライナ問題で再び上昇傾向にある。 加えて、米国の金利上昇を受けて為替レートが円安傾向になり、輸入品価格の上昇一巡が止まった状態になっている。このような物価動向を受けて、日本銀行は22年1月の金融政策決定会合で22年度の物価上昇率見通しを従来の0.9%増から1.1%増へと引き上げている。
企業は輸入原材料の上昇を理由に製品価格引き上げを相次いで発表しており、マスコミもこれを受けて消費者物価上昇への懸念を強調する傾向にある。物価上昇が避けられない雰囲気作りが行われていると邪推したくなる状況である。13年頃に国際商品が今回と同様に高騰したときも、企業は製品価格値上げを発表したが、21年11月1日付のこの経済レポートに書いたように消費者物価は微増に留まり、ほとんど値上げは浸透しなかった。
基本的にはメーカーが製品値上げを発表しても、消費者に販売する小売が応じるかどうかが問題になる。消費者は日本経済が成長せず、所得が増えない状況で、かつ将来不安が払拭されないため、販売価格が値上げされれば購入を控える。値上げは売れ行きに影響することで、小売が仕入れ価格の引き上げに抵抗し、これが製品価格上昇への歯止めになり、値上げが実現する製品はあっても一部に留まる。小売業界は整理淘汰が進んでいても、まだ競争は激しく、値上げし難い市場環境にある。
一方、国際商品市況の高騰がいつまでも続くわけではなく、いずれは沈静化する。これまでも輸入原材料の価格上昇を企業努力で吸収するコスト削減努力をしている間に、国際商品市況の高騰が一巡し、元の状態に戻る傾向にあった。
今回の輸入物価は21年3月から前年水準を上回るようになったが、そこから10月までは消費者物価指数総合への影響はほとんど見えなかったことに対し、その要因として携帯電話の通信料値下げ効果が指摘されている。1.5ポイントと具体的に数字で示されている引き下げ効果は、20年=100の指数で20年12月は101.3、その後、政府の要請で21年4月から61.2、8月から56.0、10月から47.0へと段階的に大幅に引き下げられた。21年12月の前年同月比では56.3%減の大幅減少になり、携帯電話の通信料が消費者物価指数に占める比率は2.71%と小さくても、1.5ポイントもの引き下げ要因になる。
この要因が22年4月から解消に向かい、10月には無くなり、このマイナス効果がなければ21年12月は2%を上回る上昇という計算にはなる。ちなみに、中分類で携帯電話の通信料が含まれる交通・通信の消費者物価指数の21年12月は前年同月比7.5%減で、中分類で最大のマイナスの伸び率である。しかし、現実に22年10月から1.5ポイントの引き下げ効果がなくなるとは言えない。携帯電話の通信料は一時的な値上がりはあっても、基調として長期的に値下がり傾向にあり、1.5ポイントの引き下げ効果がゼロになる指数の47.0が続くかどうかは不明だからである。
また、携帯電話の通信料に見られる一時的な値下がりとは逆に、一時的な値上がりがある。消費者物価指数の中分類で20年と21年の12月の前年同月比伸び率を比較した図で分かるように、生鮮食品、光熱・水道、教養娯楽の3品目が20年の値下がりと21年の値上がりが顕著になっている。
生鮮食品は従来から季節要因で生産の変動に伴って価格が大きく上下する。不作では前年が豊作でなく平年作であっても前年比では値上がり、逆に、前年が不作であれば平年作でも値下がりになる。20年12月は値下がりだが、21年12月は野菜の不作や魚の不漁で値上がりしている。ただし、生鮮食品を年間で見れば21年は前年のほぼ横這いになる。22年の天候がどうなるかは不明だが、一時的な変動要因としては大きい。
光熱・水道の値上がりは原油に代表されるエネルギー価格の高騰に依り、原油価格は21年年初に1バレル当たり50ドル台に乗り、7月以降は70、80ドル台で推移している。ウクライナ問題で先行き不透明だが、国内価格ではドル建ての国際価格だけでなく、為替レートも影響する。為替レートは19年末頃の1ドル=109円前後から、20年末頃は104円前後の円高になり、この為替の円高で5%ほどの引き下げ効果になる。逆に、21年末は114円前後の円安で、ドル建ての原油価格の高騰に加えて1割近い円安による引き上げ効果が加わっている。
ウクライナ問題と予測困難な為替レートは別として、原油価格は需給が正常化に向かって22年の前半には光熱・水道の上昇が一巡するのではないか。もし、ウクライナ問題で原油価格の高騰が長期化すれば、世界経済が冷え込み、その後の国際商品市況を引き下げる。価格高騰が長期的に続くとは考えられないが、その終わりの時期は分からない。
教養娯楽はGo To トラベルによって20年9月から宿泊料が大幅に下がった影響が大きく、20年12月は前年同月比で減少した。反対に、21年1月からそれが中止された影響が21年12月に上昇として現れている。時期は未定でもGo To トラベルは再開が予定され、22年中には引き下げ要因になると推測できる。
これらの21年の値上がり要因の解消が、携帯電話の通信料による消費者物価指数1.5ポイントに匹敵するほどの影響力は考えられないが、一方的に値上がり要因だけを主張するのではなく、値下がり要因も考慮する必要がある。
基本的に所得が増えずに将来不安が高い状況では、消費の回復は期待できない。もし、消費者物価が徐々にでも上昇傾向を強めれば、消費は一段と冷え込み、物価引き下げ要因になる。もちろん、岸田新政権が求める賃上げが実現すれば、少しは消費者の行動も変わるかもしれないが、企業が急に賃上げに積極的になるとは思えない。このような環境では、消費者物価指数の前年比伸び率は一時的に1%台に乗ることはあるかもしれないが、年間を通してみれば0%台の後半にも達しないのではないか。日銀の物価見通しは常に過大である。
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2021年7〜9月期の実質GDP成長率(2次速報値、季節調整値)が前期比で0.9%減(年率3.6%減)と、1次速報値の同0.8%減、(同3.0%減)から下方修正された。GDP統計を作成している内閣府は下方修正の要因として、通常の1次から2次への基礎統計資料の追加以外に季節調整値の変更の影響などを挙げている。3か月前の9月1日付のこの経済レポートでも指摘したが、新型コロナウイルスの影響のように経済が大きく変動すると、季節調整が上手くいかない問題がある。
このため、3か月前のレポートと同様に、原数値でその影響のない2年前の19年との比較の方が、評価が分かり易くなる。原数値の実質GDP成長率は2年前年同期比で、最初に緊急事態宣言による自粛の影響が大きかった20年4〜6月期は、10.1%減と2桁台のマイナスになる。その後、この21年7〜9月期までの5四半期の推移は4.7%減、2.5%減、3.6%減、3.6%減、4.3%減となっており、20年10〜12月期までは回復傾向にあったが、その後は回復が中断した形である。
この間、主要需要項目のうち景気政策で増加してきた公的固定資本(公共投資)は別として、図に見るように2年前年同期比で減少幅が減少してきた、つまり回復傾向にあったといえるのは輸出だけで、その他は底這い基調である。特に、21年7〜9月期は季調値で前期比マイナス成長になったが、原数値の2年前年同期比も前4〜6月期よりも0.7ポイントと大幅ではないが、マイナス幅が拡大している。公的固定資本も減少に転じ、国内需要項目、輸出などが軒並み僅かでもマイナス幅を拡大したためである。特に、4〜6月期まで回復傾向が顕著だった輸出が頭打ちになった影響は大きい。輸出の回復中断は2か月前の10月1日付のこの経済レポートで取り上げたように、先行き不安材料になる。
ただし、21年10〜12月期は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除され、今後、再実施されても越年になる。解除によって7〜9月期より自粛内容が大幅に縮小されているため、特に、民間最終消費の回復が見込め、実質GDPの季調値の前期比成長率は顕著な伸びになる可能性が高い。また、22年1〜3月期以降もこれまでのような厳しい緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による自粛は予想されないため、輸出が回復すれば着実な成長が見込める。
21年7〜9月期の2次速報値の発表を受けて、民間予測機関が実質GDP成長率の21年度見込み、22年度予測を発表している。1年前の20年12月時点の21年度予測は4〜5月の緊急事態宣言が予想できなかったため、現時点で評価するのはほとんど意味がない。20年度の実質GDP成長率実績が新型コロナウイルスの影響で前年度比4.5%減の大幅マイナス成長になるのはどこも予想できなかった。主要需要項目では政府最終消費支出(ほとんど公務員の人件費)と景気対策で拡大された公的固定資本の公的部門がプラス成長になった以外、個人、企業の民間部門、輸出などはいずれも大幅マイナスで、特に輸出は同10.5%減の2桁マイナスである。
今回の民間予測機関の経済見通しは緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による厳しい自粛はないことを前提に、実質GDP成長率の21年度見込みはだいたい2.5〜3.0%増の範囲のプラス成長に収まっている。年度前半は速報値でほぼ確定しているため、後半はいずれも回復基調に戻ると見込み、10〜12月期の民間最終消費の回復力の判断が実質GDP成長率の格差になる。格差があっても、基本的な日本経済の成長性に関しての評価は基本的に大差がない。
22年度の実質GDP成長率はだいたい2.5〜3.5%増の範囲のプラス成長で、1年間の予測になって乖離幅が0.5ポイントから1.0ポイント程度へと拡大している。それでも内外の経済の見方に大きな差はみられない。また、21年度見込みと22年度予測で、21年度が高いと22年度も高い、逆に21年度が低いと22年度も低いというような関係性はない。各需要項目の積み上げた結果として成長率に差が出たという程度である。ちなみに、20年度の前年度比4.5%減から回復して実質GDPが19年度水準を超えるには、2.5%増を2年間続ける必要がある。これから考えれば、21年度3.0%増、22年度3.5%増の高い方の成長が2年連続しても回復スピードは遅いと言える。政府見通しは21年度見込み2.6%増、22年度予測3.2%増で、民間と大差はない。
需要項目で日本経済への影響が大きいと考えられる輸出の伸び率は、民間予測機関は21年度見込みで20年度の減少を取り戻す前年度比12%増前後の急回復予測でほぼ一致している。その一方で、22年度予測は同1〜8%増と格差が大きいのが特徴となっている。予想される米国を中心とする金利引き上げとその影響による世界経済見通しが、22年度の輸出予測格差をもたらしている。そして、この輸出予測格差は実質GDP成長率格差に反映している。その前に、現状はアジア、欧州、米国で新型コロナ感染が再拡大しており、民間予測機関が一致している21年度の輸出の伸び見込みは過大になる可能性が高い。
また、国民の関心が高い消費者物価指数は生鮮食品を除く総合で、21年度見込みは前年度のほぼ横這い、22年度予測は携帯電話料金値下げ効果の一巡で同1%増前後の上昇となっている。いずれも対ドル為替レートは横這いか僅かな円高の予測であり、最近の国際市況の高騰、または22年度も上昇傾向が続き、それが国内の消費者物価にも波及してくる見通しである。携帯料金効果は解消するが、1%の上昇は高過ぎるのではないか。これまでの消費者物価や人件費の動向から判断すれば、前年度比0.5%増を超える物価上昇は考え難い。
物価は消費者行動とも関係し、自粛の緩和で抑制を余儀なくされた消費の一部は再開されると期待できる。しかし、賃上げ額が高まるとは予想できず、将来不安が高い状況で、国民が消費に積極的になる条件はない。携帯料金効果の解消の一方で、国際商品市況の高騰も一巡が予想される。賃金が上がらず、可処分所得が増えない状況で、値上げに対する抵抗は弱まる要因はなく、これまでの物価状況が大きく変化するとは考えられないからである。もし、消費者物価の1%上昇が実現すれば、収入が増えない状況では民間最終消費を抑制し、実質GDP成長率を引き下げることになる。
また、新型コロナウイルス感染は国内では再拡大が避けられても、アジア、欧州、米国などで汚染が広がっており、世界経済の正常化は短期的には難しい。これらから判断すれば、いずれの民間予測や政府も楽観的で、21、22年度の実質GDP成長率はこれらの見通しを下回り、政府が見込む22年度実質GDPが19年度を上回ることはないのではないか。
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岸田新首相が経済政策で主張する新しい資本主義の実現に向け、「3%を超える賃上げを」求める発言をしている。それを受けてマスコミは3%を目標のように取り上げており、一般的には3%賃上げが政策目標として認識されているようである。以前、政権基盤が固まり、一強体制を強めていた安倍元首相も春闘を前に、2018年1月5日の経済3団体の新年祝賀会で「3%の賃上げ」を求める発言をしたことがあった、しかし、安倍政権下で3%賃上げが実現したことはなかった。自民党内や行政組織で独裁的な権力を持っていても、企業に対してはそれほどの力はなかった、または単に国民受けを狙っただけで、建前と考えれば実現しないのは当然と理解できる。
岸田首相の発言は新型コロナウイルスの影響で経営の厳しい企業が少なくないため、「業績がコロナ前の水準を回復した企業」に向けてである。対象となる企業は少数であり、政権発足当初から平均の賃上げ率は3%を大きく下回るのが前提になっていると受け取れる。
もし、3%が実現したとしても、それが厚生労働省調査の「民間主要企業における春季賃上げ」ベースと推測できるため、それでは不十分なことはこれまでの実績をみれば明らかである。日本経済を回復させ、着実に成長させるには、賃上げに伴う物価上昇や社会保険料、税負担の増加を考慮すれば、同じ3%でも全労働者平均での賃金、収入の増加に結び付く賃上げが必要と考えられる。
厚生労働省調査が対象とする民間主要企業は「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の労働組合がある企業」となっている。つまり、大企業であり、日本の労働者の約7割を占める中小零細企業の労働者は含まれない。一般的に、中小零細企業の労働者の賃金は大企業より低く、賃上げ率・額も少ない傾向にある。厚生労働省調査が民間主要企業を対象としているように、大企業は調査しやすく、その結果がマスコミにも取り上げられることが多い。それで全体を推し量ると判断を間違えるため、注意が必要になる。
民間主要企業の春季賃上げ率は02年の1.66%から13年の1.80%まで12年間、1%台に留まっていた。14年に2.19%と13年振りに2%台に乗り、その後、20年までは2%台を維持していたが、21年は1.86%と8年振りの2%を下回る低賃上げになった。この間で最も高かった賃上げ率でも15年の2.38%でしかなく、低賃上げが続いている。これから考えれば、3%は高賃上げになり、実現すれば1994年の3.13%以来になる。
この大企業の賃上げ率で労働者全体の賃金、収入がどうなっているかが問題になる。この実態を厚生労働省「毎月勤労統計」の事業所規模5人以上で、統計改訂後で前年比伸び率が算出できる13年からみる。事業所規模5人以上であれば小企業は含まれるが、より低賃金と推測できる零細企業は含まれない。
賃金の分類の中で景気変動による変化の影響を避けるため、給与規則等によってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって支給される給与の「決まって支給する給与」から、時間外手当、休日出勤手当等の「所定外給与」を差し引いた「所定内給与」を使い、これと民間主要企業の春季賃上げ率を比較する。また、毎月勤労統計で対象とする労働者のうち、1日の所定労働時間、または1週の所定労働日数が少ないパートタイム労働者以外を除いた一般労働者にする。これには正規の労働者以外に季節労働者、契約労働者などが含まれる。
春季賃上げ率は年度の収入に影響し、所定内給与は暦年統計の違いはあるが、低賃上げが続いている状況では、前年比伸び率で年度と暦年で大差はないと考えられる。13年から21年の1〜9月(各月の前年比伸び率の単純平均)まで、一人当たり所定内給与の伸び率は賃上げ率を1.5〜2.0ポイントほど下回って推移している。基調としてはプラスの伸びでも、13年と20年は微減でもマイナスの伸びで、最も高い伸びでも0.6%増でしかない。ちなみに、21年1〜9月を年間とした9年間と21年1〜9月を除いた8年間のいずれも単純平均で0.4%増でしかなく、社会保険料負担が増えていることを考慮すれば、所定内給与ベースの実収入はせいぜい横這いか、マイナスの伸びと推測できる。
また、景気の影響を受ける所定外給与や、賞与、報奨金などの特別に支払われた給与も含めた現金給与総額の前年比伸び率は、最大の18年の1.6%増から最低の1.7%減まで伸び率の幅は拡大しても、伸び率が賃上げ率を下回る推移であることに変わりはない。同様の単純平均では9年間と8年間のいずれも0.5%増になる。ちなみに、一般労働者の現金給与は20年の月額ベースで、総額41.7万円、所定内給与31.3万円である。
低い伸び率からみれば賃上げと所定内給与の伸び率の乖離は大きいと評価でき、その要因として大企業と中小企業の企業規模間の賃金格差以外にも複数ある。一般労働者に含まれる正規の労働者以外の一般労働者には賃上げしないか、しても賃上げ率が低い、また、所定内給与には基本給のほか職務手当、家族手当、通勤手当等の諸手当などなどが含まれ、これらの諸手当の減額、減少である。基本給を上げるために手当を減額している可能性があるほか、以前から未婚化が進んでおり、配偶者手当、そしてそれに伴って子供手当も減少する。子供手当は一人当たり額を引き上げた例は見当たらないため、長期的な出生数の低下に伴って着実に減っているのは確実である。
これらの要因の中で企業規模間格差の影響が最も大きいと思われ、中小零細企業の一般労働者は、賃金が低い伸びでも上昇していれば恵まれている方で、横這い、さらには微減でも減少しているところも少なくないのではないか。つまり、2%台の賃上げでは国民の大多数を占める労働者の賃金は増えないため、民間最終消費が日本経済低迷の主因になっている。景気対策で岸田首相が3%を超える賃上げを求め、大企業で3%の賃上げになっても、過去の実態から推計すれば労働者の収入はせいぜい1%増える程度でしかない。これでは日本経済を引き上げる効果は期待できない。
このような構造からみれば、新型コロナウイルスとは関係なく経済成長できない現状から脱するには、3%賃上げでは不十分で、少なくとも5%の賃上げが必要になる。それよりも構造転換、具体的には岸田首相の主張する分配政策に結び付く、親企業の大企業が下請の中小零細企業の労働者に、自社と同等の賃金が支払える加工費や部品価格に引き上げることが求められる。それには企業だけでなく、労働組合は現在の企業別組合から産業別組合に構造改革する必要がある。いずれも、現状では実現可能性は極めて低い。
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総務省発表の9月の消費者物価指数は、前年同月比で総合指数は1年1か月振りに前年水準を上回る0.2%増、日本銀行が物価目標にしている生鮮食品を除く総合指数は1年6か月振りの0.1%増となった。この上昇を受けて国際商品市況の高騰の影響によって消費者物価の上昇が始まった、さらには経済活動の停滞(不況)と物価上昇が重なるスタグフレーションに陥る、という見方が出ている。
しかし、工業用原材料や穀物などの国際商品市況の値上がりは消費者物価上昇の要因にはなるが、国際商品は消費者物価上昇要因の一部でしかなく、他の要因、特に人件費が大きい。前回の国際商品市況高騰時における主要商品の原油の価格と、日本の輸入物価、国内企業物価、消費者物価の動向を踏まえて、今回の特徴と今後の見通しから判断すれば、日本、世界の経済状況から消費者物価上昇の長期化や加速は予想できない。
前回の国際商品市況の高騰は2008年のリーマンショックによる市況暴落と世界的な経済不況後の景気回復で生じた。これをOPEC(石油輸出国機構)のバスケット価格の推移で見ると、バーレル当たりで08年7月3日の140.73ドルをピークに、08年12月24日の33.36ドルまで急落した。その後は世界経済の回復とOPECの原油減産で徐々に原油価格は上昇基調になり、投機も加わって11年2月からは100ドル台に乗せ、12年3月13日の124.64ドルがピークになった。そして、世界経済の悪化でピークを越えた後も、OPECによる共同減産で14年8月頃までは100ドル前後の高水準の推移になっていたが、オイルシェールの生産拡大によって減産効果が低下し、値下がり傾向が続いた。
原油価格のボトムは新型コロナウイルス禍で世界経済が影響を受けた20年4月22日の12.22ドルになり、その後、世界経済がウイルス禍から脱したわけではないが、経済回復によって原油需要は増加に転じている。その一方で、オイルシェール生産の頭打ちと原油減産の継続によって原油価格は持ち直し、今回の高騰では20年末に50ドル台に乗せ、このレポート作成時の21年10月には80ドル台まで上昇している。前回と比較すれば低水準と言えても、短期間での価格上昇が特徴として挙げられる。
減産が維持されているため、投機資金の流入で年内に100ドル台に乗せる可能性はあるが、抑制要因がある。潜在的なオイルシェールによる石油・ガス生産能力が重しになり、またウイルス禍の影響が解消するにはまだ時間が掛かり、今後は世界景気の回復速度の低下、さらには頭打ちも予想され、気候要因は別として需要の伸びが見込めないためである。
国際商品市況の消費者物価への影響を、国際商品市況を為替レートの変動も含めて反映する円ベースの輸入物価指数(「日本銀行」統計)、それが加工されて企業に販売される価格の国内企業物価指数(同)、最終段階の消費者に販売される消費者物価指数へと波及していく。当然、後者になるほど国際商品市況の影響は小さくなり、かつ、消費者物価指数には国際商品とはほとんど関係のないサービスの比重が高く、影響は一部に留まる。
前回の原油高騰時の12年から値下がり過程にあった15年の前半までを見ると、輸入物価指数は為替レートが12年末頃に円高から円安に転じた効果も加わって前年水準を上回るようになった。四半期で13年1〜3月期に10.6%増の2桁台の伸びになり、7〜9月期の17.8%増がピークで、10〜12月期は17.3%増である。その後は1桁台の伸び低下し、15年にはマイナスの伸びである。
これに対し、国内企業物価指数はピークでも14年4〜6月期の4.4%増でしかなく、15年1〜3月期からはマイナスに転じている。消費者物価指数はさらに低く、14年4〜6月期の3.6%増がピークになる。かつ、14年4月に消費税が5%から8%に引き上げられ、その影響が2%強もあったことを考慮すれば、実質的にはピーク時で1%台の上昇と推計できる。消費税増税がなければ、国際商品市況の高騰でもほぼ横ばい程度の基調になる。
国際商品市況の影響が消費者物価にほとんど影響しなかった要因として、消費者は所得が伸びず、将来不安が大きい中で節約志向を強めていたため、価格の引き上げが難しいことが挙げられる。最終製品の消費財価格が引き上げられなければ、それが上流の方にも波及し、国内企業物価へも抑制的効果になる。原油価格によって価格が決められる原油コストの比重の高いガソリンのような製品は例外的で、多くは需給状況の影響を受ける。
需給状況が悪ければ価格値上げは抑制され、企業は原材料コストの上昇を合理化で吸収する努力が必要だが、それよりも日本ではコストに占める比重の高い人件費が上がらない要因が大きい。消費者の大多数は労働者であり、日本の消費者が支出を抑制しているのは、賃金が上がらない、つまり収入が増えなければ当然で、その構造は現在でも変わらない。特に人件費の比重の大きいサービス業では料金は据え置きか、むしろ引き下げられる。
今回の国際商品市況高騰は新型コロナウイルスの影響が大きく、原油価格に見られるように短期間で高騰しているのが特徴になっている。20年は新型コロナウイルス感染対策で世界的に経済活動が抑制され、需要の減少で国際商品市況はほぼ全面安になった。そして、21年になると感染対策が進み、経済活動が再開されたことで市況は底入れから回復に向かった。ただし、感染者が減少しただけで、需要が元の状態に戻ったわけではない。その一方で、労働力不足、供給不足状態になり、潜在的な供給力はあっても需給が逼迫し、金融緩和による投機によって市況は底入れから短期間で急騰した。高騰要因としては労働力不足、コンテナ不足による海運コストの上昇もある。
21年7〜9月期の輸入物価指数は前年同期比で29.9%増と前回以上の大幅上昇で、これが消費者物価に波及し、インフレ懸念をもたらしている。この上昇率は前年の20年7〜9月期が11.3%減の大幅減であったのを考慮すれば、短期的な下落と反騰による一時的現象といえる。また、21年7〜9月期の国内企業物価指数も同様の要因で6.0%増である。
9月の消費者物価指数が前年同月比で1年1か月振りのプラス上昇になっても0.2%増でしかなく、むしろ、消費者の支出抑制行動は一段と強まっていると推測できる。これから考えれば、消費者物価指数の上昇に加速が付くとは考えられない。もちろん、国際商品市況の高騰が続けば別だが、消費者物価指数の上昇率がプラスを持続するとしても、日銀が目標とする2%はもちろん1パーセント台に乗るのも予測できない。
日本は消費者物価上昇からはほど遠いのに対し、多くの国で消費者物価が顕著な上昇傾向ある。世界的には物価対策から金融政策は引き締めの方向にあるため、国際商品市況は頭打ちから下落に転じる可能性が高まっている。世界の景気も転機を迎えており、また、感染が再拡大している国もあり、主要国際商品では気候要因による天然ガス・原油の値上がりを除けば、国際商品への投機も一巡し、今回の国際商品市況の高騰はピークを迎えつつあると推測できる。現状以上の大幅な円安にでもならない限り、日本の消費者物価が日銀の求めに応える可能性はほとんどない。
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10月1日から新型コロナウイルス感染対策の緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が全面解除され、その後も規制の緩和が期待できようになった。今回の第5波の感染がピークを過ぎ、急速に終息に向かっているのを受けての解除だが、ワクチンの接種だけでは感染は防げず、その感染時期や規模は不明でも第6波を予測する感染の専門家は多い。ただ、年内に規制が再強化されても以前よりは強いものは予想されず、10〜12月期や22年1〜3月期の内需は回復が見込める。その一方で、急速に回復してきた輸出の頭打ちの兆しが景気回復の不安材料になる。
輸出を貿易統計の輸出数量指数で見ると、2019年は世界経済の成長鈍化、米中貿易摩擦問題の影響などから、輸出全体は基調として前年比微減で推移していた。そこに新型コロナウイルスによって世界的に景気が悪化し、20年3月から前年同月比2桁台の減少率、さらに4月からは一段と悪化して減少率は20%台にまで低下した。
この状態が7月まで続き、8月には10%台の減少に戻し、その後は21年2月までは前年水準前後の水準で推移していた。そして、3月からは前年水準が低かったこともあって前年比で高い伸びになり、回復傾向になってきた。3月は10%台、4月20%台、5、6月は30%台にまで増加率が急上昇し、3月までの実績を踏まえて輸出主導の成長路線が期待できるとこの5月1日付けの経済レポートで書いた。ところが、増加率は7月20%台、8月(速報値)10%台と、急ブレーキが掛かっている。
増加率は減少率との比較で、減少時に分母が小さくなっているため、減少前の水準に戻れば減少率よりも増加率が高くなり、率の比較だけでは評価を誤ることになる。このため、19年と21年の輸出貿易指数を比較すると、6月は107.0、106.7で、21年はまだ19年水準を回復していない。7月に21年が108.2になり、19年の105.7を上回り、8月も21年98.2、19年95.1である。微減だった19年の水準をようやく上回ったところで、1か月だけの結果だが伸びに頭打ち傾向が見られる。これから輸出の頭打ちが予想されるのは海外経済の状況による。
国・地域別で見ると、今回の輸出の回復は輸出全体の2割以上を占め、最大の輸出市場の中国が先行した。中国は都市のロックダウンと徹底的な感染者の発見と隔離に取り組み、コロナの影響を抑制し、政府の経済対策でいち早く脱出するのに成功したからである。中国輸出数量指数は20年7月から前年水準を上回り、9月から21年7月までは前年比2桁台の増加だったが、8月は5.9%増と1桁台の増加に留まり、世界全体の伸びを下回った。
中国に続いて輸出全体の2割弱を占め、第2位の米国は21年3月から回復基調になった。米国輸出数量指数の21年5、6月の前年同月比増加率は前年がほぼ半減していた反動増で、77.7%増、79.8%増と異常ともいえる伸びである。それでも19年の5、6月の93.6、110.2に対し、21年の両月は86.6、105.0であり、19年を下回っている。21年7、8月の増加率は19.5%増、13.2%増に留まり、20年の両月の21.5%減、20.1%減の減少率よりも小さく、19年水準を下回ったままである。
中国と米国の2か国で日本輸出の約4割を占め、この2国への輸出が回復に転じたことで、輸出主導による日本経済の回復が期待できた。それらが頭打ちになれば日本経済の回復にも影響する。輸出の最悪期は脱したとはいえ、輸出市場の経済が順調に回復、成長しないため、先行ピークを回復しない段階でもたついた状態に陥っている。原因は都市のロックダウンやワクチン接種だけではコロナ感染を防げないのに加え、経済対策のマイナスの影響が出始めているためである。また、世界的に取り組み強化が進んでいる地球環境対策による脱炭素で、エネルギー価格の上昇、電力不足が発生している問題もある。
新型コロナウイルス感染に関してはワクチン接種が先進国を中心に進み、現状より悪化するのを防ぐのは期待できるといえても、一進一退を繰り返しながら徐々に終息し、経済活動が以前の状態に戻るまでにはまだ時間が掛かると予想される。米国は9月の上旬の段階でワクチン接種率が1回60%台半ば、2回50%台半ばまで進んだところで、接種反対も根強いために頭打ち状態にあり、多くの未接種者が残る問題もある。
また、ワクチン接種でも感染するブレイクスルー感染もあり、ワクチン接種が進んでも規制を完全に緩和できず、輸出市場が元の状態に戻るにはまだ時間が掛かる。当然、集団感染で複数の感染者が発生すると、工場閉鎖に追い込まれ、生産が中断する。
中国はロックダウンで世界の中では相対的に感染を抑えられていても、完全には押さえ込めない。工業生産の中止だけでなく、港湾で感染が発生するとその地域の港湾作業が中断されるため、海運を通して世界に影響し、日本の輸出にも波及する。ロックダウンの必要性がなくなる状況になるまで海運の影響は残ることになる。経済対策で金融を緩和した効果で中国経済は回復できた一方、不動産市場がバブル状態になり、その対策から金融が引き締められている。結果、中国の不動産バブルが崩壊寸前にあるように、中国経済は変調しつつある。その影響が既に7、8月の日本の輸出に現れていると見ることもでき、それが短期的な現象で終わると考え難い。
いずれにしても、米国や中国の経済が順調に回復、成長しなければ、直接、間接に日本の輸出に影響し、輸出は減少しなくてもこれまでのような急速な回復は期待し難くなっている。その一方で、内需は規制の緩和で一定の回復は見込めても、急速に元に戻るとは考えられず、内外需共に回復力が弱ければ、当面、穏やかな回復しか見込めない。
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2021年4〜6月期の実質GDP成長率(1次速報値、季節調整値)が前期比で0.3%増(年率1.3%増)、前期の1〜3月期の3四半期ぶりマイナス成長の0.9%減からプラス成長に転じた。低成長でもプラスに転じた要因としては、GDPに占める比重の大きい民間最終消費が1〜3月期の1.0%減から4〜6月期は0.8%増に、同じく民間企業設備が1.3%減から1.7%増になった効果が大きい。
3か月前の6月1日付のこの経済レポートで、第3回緊急事態宣言の影響から民間最終消費のマイナスが続き、実質GDP成長率は2四半期連続でマイナス成長を予測していた。判断の誤りは消費が緊急事態宣言でも減少しなかったためで、国民への行動自粛要請、飲食店への営業自粛が守られなくなってきている影響と考えられる。ただし、マスコミの評価は消費の伸びが低いためか、消費ではなく民間企業設備の回復に注目して取り上げて強調している。おそらく、民間企業設備は企業の先行き見通しを反映するため、内閣府が1次速報値の発表のレクチャーでそれを強調したのを受けてだと推測できる。
ただ、現状は新型コロナウイルスによる20年4〜6月期のGDP成長率急落後の回復であり、季調値の水準や前期比の伸び率では客観的な実態評価は難しい問題がある。この場合、原数値の前年同期比の伸び率で評価する方法があるが、前年の4〜6月期がコロナの影響で大幅に減少した時期になるため適切でない。そこで、2年前の19年の同期比伸び率で景気の現状を評価する。2年前の19水準を回復すれば、新型コロナウイルスの影響から脱したと判断できる。
当然、比較対象にする19年の推移が問題になる。内閣府は18年10月が暫定だが景気の山と判断しており、19年は穏やかな下降局面の過程になるが、10月に消費税が8%から10%に引き上げられ、その影響で7〜9月期、10〜12月期に大きく変動した。ただし、4〜6月期までは成長率鈍化の穏やかな下降局面が続いていたため、この時期との比較では比較的客観的な評価が可能と考えられる。ちなみに、18年7〜9月期から19年7〜9月期まで5四半期の実質GDP(季調値)成長率の前期比成長率の推移は0.7%減、0.4%増、0.3%増、0.2%増、0.1%増である。
実質GDP(原数値)の対2年前四半期比は、20年4〜6月期に9.8%減と大幅に減少した後、7〜9月期4.5%減、10〜12月期2.3%減と減少幅は着実に縮小していた。ところが、21年1月の第2回緊急事態宣言と延長のあった1〜3月期は3.4%減と減少幅は拡大し、回復傾向が中断している。同期の季調値が3四半期ぶりの前期比マイナス成長に悪化しており、当然の現象である。
20年4〜6月期から10〜12月期までの主要需要項目の3四半期の推移は、民間最終消費の10.8%減、6.5%減、4.7%減、輸出の23.2%減、15.5%減、7.4%減の2需要項目が急速に改善し、実質GDP回復の主要になっている。そして、21年1〜3月期は民間最終消費が5.2%減と減少幅を拡大しているのに対し、輸出は3.8%減と改善傾向を維持している。つまり、最大需要項目の民間最終消費の減少幅の拡大が実質GDPの改善傾向の中断をもたらし、季調値と同様の動向である。
21年4〜6月期の実質GDP成長率(1次速報値、季調値)が前期比で0.3%増でも、4〜6月期の原数値の2年前の同期比では3.4%減と、1〜3月期と同じ減少率であり、回復しているとは言えない。また、民間最終消費は4.8%減、1〜3月期の5.2%減から僅かでも改善になるが、20年10〜12月期の4.7%減と同水準であり、低水準でのほぼ横ばいの推移になる。一方、4〜6月期の輸出は1.1%減にまで改善が進んでおり、7〜9月期には水面上への浮上が期待できる。
また、21年4〜6月期の季調値の前期比で1.7%増とプラス成長になったことで評価された民間企業設備は、原数値の2年前比では6.1%減である。1〜3月期の7.1%減より改善していても、20年4〜6月期まで5四半期連続でマイナスの水面下での低水準横ばいで、まだ改善からはほど遠い状態である。それでも、民間企業設備は輸出が増加傾向にあるため、今後に期待が持てる。その一方で、輸出製品の生産では、海外でのコロナ感染の再燃や半導体の供給不足の影響による輸出製品の生産中断などがある。輸出が再び悪化する事態までは考えられなくても、これまでの回復速度までは期待できず、民間企業設備への波及が懸念される。
全体としてみれば、コロナの影響の最悪期は脱していても、回復中断の横ばい状態にあると考えられる。7〜9月期も第4回緊急事態宣言とその延長下にあり、まだ終了が見えない。今回は終了したとしても、再度の緊急事態宣言がないとは断言できない。ワクチンで感染終了の見通しはないが、現状より悪化するとは思えない。民間最終消費の7〜9月期は1〜3月期、4〜6月期と同程度の水準で推移し、10〜12月期以降にはワクチンで改善するとしても穏やかな回復に留まり、本格的な回復は22年度に持ち越される可能性が高い。最大需要項目の民間最終消費の回復に期待できなければ、実質GDP成長率も同様の推移が予想される。
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財務省貿易統計の輸出指数は前年同月比で3月の12.6%増から、4月28.4%増、5月38.5%増、6月37.2%増と回復基調を強めている。景気回復で先行する中国、米国向けを中心に伸びているためだが、コロナ禍の影響で前年の2020年の4、5、6月が前年同月比で20%台の大幅減少が続いていた反動増効果もある。また、輸出指数は19年から減少しており、今年の4、5、6月が高い伸びでも、ようやく18年水準に戻っただけで、輸出回復から拡大に向かうのはれからである。そうであっても、コロナ禍の影響からの脱出が遅れている日本は、短期的には輸出主導による景気回復が見込め、輸出主導の景気は輸出を担う製造業が日本経済の牽引車として期待される。
製造業の動向を経済産業省の鉱工業生産指数(2015年=100、付加価値額)でみると、内閣府が2020年7月に発表した景気の暫定ピークの18年10月が先行ピークになり、同月の鉱工業生産指数(IIP、季節調整値、以下同じ)は105.6だった。四半期では10〜12月期の105.0になる。18年でみれば104.2になり、15〜18年の3年間で4.2%増、年率で1.4%増でしかない。ちなみに、実質GDPは、15〜18年の3年間で3.4%増、年率で1.1%増であり、いずれも景気ピーク前の成長期であっても低成長である。
先行ピーク後は輸出の減少に続いてのコロナ禍で、IIPは20年4、5月に急減して5月の77.2で底を打ち、20年11月までは急速に回復したが、その後は一進一退で回復基調にある。そして、最新の6月の速報値は99.3、先行ピークの18年10月の105.6の94%でしかない。今後もコロナの影響が残ると推測され、年内の景気、IIPの回復基調は現状程度の穏やかな回復に留まると予想される。
ちなみに、6月のIIPは前月比伸び率は6.2%増と高いが、5月が同6.5%減と急減した反動増効果が大きい。4〜6月期でみれば前期比1.0%増に留まり、コロナ禍からの回復が始まった20年7〜9月期からの四半期毎の推移は9.0%増、5.7%増、2.9%増、そしてこの4〜6月期は1.0%増で、回復の勢いは急速に衰えている。4〜6月期は輸出が急増していても、内需不振の影響からIIPへの輸出拡大効果は顕著には現れていない。
IIPの推移を主要業種別に見ると、いずれも19年度は減少傾向で、20年度に入って4〜6月期に急激に落ち込み、情報通信機械が7〜9月期にボトムになった以外は、4〜6月期をボトムに回復に転じている。ただし、その後はこのボトムを下回らなくても、一時的に前期比減少した業種もある。
また、IIP全体では21年6月の速報値段階でも先行ピークを回復していないが、主要業種でも同様である。主要業種の中で生産指数の回復が顕著な生産用機械工業は、6月速報値のの生産指数は121.0まで上昇し、18年8月の118.1を上回った。しかし、今回の景気循環での先行ピークは17年12月の122.5で、この水準にはまだ達していない。生産用機械工業の中身は農業用機械、建設・鉱山機械、金属加工機械、半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置などがあり、半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置の需要は世界的に好調でも、これだけでは生産用機械全体を先行ピークにまでは引き上げられていない。
その中で、部品で目立たないが、電子部品・デバイス工業は国際競争力があり、世界的な需給逼迫状態の分野もあって6月速報値は116.2まで回復している。生産用機械工業に次いで回復が顕著で、先行ピークの18年7月の110.4を上回り、比較的高成長業種といえる。
主要業種で見ても6月速報値段階で先行ピークを回復している業種は電子部品・デバイス工業以外なく、かつ、機械系と化学系以外はまだ100以下であり、6年前の15年の水準にも達していないことになる。機械系でも情報通信機械は15年以降で、16年8月の101.6が100を上回っただけで、この月以外は100以下での推移である。情報通信機器の中身は携帯電話、無線通信機器、TV受信機、ビデオ機器、パソコンなど成長分野が多い。特に、情報通信機器や携帯電話は5G(第5世代移動通信)時代を迎え、世界的に需要が伸びており、情報通信機械全体が高い伸びであっても不思議ではない。
しかし、現実にはそうなっていないわけで、この分野でかつては世界をリードしていた日本の国際競争力が低下した結果、生産指数に見られるように衰退傾向に陥っている。もちろん、機器では国際競争力が低下しても、ソフトの分野で経済成長することもできるが、もともとソフトはアニメ分野で日本が優れている程度で、現状では日本で期待できる分野ではない。
製造業の中で輸送機械がIIPの付加価値の18.0%、うち輸送機械の自動車工業が同15.4%を占め、最大業種になっており、自動車工業が鉱工業生産全体に与える影響は大きい。自動車工業は20年2月までは100を上回っていたが、その後は急減し、3か月後のボトムの5月には44.3と半分以下に落ち込み、主要業種の中で最大の減少になった。10月には101.9まで急回復した後、6月速報値の98.1まで一進一退のほぼ横ばいの推移である。需要は回復していても、世界的な半導体不足で生産が抑制されている。
自動車工業は半導体不足が解消されれば生産の回復が予想されるが、先行ピークの17年12月でも112.8であり、それほど高水準ではない。日本の自動車工業は国際競争力はあり、企業・グループベースでは生産が増えても、国内生産・供給から需要地を中心に生産して供給する戦略を採っている。このため、需要が増えても国内生産、延いては生産指数の伸びに限界があり、自動車工業にIIPの牽引役は期待し難い。
一方、機械業種の中では電子部品・デバイス工業が国際競争力もあって期待できるが、IIPの付加価値の5.8%、自動車工業の4割にもならない。また、機械の最終製品では半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置のように輸出の伸びが見込める機種はあっても、それを含む生産用機械でみてもIIPの付加価値の7.1%、自動車工業の半分程度でしかなく、これと電子部品・デバイス工業を合わせてIIPの付加価値で2桁のシェアになり、ようやく牽引役として期待できる。それでも足を引っ張る業種の存在も考慮すれば、全体としての伸びは低くなる。
この状況で、IIPは7〜9月期中には100水準を回復すると予測できても、その後の回復を牽引する業種として機械業種に期待するだけでは力不足は否めない。つまり、鉱工業、製造業に期待しても日本経済の成長力としては弱い。とすれば、ソフト産業、第3次産業に期待するしかないが、これは日本の弱い分野になる。このような構造を認識して日本経済の戦略を考える必要があるが、政府に危機意識が乏しく、経済構造実態の認識が弱い現状では先行きは厳しい。
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内閣府が2020年7月、暫定だが景気は2018年10月がピークだったと発表した。実質GDP成長率の推移は前期比で18年7〜9月期に0.7%減のマイナス成長になり、その後は19年7〜9月期まで4四半期連続で0%台の微増のプラス成長が続き、10〜12月期は再び1.9%減のマイナス成長になった。新型コロナウイルスの影響がほとんどなかったと推測できる20年1〜3月期も0.5%減のマイナス成長で、新型コロナウイルス対策で経済活動の自粛の影響が現れた4〜6月期は8.1%減の顕著なマイナス成長になり、その反動で7〜9月期5.3%増、10〜12月期2.8%増と盛り返したが、まだ水面下にある。そして、21年1〜3月期(2次速報値)は0.8%減と再びマイナス成長になった。
景気のピークから2年半以上も経っているにも関わらず、21年5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.09倍と求人数が求職者数を上回り、21年5月の就業者数(季節調整値)は6,645万人、ピークの19年12月の6,757万人の1.7%減の微減である。また、就業者数の約9割を占める雇用者数では21年5月5,955万人、同様にピークの20年3月6,047万人の1.5%減でしかない。労働市場は景気に対して遅行指標であることを考慮しても、不況の労働市場への影響が軽微で済んでいる。これは労働者の立場からはプラスに評価できるが、日本経済全体からはどうか。
労働市場では正規、非正規や男女間で格差がみられているため、この正規、非正規に分けて集計され、雇用者の90%以上を占める役員を除く雇用者で推移をみる。正規職員・従業員数(季節調整値)は男性が20年2月、4月の2,358万人がピークで、21年5月は2,353万人とピーク水準を僅かに下回る程度に留まり、18年央以降ほぼ横ばいの推移である。女性は21年3月まで増加基調にあり、この3月の1,254万人がピークで、4月1,226万人、5月1,188万人と2か月連続の減少になった。増加が止まったといえるかもしれないが、まだ断定はできない。
一方、非正規職員・従業員数(同)は男性が19年7月の704万人をピーク、20年6、9月の651万人がボトムになり、これ以降は650万、660万人台で推移していたが、21年4月の663万人から5月は先行ボトムを下回る639万人に減少した。また、女性も同様の推移で、19年8月の1,491万人がピークで、21年2月の1,382万人がボトムになった。20年4月以降は1,380万〜1,420万人台の推移だったが、4月の1、410万人から、5月は男性とは逆に1,451万人に増加した。また、5月は女性の正規と非正規が逆の動きになったが、一時的現象と考えられる。
全体としてみれば、正規雇用は景気が悪化しているなかで維持されているのに対し、非正規雇用は景気の変動に応じて変化している。企業は非正規雇用を景気の調整弁として採用していれば、景気が悪化したときに非正規雇用が減少し、景気が持ち直せば増加するのは当然といえる。ただ、男女別にみれば、正規雇用は男性が女性の2倍弱、非正規雇用は女性が男性の2倍強存在し、正規雇用では男女間格差をなくすためか、女性の雇用が維持されている。正規と非正規を合わせると、男性は微減傾向に対し、女性は20年央に一時的に減少したが、その後は戻しており、景気の打撃がどちらに大きかったかは断定できない。
いずれにおいても、現状は有効求人倍率に見られるように、労働市場への不況の影響は軽微で済んでいる。今不況では新型コロナウイルスという特殊事情もあり、従来と同じような動きにはならない可能性はある。また、政府の雇用調整助成金の維持支援政策の効果も考えられる。ただし、この政策効果は少なくとも新規雇用需要への効果は関係ないため、新規求人数の推移できると見ると、季節調整値で20年4月を底に一進一退でも回復基調にあり、原数値の前年同月比では21年4月から増加に転じている。
これから考えれば不況期が2年半以上も続いているなかで、企業は雇用に積極的といえる。その要因として不況期に入る前に労働力不足が深刻化していたことが挙げられる。現状は不況で不足が解消して正常化しただけとすれば、新型コロナウイルス対策が進み、経済が正常化する時に備えれば、正規雇用削減にまでには至らない。また、出生数の減少、労働力人口減への対策もあると推測できる。
これらの見方が正しくても、日本の将来を考えれば、この現状で良いかどうかが問われる。労働力不足の深刻化がいわれた今不況前の日本経済は、成長はしていても年間の実質GDP成長率は1、2%増程度でしかなかった。労働力が不足するほど積極的に雇用を増やしてその程度の成長であれば、供給力の拡大を賃金が安い人手に頼り、労働生産性がほとんど上昇していないことを示している。
通常、労働力が不足すれば、賃金が上昇する。企業はそれを労働生産性の向上で吸収する努力をするが、それができない部分は製品価格の引き上げで対応する。ところが、ほとんど賃上げは行われず、労働者、つまり消費者は収入が増えない状態が続き、加えて高齢化もあって将来不安が高まれば、支出は抑制される。需要が増えなければ、価格は引き上げられず、消費者物価は上昇しない。結果、企業の売り上げ、収益は伸びないため、賃金は上げられない、経済成長率も高まらない悪循環に陥る。日本の経済成長率が回復しない結果、世界における日本経済のシェアが低下し、国際比較で賃金水準は下がっていく。
また、労働生産性の伸びが低く、先進国における地位の下落が続く日本経済の状況は、ドル価格で国際比較されるため、1ドルが100円台後半から110円程度の為替レートの円安水準が続いていることも影響している。このような日本経済の構造実態がようやくマスコミでも取り上げられるようになり、この構造が一部の人であっても認識されるようになってきた。
日本の労働生産性問題が認識され、対策が必要と考えれば、企業は雇用拡大ではなく、生産性向上を目的に自動化、効率化のための設備投資を行う。結果、経済成長率がプラスでも低い状況では雇用は増えず、良くて横ばい水準程度に留まる。もちろん不況になれば、雇用は減少する。それを避けるためには経済を成長させ、設備投資によって生産力と労働生産性を伸ばし、雇用が増える構造への転換が必要になるが、労働統計が悪化しないためにここまでの認識はまだないのが現状のようである。
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2021年1〜3月期の実質GDP成長率(1次速報値、季節調整値)が前期比(以下、全て季節調整値の前期比)で1.3%減(年率5.1%減)、20年4〜6月期の8.1%減から3四半期振りにマイナス成長になったと内閣府から発表された。20年4〜6月期のマイナス成長は新型コロナウイルス感染症対策で1回目の緊急事態宣言が4〜5月に行われ、20年1〜3月期は第2回の緊急事態宣言時になっていたことからみても、緊急事態宣言が日本経済に与える影響は大きい。ただし、21年1〜3月期のマイナス幅は20年4〜6月期から大幅に縮小し、少しは緊急事態宣言への対応力が付いたと言えるのかもしれない。
マイナス成長の20年4〜6月期と21年1〜3月期の民間最終消費支出(実質、以下同じ)はそれぞれ8.3%減、1.4%減で、この2四半期の間の20年4〜6月期、7〜9月期は、実質GDP成長率、民間最終消費はいずれもプラス成長である。民間最終消費は緊急事態宣言の影響を最も受ける需要項目で、かつ19年度実質GDPの実績に占める割合は54%の最大の需要項目である。つまり、民間最終消費が緊急事態宣言の影響でマイナス成長になり、それが実質GDPのマイナス成長率をもたらす結果となっている。実質GDP成長率は民間最終消費の影響が大きく、日本経済が安定的に成長するためには民間最終消費の拡大基調が必要条件になる。
3回目の緊急事態宣言が4都府県に対し、4月25日から5月21日までの予定で政府から出されたが、その後、対象地域が拡大、かつ期間が延長され、5月末段階で6月20日まで延長されることになった。3回目の緊急事態宣言はこれが最後の延長で終了するとしても、過去2回の実績から推測すれば、4〜6月期も実質GDP成長率は2四半期連続のマイナスになる可能性が高いのではと懸念される。
緊急事態宣言が民間最終消費に与える影響を耐久財、半耐久財、非耐久財、サービスの4形態別の家計最終消費からみる。家計最終消費は民間最終消費から民間非営利団体の消費を除いたもので、19年度実績で民間最終消費の98%を占め、ほとんど民間最終消費と見なせる。また、19年度の家計最終消費額292兆円の構成は、自動車、家電等の耐久財7.9%、被服・履物、食器類、機器の修理等の半耐久財5.5%、食料・非アルコール飲料、電気・ガス・水道、新聞・定期刊行物・本等の非耐久財27.1%、そしてサービス59.5%で、サービスが約6割を占める最大需要項目になる。
家計最終消費と4つの形態別のいずれも21年1〜3月期は過去のピークを回復していない。ちなみに、過去ピークは家計最終消費と耐久財、半耐久財、サービスが19年7〜9月期、非耐久財が19年4〜6月期である。これは19年10月からの消費税の8%から10%への引き上げによって発生した駆け込み需要と、その後の反動減の影響になり、過去ピークから6、7四半期、つまり、1年半以上経っても水面下に沈んだ状態である。
消費税の引き上げ後は反動減が発生した後、それほど時間が掛からずに元に戻って正常化するのが一般的だが、今回は増税が不況に向かう時期と重なったため、戻りが悪い状態にあった。そこに緊急事態宣言が加わり、水面下状態が長期化している。実質GDP成長率は20年4〜6月期の大幅減少前は19年10〜12月期1.9%減、20年1〜3月期0.5%減で、結果として20年4〜6月期まで3四半期連続のマイナス成長だった。民間最終消費と家計最終消費も同様である。
そして4つの形態別では、20年4〜6月期以降の推移で半耐久財が21年1〜3月期まで19年10〜12月期から6四半期間、一度もプラス成長になっていないことが特徴として挙げられる。半耐久財は被服の比重が高く、気候の影響を受けやすい特徴があるが、基本的に旅行や外出の自粛、リモートワークで家に居る時間が長くなれば、衣服への支出が抑えられるのは当然である。
逆に、自宅にいれば、非耐久財の食料やサービスの電気・ガス・水道への支出が増えても不思議ではない。特に、サービス支出になる外食が減れば、よれよりもコストが大幅に少なくて済む自宅での食料支出が増えると推測できる。ところが、非耐久財は一進一退傾向にある。これから考えれば、コロナ禍だけでなく、景気が下降に向かっていることもあって、消費者の将来不安が高まり、消費者の生活防衛、支出抑制により一層向いている可能性がある。この中で、非耐久財は20年4〜6月期は3.7%減と比較的顕著な減少になったが、1〜3月期に緊急事態宣言による品不足懸念から一部で駆け込み需要が発生した反動減があったためと推測できる。
一方、家計最終消費の6割を占めるサービスは非常事態宣言の影響を最も受け、図にも明確に見られるように4〜6月期には前期比12.5%減と大幅なマイナス成長になった。その後の戻りは弱いが、21年1〜3月期は2.6%減とマイナスは小幅に留まった。このような状況の中で、3回目の非常事態宣言であり、かつ、終了が6月まで延長になった。かつ、飲食店を中心に営業規制は厳しくなっており、サービスは4〜6月期も2四半期連続のマイナス成長が予想される。
サービスへの支出が減少すれば、その他への支出に特に明るい材料は見られないため、家計最終消費、民間最終消費はマイナス成長、延いては4〜6月期の実質GDP成長率も2四半期連続のマイナス成長が懸念で終わらずに、現実になる可能性が高い。内需では大幅に伸びてGDPを引き上げるような需要項目は見当たらず、前回のこのレポートで取り上げた中国や米国向けの輸出に期待するしかないが、輸出全体としてみれば力不足と考えられる。
結局、実質GDPのプラス成長は7〜9月期以降に持ち越しなるが、ウイルスワクチン接種進展による新型コロナ感染防止効果と、オリンピック・パラリンピックの開催次第になる。観客がゼロでなければ、一時的でもサービスのプラス成長が期待できるからである。ただし、その後、コロナ感染でどうなるかは不明でも、短期的な経済効果にはなる。
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3回目の新型コロナウイルス感染症対策の緊急事態宣言が4都府県に対し、4月25日から5月11までの予定で政府から発令された。過去の日程は地域によって異なるが、第1回は2020年4〜5月、第2回は21年1〜3月で、地域は当初からは拡大され、また日程も延長されている。政府は2回目の緊急事態宣言の解除時には新型コロナウイルス感染症を封じ込めるとしていた。しかし、感染症の専門家は中途半端な対策で、変異種の出現もあり、封じ込めは不可能という意見が多かった。現実はそうなっており、政府への信頼は低下している。
日本経済の大底は第1回緊急事態宣言の影響で、実質GDP成長率が大幅に落ち込んだ20年4〜6月期になり、そこから回復基調にあることは間違いない。しかし、今回の発令で一本調子の回復にはならず、当分は一進一退の基調としては穏やかな回復になる可能性が高い。21年1〜3月期の実質GDP成長率はまだ発表されていないが、2回目の緊急事態宣言で20年4〜6月期以来、3四半期振りのマイナス成長が予測される。現在は4〜6月期の途中だが、成長率はプラス、マイナスのいずれでも小幅に留まると予想される。
問題は7〜9月期以降で、先進国の中で最も新型コロナウイルスワクチンの接種が遅れている日本の状況では、3回目が予定通り5月11日で終了する保証はない。かつ、もし終了したとしても、4回目が避けられる保証もない。4回目がなくてもオリンピック対策や政権のメンツから感染状況が悪化しても、実態と関係なく宣言しないだけという事態も考えられる。いずれにしても、国民は宣言が終了すれ一時的でも旅行や外食に出掛け、経済成長率は持ち直しが見込める。
また、企業はワクチンが国民に行き渡り、その効果が認められるようになるまでは先行き不透明な環境で、かつ政府を信頼できなければ、積極的に活動し難い。この状態から脱せるのは年明けに持ち越されるのではないか。これから考えれば、日本経済は大幅減少が予想される21年度から、22年度は持ち直すとしても、回復力は弱くなる。
これは内需の見通しになるが、輸出は明るくなっている。輸出を財務省「貿易統計」の輸出数量指数(2015年=100)で見ると、19年は米中貿易摩擦の影響もあって世界経済の成長が頭打ち傾向になったのを受けて、前年を下回った。そして、20年に入って新型コロナウイルス感染症が世界に広がり、世界的に生産、消費が落ち込んだのを受けて急速に減少幅を拡大した。
輸出数量指数全体の世界輸出では前年同月比で20年5月の27.2%減、6月の26.9%減を減少幅のピークとして、その後は急速に減少幅を縮小し、21年1月は5.3%増と19年7月の1.4%増以来1年半振りに前年水準を上回った。2月は4.3%減と再び落ち込んだが、3月(速報)は12.6%増で、1〜3月期で4.6%増であり、回復基調にある。
貿易指数が発表されている国・地域別では、新型コロナウイルス汚染国で世界に先駆けて対策に成功した中国が20年7月から前年水準を上回るようになり、同月からの世界輸出数量指数の減少幅縮小の要因で、その後の回復傾向は顕著である。21年3月は40.7%増と異常ともいえる高い伸びで、前年3月が10.3%減と中国では大幅減少だった反動増もあるが、21年1〜3月期でも前年同期比31.1%増と高い伸びである。中国が日本の輸出回復を牽引している。
その他の国・地域では、米国は20年8月に0.8%増と僅かに水面上に浮上した後、再び水面下に沈み、ようやく21年3月に3.9%増になったが、1〜3月期では前年同期比7.3%減とまだ前年水準を回復していない。それでも、ワクチン接種が進んでおり、変異種の問題があって楽観はできないが、期待できる状況にある。コロナ対策による規制が緩和されつつあり、輸出数量指数は4月以降、大幅に落ち込んでいる前年との比較では、経済活動が正常化して高い伸びが見込める。
EUは21年3月が6.9%減に留まり、それまでの20%台、30%台の大幅減少と比較すると急速な改善といえる。ただし、20年11月に9.8%減と一時的でもこの21年3月と同程度の減少になったことがあり、日本ほどではなくてもワクチン接種が遅れていることを考慮すれば、楽観はできない。前年が4月から大幅減少になっていたため、経済がそれほど好転しなくても、減少幅は小さくなると予測できる。
中国を含むアジアはインドは別として新型コロナウイルス感染が比較的軽微で済み、輸出数量指数は21年3月が20.4%増と高い伸びになっている。ところが、20年の輸出額実績でアジア全体の4割近くを占める中国を除けば低い伸びになる。日本同様、世界経済の影響を受けるためで、中国周辺のアジア地域が米中摩擦による中国からの工場移転の受け皿になっている、という説があるが、全体として見れば、まだそれほどの影響はないといえる。受け皿効果は小さくても、米国経済の回復で今後は回復していくのではないか。
日本からの輸出は中国が先導し、それに続いて米国に期待を持てるようになった。今回の緊急事態宣言によって内需は当面、少なくとも年内中は回復を見込み難い。オリンピックが開催される可能性は少ないと思うが、開催されても入国する出場選手とその関係者からの汚染の可能性があり、終了後に非常事態宣言が懸念される。オリンピックが終了すれば、宣言を出しやすくなると考えられるからである。
内需は新型コロナウイルスによって急速な回復が期待できないなかで、輸出が中国、米国向けを中心に回復が見込めるようになった。日本はこれまで輸出主導の景気回復の傾向が強かったが、今回もそうなりそうである。
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2020年5月に総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(含む外国人、以下、同じ)で東京都の転出者数が転入者数を上回る転出超になり、人口が減少したことが話題になった。6月は再び転入が転出を上回ったが、その後は7月から21年2月まで8か月連続で転出超過、人口の減少が続いている。ただし、転出者が転入者を超過した人数が最大の8月でも4.500人ほどであり、1.400万人の東京都人口から考えれば、人口集中傾向が止まったと言える程度である。
東京都の人口減は新型コロナウイルスの影響によるが、日本で新型コロナウイルスへの関心が高まったのは、横浜港に入港していたダイヤモンド・プリンセス号の日本人も含めて乗客への罹患が確認された2月からであった。ただし、乗客や船員の下船を認めなかったことから、国内での汚染が広がるまでには時間が掛かり、新型コロナウイルス対策の特別措置法の成立は3月、緊急事態宣言が発令されたのは4月になる。
3月段階では、東京都の転入者数は10.3万人、転出者数は6.3万人で、転入が大幅に上回っており、コロナの影響はほとんど見られない。ちなみに、前年の19年3月はそれぞれ9.7万人、5.7万人である。その後の転入出者数はそれぞれ4月6.0万人(19年4月6.7万人、括弧内は以下同じ)と5.5万人(5.6万人)、5月2.3万人(3.5万人)と2.4万人(3.1万人)であり、5月から影響が表面化した。
当時、特別措置法が成立し、緊急事態宣言が発令されても、新型コロナウイルスの感染の広がりがどの程度で、その状況がいつまで続くかは現在でも不明である。3、4月は転勤や新入社員、学生の卒業、入学の時期であり、移動が優先された結果、新型コロナウイルスが人口移動に影響するまでに1、2か月掛かったことになる。
東京都の20年5月から21年2月までの10か月間の転入者の範囲は2.4万人から2.9万人、転出者は同様に2.5万人から3.2万人の間で推移している。月単位では6月に転入者が転出者を上回っただけで、残りの9か月間は転出者の方が多い。また、10か月間の合計では転入者数26.4万人、転出者数28.9万人になり、転出者が転出者を1割近く上回る。人口移動が新型コロナウイルスの影響で減少するなかで、相対的に住む場所として東京都の魅力が低下したことになる。もちろん、新型コロナウイルスによるリモートワークの影響と単純には決められない。この間の住宅価格の上昇の影響も考えられる。
人口の一極集中は災害に対して脆弱なため、東京一極集中の解消は日本の長年の課題である。特に、東日本大震災以来、自然災害が多発する傾向にあり、東京一極集中傾向が止まり、さらには解消に向かうことは評価できる。ただし、東京都の人口が減少の兆しが見られるようになっても、東京一極集中は東京都だけで見る場合は都心の本社機能、サービス業などの集積になり、人口では通勤圏の周辺の神奈川県、埼玉県、千葉県を含めた1都3県の東京圏になる。
東京圏は20年4月まで東京都より転入者数、転出者数が多かったが、5月からは図に見られるように東京都とほぼ同水準の推移で、この10か月間の推移は転入者数が2.0万人から3.1万人、転出者数が2.2万人から3.1万人の間の推移である。転入者数が転出者数を上回ったのは6か月、逆に下回ったのは4か月で、10か月計では転入者数26.2万人、転出者数25.7万人と、僅かだが転入者の方が多い。東京都が流出超で人口が減少しても、周辺の3県は東京都の流出超を上回る流入超になり、住む場所として東京都の魅力が低下したといえても、東京圏でみればまだ魅力のある地域になる。
また、東京都と周辺の3県を加えた東京圏が同水準の転入者数と転出者数で推移していることから考えれば、1都3県間での移転が多いと推測できる。これは1都3県の個別のデータを足した転入者数、転出者数と、そこから首都圏内の転入出を除いて算出された首都圏の人数を比較すれば明らかになる。1都3県合計の転入者数は65.8万人、転出者数は63.6万人で、それぞれ首都圏の2.2倍、2.5倍であり、首都圏内の4都県からの転出入者数は圏外からの人数よりも多い。つまり、首都圏外に転出しない傾向にあり、東京一極集中が続く要因でもある。
今回の新型コロナウイルス対策で多くの企業がリモートワークを導入し、マスコミが東京都から地方に移住した人を取り上げる影響で、働く会社の場所に関係なく、ネット環境さえあれば住む場所を自由に決められるという意見が増えている。しかし、東京都の転出者数が転入者数を上回っても、東京圏では逆転していることから考えれば、東京都からの転出の受け皿は周辺の3県になる。この関係は現在のリモートワークでは住む場所の完全な自由までは難しいことを示している。東京都心の本社に毎日通勤する必要はなくても、少なくても月に何度かは行く必要があれば、移動費用や時間から本社から離れる距離に限界がある。
現状はリモートワークが広がり始めたる段階で、本格的な取り組みにまで進んでいなくても、新型コロナウイルス問題がなくなっても元の働き方に戻るとは考え難い。この間に企業がリモートワークによるコストダウン効果を認識した影響は無視できない。それでも、直接会って話し合う必要があるため、住む場所が全く自由になる働き方が定着するところまでは予想できない。
長期的には定着する可能性があるかもしれないが、これは企業組織の構造転換を伴う課題で、短期的な人口異動では大学生の東京都、東京圏への転入増が増える影響が大きいと考えられる。21年度は大学が大学離れを避けるため、教室での授業の復活に力を入れるからである。20年度は多くの大学で教室での授業が行われなかったため、地方出身の学生、特に新入生は東京の大学に入学しても、大学に行く必要がなかった。結果、東京都や首都圏に転入しない、または一度は転入しても住む意味が無くなり、転出する学生がかなりいたと推測できる。しかし、教室での授業を100%にするのは無理でも、リモート授業との並列になれば、これまで通り東京都、首都圏に転入して通学することになる。この学生の転入効果は大きく、東京都が3月か4月に転入者数が転出者数を上回る可能性は高い。
結局、長期的に東京一極集中が解消に向かうには、リモートワークが拡大、さらには直接会わなくても、リモートによる意思疎通で問題のない組織、働き方になる必要がある。その可能性はあるとしても、時間は掛かる。短・中期的には東京一極集中の速度が鈍化、4頭打ちになっても、歯止めが掛かって解消に向かうところまでは期待し難い。
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政府は2020年3月13日に成立した新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づき、21年1月7日、2回目の新型コロナウイルス対策となる緊急事態宣言(以下、宣言)を行い、1月8日から2月7日までの期間で東京圏の1都3県に、そして13日に7府県を加えて対象は11都府県に拡大した。その後、2月2日に1県を除いて10都府県に対して宣言を3月7日まで延長したが、2月末で東京圏を除いて、そして3月7日で東京圏も解除してほぼ2か月で終了する見通しになった。ただし、政府は3蜜を避けるための外出、行動の自粛要請は続ける。
最初の宣言は20年4月7日に1都3県と大阪、兵庫、福岡の7都府県に出され、4月16日に対象を全国に拡大された。この1回目の宣言は5月14日、21日と段階的に解除され、25日に最後に残った東京圏と北海道の5都道県が解除されて1か月半ほどで終了した。ただし、この時も政府は3蜜を避けるために外出、行動の自粛を要請していた。
その一方で、景気対策からGo To トラベルキャンペーンが7月22日から始まった。ところが、宣言解除後の新型コロナ感染者の増加を受け、12月15日にGo Toトラベルキャンペーンを12月28日から21年1月11日まで全国一斉に一時停止、一部地域は先行して一時停止になった。その後に2回目の宣言が出される状況になり、Go To トラベルキャンペーンの再開は決まらない状況にある。また、Go Toイートキャンペーンは10月1日からネットでの予約が開始され、これは616億円の予算が11月には消費する見込みになり、事実上20年中には終了していると推測される。
この間の1回目の宣言、Go To トラベル・イートキャンペーン、2回目の宣言の経済への影響が注目されるが、2回目の影響に関係する統計はまだ一部しか発表されていない。1回目の宣言時の経済への影響は7月1日付けのこの経済レポートで取り上げ、20年4、5月の第3次産業活動指数の前年同月比伸び率から生活娯楽関連サービス、その中でもその他の生活関連サービス業への影響が大きいことを指摘した。
今回の経済レポートは第1回宣言の解除後の動向と2つのキャンペーンの効果から今後を予測したい。第3次産業活動指数(2015年=100)は20年12月まで統計が発表されており、20年の1年間の季節調整値でみると、全体は1月101.9、2月101.2の100を超える水準から、3月には100を下回り、5月の86.4を底に、6月から回復傾向にあったが、10月の98.8をピークに11月98.2、12月97.8と再び下降傾向にある。
この間の対前月比動向は4、5月急減、6月急増になっており、宣言と解除、そして11月からは解除後の新型コロナ感染者数の急増を反映した動きである。一方、これら以外の月はあまり変化せず、Go To トラベル・イートキャンペーンの影響は明確でない。この2つのキャンペーンは対象となる業種には効果が現れても、マクロ的にはその効果は小さく、第3次産業活動指数全体に反映するほどの影響力はない。
7月1日付けのこの経済レポートで指摘した生活娯楽関連サービスは景気の悪化を受けて1月段階で99.0と5年前の15年水準の100を下回っていたが、そこから3、4月は急減して4月48.7、5月49.6にまで低下し、この2か月は1月からほぼ半減である。その後は6月に急回復して11月には82.4まで戻したが、12月は77.9と再び大幅減である。
生活娯楽関連サービスに関しては、生活娯楽関連サービスの比重の3分の1強を占め、10月からのGo Toイートキャンペーンの対象である「飲食店、飲食サービス業」の影響が大きい。飲食店、飲食サービス業は宣言で外出の自粛、また東京都では午後8時(酒の提供は午後7時)までの時短営業要請が行われ、1月の97.9からボトムの4月は41.7と1月の半分以下にまで落ち込んだ。5月は少し持ち直した程度で、6月に急回復し、その後は10月の81.7をピークに、11月は81.1の微減、そしてGo Toイートキャンペーン効果がほとんど見込めなくなった12月は70.3と大幅な減少である。当初の急減は要請であってもそれを受け入れた結果で、生活娯楽関連サービスとほぼ同様の推移であり、飲食店、飲食サービス業の生活娯楽関連サービスへの影響は顕著といえる。
一方、Go Toトラベルキャンペーンの対象になる宿泊業は、国内客よりも外国人観光客がほぼゼロ近くまで減少したマイナス効果が大きく、1月の114.0の高水準からボトムの5月は17.4、1月の15%まで縮小した。それでも、外国人観光客がほとんど戻らない中で、11月には82.7まで戻り、月途中でキャンペーンが終了した12月は73.2である。
同様に対象となるその他の生活関連サービス業に含まれる旅行業は、1月の90.5からボトムの5月には2.6とゼロ近くまで縮小し、その後は戻しているが、ピークの11月でも59.3にでしかない。旅行業は海外旅行の比重が高いため、国内旅行の回復だけでは限界がある。それでもボトムからの回復力を考えれば、Go Toトラベルキャンペーンの恩恵は宿泊業ほどではなくても大きい。
Go To トラベル・イートキャンペーンの効果のピークは11月と考えられ、飲食店、飲食サービス業や宿泊業、旅行業が10月、または11月まで急回復し、12月に大幅反落していたことから判断すれば、キャンペーン効果は大きい。今後、キャンペーンの再開、さらには、かなり先になると予想される外出、行動の自粛も解禁されれば、100水準の回復、さらに越えて行くと予測できる。
ただし、100水準越えは容易ではないと考えるデータもある。生活に不可欠な小売業は1月の100.1、15年とほぼ同じ水準から3月には100を下回り、ボトムの4月は87.1であり、低下しても他の業種よりは落ち込みは小さい。生活に不可欠であれば当然といえるが、その後は100前後の推移である。支出を抑制した分は全面的ではなくても、その後は再支出される、つまり抑制分の一部であっても上乗せされるのが通常である。この現象が見られないため、消費者は消費を抑制して貯蓄に回す傾向を強めているか、新型コレラによる景気悪化で収入が落ち込み、さらには失業で消費抑制を余儀なくなっている結果である。
その一方、5月には1.3とほぼゼロだった映画館は観客制限下にもかかわらず、10月に105.1と100を超えた。理由は鬼滅の刃の上映開始にあり、消費者を引き付ける商品・サービスがあれば、支出拡大を期待できる。映画館は生活娯楽関連サービス業の娯楽業の中でも比重は小さく、全体の動向に与える影響はほとんど見えない。それでも、個々の業種、企業は消費者ニーズに応える商品・サービスを開発できれば、売り上げを伸ばせ、それが拡大すれば全体の第3次活動指数、延いては日本経済の成長率への効果が見込める。
3月8日には宣言が全面解除になり、Go To トラベルキャンペーン再開も期待できる雰囲気だが、引き続き自粛要請が続けば、キャンペーン対象業種は別として、3月からの各業種の回復力にも限界がある。現状では第3次産業活動指数の100水準回復にも少し時間が掛かりそうである。その後はオリンピック期待になるが、見通しは厳しい。
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日本経済は景気がピークを打って下降期に向かう過程でコロナ禍が加わり、厳しい状況に陥った。現状は最悪期を脱しつつあり、GDP成長率は前期比で2020年4〜6月期の大幅な減少から、7〜9月期は増加に転じている。従来、不況期は地方経済への打撃が大きい傾向にあり、今回の特殊事情のコロナ禍が不況下において、以前から日本の課題である地域間経済格差にどのように影響しているか注目される。ここでは地域経済関連統計の中で公表の早い厚生労働省「一般職業紹介統計」の都道府県別有効求人倍率(パートタイムを含む一般、就業地、季節調整値、以下同じ)で、コロナ禍の地域経済への影響を調べる。
全国の有効求人倍率は景気がピークを過ぎたのを反映して、19年に入って頭打ちから低下傾向にあった。しかし、GDP成長率の推移にみられるように、20年12月の有効求人倍率は前月と同じ1.06倍になり、ボトムの9月の1.03倍から底打ち、持ち直し傾向にある。ただし、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく2回目の緊急事態宣言が21年1月14日、大都市圏を中心に11都府県に再発令された。当初の終了予定の2月7日が延期される見方が強まっている段階で、先行きはGDP、有効求人倍率のいずれも不透明である。21年1月の有効求人倍率は前月比減少になる可能性が高いが、当面、1倍を下回る求職者数が求人数を越える水準までは予想されない。
このように全国ベースでは有効求人倍率は1水準を維持しているが、地域別では格差が大きく、12月では最大が福井県の1.62倍に対し、最低の沖縄県は1を大きく下回る0.79倍と、2倍以上の格差である。ただし、この沖縄県の有効求人倍率でも以前の不況期には0.5倍以下になっていたのと比較すれば、不況下でもまだ高いといえる。
従来、地方で労働市場の悪化が目立ち、それが人口の大都市、特に東京圏への人口集中をもたらす要因の一つになっていた。たとえば、08年9月のリーマン・ショック後の不況時では、全国の有効求人倍率の最悪期は暦年で09年の0.47倍になる。09年の都道府県別では低い方から青森県0.27倍、沖縄県0.30倍、秋田県0.39倍といずれも地方の県が続き、大都市圏で低いのは福岡県0.41倍、埼玉県0.44倍である。その他の大都市圏の都府県は低くても0.45倍以上で、ちなみに東京都は0.55倍であり、地方との格差は大きい。
ところが、今回の不況の特徴として、有効求人倍率の地域間格差が一部を除いて従来とは逆転していることが挙げられる。20年12月の上位と下位の5都道府県を見ると、上位の方は高い方から順に福井県1.62倍、島根県1.45倍、岡山県1.41倍、山口県1.39倍、香川県1.38倍などとなっている。いずれも地方の県で、19年から減少基調ではあるが、労働市場は不況に陥っているわけではない。
一方、下位は低い方から順に沖縄県0.79倍、東京都と神奈川県0.88倍、大阪府0.92倍、京都府0.95倍などとなっており、沖縄県を除けば大都市圏である。特に、東京圏の東京都と神奈川県が低水準に落ち込んでいる。また、同じ東京圏の埼玉県0.97倍、千葉県0.99倍も1を下回り、これまでの不況期にはみられない逆転現象である。
これら上下10都府県の有効求人倍率の推移を描いた図では、各都府県がほぼ同じように下降線になっている。地方の方が人口が少なく、労働力不足が深刻であったため、もともと有効求人倍率の高い水準からの低下で、同じように減少してもまだ1水準を上回っているだけという見方もできる。しかし、19年1月の有効求人倍率が低い下位5道県の北海道と高知県1.27倍、長崎県1.36倍、沖縄県1.34倍、鹿児島県1.42倍で、20年12月は沖縄県を除けば北海道1.08倍、高知県と長崎県1.05倍、鹿児島県1.17倍など12月時点で1水準を維持している。
ただし、それ以前に高知県や長崎県で一時的に1水準を割り込んだ月はある。そうであっても、以前の有効求人倍率が高かったことが現在も高い要因ではないと判断できる。地方の中で、沖縄県はもともと人口に対して相対的に就労の場が少ない。かつ、観光産業の比重が高い産業構造から、コロナ対策による県境を越える移動の自粛で、観光客の減少による影響が特に大きく現れた特殊地域の事例である。
今回の不況は従来と異なり、大都市圏、特に東京圏への打撃が大きくなっているが、コロナ対策がその要因になる。これまで経験してこなかった緊急事態宣言による営業の自粛、また緊急事態宣言に依らなくても、企業レベルや個人レベルでの3蜜を避けるための自主的な行動の自粛が効いている。7月1日付けの経済レポートで取り上げたように宿泊業、飲食店・飲食サービス業、その他の生活関連サービス業の売上減、特に、人口が密集している大都市部の比重が高いその他の生活関連サービス業に含まれる娯楽業の劇場・興業団、冠婚葬祭業などの売上が大幅に減少している。これらの不況業種の廃業・倒産、雇用削減による有効求人倍率の引き下げの影響が大都市圏、東京圏で相対的に大きいためである。
大都市圏、特に東京圏の有効求人倍率の低下は雇用を通して高度成長期以来、半世紀を超える日本の課題、地域間格差問題の解消に結び付くことが期待される。それにはこの現象の長期化が条件になるが、いつかはコロナワクチンによってコロナ禍は解消する。その時にほとんど元の状態に戻れば、結果として一時的現象で終わる。
長期的にはコロナ対策で取り組みが広がっているリモートワークがどうなるかが注目される。現在のリモートワークは自宅やリモートワークに適した環境を求めて少し離れた広い住宅へ移住して、またはサテライトオフィスで行うなどの方法が採られている。東京圏であれば、都心から東京多摩地区や隣県への移動に留まり、地域間格差解消までには至らない。リモートワークを導入しても、組織人であれば直接的な交流は不可欠で、これまでのように毎日出社しなくても、週、または月単位での出社が必要になる。これから考えればリモートワークで隣県を越えて地方への転居例がマスコミなどで報道されるが、例外的と推測できる。この現象が本格化すれば地域間格差解消が期待できるが、現実は厳しいと判断できる。
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2020年12月8日に内閣府が発表した20年7〜9月期の2次速報値は1次速報値の前期比5.2%増(年率22.7%増)から、同5.5%増(同23.9%増)に上方修正になった。これを受けて作成された民間各社の21年度日本経済見通しは、コロナ禍の影響が深刻な20年度の実質GDP実績見込み成長率が多くは5%台前半の大幅マイナス成長、21年度は3.3〜3.5%のプラス成長となっている。
この民間の経済見通しを評価する前に、1年前の19年度実績見込みを実績から採点すると、合格点は見当たらない。理由は1年前の民間の19年度実質GDP実績見込みが0.8〜1.0%増と成長率は低くても成長を予測していたのに対し、実績は0.3%減のマイナス成長の縮小になったからである。新型コロナウイルス感染症の影響に関しては、ダイヤモンドプリンセス号内での集団発生が年度末の20年2月で、かつ船内の問題であったことから考えれば、19年度の年間成長率への影響は小さい。
つまり、民間各社は19年度実績見込みの判断を誤った。その最大の要因は民間消費支出にある。最大需要項目の実質民間最終消費は19年度0.9%減になったが、民間の実績見込みは0%台でもプラス成長を見込んでいた。先行き不安感が高まっている消費者が支出節約意識を強めていることを見誤ったからである。これが19年10月の消費税値上げ後の大幅な落ち込みと、その後の低迷状態もたらし、実績見込みと実績との格差を生じさせた。また、世界経済への成長見通しが過大で、輸出見込みの伸び率が過大になったことも要因として挙げられる。
1年前の20年度見通しはコロナ禍問題があるため単純に評価はできないが、輸出は別として、この消費者の支出抑制・節約行動は変化しないと予想できた。コロナ禍がなくても米中摩擦問題も激化しており、多くの民間の20年度実質GDP見通し0.5〜0.6%増は過で、マイナス成長見通しもあり得た。
すでに全体として景気が下降線にあったことは、内閣府が暫定でも20年7月に第16 循環の景気の山を18 年 10 月と発表したことから明らかである。この発表は1年前の見通し作成時以前になるが、この19年2月1日付けの経済レポートの後半で、その可能性を指摘した。これから考えれば、見通し作成時の12月初旬頃でも、景気はピークを過ぎ、日本経済の厳しい状況を分析して判断することは可能だった。
今回の民間の20年度実績見込みは、5%台前半のマイナス成長と大幅な下方修正である。20年7〜9月期は4〜9月期の前期比8.3%減と急減した反動で一時的に5.5%増の大幅な伸びになっただけであり、10〜12月期以降は穏やかな回復基調の予想で、異常といえる低水準からの回復のため大幅なマイナス成長になる。それでも、コロナ対策の政策の影響が避けられないため、民間見通しの発表後の政策の混乱を考慮すれば、このマイナス成長でも実現できて良かったという評価も想定できる。
一方、21年度見通しの実質GDP3.3〜3.5%のプラス成長は、基調として四半期ベースで前期比0%台前半(年率では1%台半ばから後半)の穏やかな回復が続く予測である。つまり、コロナの影響がまだ払拭できないため、回復力が強まらないと判断している。この見通しで実績が上下両方に振れる要因として挙げれば、上方の場合は既に欧米でコロナワクチンの接種が始まっており、安全性に問題がなく、有効性が一般的に認められ、接種が順調に進む可能性である。この場合、コロナ不安の解消によって世界的に経済活動が活発化し、日本は輸出だけでなく、内需も見通しより強い回復が期待できる。
逆に、コロナワクチンの効果がそれほどではなく、または接種が順調に進まず、欧米でのコロナ対策のロックダウンが長期化すれば、世界経済の回復が遅れる。日本国内の感染状況は欧米ほどでなくても、輸出が抑制されて3%台成長も厳しくなる。また、輸出に関しては、中国がいち早くコロナ禍から脱し、日本の輸出は中国向けによって回復傾向にある。しかし、米中貿易摩擦がバイデン米新大統領でも激化すれば、中国が先端産業を中心に打撃を受けて中国経済の回復が止まり、日本の輸出に波及してくる事態が予想される。いずれにしても輸出回復力に勢いが付かなければ、日本経済の回復は遠のくことになる。
国内ではGoToトラベル政策の失敗に見られるように、政治的要因でのマイナスの影響が懸念される。これらの内外の要因から判断すれば、21年度の日本経済見通しでは民間予測より下方に振れる確率が高いと予想できる。 もし、今回の民間の見通し程度の経済成長が実現したとしても、21年度の経済水準は低い。19年度の実質GDPは0.3%減の微減で、20年度は5%台のマイナス成長見込みである。これから推計すれば、21年度は少なくても5%台半ば以上のプラス成長でようやく先行ピークの19年度の実質GDP555兆円(2015年価格)を越えるようになる。つまり、21年度も3%台成長では水面に浮上できない。結局、年度ベースで3年間は水面下で推移する見通しになるが、四半期ベースで見ても厳しい。四半期(季節調整値、以下同じ)で先行ピークは消費税値上げの駆け込み需要が発生した19年7〜9月期の559.1兆円になる。ただし、19年1〜3月期557.6兆円、4〜6月期558.1兆円であり、駆け込み需要は小規模で、19年7〜9月期は異常に高い水準とはいえない。その後は前期比大幅減少の20年4〜6月期まで3四半期連続のマイナス成長になり、20年4〜6月期の対19年7〜9月期比は10.5%減である。20年7〜9月期が高成長で持ち直しても、1年前の19年7〜9月期比では5.7%減の527.1兆円に留まる。
主要需要項目では19年7〜9月期=100の指数の図に見るように、公的固定資本形成は極めて僅かでも増加し、政府消費も含めて公共部門の需要が伸びている以外、民間最終消費支出、民間企業設備、輸出などいずれの需要項目も100を大きく下回って低迷している。特に、輸出の減少が顕著で、それが日本経済の大幅な落ち込みをもたらし、今後の回復力は海外経済による輸出の影響が大きいと予測できる。
内需は力強さに欠け、輸出は回復力が弱いことが21年度の成長力を穏やかなものにしている。今回の民間の経済見通しを前提にすれば、22年1〜3月期でも550兆円を下回る水準に留まり、過去ピークの19年7〜9月期の559兆円を上回るのは早くても22年度に持ち越される。また、順調な景気回復の経済見通しを義務付けられていると推測できる政府見通しでも、実質GDP成長率は20年度の実績見込み5.2%減、21年度見通し4.0%増でしかなく、年度、四半期のいずれも過去ピークの回復は22年度以降になることに変わりはない。
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大阪維新の会が推進していた政令指定都市の大阪市を廃止し、4つの特別区に再編する、いわゆる「大阪都構想」の賛否を問う住民投票が11月1日に行われた。前回の2015年5月に続いて否決され、その要因に関して解説は多くても経済面からは目にしない。橋下大阪府知事が就任したのが08年2月であり、維新政権は08年度から現在まで続いていたわけで、少なくとも19年度までの12年間の実績がある。また、橋下氏が大阪市長に就任したのは14年2月であり、14〜19年度の6年間は大阪の知事と市長が協力して政策を進められていたと判断できる。
大阪維新の会のマニフェストによると 大阪の経済成長戦略として「大阪は世界に通じる都市としてのポテンシャルを有しています。しかしながら、府と市の縄張り争いにより、そのポテンシャルを十分に発揮できない状況が長らく続いてきました。府市一体となった成長戦略を展開し、多様な相乗効果を生み出すことで大阪の成長を強力に進めていきます」としている。6年もあれば大成果までは無理でも、一定の成果を挙げるには十分な期間である。
維新の経済政策に対する評価は大阪府経済動向を他都道府県と比較するのが客観的になる。その資料として内閣府が発表している「県民経済計算」が最適になる。ただし、これは集計に時間が掛かるため、10月に発表された最新のデータで17年度と遅い問題があり、大阪の知事と市長が協力関係の実績データは4年間に留まる。
国でいえばGDP(国内総生産)になる県内総生産(名目)で大阪府のシェアをみると、全国47都道府県を合わせた県内総生産合計に対する大阪市のシェアは、橋下大阪府知事政権が始まった08年度からの10年間は、上下変動を伴いながら趨勢的には微減傾向にある。最新データの17年度は16年度から持ち直しているが、構造的に持ち直す要因は見当たらないため一時的現象に終わると予測できる。
実額ベースでは先行ピークが07年度になり、この年度の県内総生産合計は552兆4,051億円で、17年度になってようやくこの水準を上回る561兆5,233億円になったが、10年間の成長率でみれば1.7%増でしかない。大阪府総生産も先行ピークは07年度の39兆9,291億円になり、17年度は40兆700億円、10年間の成長率は0.4%増となんとか水面に出たという程度である。
大阪府は高度成長期から工場の地方移転、さらには本社機能の東京への流出、成長するサービス産業の東京・東京圏への一極集中などの影響を受けて長期的に衰退、じり貧傾向にある。このような日本の構造変化から考えれば、この間の大阪府の総生産にみる経済の地盤低下は単純に維新の政策にあると批判はできない。
しかし、このような長期的な大阪をなんとか立て直して欲しいと願う大阪府・市民が維新政権を選択し、維新はそれが可能という幻想を振りまくことで、知事、そして市長の座を独占してきた。2度にわたる大阪都構想の否決は僅差であったことから推測すれば、完全に維新への幻想から冷めたわけではなく、一定の疑問を持ちながらも、多くの府・市民は現在でも支持している状態にあるといえる。当然、大阪経済復活に成功していれば、大差で可決されたと予想できる。
また、府ベースでみた総生産のマクロ統計情報は府・市民に身近なものではないため、意識し難いのが実態である。それが個人の所得、つまり自分の懐にまで目に見える形で影響してくれば、状況は変化してくると予想できる。それは一人当たり府民所得や一人当たり雇用者報酬でわかる。府民所得は個人だけでなく企業所得なども含むため、収益の大きい大企業が立地している都道府県が高くなる。
このなかで特に、一人当たり府民所得の下落が顕著である。既に09年度段階で対全国比は99.7%と全国水準を下回り、その後は上下に変動はあるが全国平均以下の推移で、17年度は16年度の同94.5%より戻しているものの同96.3%に留まっている。また、雇用者の個人ベースの所得になる一人当たり雇用者報酬(現金給与のほか現物支給や企業が負担する社会保険料などを含む)は17年度でも全国比102.2%で、全国水準より高いが、長期的に下降傾向にある。これまでの推移から推測すれば、足下の20年度にはそれを下回る、つまり府民は全国平均以下の報酬しか貰えなくなっている可能性がある。
対全国比での一人当たり府民所得と一人当たり雇用者報酬の乖離は、府民所得に含まれる企業所得や個人事業主などの収益性が低いことを反映している。特に、企業所得は大企業ほど高いことから考えれば、大企業の本社機能の東京流出や成長するサービス業の大企業が東京・東京圏に集積している影響が大きい。
この要因は基本的に日本の構造的な問題に依るが、これを踏まえた政策でなければ、有効な経済成長戦略にはならない。その結果として、維新の長期政権下で大阪府経済が地盤沈下から脱せない現状がある。結局、それまでの大阪経済政策と比較して、維新の政策がより悪かったとは言えなくても、特に効果はなく、評価できるものではないと判断できる。
維新の政策の第1に掲げられているのが府と市の二重行政の解消で、この趣旨に反対する人はいない。しかし、その事例が府と市の2つの高層ビル建設では説得力が無い。同じ地域に競って建設したのであれば有効な事例になるが、別の地域にそれぞれ異なる目的で建設され、単にそれぞれが過大なビル需要を見込んで建設した失敗事例でしかない。
自治体の長、首長は一般的に在任期間中に記念物、それもできるだけ巨大なものを作りたがる傾向にあり、需要を過大に見込んだ施設が建設されることはよくある話である。府と市が一体になっても2カ所に必要となれば、同じように無駄な高層ビルが建設されたと予想できる。それよりも維新が力を入れているIR(統合型リゾート)や大阪万博の方がより大きな失敗事例になる可能性がある。
もともと、このような事例しか挙げられないことから推測すれば、現実に二重行政による大きな無駄遣いは無い、つまり、実態は都構想が実現しなくても二重行政による無駄遣いを避ける行政が行われていることになる。逆に、大阪都構想のための住民投票の費用は発生し、可決されていれば組織改革に伴う費用も必要になるわけで、費用対効果から判断して、効果が費用を上回るとは考えられない。現状の維新の政策を前提にすれば、大阪都構想の実現、府と市の組織形態とは関係なく大阪経済の復興はない。都構想の否決は良かったが、今後も大阪経済の地盤沈下が続くことを考慮すると、維新が主張を変えるか、または維新に代わる新たな政党が出現するかは別として、冷静に実態を分析して政策を考える政党が求められる。一方、府・市民は根拠のない主張に惑わされないことが大切である。
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コロナ禍で景気は急降下し、それが労働市場にも波及してきた。現実には就業者数(総務省統計局「労働力調査」)は既に季節調整値で2019年12月の6,765万人をピークに減少に転じていた。また、就業者数の原数値は前年比で20年4月から減少基調に入り、9月は6,689万人、前年同月比79万人、1.2%の減少である。19年5月1日付けのこの経済レポートで労働市場の変化の兆しを指摘したが、それでも労働需給が逼迫し、高齢者雇用の拡大などで人手不足を補っている状況から、変化が一般的には認識されなかった。要因として、コロナ禍の影響が労働市場にも波及してきても、9月の就業者数(季調値)は6,655万人、前月比4万人減、対ピーク比1.6%減に留まり、完全失業率も3.0%とまだ低水準にあることが挙げられる。
最近の雇用の特徴として非正規雇用が増加し、雇用者全体に占める割合が拡大していることはよく知られている。このため、最近の雇用の減少の状況を、役員を除く雇用者の正規(労働力統計では正規の職員・従業員、以下、正規雇用者)と非正規(同非正規の職員・従業員、以下、非正規雇用者)の男女別年齢階級別で、最近時の7〜9月期の雇用動向から雇用削減の特徴をみる。ちなみに、19年の就業者数6,724万人に対し、役員を除く雇用者数(正規雇用者と非正規雇用者の合計)は5,668万人、84%を占めている。また、9月の就業者数の前年同月比79万人減に対し、雇用者数の減少は75万人で95%を占め、7〜9月期ではそれぞれ230万人、236万人で、雇用者の減少幅が就業者数を上回っている。
20年7〜9月期の前年同期比で正規と非正規別にみると、正規雇用者は全体では1.3%増と減少していない。男女別では男性0.4%増とほぼ横ばいに対し、女性3.1%増で、女性の伸びが男性を上回っている。年齢階級別では女性は減少している年齢階級が無いのに対し、男性は図に見られるように2番目に雇用者数の多い35〜44歳の10万人、3.2%の減少が目立っている。
一方、55〜64歳の19万人増、5.4%増と65歳以上7万人増、9.5%増が比較的高い伸びになっている。これは人口構成変化を反映したもので、35〜44歳は人口の多い団塊ジュニアの世代がこの年齢階級を超えるようになってきており、人口が減少している。ちなみに、35〜44歳の7〜9月期の人口(労働力統計)は19年の1,630万人から、20年は1,584万人と1年間で2.8%減となっており、この人口減少を考慮すれば、顕著な減少というほどではない。
これから考えれば、高齢化から65歳以上が増えるのは当然といえる。そのなかで、団塊世代と団塊ジュニア世代に挟まれた55〜64歳は人口の変化が少なく、企業の定年延長で正規雇用者として残った人が多い結果と推測できる。いずれにしても男女ともに正規雇用者は9月までの労働力調査統計では悪化していない。
まだ労働市場の変化の影響が顕在化していない正規雇用者に対して、非正規雇用者の20年7〜9月期の前年同期比は全体で5.6%減、うち男性6.4%減、女性5.3%減といずれも減少で、かつ男性の減少幅が女性を上回っている。正規雇用者は女性の増加率が男性を上回っており、これだけ見れば女性の雇用の方が男性よりもコロナの影響が少ないと思える。しかし、全雇用者数では全体が1.4%減、うち男性1.2%減、女性1.6%減となっており、男性の減少幅の方が小さく、矛盾しているようにみえる。これは19年実績で男性は正規雇用者が非正規雇用者の3.4倍も多いのに対し、女性は正規雇用者が非正規雇用者の79%でしかないため、非正規雇用者の減少の影響が大きくなるためである。
20年7〜9月期の非正規雇用の年齢階級別でみると、男性ではいずれの年齢階級でも減少している中で、55〜64歳が前年同期比11.1%減と唯一2桁台の大幅な減少になっていることが特徴として挙げられる。この年齢階級の正規雇用者は比較的高い伸びをしていたことから推測すると、正規雇用者のままであれば定年延長で勤務を継続しても、非正規雇用者での定年延長では雇用条件が大幅に悪化して退職する人が多くなることは予想できる。減少は6月から顕著になっており、コロナ禍によって労働条件を大幅に切り下げられた影響とみられる。
一方、女性は15〜24歳同15.0%減、25〜34歳同9.8%減など若い年齢階級ほど減少幅が大きいのに対し、65歳以上は同0.5%増と前年水準を維持している。もちろん、高齢者人口が増えている効果は無視できないが、サービス業や小売業など若い女性の非正規雇用雇用が多い職場がコロナ禍の影響を受けているためと考えられる。これはコロナ禍が一巡すれば雇用の回復を期待できても、外国人観光客も含めて需要回復には時間が掛かり、元の水準に戻ることは当面、予測できない。
今回の景気循環で現在は従来と同様に削減しやすい非正規雇用者が先行して雇用調整が始まった段階で、まだ社会全体の雇用不安が生じるところまでには至っていない。社会問題になるかどうかは雇用調整の正規雇用者への波及次第だが、既に正規雇用者の削減計画を公表する企業が出現してきており、実施が本格化するのはこれからになる。結果、正規雇用者の減少が避けられないと予測され、その幅によって深刻度が異なる。
それは今後の景気回復力によるが、一時的には実質GDP成長率が持ち直しても、先行ピークの19年7〜9月期水準にまで戻るのは21年度まで持ち越す可能性が高い。加えて、コロナ後の就労形態の変化が予想され、雇用回復は見通し難く、楽観はできない。また、景気だけでなく、外国人労働力の導入規模がどうなるかの問題もあって単純ではないが、日本人の労働力人口の減少が着実に進むことは確実で、景気回復力が弱くても雇用問題はそれほど深刻にはならないのではないか。それよりも長期的にほぼ横ばい水準で推移し、世界水準でも高くなくなっている賃金の引き上げが重要課題になると考えられる。そして、それは外国人労働力にとって日本で働く魅力にも関係する。
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2012年12月に就任した安倍首相は今年の8月に辞任を表明し、9月に退任した。約7年9か月の長期に亘った政権の評価は各分野で行われている。経済の分野では経済成長率が実質GDP成長率で年率1%程度しかなく、本人がアベノミクス効果を強調している割には成長が伴なっていないことは指摘されている。ここでは実質GDPの需要項目の構成変化から、経済成長政策を評価したい。 安倍政権の意向を受け、異次元の金融緩和でアベノミクスを共に推進してきた黒田東彦氏が13年3月に日本銀行総裁に就任しており、年度ベースでみて13年度から安倍首相の経済政策による日本経済になる。これから12〜19年度の7年間の実質GDP年平均成長率をみると、たった1.0%増にしかならない。これから経済成果を自慢しても、経済成長からみればほとんど効果がなかったといえる。
その要因をGDPの主要な需要項目の構成比でみると、図にみるように各項目ともにこの間の変化は小さい。その中で、民間最終消費支出の構成比は13年度以降、微減でも着実に下降しているのが特徴といえる。13年度は12年度から横ばいの58.8%だったが、その後は55.5%まで6年間で6ポイントの減少である。
一方、民間企業設備投資が基調として穏やかでも増加ようにみえる。実質GDPに占める構成比は12年度の14.5%から13年度15.1%、14年度15.6%までは2年間で1.1ポイント増の比較的高い伸びである。しかし、その後は頭打ち傾向で、19年度は16.0%にあり、18年度の16.1%から0.1ポイントの減少である。
基本的に設備投資は景気、延いては企業収益の影響を受けやすい。安倍政権前の10、11年は欧州債務危機の影響で為替レートが円高水準で推移し、一時は1ドル=70円台まで円高が進んでいた。このため、輸出産業は採算が悪化し、民間設備投資も不振だった。先行ピークの06年度は16.1%、ボトムは10年度の13.7%であり、18年度はようやくその水準に戻っただけである。13、14年度の伸びが高くても、落ち込んだ後からの回復期であれば当然といえる。
円高の影響が解消された13年度からは18、19年度までの5、6年間で1ポイントほどの増加であり、アベノミクスで企業収益が大幅に改善しても、設備投資拡大効果はそれほどではなかったことはよく指摘されるが、それはこの構成比からも明らかである。それが1%の実質GDP成長率の低成長にとどまた要因の一つになる。
また、為替レートは日銀の金融緩和効果から長期的に円安状態が続いており、輸出も欧州債務危機による世界景気の影響を受けて設備投資と同様の推移になっている。12年度の14.5%をボトムに14年度の16.1%までは急拡大だが、18年度の17.4%をピークに、19年度は米中貿易摩擦問題をはじめとして世界経済のもたつきから17.0%へと0.4ポイントの縮小である。
いずれにしても、各需要項目の構成比の変化が小さいことは日本経済を牽引する需要項目がなかったためである。もちろん、全ての需要項目が同程度の高成長になれば、結果として構成比が変化しないことは想定できる。しかし、現実には均等した成長にはならず、需要項目間で成長格差が生じる。今回の場合、この間の成長性では全体の6割近くを占める民間最終消費支出の不振の影響が大きく、構成比で2割未満の設備投資や輸出は伸び率が高くならない限り、全体を牽引するには力不足になる。
また、設備投資は投資資金面から企業収益の影響を受けるため、景気変化に伴って大幅に変動する。ただし、収益が良くても、設備投資の必要性、つまり投資目的がなければ行われない。目的は主に需要増に対応する供給能力の強化と競争力強化のための生産性向上やコスト削減の2つになるが、特に前向きの能力増投資が重要になる。輸出されるものは別として、原材料や中間財、生産財は国内で最終的に消費されなければ需要に結び付かない。
つまり、民間最終消費と輸出の増加が設備投資の拡大に結び付き、うち、輸出は海外経済に依る。外国人観光客のインバウンド需要は輸出に含まれ、伸び率が高くて期待は大きいが、インバウンド需要も含めてサービス需要は輸出全体の2割程度でしかない。海外の経済状況の影響は少ないとしても、輸出全体を引き上げる効果はまだ期待し難い。
結局、民間最終消費の増加は設備投資にも波及し、海外の経済状況に関係なく、日本経済が一定の成長を維持するための必要条件になる。このため、安倍首相が民間最終消費を拡大するために所得のベースになる春闘賃上げを財界に求め、またこの間の雇用増を政策効果として強調するのは正当といえる。
しかし、賃上げは不十分であり、雇用増も低賃金の非正規雇用が中心になれば、消費の裏付けになる所得は雇用の伸びを下回る。その解消のために正規労働者と非正規労働者の賃金格差をなくす方針から、同一労働・同一賃金制の導入を図っている。それに対し、企業は人件費抑制から対策を考えるため、厳しい罰則付きで実施しない限り、普及は難しい。もともと規制緩和で非正規雇用を採用しやすくしたのは安倍政権であり、本気で同一労働・同一賃金制導入に取り組む気があったとは思えない。
また、この間に消費税が14年4月、19年10月からの2回の値上げが実施されたことも民間最終消費低迷の要因として挙げられる。収入が増えない中での消費増税が消費を冷やすのは当然といえる。それでも、それが社会保障の原資として使われ、国民は政府が国民生活を重視していると信頼し、将来への不安を解消する方向に向かえば、国民が消費に積極的になる可能性は高まる。現実には増税されても社会保障は切り下げられてきており、これでは民間最終消費が伸びない。安倍政権は日本経済の成長戦略を掲げていたが、失敗と言わざるを得ない。菅新政権によって転換が見込めれば良いが、安倍首相の政策を引き継ぐとするのに加え、「自助」意向が強いように受け取られるようでは、日本経済の成長率の向上は見込めない。
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2020年4〜6月期の実質GDP成長率(1次速報値、季節調整値)は前期比7.8%減、年率で27.8%減と内閣府から発表された。前期比で19年10〜12月期1.8%減、20年1〜3月期0.6%減に続いて3四半期連続のマイナス成長で、すでに景気下降が顕著になりつつあったところに、コロナウイルスの影響が加わった影響で大幅な落ち込みになった。一般的にGDP統計では方向性を把握しやすいため、季節調整値を使う例が多いが、水準は理解し難い問題がある。ここでは原数値の前年同期比で現状を判断し、回復の条件を考えたい。
原数値の実質GDPは18年1〜3月月期以降、上下はあるもののほぼ前年水準並みの推移で、年間の成長率は18年度0.3%増、19年度横ばいでしかない。四半期別の前年同期比成長率は19年10〜12月期に4四半期ぶりの0.7%減のマイナス成長になり、20年1〜3月期1.8%減、そして4〜6月期は9.9%減である。つまり、原数値でみれば、10〜12月期、または1〜3月期まではほぼ前年並であったが、コロナウイルス禍で1割ほど水準が下落したことになる。
需要項目では輸出の23.3%減が最も大きく、次いで民間最終消費支出の10.9%減になる。この2つは19年度で民間最終消費が実質GDPの56%、輸出が同17%を占める1、2位の需要項目で、4〜6月期のこれら2つの減少額はそれぞれ8.0兆円、5.3兆円、合わせて13.3兆円になり、実質GDP全体の減少額13.0兆円を上回る。また、実質GDPの16%を占め、輸出に次いで3位の民間設備投資(前年同期比4.3%減)は民間最終消費や輸出の需要の影響を受けることを考えれば、結局、GDPは民間最終消費と輸出が拡大しなければ、回復は期待できない。
輸出に関しては6月1日付のこの経済レポートで、4月までの貿易統計から中国向けが先行して回復傾向にあることを指摘した。その後、中国向けの輸出指数が7月(速報値)には前年水準を上回り、輸出全体では前年同月比で5月を底に回復傾向がみられる。つまり、季節調整値の輸出は7〜9月期に前期比増加になる可能性は高い。ただし、中国向けは19年度で輸出全体の2割を占めるだけであり、中国向けだけが底入れして前年比プラスになっても、4〜6月期の輸出全体の大幅減少から回復して前年水準を超えるかどうかは世界経済次第になる。コロナウイルス禍の現状からは当面は厳しい。
世界の感染者数の増加はピークを打ち、多くの国で感染対策規制の緩和が行われるようになっており、日本と同様に世界的にも景気の最悪期を脱しているといえる。その一方で、感染拡大中、または規制緩和で感染者が再び増加に転じる国・地域もあり、期待されるコロナウイルス治療薬・ワクチンの開発はまだ話題先行の感がある。世界経済がコロナウイルス禍を克服し、着実な回復基調に戻り、回復感が広がるのは来年以降になるのではないか。このため、日本の輸出は底を打って回復に転じたと期待はできても、前年水準を上回り、さらに季節調整値で過去ピークを上回るところまでは時間が掛かる見通しになる。
また、民間最終消費は97%を占める国内家計最終消費で耐久財、半耐久財、非耐久財、サービスの4形態分類で統計が公表されている。ちなみに、国内家計最終消費全体の前年同期比伸び率は19年10〜12月期2.2%減、20年1〜3月期3.2%減、4〜6月期12.4%減で、特に4〜6月期は民間最終消費との減少幅の乖離が大きいが、要因は日本に居住する家計の海外での直接購入の減少、つまり、コロナ禍による海外旅行の大幅な減少による。
4〜6月期の国内家計最終消費の前年同月比12.4%減を4形態分類でみると、耐久財13.6%減、半耐久財10.0%減、非耐久財4.6%減、サービス16.1%減となっている。交通、通信、外食・宿泊などのサービスと自動車、家電などの耐久財の大幅減少と、食料、飲料、電気・ガス・水道などの非耐久財の小幅減少が対照的である。
3密を避け、外出の自粛からサービスが縮小しているのは、7月1日付のこの経済レポートで取り上げたサービス供給側の第3次活動指数で、生活娯楽関連サービス業、鉄道旅客運送業などが不振であったことと見合っている。一方、耐久財ではテレワークや自宅学習の増加で、パソコン、テレビ、エアコンなどの家電関係が好調と報道されているのと消費支出減は矛盾しているように受け取れるが、自動車需要不振の影響が大きい。
減少が比較的軽微だった非耐久財は日常生活に欠かせない物やサービスであり、当然ということもできる。それでも、自宅滞在時間・日数の増加は非耐久財支出増加要因になることから考えれば、減少幅は大きいといえる。そして、その要因として雇用の削減が始まって将来不安が高まり、生活防衛意識が強まった影響と推測できる。
夏のボーナスは19年度下期の企業業績がピークを過ぎてもまだ水準が高かったため、小幅の減額で済んだが、冬のボーナスは企業業績を反映して顕著な減額になると予測される。コロナ禍対策による外出・旅行や営業などの自粛が緩和されているため、民間最終消費は4〜6月期を底に回復するのは確実と考えられる。4〜6月期の大幅な落ち込みの反動で7〜9月期は大きく盛り返し、延いては実質GDP成長率も高くなることは誰もが予想している。問題は10〜12月期以降になるが、労働市場の悪化にボーナスの減少が加われば、回復に頭打ち感が生じるのは否定できず、短期的な消費復活は見込み難い。
輸出と民間最終消費は当面、回復スピードは別として同様の推移が予想される。年明け以降は世界経済と新政権の経済政策次第になるが、国内の経済政策に関しては安倍政権の大きなツケが残っており、日本経済を改革して経済成長力が高まる効果的な政策は期待できない。結局、日本経済は世界経済次第だが、短期的には厳しいと予想される。
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新型コロナウイルス汚染による景気の落ち込みからの回復に関して、第2波とするかどうかは別にして、最近の感染者数の再拡大で、元の経済水準に戻るまでには1、2年は掛かるという見方が広がっている。この状況から中小企業の倒産、廃業の増加が懸念されているが、これに関しては長期的な要因も大きい。長期的に日本経済に期待できるのであれば、現状が厳しくても頑張って生き残る意欲が起きる。期待できなければ、その意欲は生まれないからである。
長期的要因として大きく、予測可能な問題として人口、つまり出生数の問題がある。出生数が趨勢的に減少傾向にあるのはよく知られ、2019年は90万人を下回る87万人になった。90万人を下回ったことで一時的に注目されただけで、その後は忘れられた状態である。しかし、これは減少傾向が加速傾向になっている反映であり、日本経済にとって長期的視点からみて深刻な問題である。
出生数は1990年代はほぼ120万人前後で推移し、1999年から2004年までの6年間は110万人台、そして05年から15年までの11年間は100万人台を維持していた。表面的には落ち着いてきていた。安倍首相が新三本の矢の一つとして、合計特殊出生率目標1.8を打ち出したのは16年である。前年の15年の合計特殊出出生率は1.45で、当時は05年の1.26を底に低水準でも回復傾向にあるように見えていた。それでも、出生数を増加に転じさせるのは容易ではなく、1.8は高過ぎて実現は不可能という意見が強い程度で、当時は深刻に考える人は少なかった。
その後の推移は1.8目標発表の16年に100万人台、3年後の19年には90万人台を割り込み、減少速度が加速している。合計特殊出生率を取り上げた15年11月1日付のこの経済レポートで、この間の合計特殊出生率の変動要因として人口の多い団塊ジュニア世代、第2次ベビーブーマー世代にあることを説明した。
合計特殊出生率は晩婚化に伴って出産年齢が遅くなった影響で、1974年までは2前後で推移し、75年以降は2以下が定着して基調としては下降線になっている。女子の人口千人当たりで5歳年齢別の出生数(以下、人口当たり出生数)は20歳代が減少する一方、30歳代が増加し、5年間隔で05年に30〜34歳がそれまで最大の年代だった25〜29歳を抜いた。しかし、20歳代の減少幅が30歳代の増加幅を上回っていたため、全体として出生数は減少してきた。 また、40歳代の出生数も30歳代と同様に増加してきた。ただし、人口当たり出生数は少なく、かつ、伸びも止まり、かつて30歳代が急増した現象の再現は見込めない。
当然、出生数は人口当たり出生数だけでなく、母胎となる女子人口、特に出生数の多い20歳代、30歳代の人口の影響を受ける。人口の多い71〜74年生まれの団塊ジュニア世代の出生数は、最小が71年200万人(内女子97万人)、最大が73年209万人(同101万人)である。この世代が人口当たり出生数が伸びる30歳代に入り、出生数が下げ止まりから回復に向かった。当時の底は05年の106万人で、06年から08年の3年間は109万人前後の推移になった。
そして、人口当たり出生数が30〜34歳の半分程度に低下する35〜39歳に移行するのに伴い、再び減少傾向になった。40〜44歳は人口当たり出生数が35〜39歳の5分の1程度で、かつ、増加していた40歳代の人口当たり出生数の伸びは頭打ちである。このため、団塊ジュニア世代が40歳代になる10年代中頃からは出生数の減少が加速してきた。この問題は15年11月1日付経済レポートでも指摘したが、その時の予想以上の減少速度である。
ちなみに、合計特殊出生率は2000年代前半の1.2台を底に、15年に1.45まで上昇したが、その後は微減の後、18年の1.42から19年は1.36へと急落している。19年は団塊ジュニア世代全てが人口当たり出生数が40〜44歳の5分の1程度の45〜49歳になった影響と推測できる。45〜49歳の人口当たり出生数は増えたといっても、19年で千人当たりで0.3人であり、出生数への影響は小さい。
人口当たり出生数の伸びは各年代で頭打ちか微減傾向にあり、これからの出生数は母胎の女子人口の影響が大きくなる。19年10月1日の日本人の女子人口は、ほぼ団塊ジュニア世代の45〜48歳は94万〜98万人である。これに対し、年齢が若くなるのに伴ってこれまでの出生数の減少を反映して減少傾向が続く。43歳から80万人台、40歳から70万人台、33歳から60万人台になるが、28歳、26歳に60万人を切っても僅かで四捨五入すれば60万人になる。19歳まではほぼ60万台を維持し、18歳からは50万人台に下がる。
40歳代後半の団塊ジュニア世代女子の90万人台から、30歳代、20歳代の60万人台へと急下降から判断すれば、当面は出生数の顕著な減少が続くと予想でき、人口の減少も避けられない。少なくとも、人口動向からは長期的に日本経済に明るい展望は描けない。
もちろん、中小零細の企業経営者がこのような人口統計を見て、日本経済や自社の経営を考えてはいないと思うが、この人口動向は市場には顕在化する。一方、長期的な出生数、人口の減少と高齢化が加速しつつある日本経済の現状、将来見通しは社会の雰囲気に反映する。コロナウイルスによる経済状況から、倒産しなくても潮時と判断し、自主廃業する企業が増える可能性は高い。それを避けるには、積極的な外国人労働力の導入が必要と考えられるが、その場合は彼らが働きたくなる日本であるかどうかが問われる。
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昨年は輸出が頭打ちから減少傾向になっていたところに、10月の消費税の10%への引き上げの影響が加わり、景気が下降傾向になっているのが明確になった。今年の春以降はコロナ禍から個人消費が一段と冷え込み、明るい業界を探すのが難しい状況にある。マスコミは話題性のある深刻な事例を取り上げる傾向にあるが、当然、全てが悪いわけではなく、影響は業種間で異なる。特に、悪い中でも営業自粛要請の対象業種が厳しく、個人消費関連の業種、産業統計では第3次産業に分類される個人関連業種の減少が大きいと予想され、このレポートではそれを第3次産業活動指数(2020年=100)で調べる。
ただし、第3次産業活動指数には自動車賃貸業の自動車レンタル業が自動車レンタル業(法人向け)と同(個人向け)と、事業所と個人の対象によって分けられているのは例外で、ほとんど一緒に集計されている。小売業のように販売対象が個人であっても、事業所も購入する業種、もともと対象が明確でない宿泊業のホテルや鉄道旅客運送業などもあるが、ここでは個人需要の比重が高いと思われる業種を取り上げる。
ただし、第3次産業活動指数の対象になる事業所、特に個人関連では小零細事業所が多く、廃業、新規開業が活発で、もともとどこまで把握できているのか疑問がある。また、今回の政府や自治体による営業自粛要請にもかかわらず、営業しているところもある。なかでも闇営業であれば、売上高を回答しているとは考えられず、指数の精度に問題があることに留意する必要がある。
全体の第3次産業総合では前年同月比で2019年10月以降マイナスが続いているが、20年2月までは微減程度に留まっていた。3月からコロナの影響が現れ始め、3月の5.3%減から、4月は11.5%減と急速に減少幅が拡大している。ただし、5月中旬には自粛要請が部分的でも緩和され、その後も徐々にでも緩和の方向にあり、5月からは減少幅が縮小に向かっていると推測できる。
主に個人を対象とする主要な第3次産業業種を見ると、ほとんどの業種が3、4月に減少幅が拡大している中で、水道業が2月の4.9%増から3月0.1%増、4月1.9%減と、前年度とほぼ同水準の推移である。2月はうるう年効果で比較的高い伸びになっているだけで、水需要は景気やコロナの影響はほとんどみられない。
また、医療・福祉もこの3か月間、1.9%増、2.2%減、0.3%減となっており、同様に前年並みの推移である。病院に関してはコロナの影響による来院が減少している一方で、コロナ患者の受入のために病室、ベッドを空ける必要があって収入が減少するだけでなく、備品の確保・充実などの対応でコストが掛かり、大幅赤字という報道もある。ところが、第3次産業活動指数には現れていない。要因として、医療・福祉事業所の収入の時点で統計に反映されるとすると、保険による支払いが後払いになるためと考えられる。
その一方で、減少幅が大きいのは自粛要請の直接、間接の影響を受けた業種を多く含む生活娯楽関連サービスになり、4月は50.8%減とほぼ半減である。なかでも宿泊業77.3%減、飲食店・飲食サービス業56.7%減、その他の生活関連サービス業61.1%減などは半分以下である。
さらに、細分類ではより深刻な業種がある。その他の生活関連サービス業に含まれる娯楽業の劇場・興業団のうち、プロ野球、サッカーなどのプロスポーツ興業は100%減、つまり興業はゼロになっている。これは極端としても、その他の生活関連サービス業の旅行業95.6%減、同冠婚葬祭業の結婚式場91.5%減、同遊園地・テーマパーク98.0%減などはゼロに近い。これらは自粛要請されているか、3密を避けると事実上営業できない業種になる。
その一方で、同娯楽業のパチンコホールは自粛要請対象にもかかわらず61.8%減と、半分以下でも相対的に減少幅は小さい。この数字は開業ホールの割合ではなく、売上高であり、開業ホール数は少なくても、そこに客が集中し、売り上げが伸びた可能性が高い。パチンコホールでは闇営業は難しいため、この数字の精度は高いと判断できる。つまり、開業ホールの名前を明らかにするのは、逆にPR効果になるだけという批判があったが、それが現実になったといえる。
これらの業種の中間にあるのが小売業で、4月の減少は14.4%減に留まったが、細分類では他の業種と同様に格差は大きい。各種商品小売業43.3%減、織物・衣服・身の回り品小売業54.4%減などが半分前後に落ち込んでいるのに対し、食料品小売業1.5%増、その他の小売業の医薬品・化粧品小売業1.5%増などは前年並み水準を維持している。生活必需品の購入は変化していないのに対し、各種商品小売業は業界団体の販売統計では、百貨店がインバウンド需要減と営業の自粛で大幅減であるのに対し、主に食料品や日用品を販売するスーパーは、第3次産業活動指数の食料品小売業と同様に前年水準を維持しており、各種商品小売業の大幅な落ち込みは百貨店の影響である。
小売業の数字は当然の結果で、消費者は日常生活に必要な物・サービスはコロナに関係なく購入し、そうでないものは営業自粛もあって大幅に抑制するか、それが余儀なくされている。抑制されてきた物・サービスは自粛や規制が緩和されれば持ち直しが予想されるが、それは一時的な効果と考えられる。基調として元の水準に戻るまでには、景気回復が必要で、それには時間が掛かると予想される。世界的に短期的にコロナ禍が解決する見通しはないため、輸出主導の回復が期待できず、国内は政策が手詰まりになっているからである。
これは第2次の感染拡大を想定していないが、第2次が発生し、再度の自粛要請が行われれば、4月のような異常ともいえる落ち込みの再来が避けられない。今回は乗り越えられたところも、今度は持ち堪えられずに縮小、廃業、倒産する企業が一気に増加することが懸念される。
それを避けるにはパチンコ業界のような不公平が生じないように、休業指示と同時に持続化給付金の充実と早期実施支給が求められる。第1弾の対策はまだ完了していないものも多いが、この経験を踏まえて早期実施・完了でないと、企業の減少でより景気回復が遅れることになる。その時、何事に対しても責任があると言うだけで、責任を取らない政治では、残念ながらあまり期待できそうにもない。
今回の新型コロナウイルス感染症の世界的大流行で、発表される経済統計はほとんどの国・地域で急速に悪化している。コロナウイルス感染で就労が困難になるのに加え、政府による外出制限や人との間隔(社会的距離)の維持、都市封鎖などの規制が経済統計に表れている。世界的に経済が下降線にあるのは確かでも、感染症流行が本格化しだしたのは今年に入ってからで、かつ各国・地域で発生、流行が拡大した時機に差があるため、現状の判断、回復時期などは予測困難な状態にある。全体的には期待を込めてと思うが、発表されている意見では大規模な感染症の第2波、3波はないとして、今年後半には底入れから回復に向かうとしている。ただし、来年の回復力は弱い予想である。
日本も患者数の減少から5月後半には規制緩和が始まり、経済対策も加わって4〜6月期を底に回復は見込める。しかし、その後の回復力は内需に期待できず、輸出、つまり海外経済に依ると予測される。当然、日本の主要輸出入先の米国、EU、中国、アジアの経済状況が重要になり、これらの経済状況を統計の信頼性に高く、発表の早い財務省「貿易統計」の貿易指数(2015年=100)から推測する。
輸出指数は全体(世界)として2019年から既に世界経済の頭打ち傾向を反映し、前年比で上下変動はあっても基調としてみれば、微減傾向で推移してきた。主要輸出市場の米国、EU、中国、アジアはいずれも減少基調の推移で、中国は経済成長率はプラスでも、国産化の進展や米中貿易摩擦問題を受けて、米国輸出に使われる日本製の原材料、部品の輸出減の影響から、米国やEUより減少幅が大きかった。
20年に入っても1、2月は19年の基調の推移を維持していたといえる。しかし、3月は全体で前年同月比2桁台の減少に急減した。米国と中国、そして中国と結び付きの強いアジアが減少し、特に、輸出全体の約2割を占め、最大輸出市場の米国が同15.9%減と中国同10.3%減、アジア同10.5%減を上回る大幅減少になった影響が強い。米国は消費に弱含み傾向がみられ、それにコロナウイルス対策の規制が加わり、日本の輸出に波及してきた。
一方、中国は春節休暇が当初の1月 24〜30 日から、コロナウイルス対策で2月2日まで延長になり、その後も多くの企業で同月9日まで延長になった影響が3月に残っていたと推測できる。春節休暇の延長による中国での陸揚げ中断が、日本の通関に反映するまで日数が掛かるためである。それでも、中国はコロナウイルスの影響で米国向けの間接輸出減と国内での日本製品の最終需要減を合わせても、米国よりは打撃が少なかったことになる。また、EUは同9.1%減の2桁近い減少だが、それまでの推移から判断すれば、特に減少幅が広がっているわけではなく、コロナウイルスによる需要減が現れたとはいえない。
4月は中国とその他の乖離が特徴として挙げられる。全体の輸出指数が前年同月比21.4%減と一段と落ち込み、米国の同36.8%減が目立つが、EUも同27.7%減と、いずれもコロナウイルス対策による規制で、需要の減少が顕著に反映している。これらに対し、中国は同2.4%減に留まり、2月までと同程度の減少でしかない。これだけみれば、コロナウイルスの影響はほぼ解消し、元の正常状態に戻っているようにみえる。
ただし、2月の春節休暇の長期化が輸送に要する日数の問題もあって、3月の日本からの輸出にマイナスに影響し、その反動のプラス効果が4月に含まれた可能性を考慮すれば、実態としてはもう少し低い水準も考えられる。それでもコロナウイルスの影響が本格化してきた2、3、4月の輸出指数の推移から、中国経済は他国・地域と比較すれば、打撃は軽微に留まり、いち早く脱出しつつあるといえる。
また、アジアは同11.8%減と3月と同水準程度の減少である。ただし、基準年の15年の輸出額がアジア40.3兆円、中国13.2兆円と、中国がアジアの3分の1ほどを占める割合から推計すると、小幅減少の中国以外のアジアは同20%近い減になる。
一方、輸入は日本の経済状況の影響が大きいが、今回のコロナウイルス問題では輸入先の生産・供給制約から、国内需要があっても輸入できない状況に陥る可能性がある。もちろん、19年はコロナウイルス問題はなく、輸入指数は日本市場の状況に依る。19年の日本経済は頭打ちから下降傾向になっていたため、全体として輸入指数も減少傾向であり、20年1月までは輸出指数同様の推移になっていた。
その後は乖離が生じ、輸入指数は20年2月に前年同月比17.3%減が一時的だが顕著な減少になった。これは基準年の15年の輸入全体の約4分の1を占める中国が、春節休暇長期化の影響を受けて同49.1%減とほぼ半減したことにある。これだけで17.3%減の7割以上の減少要因になり、これがなければ1桁の減少になり、それまでの推移より少し落ち込みが大きい程度である。
中国からの輸入指数は3月の同3.5%減から4月11.3%増では、春節による2月の減少分を取り戻したとはいえず、日本向けの生産はまだ水面下と推測できる。それでも、商品別で4月の機械系の部品の輸入は前年同月比で比較的高い伸びになっており、生産回復は急速に進んでいると推測できる。一時は中国からの部品不足が日本国内での供給不足をもたらしていたが、これが早期に解消されると期待できる。
3、4月は輸出指数が全体で急落してるのに対し、輸入指数は中国がほぼ元の状態に戻したのを受けて、全体では微増減である。このように貿易統計で輸出は3月からコロナウイルスの影響が現れているのに対し、輸入では2月の中国以外では表面化していない。その要因として、日本の需要の減少は4月頃から本格化し、かつ輸送に時間が掛かるためと考えられ、輸出から遅れて5、6月頃から顕著な輸入減が予想される。
今後の日本経済との関連からは輸出が問題になり、米国、EU、アジア(除く中国)のうち米国は3月、EUとアジア(除く中国)が4月から減少傾向を強めている。米国とEUは規制緩和が始まっているが、コロナウイルス感染の第2波を考慮しながら徐々にしか進められない。これから予測すれば、5月か6月頃が輸出減の底になると見込めても、大幅に落ち込んだ状態から急回復は期待できない。また、対米貿易摩擦問題を抱え、かつEU経済の立ち直りが穏やかと考えれば、中国の回復、成長が他国より早くても、その速度には限界がある。全体として輸出主導の回復になっても、それは国内需要の回復が遅いだけで、輸出水準が回復するのは来年に持ち越す予測になる。
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3月の鉱工業生産指数(速報値、季節調整値)は前月比3.7%減の大幅な落ち込みになった。1〜3月期では前期比0.4%増のプラス成長だが、前年同月比では4.5%減になり、2019年10〜12月期の同6.8%減より減少幅は縮小しても大幅マイナスである。一方、4月の製造工業予測指数は前月比1.4%増の持ち直す見込みになっている。調査は毎月10日現在であり、4月7日の新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言後になるが、それ以前に回答、またはその後であっても見直さずに回答している企業も多かったのではないか。企業・産業の動向から判断すれば、今回のコロナ禍の影響を織り込んでいない数字と推測でき、4月実績は2か月連続の大幅減が予測される。
鉱工業生産は前期比、前年同期比で19年1〜3月期以降、減少傾向にあり、景気のピークは18年10〜12月期だったと考えることもできる。そうでなくても、19年10〜12月期実質GDP成長率(第2次速報値)が前期比1.8%減のマイナス成長になっており、遅くとも19年7〜9月期がピークと判断できる。
新型コロナ感染の拡大スピードに頭打ち傾向が見られ、緊急事態宣言は早ければ5月中、遅くとも数ヶ月以内に終結に向かうだろうが、そうなれば、その後の景気回復力に関心が移ってくる。一時的にはこの間に抑制された消費が買い替え需要を中心に盛り上がり、1、2四半期程度は前期比で高い伸びが見込める。しかし、コロナウイルス感染の第2波、第3波(現在を第2波と考える人には第3、4波)の大波が来ないとしても、力強い回復力が維持されて1、2年程度で元の水準を回復することは期待し難い。
内外需別に考えると、まず外需面ではリーマンショック後の世界経済の回復を牽引した中国のような国の出現は期待できない。海外市場では中国が先行して最悪期を脱して生産回復に向かっているといわれている。しかし、欧米や日本、東南アジアの経済が正常化しない限り、世界の工場となった中国が、国内経済対策だけで復活するのは容易ではない。欧米は部分的に経済活動が再開され始めた段階であり、このような状況では日本が外需主導の景気回復になったとしても、力不足は否めない。それは外需主導となっても、弱い内需の伸びを外需が上回るだけで、全体としての成長力は乏しい。
力強い回復には内需、特に個人消費が課題になる。店舗の閉鎖や外出の自主規制で抑制された消費は、例えば、乗用車や家電などは繰り延べられた買い替え需要を中心に、新規需要も含めて復活することは期待できる。しかし、繰り延べられた需要のほとんどが復活するところまでは期待できない。
雇用・所得環境が一変しているからである。大企業の正社員とその他の非正規労働者、個人事業者などの間で格差は大きいが、大企業の正社員は雇用が保障されているとしても、所得面では厳しい状況が予想される。最近の企業の賃金政策は企業の収益増を長期的な負担増になる賃金体系には反映させず、一時金、ボーナスを増やすことで対応する政策を採っている。結果、正社員の収入は昨年末の冬までは企業収益の好調を反映して高い伸びになってきた。
大企業の今夏の一時金は減額になっても、まだ2019年度後半の収益に基づくため、微減程度の高水準が見込まれている。それが今冬は大幅な減少が避けられない状況にある。また、少なくとも来夏も今年が高水準になったことから推測すれば、幅は別として減少は避けられない。その前に、来夏の予想は難しくても、足下の仕事が減少し、企業収益が下降線にある状況から、今冬の厳しさは誰でも想定する。これから考えれば、今夏が高水準でも財布の紐を締めざるをえない。かつ、企業環境が厳しい状況下で、最近の企業の雇用政策を考慮すれば、大企業であっても雇用が保証されていると安心できる人はどれだけいるか。予定していた買い換えを中止する消費者は少なくないと考えられるからである。
一方、非正規雇用の雇用削減は始まっている。3月の有効求人倍率は1.39倍と1を大きく上回っているが、基本的に労働市場は景気に対して遅行指標であり、今回のように景気が急速に悪化すれば、労働指標と実態とのずれが従来以上に乖離していると想定できる。労働指標では見え難い仕事の保証のない個人事業者も厳しく、小零細のサービス業、商業の倒産が増大し始めている。
また、パート賃金は近年の人手不足状況下で少額でも時給が増え、少しは明るい見通しが持てるようになってきた。ところが、労働需給が一変したことにより、賃上げの可能性はほとんど無くなっている。ただし、世界的な景気悪化による需要の減少は、原油価格の下落に見られるように物価の値下がりを通して実質所得を引き上げる効果はある。
景気が厳しくなる中で、政府は新型コロナウイルスの被害への緊急経済対策として、条件付きでの現金30万円給付の生活支援臨時給付金(仮称)を出している。その後、30万円給付の条件が厳しいため、コロナ禍で困窮している世帯に支給されるのか疑問が出され、批判が強かった。結果、対応が遅いながらも住民一人当たり一律10万円を給付する「 特別定額給付金」が実現した。しかし、この状況が長期化した場合の対応は不明である。
以前から、このレポートで国民は政府を信頼していない考えを示してきたが、今回も国民に寄り添った政策とは言い難い。世界的なコロナ禍は世界で対策に取り組まれているため、その政策、金額や支払いまでの日数などが諸外国と比較されるため、日本政府が国民生活を配慮していないことがより明確になっている。この結果、政府への信頼度は一段と低下することが避けられず、景気が底を打って回復に向かって雇用が増加し、所得が増えても、国民が積極的に支出するようになるとは思えない。
もちろん、低所得者は貯蓄できる余裕もないため、収入≒支出になるとしても、精神的には消費抑制になる。一方で、景気の影響をほとんど受けない高所得・資産家の人もいるだろうが、それは一部でしかない。全体としては所得、支出が増えず、つまり消費の回復力が弱い中では設備投資や住宅建設も期待できない。加えて、公共投資の波及効果も低下しており、その中で高齢化による年金生活者支出の下支え効果は見込める程度で、明るい材料に乏しいのが実態である。
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この2015年12月1日付け、18年10月1日付けの経済レポートでそれぞれ女性、高齢者の就業の増加を取り上げた。近年の就業構造の臨時・パート雇用化に加えて労働力不足から、女性の就業化が促進されてきた。また、年金支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げる対策として、政府が企業に65歳まで雇用延長を要請した影響もあって、男女共に高齢者の就業率が高まっていることを示した。女性の就業率は結婚、出産後の20〜30歳代の就業中断、いわゆるM字曲線の解消が進み、男性に近い形になってきた結果、最近はM字曲線の解消による就業率の上昇効果は頭打ちになっている。
少子化による人口の減少が予想され、雇用増を若・中年の女性に期待するのが難しくなれば、男女を問わず高齢者への期待が高まる。これまでも高齢者の就業率は着実に高まり、19年の5歳年齢別でみると、60〜64歳の就業率は70.3%(総務省統計局「労働力統計」)に達している。統計が集計された初年の1968年から2013年までは50%台の推移だったが、14年に60%台になり、それが6年後には70%台に乗せた。この68〜13年までの間に、就業率は65〜69歳で38.7%から48.4%、70〜74歳で23.3%から32.3%であり、高齢者の就業意欲は高まる傾向にある。
今後に関しても、年金支給開始年齢を70歳に引き上げる可能性が高まっており、同時に企業は70歳までの雇用が求められる。また、年金額を抑えるマクロ経済スライド制度によって実質年金額が減少し、長寿命化への備えもあって、高齢者就業率は上昇していくと予想できる。もちろん、景気との関係が無視できず、近年の高齢者の就業の伸びは労働力不足の影響がある。
一方、就業率では人口だけでなく、日本の年齢別人口構成も影響する。景気は別として、年齢別人口構成では1947年から49年の団塊の世代の出生数が年間270万人近くになり、人口規模が大きいことで社会に大きな影響を与えてきた。団塊の世代は昨年の19年段階の年齢でみれば68歳から70歳になり、人口規模が大きいため、就業率が高くなれば相乗効果で人手不足軽減に貢献してきたといえる。
ただ、19年1月1日現在の5歳年齢別人口規模(総務省統計局「人口統計推計」)のほぼ18年人口では、日本人人口は一部が団塊世代になる65〜69歳の917万人を、45〜49歳の956万人が上回る。45〜49歳は1970〜74年生まれになり、これらの年齢は団塊ジュニアの71〜74年生まれが大部分だが、出生数は最大でも73年の209万人に留まる。
対象年齢の5年間の出生時の人数は65〜69歳の1,105万人が45〜49歳の1,010万人を1割も上回っていた。しかし、出生後の死亡のほかに海外転出などの要因によって、65〜69歳の減少数が大きいためである。ちなみに、出生から18年までの間で65〜69歳は17.0%減になり、45〜49歳の5.3%減を大幅に上回る。
1946年までの戦時中と敗戦直後の出生数は不明だが、70〜74歳の19年1月1日現在の日本人人口が828万人であることから、65〜69歳を下回っても出生数は比較的多かったと推測できる。これに対して、65年以降の出生数は団塊ジュニア世代まで年間200万人を大きく下回る水準の推移で、50〜64歳人口は顕著な谷間になっている。
団塊の世代を含む65〜74歳の高齢人口は高出生に支えられ、現在でも人口規模が大きく、かつ同一年齢間比較では就業率を高め、これから暫くは人口減少傾向下における労働力不足を補うと予測できる。これは数の維持には期待できる一方、就業者構造は高齢化することになり、質面、つまり労働生産性の維持、向上がこれからの課題になる。
政府は年金対策で高齢者就業と同時に女性の就業促進に取り組み、労働環境を大きく見直す働き方改革を進めている。この改革は単に労働時間を短縮するだけでなく、労働生産性の向上も政策課題にしている。理由は先進国の中で日本の労働生産性が低いことに注目が集まるようになったことにある。労働力人口が増えない中で、現状のままで労働時間を短縮すれば、GDPの伸びを抑える結果になる。つまり、GDPを維持、向上させるには時間当たり生産性向上が不可欠になる。企業が労働時間を減少させても生産、売上を維持・増加できるように努力し、生産性を伸ばす契機にする考えである。
ところが、長寿命化は健康で元気な高齢者を増やし、高齢者の就業率向上の要因でもあるが、高齢化に伴う体力、気力、知力などの衰えは避けられない。個人差は大きいため一律にはいえないが、平均的には高齢化に伴って低下する。その一方で、就業して仕事を覚えて習熟するには時間が掛かり、若年層の生産性は低い。ただし、就業後の若年層は生産性の上昇が期待ができる。年齢別の生産性の指標はないが、高いのは20年代後半から50代頃までと考えられる。
5歳年齢別就業者数では人口構成を反映して、19年で45〜49歳の847万人をピークとして、その前後で図のように減少する山型になる。このピークの年齢層の生産性は年齢から判断して、これからか低下の方向になることは避けられず、全体としても年齢構成では下降傾向になる。短期的には団塊世代、中期的には団塊ジュニア世代が高齢就業者になって人数の面では支えても、それが生産性向上の足枷になることが懸念される。
長期的にはより厳しい。出生数は年間200万人を越えた団塊ジュニア以降、急速に減少している。現在15歳年齢の84年から出生数は150万人、2016年から100万人を下回り、19年には推計値で84万人まで減少している。つまり、これから生産性向上を支える若い就業者が長期的に急速に減少するのは避けられない。
当面の対策として、高齢者でも生産性を維持、向上させる技術開発が必要になるが、それは若者より高齢者の方が生産性は高くなる技術でなければ、国際競争の面からは効果が無いことになる。現実にそのような技術があるか期待し難い。
とすれば、外国人労働力の導入が必要になる。現状は総務省統計局「人口統計推計」の19年1月1日現在のデータで、日本人人口1億2,419万人に対し、総数1億2,632万人であり、日本人以外は213万人、日本人に対し1.7%でしかない。就業者の高齢化を防ぐには1千万人規模の外国人労働力導入が長期目標になるが、そのように政策転換しても、期待する人材が来てくれるだけの魅力が日本にあるかどうかが問われるようになる。
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2019年10月からの消費税の引き上げは、前回の5%から8%(108/105=1.029、2.9%)と比べると、今回の8%から10%(110/108=1.019、1.9%)は小幅で、かつ軽減税率の導入もあり、物価への影響は少ないと予測されていた。現実に、個人消費の駆け込み需要とその反動減も小規模で終わったことが、関連指標の推移から明らかになってきている。一方、住宅需要への影響として引き上げ率は低くても、住宅価格は高額なため、2%でも額は大きく、影響を懸念する見方があった。
ただし、住宅の場合、引き渡しが10月を越えても請負契約が3月末までに行われていれば、8%が適用される経過処置があり、引き上げの影響が見え難い問題がある。また、最初は10%への引き上げを15年10月に予定していたのを、14年11月に17年4月まで延期、また、それを16年6月に今回実施の19年10月に再延期すると発表された経緯もある。そして、19年10月に実施すると表明したのは18年10月である。ただし、3度目の延期もあり得ると考えていた人は少なくない。
延期の発表は実施予定月の1年近く前と早く、駆け込み需要の発生はほとんどの商品では無い、事実、起こらなかったといえる。しかし住宅の場合、金額が大きく、かつ一生に一度の買い物になる消費者も多く、購入の準備に少なくとも数ヶ月以上も前から取り組むのが一般的である。その準備を始めていれば、急に延期を発表されてもいずれ引き上げ実施が予想され、希望に添う物件が見つけていて、購入を中断する消費者は多くはないと推測される。つまり、住宅需要への規模や時期の評価は困難だが、一般の商品とは異なり、一定の影響を受けると考えられる。
前回の14年4月からの消費税の引き上げでは、住宅への影響を新設住宅着工戸数で見ると、引き上げ1年前の13年の5月から前年同月比2ケタ台の伸びになり、その状態がほぼ14年1月まで9か月間続いた。結果、13年度の新設住宅着工戸数は前年度比10.6%増の大幅な増加で、1年も前から影響が出るのは建設期間が長いためである。
その反動で、引き上げ前月の14年3月から15年2月まで前年同月比で減少になり、うち急増と同様の期間の5月から1月まではほぼ2桁台の減少で、14年度では10.8%減になった。この2年間の戸数の増減はほぼ同数の10万戸ほどになる。結局、着工ベースでの駆け込み需要は引き上げの2か月前までで終わり、明け込み効果とその反動減は1年ほど続いたことになる。この消費税引き上げ前後の変動は、図に見られるように持ち家で顕著に表れるのが特徴である。
一方、14年11月に消費税の引き上げ実施を15年10月から17年4月へと1年半の延期が発表されたが、この時は4月の引き上げによる反動減中であり、減少幅を縮小するような駆け込み需要への発表の影響は見えない。ところが、16年6月に行われた17年4月からの実施を19年10月への延期発表に関してはその影響が推測できる。
延期予定の1年ほど前になる16年4〜6月期と7?9月期の2四半期の前年同期比伸び率がそれぞれ7.1%増、7.9%増になった。その前後が1桁台の低い方の伸びであったことから考えれば、6月からの引き上げに備えて準備していた消費者が、延期発表に影響されずに住宅着工に動いたと考えられる。これは前回の影響が1年ほど前から顕在化していることと相応する。ただし、延期発表から今回の10月の引き上げ実施まで1年4か月も空いており、この間の駆け込み需要と反動減は解消していると考えられる。
そして、今回の引き上げでは19年3月の前年同月比10.0%増、1~3月期で5.2%増が目立つ程度で、総数では駆け込み需要はほとんど見えず、消費税の引き上げ率が低い影響と思える。しかし、利用関係別ではそうではない。貸家の影響が大きいためである。貸家も建設費の影響があるのは当然だが、それよりも転貸を目的とした一括借上のサブリースの落ち込みがある。当初予定していた家賃収入が保証されないとして、16年末に家主がサブリース会社を集団提訴したのがサブリース問題の始まりになった。
この頃からサブリースへの不安が高まり、シュアハウスでも同様の問題が発生し、また、住宅融資の不正利用も広がっていることが明らかになった。これを受けて金融機関は住宅融資審査を厳しくしている。この影響の浸透で貸家の減少傾向が強まり、住宅着工全体の推移を歪めて見え難くしている。
貸家はサブリース問題で17年6月、四半期では7〜9月期から前年水準を下回るようになった。その後、問題拡大に伴い徐々に減少幅が拡大し、四半期では19年1〜3月期までの前年同月比1桁台の減少から、4〜6月期からは2桁台に減少幅が拡大している。総数でも19年4〜6月期から減少になっているが、この主要因は貸家にある。戸数ベースでは貸家が総数の4割を占め、この影響が大きいためで、貸家を除けば7?9月期までは前年を上回り、10〜12月期も総数では9.4%減だが、貸家を除けば5.5%減に留まる。また、貸家は1戸当たりの面積は小さいため、総数を床面積で見れば減少であっても同様に小幅になる。
一方、戸数ベースで全体の3割を占める持ち家は、前年同月比で19年2月から6月までの6か月間10%前後の増加になり、8月から減少に転じている。前回の消費税引き上げの14年4月前後と比較すれば、マイナス効果はまだ終焉段階を迎えたとまではいえなくても、影響は短期化、小幅化していると判断できる。また、最近の特徴として、分譲住宅のマンション着工戸数の変動が大きいことが挙げられる。近年のマンション着工戸数は総数の1割強の年間10戸強、月間では1万戸程度の数量になる。人気が高まっている超高層の大規模マンションには、1棟で1,000戸を超える大規模なものがあり、その着工の有無がマンションの大きな変動要因になることが挙げられる。
今後の住宅着工に関しては、超高層マンションも水害問題から見直す雰囲気が見られ、そのブームの一端を担っていた中国からの投資は一巡し、住宅価格の高止まりの一方で景気悪化による所得の伸びの鈍化傾向が出始め、明るい要因は見当たらない。全体として貸家の減少はまだ続くと予想され、持ち家や分譲住宅は結局、景気動向次第になり、現状では期待し難い。それでも、貸家の落ち込みが大きいため、戸数ベースの減少幅より金額ベースのGDP統計へのマイナス効果は軽微になる。
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2018年度の日本の実質GDP成長率は0.3%増に留まり、17年度の1.9%増から回復が中断した形になった。15年度までの3年連続の2%台成長から16年度に0.7%増へとブレーキが掛かり、17年度は持ち直したが、18年度は12年度の0.1%増以来の低成長である。
一方、各民間予測機関の1年前の19年度経済見通しにおける18年度実績見通しは、世界経済の成長鈍化を受けて実質0.6〜1.0%増と減速を見込んでいた。ところが、成長鈍化判断は間違いではなかったが、現実はより厳しい結果になった。世界経済の影響による輸出の伸びの鈍化を大きくは見誤らなかったものの、GDPの過半数を占める個人消費(民間最終消費支出)が0.1%増とほぼゼロ成長になった影響が大きい。18年度の個人消費実績見通しを各民間予測機関は0.5〜0.7%増と控えめにしていたが、実績はその伸びをさらに下回ったからである。
1年前の実績見通しは年度上期の2四半期、半年分の実績を踏まえた結果であり、18年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の実績は0.8%の上昇になったのに対し、実績見通しの上昇率は0.8〜1.0%増とGDPの個人消費より乖離は少ない。また、18年度中は雇用環境も大きくは変化していないため、結局、消費者の将来不安の高まりで、消費抑制が強くなるのを読めなかったといえる。
18年度の実績を踏まえたことで、今回の19年度の実績見通しと20年度見通しでは、18年度に見られた消費不振が考慮された個人消費見通しになっている。前回の19年度見通しでの実質GDP成長率0.7〜1.0%増に対し、今回の19年度実績見込みは0.8〜1.0%増とほとんど変化はない。ところが、個人消費は同様に0.3〜0.7%増から0.1〜0.5%増に下方修正され、低い方のニッセイ基礎研究所やみずほ総合研究所の0.1〜0.2%増は低迷状態が続く予測になる。それでも、19年度の課題になる消費税増税の影響は引き上げが2%と小幅で、消費税対策の効果でその影響は少なく、景気の悪化による所得の伸びの鈍化が下方修正要因として挙げられている。
一方、世界経済の成長鈍化傾向が明確になり、日本の輸出に波及している。影響が大きいと考えられる米中貿易摩擦問題の交渉内容は明確ではないが、日本の輸出動向からみると中国経済の変調が顕著になり、その影響がアジア地域に広がっていると推測できる。いずれにしても、対中国輸出を中心に輸出全体が減少基調にあり、前回の19年度実績見込みの輸出は高くても3.3%増と穏やかな増加の見込みだったが、いずれもプラスの増加見通しであった。ところが、今回の輸出実績見込みは0.9〜1.7%減のマイナスに見直されている。
個人消費や輸出が下方修正されているにもかかわらず、19年度の実質GDP成長率実績期見込みが変化していないのは、公共投資(公的固定資本形成)にある。公共投資は前回の0.2〜2.9%増、多くは0%台の増加から、今回は3.1〜3.5%増へと上方修正になったためである。つまり、政府は景気は穏やかに回復を続けているとしている裏で、名目は災害対策であっても景気対策から公共投資で景気対策を行っていることになる。
18年度は実績と前回の実績見込みの乖離が顕著な年になったが、19年度が同様の事態になる可能性は少ないと考えられる。GDPで比重の大きい個人消費の実績見込みは既に低くなっており、マイナスでも1%に近い減少にならなければ、GDP全体に影響するほどの引き下げ効果を持たないからである。当然、最近の景気動向からは逆のプラス効果になる環境にはない。その他の主要項目は個人消費より金額が少なく、かつ高い伸び率を予測していないため、GDPに大きく影響する要因にはならない。
GDPの成長率が大きく変化する場合で考えられるのはバブルの崩壊である。日本の株価はピークを打っているが、世界的な金融緩和で地価や株価が高騰しており、その発生の可能性を懸念する専門家は多い。ただし、その発生を予測できても時期は不可能である。当然、20年度見通しではその事態は想定せず、米中貿易問題は今後も続くとしても深刻な問題にならないとして、世界経済は持ち直し、日本の輸出はプラスに転じるが、低い伸びに留まる見通しで一致している。
20年度の実質GDP成長率を政治的に決める政府の1.4%増は別として、民間の予測機関は日本総合研究所の1.0%増以外は0.5〜0.6%増で一致している。日本総研とその他の機関が乖離しているように見えるが、日本総研は公共投資をはじめ個人消費、民間設備投資、民間住宅投資など各需要項目の伸び率が少しずつ高目の見通しから、それらが合わさって全体として1.0%増になっている。両者間で日本経済に対しての見方が基本的に異なっているわけではない。
そのなかで、主要項目で格差が目立つのは個人消費で、日本総研が20年度も19年度と同じ0.5%増と横ばいの伸びをしている以外は、20年度の伸び率は19年度を下回る見通しである。なかでも、20年度の三菱総合研究所は0.1%減のマイナス成長である。最近の人手不足状態の解消までは至らなくても、この経済レポートで指摘しているように労働市場は緩和の傾向にあり、かつ、企業収益の頭打ちと労組側の姿勢から判断して、来春闘の賃上げ率は低下する見通しである。収入が増えない環境では個人消費の増加は期待できない。
ただ、三菱総研の個人消費がマイナス成長になる要因として消費者物価(生鮮食品を除く総合)上昇率が、他予測機関の20年度は19年度の横ばい、または低下しているのに対し、逆に0.8%増から1.1%増へと0.3ポイント高まる見通しになっていることが挙げられる。人件費の上昇率が低下し、為替レートが1ドル=108円から106円へと僅かでも円高になる見通しのなかで、物価上昇率が高まるとすれば、国際商品市況の上昇になる。しかし、世界経済の回復力が高まらない見通しの下では、穀物の不作が考えられるが、そのような事態は予測し難い。20年度の消費者物価上昇率が19年度の横ばい、または低下になれば、三菱総研の個人消費も他と同様に低い伸びのプラス成長になると考えられる。その場合、実質GDP成長率見通しは0.1〜0.2ポイント高まる。
いずれにしても、20年度は世界経済が予想以上に力強い回復になり、輸出主導の成長が実現しない限り、以前の実質GDP成長率の2%成長はほど遠く、3年連続の低成長見通しになる。
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今年5月1付けのこの経済レポートで、労働市場は需要の高い伸びから労働力不足が続いているが、厚生労働省「一般職業紹介状況」の有効求人数(新規学卒者を除きパートタイムを含む)は18年12月をピークに、レポート時点での最新の19年3月まで減少しており、「労働市場の潮目が変化」したことを指摘した。ただし、有効求職者数も同様のテンポで減少していたため、有効求人倍率は横ばいの推移になり、一般的には労働市場の変化に着目する人はほとんどいない。
その後は一般職業紹介状況で雇用需要の変化を取り上げる事例も見られるようになったが、現実の雇用者数はまだ拡大を続けているため、労働市場の変化に着目する専門家はいないようである。有効求人数の変化から半年ほど経ち、雇用者数の統計にもその影響が顕在化してきた。
総務省統計局「労働力調査」の2018年の実績で、就業者6.664万人のうちの9割ほどの5,936万人が雇用者で、その94%の5,605万人が役員を除く雇用者(以下、雇用者は役員を除く雇用者)になる。雇用者は正規の職員・従業員(以下、正社員)とパート・アルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規の職員・従業員(以下、非正社員)に分けられる。今回の景気回復で回復が遅れていた正社員も14年が底になり、その後は以前から雇用が増えていた非正社員と正社員のいずれも長期的に増加している。それでも、企業は非正社員化を進めているのを反映して、正社員の比率は低下傾向にあり、18年の正社員と非正社員の比率は62%対38%である。
雇用者数は季節的要因で変化するため、前年同月比の推移を比較しやすいように年別に月間の推移を図にすると、18年の雇用者数全体は17年の水準を大きく上回り、企業が積極的に雇用を増やしていたことが窺える。そして、19年に入っても増加人数は徐々に縮小傾向であっても、10月でも前年同月を0.8%上回る43万人増と拡大を続けている。これから判断すれば、有効求人数の変調は雇用者数にまで波及していないように受け取れ、まだ労働市場への関心が高まらないのは当然といえる。
ところが、正社員と非正社員で分けると状況は変化してきている。正社員は19年8月から2カ月連続で前年水準を下回るようになり、10月は前年同月より4万人増えているが、公務が11万人増えており、民間は減少である。公務を除いた民間では、7月から10月まで4か月連続の減少になる。一方、非正社員は10月も前年同月比で40万人増であり、非正社員の増加数が正社員の減少数を上回っているため、全体として雇用者数は増えている。労働市場の変化は見え難いが、正社員雇用の減少は労働需給の兆しといえる。
景気は18年後半以降から悪化の兆しが見られるようになり、先行き不透明な状態であれば、人手不足状態で雇用を増やすとしても非正社員になる。その採用方針の変化が正社員と非正社員の雇用変化になって現れてきた。かつて、非正社員の雇用が増える一方、正社員は遅れていたため、雇用は全体として改善しても、雇用不安は解消しないことが問題になっていた。それが15年から正社員の雇用も拡大傾向になり、雇用不安から一転、人手不足が問題になった。現状ではまだ人手不足の産業も多く、全体として雇用も増加している状況にあるため、雇用不安が広がってはいない。ただし、一部の企業・産業で早期退職募集の動きが出始めているのを懸念材料として指摘する専門家も出始めている。
もちろん、景気がマクロで悪化傾向にあっても、産業別では乖離は大きく、労働市場も同様である。主要産業別の雇用者数は月によって前年同月比増減の変化は大きいが、雇用全体で最近でも基調として増えている産業として、運輸・郵便業、教育・学習支援業、医療・福祉などが挙げられる。反対に減少が顕著なのは個人消費の影響を受ける卸売・小売業である。
うち、正社員で増えているは、雇用全体が増えている3産業の中で医療・福祉だけである。医療・福祉は人手不足の代表的産業の1つで、かつ景気変動の影響を受け難い産業だが、それでも5月以降の伸び率は低下している。一方、教育・学習支援業は頭打ち、運輸・郵便業は微減だが8月から10月まで前年を下回っている。卸売・小売業は7月以降、顕著な減少傾向にある。
また、非正社員は運輸・郵便業、教育・学習支援業、医療・福祉のいずれも増やしており、特に、運輸・郵便業の増加が目立っている。人手不足・人件費上昇対策として非正社員を採用していると推測できる。正社員を増やさずに非正社員を増やしている教育・学習支援業はもともと正社員比率が約6割と低い。労働需給が逼迫状態から緩和傾向に転じつつある状況下、それぞれの産業特性を反映した雇用変化になっている。
労働市場はマクロ景気から遅れて変化する遅行指標だが、今回の景気転換に関しては従来より遅れている。労働力人口の減少、なかでも若年労働力の大幅な減少から、企業は将来の企業を支える労働力の確保を考慮し、景気が悪化しても新規採用や雇用の削減は控える傾向にあるためと推測できる。
今後の雇用がどうなるかは景気次第だが、景気が下降に向かう可能性が高く、それほど遠くない時期、年度内か新年度早々には非正社員の雇用も頭打ちから減少に転じると予想され、労働市場の需給変化が誰の目にも明らかになるのではないか。ただ、それでも外国人労働力が急速に増やせるとも思えず、日本人の労働力人口が増えない状態では、当面、深刻な雇用問題が生じることは考え難い。
JUGEMテーマ:経済全般
10月1日からの消費税増税の消費への影響に注目が集まっている。今回は8%から10%へと小幅の引き上げであり、また軽減税率制度や消費税還元ポイント制度の導入などの効果で、従来と比較すれば増税前の駆け込み需要は少なく、全体として影響は軽微という見方が以前から強かった。現実に、小売店の販売動向で駆け込み需要は一部にとどまり、増税後の急激な消費の縮小は避けられる可能性が高い
。消費を考えるうえで増税の一時期な影響よりも、基調が重要になる。消費の基調が強ければ、増税の前後で変動があっても、その影響は直ぐに吸収されて安定した成長路線に戻る。現実には、以前から消費の基調が弱いため、小幅であっても消費税増税の影響が懸念され、その弱い要因から先行き不安が大きいことが問題になる。
消費の基調を内閣府「国民経済計算」で、今年8月から新たに集計、公表されるようになった「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」からみる。家計最終消費支出の原資になる「可処分所得」(名目、以下金額は全て名目)の2005年度から18年度までの13年間の推移は、07年度の297.8兆円をピークに、13年度の291.7兆円まで減少し、これをボトムに18年度の307.5兆円までは増加で推移してきた。この5年間で16兆円ほどの増加だが、伸び率では5.4%増、年率1.1%増でしかない。この間はアベノミクスの時期と重なるため、この時期を中心に取り上げる。
まず、収入は従業員の現金給与以外に、現物で支給された物品、雇用主が負担する社会保険料などを含む「雇用者報酬」、個人経営の小零細企業の「営業余剰・混合所得」、預金、有価証券、土地・建物などの資産から生まれる「財産所得」などを合わせて「雇用者報酬・営業余剰・財産所得等」でみると、09年度の312.7兆円をボトムに、12年度の315.1兆円まで微増の後、18年度の346.7兆円まで着実に増加している。それでも6年間で10.0%増、年率1.6%増に留まる。ちなみに、13年度の317.6兆円からの5年間では、それぞれ9.2%増、1.8%増である。増加しているのは、所得の8割ほど占める雇用者報酬(18年度は全体の82%)が低い伸びでも一定の賃上げが実施されて増え、雇用者数が増えているためである。
これに高齢化で着実に増加している現金による社会保障給付、年金基金による社会給付等の「現物社会移転以外の社会給付」を加えれば、ほぼ全収入(これら以外に変動の少ない3兆円程度のマイナス額の「その他の経常移転」がある)になる。現物社会移転以外の社会給付は13年度の77.6兆円から18年度78.6兆円へと増えているが、高齢化の進展を考慮すると増加額は少ない。公的年金の受給開始年齢が60歳から65歳へと延期された影響と推測される。これらを合計した全所得は13年度392.1兆円、18年度422.3兆円、7.7%増、年率1.5%増になる。そして、これから税金・保険料を差し引いたのが可処分所得になる。
伸び率で雇用者報酬・営業余剰・財産所得等を可処分所得は下回っているが、原因は「税金・保険料負担」の増加にあり、これが13年度の100.4兆円から18年度は114.7兆円、14.3兆円、14.2%増にもなっているからである。ただし、税金・保険料といってもその負担増の中身は保険料になる。社会保険料の引き上げが続く一方、収入が増えなければ所得税は増えない。この間の14年度に消費税が引き上げられていても、消費税は国民経済計算では企業の税金に計上される。
もちろん、個人の負担にならないわけではなく、消費税は価格に転嫁されて物価上昇の形で負担することになる。結果、名目よりも実質に影響する。ちなみに、13年度の家計最終消費支出の伸び率は駆け込み需要があって名目3.1%増と比較的高い伸びで、実質でも2.8%増と高く、乖離は0.3ポイントである。これに対し、14年度は駆け込み需要の反動減もあって名目0.3%減になり、実質2.5%減と物価上昇によって乖離が2.2ポイントに拡大している。
全収入に近年は1兆円を下回る企業年金や退職一時金の負担と給付の差額「年金受給権変動調節」を加えた額で、貯蓄額を除したのが貯蓄率になる。貯蓄率は1999年度までは2桁台と高かったが、それ以前から上下変動があっても趨勢的に低下傾向が続き、13年度は0.6%減と僅かだがマイナス、つまり可処分所得を支出が上回った。
通常、若くて働いているときは将来に備えて貯蓄に努め、高齢化して働かなくなった時にはそれを取り崩して生活するのが一般的である。このため、高齢化が進むのに伴い貯蓄率が下がるのは当然であった。現実に1999年度までは2ケタ台の伸びを維持していたが、その後は急速に下がって13年度には0.6%減とマイナスを記録した。ところが、高齢化が着実に進んでいても、貯蓄率がマイナスを記録したのは13年度だけで、その後はプラスに戻り、18年度には3.2%まで高まっている。
以前から何度かこの経済レポートで指摘してきた高齢者の就業の増加は、働く意欲が強いこともあるが、基本的に将来不安から少しでも収入を増やして貯蓄しておきたいと考えているからと推測できる。それが近年の人手不足によって、高齢者にも就労機会が増えて実現でき、貯蓄率を低下から増加へと反転させたといえる。13年度からの18年度までの5年間で3.8ポイントの上昇は、単純計算で年平均0.8ポイントほどになり、成長率が低下している家計最終消費支出、延いては民間最終消費支出の伸びを引き下げる効果は小さくない。ちなみに、駆け込み需要で膨らんだ13年度から18年度の消費の成長率は年率で、家計最終消費支出は名目0.3%増、実質0.1%減、民間最終消費支出は名目0.4%増、実質0.1%減になり、この5年間はほぼゼロ成長である。
今年6月に金融庁が公表した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」で、老後資金は2,000万円不足しているとして国民の間で話題になった。この影響から将来不安はより一層高まり、19年度以降の貯蓄率の上昇傾向が強まると予想される。かつ、この10月からの消費税増税がその傾向を促進することになる。
以上から、消費の低迷は低い収入の伸び、社会保険料負担増、貯蓄率増の3つが消費が盛り上がらない要因として挙げられる。そして、19年度以降はより厳しいと予想される。人手不足状況は続くとしても、労働需給の逼迫はピークを打ち、企業収益も減益に向かう状態で、来春闘の賃上げは低下が避けられない。また、保険料の負担を増えて可処分所得の伸びは鈍化が予測されるなかで、貯蓄率の上昇が予想されるが、横ばいでも家計最終消費支出の伸びは一段と鈍る。中・長期的には政府が国民の将来不安を除けるかどうかに掛かるが、それを期待できない現状が国民として残念と言わざるを得ない。
JUGEMテーマ:経済全般
日本政府観光局(JNTO)が発表した8月の訪日外客数(訪日外国人旅行者数、推計値)は、前年同月比2.2%減の減少になった。台風21号や北海道胆振東部地震の影響を受けた 2018年9月以来、11か月振りの減少である。18年9月は天候要因による一時的現象に留まったが、この8月は日韓関係の悪化による政治的要因で、韓国からの訪日客数が48.0%減とほぼ半減した影響が大きい。
外国人旅行者が日本国内で消費するいわゆるインバウンド消費は、外国人旅行者の増加に伴って急増し、近年、明るい話題の少ない日本経済の希望の星の一つになっていた。それが韓国からの旅行者の急減で、まだインバウンド消費額がどうなったかは分からないが、今後の不安材料である。すでに、日本経済全体ではその影響が明確ではなくても、韓国人旅行者の多い九州地方では経済への影響が顕在化している。
訪日外客数の18年の年間実績でみると、訪日外客の総数3,119万人中、中国が838万人で26.9%を占めて第1位で、次いで韓国の754万人、24.2%であり、この2か国で過半数を占めている。韓国は第2位でも中国と大差なく、4分の1近くになり、その半減の影響は大きい。以下、台湾476万人、15.3%、香港221万人、7.1%と続き、これらの東アジア4国・地域で4分の3近い。ちなみに、第5位は米国の153万人、4.9%である。
韓国からの訪日外客数が変調をきたしたのは1年以上前の18年6月からで、それまでは前年比2桁台の伸びであったのが、6.6%増と1桁台になった。そして、7月には5.6%減と減少に転じたが、減少幅は一進一退傾向に留まり、12月には0.4%増と僅かだが増加になった。この結果、年間を通してでは18年は5.6%増とプラスだった。
19年に入っても7月まではこの基調が続き、2月と6月は前年比微増で、7月は7・6%減である。そして、日韓関係の一段の悪化を受けて8月は半減になった。この大幅減少が続くかどうかは不明だが、9月以降も関係改善の兆しが見えないため、大幅な減少は避けられないと予想できる。年間を通して韓国からの減少幅は2桁台に乗る可能性が高い。
一方、訪日外客数第1位の中国からは高水準の伸びが続いている。中国からの訪日外客数は17年の15.4%増から18年は13.9%増と伸び率が低下したが、19年に入って月によって変動が大きいものの、前年比で1?3月期11.6%増、4?6月期11.8%増と若干低下した後、7、8月計は17.9%増と盛り返している。1?8月では13.6%増であり、基調の変化はないといえる。
19年の推移は韓国と中国のトップ2以外をみると、上位では前年比で米国が2桁台の伸びを維持している一方、台湾は4?6月期に減少になり、香港は1?3月期、7、8月計が減少になっている。これら以外の訪日客数は少ない国でも、ベトナムやフィリピンのように高い伸びを維持している国がある一方、インドネシアが4?6月期、7、8月計で減少、タイ、マレーシア、インドネシアなどのように月単位では減少が時々見られる国も増えている。全体として中国からの訪日外客に支えられて前年を上回ってきたが、8月に減少に転じ、その原因として韓国からの大幅減少が挙げられている。それは間違いではないが、その他の国・地域にも高い伸びから変調が見られることに注意する必要がある。
訪日外客数の総数は13年に1,036万人で1千万台の大台に乗せ、16年2,404万人、18年3,192万人と短期間に1千万人単位で増加してきた。19年は前年比で8月に減少したものの、1?3月期5.3%増、4?6月期3.6%増、7、8月計1.9%増である。日韓間の問題解決が困難で、当面、韓国からの訪日外客数の大幅減少が続いても、総数は年間を通してみればプラスになるのは確実である。それでも、近年の高い伸びからの一服感は否めない。
今後の訪日外客数の見通しを、これまでの増加要因から考える。政治的要因は別として、訪日外客数が急増してきた要因として大きく旅行コストの低下と所得増の2つの要因が挙げられる。そして、旅行コストは為替レートの円安と技術革新によるものの2つがある。為替レートは11年末ごろから12年初め頃までの1ドル=70円台をピークに、その後は円安に転じ、安ければ120円台、高くても100円台後半のレンジで推移してきた。円安は訪日外客にとっては日本での旅行コストを低下させる。
また、航空機の大型化による輸送力拡大の影響がある。これによって1970年代末ごろから欧州や米国で始まった航空運賃の値下げ競争が激化し、航空業界の再編成が進展してきた。その波が2000年代に入ってアジア地域にも及び、10年代には急速に広がってきた。この国際航空運賃の値下がりによる旅行コスト低下効果も大きい。ただし、この経営革新も含めた技術革新効果は、今後は期待し難い。
同時に、先行した東アジア地域を追うように、東南アジア地域も輸出主導で国・地域によって開始時期、速度に差はあっても経済発展が波及してきた。経済発展効果で所得が増え、生活に余裕があれば、旅行需要が高まる。その一方で、海外旅行コストが低下すれば、海外旅行が伸びるのは当然で、円安の日本に向かって訪日外客数の急増をもたらした。
現状は政治的要因で急減している韓国からの訪日外客数減に注目が集まっているが、絶対数が少なくても経済発展と共に増えてきたその他のアジア諸国の中で、基調変化がみられる国・地域が広がりつつある。その中で、米中貿易戦争の影響で中国経済への打撃が言われているが、現状はそれほど明確ではなく、訪日外客数にはまだ現れていない。
中国からの訪日外客数に変化はなくても、中国との関係の深い国には経済的打撃があるのに対し、対米輸出が規制される製品の生産の受け皿になる国には経済にプラス効果になり、その関係が訪日外客数の国・地域間の乖離現象となっている。全体としては、アジア地域経済における中国の比重の高さ、また米中貿易戦争による世界経済の悪化を通しての間接的なマイナス効果を考えれば、訪日外客数総数ではマイナス効果の方が大きいと推測できる。韓国との政治的問題は無くても訪日外客数の伸びは鈍化していたといえる。
もちろん、訪日外客数の今後は比重の高い中国の影響が大きく、韓国からの減少下、中国からも頭打ち、減少になれば、総数の減少は避けられない。近年の中国は経済発展に伴う構造調整から経済成長率は鈍化傾向にあり、訪日外客数の伸び率も低下が予想される。その速度は米中貿易戦争の影響によるが、解決が困難であり、少なくとも経済成長率、延いては訪日外客数の基調として伸びの鈍化が明確になるのではないか。いずれにしても中国の景気次第である。
また、日韓関係も長引くことが避けられないため、9月は18年9月の減少の反動増とラグビーワールドカップ効果、20年7、8月のオリンピック需要の一時的効果は別として、対東アジア各国の為替レートが大きく変化せず、中国経済の成長率の伸びが鈍化する程度であっても、基調としては訪日外客数の高い伸びは見込めない。韓国の影響が一巡する20年7月までは、微増でも増加すれば良いと評価すべきではないか。
JUGEMテーマ:ビジネス
マイナス成長も予想されていた2019年4〜6月期の実質GDP成長率は、1次速報値で前期比0.4%増(年率1.8%増)の予想外の成長になった。需要項目別でみると、民間最終消費支出同0.4%増と民間企業設備投資同1.5%増が比較的順調な伸びである。民間企業設備投資は米中貿易戦争の影響がまだ表面化せず、一方、民間最終消費は今年だけ導入された4月末頃から5月初めにかけてのゴールデンウィークの10連休効果を挙げる意見が多い。
民間企業設備投資は企業には資金があり、投資の必要性があれば行われるのは当然で、米中貿易戦争が本格化する前であり、増加しても理解できる。ところが、民間最終消費は春闘で少しは所得が増えていてもその額は少なく、長寿命化は将来不安を高め、政府の福祉政策を信頼できないため、ほとんどの国民が10連休で財布のひもを緩めるとは思えない。もちろん、所得水準の高い人はいるわけで、休みを取れなかった高所得者がこの間、積極的に消費行動したと想定できる。事実、海外旅行者はゴールデンウィークで最高記録になっている。ただし、海外での支出はインバウンド消費の逆で、GDPの民間最終消費支出には含まれず、輸入項目になり、GDPではマイナス要因である。
つまり、民間最終消費増の要因として10連休を挙げるのは疑問が生じる。これを判断するために、国内家計最終消費支出の各項目を4つの形態(耐久財、半耐久財、非耐久財、サービス)に分類した形態別国内家計最終消費支出でみる。民間最終消費と国内家計最終消費の関係は、民間最終消費から居住者家計の海外での直接購入を加え、非居住者家計の国内での直接購入、インバウンドを差し引いたのが国内家計最終消費になる。18年度の実績(名目)で家計最終消費支出2,975兆円に対し、国内家計最終消費2,999兆円と0.8%上回っているが、無視できるほどの差であり、前期比と前年比の伸び率で差はほとんど生じない。
また、国内家計最終消費の内訳は、約6割を医療、輸送、電話、レジャーなどのサービス、3割近くを食料、電気・ガス、新聞・本などの非耐久財、1割弱を家具、家電、自動車などの耐久財、5%ほどを衣料、ゲーム・玩具などの半耐久財が占める構成になっている。
形態別国内家計最終消費は季節調整値も発表されているが、消費は季節変動が大きいため、原系列の前年比の推移でみる。最近は物価が安定しているため、国内家計最終消費の名目と実質の伸び率の解離は小さい。以下、全て実質ベースの前年比伸び率で、国内家計最終消費は16年10〜12月期以降、微増で推移しているなかで、19年4〜6月期は1.0%増と17年10〜12月期の1.6%増以来の7四半期ぶりの高い伸びになった。
国内家計最終消費全体の推移の中で、4〜6月期は低成長の中でも比較的高い伸びといえるが、形態別で特に目立つのは耐久財の5.8%増である。もし、10連休効果が大きいとすれば、輸送、レジャー、外食・宿泊などのサービスになるが、4〜6月期のサービスは0.8%増に留まっている。耐久財を除けば相対的に高成長といえても、過去の推移と比較して特別に高いわけではない。18年度の伸び率0.7%増並みで、18年10〜12月期1.2%増、19年1〜3月期1.0%増からみれば、むしろ下降していることになる。前年の18年4〜6月期が0.6%増と高い伸びではないため、前年水準が高いために低くなる要因もない。
一方、高い伸びの耐久財に10連休効果の可能性はある。特に、耐久財に含まれる乗用車はレジャー関連製品になるが、日本自動車工業会の乗用車国内販売台数による前年比伸び率の推移は18年7〜9月期1.4%増、10〜12月期6.7%増、19年1〜3月期1.4%減、4〜6月期1.9%増であり、4〜6月期に効果があったとは言えない。10連休は土曜日の4月27日から始まり、また、それが18年の11月の閣議決定で決まったことから考えれば、4〜6月期よりも1〜3月期の乗用車需要に影響すると判断できる。それが前年水準を下回っていることからも、乗用車需要には反映しなかったことになる。
結局、4から6月期の耐久財の伸びは好調な電気製品需要による。近年、女性、特に高齢者女性の就労率が上昇しており、それは家事労働の節約志向を高める。それはどの家庭にも冷蔵庫や洗濯機などはあっても、大型冷蔵庫、全自動や乾燥機能付き洗濯機などの買い換え需要要因になり、買い替えれば台数ベースでは増えなくても1台当たりの価格は高くなり、金額ベーズでは増加することになる。また、最近の夏の高温化はエアコン需要を増やし、かつ、エアコンの性能向上は電力コストの低下から買い替え需要を促進する効果をもたらしている。
耐久財は19年4〜6月期だけでなく、他の財が低迷、または盛り上がらない中で、16年度以降、上下はあっても基調として比較的高成長を維持している。女性の就労増要因が効いているが、その状態が3年を超えている。さらにこの状況が何年も続く保証はないが、この4〜6月期の伸びを見る限り、その勢いが衰える兆しは見えない。結果、耐久財需要が国内家計最終消費、民間最終消費の下支え、引き上げを期待できる一方、10月からの消費税引き上げの影響でどうなるか楽観はできない。
いずれにしても、耐久財も含め10連休の民間最終消費拡大効果はほとんどなかったと判断できる。所得の現状、将来不安などから当然の結果といえるが、むしろ、正規雇用でない労働者はこの10日間の収入がゼロの人も多いと推測できる。非正規労働者比率は4割近くになっており、このマイナスの影響は無視できない。
結局、小手先の政策で景気を引き上げられないことを、今度の10連休の消費の実態が明らかにした。やはり、現状の所得の改善と将来不安の解消を基本戦略にするしかない。
JUGEMテーマ:経済全般
昨年秋頃から景気の変調が話題になり始めた。その要因として中国向け輸出が急速に減少し、その他の国・地域が伸びても、輸出全体として頭打ちから減少傾向になった影響であった。ただし、輸出は金額(円)ベースの発表が注目されるが、最近は為替レートの変動幅が小さくなっていても、その影響を受けるため、動向を評価し難い問題がある。
それを補う統計に5年毎に基準年が変えられる貿易指数統計があり、現在は2015年基準になっている。貿易指数統計は米国に次いで第2位の輸出市場である中国と中国を含めたアジアでまとめられているため、中国以外のアジア地域への輸出動向が分かり難い問題がある。このため、15年の中国とアジア(含む中国)への輸出額13兆2,234億円と40兆3,287億円の割合から中国を除くアジア27兆1,053億円分の輸出数量指数を算出し、アジアを中国と中国以外の地域に分けて最近の国・地域別の輸出動向を見る。
輸出額から明らかなように、中国以外のアジアへの輸出は中国の2倍強になっており、この地域の影響は無視できない。現実に、昨年秋ごろからの輸出の減少は中国ほどではなくても、中国以外のアジアも減少しており、この影響も無視できない。ちなみに、同年の米国への輸出は15兆2,245億円、EUは7兆9,851億円で、これらの米国、アジア、EUの3国・地域で日本の輸出の8割以上を占める。
主要国・地域別輸出数量指数の前年比伸び率の図にみられるように、輸出は全体として18年上期から下期にかけて、さらに19年にはいってからと2段階で悪化している。輸出は18年上期は前年比で着実に増加していたが、下期には微減になった。下期は四半期別でも7〜9月期1.0%減、10〜12月期1.4%減で、いずれも微減である。
両四半期は全体では特に大きな差は見られないが、国・地域別では全く様相が異なる。米国、EU、中国、アジア(除く中国)の4国・地域の7〜9月期は、プラスは中国0.8%増、EU0.1%増、マイナスは米国1.6%減、アジア(除く中国)1.2%減に2分されるが、いずれもほぼ前年水準並みで、揃って頭打ちになったために成長が止まった。ところが、10〜12月期はEU6.2%増と米国5.2%増が持ち直したのに対し、中国8.6%減、アジア(除く中国)3.6%減とアジア地域が減少した。
トランプ氏が米国大統領に就任して以来、対中国輸入規制を強化してきたことで、中国に関しては経済への影響が予想され、当然、日本からの対中国輸出も減少が懸念されていた。同大統領は米国産業・経済を守るとして、18年にはいって緊急輸入制限(セーフガード)の発動で太陽光発電パネルや洗濯機などに追加関税を課した。ただし、当初は対象品目も少なく、米中貿易問題の影響は軽微であった。それが7月から拡大され、米中貿易問題が本格化してきた。18年前半頃までは中国経済への影響は顕在化しなかったが、米国の規制強化で経済成長率の鈍化傾向が見え始め、後半に入ってそれが日本の輸出にも波及してきた。
トランプ大統領の政策による打撃は早いか遅いかは別として、中国には予想通りといえる。一方、アジア(除く中国)にも同様の影響が出ているのは予想外になる。もちろん、トランプ大統領の政策は関係が無いとは思われなかったが、日本からの輸出の落ち込みからみれば、アジア(除く中国)は中国と同レベルまでは至らなくても、予想以上である。
当初は、アジア(除く中国)経済は発展して自立傾向を強め、中国の影響は軽微とみられていた。むしろ、米国が対中国輸入を規制すれば、それを避けるために周辺の国に中国から対米輸出工場が移転し、結果、日本の輸出が増えて中国への輸出減を補うという見方があった。
もともと、その見方は安易で、工場を建設するには年月が掛かる。加えて、従業員は中国から移転できるわけではなく、生産技術によるが、新たに従業員を育成するのは容易ではない。長期的には中国からの工場移転が進むと考えられるが、中国からの移転は人件費の上昇から予想されていたことで、米中貿易問題がそれを促進する要因にはなる。いずれにしろ、当面は中国の対米輸出が減少し、景気が低迷すれば、周辺のアジア地域もその影響を避けられないことを日本の輸出数量指数が示している。
さらに、19年に入ってより厳しくなっている。輸出全体では1〜3月期5.1%減、4〜6月期6.1%減と顕著な落ち込みである。国・地域別ではトランプ減税効果で景気拡大を維持している米国がこの間4.4%増、2.5%増と上昇幅は縮小傾向が見られてもプラスの伸びである。
一方、中国は11.7%減、6.7%減、アジア(除く中国)は5.8%減、5.6%減で、アジアの先行きは不透明である。米中貿易問題が解決する見通しはないため、アジアへの輸出は期待し難い。また、4〜6月期にはEUが5.1%減と1〜3月期までのプラス成長から一転している。欧州中央銀行は理事会で追加利下げや量的緩和政策の再開を検討していく方針を決めるほど経済の先行きに懸念が生じており、欧州への輸出も楽観はできない。
日本経済は輸出で景気が変動する傾向にあり、輸出に期待し難い状況で、今回は10月から消費税の引き上げが実施されるようである。引き上げによって消費が落ち込まないために軽減策が採られるが、一時的に軽減されてもその先の負担増は避けられないわけで、それまでに輸出が回復軌道に入っていなければ、景気の2番底が予想される。
JUGEMテーマ:経済全般
金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループが6月に発表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」が話題になっている。報告書で平均的な高齢夫婦の無職世帯の毎月の収入と支出の差、赤字額が約5万円になるため、超長寿社会を踏まえると、公的年金以外に老後資金として2,000万円が必要とした。単純計算で予想より30年以上長生きすることになる。ただし、経済成長が低迷を続けている財政要因もあり、寿命予測だけの問題ではない。
これに対して、公的年金で生活できないのは04年に自民・公明連立政権下で行なわれた年金制度改革「年金100年安心プラン」で、当時の自民・公明連立政権が説明していた内容と異なると反発が起こっている。現自民・公明連立政権は安心な生活を保障すると言っていないとしているが、そのように受け取られていたのは確かである。
ただし、国民が本当にそれを信じたか、また現在まで信じていたかは別である。現実にはGDP成長率はせいぜい1%台でしかなく、所得も増えない状況で、社会保障制度の改悪が続いているため、高所得者は別として、一般人でそれを信じて安心して生活している人はほとんどいない。それは長期的な消費の低迷が続き、消費者物価が上がらないことから明らかである。国民は生活を切り詰め、貯蓄に励んでいても2,000万円はほど遠く、または生活するだけで精一杯で貯蓄どころではない状態である。一般の人からはあり得ない金額と感じるのがほとんどであり、それが反発、怒りの背景にある。
年金100年安心プランと今回の報告書で明らかになった国民との乖離状態は、基本的に平均で計算していることにある。近年、特にアベノミクスによる金融緩和後の所得格差は一般的にも認識されているが、これは公的年金でも明らかである。国民年金は1か月あたり6万5,000円が上限といわれても、平均受給額は5万5,000円、夫婦で合わせても11万円にしかならない。持ち家かどうかでも異なるが、これに5万円を加えても、公的保険のほか、電力・ガス、水道、電話などの公共料金などの支出を考慮すれば、残りは食費でほとんど無くなり、余裕がある生活とは程遠いと推測できる。また、厚生年金でも男性で平均月額17万円弱、女性で同10万円強で、現在の高齢者で夫婦共に平均の厚生年金があれば、少しは余裕のある生活かも知れない。
ちなみに、日本銀行が事務局の金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2人以上世帯調査)」(2018年)の「老後の暮らし(高齢者は、今後の暮らし)」の問いで、「それほど心配していない」は19.8%しかなく、残りは「多少心配である」43.0%、「非常に心配である」36.2%となっており、非常に心配している世帯は3分の1以上もある。政府をそれほど信頼していなくても、将来不安がある中で責任放棄と受け取れる今回の政府発言への反発が強いのは当然である。
この報告書の目的は資産運用による自己資金で老後生活を送るように求めていると受け取れる。その背景には政府が約束するような経済成長が実現できず、年金不足に対して税収、また現役世代の年金負担も労働力人口の減少で増えない、財政面からの支払い能力に懸念が生じている。その一方で、高齢化が事前に推測した以上に進み、年金受給者が増える、つまり支給額が予想以上に膨らんでいることが挙げられる。需給両方の見込み違いが限界に近づき、報告書作成に踏み出したといえるが、既に遅すぎるという見方もできる。ただし、税制や財政支出面では何に支出するかは政治判断であり、この検討も必要になる。
ここでは年金支出額推計の基礎にしていると推測する国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計」の年齢3区分別人口(中位)推計と、実態とのずれの問題を考える。同研究所の人口推計は5年毎に実施される「国勢調査」をベースに毎回推計され、発表されているのは1995年の国際調査に基づく07年の平成9年1月推計(以下9年推計)からになる。ここでは10年間隔で06年の平成18年12月推計(同18年推計)、17年の平成29年4月推計(同29年推計)で推計値変化の推移をみる。実績、推計値はいずれも10月1日の人口である。
この変化で特徴として「0〜4歳」と「65歳以上」で分かれる。まず、「0〜4歳」の実績が出ている15年と18年は、9年推計よりも18年推計が低かった。これはこの15年11月1日付のこの経済レポートで指摘したように、結婚年齢の高齢化、未婚化によって出生数が減少し、その減少速度がより速いと18年推計は9年推計より悲観的に予測していた。ところが、20歳代の出産は大幅に減少したが、逆にそれ以前よりも30歳代、40歳代の出産が大幅に増え、15年と最近時の18年の実績に見られるように、18年推計ほどは低下しなかった。判断を誤ったためである。ただし、それでも減少傾向にあることには変わりはなく、40年、50年の推計値でも減少が続いている。
一方、「65歳以上」は推計が後になるほど上方修正になっている。原因は実績が推計を上回り続けているためで、後追い的に推計値を増加させている。「65歳以上」の高齢者が増える、つまり長寿命化が着実に進んでいるためで、医療技術の進歩だけでなく、健康に気を付ける人が増えている反映と推測できる。評価すべき結果である。
しかし、推計が後追い的に上方修正になっていることは、高齢化を進ませたくないという意図はなくても、年金は増やしたくないためではと邪推できる。もちろん、国立社会保障・人口問題研究所には関係ないことだが、年金財政からは高齢化が進まない方が望ましいからである。しかし、現実は長寿命化、高齢者人口の増加は進展するわけで、年齢に関係なく、就労意欲のあるひとに働いてもらい、その税収を年金資金に回す方が国民にも国にも望ましい。
ただし、高齢化すれば個人間で肉体的・精神的格差が大きくなることへの配慮が必要になり、就労意欲がある人をできるだけ週力可能にする努力が大切になる。高齢化しても働いて収入があれば、当然、それが一般の人には実現困難な資産2,000万円の代わりになる。そのためには働き方改革だけでなく、発展するIT、AIを活用すればその可能性が高まると期待できる。それが従来の推計以上に高齢化が進展していることから考えれば、公的年金財政問題の悪化速度を少しは弱める程度の効果しか期待できない。しかし、少なくとも実態に合わせた人口推計、財政予測でなければ、国民の信頼は得られない。
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2019年1から3月期の実質成長率はマイナス成長の予想が多かったが、1次速報値ではあるが前期比0.5%増、年率2.1%増と内閣府から発表された。プラス成長にはなったが、GDP統計でマイナス項目になる財貨・サービスの輸入が前期比4.6%減の大幅マイナスで、これがGDPにはプラス要因になるため、これを除けばマイナス成長になる指摘が多く見られ、先行きを楽観視する見方は少ない。
また、景気の先行きの懸念材料として、実質民間設備投資が前期比0.3%減と、2四半期前の18年7から9月期の同2.5%減ほどではなくても、マイナス成長になったことが挙げられている。以前から企業収益が好調にもかかわらず、民間設備投資がそれほど増えないのに対し、企業を批判する意見が少なくなかった。企業は賃金を挙げず、設備投資を抑えて収益を貯め込むだけの経営で、これが経済成長率が高まらない一因になっていると考えられるからである。 ちなみに、実質民間設備投資の成長率は15年度1.6%増、16年度0.5%減、17年度4.5%増、18年度(1から3月期は1次速報値)3.2%増である。17年度の4.5%増は比較的高い伸びだが、財務省「法人企業統計」の経常収益の16年度9.9%増、17年度11.4%増と比較すれば低い。ちなみに、17年度の名目民間設備投資は7.8%増と実質を上回るが、名目との比較では乖離幅は縮小しても、基本的には変わらない。また、18年度は四半期で7から9月期、1から3月期に前期比マイナス成長になっても、年度ではプラスになっているのは前年度の下駄をはいているためで、この効果がなくなる19年度は低成長、さらにはマイナス成長もあり得る。
1から3月期の民間設備投資がマイナス成長になり、弱含み傾向がみられる一方、民間設備投資の先行指標になる内閣府「機械受注統計調査」の4から6月期の民需(船舶・電力を除く、季節調整値)の見通しは前期比13.5%増と高い伸びで、2ケタ台の伸びは公表されている05年度以来初めてである。これから1から3月期の民間設備投資のマイナスは一時的で、4から6月期はプラスに戻るという見方もある。ただし、民間設備投資に含まれる建設投資は機械受注の対象外であることに留意する必要はある。それでも、過去の実績では先行指標として信頼性は高い。 また、見通しと実績は異なる訳で、4から6月期見通しで高い数字が出ても結果は別である。このため見通しを実績と比較した達成率(実績/見通し)からその実績を考える。ただし、実績と見通しは季節調整値であるのに対し、達成率は原数値を使っている。
一般的に見通しと実績の関係は、景気回復期には見通しよりも実績が上回り、達成率は100%を超え、そして、次の見通しはさらに高まる循環なる。当然、景気後退期は逆になる。ところが、経済成長率が高く、景気にメリハリがつている状況ではそうなっても、低成長下では異なる。現在のように景気の後退期入りの論争になかなか決着が付かない時代には、この見通しと結果の関係は明確には見え難い。
機械受注の民需の見通しや実績の15年1〜3月期からの推移は、図に見られるように17年4〜6月期に見通し、実績共に顕著な前期比減少がみられ、この期以外でも時々落ち込んでいる。この4年ほどは趨勢としては微増基調で、民間設備投資の穏やかな回復を先取りしてきたといえるが、18年度末には変調が見られる。実績は10〜12月期と1〜3月期の2四半期連続で減少になり、見通しは10〜12月期は増加だが、1〜3月期は減少である。
また、達成率を100%を基準に判断すれば同様の推移で、15年度の回復傾向から16年度は中だるみ状態になったが、17年度には持ち直した。そして、18年度は下期が2四半期連続で100を下回り、平均では100%を下回った。それも4〜6月期の102.3%をピークに、その後は100.1%、94.2%、94.3%で、下降傾向が顕著である。年度毎の平均達成率は15年度102.4%、16年度100.2%、17年度102.1%までは100%を上回っていたが、18年度は100%を下回る97.7%である。
ところが、4〜6月期の見通しが1〜3月期までの推移と一変、前期比13.5%増の高い伸びを示したことで、今後の予測が困難になっている。調査時点の3月末は米中の対立が現在ほどではなくても、厳しいとの見方が強まっていたため、企業は米中問題をある程度織り込んでいたと推測できる。その後の米中対立の激化から、達成率が10〜12月期と1〜3月期より一段と低下して90%程度になったとしても、実績は前期比プラスになる。
4〜6月期の見通しからは民間設備投資の回復が期待できる。それは景気が変調しても企業収益はそれほど悪化していないため、一定の投資は行われることを示しているのではないか。つまり、景気回復期でも積極的な投資は行われないが、景気下降期に入っても当初はある程度維持され、景気の影響を受けにくくなっていると推測できる。
一方、輸出は引き続き減少が予想されに対し、輸入が一段と減少してプラス効果を発揮することは見込めない。結果、消費税増税に向けて駆け込み需要で個人消費が盛り上がらない限り、民間設備投資が弱い状況では、GDPがプラス成長になることは期待し難い。
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高い有効求人倍率に見られる労働市場の逼迫、求職者数を大幅に上回る求人数は、少子高齢化による労働人口の減少に原因があり、経済の低成長下で好調な労働市場はまやかしという批判がある。この批判は一面では正しいが、現実に労働需要が伸びてきた面をみていない問題がある。
厚生労働省「職業安定統計」の一般職業紹介状況の求職者数(以下、特に説明がなければ全て季節調整値)で労働者の求職状況の推移をみると、新規求職申込件数(新規学卒者を除きパートタイムを含む)はすでに2009年1月の69万9,577件、それ以前に求職申請して有効な求職者として残っている人も含めた有効求職者数(同)でも10年4月の301万118人をピークに減少一途である。最近時の19年3月はそれぞれ39万6,124件、173万6,185人であり、ピーク時の57、58%水準と大幅に減少している。これは少子高齢化の影響もあるが、景気回復による雇用増効果は無視できない。現実に総務省統計局「労働力調査」で就業者数、雇用者数は伸びている。
もともと労働力を年齢で区切るのは統計の便宜上でしかなく、正確に労働力数は計れないため、潜在的な失業者を含めた全求職者数は不明になる。この間の職業安定統計にみる求職者数の減少は、少子高齢化の影響と雇用増が合わさった結果である。つまり、有効求人倍率が高水準であるのは分母の求職者数が減少している一方で、分子の求人数が増えているためである。これから判断すれば、高い有効求人倍率を経済政策の効果とするのは過大評価だが、雇用の質は別として量面では雇用は順調に伸びていたといえる。
ところが、労働市場に変化の兆しが現れてきた。もともと労働市場は景気に対して遅行指標で、変化が遅れる傾向にあるが、昨年末頃からの景気の変調が労働需要にも表れ始めた。有効求人倍率は3月も1.63の高水準で、これは18年10月の1.62を除いて同年8月以来の横ばいである。この倍率だけをみれば、労働市場は好調に推移し、変化は現れていないことになる。
しかし、求職者数が減少基調にあることから考えれば、求人数も減少していることになる。もちろん、景気回復によって雇用が増えて就労できれば、求職者数は減少するが、人手不足状態になれば、常に存在する一定の転職希望者を除けば、労働人口によって変化する、つまり労働人口が減少すれば、景気状況に変化が無くて求人数は横ばいでも、有効求人倍率は上昇する。
かつてのように人口増加、労働力が増えているときは、有効求人倍率で労働市場を評価できたが、人口減少、労働力減少の時代になれば、景気との関連では求人数が労働市場の判断材料になる。このため、有効求人数(新規学卒者を除きパートタイムを含む)をみると、18年12月の281万人をピークに19年3月の277万人まで、19年年初からの3か月間で1.7%減である。この間、有効求職者数も同様のテンポで減少していたため、有効求人倍率は1.63の横ばいに留まったことになる。
有効求人数は17年8月までは前月比で微減の月もあったが、着実に増加してきた。それ以降は一進一退傾向になったが、18年中は基調としては微増でもプラスは維持していた。それが年が明けて3か月連続の減少で、求人の基調が明確に変化したと判断できる。また、新規求人数は19年2月までは一進一退の微増の推移であったが、3月に95.7万人、前月比4万人、4.0%減の大幅な落ち込みになた。3月の減少幅は異常としても、労働市場環境が変わってきたことは明らかである。
今回のこの労働市場の変調の特徴として、ほとんど全ての分野で悪化していることが挙げられる。有効求人数、新規求人数を新規学卒者及びパートタイムを除くとパートタイムで分けると、図に見るように有効求人数は18年12月をピークに3か月連続、新規求人は19年3月に急減し、ほぼ同様の推移である。
産業別は季節調整値が無いため前年同月比でみると、19年3月の新規求人数(新規学卒者を除く)は全体が7.3%減で、主要11産業全てが減少である。ただし、医療・福祉0.8%減、建設業1.6%減などは減少幅が小さい。ほとんどの産業で雇用状況が悪くなれば、パートタイムも含めてほとんどの雇用が横並びで悪化するのは当然である。
また、低金利政策で収益が厳しいメガバンクはすでに大幅な人員削減を公表しており、19年入って協和発酵キリン、ルネサスエレクトロニクス、コカ・コーラ、カシオ計算機など大手企業の早期退職募集が相次いでおり、雇用環境の変化、潮目の変化は顕著である。ただし、変化したといっても、有効求人倍率が短期的に1を下回るほど急激に悪化し、現状の人手不足状態から、失業者増状態に変化するまでは予想できないが、徐々に人手不足が解消に向かう可能性は高い。
3月の一般職業紹介状況の発表に対し、有効求人倍率で評価して高水準横ばいとする見方が多く、その背景にある変化を指摘する意見はあまりみられなかった。日本の社会構造の変化に対応して実体経済を分析しないと判断を誤ることになる。最近、問題になっているデータの不正は論外だが、少なくとも実態が悪化している統計は信頼できる。それを冷静に評価する能力が問われて、一般職業紹介状況では有効求人倍率だけでなく、少なくとの求人数の確認が欠かせない。
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アベノミクスが話題にならなくなって久しいが、替わってこの間の経済政策の評価が取り上げられるようになっている。当然、安倍政権側は日本経済は順調で、特に労働需要増による人手不足状態になっているように、経済政策効果が表れていると主張する。先々月、先月のこの経済レポートで指摘した景気変調に対しては、一時的なもので、景気は下降に向かっていないという見方を示している。
一方、評価しない側はこの間の実質GDP成長率は高まっていない。人手不足も労働力人口減によるもので、賃金は上昇していないことを指摘する。結果、消費は回復せず、景気も世界経済の成長率が鈍化傾向になっている影響で、日本経済の景気拡大は終焉したという判断になる。
ただ、景気は循環するため、不況に入っただけではそれまでの経済政策を否定できない。また、経済成長率、つまり実質GDP成長率は需要面からは人口、供給・生産面からは労働力人口の影響を受けるため、人口、労働力が減少している日本経済を、経済成長率だけで判断すると誤る可能性もある。米国が比較的順調に経済成長しているのは不法移民を含めて人口、労働力が増加している要因も無視ある。
このため、国際競争力評価の基礎になる労働者1人当たりの労働生産性で評価するのが適切と考えられる。これは金額で算出することになり、そのままでは為替レートの影響が大きくなる。これに関しては日本生産性本部が購買力平価に換算したUSドルによる1人当たり労働生産性(以下、生産性)を発表しており、これを使うことで国際比較を比較的正確にできる。
日本生産性本部のデータはOECD加盟国が対象で、現在の加盟36か国の統計になったのは2000年からになる。最新は17年で、加盟国中の日本の順位を2000年から18年の推移をみると、36か国中で05年と12年の20位、06年、08年、09年の22位以外は21位であり、ほぼ横ばいの推移といえる。ただし、日本より低いのは東欧、中東、中南米の国であり、欧米先進国の定義は難しいが、欧米先進国との比較では最下位水準での底這い状態での推移になる。
また、金額水準でのOECD36か国平均(単純平均)との比較では、2000年の日本は5万2,810ドル、36か国平均は5万7,714ドルで、日本は平均の88.2%でしかない。この間の比率の推移をみると、20〜22位の順位を反映して87%、88%前後で、16年に89.2%と00年を上回ったが、17年は88.0%と低下している。
一方、最も生産性の高い国と比較すると、図からも明らかなように日本の低下は否めない。17年世界1位のアイルランドの51.0%でしかなく、数年内に半分以下になる可能性がある。ただし、アイルランドは人口が480万人ほどしかなく、14年まで1位であったルクセンブルクは60万人弱であり、これらの人口小国との比較はあまり意味がない。
人口の多い国で上位にあるのは米国になり、上位の2?4位で推移し、近年の15年から17年までは3位である。米国との比較では、日本は1990年の76.5%から、95年74.3%、00年には70.5%と急速に低下していた。そして、00年代に入って低下速度は穏やかになり、05年69.2%、10年66.0%でほぼ下げ止まっている。10年代はほぼ横ばいで、最も高いのは13年の67.3%、低いのは11年の65.3%であり、17年は66.1%であることから、横ばいの推移の点では対OECDと同じである。つまり、米国経済が順調といっても1人当たりでは経済成長率はOECD平均並みで、経済成長が良く見えるのは人口増要因が大きいことを示している。
結局、生産性で比較して日本経済、産業の相対的な競争力低下は00年代までであり、10年代には下げ止まっていることから判断すれば、アベノミクス、現政権の経済政策は成果を上げたとはいえない。逆に、失敗とはいえないが、この間に大幅に膨らんだ国の財務残高、公費で買い支えている株価の正常化、収益が低下している金融機関などをどうするか宿題はむしろ増えている。
当然、現状のように生産性がOECDの中でも36国中20〜22位程度で良いわけがなく、それを引き上げことも必要になる。これに関しても、政権がすでに長いことを考慮すれば、期待できない。少なくとも現政権が成果を上げていると威張れる状況ではない。
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前回の経済レポートで鉱工業生産指数が2018年の12月速報が前月比0.1%減(前回では速報値だったが、確報も同じ)と2か月連続の減少になり、下降の方向に向かっているのではと指摘したが、その変化の主因は輸出にある。特に、日本の輸出全体の2割近くを占める最大の輸出市場である中国の落ち込みが影響している。
これに関しては違和感を持つ人もいるかもしれない。それは内閣府が発表した18年10〜12月期の実質GDP(1次速報値)が前期比0.3%増と前期の同0.7%減から持ち直し、その一つの要因として、この間の実質財貨・サービスの輸出が同1.4%減から同0.9%増へと大幅に改善したからである。財貨・サービスの輸出には商品輸出以外に、サービス、特に急増している訪日外国人の増加効果も考えられるが、まだ商品の比重が大きく、サービスの影響は小さい。
統計は短期的な変動を示す季節調整値の前期比ではではなく、原数値の前年同期比の方が基調の方向性が分かり易い。実質財貨・サービスの輸出の原数値の前年同期比は4〜6月期の5.6%増から、7〜9月期に1.6%増と伸び率が急減し、10〜12月期も0.3%増と一段と低下している。
一方、貿易統計の輸出数量指数(15年=100)の前年同月比の推移は4〜6月期5.6%増、7〜9月期1.0%減、10〜12月期1.4%減となっており、7〜9月期から2四半期連続の減少である。それでもGDP統計の実質財貨・サービスの輸出が前年同期比でプラスになっているのはサービス増の効果である。19年1月(速報値)は前年同月比で9.1%減と大きく落ち込み、それ以前の18年11月同1.9%減、12月同5.8%減の推移からは下降傾向が続いている。このまま急下降するとは思えないが、19年1〜3月期の前年同期比は10〜12月期の1.4%減より減少する可能性が高い。
というのは、中国の減少が顕著なためである。17、18年の2年間の主要輸出先国・地域別に輸出数量指数をみると、四半期別で米国やEUは伸びても前年比1桁台の伸び、逆にマイナスになっても微減に留まり、変動幅は小さい。18年7〜9月期に米国が前年同期比1.6%減になり、これが原因で輸出全体が同1.0%減になったが、米国は10〜12月期には5.2%増に戻している。
これに対して、中国は18年1〜3月期までは前年同期比10%台の高い伸びであったが、その後は急速に縮小し、7〜9月期は同0.9%増に留まり、米国の減少を補えなかったために輸出全体としてマイナスになった。そして、10〜12月期は6.5%減になり、米国やEUが増加したが、全体として2四半期連続の減少になった。中国の19年1月は前年同月比20.8%減の急落で、輸出全体でも同9.1%減の大きな落ち込みになっている。
中国への輸出が18年にはいって伸び率が急速に縮小し、大幅な減少になった原因に米中貿易摩擦問題が挙げられる。米国の輸入規制で中国の対米輸出が減少すれば、中国の米国への輸出商品に使われる日本製部品の日本からの輸出が減少する。それに加えて、中国の景気が悪化し、それに伴う日本製品需要への影響もある。
米中貿易摩擦問題は両国がどこかで妥協するとしても、短期的に妥結する可能性は小さい。また、少なくとも貿易の均衡化の方向を目指すと推測され、米国に対中輸出を大幅に増やせる商品は見当たらないため、中国は対米輸出を抑制するしかないと考えられる。その場合、中国は対米輸出抑制で落ち込む国内景気を支えるため、公共投資を増やすことになっても、この日本の輸出増効果は小さい。結局、中国輸出数量指数の1月の減少幅は異常で一時的としても、減少基調が続くと予測される。
一方、中国の人件費の上昇から、日本企業はアジアの周辺国に工場を移転させる動きを強めているという見方が多かった。これに米中貿易摩擦問題が加われば、それが加速される可能性がある。そうであれば、日本の中国への輸出が減少しても、その分を移転先のアジア諸国への輸出で補えると考えられる。既に、中国からの工場移転が言われ始めてから数年は経ち、それが事実であれば、日本からの輸出は中国が頭打ち、減少傾向になる。その一方で、その他のアジアが高い伸びになり、アジア全体の輸出数量指数はあまり変化しないことになる。
17、18年の実績では中国とアジアが同方向に動いても伸び率の変動幅に関係性は見えず、工場移転の影響は顕著には表れていない。人件費だけでは工場移転が進み難い構造ができていると推測できる。もちろん、工場移転には時間が掛かり、現実の移転はまだ始まったばかりで、長期的には関係性が表れてくるという見方もできる。ちなみに、日本からの輸出額ではアジア(中国を除き、香港を含む)は中国の約2倍である。
結局、米中貿易摩擦問題から考えると、中国への輸出が現在のテンポで減少幅を拡大していくことはなくても、当面は大幅な落ち込み状態が続きそうである。それを米国やUEが景気を好転させて日本からの輸出が伸びて補うことは期待し難い。結果、全体として輸出は減少基調が続き、延いては鉱工業生産指数も前年を下回る推移になると予想される。
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