2019年度の民間の実質GDP成長率見通しは18年度に続いて1%以下
2017年度の実質GDP成長率は1.9%増、名目成長率は2.0%増といずれも比較的高い成長率だった。1年前の17年度の実績見込みの見通しはそれぞれ政府1.9%増、2.0%増、主要な民間の予測機関1.7?1.9%増、1.6?1.9%増で、需要項目別では幅があるが、GDPは政府が実質、名目のいずれも実績通りで、各民間予測機関のGDPはそれより少し低い程度である。民間が低かったのは民間設備投資と輸出の見込みが低かったことにある。つまり、輸出が見込より多くなり、その結果、設備投資も見込みを上回ったと判断できる。
全体として1年前の各機関の経済見通しは17年度の後半の状況を比較的的確に判断していたといえるが、それが正確な18年度経済見通しに結び付くわけではない。今回の19年度見通しの前提となる18年度実績見込の見通しでは、政府も含めて実質、名目ともにGDPで0.6?0.9%増である。
一方、1年前の18年度経済見通しは政府の実質GDP1.8%増、名目GDP2.5%増に対し、民間はそれぞれ1.0?1.2%増、1.2?1.9%増だった。政治的判断で高く出す政府は別としても、17年度よりも低くなると予測していた民間予測機関でも1%台の成長であり、いずれも楽観的過ぎたことになる。もちろん、結果が出るのは半年ほど先で、18年度の実績が1%台に乗る可能性は否定できないが、12月中旬以降の株価の急落を見れば、むしろ下方に振れる可能性の方が高い。
18年度経済見通しで1年前のGDP成長率が実質、名目ともに過大になった最大の要因は輸出入バランス、つまり財貨・サービスの純輸出にある。1年前には、いずれの見通しでも輸出が輸入を上回っていたが、今回の18年度実績見込みの見通しでは、ニッセイ基礎研究所が実質で財貨・サービスの輸出2.4%増、財貨・サービスの輸入2.2%増と、輸出が輸入を上回っているだけである。他はいずれも輸入が輸出を上回り、ニッセイ基礎研も逆とはいえ、輸出の伸び率は17年度実績の半分以下である。全体として、輸出主導の成長が頭打ち傾向に対し、日本の経済構造は輸入が減少し難い状況になっていることが挙げられる。
一方、為替レートの見通しは対ドルで18年度は17年度とほぼ横ばいである。円安で生産基地は海外から国内にUターンするという説が広まった時期もあったが、実態はそうではなかった。円安になっても厳しい価格競争は続いており、現状程度の円安では国内生産の価格競争力の回復が困難なことを反映している。加えて、長期的な日本の人口減少、若年労働力不足の問題も無視できない。
19年度経済見通しでは高い数字が求められる政府の実質GDP成長率1.3%増、名目GDP成長率2.4%増は別として、民間の各予測機関の実質GDP成長率は日本総合研究所の1.0%増以外は、2年連続でいずれも1%増を下回り、0.7?1.0%増に収まっている。各民間予測機関の18年度実績見込みの見通しとの比較では、上下はあっても0.3ポイントの範囲内で、全体としてほぼ横ばいである。
需要項目別でも各予測機関間に大差はなく、19年10月に予定されている消費税の引き上げの影響も軽微という判断でも同じである。引き上げ幅が前回の3%に対し、今回は2%と小幅に留まることや、政府の影響軽減対策効果を予想しているためである。輸出も中国と米国の経済成長率の伸びが鈍化するとして、18年度と同程度でしかなく、高い伸びにはならないことで一致している。
実質GDP成長率見通しは各民間予測機関で乖離が小さいのに対し、名目GDP成長率では1.1?2.0%と比較的大きいのが今回の予測の特徴として挙げられる。その要因として消費者物価見通しの格差がある。名目成長率を2.0%としている日本総合研究所と三菱総合研究所は、消費者物価(生鮮食品を除くい総合)上昇率で19年度をそれぞれ1.5%増と1.9%増としている。日本総研は0.4ポイント低いが、実質GDP成長率は1.0増と民間の予測機関では最も高い。これに対して、消費者物価(同)が最も低い三菱UFJリサーチ&コンサルティングは0.5%増で、三菱総研との乖離は1.4ポイントにもなる。
両予測機関ともに消費税の引き上げを前提とし、為替レートや原油価格の予測には大差がないため、賃金上昇の消費者物価への波及効果の見方によって差が生じていると推測できる。19年度も人手不足から一定程度の賃金上昇の予測になるが、それを価格に転嫁できるとみるかどうかである。消費が弱いため転嫁は難しいと判断すれば、物価上昇は低くなる。一方、賃金をはじめコストアップで採算が厳しい状況にあり、転嫁せざるを得ない判断では高くなる。小売業は消費が冷え込んでいる状況下で、低価格化に力を入れていることから考えれば、消費者物価上昇率は低い方が正解になるのではないか。
これらの見通しからは19年度も国民が好況を感じるようになるとは思えない。むしろ、株価が大幅に上下しながら趨勢的には下方に向かっている。各民間予測機関が発表した12月10日以降、その傾向が明確になっている。特に、米国は株価の消費に与える影響が大きく、すでに経済成長に頭打ち傾向が出始めていることを考慮すれば、年明け以降、米国の景気の頭打ちが明確になる可能性が高い。となれば、これらの各機関のGDP見通しよりも現状では低い予測になり、延いては消費税の引き上げの実施も難しくなる。
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