有効求人倍率の横ばいは求人・求職両方の減少によるー求人減で労働市場の潮目が変化
高い有効求人倍率に見られる労働市場の逼迫、求職者数を大幅に上回る求人数は、少子高齢化による労働人口の減少に原因があり、経済の低成長下で好調な労働市場はまやかしという批判がある。この批判は一面では正しいが、現実に労働需要が伸びてきた面をみていない問題がある。
厚生労働省「職業安定統計」の一般職業紹介状況の求職者数(以下、特に説明がなければ全て季節調整値)で労働者の求職状況の推移をみると、新規求職申込件数(新規学卒者を除きパートタイムを含む)はすでに2009年1月の69万9,577件、それ以前に求職申請して有効な求職者として残っている人も含めた有効求職者数(同)でも10年4月の301万118人をピークに減少一途である。最近時の19年3月はそれぞれ39万6,124件、173万6,185人であり、ピーク時の57、58%水準と大幅に減少している。これは少子高齢化の影響もあるが、景気回復による雇用増効果は無視できない。現実に総務省統計局「労働力調査」で就業者数、雇用者数は伸びている。
もともと労働力を年齢で区切るのは統計の便宜上でしかなく、正確に労働力数は計れないため、潜在的な失業者を含めた全求職者数は不明になる。この間の職業安定統計にみる求職者数の減少は、少子高齢化の影響と雇用増が合わさった結果である。つまり、有効求人倍率が高水準であるのは分母の求職者数が減少している一方で、分子の求人数が増えているためである。これから判断すれば、高い有効求人倍率を経済政策の効果とするのは過大評価だが、雇用の質は別として量面では雇用は順調に伸びていたといえる。
ところが、労働市場に変化の兆しが現れてきた。もともと労働市場は景気に対して遅行指標で、変化が遅れる傾向にあるが、昨年末頃からの景気の変調が労働需要にも表れ始めた。有効求人倍率は3月も1.63の高水準で、これは18年10月の1.62を除いて同年8月以来の横ばいである。この倍率だけをみれば、労働市場は好調に推移し、変化は現れていないことになる。
しかし、求職者数が減少基調にあることから考えれば、求人数も減少していることになる。もちろん、景気回復によって雇用が増えて就労できれば、求職者数は減少するが、人手不足状態になれば、常に存在する一定の転職希望者を除けば、労働人口によって変化する、つまり労働人口が減少すれば、景気状況に変化が無くて求人数は横ばいでも、有効求人倍率は上昇する。
かつてのように人口増加、労働力が増えているときは、有効求人倍率で労働市場を評価できたが、人口減少、労働力減少の時代になれば、景気との関連では求人数が労働市場の判断材料になる。このため、有効求人数(新規学卒者を除きパートタイムを含む)をみると、18年12月の281万人をピークに19年3月の277万人まで、19年年初からの3か月間で1.7%減である。この間、有効求職者数も同様のテンポで減少していたため、有効求人倍率は1.63の横ばいに留まったことになる。
有効求人数は17年8月までは前月比で微減の月もあったが、着実に増加してきた。それ以降は一進一退傾向になったが、18年中は基調としては微増でもプラスは維持していた。それが年が明けて3か月連続の減少で、求人の基調が明確に変化したと判断できる。また、新規求人数は19年2月までは一進一退の微増の推移であったが、3月に95.7万人、前月比4万人、4.0%減の大幅な落ち込みになた。3月の減少幅は異常としても、労働市場環境が変わってきたことは明らかである。
今回のこの労働市場の変調の特徴として、ほとんど全ての分野で悪化していることが挙げられる。有効求人数、新規求人数を新規学卒者及びパートタイムを除くとパートタイムで分けると、図に見るように有効求人数は18年12月をピークに3か月連続、新規求人は19年3月に急減し、ほぼ同様の推移である。
産業別は季節調整値が無いため前年同月比でみると、19年3月の新規求人数(新規学卒者を除く)は全体が7.3%減で、主要11産業全てが減少である。ただし、医療・福祉0.8%減、建設業1.6%減などは減少幅が小さい。ほとんどの産業で雇用状況が悪くなれば、パートタイムも含めてほとんどの雇用が横並びで悪化するのは当然である。
また、低金利政策で収益が厳しいメガバンクはすでに大幅な人員削減を公表しており、19年入って協和発酵キリン、ルネサスエレクトロニクス、コカ・コーラ、カシオ計算機など大手企業の早期退職募集が相次いでおり、雇用環境の変化、潮目の変化は顕著である。ただし、変化したといっても、有効求人倍率が短期的に1を下回るほど急激に悪化し、現状の人手不足状態から、失業者増状態に変化するまでは予想できないが、徐々に人手不足が解消に向かう可能性は高い。
3月の一般職業紹介状況の発表に対し、有効求人倍率で評価して高水準横ばいとする見方が多く、その背景にある変化を指摘する意見はあまりみられなかった。日本の社会構造の変化に対応して実体経済を分析しないと判断を誤ることになる。最近、問題になっているデータの不正は論外だが、少なくとも実態が悪化している統計は信頼できる。それを冷静に評価する能力が問われて、一般職業紹介状況では有効求人倍率だけでなく、少なくとの求人数の確認が欠かせない。
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