2023年10〜12月期実質GDP(1次速報、季節調整値)の成長率は7〜9月期の前期比0.8%減に続き、同0.1%減の2四半期連続のマイナス成長になった。欧米では2四半期連続のマイナス成長は後期後退と判断されるが、日本では景気判断は内閣府の景気動向指数研究会が景気動向指数に基づいて決定する。特に、今回はコロナ禍による一時的な変動要因があるため、景気のピーク時期の判断は難しいが、現在はピークを過ぎたと考えられる。
一部には株価高騰で景気が良いように報じるマスコミがあり、それを受け入れる雰囲気がある。基本的に投機で変動する株価は景気の判断には使えないが、景気が悪化したと思いたくない人は株価に判断を頼る。また、実質GDPは季調値の前期比で2四半期連続のマイナス成長になっても、名目GDPの原数値は物価上昇による水膨れで、この2四半期は前年同期比で6.9%増、4.9%増である。季調値のない企業の売上高は前年比になり、名目GDPの前年比を反映するため、まだ比較的順調な伸びが続いていることになる。
企業収益も輸出企業は円安の恩恵を受け、輸入原材料比率の高い企業は原材料コストの上昇を製品価格の値上げに転化して収益増加になっており、不況感を感じ難い状況にある。ただし、需要が減少すれば製品価格は値上げできず、むしろ値下がりする。
現状の実質成長であれば数量ベースの生産量はほぼ横這いの推移になり、生産が増えない、さらには減産に陥る企業が増えてくる。生産が増えなければ生産性の向上は難しく、生産コストを通じて収益に影響する。いずれにしても、実質GDPの動向が企業収益にも波及し、現在の雰囲気による景気評価の誤りを認識するまでに時間が掛かるのは通常のことである。
景気動向指数研究会の決定にはより時間が掛かる。同研究会は前回のピークを18年10月と判断したが、判断時期は2年近く経った20年7月であった。当時、アベノミクスによる景気拡大は戦後最長の景気拡大「いざなみ景気」の73カ月を抜いたと一部マスコミが騒いだが、結果は2か月足らなかった。もちろん、期間よりも成長率が問題で、当時の安倍首相に忖度して期間が長いのを強調していた。同研究会の判断を待っていれば、国民や企業は景気への対応が遅れる。
基本的に、景気が悪化すれば責任が問われる政府の景気判断は、割り引いて見る必要がある。例えば、政府見通しになる内閣府「月例経済報告」は、23年10〜12月期実質GDP(季調値)の2四半期連続マイナス成長発表後の2月の報告が「景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している」であり、全く実態を反映していない。
今回はコロナによる変動で季調値だけでは判断し難いため、原数値の前年同期比で見ると、実質GDP(原数値)の前年同期比で4〜6月期2.3%増、7〜9月期1.7%増、10〜12月期1.0%増とマイナス成長ではないが、急速に成長率が低下している。24年1〜3月期は低所得者への給付金があるため、マイナス成長が避けられても、4〜6月期にはマイナスになる可能性が高い。月例経済報告は「悪化傾向にある」とすべきである。
景気の悪化はGDPで比重の大きい民間最終消費、民間設備投資のマイナス成長と輸出の牽引力不足にある。個人消費の実質民間最終消費は季調値の前期比で4〜6月期から10〜12月期まで0.7%減、0.3%減、0.2%減、実質民間企業設備も同様に1.4%減、0.6%減、0.1%減で、いずれも3四半期連続のマイナス成長である。
一方、実質財貨・サービスの輸出はインバンド需要でサービスが増えても、財貨が伸び悩み、全体ではこの間、3.8%増、0.9%増、2.6%増で、低成長でもマイナス成長ではない。結局、民間最終消費と民間企業設備の不振がマイナス成長要因になる。ちなみに、原数値の前年同期比で実質GDPはプラス成長を維持しているが、実質の民間最終消費と民間企業設備は4〜6月期のプラス成長から、7〜9月期、10〜12月期は両方共に2四半期連続のマイナス成長である。
民間最終消費は春闘賃上げ額が低く、所得が増えない状況で物価上昇があれば、実質所得がマイナスになり、それに伴って支出、消費が増えないのは誰でも理解できる。一方、企業収益、特に大企業は為替レートの円安と製品価格の値上げで改善しており、長期的に企業収益は良好で、設備投資資金は余裕がある。また、長期的に低金利が続いているのも設備投資の促進要因であり、以前から民間企業設備の増加が期待されていた。
しかし、現実には民間企業設備は減少しなくても、年率で1、2%程度しか伸びていない。国内市場は人口減から成長を期待し難い時代で、設備能力増強には消極的になり、かつ、輸出が伸びても海外での設備増強に向かう傾向にある。一時は円安で海外から国内に立地戦略が変わるという声もあったが、最近ではほとんど聞かれなくなった。
また、欧米企業だけでなく、台頭するアジアの企業との競争力が激しい時代であり、国際競争の中で生き残り、成長するには研究開発投資が重要になる。現実には研究開発投資もそれほど増えていない。これが日本の生産性の伸びを低くしている要因でもある。逆に、企業収益が増えているにもかかわらず、設備投資を拡大しないのではなく、設備投資を拡大しないことで収益を維持、増加させている面もある。
同様に、長期的に賃上げを抑えて人件費を抑制しているのも収益増要因になり、支出抑制で収益を維持・拡大させているといえる。いずれも企業の経営戦略に依るもので、企業戦略が変われば現在の日本経済の長期低迷下での成長鈍化、マイナス成長からの早期脱出が見込める。
設備投資は成長に向けて積極的な投資が求められ、賃金に関しては今春闘で4〜6%と最近では高い賃上げを表明する企業が出現している。昨年も今回ほどではないが、高い賃上げを表明する企業がマスコミを賑わしたが、結果は厚生労働省「毎月勤労統計」の結果に見られるように、従来からほとんど給与額の伸びは高まっていない。
この理由として二つ考えられる。一つは、高い賃上げ表明の企業はほとんど大企業で、就業者の大半を占める中小零細企業の賃上げ額が増えなければ、全体では伸びない。もう一つは、雇用の非正規化である。正規職員に比べて非正規職員は大幅に賃金水準が低い。正規職員だけでなく、非正規職員の大幅賃上げを表明している企業もあるが、低賃金の非正規化を進めれば、賃上げしても全体として賃金、給与の伸びは抑えられる。
企業の投資行動、賃金、社員構成が改善されれば、日本経済の成長性が高まると期待できる。一方、それは企業収益を悪化させる可能性があり。一時的な成長性の向上で終わるかもしれない。また、賃上げによる賃金コストの上昇を製品価格に転嫁すれば、実質賃金は増えない。物価上昇によって名目GDPの成長率は高まっても、実質GDP成長率は変わらず、国民は相変わらず苦しい生活のままになる。結局、設備投資で生産性の向上を図る必要があるが、企業の認識はどうか。
JUGEMテーマ:経済全般
2023年12月の消費者物価指数は106.8になり、10月の107.1をピークに2か月連続で減少傾向になった。また、前年同月比では23年1月の4.3%増をピークに、12月は2.6%増まで着実に低下してきた。一方、異常気象の影響で、生鮮食品はこれまでの通常時よりはまだ高価格でも、異常な高騰期は過ぎて最近は値下がり傾向にある。生鮮食品を除く総合では前年比伸び率は減少傾向にあるのは同様だが、指数は10月から12月まで106.4の横這いである。
一方、全国より1カ月早く発表され、先行指標になる東京都区部の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で23年11月106.0、12月106.1から、24年1月は105.8と顕著な低下になった。これを受けて、全国も1月は低下が予想され、国際商品市況や輸入物価指数、国内企業物価指数の推移から、消費者物価指数は10〜12月期がピークになったと判断できる。
ただし、23年の消費者物価指数は政府の電気・ガス料金負担の激変緩和措置で引き下げられていたが、24年度は逆に一時的な上昇要因になる。23年1月から(支払いは2月から)、料金単価を電力は家庭用の低圧で3.5円/kWh、都市ガスは15円/?値引きする制度で、値下げ効果は消費者物価指数の1ポイントほどと推計される。
当初は12月までの1年間とされていた。しかし、物価高騰が長期化しているため、現状の措置が24年4月まで延長になり、5月からは半額にして維持される。その半分であっても、消費者物価指数は一時的に上昇する。今後、過去ピークを越える可能性は確率が低くてもある。
今回の物価上昇は国際商品市況の回復が契機になった。コロナ対策の収束による世界的な景気回復で、国際商品市況は2000年春頃から上昇し始めた。それを受けて、日本の輸入物価指数は同年6月から前月比でプラスに転じた。企業が輸入した原材料を加工して販売する製品の国内企業物価指数は、値上がり前の輸入原材料在庫があり、また、ユーザーとの値上げ交渉もあって輸入物価指数の上昇より遅れる。輸入物価から半年後の20年12月から前月を、21年3月から前年水準を上回るようになった。
一方、欧米では21年には消費者物価の上昇傾向が顕著になり、物価対策で22年には金利を引き上げ、景気引き締めに転じた。結果、需要の伸びが頭打ち傾向になり、商品によって異なるが、国際商品市況は22年春から夏頃にはピークを打ち、下降傾向になった。それを受けて、日本の輸入物価指数は少し遅れて頭打ち、下降に向かっている。
ただし、今回はソ連・ウクライナ、ハマス・イスラエルの戦争に加え、新たにイエメンの武装組織フーシの船舶への攻撃などが加わり、国際情勢の不安定な状況が長期化している。この影響で国際商品市況の下落が中断することが多く、国際商品市況は下降局面といっても一直線に進み難くなっている。
輸入物価指数のピークは国際商品市況の影響がほぼそのまま反映する契約通貨ベースで、22年7月の151.2になる。これは国際商品市況が安定していた20年を100とする指数であり、2年ほどで5割もの上昇になる。また、為替レートの影響を受ける円ベースのピークは、それを上回る同年9月の188.8になる。円ベースのピーク水準が高いのは円安の影響がある。ちなみに、前年比上昇率のピークは契約通貨ベースで21年10月の34.0%増、円ベースで22年9月の48.5%増になり、1年ほどのずれがある。
ピーク後は下降傾向にあるが、契約通貨ベースは23年8月の126.3で下げ止まり、その後は11、12月の129.2まで戻している。これは米国の個人消費が予想外に好調で、景気の基調が強いと評価され、一時的に国際市況が持ち直したためである。
一方、輸入物価指数の円ベースは23年7月の156.4で下げ止まって上昇に転じ、11月は167.0まで戻したが、12月には162.0に下がっている。為替レートが金融政策予想の影響を受け、22年末頃の1ドル=130円強から23年8、9月頃には150円前後まで円安になり、逆に年末には140円近くまで円高になった。この間の為替レートが短期的に大きく変動したからである。為替レートが円安を是正する基調であまり変化しなければ、契約通貨ベースと同様に低下傾向が続いたと考えられる。
国内企業物価指数は短期的に変動しない人件費や設備費などのコストの比重が高いため、原材料費の輸入物価指数よりも変化が遅れるだけでなく、上昇率も低くなる。指数のピークは22年4月の120.1で、前年比上昇率のピークは22年12月の10.6%増である。
輸入物価指数はピークを過ぎて基調として下降傾向にあり、この影響は国内企業物価指数にも反映する。しかし、まだそれは明確には現れず、23年12月の国内企業物価指数は119.9、ピークより0.2ポイント低いだけである。22年11月期以来、23年4月の120.1を除いて12月まで119台での小幅変動で、23年12月までほぼ横這いの推移である。
このような国内企業物価指数の推移を受けて、消費者物価指数(除く生鮮食品)は21年9月の99.9をボトムに上昇基調になったが、極めて歩みは遅い。2年ほど経った23年10月に106.4、ボトムの対21年9月比6.5%増になった後、11、12月も同じ106.4である。小幅の上昇ではあるが、消費者物価上昇は2年間も続き、特に、日常的に購入、消費する生産食品を含めて食料品の上昇が顕著で、所得が増えない環境下で国民の物価高感は強い。
消費者物価上昇テンポが遅いのは、企業は英品を大幅に値上げすると需要の減少が予想されるため、値上げを小出しにする傾向にあることも影響している。それが消費者物価指数のピークを分かり難くしているが、企業の値上げは一巡しつつある。そこに24年5月からの激変緩和措置を半額にする引き上げ効果が加わる。これは穏やかな下降傾向下での0.5ポイントほどの上乗せになり、この程度であれば、下降テンポを一時的に中断する程度で済み、基調を変化させるほどのインパクトはないと判断できる。
一方、34年度春闘を前にして、高い賃上げを表明する企業のマスコミ報道が相次いでおり、34年度春闘への期待が高まるかもしれない。それが多くの企業に波及すれば良いが、33年度のように裏切られる可能性がある。その場合は消費者物価指数が横這いや微減の推移では、実質所得は増えず、物価の高止まり感が残る。民間最終消費の回復が期待できず、日本経済の低迷状況が続くと予測される。
これまでの消費者物価の上昇を考慮すれば、消費が着実に増えるには少なくとも4、5%台の賃上げが必要になる。それは賃金コストを上昇させ、消費者物価上昇要因になるが、その一方で、労働者も少しは先行きに希望が持てるようなる。それによって民間最終消費の下支えで日本経済の成長が期待できるが、日本全体でそれだけの賃上げは難しいのでは。
JUGEMテーマ:経済全般
前回のこの経済レポートで、政府がコロナ禍対策で実施した政府の国民への現金給付に関して、これまでの給付では消費に回らず、貯蓄されるだけで、経済効果は小さいとして批判の声が多かった。しかし、今回の現金給付は低い伸びの雇用者収入の現金給与総額と高い名目消費支出の伸びとの乖離現状が見られたことから、従来と異なり、給付金は消費に回されて景気対策の効果があった。現金給付が消費者物価の上昇時になり、それが駆け込み需要の資金になって消費を下支えたと説明した。
結果、実質消費支出のマイナス成長への転落を引き延ばし、マイナスになっても小幅に留める効果をもたらしたと評価した。この評価の正否を国内家計最終消費支出の耐久財、半耐久財、非耐久財、サービスの4業態別の動向から判断すると、生活水準を維持するための特に非耐久財支出に貢献したといえる。
GDP統計の民間最終消費支出(以下、民間消費支出)から日本国内居住者の海外での直接購入を除き、非居住者の国内での購入、つまりインバウンド需要を加えたのが国内家計最終消費支出(以下、国内消費支出)になる。これが国民経済統計で公表されている。2022年度実績で国内消費支出は民間消費支出の名目315.8兆円、実質(2015暦年価格)298.1兆円に対し、国内消費支出はそれぞれ308.9兆円、291.4兆円、民間消費支出の97.81%、97.75%と高く、両支出の動向はほぼ同じである。
名目国内消費支出の22年度実績308.9兆円の内訳は、耐久財24.5兆円、全体の7.9%、半耐久財20.2兆円、同6.5%、非耐久財91.0兆円、同29.5%、サービス1,732兆円、同56.1%である。消費構造のサービス化を反映してサービスが過半数を占めている。ただし、ピークは07年度の59.8%であり、コロナ禍によって減少傾向が少し強まっている。ちなみに、実質ではピークは同じ07年度の59.9%、22年度は58.2%であ、実質ではコロナ禍の影響は軽微になる。
4業態別の主な内容は、1 耐久財は太陽光発電、自動車、携帯電話、TV、パソコン、楽器、2 半耐久財は寝具類、衣料品、履物、保健医療用品・器具、スポーツ用具・用品、TVゲーム機・ゲームソフト、園芸用品、書籍、装身具、3 非耐久財は食料品、光熱・水道、医薬品、新聞、雑誌、石けん、化粧品、4 サービスは外食、家事サ−ビス、保健・医療サービス、交通費、電話通信料、授業料、理美容サービス、などとなっている。
コロナ禍のような経済活動を低下させ、収入が減少する事態が発生したときは、日常生活に不可欠な生活必需品は、生活水準を維持するために一定の消費は維持され、その他の商品やサービスは抑制される。生活必需品としては一般的に食品、衣料品、燃料、履物、洗剤などが挙げられる。非耐久品が中心だが、半耐久品の衣料品や履物、サービスの交通、また、今日では含めるのが適切と思われる携帯電話などもある。
ほぼ毎日、購入の必要がある食料品や水、光熱は非耐久消費財になり、非耐久財は定常的に購入、消費される商品の比重が高い。このため、今回の景気対策の現金給付が消費者物価の上昇と重なって消費支出に回り、景気の下支え効果を発揮したと考えられる。
今回の消費者物価上昇は国際商品市況高騰の日本への波及で始まり、四半期では21年10〜12月期頃から前年同期比で上昇し始めた。その後、22年春頃に国際商品市況がピークを打って下降基調に転じたことで、消費者物価指数の上昇率は23年に入って1月の前年同月比4.3%増(四半期では22年10〜12月期の3.9%増)をピークに縮小傾向になり、11月は同2.8%増まで低下しているが、まだ賃金の伸びを上回っている。
国内消費支出の名目と実質の前年比伸び率の乖離から、国内消費支出の物価上昇が分かる。GDP統計の物価はデフレーターになり、消費支出のデフレーターは消費者物価指数に対応するが、同じではない。名目と実質の前年同期比伸び率は、図に見るように21年4〜6月期まではほとんど乖離せず、デフレーターの上昇率はほぼゼロであった。乖離、つまりデフレーターの上昇は消費者物価より1四半期先行して21年7〜9月期からになる。
しかし、乖離のピークは22年10〜12月期になり、名目国内消費支出5.5%増、実質国内消費支出1.7%増と乖離は3.8ポイントで拡大は止まり、デフレーターの方が上昇率が4%台になった消費者物価指数より低い。乖離幅は消費者物価指数と同様に縮小し、7〜9月期の2次速報値は3.1ポイントで、これは同期の消費者物価上昇率3.1%増と同様である。全体的には両統計間で格差は小さい。
業態別の特徴として、非耐久財の名目と実質の乖離が大きいことが挙げられる。非耐久財は国内消費支出全体より1四半期先行して21年4〜6月期から乖離し始め、ピークの23年10〜12月期は前年同期比で名目5.5%増、実質1.6%減で、乖離幅は全体ピークの3.8ポイントを大きく上回る7.1ポイントにもなる。23年7〜9月期2次速報値でもそれぞれ3.3%増、1.2%減で、乖離幅は4.5ポイントもある。今回の物価上昇は非耐久財で比重の大きい食料品が先行して値上がりし、かつ、上昇率が高いことが影響している。
当然、非耐久財以外の財・サービスは名目と実質の乖離は相対的に小さいが、図に見るように名目、実質共に前年同期比伸び率の変動が激しい。特に、耐久財や半耐久財は収入が増えなければ購入が抑制され易いからである。ただし、これは中間層以下の所得者で、今回のアベノミクスによる超金融緩和政策で株価や地価が高騰し、その恩恵を受ける中・高所得層は高額商品を購入しており、その影響で変動幅が激しくなっていると推測できる。サービス財はこの中間になり、保健・医療サービス、交通費、電話通信料、授業料など必要性の高い支出も含まれるためである。
通常、生活必需品であっても収入が前年比で1、2%台の増加に対し、物価が非耐久財のデフレーターで22年度下期から23年度に前年比5〜7%もの物価上昇になっていれば、支出が抑制されるのが通常である。支出を抑える消費行動から、量を減らせなくても価格の安い商品で我慢するからである。
今回は政府の給付金がそれを補う効果を発揮した。特に、食品に関しては事前にマスコミで値上げが報道され、保存できる食料品には駆け込み需要が発生する。それが低収入下での物価上昇にもかかわらず、22年4〜6月期まで5四半期間、微増でも前年同期比プラス成長をもたらしたと考えられる。その後は23年1〜3月期を除いて7〜9月期まで微減のマイナス成長だが、食料品は長期保存が難しいため、駆け込み需要の仮需が一巡して家庭での保存量が横這いになるだけで微減になる。
今後に関しては、減税は低所得者には関係なく、政府の給付金は全体として大幅減額で、物価上昇も沈静化すれば、仮需で積み上がった分はマイナスになる。当然、将来不安が大きい現状では貯蓄重視になり、消費は抑制に回る。積極的な消費行動になるには春闘で4、5%台の高額賃上げの実現が必要だが、一部の企業を除いて実現は期待し難い。
JUGEMテーマ:経済全般
内閣府が発表した2023年7〜9月期の実質GDP成長率の1次速報値は季節調整値で前期比0.5%減(年率換算2.1%減)になった。マイナス成長は3四半期振りで、その要因として民間最終消費支出と設備投資が弱含み、輸出も観光客のインバウンド需要はあっても財貨輸出が伸びず、牽引力が弱かったことが挙げられている。
22年度実績で実質GDPの56%と過半数を占める実質民間最終消費支出(以下実質消費支出)は季調値の前期比で23年1〜3月期0.7%増、4〜6月期0.9%減、そして7〜9月期0.0%減の推移であり、これだけを見れば、実質消費支出は持ち直しと評価することもできる。以前から指摘しているように、コロナ禍による異常変動を顧慮すれば、季節調整値を使うのは適切でない。コロナ対策のまん延防止等重点措置が22年3月に終了したのを考えれば、23年4〜6月期からの前年同期比の方が実態を把握できる。この推移から実質消費支出額は政府の給付金によって引き上げられており、実質消費支出は10〜12月期以降は一段と減少し、そして実質GDP成長率はマイナス成長が予測される。
消費支出の原資になる労働者の現金給与総額は最近の多かった22年10〜12月期でも全年同期比2.9%増でしかなく、少ない23年1〜3月期と7〜9月期は0.9%増である。一方、消費者物価指数の上昇率は22年4〜6月期から2%台に乗せ、図に見るように現金給与総額の伸びを上回るようになり、物価上昇分を差し引いた実質現金給与総額はマイナス状態が続いている。
つまり、実質収入がマイナス成長に陥る中で、実質消費支出は前年同期比で23年1〜3月期までのプラス成長から、4〜6月期0.0%減、7〜9月期0.2%減である。影響が顕著に現れるようになったのは23年度に入ってからになるが、まだ物価上昇の影響は軽微と言える。
収入全体では雇用者数も影響するが、雇用者は前年比0.4、0.5%増程度である。また、消費増要因としてコロナ禍で抑制した消費の回復効果を見込んでも、現金給与総額から見る収入と名目消費支出との伸び率の乖離が大き過ぎる。この解離を埋める要因として、この間に実施された新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金 や低所得者世帯への給付金などの政府の支給があげられる。20年度の実施された国民一人当たり10万円、総額12.7兆円の特別定額給付金や、22、23年の低所得者世帯への給付金だけでも15兆円を超えると推測され、これらだけでも22年度の名目個人消費支出313兆円の5%強になる。
国民への現金給付は選挙対策や、従来の例から見れば消費に回らず、貯蓄されるだけで経済効果は小さいとして批判の声は大きかった。しかし、現金給与総額と名目消費支出の伸びの乖離から判断すれば、従来と異なり、給付金は消費に回されたと言える。つまり、消費を下支えし、実質消費支出のマイナス成長への転落を引き延ばし、マイナスになっても小幅に留める効果をもたらしたと評価できる。
コロナ禍による経済の落ち込み対策として実施された現金給付が、予想外の消費拡大効果を発揮したのは、消費者物価上昇時であった影響が考えられる。日本経済が低成長を続け、賃金が増えない中での給付で、生活維持のための支出になったのではないか。現状の生活水準を維持するだけでも物価上昇分の消費拡大に繋がる。
図に見るように、今回の消費者物価上昇の特徴として、消費者物価指数(総合)の中で食料品の原材料の輸入依存度の高い食料工業製品の上昇が先行し、半年ほど遅れて異常気象によって生鮮食品が高騰してきたことが挙げられる。食料品の購入頻度は高いため、従来であれば、特に食料品を購入する主婦が節約意識を強める効果を持つ。それがそれほど顕在化せずにきているが、流通業界から消費抑制傾向が強まり、低価格品志向が広がってきたという意見がでている。小売業界はこの対策として、伸びている低価格のプライベートブランド商品の開発に力を入れている。
つまり、23年後半になって消費者の消費行動に変化が顕著になってきたが、その影響が消費支出、延いては実質GDP成長率にどう影響してくるかが問題になる。今回の物価上昇をもたらした国際商品市況の上昇は20年春頃から始まり、22年夏頃にピークに達した。日本への輸送には時間が掛かり、また企業が値上げは需要に影響するのを懸念し、当初は値上げを抑制していたため、日本の物価上昇は世界から遅れた。結果、物価上昇の沈静化も遅れている。
国際商品市況の水準のピークは22年夏頃になるが、日本の国内企業物価指数の前年同期比上昇率では22年10〜12月期、同飲食料品は23年1〜3月期、消費者物価指数(総合)は22年10〜12月期になった。国内企業物価指数の上昇率はピークを打った翌1〜3月期、同飲食料品は7〜9月期から下降傾向にあるのに対し、消費者物価指数(総合)は高止まり傾向にあり、長期化している。
特に、物価上昇期には消費者物価の食料工業製品や21年7〜9月期までの生鮮食品を別として、食料品の上昇が目立っている。当然、消費者は価格の値上がり対策として買いだめする。生鮮食品や食料品は鮮度や賞味期限があって買いだめし難いものもあるが、加工品、また生鮮食品でも冷凍保存できるものもある。給付金はエンゲル係数の高い低所得者が重視され、また所得に無関係に同額給付であっても、所得に占める比率は低所得者が高くなる。これから考えれば、従来と異なり、給付金が貯蓄でなく消費に使われたのは当然といえる。
給付金による買いだめ効果で消費は下支えされても、それは一時的で、その反動による消費抑制がある。反動は価格上昇がピークを打って下降に向かうと予想されれば生じる。既に国際商品市況は反落しており、前年同期比で国内企業物価指数の飲食料品は23年1〜3月期をピークに、4〜6月期はほぼ横這いだが、7〜9月期には下降傾向が見られる。
天候要因の大きい生鮮食品は別として、国内企業物価指数から遅れる消費者物価指数の食料工業製品の前年同期比上昇率は7〜9月期がピークになりそうである。値上げされる食料工業製品はまだありそうだが、すでに輸入小麦の政府売渡価格は10月から11.1%引き下げられており、それが年明けには小売製品に反映される見通しである。小売価格の値上げが一巡になれば、買いだめの反動で消費は一時的でも冷え込むと予想できる。需要の減少は価格引き下げ圧力になり、年が明ければインフレの雰囲気は一変する可能性が高い。
また、政府は引き続き給付金を給付する計画だが、これまでよりも規模は小さくなり、かつ貯蓄に回る比率が高くなると予想されるため、消費拡大効果は小さくなる。結果、今年末から来年にかけて消費支出は一段と冷え込み、インバウンド需要が好調というだけでは、年末以降の日本経済は厳しい見通しになる。
JUGEMテーマ:経済全般
国際通貨基金(IMF)が各国の名目国内総生産(GDP)の2023年見通しで、日本はドイツに抜かれて世界第3位から第4位に転落すると発表した。日本はアベノミクスで浮かれていたが、安倍政権下で年率1%増程度の実質GDP成長しか実現していない。その後はコロナ禍でマイナス成長に落ち込み、現在はまだそこからの回復過程に留まっている。このため、24年には着実に経済成長しているドイツに抜かれるのではと予測されていたのが1年早まっただけで、日本経済の長期低迷から4位転落は驚くことではない。
「経済、経済、経済」と岸田首相は10月の臨時国会で叫び、減税や低所得者世帯への給付金などの政策を打ち出しているが、これらは足下の短期的な経済対策でしかない。日本経済の現状からそれも重要だが、低迷を続ける長期的な視点からの政策が不可欠である。この問題を産業の成長性から考える。
内閣府「国民経済計算」ではマクロの需要面から見た実質GDPの数字が注目され勝ちだが、供給側の産業別の統計も含まれる。どの産業が日本経済を牽引、逆に足を引っ張ってきたかを1996年から最新の21年までの25年間で、金額では格差が大きいため産業別構成比を図にして比較する。図は16年までは5年間隔、その後は21年まで毎年で作成しており、間隔が前後で異なっていることに留意する必要がある。
実質GDPはこの間、96年の473兆円から18年の555兆円まで上下変動はあても基調として緩やかでも増加傾向にあったが、景気の悪化で18年をピークに下降に転じた。19年は微減の553兆円、前年比0.4%減に留まったが、コロナの影響で20年529兆円、同4.3%減になり、21年は回復しても540兆円、同2.1%増であり、まだ18年を2.7%も下回っている。
これらの中で、卸売・小売業は流通構造変化、運輸・郵便業はユーザーのコスト削減による合理化、宿泊・飲食サービス業は長期的な所得の伸び悩みで消費者の支出抑制などの要因で構成比は下降傾向にある。これらの産業は今後も期待し難いが、宿泊・飲食サービス業は外国人観光客が急増していた20年代後半は下げ止まり傾向が見られた。これから推測すれば、今後は観光客によるインバウンド需要で反転して穏やかな上昇に向かう可能性はある。
また、建設は12年まで(図では11年まで)着実に低下してきたが、その後は横這いから持ち直し傾向にある。これは東日本大震災の復興工事や五輪施設建設によると推測できる。足下では万博需要があるが、これらは一時的な需要であり、長期的な基調としては微減、良くても横這い程度と推測できる。
一方、増加しているのは製造業、高齢化に伴って需要が拡大している医療、福祉関連の保健衛生・社会事業、ITの発展に伴って成長している情報通信業、研究開発やITによる業務効率化を支援する専門・科学技術、業務支援サービス業などである。これらの産業が構成比で見たこの間の日本経済の成長産業ではあるが、いずれも成長性はそれほど高くはない。このため、需要構造、産業構造の変化から衰退が避けられない産業のマイナスを補って日本経済を押し上げる力が弱く、全体として長期的な低迷が続いてきた。
これらの産業の中で、以前から製造業は為替レートの円安や米中対立で、生産機能が中国から日本に戻るとする意見が専門家の間でも高まっていた。現実にはその可能性がほとんどないとこのレポートで主張してきたが、実質GDPに占める構成比がこの程度の増加では生産機能の復活とはいえない。それは現実の名目の生産額を見れば明らかで、この図の期間で名目製造業生産額のピークは97年の127兆円、名目GDPに占める割合は23.3%で、これに対し、最近時のピークは18年の115兆円に留まり、名目GDPに占める割合は20.6%でしかなく、構成比だけでなく金額でも減少傾向にある。ちなみに、実質の構成比は97年19.8%、18年20.6%である。
この実質と名目の逆転現象が生じる理由は、製造業の生産性の伸びが全産業平均を上回り、相対的に価格が安定、または値下がりしているため、名目よりも実質の成長率が高くなる。結果、構成比では実質が名目を上回る。一般的に、現実に比較する場合は名目で行われるため、他産業との比較で名目の成長性が低ければ全体を牽引しているとは言い難い。かつてのように製造業の高成長が求められるが、現実には企業の立地戦略から判断すれば難しい。
また、保健衛生・社会事業、具体的には医療や介護事業などになるが、医療は日本の医療の評価が高く、海外からの患者、つまり医療のインバウンド需要は存在する、しかし、治療する医者の供給には限界がある。一方、介護は高齢化で需要増が見込めても、現状では被介護者のコスト負担能力不足の問題がある。介護の自動化、ロボット化によるコスト削減が課題になり、その技術開発にはまだ時間が掛かる。
となると、今後も成長が見込める情報通信業と専門・科学技術、業務支援サービス業に日本経済成長の牽引役として期待するしかない。情報通信業の中核になるIT産業はそれ自体が成長産業とあると同時に、専門・科学技術、業務支援サービス業と同様に他企業の新技術・新製品開発を支援し、業務の自動化、効率化を促進してコスト・品質の競争力を高める役割を担っている。つまり、ほとんどの企業・産業の発展に貢献する産業として評価できる。
しかし、GAFAに代表される米国、テンセント、アリババ、バイドゥなどを擁す中国などと比較すれば、日本のIT企業は遅れている。IT産業自体も低成長に留まるが、その発展の遅れが他の産業の成長性を低下させ、日本経済全体の低迷をもたらしている。特に、図の推移から分かるように、専門・科学技術、業務支援サービス業の構成比の伸びは08年までの高成長から、その後は頭打ち傾向である。日本企業の積極性が失われてきているのを反映しているようである。
政府は発展戦略として成長産業のIT企業の誘致、育成に巨費を投じているが、資金は限られているわけで、産業の成長性だけでなく、他産業への波及効果も考えた戦略が必要である。「経済、経済、経済」のかけ声だけでなく、中・長期的な視点から日本経済を牽引する産業の育成が求められる。
JUGEMテーマ:経済全般
日本銀行は9月の金融政策決定会合で金融緩和策の現状維持を全会一致で決めた。日本経済に関して「個人消費は物価上昇の影響を受けつつも、緩やかなペースで着実に増加し」て「景気は緩やかに回復している」判断である。国民は消費者物価上昇率がピークを過ぎても、買物頻度の高い食料品の値上がりが続き、所得が増えない中で買い控え姿勢を強めている。景気判断で意見が異なることはよくあるが、日銀が個人消費は着実に増加していると主張する理由説明がないと、説得力は弱い。
GDPの過半数の56%を占める民間最終消費が増えなければ、世界的に物価対策で金融引き締め政策が強化されている状況で、海外市場も期待できないため、穏やかでも景気の回復は見込み難い。金融緩和策で円高への転換が見込めず、極めて穏やかに上昇率が低下する物価の基調は変わらない状況で、実質GDP成長率はマイナスに転落、景気は悪化する可能性が高い。
日銀は「『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する」としている。物価安定の目標は「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」だが、日本の消費者物価指数は原材料の輸入依存率が高い影響で、国際商品市況の高騰を受けて2021年末頃から上昇傾向になった。そして、前年同月比上昇率は22年4月に総合で2.5%増、総合(除く生鮮食品)で2.1%増と2%台に乗せ、最近時の23年8月のそれぞれ3.2%増、3.1%増まで17か月連続で2%を超えている。
これだけ長期に亘って2%以上の上昇になれば、金融政策を変えるのが当然と思われる。しかし、日銀の物価安定の目標は「賃金の上昇を伴う形で、2%の『物価安定の目標』を持続的・安定的に実現することを目指していく」としており、今年の賃金上昇は2%の物価上昇をもたらすほどではないため、政策転換しないと説明している。2%の物価上昇をもたらす賃上げ水準は示されていないが、賃上げを問題にしているのは、物価上昇を海外商品市況の影響を受ける物財と、コストに占める人件費の比重の高いサービスの価格を分けて考えているからである。
21年からの物価上昇は海外商品市況が値上がりした影響であり、市況が世界的な金融引き締め政策で値下がりに向かえば収束し、物価上昇は止まる。現実に、国際商品市況のピークは21年央になり、これを受けて日本の消費者物価指数は半年ほど遅れたが、図に見るように23年1月の総合で前年同月比4.3%増がピークである。生鮮食品を除いた総合のピークも同じ1月の4.2%増である。
ただし、その後の消費者物価上昇の減速速度は遅いことが今回の特徴として挙げられる。特に、主要な国際商品の市況が下がり難くなっている。世界経済への影響が大きい原油価格が過去ピークにまでは戻らなくても、早くも23年に入って再び上昇傾向にある。これは産油国のOPECプラスが原油市況対策で減産に取り組み、以前よりも産油国の価格維持意識が強くなって原油市況を下支えしているためである。また、小麦価格ではロシアとウクライナの戦争の影響で下がり難くなるなど、従来と比較すれば高止まり傾向にある。加えて、日銀の金融緩和策から円安傾向が続いているため、消費者物価上昇率の減速テンポは遅く、23年8月の前年同月比で総合3.2%増、生鮮食品を除いた総合3.1%増に留まる。
物価の高止まりに苦しんでいる国民は、為替レートの内外金利差による円安要因の金融緩和策の転換を期待していたと推測できる。しかし、日銀は賃上げによるサービス価格の上昇が見られず、現状は持続的・安定的な2%台ではないとして、金融政策維持である。
そこで、消費者物価指数統計で財・サービス別指数をみると、ほぼ100%輸入依存の原油価格の高騰を反映した石油製品に代表されるように、今回の消費者物価上昇要因の財物価が先行して上昇した。その後、財物価は国際商品市況の頭打ちを反映して前年同月比で23年1月の7.2%増がピークになり、これによってサービスも合わせた総合も同月がピークになった。その後、上昇率は下降に向かっているが、8月でも財物価は4.2%増と総合の3.2%増を1ポイント上回っている。
これは食料工業製品の小売価格の値上げが食料品原料輸入の上昇に遅れる傾向にあり、食料工業製品物価指数が8月の10.3%増まで上昇加速が続いている影響が大きい。ただし、輸入小麦の政府売渡価格が10月から前期より11.1%の引き下げられるため、食料工業製品物価指数も年内には頭を打つと予測できる。
また財物価指数上昇率が相対的に高いのはサービス物価指数上昇率が低いためだが、サービス物価指数も財より遅れたが上昇基調にある。22年8月からは前年水準を上回るようになり、そして23年7、8月の2か月連続で前年同月比2.0%増まで高まり、日銀の物価上昇目標水準に達している。
しかし、その中身が問題になる。上昇を牽引しているのは外食と通信・教養娯楽関連サービスで、それぞれの要因は、外食は原材料の食料品、通信・教養娯楽関連サービスは携帯電話と宿泊費の上昇にある。携帯電話は安い携帯電話サービスの終了、宿泊費は外国人観光客によるインバウンド需要効果であり、賃上げによる人件費の上昇効果もゼロではないとしても、8月1日付のこの経済レポートで示したように、物価の高騰下でもせいぜい2%程度であれば、人件費コストのサービス価格への波及は微々たるものになる。
現状では、日銀が求める2%の物価上昇をもたらす持続的な賃上げの実現は期待し難い。企業は株主への還元を重視し、収益を従業員に報いる意識は弱いように思える。もし、比較的高賃上げになったとしても、そのコストアップ分を価格に転化するだけであれば、物価上昇をもたらすだけで、実質賃金の増加にはならない。実質賃金・消費の拡大を通して経済成長に結び付けるには、コストアップを技術革新で抑える努力が必要だが、これまで積極的に設備投資しなかった企業が急に投資するようになるとは考えられない。
一方、労働者も争議をしてでも賃上げを実現する行動力は見えず、これでは日銀が期待するような賃上げは予想できない。となれば、消費者物価上昇率は穏やかな縮小傾向に留まり、実質所得は改善せず、民間最終消費は低迷し、経済成長も期待できない。
JUGEMテーマ:経済全般
内閣府が発表した2023年4〜6月期の実質GDP成長率(1次速報値、季節調整値)が前期比1.5%増、年率で6.0%増と予想外の高成長になった。1次速報値であり、最終的には下方修正される可能性はあるが、大幅な修正はないため、小幅の修正では低下しても高成長にあることに変わりはない。通常、高成長は評価すべきことだが、輸入減による外需の高い伸びあり、専門家にもどう評価すべきか戸惑いが見られる。その要因は物価上昇期の駆け込み需要と、逆に下降期の需要の反動減による輸入の大幅減少にある。
4〜6月期の実質GDPは前期比で内需は0.3%減のマイナス成長の一方、輸出が3.2%増と高成長になり、また、輸入が4.3%減の大幅減少になった。輸出増のGDPの成長寄与度は0.7ポイント、一方、輸入はGDPのマイナス要因で、この減少はGDPのプラス要因になり、輸入減の寄与度は1.1ポイントにもある。輸出入合わせて外需の寄与度がプラスの1.8ポイントにもなり、1.5%増の高成長をもたらした。
輸出は6月1日付けのこの経済レポートでも指摘したように、物財はインフレ対策による世界的な金融引き締め政策によって減少傾向にある。その一方で、コロナ対策の入国規制が緩和され、外国人観光客増によるインバウンド需要効果で輸出全体では増加している。今後は中国からの観光客が期待でき、当面は GDP成長要因になる。
問題は輸入で、輸入は国内景気が悪ければ減少するのが通常である。しかし、日本経済は特別悪いというほどではないが、景気の状況からは4〜6月期が前期比で横ばいか微減程度であれば理解できる。ところが、大幅な減少は予想外で、要因が分からない専門家は評価に困っている。もし、輸入が横ばいであれば1.1ポイントの寄与度がなくなり、0.4%増のプラス成長に留まれば日本経済の実感と合ったのであろう。
GDP の過半数を占める最大需要項目の実質民間最終消費は、1〜3月期の0.6%増のプラス成長から4〜6月期は0.5%減のマイナス成長になり、これが内需全体のマイナス成長の主因になっている。前回のこのレポートでも指摘したように、労働者の賃金の伸びが低ければ、消費者物価上昇に収入が追い付かず、民間最終消費が実質ベースでマイナスになるのは当然といえる。
ただし、コロナによる需要変動は季節調整では調整困難なことは以前から指摘している。このため、原系列(原数値)の前年同期比の推移の方が季節調整値の前期より日本経済の実態が判断できる。実質原系列の前年同期比の図でも明らかなように、コロナ対策による法規制や国民の自主規制による需要の減少は20年7〜9月期までが大きく、その後は徐々に緩和されて経済活動は正常化してきている。一部にはコロナの影響が残っているところもあるが、全体的にはほぼ正常化している。
原系列の主要需要項目別の図で影響が顕著だった輸出入も、落ち込み後の反動増が21年7〜9月期には一巡し、コロナ要因による変動はほぼ出尽くしていると判断できる。その後も大きく変動しているが、それは経済的要因による。
民間最終消費支出は長期的に収入が増えない中で、22年入って増加傾向にある。これは20、21年度頃に自粛で抑制した消費が復活した効果も考えられるが、消費者物価上昇の影響があると推測できる。消費者物価は21年末頃から国際商品市況の高騰と為替レートの円安の影響で上昇し始め、22年4月に前年同月比で2%増台に乗った。そして、23年1月の同4.3%増がピークになり、その後は3%台上昇で高止まりしている。
商品の値上がりが予想されれば、消費者はその前に買い急ぐため、消費は盛り上がるが、一時的現象でしかない。加えて、賃上げ率は低くて名目の収入が増えず、物価上昇で実質所得がマイナスになれば、実質消費もマイナスにならざるを得ない。ただし、現状はまだ自粛で抑制した消費の復活需要もあるため、すぐにはマイナスにならなくても、いずれはそうなる。23年4〜6月期の実質民間最終消費支出が前年同期比0.2%増と頭打ちになったのは、低い収入増と比較的高い物価上昇の影響が現れ始めたとみられる。
逆に、民間住宅は5四半期連続のマイナス成長から、23年4〜6月期は3.5%増とプラス成長に転じた。前1〜3期も同0.4%減と回復傾向であり、持ち直し傾向になっている。基調として日本経済の先行き見通しからは住宅需要増を期待し難いが、4月の前黒田日銀総裁の退任を契機に長期金利、住宅ローン金利の先高見込みからの駆け込み需要効果と推測できる。持ち直し傾向が続くことは予測できない。
コロナの影響が大きいときは別として、アベノミクスで企業収益は比較的好調なことから、民間企業設備への期待は大きい。しかし、現実には企業の設備投資は盛り上がらないままで、当面、世界経済の先行きが不透明な現状では設備投資が活発化する可能性はない。
以上のように内需が低迷する中で、輸出は物財が世界経済の頭打ち傾向を反映して減少傾向にあっても、コロナ対策による入国規制の緩和によって海外からのインバウンド需要が増加している。結果、サービス財の輸出増で全体として増加基調が見込める。
一方、輸入は季節調整値で23年4〜6月期が前期比4.3%減、年率では20%近い大幅マイナスで、原系列でも前年同期比1.6%減の小幅だがマイナスである。原系列で22年7〜9月期、10〜12月期は2四半期連続で同10%台の大幅増だった、23年1〜3月期は同4.2%増に留まり、4〜6月期のマイナス成長まで急速下降である。季節調整値では22年10〜12月期から前期比3四半期連続のマイナス成長の中で、23年4〜6月期は大幅マイナスに陥り、GDP成長率を高める効果が大きかったことから注目されたが、その要因は景気との関係は薄い。
為替レートの変動も含めて国際商品市況の高騰による駆け込み需要と、高騰一巡後の反動減、つまり価格効果が要因として挙げられる。国際商品市況は商品によってピーク時は異なるが、だいたい22年夏頃になる。ただし、日本への輸入は上昇や下落の市況変動を受けて購入、そして海上輸送して日本での通関までの期間を考えれば、市況変化と通関までの間に1四半期ほど掛かると考えられる。結果、図に見るように、輸入はコロナによる輸送困難な事態になったのも加わり、国際商品市況の上昇から21年4〜6月期頃から急増した。そして、22年夏頃に市況が反転したこととから、日本の通関では23年になって減少に転じ、それが顕著な数字として23年4〜6月期に表れた。
輸入は原系列では前年同期比で大幅マイナスが続きそうだが、季調値はすでに低水準になっているため、減少幅では21年4〜6月期頃がピークと推測できる。つまり、輸入減によるGDPへのプラス効果も解消に向かい、今後のGDP成長率は内需を反映することになる。個人消費の見通しが厳しい状況では、当面は低成長が予想され、さらにはマイナス成長もあり得る。
JUGEMテーマ:経済全般
4月1日付けのこの経済レポートで春闘を取り上げた。今年春ごろは業績が良く、賃上げに積極的な企業が企業のイメージアップの目的もあって、5%を超える高い賃上げを発表するところが少なくなかった。それをマスコミが取り上げ、今春闘の賃上げはかなり高くなり、個人消費の拡大を通して経済成長率を高める効果を期待する見方があったが、過大評価ではないかとレポートした。
最近では、労働団体の日本労働組合総連合会(連合)が6月末での最終的な回答結果をまとめ、賃上げ率は平均で3.58%、1994年以来およそ30年ぶりの高い賃上げになったと発表している。しかし、連合は大企業を中心に一部の企業の組合を組織しているだけで、従業員の約7割を占める中小零細企業が賃上げしない限り、全体の賃上げ率は低水準に留まる。当然、労働者全体の賃上げがどうなるかが問題である。
全体の賃上げ実績の統計は発表されるのがほぼ1年遅れになるため、厚生労働省「毎月勤労統計」で賃上げの実態を推測する。毎月勤労統計は従業者4人以下の小零細事業所が調査対象に含まれない問題はあるが、この統計で一般労働者やパートタイムの常用労働者の所定内給与によって推測する。5月までの統計が発表されており、労働者全体の今年のおおよその賃上げ率が判断できる。ただし、所定内給与は春闘賃上げ額の対象になる基本給のほかに、額は少ないが職務手当、家族手当などの諸手当を含んでいる。
また、一般労働者やパートタイムの常用労働者の定義は、「期間を定めずに雇われている労働者」と「1か月を超える期間を定めて雇われている労働者」となっており、常用労働者には一般的に春闘で賃上げの対象になる正社員以外の労働者も含まれることに留意する必要がある。それだけ賃上げ額・率は低くなるが、経済見通しの判断材料としては多くの労働者を含むこの方が適している。
まず、2023年の一般労働者の所定内給与の前年同月比の推移をみると、22年4月まで1%台の伸びが続いていたが、5月は2.0%増と94年以来約40年ぶりに2%台になった。賃上げ率が高まったといっても、マスコミで取り上げられている4%、5%という数字から見れば、かなり低い。もともと、それが収益性に優れた一部の企業であり、かつ、日本企業の労働者の大部分を占める中小企業は収益性が低いことから考えれば、現実の賃上げがその程度に留まっても驚くことではない。
また、賃上げが4月、5月で終わるわけではなく、賃上げ交渉が長引いて6月、7月へと遅れて、これから3%台、4%台に上昇する可能性もあり得る。しかし、これは毎年あることで、前年もずれ込んでいれば、今年だけ高くなるわけではない。ちなみに、前年の前年同月比の推移は一般労働者で3月1.0%増、4月1.0%増、5月1.1%増、6月1.1%増、7月0.9%増、8月1.5%増となっており、6月以降が特に高くなっているわけではない。これまでも春闘交渉が長引いている企業はあるとは思うが、話題にはならないことから判断すれば、月間の統計数字に影響を与えるような問題ではないと判断できる。
一方、23年の常用のパートタイムは所定内給与が3月の1.2%増から、4月2.3%増、5月2.4%増と一般労働者を上回る伸びである。近年、パートタイム需要は多く、パートタイムは季節的な需要変動が大きいため、月によって変動幅は大きく、23年1月は3.2%増と一時的だが3%台になっている。
パートタイムが需給逼迫で高い伸びになっているのは労働者にとって評価できるが、一般とパートを合わせた全体では、5月は1.7%増と低い一般の2.0%増を下回る伸びでしかない。これは5月の所定内給与額が一般の32.3万円に対し、パートは10.1万円と3倍以上もの格差があり、パートの労働者数が一般よりも前年比で増えている影響である。常用労働者の中で賃金水準の低いパートが増えることで、相対的に賃金水準が下がり、前年比伸び率が低くなる。
つまり、企業は賃上げ競争が激化する中で、低賃金のパート労働者の比重を高める雇用政策を採っていることを示して。これは一般労働者でも同様と推測できる。一般労働者は春闘賃上げ対象の正規社員と対象にならない非正規社員の両方が存在するが、通常、非正規社員は正規社員より賃金が安いため、企業は非正規社員の採用を増やしていると考えられる。もちろん、非正規社員も賃上げされるが、正規社員の賃上げを上回らないであろう。マスコミに取り上げられる賃上げ率が適用されるのは正規社員であり、全体の賃上げ率はマスコミ報道よりも低くなる。
一般労働者の5月の所定内給与伸び率2.0%を春闘賃上げ率が上回っている可能性は高いと判断できても、大手企業を対象とする春闘賃上げ率とは格差が大きいのは明らかである。いずれにしても2%程度の賃金上昇では今後、為替レートが大幅に円高に振れ、最近の3%台から物価上昇率が急降下しない限り、23年度の実質所得は2年連続で前年度を下回ることになる。つまり、賃金の状況から消費の拡大は見込めず、23年度の日本経済は世界経済の成長に期待するしかない。
一方、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が23年度の最低賃金の目安を全国平均で時給1002円、現在の961円から41円、4.3%増にすると決めた。10月から最低賃金が上がる見通しだが、地方で賃上げに結び付く効果が期待できる程度でしかない。所定内給与額の上昇率でみたように、すでに大都市部ではパート不足から賃上げが進んでおり、全体として所得拡大効果は小さい。
今春闘の賃上げ率はマスコミが騒ぐほどの上昇率にならなかったが、企業が人材確保のために賃上げが必要と考える契機になったのは明るい材料といえる。この雰囲気が後2、3年も続けば、労働者の所得が安定的に増加すると期待できる。ただし、その原資確保のためか、国際商品市況が下降速度は穏やかでもピークを打ち、為替レートの円安も天井が見えてきているにも関わらず、企業の値上げ意欲が依然として強い。これでは賃上げで収入が増えても、物価上昇で相殺され、経済成長には貢献しない。企業が人件費をはじめコストアップを吸収し、価格を引き上げない努力が今後の課題になる。
JUGEMテーマ:経済全般
内閣府発表の2023年1〜3月期2次速報値の実質GDP(2015年価格)は551.0兆円、前期比で0.2%増と、1次速報値の0.1%増を0.1ポイント上回った。これでもコロナ前に記録した過去ピークの19年7?9月期の557.4兆円を1.1%下回り、日本は世界的に見てコロナ禍からの回復の遅れが目立っている。 実質GDPの産業別構成比は第3産業が7割強と大多数を占め、製造業は2割強、その他は建設業、農業、鉱業などである。第3次産業が受けたコロナ過の影響とその後の回復動向から、第3次産業主導の日本経済の成長可能性を考える。
第3次産業活動指数総合(2015年=100、季節調整値)の過去ピークは実質GDPのピーク時の19年9月106.4である。その後は基調として下降傾向を辿り、ボトムは20年5月の86.7、ピーク時の18.6%減になる。ちなみに、実質GDPのボトムも20年4〜6月期になる。最近時のピークは23年2月の101.3、19年9月の先行ピーク比4.8%減になり、4月は101.0、同5.1%減で、先行ピークの回復までにはまだ時間が掛かりそうである。比重の高い第3次産業が先行ピークを回復しなければ、実質GDPも回復は困難である。
業種が多様で数の多い第3次産業から、比重の高い卸売業(第3次産業活動指数に占める割合13.5%)と小売業(同11.8%)、情報通信革命で成長産業の情報通信業(同9.5%)と、情報通信業の中でも経済産業省が進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)を担う情報サービス業(同4.1%)、コロナ過の影響の大きかった鉄道業(同1.8%)、飲食店、飲食サービス業(同4.1%)、そしてコロナ対策を担った医療業(同8.9%)の7業種の動向を取り上げる。
卸売業は先行ピークの19年9月でも106.2、つまり基準年の15年から4年ほど経ったピーク時でも6%ほどしか成長していない。翌月の10月には100を下回り、ほとんどゼロ成長であり、コロナによる不況の深化によって最悪期の21年1月には70.8まで急速に減少している。その後は持ち直しても、最近時で最高値になる23年4月で92.0、先行ピーク比13.4%減である。情報通信革新によって流通の中抜きが進み、流通構造変化から業界全体として衰退業種になっていると判断できる。
小売業は消費者の所得が伸びない中でコロナによって外出が制限され、コロナの影響の大きい業種の一つになる。それでも生活するために必要な財・サービスは購入する必要があり、先行ピークの19年9月の111.8から一進一退で減少してきた。加えて、外国人観光客によるインバウンド需要の激減もあって、ボトムは最近の23年1、2月の84.3になり、ピーク時比24.6%減である。その後はコロナ対策の規制緩和効果で4月は86.7、同22.5%減と回復は初期段階でしかない。
情報通信業は成長業種であってもTV、新聞、雑誌などの衰退産業も含まれ、全体では先行ピークが19年9月の107.7と成長産業と期待されているほど高くはない。ただし、20年5月に99.5で一度だけ100下回っただけで、その後は100を上回って穏やかだが一進一退で回復、成長軌道で推移している。個人の携帯電話需要は一巡しているが、企業が競争力を強化するためのIT関連投資が下支えしてきたと推測でき、23年4月は過去ピークを上回る109.5である。
情報サービス業は先行ピークが19年8月の109.1と高くはないが、ボトムは20年12月の101.0で100水準を下回った月はない。その後の回復、成長力は比較的高く、23年4月は126.7まで成長し、先行ピークを16.1%上回っている。産業界でDXが意識され、今後も成長が見込まれるが、人材が課題になる。
鉄道業は19年9月の111.7が先行ピークになり、外出規制の影響で20年3月から急減し、ボトムは20年5月の56.5にとどまり、先行ピークからほぼ半減である。50台は前月4月の59.1の2か月だけだが、その後も70、80台で低迷し、23年2月に90台まで戻したが、4月でも92.0、先行ピーク比17.6%減と低水準である。リモートワークの影響がまだ残っており、今後どうなるかは不明で、期待はインバウンド需要になる。
飲食店、飲食サービス業は鉄道業よりも厳しく、先行ピークの19年9月でも101.8でしかなく、ほとんどゼロ成長状態の推移であったところにコロナによる外出規制が加わった。結果、ボトムの20年4月にはピーク時の半分以下の41.7にまで急落し、6月には70台に戻した。その後はほぼ60〜80台の推移で、23年2月には90.1とコロナの影響がほとんど無かった20年2月の98.8の8.2%減まで回復したが、3月83.4、4月81.9と再び80台に低下し、本格的な回復にはまだ時間が掛かりそうである。
一方、医療業は景気の影響をほとんど受けず、19年7月の112.1が先行ピークである。コロナ禍初期の20年4月97.5、5月93.8の2か月は医療を控えたためか90台に減少し、その後は22年12月まではほぼ100台後半から110台の推移で、23年に入って上昇し、120台推移している。コロナ感染が減少し、それまで控えていた医療が増えたためと考えられる。この推移から見れば、もともと高齢化で医療は増加基調にあり、全体としてはコロナによる影響は小さいといえる。
日本経済全体の7割強を占める第3次産業が成長しなければ日本経済の発展可能性は低く、第3次産業の成長性が乏しいことが日本経済の低迷、そしてコロナ禍からの脱却を遅らせていると言える。ただし、比重の高い小売業や飲食店、飲食サービス業は個人消費の影響を受け、個人消費は可処分所得に制約されていることから考えれば、インバウンド需要以外は両業種が牽引する経済成長は期待し難い。また、インバウンド需要が為替レートの円安による低価格効果であれば、生産性は高まらない。生産性が低い状態での成長は先進国経済ではない。
これから考えれば、技術革新の中心にあって成長が期待されながら、これまでの情報サービス業を含めて情報通信業の成長性の低さが日本経済低迷の主要要因の一つになる。情報通信業は需要企業・業種の効率化、生産性を向上させて発展させる効果があり、かつ、輸出業種でもあり、日本経済を牽引する業種になり得る。
しかし、現状はマイナンバー制度の混乱で明らかなように、日本の技術レベルは低い。全体のシステム設計能力が劣っているためと推測できるが、単にIT人材の数を増やすのではなく、使い易くて効率的なシステムを構築する優秀な人材育成、そして国内で不足していれば海外からの導入が必要になる。その場合、海外人材に対しては日本の魅力度が問われる。
JUGEMテーマ:経済全般
ドイツ連邦統計局は5月25日、2023年1〜3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.3%減と発表した。22年10〜12月期の同0・5%減から2期連続のマイナス成長になり、同国の2四半期連続でマイナスになるとテクニカル・リセッションの景気後退として判断されることから、先進諸国の中で最初の景気後退公表国になった。
欧米は物価上昇対策から金融引締政策を強化してきた影響が顕在化し、景気後退に陥っても不思議ではない。特に、ドイツはエネルギーをこれまでパイプラインで安いロシアの天然ガスを輸入していたが、ロシアのウクライナ侵攻によって高価なLNG(液化天然ガス)への転換を余儀なくされた影響を受けている。エネルギーや石油化学原料のコスト上昇による企業収益の悪化や、物価上昇による消費抑制を通して景気を冷え込ませるため、景気後退入りが早くても不思議ではない。
欧米は22年に金融政策を引き締めに転換したが、当初は景気への影響は軽微にとどまり、徐々に景気への影響が現れる。これまで景気が頭打ち傾向になって物価が明確に安定に向かうのは23年後半以降という見方が多く、景気後退入りの議論までには至っていない。しかし、EU経済の中核であるドイツが景気後退入りしたことは、これから他のEU諸国の多くが続いて景気後退に陥ると予測できる。
経済予測に関しては希望を込めたものも多く、楽観的になる傾向にある。つまり、専門家の意見も正確性に欠け、各国の実態は分かり難いため、日本の輸出から世界経済を考える。日本の輸出は一般的に貿易統計の名目の輸出額が取り上げられるが、最近のように価格が大きく変化すると判断を誤る。実質ベースの輸出数量指数を使う必要がある。
その前に、名目の日本の輸出額を四半期ベースでみると、世界的に経済へのコロナの影響が最も大きかった20年中は前年水準を下回る推移だった。その後、21、22年は回復基調になり、23年1〜3月期も伸び率は縮小しても前年同期比4.8%増とプラス成長である。4月(速報値、以下同じ)も前年同月比2.6%増と前年を上回っている。この推移からは、世界経済は成長率が低下傾向になっていても、悪化とまでは言えないと思える。
ところが、2015年を100とする世界輸出数量指数では、前年同期比で20年の落ち込みから回復してきたのは21年7〜9月期までで、その後は回復が頭打ちになり、22年中はほぼ横這い基調である。そして、23年1〜3月期は同8.8%減の顕著な減少で、4月も前年同月比6.2%減で、輸出額とは乖離している。輸出額は円安と海外での物価高による水膨れ分がある。それが取り除かれる数量指数では、輸出環境を表す世界経済は頭打ちから下降に向かっていると推測できる。
ただし、地域・国別では格差は大きい。先行して景気後退になったドイツを含むEU輸出数量指数は21年1〜3月期までの前年同期比マイナスから、4〜6月期、7〜9月期は同2桁台の大幅な伸びで、その後は22年10〜12月期まで5四半期連続で1桁台でも比較的高い伸びを維持していた。しかし、23年にはいると1〜3月期同5.9%減、4月2.5%減と水面下に沈み、発表されたドイツの実質GDPの動向を反映している。
また、米国輸出数量指数は21年4〜6月期の1四半期だけ突出した伸びになり、その後は22年10〜12月期までの6四半期は基調としては前年水準を上回っている。ただし、EU輸出数量指数の伸びを下回る推移で、単純平均で3%台の伸び率である。そして、23年1〜3月期前年同期比5.0%減、4月前年同月比5.6%減とEUと同様に水面下に沈んでいる。
EUと米の推移は比較的似ているのに対し、中国は異なり、中国輸出数量指数は21年10〜12月期から先行して前年水準を下回った。コロナ対策で独自の強力な封じ込め政策を行った影響で、世界の中で中国経済は回復が遅れたからである。その後は前年同期比で減少幅が拡大傾向になり、23年1〜3月期には25.6%減まで落ち込んでいる。4月はコロナ対策が緩和された効果で、前年同月比10.0%減と減少幅は縮小しており、前年水準が低かったことから増加に転じると期待はできる。ただ、景気回復力が弱いため、大幅な増加は期待し難い。
アジア輸出数量指数には中国輸出数量指数が含まれ、指数の基準年2015年の実績で、中国はアジアの約3分の1も占めている。このため、中国が減少した影響は大きく、中国輸出数量指数が前年同期比で減少し始めた21年10〜12月期の翌四半期、22年1〜3月期からアジア輸出数量指数は減少になった。しかし、中国の比重と減少幅から計算すると、22年7〜9月期までは中国を除くアジア地域への輸出数量指数は前年水準を上回る。
しかし、22年10〜12月期からは中国を除くアジア地域も輸出数量指数は減少になる。23年4月は中国数量輸出指数の前年同月比10.0%減に対し、アジア輸出数量指数は同12.9%減と中国を上回る減少で、中国以外の地域への輸出が急速に減少している。EUや米国の景気の悪化の影響がアジアの景気に波及し、日本のアジア輸出にも及んできたと推測できる。これから考えれば、コロナ対策の緩和で中国輸出数量指数が増加に転じても、伸び率が2桁台の大幅増にならなければ、アジア輸出数量指数は減少傾向が続くことになる。
米国はいつ金利引き上げを止めるかを検討する段階だが、EUは米国より遅れる可能性が高く、景気刺激のために金利引き下げに転換するのは24年になる見通しである。この状況から考えれば、日本の輸出数量指数が底入れして本格的に回復に向かうのは、23年度内は期待し難い。
一方、輸出数量指数は23年1〜3月期には前年水準を下回ったが、内閣府が発表した同期の一次速報値の実質GDPは、原数値の実質輸出は前年同期比1.6%増とプラス成長になっている。同期の輸出26.8兆円の内訳は財貨21.2兆円、同3.5%減、サービス5.6兆円、25.3%増である。輸出数量指数に対応する財貨は減少しているのに対し、財貨の4分の1程度のサービスが大幅に増加し、サービス主導による増加である。
サービスはコロナ対策による入国規制で、ゼロ近くにまで激減していた外国人観光客が23年1月から入国規制が緩和され、23年に入って急増した効果である。今後も増加が期待できるが、すでに過去ピークの19年1〜3月期実績の6割まで回復していることから考えれば、今後は増加テンポの減速が予想される。
EUや米国の経済はドイツに続く形で悪化し、その影響は輸出に依存するアジア経済は、中国を除いて両地域・国の後を追う形になると予想される。中国経済は持ち直しが見込めるが、それだけでは牽引力は弱いため、日本も後追いでもEUや米国と同調した経済になるのは避けられない。ただし、今回のコロナによる変化で季節調整値も変調するため、景気のピーク判定は困難と予想され、海外ではドイツのように景気後退が判断されても日本は不透明のままの可能性もある。
JUGEMテーマ:経済全般
]]>
前回のこの経済レポートでも取り上げたように、今年度の賃上げ率を5%台と発表する大手の好収益企業が目立っている。また、厚生労働省と文部科学省が2月1日現在の状況を取りまとめた今年の大学等卒業予定者の就職内定状況は、大学生の就職内定率は90.9%(前年同期差+1.2ポイント)と高くなった。かつ、来年度の採用予定を今年度より増やすと回答する企業が多いという民間調査もあり、企業は積極的な経営に乗り出しているように見える。
そうであれば、企業は人員の充実だけでなく、民間設備投資も拡大が期待できることになる。しかし、内閣府の「機械受注統計」では当面、民間設備投資の回復は期待し難い。民間設備投資の2四半期(半年)程度の先行指標になる機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整値の月額で、コロナ禍前の先行ピークは2018年7~9月期の9,105億円だった。その後、20年4〜6月期の7,501億円をボトムに徐々に回復し、22年4〜6月期に先行ピークを1.6%上回る9,247億円まで戻したが、10〜12月期は8,676億円まで減少した。23年は2月までの発表だが1〜2月平均で9,088億円である。
1〜2月平均が先行ピーク近くまで再度回復しているのは明るい材料と言うこともできるが、この間の物価上昇を考慮する必要がある。18年7~9月期から22年10〜12月期間の民間設備投資のデフレータ上昇率は7.6%増であり、当然、機械受注の価格とは異なるが、実質ベースではまだ先行ピークを大きく下回っていると判断できる。ちなみに、実質民間設備投資(季調値)のピークは19年7〜9月期の93.4兆円、その後のボトムは20年7〜9月期の84.3兆円になり、22年10〜12月期はピークを4.0%下回る89.7兆円である。 これまでの民間設備投資の回復力は弱く、機械受注の動向からは少なくとも今年度上期は期待し難い。
一方、大学等卒業予定者の就職内定増だけでなく、厚生労働省「一般職業紹介状況」の有効求人倍率(季調値)では、パートタイムを除く一般で20年11月以降は1を超え、つまり求人数が求職者数を上回っている。さらに、パートタイムを含む一般では13年11月以降、10年近く1を超え、雇用の非正規化を反映してパート需要は増えている。ただし、パートタイムを除く一般も20年の8月1.00、9月0.99、10月0.99の3か月間を除けば、14年12月から1を超えている。
それだけ長期に亘って人手不足状況が続いていることになるが、需要が伸びて人手不足になって求人を伸ばしているのであれば、設備投資は増加すると考えられる。この設備投資と人手不足との矛盾は、退職者が多いと考えれば、理解できる。
最近、新入社員が定着しないという企業が増え、特に新卒にその傾向がある。企業は早期退職を見込んで採用計画を立てると推測すれば、大学等卒業予定者の就職内定を必要な採用数よりも増やす傾向になると考えられる。また、今春闘で大学新卒初任給の賃上げが目立っているが、理由が単に他社に流出しないように引き留める目的であれば、日本経済にとって明るい材料と評価はできない。
当然、時間給にそれほど差が無いパートは定着率がより悪くても不思議ではない。結果、常に人手不足状況で、有効求人倍率は高止まり状態になる。日本経済との関係でみれば、労働需給の有効求人倍率ではなく、民間設備投資の先行指標になる機械受注の方が実態を反映している。これで判断すれば、日本経済はコロナ禍から脱しつつあるが、脱却までにはまだ時間が掛かる見通しになる。
もともと、民間設備投資は景気に対して先行と遅効の両方の性格がある。設備は懐妊期間があるため、先行き需要が回復して増加が見込めるとなれば、市場を確保するためには他社に先駆けて先行投資し、供給力の拡大を図る必要がある。これは懐妊期間の長い重厚長大産業では重要になる。しかし、日本の現状は国内で重厚長大産業の成長は見込めず、この傾向は弱まっている。それでも、懐妊期間は短くても成長産業には先行投資が必要であることに変わりはない。
最近は、積極的に先行投資する意欲が見られないのは、長期的に日本経済が低迷しているためである。需要が増えれば、当初は操業の工夫や稼働率を上げる操業時間の延長などで供給増を図るが、それで対応できなくなればようやく設備増強に乗り出す。つまり、需要の後追い的な設備投資になる。これでは需要増に見合う程度の設備投資しか行われず、予想が外れて過剰設備を抱え、海外市場も含めて市場開拓に努力する事態には至らない。結果として設備投資の経済牽引力は弱くなり、経済成長率も低くなる。
GDPに対する民間設備投資の比率は実質ベースで1993年以降、14%台の中ばから16%台半ばの2%程度の間で推移している。名目ベースでもほぼ同様で、物価が安定していたため、実質と名目間の解離は小さい。この間がいわゆる日本経済の失われた30年間になる。ちなみに、この間の実質GDP成長率は10年度の3.3%増が最大で、それもリーマンショック後の08、09年度の2年連続マイナス成長後の回復期で、一時的現象で終わった。
第二次安倍政権が成立した2012年11月以降では、13年の実質GDP成長率2.7%増が最大になり、この時は14年4月1日からの消費税5%から8%への引き上げに対して、駆け込み需要が発生した効果である。この反動で14年度は0.4%減のマイナス成長に落ち込んでいる。ちなみに、13、14年度の実質ベースの民間設備投資の対GDP比は15.4%、15.9%であり、特に高まってはいなかった。
近年で実質ベースの民間設備投資の対GDP比が高かったのは88〜92年度で、この5年間の推移は17.4%、18.1%、19.1%、18.8%、17.4%である。また、実質GDP成長率は6.2%増、4.0%増、5.6%増、2.5%増、0.6%増となっており、当時のバブル効果による高成長が実現し、民間設備投資が盛り上がったが、GDP成長率の推移でみれば90年度で終わっていた。
ただし、民間設備投資はGDPに遅行し、この間の積極的な設備投資がその後の過剰整備になった。その処理に長年苦しんだ経験が長期に亘る低金利下でも、今日まで投資に慎重にさせる要因の一つになったと推測できる。マスコミ報道はアベノミクスを持ち上げたが、企業はそれほど踊らず、慎重な設備投資行動を堅持していた。この構造を転換するには最大需要項目の個人消費の回復が必要だが、賃上げがマスコミが騒ぐように高くなれば可能性はあるが、6月頃の賃金統計の発表を待たなければ判断できない。
JUGEMテーマ:経済全般
マスコミを通して今年の春闘発表を見ると、賃上げ率は5%を超える高い数字が続いている。採用競争で優位に立ち、かつ企業イメージの向上のために、賃金を引き上げる能力のある企業は、マスコミに取り上げられるように競って先行して発表するのは当然である。企業によっては組合の要求を上回っているところもある。これで現実に全体平均で高い賃上げが実現すれば良いが、そのような企業は一部でしかない。初期のマスコミ発表だけでは評価を誤り、日本経済の見通しを過大評価することになる。
賃上げできない、または低額の賃上げしかできない企業は注目されないように発表するが、高い賃上げを求める時代には低いのは無視する。発表時期も組合との交渉が難航するため遅くなる。結局、賃上げ原資になる全体の収益が問題で、財務省「四半期別法人企業統計調査」(金融業、保険業を除く)の収益状況から今回の賃上げを予想する。この調査は出資金または基金1,000万円以上の営利法人等を調査対象としおり、1,000万円未満は含まれないことに留意する必要がある。
前年同期比(以下同じ)で、売上高は2019年年度に入って4〜6月期から製造業が先行して減少になり、非製造業は7〜9月期から、また資本金規模別では資本金10億円以上の大企業が4〜6月期から、同1億〜10億円と同1,000万〜1億円(以下、資本金、同は省略)は7〜9月期から減少になった。これはコロナに関係なく、景気がピークを打って下降に転じたためである。ただし、業種間では当然、解離は大きい。そして、売上高が回復したのはコロナ対策が始まった後の21年4〜6月期からになり、これは製造業、非製造業、企業規模に関係なく一斉である。
この回復基調は22年10〜12月期までほぼ同様で、10〜12月期は全産業6.1%増、製造業9.2%増、非製造業4.9%増、10億円以上7.9%増、1億〜10億円5.6%増、1,000万〜1億円4.6%増と陰りは見えない。ただし、価格が上昇していることを考慮すれば、伸び率が1桁台の低い方は数量ベースでは前年比横這い、さらには減少のところもあると推測できる。
一方、経常利益はコロナ前から景気が後退期に入っていたため、製造業、非製造業共に19年4〜6月期から20年10〜12月期まで減益基調だったが、売上高よりも1四半期早く21年1〜3月期から回復基調に転じた。その後は製造業、非製造業共に増益を続け、22年10〜12月期に製造業が15.7%減の減益になり、非製造業は5.2%増の増益を維持したが、全産業では2.8%減と微減でも減益になった。
22年10〜12月期の資本金規模別では10億円以上はまだ6.4%増の増益だが、1億〜10億円2.9%減、1,000万〜1億円18.0%減と、中小企業の減益が顕著である。ただし、10億円以上はまだ増益といっても、前7〜9月期までは悪くても20%近い伸びであったことから考えると、増益でも23年1〜3月期以降の先行きは不透明といえる。
22年10〜12月期に減益になった製造業を主要業種で見ると、石油・石炭は赤字で、情報通信機械(34.4%減)、化学(26.9%減)、食料品(24.8%減)の3業種が減益で、かつ大幅減益になった。
石油・石炭や化学は原油価格高騰の恩恵を受けていたが、原油価格の値下がりで収益が急変したためで、前7〜9月期から減益になった。当面、両業種は厳しい状況が続きそうである。また、情報通信機械は前期は増益だったが、IT需要の景況悪化に急変した影響を受けた。IT業界はしばらく不況期になる予測で、情報通信機械の状況も同様になると考えられる。
一方、食料品は4〜6月期から3四半期連続の減益だが、4〜6月期、7〜9月期は1桁台の減益で、10〜12月期は減益幅が急拡大した。国際商品市況の上昇は頭を打って下落に転じているが、為替レートの円安で上昇した原材料価格の製品転化が遅れ、減益幅の急拡大になった。
この大幅減益で食料品業界は昨秋頃から大幅な食料品価格の値上げを相次いで打ち出しているが、消費者の抵抗が強いため、食料品業界の希望通りは難しい。また国際商品市況は世界経済から見れば、今後も穏やかでも値下がり、為替レートの円安傾向は欧米の金融問題で止まり、今後は円高基調であっても、着実に円高が進むところまでは見込めない。ただ、消費者の抵抗が強い一方、企業は値上げせざるを得ない状況で、部分的になっても値上げが浸透しつつある。結果として、10〜12月期か次の1〜3月期が経常収益の最悪期になるのではないか。
これらの4業種に対して、生産用機械、業務用機械、輸送用機械の10〜12月期は20%台の高い伸びで、いずれも輸出産業であり、円安効果による増益である。ただし、数量的には輸出は頭打ち傾向になっており、今後は世界経済から判断すれば減少になり、経常利益は頭打ちから減益に向かうと予測できる。
10億円以上が10〜12月期に増益になっているのは、これらの大手機械メーカーや非製造業の大企業に依ると推測できる。高い賃上げ率を発表しているのはこれらの大手企業だが、足下の景況はピークを越えつつある、または越えてはいても高い賃上げを行える余裕があるのだろう。もし、予想以上に収益が悪化しても、春闘時にボーナスを決めていない企業は、ボーナスの減額で対応できる。
問題は従業員の約7を占める中小零細企業で、1,000万〜1億円の企業は既に2割近い減益になり、小規模企業ほど減益になっていることから推測すると、1,000万円以下の中小零細企業はより厳しいことになる。ここでは大手の5%賃上げは夢のまた夢でしかない。機械産業の大手の高い賃上げ額は下請を踏み台にしているのが実態である。
JUGEMテーマ:ビジネス
2023年1月の消費者物価(総合)が前年同月比4.3%増と、22年12月の同4.0%増に続いて2か月連続の4%台の上昇率になった。天候要因も加わってまだ上昇に歯止めが掛からない状態だが、為替レートが再び大幅な円安にならない限り、国際商品市況から見れば消費者物価上昇率は2月かそうでなくても近い。
ただし、消費者物価上昇率が急速に減速することは予測し難く、消費者物価の上昇は23年度の経済成長の大きなマイナス要因になる。世界的な金融引き締めで世界経済の成長が頭打ち傾向にあり、輸出には23年度の日本経済の牽引役を見込めない状況にある。このため、景気を下支えできる春闘賃上げの実現に期待が高まり、政府はもちろん財界も春闘の賃上げを支援する発言をしている。それでも、日本経済、企業の現状からは消費者物価上昇を上回る5%台はもちろん、4%台でなくても3%台にでも乗れば、労働者側にとっては大成功になるが、一部企業は別として全体平均では厳しい。
昨年末以降、マスコミは賃上げに積極的や大卒初任給の大幅引き上げ発表の企業を取り上げ、今春闘の賃上げに期待を持たせる雰囲気を醸成している。しかし、現実には企業の賃上げ発言は採用困難な一部の人材不足職種に留まり、また新入社員の初任給が大幅に引き上げられれば、それに伴って若い社員の賃金引き上げには影響しても、数の多い中高年の社員にまでは波及しない可能性が高い。
むしろ、一部職種の社員や新人を中心に若手社員の賃金引き上げのしわ寄せで、数の多い中高年社員の賃上げは抑制されると推測される。企業のイメージアップから賃金引き上げの発表はしても、全体平均の引き上げ率を発表する企業は例外的である。また、発表する企業はほとんど大企業で、マスコミは日本の雇用全体の約7割を占める中小企業に関心を向けていない。中小企業の賃上げがなければ、民間最終消費、GDPを引き上げる効果は小さい。
長期的に低賃上げが続き、国民の関心が薄れた結果、最近はあまり取り上げられないが、春闘賃上げ率は消費者物価上昇率、有効求人倍率、企業収益の3要因で説明される。物価は上昇し、求人倍率は1を上回る人手不足状態、企業収益は増益を続け、いずれも賃上げの引き上げ要因になる。ただし、企業収益は円安が止まり、輸出数量が頭打ちになっているため、輸出企業の先行きは厳しくなっている。同様に、原材料を輸入する素材産業は、国際商品市況上昇期には市況上昇前に輸入した原材料で製造した製品価格の値上がりで在庫の評価益が生まれるが、最近のように市況下降期は逆転して評価損が生じる。
いずれも企業収益はピークを過ぎ、外国人観光客のインバウンド需要が見込める企業は別として、23年度は減益を見込む企業が多いと推測でき、これが抑制要因になる。賃上げしたいと発言する企業経営者は少なくないようだが、23年の賃上げ率は22年を上回るのは確実といえても、3%台以上の賃上げ率は予想し難い。
3つの賃上げ要因では労働者側に有利な状況下にあり、収益見通しが少し厳しくなるなかで、労働者側がどこまで努力するかが問われる。それを最近の労働争議の件数・参加人員からみると、日本は諸外国に比べて労働運動の盛り上がりに欠け、賃上げを押し上げる交渉力は見込めない。
独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2022」で国際比較すると、雇用者の労働組合への参加割合、労働者組織率は21年で日本の17.1%に対し、米国は10.8%と低いが、英国は23.7%と高い国もあり、日本は特に高いとも低いともいえない。ただし、長期的には日本も含めて先進国は低下傾向にある。日本の組織率の低下要因として産業構造の変化によるサービス産業雇用者増と、それに雇用政策の転換の影響も加わって非正規雇用者の比率拡大が挙げられるが、これは各国共通と推測できる。
一方、労働争議(図では見やすいように日本を含めて4カ国だけ取り上げている)は年によって変動が大きい。このため、15〜20年の6カ年平均(米国と英国は15〜19年の5カ年平均)で日本は33件で、米国の16件に次いで少ない。英国98件、韓国118件と比較すれば格差は大きく、米国は低組織率を理由として考えられるが、争議対象を日本が「半日以上のスト(同盟罷業)としているのに対し、米国は「1日に満たない争議を除き」と1日以上に制約している定義格差もあり、必ずしも米国が日本より少ないとは言えない。ちなみに、6カ年平均で1,259件と突出して多いため、図に入れなかったドイツもある。
また、国間格差は参加人員でより大きくなる。同様の期間平均で日本の5千人に対し、英国69千人、韓国103千人、そして件数の少ない米国218千人である。ちなみに、件数の多いドイツは236千人である。
図の注で示しているように国によって定義が異なるが、それを考慮しても、日本は世界で労働争議、平均参加人員は少なく、争議の規模も小さい。もちろん、労働争議の原因は賃金だけではないが、諸外国に比べて労働争議が起こらないのは、少なくとも賃金への不満はあまりないと推測することはできる。
しかし、現実には低賃金のため結婚もできない、また結婚しても子供を育てられないという声が多く、低賃金に不満を持っている人は少なくない。また、出産対策から賃上げを求める意見もある。
賃上げ率は厚生労働者の民間主要企業ベースで、最近20年ほどの推移は14年にそれまでの1%台から2.19%と13年振りに2%台に乗り、その後、21年に再び1.86%と8年振りに2%を下回った。22年は2.20%と2%台に戻したが、この間には消費税が14年4月に5%から8%に、さらに19年10月には10%に引き上げられた。加えて、社会保険料の負担増があり、これまでの2%前後の賃上げでは手取り収入はほとんど増えず、労働者が賃金に満足して労働争議に至らなかったとは考えられない。
賃上げが低い理由として、企業が収益増を基本給の引き上げでなく、一時金、ボーナスに反映させる傾向にある。それに対し、労働者が争議によってでも賃金を上げる意識に乏しい結果、これまでの賃上げは底這いで推移してきた。また、これは主要企業の統計であり、中小零細企業はこれより低い。
極一部の労働組合を除いて闘争を放棄してきた状態から、消費者物価上昇で生活が苦しくなっても、急に労働争議してでも賃上げを求めるようになるとは思えない。一方、企業、特に雇用者の大半を占める中小企業は賃上げ原資が不足していれば、従業員の生活苦を理解して賃上げしたくてもできない。民間主要企業ベースで3%台の賃上げでも1994年の3.13%以来の約30年振りになり、ましてや4%、さらには5%台の賃上げはそれこそ異次元の賃上げになる。
JUGEMテーマ:経済全般
2019年の出生数が87万人と90万人を下回ったことで、出生数に注目が集まったのを受けて、20年9月1日付のこの経済レポートで少子化問題を取り上げた。関連資料を見れば誰でも懸念するように、出生数は減少の一途である。22年の実績はまだ不明だが、80万人を下回るのは確実になり、77万人程度と見込まれている。この間のコロナの影響に関しては、妊娠期間を考慮すれば20年は影響が少ないと推測できる。19、20年までの推移と比較して、21年実績、22年見込みの出生数の減少が特に悪化したわけではない。今後の出生数に関しても人口の年齢別構成の影響が大きく、これを認識しなければ少子化対策を誤ることなることになる。
労働力確保や日本経済を再生するため、深刻化する少子化問題に対して岸田首相は最初「異次元の少子化対策」、その後の施政方針演説では「次元の異なる少子化対策」に取り組むとしている。いずれにしても言葉より対策の内容が問題だが、人口の年齢別構成を踏まえていないため、効果的な施策は期待できない。
出生数に関しては、女性の年齢別出生率を合計した一生の間に生むとしたときの子どもの数の合計特殊出生率がよく使われる。合計特殊出生率は20年9月1日のレポートで書いたように、05年の1.26を底に15年の1.45まで回復傾向にあったが、これをピークに21年は1.30まで再下降している。
基本的に出生数は減少傾向にあり、その要因は女性の進学率、就業率の上昇に伴う晩婚化、未婚化の進展に加え、最近は非正規雇用の増加、雇用の不安定化、また所得の頭打ち、さらには減少にあることは一般的に認識されている。年齢別人口当たり出生数(年齢階級別出生率)の推移は、ピークが晩婚化に伴って1970年代頃の20歳代中頃から高齢化が進み、最近では30歳前後になっている。それだけでは長期的な出生数の減少傾向は分かっても、最近の出生数の減少が加速気味になっている理由は理解できない。
その理由として、5歳年齢別の人口当たり出生数と年齢別人口構成の変化が挙げられる。人口当たり出生数は5年間隔で、晩婚化で増加傾向の30〜34歳が05年、減少傾向にあったそれまで最大の25〜29歳を抜いた。また、35〜39歳、40〜44歳、45〜49歳の出生率も15年頃まで30〜34歳と同様に増加してきた。ただし、40〜44歳、45〜49歳の人口当たり出生数は少なく、出生率が増えても体力の限界があり、人口増効果は小さい。
合計特殊出生率が回復傾向から減少へと転換年になった15年以降では、20〜24歳は既に低水準になったこともあり、速度は鈍化でも依然として減少を続けている。一方、それまで増加傾向にあった年齢階級はいずれも頭打ち、または微減である。全体としてかつての30〜34歳、35〜39歳のように増加を期待できる年代は見当たらず、晩婚化による出産年齢の高齢化効果は出尽くしたといえる。つまり、ほとんど増加が期待できる年代が無くなり、前回のレポートから20、21年の実績から一段と悪化しているのが明らかになった。
一段と悪化した要因として人口の年齢構成があり、出生数の減少に歯止めが掛からなくなっている。出生数は敗戦直後の47〜49年に生まれた団塊世代と言われる年間268万〜270万人がピークで、その子供世代の団塊ジュニア世代が71〜74年に同200万〜209万人で次のピークになる。団塊ジュニア後は基調として減少傾向で推移し、その傾向が強まって22年見込みで80万人を割り込む結果となった。
この間に合計特殊出生率が05年の1.26から15年の1.45まで回復し、一時的に少子化問題を楽観視させた。2000年代は人口の多い団塊ジュニアが晩婚化によって出産率が高まる30〜34歳、35〜39歳になってきた効果で、出生数が増えて合計特殊出生率も下げ止まり、回復傾向になったのは一時的現象でしかない。
当然、団塊ジュニアが出生率急下降の年代になる40歳代に入れば、その後の年代の人口は減少するため、出生数の下降速度は徐々にでも高まる。団塊ジュニアは20年代には50歳代に移行することから予測すれば、出生数の維持には年齢階級別出生率が横這いや微増では不十分になる。大きく上昇しなければ、23年以降も減り続けるしかないが、大幅上昇は現実には不可能であろう。
ちなみに、21年10月1日の5歳階級別の女性人口のピークは、図のように出生数の少ない45〜49歳の480万人(外国人を含む、日本人だけでは470万人)になる。その下の年齢階級は30〜34歳の320万人(同304万人)まで急速に減少し、25〜29歳からは減少速度は鈍化するが、減っていくことには変わりはない。合計特殊出生率は下降に歯止めが掛からない状況から予測すれば、出生数減が加速する可能性が高い。
これを岸田首相がどこまで認識しているかは分からないが、異次元の少子化対策が必要な状況にある。出生数を増やす具体策は比較的成功しているフランスを参考にできるが、いずれにしても財政支出の拡大が必要になる。それを消費税の増税で賄うのであれば、所得、可処分所得の減少が少子化要因でもあり、政策が矛盾になる。財政に負担をかけない政策としては、例えば、効果はそれほど見込めないが、婚姻の増加要因にはなる選択的夫婦別姓制度がある。これは岸田首相が自民党内の反対者を説得すれば可能で、これぐらいは直ぐにでも取り組めば、少しは国民が首相の本気度を感じるのではないか。
女性の進学率の上昇、就労化を抑制する政策は不可能であり、財政状況を考慮すれば人口を増やすところまでの少子化対策は期待できない。また、日本の軍事強化にも財源問題があり、どこまで実現するかは別として、軍国化に向けての議論だけで出産促進にはマイナス効果になると考えられる。
また、少子化対策で何年か後に出生数が増加に転じても、労働力になるまでの期間、少なくとも20年間ほどの労働力、日本経済の再活性化をどうするかが課題になる。結局、この間の実効性のある少子化対策としては海外からの労働力の導入しか考えられない。1ドル=100円を大幅に上回る為替レートの円安によって、世界における日本の経済水準は下落一方だが、まだ発展途上国から見れば高い。また、治安や食文化など経済以外の生活環境が評価され、日本での就労希望はまだ多いと思う。それには、日本人と労働条件を同一にすることや日本国籍の取得条件の緩和などが必要になる。日本の経済水準の低下から残された時間はそれほどないため、早急に真剣に取り組むべき課題である。
JUGEMテーマ:経済全般
11月の消費者物価指数上昇率は総合で前年同月比3.8%増になり、10月の同3.7%増(マスコミが取り上げる生鮮食品を除いた総合ではそれぞれ3.7%増、3.6%増)を上回り、上昇に歯止めが掛からないようにみえる。しかし、上昇率は前月を0.1ポイント上回っただけで、10月までの上昇率の速度と比較すれば頭打ち傾向である。ようやく今回の物価上昇はピークを過ぎつつあると判断でき、その低下速度が今後の問題になる。
2022年8月までの統計データを使って説明した10月1日付けのこの経済レポートで、ドル価格の国際商品市況はピークが過ぎ、消費者物価の上昇は為替レートの動向次第と指摘した。その後、為替レートは円安が加速したが、10月21日の1ドル=151円を円安のピークとして、140円台へと円高に転じた。そして、12月13・14日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、それまでの0.75%の利上げが続くとみられていたのが、0.5%に引き上げ幅が抑えられた。それが事前に予想されたため、為替レートはFOMCの開催に先んじて11月中旬以降、円高傾向が強まった。
加えて、日本銀行は12月20日、金融政策決定会合を開き、長期金利の上限をそれまでの0.25%程度から0.5%程度へと引き上げた。これで黒田東彦総裁による2013年からの異次元の金融緩和が終焉し、日本も世界的にインフレ対策で進められている金融引き締め政策への転換を余儀なくされた。これによって130円台へと円高が一段と進んでいる。
ただし、日本銀行資料の中心相場でみれば、8月135.4円、9月143.1円、10月147.0円、11月142.4円であり、月平均で円高になったのは11月からになる。また、円高といっても大幅な円安水準からであり、今年の3月までの為替レートが110円台の推移であったことを考えれば、円高と評価はできない。8月からの前年同月比では23.1%増、29.9%増、30.0%増、24.8%増であり、11月でも大幅な円安水準になる。
日本銀行「輸入物価指数」の契約通貨ベースは前年同月比で5月27.7%増、6月27.6%増、7月26.3%増、8月22.0%増、9月21.6%増、10月16.4%増、11月8.6%増、と、国際商品市況の値下がりを受けて8月から上昇率の縮小傾向が顕著になっている。一方、為替レートの影響を受ける円ベースは10月までの円安で、この間の同上昇率は44.9%増、48.3%増、49.2%増、42.8%増、48.7%増、42.3%増、28.2%増である。
上昇率が明確に縮小したといえるのは、国際商品市況に値下がりに円高効果が加わった11月になる。この円ベースの輸入物価が消費者物価に波及するには時間が掛かるため、消費者物価上昇率は11月か12月がピークになる可能性が高い。しかし、ピーク後に短期間で消費者物価上昇が沈静化に向かうとは期待し難い。
品目別に消費者物価の前年同月比上昇率をみると、大きく3つのグループに分けられ、光熱・水道、生鮮食品が先行して大幅に上昇している。そして、これらよりも遅れて、上昇率は穏やかでもじりじりと食料(生鮮食品を除く、以下、食料は同様)、家具・家事用品、被服及び履物などが追随している。一方、ほとんど上昇していない品目がある。
先行している中で生鮮食品は天候も含めて自然環境変化の影響を受け、従来から上昇と下降を繰り返す特徴がある。今後の天候にも依るが、このサイクルから値下がりの時期に入る。
また、光熱・水道は国際商品市況の下落から比重の大きい原油価格はピークを打ち、既にガソリンは前年同期比で11月に値下がりしている。一方、電力料金は上限を規制され、現状は電力会社が値上げしていても不十分なため、その不足分の値上げがこれから実施される。それに対し、政府は電気代支援策として補助金を出すが、上昇率は低下しても値下がりまでには至らないと推測される。光熱・水道は全体として既に前年水準が上昇していることもあって、これまでの前年比2桁台の上昇から微増程度になると予想される。
これらの価格上昇先行品目だけでは消費者物価上昇は問題にはならなかった。食料は遅れて上昇してきたが、消費者物価指数の22,3%を占める中分類で最大の品目で、消費者物価指数に与える影響は大きい。これが国際商品市況の上昇で年初から上昇傾向になり、春頃から上昇に加速が付いてきた結果、消費者物価指数上昇が深刻化してきた。世界的な金融引き締めで景気は後退に向かい、需要の減少で国際商品市況は全体的に値下がりの方向にある。その中で、ロシアのウクライナ侵攻で穀物価格が値下がり難く、高水準で推移している。加えて、食料関係の商品市況は近年の世界的な異常気象の影響もある。
年明け後に値上げを発表された食料品数は多く、物価上昇の持続、さらには加速の懸念が広がっている。値上げに過去の輸入価格上昇分の販売価格への未転嫁を含めている物も多いと推測でき、値上げ幅が大きくなる見方もある。しかし、国際商品市況の下落と円高に転じた状況を考えれば、値上げの見送りや値上げ幅の圧縮が期待できる。その中で、幅広く使われる輸入小麦は、政府が輸入価格から年2回、4月と10月に価格を決めて製粉業者に売り渡す制度になっているが、物価対策で今年の10月は値上げされなかった。次回の23年4月は値上げする必要がなくなる可能性がある。円高効果を考えれば、食料価格は値下がりしなくても、上昇率は低下になる。
家具・家事用品、被服及び履物などは輸入依存度が高く、為替レートの影響を受け、円安に伴って上昇傾向になってきた。また、家事用品に含まれる電化製品は世界的な需要増で部品不足の発生もあって価格が上昇し、それに円安が加わり、春頃から上昇が加速してきた。これも世界経済の変化による需要減少で部品不足は解消し、国際価格が下落に転じている。価格上昇率は縮小し、為替レート次第だが前年比横這い水準程度までは下がるのではないか。
これまで消費者物価上昇をもたらした品目は、いずれも上昇率を大幅に縮小する見通しになり、これまで価格が安定していた品目の動向が問題になるが、現状で値上げが予定されているのは交通料金程度である。これ以外は賃金が引き上げられて労務コストが上昇しなければ、今後もほぼ横這いの推移が予想される。賃金は春闘の影響が大きく、これから消費者物価の上昇が沈静化していけば、春闘賃上げ率には抑制効果になる。
今後は、米国の金利引き上げ幅の縮小、日銀の異次元金融緩和からの転換に伴って僅かでも金利は上昇傾向になり、急速でなくても為替レートは円高に向かうと予測される。世界的な景気後退で国際商品市況は下落が見込まれるが、消費者物価指数に影響する食料関連の国際商品はロシアのウクライナ侵攻が長引く予想や異常気象の増加を考慮すれば、大幅な下落は期待できない。為替レートが大幅な円高にならなければ、消費者物価指数の短期間での安定化にはならず、上昇率が徐々に低下していく予想になる。その一方で、増え続ける国債残高がどこで円急落をもたらすかが懸念材料になる。
JUGEMテーマ:経済全般