労働生産性では日本は対OECD平均で低水準の横ばいで推移
アベノミクスが話題にならなくなって久しいが、替わってこの間の経済政策の評価が取り上げられるようになっている。当然、安倍政権側は日本経済は順調で、特に労働需要増による人手不足状態になっているように、経済政策効果が表れていると主張する。先々月、先月のこの経済レポートで指摘した景気変調に対しては、一時的なもので、景気は下降に向かっていないという見方を示している。
一方、評価しない側はこの間の実質GDP成長率は高まっていない。人手不足も労働力人口減によるもので、賃金は上昇していないことを指摘する。結果、消費は回復せず、景気も世界経済の成長率が鈍化傾向になっている影響で、日本経済の景気拡大は終焉したという判断になる。
ただ、景気は循環するため、不況に入っただけではそれまでの経済政策を否定できない。また、経済成長率、つまり実質GDP成長率は需要面からは人口、供給・生産面からは労働力人口の影響を受けるため、人口、労働力が減少している日本経済を、経済成長率だけで判断すると誤る可能性もある。米国が比較的順調に経済成長しているのは不法移民を含めて人口、労働力が増加している要因も無視ある。
このため、国際競争力評価の基礎になる労働者1人当たりの労働生産性で評価するのが適切と考えられる。これは金額で算出することになり、そのままでは為替レートの影響が大きくなる。これに関しては日本生産性本部が購買力平価に換算したUSドルによる1人当たり労働生産性(以下、生産性)を発表しており、これを使うことで国際比較を比較的正確にできる。
日本生産性本部のデータはOECD加盟国が対象で、現在の加盟36か国の統計になったのは2000年からになる。最新は17年で、加盟国中の日本の順位を2000年から18年の推移をみると、36か国中で05年と12年の20位、06年、08年、09年の22位以外は21位であり、ほぼ横ばいの推移といえる。ただし、日本より低いのは東欧、中東、中南米の国であり、欧米先進国の定義は難しいが、欧米先進国との比較では最下位水準での底這い状態での推移になる。
また、金額水準でのOECD36か国平均(単純平均)との比較では、2000年の日本は5万2,810ドル、36か国平均は5万7,714ドルで、日本は平均の88.2%でしかない。この間の比率の推移をみると、20〜22位の順位を反映して87%、88%前後で、16年に89.2%と00年を上回ったが、17年は88.0%と低下している。
一方、最も生産性の高い国と比較すると、図からも明らかなように日本の低下は否めない。17年世界1位のアイルランドの51.0%でしかなく、数年内に半分以下になる可能性がある。ただし、アイルランドは人口が480万人ほどしかなく、14年まで1位であったルクセンブルクは60万人弱であり、これらの人口小国との比較はあまり意味がない。
人口の多い国で上位にあるのは米国になり、上位の2?4位で推移し、近年の15年から17年までは3位である。米国との比較では、日本は1990年の76.5%から、95年74.3%、00年には70.5%と急速に低下していた。そして、00年代に入って低下速度は穏やかになり、05年69.2%、10年66.0%でほぼ下げ止まっている。10年代はほぼ横ばいで、最も高いのは13年の67.3%、低いのは11年の65.3%であり、17年は66.1%であることから、横ばいの推移の点では対OECDと同じである。つまり、米国経済が順調といっても1人当たりでは経済成長率はOECD平均並みで、経済成長が良く見えるのは人口増要因が大きいことを示している。
結局、生産性で比較して日本経済、産業の相対的な競争力低下は00年代までであり、10年代には下げ止まっていることから判断すれば、アベノミクス、現政権の経済政策は成果を上げたとはいえない。逆に、失敗とはいえないが、この間に大幅に膨らんだ国の財務残高、公費で買い支えている株価の正常化、収益が低下している金融機関などをどうするか宿題はむしろ増えている。
当然、現状のように生産性がOECDの中でも36国中20〜22位程度で良いわけがなく、それを引き上げことも必要になる。これに関しても、政権がすでに長いことを考慮すれば、期待できない。少なくとも現政権が成果を上げていると威張れる状況ではない。
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