スポンサードリンク

実質GDPの需要項目の構成変化からみた安倍政権の経済成長政策の評価

 2012年12月に就任した安倍首相は今年の8月に辞任を表明し、9月に退任した。約7年9か月の長期に亘った政権の評価は各分野で行われている。経済の分野では経済成長率が実質GDP成長率で年率1%程度しかなく、本人がアベノミクス効果を強調している割には成長が伴なっていないことは指摘されている。ここでは実質GDPの需要項目の構成変化から、経済成長政策を評価したい。  安倍政権の意向を受け、異次元の金融緩和でアベノミクスを共に推進してきた黒田東彦氏が13年3月に日本銀行総裁に就任しており、年度ベースでみて13年度から安倍首相の経済政策による日本経済になる。これから12〜19年度の7年間の実質GDP年平均成長率をみると、たった1.0%増にしかならない。これから経済成果を自慢しても、経済成長からみればほとんど効果がなかったといえる。

 その要因をGDPの主要な需要項目の構成比でみると、図にみるように各項目ともにこの間の変化は小さい。その中で、民間最終消費支出の構成比は13年度以降、微減でも着実に下降しているのが特徴といえる。13年度は12年度から横ばいの58.8%だったが、その後は55.5%まで6年間で6ポイントの減少である。

 一方、民間企業設備投資が基調として穏やかでも増加ようにみえる。実質GDPに占める構成比は12年度の14.5%から13年度15.1%、14年度15.6%までは2年間で1.1ポイント増の比較的高い伸びである。しかし、その後は頭打ち傾向で、19年度は16.0%にあり、18年度の16.1%から0.1ポイントの減少である。

 基本的に設備投資は景気、延いては企業収益の影響を受けやすい。安倍政権前の10、11年は欧州債務危機の影響で為替レートが円高水準で推移し、一時は1ドル=70円台まで円高が進んでいた。このため、輸出産業は採算が悪化し、民間設備投資も不振だった。先行ピークの06年度は16.1%、ボトムは10年度の13.7%であり、18年度はようやくその水準に戻っただけである。13、14年度の伸びが高くても、落ち込んだ後からの回復期であれば当然といえる。

 円高の影響が解消された13年度からは18、19年度までの5、6年間で1ポイントほどの増加であり、アベノミクスで企業収益が大幅に改善しても、設備投資拡大効果はそれほどではなかったことはよく指摘されるが、それはこの構成比からも明らかである。それが1%の実質GDP成長率の低成長にとどまた要因の一つになる。

 また、為替レートは日銀の金融緩和効果から長期的に円安状態が続いており、輸出も欧州債務危機による世界景気の影響を受けて設備投資と同様の推移になっている。12年度の14.5%をボトムに14年度の16.1%までは急拡大だが、18年度の17.4%をピークに、19年度は米中貿易摩擦問題をはじめとして世界経済のもたつきから17.0%へと0.4ポイントの縮小である。

 いずれにしても、各需要項目の構成比の変化が小さいことは日本経済を牽引する需要項目がなかったためである。もちろん、全ての需要項目が同程度の高成長になれば、結果として構成比が変化しないことは想定できる。しかし、現実には均等した成長にはならず、需要項目間で成長格差が生じる。今回の場合、この間の成長性では全体の6割近くを占める民間最終消費支出の不振の影響が大きく、構成比で2割未満の設備投資や輸出は伸び率が高くならない限り、全体を牽引するには力不足になる。

 また、設備投資は投資資金面から企業収益の影響を受けるため、景気変化に伴って大幅に変動する。ただし、収益が良くても、設備投資の必要性、つまり投資目的がなければ行われない。目的は主に需要増に対応する供給能力の強化と競争力強化のための生産性向上やコスト削減の2つになるが、特に前向きの能力増投資が重要になる。輸出されるものは別として、原材料や中間財、生産財は国内で最終的に消費されなければ需要に結び付かない。

 つまり、民間最終消費と輸出の増加が設備投資の拡大に結び付き、うち、輸出は海外経済に依る。外国人観光客のインバウンド需要は輸出に含まれ、伸び率が高くて期待は大きいが、インバウンド需要も含めてサービス需要は輸出全体の2割程度でしかない。海外の経済状況の影響は少ないとしても、輸出全体を引き上げる効果はまだ期待し難い。

 結局、民間最終消費の増加は設備投資にも波及し、海外の経済状況に関係なく、日本経済が一定の成長を維持するための必要条件になる。このため、安倍首相が民間最終消費を拡大するために所得のベースになる春闘賃上げを財界に求め、またこの間の雇用増を政策効果として強調するのは正当といえる。

 しかし、賃上げは不十分であり、雇用増も低賃金の非正規雇用が中心になれば、消費の裏付けになる所得は雇用の伸びを下回る。その解消のために正規労働者と非正規労働者の賃金格差をなくす方針から、同一労働・同一賃金制の導入を図っている。それに対し、企業は人件費抑制から対策を考えるため、厳しい罰則付きで実施しない限り、普及は難しい。もともと規制緩和で非正規雇用を採用しやすくしたのは安倍政権であり、本気で同一労働・同一賃金制導入に取り組む気があったとは思えない。

 また、この間に消費税が14年4月、19年10月からの2回の値上げが実施されたことも民間最終消費低迷の要因として挙げられる。収入が増えない中での消費増税が消費を冷やすのは当然といえる。それでも、それが社会保障の原資として使われ、国民は政府が国民生活を重視していると信頼し、将来への不安を解消する方向に向かえば、国民が消費に積極的になる可能性は高まる。現実には増税されても社会保障は切り下げられてきており、これでは民間最終消費が伸びない。安倍政権は日本経済の成長戦略を掲げていたが、失敗と言わざるを得ない。菅新政権によって転換が見込めれば良いが、安倍首相の政策を引き継ぐとするのに加え、「自助」意向が強いように受け取られるようでは、日本経済の成長率の向上は見込めない。

実質GDPの主要需要項目別構成比の推移

JUGEMテーマ:経済全般

| 2020年10月01日 | 政策 | comments(0) | - |
スポンサードリンク

コメント
コメント投稿フォーム:
 上の情報を次回も利用する
Copyright (C) 実質GDPの需要項目の構成変化からみた安倍政権の経済成長政策の評価 | 経済への視点. All Rights Reserved.