正規の従業者はまだ前年水準を維持する一方、非正規は顕著な減少に
コロナ禍で景気は急降下し、それが労働市場にも波及してきた。現実には就業者数(総務省統計局「労働力調査」)は既に季節調整値で2019年12月の6,765万人をピークに減少に転じていた。また、就業者数の原数値は前年比で20年4月から減少基調に入り、9月は6,689万人、前年同月比79万人、1.2%の減少である。19年5月1日付けのこの経済レポートで労働市場の変化の兆しを指摘したが、それでも労働需給が逼迫し、高齢者雇用の拡大などで人手不足を補っている状況から、変化が一般的には認識されなかった。要因として、コロナ禍の影響が労働市場にも波及してきても、9月の就業者数(季調値)は6,655万人、前月比4万人減、対ピーク比1.6%減に留まり、完全失業率も3.0%とまだ低水準にあることが挙げられる。
最近の雇用の特徴として非正規雇用が増加し、雇用者全体に占める割合が拡大していることはよく知られている。このため、最近の雇用の減少の状況を、役員を除く雇用者の正規(労働力統計では正規の職員・従業員、以下、正規雇用者)と非正規(同非正規の職員・従業員、以下、非正規雇用者)の男女別年齢階級別で、最近時の7〜9月期の雇用動向から雇用削減の特徴をみる。ちなみに、19年の就業者数6,724万人に対し、役員を除く雇用者数(正規雇用者と非正規雇用者の合計)は5,668万人、84%を占めている。また、9月の就業者数の前年同月比79万人減に対し、雇用者数の減少は75万人で95%を占め、7〜9月期ではそれぞれ230万人、236万人で、雇用者の減少幅が就業者数を上回っている。
20年7〜9月期の前年同期比で正規と非正規別にみると、正規雇用者は全体では1.3%増と減少していない。男女別では男性0.4%増とほぼ横ばいに対し、女性3.1%増で、女性の伸びが男性を上回っている。年齢階級別では女性は減少している年齢階級が無いのに対し、男性は図に見られるように2番目に雇用者数の多い35〜44歳の10万人、3.2%の減少が目立っている。
一方、55〜64歳の19万人増、5.4%増と65歳以上7万人増、9.5%増が比較的高い伸びになっている。これは人口構成変化を反映したもので、35〜44歳は人口の多い団塊ジュニアの世代がこの年齢階級を超えるようになってきており、人口が減少している。ちなみに、35〜44歳の7〜9月期の人口(労働力統計)は19年の1,630万人から、20年は1,584万人と1年間で2.8%減となっており、この人口減少を考慮すれば、顕著な減少というほどではない。
これから考えれば、高齢化から65歳以上が増えるのは当然といえる。そのなかで、団塊世代と団塊ジュニア世代に挟まれた55〜64歳は人口の変化が少なく、企業の定年延長で正規雇用者として残った人が多い結果と推測できる。いずれにしても男女ともに正規雇用者は9月までの労働力調査統計では悪化していない。
まだ労働市場の変化の影響が顕在化していない正規雇用者に対して、非正規雇用者の20年7〜9月期の前年同期比は全体で5.6%減、うち男性6.4%減、女性5.3%減といずれも減少で、かつ男性の減少幅が女性を上回っている。正規雇用者は女性の増加率が男性を上回っており、これだけ見れば女性の雇用の方が男性よりもコロナの影響が少ないと思える。しかし、全雇用者数では全体が1.4%減、うち男性1.2%減、女性1.6%減となっており、男性の減少幅の方が小さく、矛盾しているようにみえる。これは19年実績で男性は正規雇用者が非正規雇用者の3.4倍も多いのに対し、女性は正規雇用者が非正規雇用者の79%でしかないため、非正規雇用者の減少の影響が大きくなるためである。
20年7〜9月期の非正規雇用の年齢階級別でみると、男性ではいずれの年齢階級でも減少している中で、55〜64歳が前年同期比11.1%減と唯一2桁台の大幅な減少になっていることが特徴として挙げられる。この年齢階級の正規雇用者は比較的高い伸びをしていたことから推測すると、正規雇用者のままであれば定年延長で勤務を継続しても、非正規雇用者での定年延長では雇用条件が大幅に悪化して退職する人が多くなることは予想できる。減少は6月から顕著になっており、コロナ禍によって労働条件を大幅に切り下げられた影響とみられる。
一方、女性は15〜24歳同15.0%減、25〜34歳同9.8%減など若い年齢階級ほど減少幅が大きいのに対し、65歳以上は同0.5%増と前年水準を維持している。もちろん、高齢者人口が増えている効果は無視できないが、サービス業や小売業など若い女性の非正規雇用雇用が多い職場がコロナ禍の影響を受けているためと考えられる。これはコロナ禍が一巡すれば雇用の回復を期待できても、外国人観光客も含めて需要回復には時間が掛かり、元の水準に戻ることは当面、予測できない。
今回の景気循環で現在は従来と同様に削減しやすい非正規雇用者が先行して雇用調整が始まった段階で、まだ社会全体の雇用不安が生じるところまでには至っていない。社会問題になるかどうかは雇用調整の正規雇用者への波及次第だが、既に正規雇用者の削減計画を公表する企業が出現してきており、実施が本格化するのはこれからになる。結果、正規雇用者の減少が避けられないと予測され、その幅によって深刻度が異なる。
それは今後の景気回復力によるが、一時的には実質GDP成長率が持ち直しても、先行ピークの19年7〜9月期水準にまで戻るのは21年度まで持ち越す可能性が高い。加えて、コロナ後の就労形態の変化が予想され、雇用回復は見通し難く、楽観はできない。また、景気だけでなく、外国人労働力の導入規模がどうなるかの問題もあって単純ではないが、日本人の労働力人口の減少が着実に進むことは確実で、景気回復力が弱くても雇用問題はそれほど深刻にはならないのではないか。それよりも長期的にほぼ横ばい水準で推移し、世界水準でも高くなくなっている賃金の引き上げが重要課題になると考えられる。そして、それは外国人労働力にとって日本で働く魅力にも関係する。
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