輸出は中国だけでなく、中国以外のアジアも減少、さらにEUも
昨年秋頃から景気の変調が話題になり始めた。その要因として中国向け輸出が急速に減少し、その他の国・地域が伸びても、輸出全体として頭打ちから減少傾向になった影響であった。ただし、輸出は金額(円)ベースの発表が注目されるが、最近は為替レートの変動幅が小さくなっていても、その影響を受けるため、動向を評価し難い問題がある。
それを補う統計に5年毎に基準年が変えられる貿易指数統計があり、現在は2015年基準になっている。貿易指数統計は米国に次いで第2位の輸出市場である中国と中国を含めたアジアでまとめられているため、中国以外のアジア地域への輸出動向が分かり難い問題がある。このため、15年の中国とアジア(含む中国)への輸出額13兆2,234億円と40兆3,287億円の割合から中国を除くアジア27兆1,053億円分の輸出数量指数を算出し、アジアを中国と中国以外の地域に分けて最近の国・地域別の輸出動向を見る。
輸出額から明らかなように、中国以外のアジアへの輸出は中国の2倍強になっており、この地域の影響は無視できない。現実に、昨年秋ごろからの輸出の減少は中国ほどではなくても、中国以外のアジアも減少しており、この影響も無視できない。ちなみに、同年の米国への輸出は15兆2,245億円、EUは7兆9,851億円で、これらの米国、アジア、EUの3国・地域で日本の輸出の8割以上を占める。
主要国・地域別輸出数量指数の前年比伸び率の図にみられるように、輸出は全体として18年上期から下期にかけて、さらに19年にはいってからと2段階で悪化している。輸出は18年上期は前年比で着実に増加していたが、下期には微減になった。下期は四半期別でも7〜9月期1.0%減、10〜12月期1.4%減で、いずれも微減である。
両四半期は全体では特に大きな差は見られないが、国・地域別では全く様相が異なる。米国、EU、中国、アジア(除く中国)の4国・地域の7〜9月期は、プラスは中国0.8%増、EU0.1%増、マイナスは米国1.6%減、アジア(除く中国)1.2%減に2分されるが、いずれもほぼ前年水準並みで、揃って頭打ちになったために成長が止まった。ところが、10〜12月期はEU6.2%増と米国5.2%増が持ち直したのに対し、中国8.6%減、アジア(除く中国)3.6%減とアジア地域が減少した。
トランプ氏が米国大統領に就任して以来、対中国輸入規制を強化してきたことで、中国に関しては経済への影響が予想され、当然、日本からの対中国輸出も減少が懸念されていた。同大統領は米国産業・経済を守るとして、18年にはいって緊急輸入制限(セーフガード)の発動で太陽光発電パネルや洗濯機などに追加関税を課した。ただし、当初は対象品目も少なく、米中貿易問題の影響は軽微であった。それが7月から拡大され、米中貿易問題が本格化してきた。18年前半頃までは中国経済への影響は顕在化しなかったが、米国の規制強化で経済成長率の鈍化傾向が見え始め、後半に入ってそれが日本の輸出にも波及してきた。
トランプ大統領の政策による打撃は早いか遅いかは別として、中国には予想通りといえる。一方、アジア(除く中国)にも同様の影響が出ているのは予想外になる。もちろん、トランプ大統領の政策は関係が無いとは思われなかったが、日本からの輸出の落ち込みからみれば、アジア(除く中国)は中国と同レベルまでは至らなくても、予想以上である。
当初は、アジア(除く中国)経済は発展して自立傾向を強め、中国の影響は軽微とみられていた。むしろ、米国が対中国輸入を規制すれば、それを避けるために周辺の国に中国から対米輸出工場が移転し、結果、日本の輸出が増えて中国への輸出減を補うという見方があった。
もともと、その見方は安易で、工場を建設するには年月が掛かる。加えて、従業員は中国から移転できるわけではなく、生産技術によるが、新たに従業員を育成するのは容易ではない。長期的には中国からの工場移転が進むと考えられるが、中国からの移転は人件費の上昇から予想されていたことで、米中貿易問題がそれを促進する要因にはなる。いずれにしろ、当面は中国の対米輸出が減少し、景気が低迷すれば、周辺のアジア地域もその影響を避けられないことを日本の輸出数量指数が示している。
さらに、19年に入ってより厳しくなっている。輸出全体では1〜3月期5.1%減、4〜6月期6.1%減と顕著な落ち込みである。国・地域別ではトランプ減税効果で景気拡大を維持している米国がこの間4.4%増、2.5%増と上昇幅は縮小傾向が見られてもプラスの伸びである。
一方、中国は11.7%減、6.7%減、アジア(除く中国)は5.8%減、5.6%減で、アジアの先行きは不透明である。米中貿易問題が解決する見通しはないため、アジアへの輸出は期待し難い。また、4〜6月期にはEUが5.1%減と1〜3月期までのプラス成長から一転している。欧州中央銀行は理事会で追加利下げや量的緩和政策の再開を検討していく方針を決めるほど経済の先行きに懸念が生じており、欧州への輸出も楽観はできない。
日本経済は輸出で景気が変動する傾向にあり、輸出に期待し難い状況で、今回は10月から消費税の引き上げが実施されるようである。引き上げによって消費が落ち込まないために軽減策が採られるが、一時的に軽減されてもその先の負担増は避けられないわけで、それまでに輸出が回復軌道に入っていなければ、景気の2番底が予想される。
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