貿易統計から国・地域別の経済状況を推測する
今回の新型コロナウイルス感染症の世界的大流行で、発表される経済統計はほとんどの国・地域で急速に悪化している。コロナウイルス感染で就労が困難になるのに加え、政府による外出制限や人との間隔(社会的距離)の維持、都市封鎖などの規制が経済統計に表れている。世界的に経済が下降線にあるのは確かでも、感染症流行が本格化しだしたのは今年に入ってからで、かつ各国・地域で発生、流行が拡大した時機に差があるため、現状の判断、回復時期などは予測困難な状態にある。全体的には期待を込めてと思うが、発表されている意見では大規模な感染症の第2波、3波はないとして、今年後半には底入れから回復に向かうとしている。ただし、来年の回復力は弱い予想である。
日本も患者数の減少から5月後半には規制緩和が始まり、経済対策も加わって4〜6月期を底に回復は見込める。しかし、その後の回復力は内需に期待できず、輸出、つまり海外経済に依ると予測される。当然、日本の主要輸出入先の米国、EU、中国、アジアの経済状況が重要になり、これらの経済状況を統計の信頼性に高く、発表の早い財務省「貿易統計」の貿易指数(2015年=100)から推測する。
輸出指数は全体(世界)として2019年から既に世界経済の頭打ち傾向を反映し、前年比で上下変動はあっても基調としてみれば、微減傾向で推移してきた。主要輸出市場の米国、EU、中国、アジアはいずれも減少基調の推移で、中国は経済成長率はプラスでも、国産化の進展や米中貿易摩擦問題を受けて、米国輸出に使われる日本製の原材料、部品の輸出減の影響から、米国やEUより減少幅が大きかった。
20年に入っても1、2月は19年の基調の推移を維持していたといえる。しかし、3月は全体で前年同月比2桁台の減少に急減した。米国と中国、そして中国と結び付きの強いアジアが減少し、特に、輸出全体の約2割を占め、最大輸出市場の米国が同15.9%減と中国同10.3%減、アジア同10.5%減を上回る大幅減少になった影響が強い。米国は消費に弱含み傾向がみられ、それにコロナウイルス対策の規制が加わり、日本の輸出に波及してきた。
一方、中国は春節休暇が当初の1月 24〜30 日から、コロナウイルス対策で2月2日まで延長になり、その後も多くの企業で同月9日まで延長になった影響が3月に残っていたと推測できる。春節休暇の延長による中国での陸揚げ中断が、日本の通関に反映するまで日数が掛かるためである。それでも、中国はコロナウイルスの影響で米国向けの間接輸出減と国内での日本製品の最終需要減を合わせても、米国よりは打撃が少なかったことになる。また、EUは同9.1%減の2桁近い減少だが、それまでの推移から判断すれば、特に減少幅が広がっているわけではなく、コロナウイルスによる需要減が現れたとはいえない。
4月は中国とその他の乖離が特徴として挙げられる。全体の輸出指数が前年同月比21.4%減と一段と落ち込み、米国の同36.8%減が目立つが、EUも同27.7%減と、いずれもコロナウイルス対策による規制で、需要の減少が顕著に反映している。これらに対し、中国は同2.4%減に留まり、2月までと同程度の減少でしかない。これだけみれば、コロナウイルスの影響はほぼ解消し、元の正常状態に戻っているようにみえる。
ただし、2月の春節休暇の長期化が輸送に要する日数の問題もあって、3月の日本からの輸出にマイナスに影響し、その反動のプラス効果が4月に含まれた可能性を考慮すれば、実態としてはもう少し低い水準も考えられる。それでもコロナウイルスの影響が本格化してきた2、3、4月の輸出指数の推移から、中国経済は他国・地域と比較すれば、打撃は軽微に留まり、いち早く脱出しつつあるといえる。
また、アジアは同11.8%減と3月と同水準程度の減少である。ただし、基準年の15年の輸出額がアジア40.3兆円、中国13.2兆円と、中国がアジアの3分の1ほどを占める割合から推計すると、小幅減少の中国以外のアジアは同20%近い減になる。
一方、輸入は日本の経済状況の影響が大きいが、今回のコロナウイルス問題では輸入先の生産・供給制約から、国内需要があっても輸入できない状況に陥る可能性がある。もちろん、19年はコロナウイルス問題はなく、輸入指数は日本市場の状況に依る。19年の日本経済は頭打ちから下降傾向になっていたため、全体として輸入指数も減少傾向であり、20年1月までは輸出指数同様の推移になっていた。
その後は乖離が生じ、輸入指数は20年2月に前年同月比17.3%減が一時的だが顕著な減少になった。これは基準年の15年の輸入全体の約4分の1を占める中国が、春節休暇長期化の影響を受けて同49.1%減とほぼ半減したことにある。これだけで17.3%減の7割以上の減少要因になり、これがなければ1桁の減少になり、それまでの推移より少し落ち込みが大きい程度である。
中国からの輸入指数は3月の同3.5%減から4月11.3%増では、春節による2月の減少分を取り戻したとはいえず、日本向けの生産はまだ水面下と推測できる。それでも、商品別で4月の機械系の部品の輸入は前年同月比で比較的高い伸びになっており、生産回復は急速に進んでいると推測できる。一時は中国からの部品不足が日本国内での供給不足をもたらしていたが、これが早期に解消されると期待できる。
3、4月は輸出指数が全体で急落してるのに対し、輸入指数は中国がほぼ元の状態に戻したのを受けて、全体では微増減である。このように貿易統計で輸出は3月からコロナウイルスの影響が現れているのに対し、輸入では2月の中国以外では表面化していない。その要因として、日本の需要の減少は4月頃から本格化し、かつ輸送に時間が掛かるためと考えられ、輸出から遅れて5、6月頃から顕著な輸入減が予想される。
今後の日本経済との関連からは輸出が問題になり、米国、EU、アジア(除く中国)のうち米国は3月、EUとアジア(除く中国)が4月から減少傾向を強めている。米国とEUは規制緩和が始まっているが、コロナウイルス感染の第2波を考慮しながら徐々にしか進められない。これから予測すれば、5月か6月頃が輸出減の底になると見込めても、大幅に落ち込んだ状態から急回復は期待できない。また、対米貿易摩擦問題を抱え、かつEU経済の立ち直りが穏やかと考えれば、中国の回復、成長が他国より早くても、その速度には限界がある。全体として輸出主導の回復になっても、それは国内需要の回復が遅いだけで、輸出水準が回復するのは来年に持ち越す予測になる。
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