外国人旅行者のインバウンド消費は中国の景気次第
日本政府観光局(JNTO)が発表した8月の訪日外客数(訪日外国人旅行者数、推計値)は、前年同月比2.2%減の減少になった。台風21号や北海道胆振東部地震の影響を受けた 2018年9月以来、11か月振りの減少である。18年9月は天候要因による一時的現象に留まったが、この8月は日韓関係の悪化による政治的要因で、韓国からの訪日客数が48.0%減とほぼ半減した影響が大きい。
外国人旅行者が日本国内で消費するいわゆるインバウンド消費は、外国人旅行者の増加に伴って急増し、近年、明るい話題の少ない日本経済の希望の星の一つになっていた。それが韓国からの旅行者の急減で、まだインバウンド消費額がどうなったかは分からないが、今後の不安材料である。すでに、日本経済全体ではその影響が明確ではなくても、韓国人旅行者の多い九州地方では経済への影響が顕在化している。
訪日外客数の18年の年間実績でみると、訪日外客の総数3,119万人中、中国が838万人で26.9%を占めて第1位で、次いで韓国の754万人、24.2%であり、この2か国で過半数を占めている。韓国は第2位でも中国と大差なく、4分の1近くになり、その半減の影響は大きい。以下、台湾476万人、15.3%、香港221万人、7.1%と続き、これらの東アジア4国・地域で4分の3近い。ちなみに、第5位は米国の153万人、4.9%である。
韓国からの訪日外客数が変調をきたしたのは1年以上前の18年6月からで、それまでは前年比2桁台の伸びであったのが、6.6%増と1桁台になった。そして、7月には5.6%減と減少に転じたが、減少幅は一進一退傾向に留まり、12月には0.4%増と僅かだが増加になった。この結果、年間を通してでは18年は5.6%増とプラスだった。
19年に入っても7月まではこの基調が続き、2月と6月は前年比微増で、7月は7・6%減である。そして、日韓関係の一段の悪化を受けて8月は半減になった。この大幅減少が続くかどうかは不明だが、9月以降も関係改善の兆しが見えないため、大幅な減少は避けられないと予想できる。年間を通して韓国からの減少幅は2桁台に乗る可能性が高い。
一方、訪日外客数第1位の中国からは高水準の伸びが続いている。中国からの訪日外客数は17年の15.4%増から18年は13.9%増と伸び率が低下したが、19年に入って月によって変動が大きいものの、前年比で1?3月期11.6%増、4?6月期11.8%増と若干低下した後、7、8月計は17.9%増と盛り返している。1?8月では13.6%増であり、基調の変化はないといえる。
19年の推移は韓国と中国のトップ2以外をみると、上位では前年比で米国が2桁台の伸びを維持している一方、台湾は4?6月期に減少になり、香港は1?3月期、7、8月計が減少になっている。これら以外の訪日客数は少ない国でも、ベトナムやフィリピンのように高い伸びを維持している国がある一方、インドネシアが4?6月期、7、8月計で減少、タイ、マレーシア、インドネシアなどのように月単位では減少が時々見られる国も増えている。全体として中国からの訪日外客に支えられて前年を上回ってきたが、8月に減少に転じ、その原因として韓国からの大幅減少が挙げられている。それは間違いではないが、その他の国・地域にも高い伸びから変調が見られることに注意する必要がある。
訪日外客数の総数は13年に1,036万人で1千万台の大台に乗せ、16年2,404万人、18年3,192万人と短期間に1千万人単位で増加してきた。19年は前年比で8月に減少したものの、1?3月期5.3%増、4?6月期3.6%増、7、8月計1.9%増である。日韓間の問題解決が困難で、当面、韓国からの訪日外客数の大幅減少が続いても、総数は年間を通してみればプラスになるのは確実である。それでも、近年の高い伸びからの一服感は否めない。
今後の訪日外客数の見通しを、これまでの増加要因から考える。政治的要因は別として、訪日外客数が急増してきた要因として大きく旅行コストの低下と所得増の2つの要因が挙げられる。そして、旅行コストは為替レートの円安と技術革新によるものの2つがある。為替レートは11年末ごろから12年初め頃までの1ドル=70円台をピークに、その後は円安に転じ、安ければ120円台、高くても100円台後半のレンジで推移してきた。円安は訪日外客にとっては日本での旅行コストを低下させる。
また、航空機の大型化による輸送力拡大の影響がある。これによって1970年代末ごろから欧州や米国で始まった航空運賃の値下げ競争が激化し、航空業界の再編成が進展してきた。その波が2000年代に入ってアジア地域にも及び、10年代には急速に広がってきた。この国際航空運賃の値下がりによる旅行コスト低下効果も大きい。ただし、この経営革新も含めた技術革新効果は、今後は期待し難い。
同時に、先行した東アジア地域を追うように、東南アジア地域も輸出主導で国・地域によって開始時期、速度に差はあっても経済発展が波及してきた。経済発展効果で所得が増え、生活に余裕があれば、旅行需要が高まる。その一方で、海外旅行コストが低下すれば、海外旅行が伸びるのは当然で、円安の日本に向かって訪日外客数の急増をもたらした。
現状は政治的要因で急減している韓国からの訪日外客数減に注目が集まっているが、絶対数が少なくても経済発展と共に増えてきたその他のアジア諸国の中で、基調変化がみられる国・地域が広がりつつある。その中で、米中貿易戦争の影響で中国経済への打撃が言われているが、現状はそれほど明確ではなく、訪日外客数にはまだ現れていない。
中国からの訪日外客数に変化はなくても、中国との関係の深い国には経済的打撃があるのに対し、対米輸出が規制される製品の生産の受け皿になる国には経済にプラス効果になり、その関係が訪日外客数の国・地域間の乖離現象となっている。全体としては、アジア地域経済における中国の比重の高さ、また米中貿易戦争による世界経済の悪化を通しての間接的なマイナス効果を考えれば、訪日外客数総数ではマイナス効果の方が大きいと推測できる。韓国との政治的問題は無くても訪日外客数の伸びは鈍化していたといえる。
もちろん、訪日外客数の今後は比重の高い中国の影響が大きく、韓国からの減少下、中国からも頭打ち、減少になれば、総数の減少は避けられない。近年の中国は経済発展に伴う構造調整から経済成長率は鈍化傾向にあり、訪日外客数の伸び率も低下が予想される。その速度は米中貿易戦争の影響によるが、解決が困難であり、少なくとも経済成長率、延いては訪日外客数の基調として伸びの鈍化が明確になるのではないか。いずれにしても中国の景気次第である。
また、日韓関係も長引くことが避けられないため、9月は18年9月の減少の反動増とラグビーワールドカップ効果、20年7、8月のオリンピック需要の一時的効果は別として、対東アジア各国の為替レートが大きく変化せず、中国経済の成長率の伸びが鈍化する程度であっても、基調としては訪日外客数の高い伸びは見込めない。韓国の影響が一巡する20年7月までは、微増でも増加すれば良いと評価すべきではないか。
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