消費の低迷は低い収入の伸び、税金・社会保険料負担増と、高齢化の下で 貯蓄率増による
10月1日からの消費税増税の消費への影響に注目が集まっている。今回は8%から10%へと小幅の引き上げであり、また軽減税率制度や消費税還元ポイント制度の導入などの効果で、従来と比較すれば増税前の駆け込み需要は少なく、全体として影響は軽微という見方が以前から強かった。現実に、小売店の販売動向で駆け込み需要は一部にとどまり、増税後の急激な消費の縮小は避けられる可能性が高い
。消費を考えるうえで増税の一時期な影響よりも、基調が重要になる。消費の基調が強ければ、増税の前後で変動があっても、その影響は直ぐに吸収されて安定した成長路線に戻る。現実には、以前から消費の基調が弱いため、小幅であっても消費税増税の影響が懸念され、その弱い要因から先行き不安が大きいことが問題になる。
消費の基調を内閣府「国民経済計算」で、今年8月から新たに集計、公表されるようになった「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」からみる。家計最終消費支出の原資になる「可処分所得」(名目、以下金額は全て名目)の2005年度から18年度までの13年間の推移は、07年度の297.8兆円をピークに、13年度の291.7兆円まで減少し、これをボトムに18年度の307.5兆円までは増加で推移してきた。この5年間で16兆円ほどの増加だが、伸び率では5.4%増、年率1.1%増でしかない。この間はアベノミクスの時期と重なるため、この時期を中心に取り上げる。
まず、収入は従業員の現金給与以外に、現物で支給された物品、雇用主が負担する社会保険料などを含む「雇用者報酬」、個人経営の小零細企業の「営業余剰・混合所得」、預金、有価証券、土地・建物などの資産から生まれる「財産所得」などを合わせて「雇用者報酬・営業余剰・財産所得等」でみると、09年度の312.7兆円をボトムに、12年度の315.1兆円まで微増の後、18年度の346.7兆円まで着実に増加している。それでも6年間で10.0%増、年率1.6%増に留まる。ちなみに、13年度の317.6兆円からの5年間では、それぞれ9.2%増、1.8%増である。増加しているのは、所得の8割ほど占める雇用者報酬(18年度は全体の82%)が低い伸びでも一定の賃上げが実施されて増え、雇用者数が増えているためである。
これに高齢化で着実に増加している現金による社会保障給付、年金基金による社会給付等の「現物社会移転以外の社会給付」を加えれば、ほぼ全収入(これら以外に変動の少ない3兆円程度のマイナス額の「その他の経常移転」がある)になる。現物社会移転以外の社会給付は13年度の77.6兆円から18年度78.6兆円へと増えているが、高齢化の進展を考慮すると増加額は少ない。公的年金の受給開始年齢が60歳から65歳へと延期された影響と推測される。これらを合計した全所得は13年度392.1兆円、18年度422.3兆円、7.7%増、年率1.5%増になる。そして、これから税金・保険料を差し引いたのが可処分所得になる。
伸び率で雇用者報酬・営業余剰・財産所得等を可処分所得は下回っているが、原因は「税金・保険料負担」の増加にあり、これが13年度の100.4兆円から18年度は114.7兆円、14.3兆円、14.2%増にもなっているからである。ただし、税金・保険料といってもその負担増の中身は保険料になる。社会保険料の引き上げが続く一方、収入が増えなければ所得税は増えない。この間の14年度に消費税が引き上げられていても、消費税は国民経済計算では企業の税金に計上される。
もちろん、個人の負担にならないわけではなく、消費税は価格に転嫁されて物価上昇の形で負担することになる。結果、名目よりも実質に影響する。ちなみに、13年度の家計最終消費支出の伸び率は駆け込み需要があって名目3.1%増と比較的高い伸びで、実質でも2.8%増と高く、乖離は0.3ポイントである。これに対し、14年度は駆け込み需要の反動減もあって名目0.3%減になり、実質2.5%減と物価上昇によって乖離が2.2ポイントに拡大している。
全収入に近年は1兆円を下回る企業年金や退職一時金の負担と給付の差額「年金受給権変動調節」を加えた額で、貯蓄額を除したのが貯蓄率になる。貯蓄率は1999年度までは2桁台と高かったが、それ以前から上下変動があっても趨勢的に低下傾向が続き、13年度は0.6%減と僅かだがマイナス、つまり可処分所得を支出が上回った。
通常、若くて働いているときは将来に備えて貯蓄に努め、高齢化して働かなくなった時にはそれを取り崩して生活するのが一般的である。このため、高齢化が進むのに伴い貯蓄率が下がるのは当然であった。現実に1999年度までは2ケタ台の伸びを維持していたが、その後は急速に下がって13年度には0.6%減とマイナスを記録した。ところが、高齢化が着実に進んでいても、貯蓄率がマイナスを記録したのは13年度だけで、その後はプラスに戻り、18年度には3.2%まで高まっている。
以前から何度かこの経済レポートで指摘してきた高齢者の就業の増加は、働く意欲が強いこともあるが、基本的に将来不安から少しでも収入を増やして貯蓄しておきたいと考えているからと推測できる。それが近年の人手不足によって、高齢者にも就労機会が増えて実現でき、貯蓄率を低下から増加へと反転させたといえる。13年度からの18年度までの5年間で3.8ポイントの上昇は、単純計算で年平均0.8ポイントほどになり、成長率が低下している家計最終消費支出、延いては民間最終消費支出の伸びを引き下げる効果は小さくない。ちなみに、駆け込み需要で膨らんだ13年度から18年度の消費の成長率は年率で、家計最終消費支出は名目0.3%増、実質0.1%減、民間最終消費支出は名目0.4%増、実質0.1%減になり、この5年間はほぼゼロ成長である。
今年6月に金融庁が公表した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」で、老後資金は2,000万円不足しているとして国民の間で話題になった。この影響から将来不安はより一層高まり、19年度以降の貯蓄率の上昇傾向が強まると予想される。かつ、この10月からの消費税増税がその傾向を促進することになる。
以上から、消費の低迷は低い収入の伸び、社会保険料負担増、貯蓄率増の3つが消費が盛り上がらない要因として挙げられる。そして、19年度以降はより厳しいと予想される。人手不足状況は続くとしても、労働需給の逼迫はピークを打ち、企業収益も減益に向かう状態で、来春闘の賃上げは低下が避けられない。また、保険料の負担を増えて可処分所得の伸びは鈍化が予測されるなかで、貯蓄率の上昇が予想されるが、横ばいでも家計最終消費支出の伸びは一段と鈍る。中・長期的には政府が国民の将来不安を除けるかどうかに掛かるが、それを期待できない現状が国民として残念と言わざるを得ない。
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