コロナ禍の影響を個人関連の業種別に見る
昨年は輸出が頭打ちから減少傾向になっていたところに、10月の消費税の10%への引き上げの影響が加わり、景気が下降傾向になっているのが明確になった。今年の春以降はコロナ禍から個人消費が一段と冷え込み、明るい業界を探すのが難しい状況にある。マスコミは話題性のある深刻な事例を取り上げる傾向にあるが、当然、全てが悪いわけではなく、影響は業種間で異なる。特に、悪い中でも営業自粛要請の対象業種が厳しく、個人消費関連の業種、産業統計では第3次産業に分類される個人関連業種の減少が大きいと予想され、このレポートではそれを第3次産業活動指数(2020年=100)で調べる。
ただし、第3次産業活動指数には自動車賃貸業の自動車レンタル業が自動車レンタル業(法人向け)と同(個人向け)と、事業所と個人の対象によって分けられているのは例外で、ほとんど一緒に集計されている。小売業のように販売対象が個人であっても、事業所も購入する業種、もともと対象が明確でない宿泊業のホテルや鉄道旅客運送業などもあるが、ここでは個人需要の比重が高いと思われる業種を取り上げる。
ただし、第3次産業活動指数の対象になる事業所、特に個人関連では小零細事業所が多く、廃業、新規開業が活発で、もともとどこまで把握できているのか疑問がある。また、今回の政府や自治体による営業自粛要請にもかかわらず、営業しているところもある。なかでも闇営業であれば、売上高を回答しているとは考えられず、指数の精度に問題があることに留意する必要がある。
全体の第3次産業総合では前年同月比で2019年10月以降マイナスが続いているが、20年2月までは微減程度に留まっていた。3月からコロナの影響が現れ始め、3月の5.3%減から、4月は11.5%減と急速に減少幅が拡大している。ただし、5月中旬には自粛要請が部分的でも緩和され、その後も徐々にでも緩和の方向にあり、5月からは減少幅が縮小に向かっていると推測できる。
主に個人を対象とする主要な第3次産業業種を見ると、ほとんどの業種が3、4月に減少幅が拡大している中で、水道業が2月の4.9%増から3月0.1%増、4月1.9%減と、前年度とほぼ同水準の推移である。2月はうるう年効果で比較的高い伸びになっているだけで、水需要は景気やコロナの影響はほとんどみられない。
また、医療・福祉もこの3か月間、1.9%増、2.2%減、0.3%減となっており、同様に前年並みの推移である。病院に関してはコロナの影響による来院が減少している一方で、コロナ患者の受入のために病室、ベッドを空ける必要があって収入が減少するだけでなく、備品の確保・充実などの対応でコストが掛かり、大幅赤字という報道もある。ところが、第3次産業活動指数には現れていない。要因として、医療・福祉事業所の収入の時点で統計に反映されるとすると、保険による支払いが後払いになるためと考えられる。
その一方で、減少幅が大きいのは自粛要請の直接、間接の影響を受けた業種を多く含む生活娯楽関連サービスになり、4月は50.8%減とほぼ半減である。なかでも宿泊業77.3%減、飲食店・飲食サービス業56.7%減、その他の生活関連サービス業61.1%減などは半分以下である。
さらに、細分類ではより深刻な業種がある。その他の生活関連サービス業に含まれる娯楽業の劇場・興業団のうち、プロ野球、サッカーなどのプロスポーツ興業は100%減、つまり興業はゼロになっている。これは極端としても、その他の生活関連サービス業の旅行業95.6%減、同冠婚葬祭業の結婚式場91.5%減、同遊園地・テーマパーク98.0%減などはゼロに近い。これらは自粛要請されているか、3密を避けると事実上営業できない業種になる。
その一方で、同娯楽業のパチンコホールは自粛要請対象にもかかわらず61.8%減と、半分以下でも相対的に減少幅は小さい。この数字は開業ホールの割合ではなく、売上高であり、開業ホール数は少なくても、そこに客が集中し、売り上げが伸びた可能性が高い。パチンコホールでは闇営業は難しいため、この数字の精度は高いと判断できる。つまり、開業ホールの名前を明らかにするのは、逆にPR効果になるだけという批判があったが、それが現実になったといえる。
これらの業種の中間にあるのが小売業で、4月の減少は14.4%減に留まったが、細分類では他の業種と同様に格差は大きい。各種商品小売業43.3%減、織物・衣服・身の回り品小売業54.4%減などが半分前後に落ち込んでいるのに対し、食料品小売業1.5%増、その他の小売業の医薬品・化粧品小売業1.5%増などは前年並み水準を維持している。生活必需品の購入は変化していないのに対し、各種商品小売業は業界団体の販売統計では、百貨店がインバウンド需要減と営業の自粛で大幅減であるのに対し、主に食料品や日用品を販売するスーパーは、第3次産業活動指数の食料品小売業と同様に前年水準を維持しており、各種商品小売業の大幅な落ち込みは百貨店の影響である。
小売業の数字は当然の結果で、消費者は日常生活に必要な物・サービスはコロナに関係なく購入し、そうでないものは営業自粛もあって大幅に抑制するか、それが余儀なくされている。抑制されてきた物・サービスは自粛や規制が緩和されれば持ち直しが予想されるが、それは一時的な効果と考えられる。基調として元の水準に戻るまでには、景気回復が必要で、それには時間が掛かると予想される。世界的に短期的にコロナ禍が解決する見通しはないため、輸出主導の回復が期待できず、国内は政策が手詰まりになっているからである。
これは第2次の感染拡大を想定していないが、第2次が発生し、再度の自粛要請が行われれば、4月のような異常ともいえる落ち込みの再来が避けられない。今回は乗り越えられたところも、今度は持ち堪えられずに縮小、廃業、倒産する企業が一気に増加することが懸念される。
それを避けるにはパチンコ業界のような不公平が生じないように、休業指示と同時に持続化給付金の充実と早期実施支給が求められる。第1弾の対策はまだ完了していないものも多いが、この経験を踏まえて早期実施・完了でないと、企業の減少でより景気回復が遅れることになる。その時、何事に対しても責任があると言うだけで、責任を取らない政治では、残念ながらあまり期待できそうにもない。