高齢者就労時代に生産性の向上は可能か
この2015年12月1日付け、18年10月1日付けの経済レポートでそれぞれ女性、高齢者の就業の増加を取り上げた。近年の就業構造の臨時・パート雇用化に加えて労働力不足から、女性の就業化が促進されてきた。また、年金支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げる対策として、政府が企業に65歳まで雇用延長を要請した影響もあって、男女共に高齢者の就業率が高まっていることを示した。女性の就業率は結婚、出産後の20〜30歳代の就業中断、いわゆるM字曲線の解消が進み、男性に近い形になってきた結果、最近はM字曲線の解消による就業率の上昇効果は頭打ちになっている。
少子化による人口の減少が予想され、雇用増を若・中年の女性に期待するのが難しくなれば、男女を問わず高齢者への期待が高まる。これまでも高齢者の就業率は着実に高まり、19年の5歳年齢別でみると、60〜64歳の就業率は70.3%(総務省統計局「労働力統計」)に達している。統計が集計された初年の1968年から2013年までは50%台の推移だったが、14年に60%台になり、それが6年後には70%台に乗せた。この68〜13年までの間に、就業率は65〜69歳で38.7%から48.4%、70〜74歳で23.3%から32.3%であり、高齢者の就業意欲は高まる傾向にある。
今後に関しても、年金支給開始年齢を70歳に引き上げる可能性が高まっており、同時に企業は70歳までの雇用が求められる。また、年金額を抑えるマクロ経済スライド制度によって実質年金額が減少し、長寿命化への備えもあって、高齢者就業率は上昇していくと予想できる。もちろん、景気との関係が無視できず、近年の高齢者の就業の伸びは労働力不足の影響がある。
一方、就業率では人口だけでなく、日本の年齢別人口構成も影響する。景気は別として、年齢別人口構成では1947年から49年の団塊の世代の出生数が年間270万人近くになり、人口規模が大きいことで社会に大きな影響を与えてきた。団塊の世代は昨年の19年段階の年齢でみれば68歳から70歳になり、人口規模が大きいため、就業率が高くなれば相乗効果で人手不足軽減に貢献してきたといえる。
ただ、19年1月1日現在の5歳年齢別人口規模(総務省統計局「人口統計推計」)のほぼ18年人口では、日本人人口は一部が団塊世代になる65〜69歳の917万人を、45〜49歳の956万人が上回る。45〜49歳は1970〜74年生まれになり、これらの年齢は団塊ジュニアの71〜74年生まれが大部分だが、出生数は最大でも73年の209万人に留まる。
対象年齢の5年間の出生時の人数は65〜69歳の1,105万人が45〜49歳の1,010万人を1割も上回っていた。しかし、出生後の死亡のほかに海外転出などの要因によって、65〜69歳の減少数が大きいためである。ちなみに、出生から18年までの間で65〜69歳は17.0%減になり、45〜49歳の5.3%減を大幅に上回る。
1946年までの戦時中と敗戦直後の出生数は不明だが、70〜74歳の19年1月1日現在の日本人人口が828万人であることから、65〜69歳を下回っても出生数は比較的多かったと推測できる。これに対して、65年以降の出生数は団塊ジュニア世代まで年間200万人を大きく下回る水準の推移で、50〜64歳人口は顕著な谷間になっている。
団塊の世代を含む65〜74歳の高齢人口は高出生に支えられ、現在でも人口規模が大きく、かつ同一年齢間比較では就業率を高め、これから暫くは人口減少傾向下における労働力不足を補うと予測できる。これは数の維持には期待できる一方、就業者構造は高齢化することになり、質面、つまり労働生産性の維持、向上がこれからの課題になる。
政府は年金対策で高齢者就業と同時に女性の就業促進に取り組み、労働環境を大きく見直す働き方改革を進めている。この改革は単に労働時間を短縮するだけでなく、労働生産性の向上も政策課題にしている。理由は先進国の中で日本の労働生産性が低いことに注目が集まるようになったことにある。労働力人口が増えない中で、現状のままで労働時間を短縮すれば、GDPの伸びを抑える結果になる。つまり、GDPを維持、向上させるには時間当たり生産性向上が不可欠になる。企業が労働時間を減少させても生産、売上を維持・増加できるように努力し、生産性を伸ばす契機にする考えである。
ところが、長寿命化は健康で元気な高齢者を増やし、高齢者の就業率向上の要因でもあるが、高齢化に伴う体力、気力、知力などの衰えは避けられない。個人差は大きいため一律にはいえないが、平均的には高齢化に伴って低下する。その一方で、就業して仕事を覚えて習熟するには時間が掛かり、若年層の生産性は低い。ただし、就業後の若年層は生産性の上昇が期待ができる。年齢別の生産性の指標はないが、高いのは20年代後半から50代頃までと考えられる。
5歳年齢別就業者数では人口構成を反映して、19年で45〜49歳の847万人をピークとして、その前後で図のように減少する山型になる。このピークの年齢層の生産性は年齢から判断して、これからか低下の方向になることは避けられず、全体としても年齢構成では下降傾向になる。短期的には団塊世代、中期的には団塊ジュニア世代が高齢就業者になって人数の面では支えても、それが生産性向上の足枷になることが懸念される。
長期的にはより厳しい。出生数は年間200万人を越えた団塊ジュニア以降、急速に減少している。現在15歳年齢の84年から出生数は150万人、2016年から100万人を下回り、19年には推計値で84万人まで減少している。つまり、これから生産性向上を支える若い就業者が長期的に急速に減少するのは避けられない。
当面の対策として、高齢者でも生産性を維持、向上させる技術開発が必要になるが、それは若者より高齢者の方が生産性は高くなる技術でなければ、国際競争の面からは効果が無いことになる。現実にそのような技術があるか期待し難い。
とすれば、外国人労働力の導入が必要になる。現状は総務省統計局「人口統計推計」の19年1月1日現在のデータで、日本人人口1億2,419万人に対し、総数1億2,632万人であり、日本人以外は213万人、日本人に対し1.7%でしかない。就業者の高齢化を防ぐには1千万人規模の外国人労働力導入が長期目標になるが、そのように政策転換しても、期待する人材が来てくれるだけの魅力が日本にあるかどうかが問われるようになる。
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