労働力不足を技能実習生と留学生に頼る現状で良いのか
政府は「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)で新たな在留資格を設け、最長10年の就労を可能にする方針を決め、来年4月から実施する予定である。これにより外国人労働者は3年から5年の技能実習を修了するか、業種ごとに導入される新たな試験に合格すれば、さらに最長5年の就労、最長10年間就労できることになる。
現在、日本では高度の専門的な能力、熟練した技能、知識などを有する人材以外の一般的な労働者は、技能実習生としてか、または留学生のアルバイトとして就労が認められている。技能実習の建前は母国の発展に貢献できる人材の育成、留学生は日本で高等教育を受けるための資金の確保が目的だが、現実には国内の単純労働力の不足を補う手段になっている。
今回の景気回復局面での雇用の推移をみると、有効求人倍率(季節調整値、パートを含む)が1を超えたのは13年11月、同(同、パートを除く)が1を超えたのは14年11月からで、29年まで上昇の一途で、最近は頭打ちの傾向がみられるが、高水準の推移である。また、就業者数は12年が底になり、前年比で13年46万人、14年45万人、15年30万人、16年64万人、17年65万人のいずれも増加である。この有効求人倍率と就業者数の推移から、15年頃から人手不足状況になり、16年頃からそれが深刻化しているといえる。
法務省「在留外国人統計」によると、2017年末の留学者は31万1,505人、技能実習生は27万4,233人である。12年末からの技能実習生と留学生の推移は、日本の労働市場の動向を反映している。技能実習生は17年11月からそれまでの実習期間3年から5年に延長されているが、17年末の統計ではその影響は少ないと考えられる。
能実習生は増加基調が続いており、前年比で12年末9,483人、13年末3,729人、14年末1万2,420人、15年末2万5,029人、16年末3万5,944人、17年末4万5,645人のいずれも増加で、14年末からは加速がついている。また、留学生は10年末の20万1,519人をピークに、12年末の18万0,919人まで2年連続で減少した後は増加し、16年末、17年末は2年連続で前年比3万人以上の増加である。
うち、大学・大学院生の留学生は文部科学省「学校基本調査報告書(高等教育機関)」で16年をみると、全留学生11万2,089人中、国費留学生9,123人、私費留学生10万2,966人と私費が大部分になっている。本来の目的は勉学だが、日本でアルバイトで稼ぐのを目的としている留学生は少なくないと推測でき、それが日本の労働市場の影響を受けて大きく変動している要因と判断できる。
もちろん、勉学が本来の目的であるため、アルバイト時間は学業に支障がない範囲に制限され、週28時間になっている。週1日の法定休日がアルバイトにも適用されるため、学校が休みの土曜日か日曜日に8時間働くとして、残りの5日間で平均4時間労働になる。これでは平日に毎日学校に行きながらアルバイトすれば、十分な勉強時間が確保できるとは思えない。逆に、アルバイトを主として違法な長時間労働や複数就労によって28時間以上働くのは、マイナンバー制度は留学生も対象になるため、一般的な企業の就労では難しいと推測できる。
図から明らかなように、留学生と技能実習生の差が縮小傾向にあり、その差は14年の7万6,899人から、17年には3万7,272人になっている。企業が留学生のアルバイトよりも技能実習生の採用に力を入れていることを反映していると推測できる。19年の滞在期間の3年から5年への延長、そしてさらに5年延長する今回の方針は、留学生は専門学校も含めて生徒数に限界があり、学生としては長時間労働であっても、一般労働者には労働時間が短く、使い難いという経営者側の要望によるのではないか。もともと、学生バイトに大きく依存する構造が間違っている。
また、留学生と技能実習生の出身国は、留学生は17年末で中国が12万4,292人、全体の40%を占め、突出した1位で、第2位のベトナムは7万2、268人と大きく下回っている。ただし、中国がピークの10年末の13万4、483人から、14年末に10万5,557人で底を打って回復傾向でもまだ下回っているのに対し、ベトナムは増加一途である。17年末の留学生は以下、ネパール(2万7,101人)、韓国(1万5,912人)と続いている。
一方、17年末の技能実習生はベトナムが12万3,563人、全体の46%を占めて第1位で、中国は第2位の7万7,567人であり、留学生とは逆になる。ただし、15年末までは中国が第1位であり、ベトナムが急速に増やしてきた結果である。また、技能実習では17年末の3位以下は、フィリッピン(2万7,809人)、インドネシア(2万1,894人)、タイ(8,430人)などが続いており、いずれも急速に増加している。
中国は経済発展によって労働力不足傾向になり、賃金が急上昇している。結果、日本に仕事を求める需要が低下し、それが日本で働く技能実習生の頭打ちとなって表れている。その穴埋めとして、ベトナムをはじめとする東南アジア諸国に技能実習生を広く求めるようになっている。東南アジア全体としてみれば、人口は多く、さらにはインドも可能性があり、技能実習制度は人材確保策としては有効に働いてきた。今回の最長10年間の技能実習制度は、それをより確実なものにすると期待はできるかもしれない。
しかし、技能実習生は来日までに多くの費用を支払い、職場を変える自由もなく、違法に低賃金で長時間労働を強いられているものも少なくない。期待していた労働とは異なると反感を持つ技能実習生も多い。また、単なる労働力として長期間働かせて帰国するだけの政策に対して、人権問題とする意見もある。日本側の都合だけを考えた政策が、長期的に上手くいくとは思えない。期間延長だけでなく、禍根を残さないために、技能実習制度自体の見直しを優先すべきである。
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