コロナ禍後の景気回復力を考える
3月の鉱工業生産指数(速報値、季節調整値)は前月比3.7%減の大幅な落ち込みになった。1〜3月期では前期比0.4%増のプラス成長だが、前年同月比では4.5%減になり、2019年10〜12月期の同6.8%減より減少幅は縮小しても大幅マイナスである。一方、4月の製造工業予測指数は前月比1.4%増の持ち直す見込みになっている。調査は毎月10日現在であり、4月7日の新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言後になるが、それ以前に回答、またはその後であっても見直さずに回答している企業も多かったのではないか。企業・産業の動向から判断すれば、今回のコロナ禍の影響を織り込んでいない数字と推測でき、4月実績は2か月連続の大幅減が予測される。
鉱工業生産は前期比、前年同期比で19年1〜3月期以降、減少傾向にあり、景気のピークは18年10〜12月期だったと考えることもできる。そうでなくても、19年10〜12月期実質GDP成長率(第2次速報値)が前期比1.8%減のマイナス成長になっており、遅くとも19年7〜9月期がピークと判断できる。
新型コロナ感染の拡大スピードに頭打ち傾向が見られ、緊急事態宣言は早ければ5月中、遅くとも数ヶ月以内に終結に向かうだろうが、そうなれば、その後の景気回復力に関心が移ってくる。一時的にはこの間に抑制された消費が買い替え需要を中心に盛り上がり、1、2四半期程度は前期比で高い伸びが見込める。しかし、コロナウイルス感染の第2波、第3波(現在を第2波と考える人には第3、4波)の大波が来ないとしても、力強い回復力が維持されて1、2年程度で元の水準を回復することは期待し難い。
内外需別に考えると、まず外需面ではリーマンショック後の世界経済の回復を牽引した中国のような国の出現は期待できない。海外市場では中国が先行して最悪期を脱して生産回復に向かっているといわれている。しかし、欧米や日本、東南アジアの経済が正常化しない限り、世界の工場となった中国が、国内経済対策だけで復活するのは容易ではない。欧米は部分的に経済活動が再開され始めた段階であり、このような状況では日本が外需主導の景気回復になったとしても、力不足は否めない。それは外需主導となっても、弱い内需の伸びを外需が上回るだけで、全体としての成長力は乏しい。
力強い回復には内需、特に個人消費が課題になる。店舗の閉鎖や外出の自主規制で抑制された消費は、例えば、乗用車や家電などは繰り延べられた買い替え需要を中心に、新規需要も含めて復活することは期待できる。しかし、繰り延べられた需要のほとんどが復活するところまでは期待できない。
雇用・所得環境が一変しているからである。大企業の正社員とその他の非正規労働者、個人事業者などの間で格差は大きいが、大企業の正社員は雇用が保障されているとしても、所得面では厳しい状況が予想される。最近の企業の賃金政策は企業の収益増を長期的な負担増になる賃金体系には反映させず、一時金、ボーナスを増やすことで対応する政策を採っている。結果、正社員の収入は昨年末の冬までは企業収益の好調を反映して高い伸びになってきた。
大企業の今夏の一時金は減額になっても、まだ2019年度後半の収益に基づくため、微減程度の高水準が見込まれている。それが今冬は大幅な減少が避けられない状況にある。また、少なくとも来夏も今年が高水準になったことから推測すれば、幅は別として減少は避けられない。その前に、来夏の予想は難しくても、足下の仕事が減少し、企業収益が下降線にある状況から、今冬の厳しさは誰でも想定する。これから考えれば、今夏が高水準でも財布の紐を締めざるをえない。かつ、企業環境が厳しい状況下で、最近の企業の雇用政策を考慮すれば、大企業であっても雇用が保証されていると安心できる人はどれだけいるか。予定していた買い換えを中止する消費者は少なくないと考えられるからである。
一方、非正規雇用の雇用削減は始まっている。3月の有効求人倍率は1.39倍と1を大きく上回っているが、基本的に労働市場は景気に対して遅行指標であり、今回のように景気が急速に悪化すれば、労働指標と実態とのずれが従来以上に乖離していると想定できる。労働指標では見え難い仕事の保証のない個人事業者も厳しく、小零細のサービス業、商業の倒産が増大し始めている。
また、パート賃金は近年の人手不足状況下で少額でも時給が増え、少しは明るい見通しが持てるようになってきた。ところが、労働需給が一変したことにより、賃上げの可能性はほとんど無くなっている。ただし、世界的な景気悪化による需要の減少は、原油価格の下落に見られるように物価の値下がりを通して実質所得を引き上げる効果はある。
景気が厳しくなる中で、政府は新型コロナウイルスの被害への緊急経済対策として、条件付きでの現金30万円給付の生活支援臨時給付金(仮称)を出している。その後、30万円給付の条件が厳しいため、コロナ禍で困窮している世帯に支給されるのか疑問が出され、批判が強かった。結果、対応が遅いながらも住民一人当たり一律10万円を給付する「 特別定額給付金」が実現した。しかし、この状況が長期化した場合の対応は不明である。
以前から、このレポートで国民は政府を信頼していない考えを示してきたが、今回も国民に寄り添った政策とは言い難い。世界的なコロナ禍は世界で対策に取り組まれているため、その政策、金額や支払いまでの日数などが諸外国と比較されるため、日本政府が国民生活を配慮していないことがより明確になっている。この結果、政府への信頼度は一段と低下することが避けられず、景気が底を打って回復に向かって雇用が増加し、所得が増えても、国民が積極的に支出するようになるとは思えない。
もちろん、低所得者は貯蓄できる余裕もないため、収入≒支出になるとしても、精神的には消費抑制になる。一方で、景気の影響をほとんど受けない高所得・資産家の人もいるだろうが、それは一部でしかない。全体としては所得、支出が増えず、つまり消費の回復力が弱い中では設備投資や住宅建設も期待できない。加えて、公共投資の波及効果も低下しており、その中で高齢化による年金生活者支出の下支え効果は見込める程度で、明るい材料に乏しいのが実態である。
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