高齢化、需給のミスマッチによる求人倍率の上昇
今回の景気回復局面の特徴として、有効求人倍率の上昇、人手不足の深刻化がある。2017年平均の有効求人倍率(含むパート、以下同じ)は1.50倍、統計史上では1973年の1.76年に次ぐ2番目の高水準となった。73年当時は年率10%を超える日本の高度成長は終わったが、一般的にはまだその認識はなく、企業は雇用拡大に積極的であった。
ところが、過去に例のない金融緩和で為替レートが円安になり、企業収益が高水準とはいえ、実質GDP成長率はプラス成長でも1%台でしかない。経済成長率からみれば雇用環境が大きく好転する状況にはなく、高い有効求人倍率とは乖離している。
その要因を職業別の有効求人倍率から考える。職業別の有効求人倍率は常用雇用を対象としているため、一般的に取り上げられる有効求人倍率より低く、17年平均でも1.35倍になる。ただし、人手不足対策から企業は常用雇用を増やしており、18年2月の非常用も含む有効求人倍率(季節調整値)の1.58倍に対し、職業別の有効求人倍率(同)は1.51倍であり、急速に格差は縮小している。
求人数の多い主要職業で有効求人倍率が17年で高いのは、専門的・技術的職業の建築・土木・測量技術者5.07倍、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師5.57倍、サービスの職業の介護サービスの職業3.57倍、飲食物調理の職業3.16倍、接客・給仕の職業3.16倍、保安の職業7.23、輸送・機械運転の職業の自動車運転の職業2.72倍、建設・採掘の職業の建設躯体工事の職業9.21倍、建設の職業4.01倍、土木の職業3.62倍などである。
全体の職業別の有効求人倍率は15年から1倍を上回る、つまり求人が求職より多くなり、それ以前は1倍を下回っていた。ところが、これらの有効求人倍率が高い職業はそれ以前から1倍を上回っていたことが特徴として挙げられる。特に、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師は13年で6.91倍とむしろ高かった。求人数でも13年の26万人に対し、17年は22万人と減少してもこう水準で、不足状態にあることには変わりはない。
資格を取得するための教育期間が長く、それを担う大学の定員に制約がある医師、歯科医師、獣医師、薬剤師は特別といえるが、他の職業でも人手不足状態が長期化し、それが深刻化していることは、構造的な問題と考えられる。その代表が大工、ブロック積・タイル張従事者、屋根ふき従事者等の建設躯体工事の職業である。求人数は17年で約8万人、13年でも約7万人と少なく、かつ求人数が1割強程度増加しただけで、この間に5.93倍から9.21倍へと人手不足がより一層、深刻化している。
高齢化が進む中で就職を希望する若者が減少してためと推測できる。これは有効求人倍率はそれほど高くはないが、宅配便のドライバー不足で注目を集めた自動車運転の職業も同様である。求人数は13?17年で110万人から125万人へと1割強の増加で深刻化したことは、若者の車離れと無関係ではないと考えられる。
高齢化、長寿命化は長期的に働ける職業、つまり体力が必要な職業、長期的に需要が見込めない産業の職業は避けられるようになる。かつ、比較的容易に参入でき、労働条件が良くなければ、就職希望が増えないのは当然といえ、若者人口が減る中では構造的な人手不足職業になる。逆に低いのは事務的職業で、17年は0.44倍でしかなく、18年2月でも0.54と求職者の半分程度の求人で、労働需給のミスマッチの構造を裏付けている。
一方、有効求人倍率では同じように深刻化しているように見えても、介護サービスの職業は事情が異なる。介護サービスの求人数は13年の177万人から、17年には258万人へと46%も増えていることが人手不足の主要因である。資格が必要であっても、取得はそれほど難しくはなく、高齢者でも働ける職業であり、就業者は増えている。それでも有効求人倍率が高まっているのは、介護サービス需要の伸びが高いためで、需要の伸びが低下すれば労働需給の改善、均衡化が見込めるが、高齢化で潜在的な需要の伸びは高い。ただし、介護サービスに対する支払い能力から需要が抑制される可能性はある。
以上から判断すれば、景気が悪化すれば当然、有効求人倍率は低下するが、若者人口が今後も趨勢的に減少が避けられない状況では、構造的な要因からその低下速度は穏やかなものに留まるという予測になる。つまり、労働力対策が重要になり、速効性のある外国人労働力の導入の検討が必要と考えられる。しかし、安倍首相の支持層の日本主義者には反対意見が強く、政策議題にもなっていない。これに対して、企業側、財界から人手不足対策として真剣に取り組むように要請があっても良いと思われても、その動きは見られない。
穿った見方をすれば、人手不足による賃金上昇、需給ひっ迫化による物価上昇、つまり2%物価上昇を目指していると推測することもできる。ただし、その場合、経済に大きな打撃を与えないで、物価上昇に歯止めが掛けられるかどうかが新たな課題になる。
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