GDPの4〜6月期の予想外成長の要因になった消費増に10連休効果はない
マイナス成長も予想されていた2019年4〜6月期の実質GDP成長率は、1次速報値で前期比0.4%増(年率1.8%増)の予想外の成長になった。需要項目別でみると、民間最終消費支出同0.4%増と民間企業設備投資同1.5%増が比較的順調な伸びである。民間企業設備投資は米中貿易戦争の影響がまだ表面化せず、一方、民間最終消費は今年だけ導入された4月末頃から5月初めにかけてのゴールデンウィークの10連休効果を挙げる意見が多い。
民間企業設備投資は企業には資金があり、投資の必要性があれば行われるのは当然で、米中貿易戦争が本格化する前であり、増加しても理解できる。ところが、民間最終消費は春闘で少しは所得が増えていてもその額は少なく、長寿命化は将来不安を高め、政府の福祉政策を信頼できないため、ほとんどの国民が10連休で財布のひもを緩めるとは思えない。もちろん、所得水準の高い人はいるわけで、休みを取れなかった高所得者がこの間、積極的に消費行動したと想定できる。事実、海外旅行者はゴールデンウィークで最高記録になっている。ただし、海外での支出はインバウンド消費の逆で、GDPの民間最終消費支出には含まれず、輸入項目になり、GDPではマイナス要因である。
つまり、民間最終消費増の要因として10連休を挙げるのは疑問が生じる。これを判断するために、国内家計最終消費支出の各項目を4つの形態(耐久財、半耐久財、非耐久財、サービス)に分類した形態別国内家計最終消費支出でみる。民間最終消費と国内家計最終消費の関係は、民間最終消費から居住者家計の海外での直接購入を加え、非居住者家計の国内での直接購入、インバウンドを差し引いたのが国内家計最終消費になる。18年度の実績(名目)で家計最終消費支出2,975兆円に対し、国内家計最終消費2,999兆円と0.8%上回っているが、無視できるほどの差であり、前期比と前年比の伸び率で差はほとんど生じない。
また、国内家計最終消費の内訳は、約6割を医療、輸送、電話、レジャーなどのサービス、3割近くを食料、電気・ガス、新聞・本などの非耐久財、1割弱を家具、家電、自動車などの耐久財、5%ほどを衣料、ゲーム・玩具などの半耐久財が占める構成になっている。
形態別国内家計最終消費は季節調整値も発表されているが、消費は季節変動が大きいため、原系列の前年比の推移でみる。最近は物価が安定しているため、国内家計最終消費の名目と実質の伸び率の解離は小さい。以下、全て実質ベースの前年比伸び率で、国内家計最終消費は16年10〜12月期以降、微増で推移しているなかで、19年4〜6月期は1.0%増と17年10〜12月期の1.6%増以来の7四半期ぶりの高い伸びになった。
国内家計最終消費全体の推移の中で、4〜6月期は低成長の中でも比較的高い伸びといえるが、形態別で特に目立つのは耐久財の5.8%増である。もし、10連休効果が大きいとすれば、輸送、レジャー、外食・宿泊などのサービスになるが、4〜6月期のサービスは0.8%増に留まっている。耐久財を除けば相対的に高成長といえても、過去の推移と比較して特別に高いわけではない。18年度の伸び率0.7%増並みで、18年10〜12月期1.2%増、19年1〜3月期1.0%増からみれば、むしろ下降していることになる。前年の18年4〜6月期が0.6%増と高い伸びではないため、前年水準が高いために低くなる要因もない。
一方、高い伸びの耐久財に10連休効果の可能性はある。特に、耐久財に含まれる乗用車はレジャー関連製品になるが、日本自動車工業会の乗用車国内販売台数による前年比伸び率の推移は18年7〜9月期1.4%増、10〜12月期6.7%増、19年1〜3月期1.4%減、4〜6月期1.9%増であり、4〜6月期に効果があったとは言えない。10連休は土曜日の4月27日から始まり、また、それが18年の11月の閣議決定で決まったことから考えれば、4〜6月期よりも1〜3月期の乗用車需要に影響すると判断できる。それが前年水準を下回っていることからも、乗用車需要には反映しなかったことになる。
結局、4から6月期の耐久財の伸びは好調な電気製品需要による。近年、女性、特に高齢者女性の就労率が上昇しており、それは家事労働の節約志向を高める。それはどの家庭にも冷蔵庫や洗濯機などはあっても、大型冷蔵庫、全自動や乾燥機能付き洗濯機などの買い換え需要要因になり、買い替えれば台数ベースでは増えなくても1台当たりの価格は高くなり、金額ベーズでは増加することになる。また、最近の夏の高温化はエアコン需要を増やし、かつ、エアコンの性能向上は電力コストの低下から買い替え需要を促進する効果をもたらしている。
耐久財は19年4〜6月期だけでなく、他の財が低迷、または盛り上がらない中で、16年度以降、上下はあっても基調として比較的高成長を維持している。女性の就労増要因が効いているが、その状態が3年を超えている。さらにこの状況が何年も続く保証はないが、この4〜6月期の伸びを見る限り、その勢いが衰える兆しは見えない。結果、耐久財需要が国内家計最終消費、民間最終消費の下支え、引き上げを期待できる一方、10月からの消費税引き上げの影響でどうなるか楽観はできない。
いずれにしても、耐久財も含め10連休の民間最終消費拡大効果はほとんどなかったと判断できる。所得の現状、将来不安などから当然の結果といえるが、むしろ、正規雇用でない労働者はこの10日間の収入がゼロの人も多いと推測できる。非正規労働者比率は4割近くになっており、このマイナスの影響は無視できない。
結局、小手先の政策で景気を引き上げられないことを、今度の10連休の消費の実態が明らかにした。やはり、現状の所得の改善と将来不安の解消を基本戦略にするしかない。
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