今回の消費税の引き上げの住宅建設への影響は小
2019年10月からの消費税の引き上げは、前回の5%から8%(108/105=1.029、2.9%)と比べると、今回の8%から10%(110/108=1.019、1.9%)は小幅で、かつ軽減税率の導入もあり、物価への影響は少ないと予測されていた。現実に、個人消費の駆け込み需要とその反動減も小規模で終わったことが、関連指標の推移から明らかになってきている。一方、住宅需要への影響として引き上げ率は低くても、住宅価格は高額なため、2%でも額は大きく、影響を懸念する見方があった。
ただし、住宅の場合、引き渡しが10月を越えても請負契約が3月末までに行われていれば、8%が適用される経過処置があり、引き上げの影響が見え難い問題がある。また、最初は10%への引き上げを15年10月に予定していたのを、14年11月に17年4月まで延期、また、それを16年6月に今回実施の19年10月に再延期すると発表された経緯もある。そして、19年10月に実施すると表明したのは18年10月である。ただし、3度目の延期もあり得ると考えていた人は少なくない。
延期の発表は実施予定月の1年近く前と早く、駆け込み需要の発生はほとんどの商品では無い、事実、起こらなかったといえる。しかし住宅の場合、金額が大きく、かつ一生に一度の買い物になる消費者も多く、購入の準備に少なくとも数ヶ月以上も前から取り組むのが一般的である。その準備を始めていれば、急に延期を発表されてもいずれ引き上げ実施が予想され、希望に添う物件が見つけていて、購入を中断する消費者は多くはないと推測される。つまり、住宅需要への規模や時期の評価は困難だが、一般の商品とは異なり、一定の影響を受けると考えられる。
前回の14年4月からの消費税の引き上げでは、住宅への影響を新設住宅着工戸数で見ると、引き上げ1年前の13年の5月から前年同月比2ケタ台の伸びになり、その状態がほぼ14年1月まで9か月間続いた。結果、13年度の新設住宅着工戸数は前年度比10.6%増の大幅な増加で、1年も前から影響が出るのは建設期間が長いためである。
その反動で、引き上げ前月の14年3月から15年2月まで前年同月比で減少になり、うち急増と同様の期間の5月から1月まではほぼ2桁台の減少で、14年度では10.8%減になった。この2年間の戸数の増減はほぼ同数の10万戸ほどになる。結局、着工ベースでの駆け込み需要は引き上げの2か月前までで終わり、明け込み効果とその反動減は1年ほど続いたことになる。この消費税引き上げ前後の変動は、図に見られるように持ち家で顕著に表れるのが特徴である。
一方、14年11月に消費税の引き上げ実施を15年10月から17年4月へと1年半の延期が発表されたが、この時は4月の引き上げによる反動減中であり、減少幅を縮小するような駆け込み需要への発表の影響は見えない。ところが、16年6月に行われた17年4月からの実施を19年10月への延期発表に関してはその影響が推測できる。
延期予定の1年ほど前になる16年4〜6月期と7?9月期の2四半期の前年同期比伸び率がそれぞれ7.1%増、7.9%増になった。その前後が1桁台の低い方の伸びであったことから考えれば、6月からの引き上げに備えて準備していた消費者が、延期発表に影響されずに住宅着工に動いたと考えられる。これは前回の影響が1年ほど前から顕在化していることと相応する。ただし、延期発表から今回の10月の引き上げ実施まで1年4か月も空いており、この間の駆け込み需要と反動減は解消していると考えられる。
そして、今回の引き上げでは19年3月の前年同月比10.0%増、1~3月期で5.2%増が目立つ程度で、総数では駆け込み需要はほとんど見えず、消費税の引き上げ率が低い影響と思える。しかし、利用関係別ではそうではない。貸家の影響が大きいためである。貸家も建設費の影響があるのは当然だが、それよりも転貸を目的とした一括借上のサブリースの落ち込みがある。当初予定していた家賃収入が保証されないとして、16年末に家主がサブリース会社を集団提訴したのがサブリース問題の始まりになった。
この頃からサブリースへの不安が高まり、シュアハウスでも同様の問題が発生し、また、住宅融資の不正利用も広がっていることが明らかになった。これを受けて金融機関は住宅融資審査を厳しくしている。この影響の浸透で貸家の減少傾向が強まり、住宅着工全体の推移を歪めて見え難くしている。
貸家はサブリース問題で17年6月、四半期では7〜9月期から前年水準を下回るようになった。その後、問題拡大に伴い徐々に減少幅が拡大し、四半期では19年1〜3月期までの前年同月比1桁台の減少から、4〜6月期からは2桁台に減少幅が拡大している。総数でも19年4〜6月期から減少になっているが、この主要因は貸家にある。戸数ベースでは貸家が総数の4割を占め、この影響が大きいためで、貸家を除けば7?9月期までは前年を上回り、10〜12月期も総数では9.4%減だが、貸家を除けば5.5%減に留まる。また、貸家は1戸当たりの面積は小さいため、総数を床面積で見れば減少であっても同様に小幅になる。
一方、戸数ベースで全体の3割を占める持ち家は、前年同月比で19年2月から6月までの6か月間10%前後の増加になり、8月から減少に転じている。前回の消費税引き上げの14年4月前後と比較すれば、マイナス効果はまだ終焉段階を迎えたとまではいえなくても、影響は短期化、小幅化していると判断できる。また、最近の特徴として、分譲住宅のマンション着工戸数の変動が大きいことが挙げられる。近年のマンション着工戸数は総数の1割強の年間10戸強、月間では1万戸程度の数量になる。人気が高まっている超高層の大規模マンションには、1棟で1,000戸を超える大規模なものがあり、その着工の有無がマンションの大きな変動要因になることが挙げられる。
今後の住宅着工に関しては、超高層マンションも水害問題から見直す雰囲気が見られ、そのブームの一端を担っていた中国からの投資は一巡し、住宅価格の高止まりの一方で景気悪化による所得の伸びの鈍化傾向が出始め、明るい要因は見当たらない。全体として貸家の減少はまだ続くと予想され、持ち家や分譲住宅は結局、景気動向次第になり、現状では期待し難い。それでも、貸家の落ち込みが大きいため、戸数ベースの減少幅より金額ベースのGDP統計へのマイナス効果は軽微になる。
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