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消費者物価上昇率見通しの希望・期待と現実

 2013年3月に日本銀行総裁に就任した黒田東彦氏は、脱インフレの象徴として消費者物価上昇率2%を目標に掲げ、当初は2年程度で実現するとして大規模な金融緩和を続けてきた。その後も2%上昇は実現するとしてきたが、5年近く経った現在でも実現していない。この経済レポート欄で所得が増えない一方、税・保険料負担が増え、社会保障政策の改悪が進む状況で、将来不安が高まっているため、国民の消費抑制傾向が続く。結果、消費者物価は上昇せず、2%上昇は実現しないと主張してきた。

 実際、2%目標は未達成のままで、当初は実現を信じていたとしても、最近はそれを信じる人はほとんどいなくなったと思う。それでも、それを信じて期待していた政府関係者や政権支持者は、その旗を降ろした影響が経済だけでなく、政治的にも怖くて、上げた旗は降ろせないのが実態ではないか。

 ところが、最近になって新たに2つの意見がみられるようになっている。1つは2%上昇でなくても脱インフレは実現し、1%台で十分としてハードルを切り下げる、もう一つは、消費者物価上昇率が高まりつつあり、2%上昇が近く実現するというものである。

 もともと、需給が悪化し、物価が下がる現状をデフレというが、需給が悪化しなくても物価が下がることはある。日本では為替レートの円高時に輸入物価の値下がりを通して消費者物価が下がる経験がある。円高になると輸出採算が悪化し、輸出を増やし難くなるため、輸出産業は大騒ぎして社会全体として景況感は悪くなる。しかし、実際の景気はそうではなかった最近の例では、2008年の1ドル100円台から11年の70円台までの円高時に、09年3月を景気のボトムに、12年3月のピークまで景気は回復、上昇していた。この間、13年5月まではほぼ前年同月比でマイナスであった。つまり、需給悪化、不況と物価の下落はイコールではない事例である。

 この意味から消費者物価に拘らない考え方はあり、2%上昇になれば脱デフレと決める根拠はない。つまり、1%台で脱デフレと判断することは可能である。ただ、目標の引き下げは金融緩和のマイナス面の影響が顕在化してきたためで、金融政策転換をし易くするのが目的という批判もある。

 また、16年末ごろから消費者物価上昇率は穏やかでも上昇傾向にあり、総合指数で17年12月の前年同月比は1.0%増になった。変更の大きい生鮮商品を除く総合も11月に続いて2か月連続の0.9%増で、水準が切上がりつつあるようにみえる。しかし、生鮮食品と、消費者物価への影響が大きくて価格上昇の激しいエネルギーを除く総合では、12月も0.3%増に留まる。物価の基調が変化したとは言い難い。

 エネルギーは輸入原油の比重が高い影響が現れたが、すでに輸入原油価格高騰の波及効果は一巡しつつある。それは消費者物価指数と国内企業物価指数、輸入物価指数との関係から分かる。まず、国内企業物価は16年年央頃の前年比マイナスから徐々にマイナス幅を縮小し、17年に入って同プラスにまで上昇し、これが消費者物価にまで波及してきた。国内企業物価上昇の背景には輸入物価指数の高騰がある。

 輸入物価指数の統計には円ベースと契約通貨ベースがあり、当然、円ベースの輸入物価が国内企業物価、さらには消費者物価に直接、影響するが、契約通貨ベースと比較することで、契約通貨ベースでみられる国際商品市況とそれに為替レートの影響のいずれによる価格変動か判断できる。

 契約通貨ベースは16年央頃の大幅な落ち込みをボトムに急回復し、17年3月の前年同月比12.6%増をピークに落ち着き、上昇は一巡傾向にある。上昇の要因は中国が低価格の鉄鋼製品の輸出を抑制し、また、世界景気の回復で非鉄金属の価格が回復したことで、金属製品価格全体が上昇した。加えて、原油が産油国の減産による需給の改善と政情不安があり、1バレル当たりの原油価格は30ドル台から60ドル台にまで大幅値上がりしてきた。ただ、上昇一途というわけではなく、頭打ち傾向にあるため、前年比上昇率は頭打ちから低下傾向にある。特に、原油は現状以上に値上がりすると、米国のシェールオイル・ガスの生産が拡大する可能性が高く、それが重しとなって最近の水準は限界にきている。消費者物価への影響の大きい原油価格の頭打ちが契約通貨ベースの上昇一巡をもたらしている。

 円ベースの輸入物価指数は契約通貨ベースから7カ月遅れて10月がピークである。契約通貨ベースから遅れた要因は為替レートの円安にあるが、今年は年明け後、為替レートは円高である。円高が今後も進むかどうかは不明だが、トランプ大統領の貿易赤字対策から判断すれば17年水準を超えるような円安は考え難い。以上から判断すれば、輸入物価を通しての消費者物価上昇は予想できない。

 となれば、国内要因による消費者物価上昇の可能性が問題になる。これに対して、労働需給のひっ迫が賃金上昇をもたらし、それが商品・サービスの値上がりに繋がるとする2%目標の実現を予想する新しい意見が現れてきた。実際、パート、アルバイトの賃金は上昇傾向にあるが、労働需給統計のひっ迫状況からみれば、上昇率は低い。

 賃金の上昇に加えて原材料費の値上がりを理由に値上げを実施した飲食業もあるが、一部に留まっている。逆に、大手小売企業はプライベートブランドを中心に製品値下げに力を入れており、消費者の財布の紐は相変わらず固いと判断している。多くの消費者を顧客にしている大手小売業の方が、全体の実態を認識しているとみるのが正当であろう。

 また、政権の3%賃上げ要請に対して応える大手企業も存在するが、広がる気配はない。むしろ、年明け後の円高は円安で潤った輸出企業に賃上げ抑制に向かわせる可能性もあり、税・保険料負担が増える状況で、どれだけ実収入が増えるのか見通しは厳しい。

 消費者物価の2%上昇どころか1%台の上昇も当面予想できないが、長期の異常な金融緩和のマイナス面を問題にする主張が広がり始め、金融政策の転換を求める声が強まりつつある。それに対して、低金利による株高が政権を支えているため転換できないという見方もあり、そうであれば現在の異常な金融緩和が長期的し、そのツケは貯まる一方になる。

消費者物価と企業物価指数の推移(前年同月比上昇率)

経済の視点
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| 2018年01月31日 | 景気 | comments(0) | - |
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