2014年度は景気後退、戦後最長の景気拡大ではないのでは
2012年11月を景気のボトムに始まった今回の戦後第16回目の景気拡大は、19年1月で74か月になる。これは過去最長の景気拡大期間であったいざなみ景気と言われる02年1月から08年2月までの73か月を抜き、最長記録なるとして注目を集めている。その一方で、この間の経済成長率は実質GDPで平均1%台と低く、各年度の実績は最大でも13年度の2.6%増でしかなく、逆に最低は14年度の0.4%減のマイナス成長である。また、為替レート円安の恩恵を受ける企業の収益は良くても、それが賃金に反映されない。このため、所得の増えない一般国民は景気拡大を感じていないとして、マスコミは最長記録に疑問を投げかけている。
国民からみれば、低成長で景気拡大しても所得が増えなければ、景気拡大が長期間続いても評価できない。それよりも短期間で景気が変動しても、景気拡大、好況期に賃金、所得が伸び、不況期の横ばい、減少を補って長期的に増えている方が望ましいと思うのは当然で、マスコミの見方に賛成する人が多いようである。
短期の景気循環は在庫循環といわれ、例えば、景気拡大からピークを打って縮小への転換は、何らかの要因で最終需要が減少することが契機になる。この需要の減少で生産過剰状態になって在庫、「意図せざる在庫」がたまる。この過剰在庫の整理を目的として減産が行われる一方、不況対策の景気拡大策で需要が回復に減じれば、過剰在庫は整理される。結果、在庫の減少から生産が回復に転じ、景気はボトムを打って拡大が始まる。
つまり、基本的に生産・在庫動向によって景気循環が決まることになるが、景気判断はその他の景気指標も含めた景気動向指数によって行われる。日本の場合、内閣府の経済社会総合研究所に設置した専門家による景気動向研究会で、景気動向指数の推移から決定することになっている。このときに政治的な配慮によって判断が変えられる可能性がないとはいえない。通常、経済政策に責任を持つ政府は景気拡大状態が望ましいわけで、景気後退、不況になったと判断するのはなるべく避けたいわけで、最近のはやりの言葉で言えば政府への忖度が働くことになる。
今回の景気拡大が始まる前の12年からの鉱工業生産指数の推移をみると、前回の第15循環は12年にギリシャの債務危機の欧州財務危機への拡大、米国のオバマ政権と米議会の対立による連邦債務のデフォルト(債務不履行)危機などで景気に陰りがみられるようになったことで景気拡大が終焉を迎えた。欧米景気の先行き不安による円高も加わって輸出が減少し、この影響で12年3月が景気のピークになった。その後、欧州中央銀行(ECB)による支援、米国のオバマ政権と米議会の妥協によるデフォルト危機回避、中国の景気対策などで、世界景気が最悪期を脱した。輸出が回復する一方、国内では11年3月に発生した東日本大震災の復興需要も加わり、12年11月をボトムに景気は回復に転じた。
この間の推移は図からも明らかなように、鉱工業在庫指数(季節調整値、末期値、以下いずれの指数も季節調整値)は4半期の推移で12年7〜9月期をピークに減少し、反対に生産指数は同年10〜12月期をボトムに回復に転じている。第2次安倍政権は同年の12月の景気回復後に就任し、景気対策に力を入れた効果もあって、その後、生産指数は着実に増加してきた。
ところが、回復してきた生産指数は14年1〜3月期の103.6をピークに、4〜6月期は100.6、前期比2.9%減と大幅な減少である。その後も7〜9月期100.1と続落し、10〜12月期100.2のほぼ横ばい後、16年1〜3月期99.7、4〜6月期99.0と2四半期連続の減少で、7〜9月期にようやく101.7に持ち直した。これに対して、在庫指数(四半期末値)は14年1〜3月期の95.3をボトムに同年10〜12月の102.5まで3四半期連続で増加し、ようやく4四半期目、1年後の16年1〜3月期から減少に転じた。
生産指数が落ち込んだ要因は14年4月に実施された消費税の5%から8%への引き上げにある。当初、消費税増税によって、特に民間最終消費支出は1?3月期に駆け込み需要が発生し、その反動で4?6月期に減少することは予想されていた。それは一時的で、7?9月期からは徐々に増税の影響が解消し、生産活動も回復基調に戻ると期待されていた。ところが、現実には国民の将来不安が予想以上に強く、民間最終消費支出が前期比でプラスに転じたのは1年後の15年4?6月期である。このため、14年度の実質GDP成長率は09年度の2.2%減以来の5年振りの0.4%減のマイナス成長になった。
鉱工業生産指数とGDPの推移から、何月かの判定は無理だが14年4?6月期から15年4?6月期頃まで1年以上の景気後退期があったと判断できる。ちなみに、いざなみ景気の第14循環の景気拡大期は、鉱工業生産指数に四半期ベースの前期比の減少はあってもそれは一時的で、年ベースの減少はなく、実質GDP成長率は四半期ベースでも前期比でマイナス成長はなかった。
内閣府の景気動向研究会が忖度したかどうかは不明だが、それがなければ景気動向指数からの評価は消費税増税で景気後退は生じなかったとしても、鉱工業生産指数とGDPからは景気後退がなかったとするのは無理がある。景気動向研究会が間違っているとすれば、景気動向指数に選択している景気指標が適切でないと推測できる。もちろん、最近のように国の統計に疑問が生じている状況では、指標が問題で、景気動向研究会は正しい可能性がある。それでも、鉱工業生産指数は基になる企業のデータが製造企業の経営に不可欠であり、企業の協力が得やすいと考えられ、相対的に精度の高い統計と推測でき、景気後退は否定し難い。
つまり、現在の第16循環が戦後最長の景気拡大ではないことになるが、もし景気動向研究会が正しいとしても、2018年11月がピークになって拡大期間は72か月に留まり、記録を更新できなかった可能性もある。理由は18年12月の鉱工業生産指数(速報)が104.7、前月比0.1%減と、11月の同0.1%減に続いて2か月連続のマイナス成長になり、製造工業生産予測指数も良いとは言えないからである。
2か月連続のマイナス成長でも、10~12月期では前期比1.9%増の高い伸びで、製造工業生産予測指数は19年1月見込同0.1%減、2月見込み同2.6%増と持ち直す見通しになっている。一時的な減少と期待もできるが、12月の実現率、1月の予測修正率はそれぞれ3.1%、2.4%のいずれも下方修正であり、実績はマイナス成長が続く可能性がある。米中対立の影響が中国経済に顕在化し、米国経済も息切れ傾向が出ており、主要輸出先市場が急速に厳しくなっている。今後も予測指数から実績の下方修正が続けば、鉱工業生産は減少基調になり、景気がピークを過ぎたことになるからである。
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