企業規模に関係なく低い賃上げ率
2017年4〜6月期の実質GDP成長率(一次速報値)が前期比1.0%増、年率4.0%増と比較的高成長になった。その主因の一つに実質民間最終消費支出がそれぞれ0.9%増、3.7%増になったことが挙げられる。一部には消費税増税による影響が解消し、個人消費が持ち直す兆しとする楽観的な見方も出てきている。
消費が基調として改善に向かうには、消費者が将来を現状よりは悪化しないと思えなくてはならない。社会福祉政策面では長寿命化に伴って税・保険料負担を増やし、かつ医療・介護費の個人負担比率を引き上げられている。近年の高齢者就業率の上昇は、それだけ健康な高齢者が増加したといえる一方、蓄えを増やせなくても、少しでも減らさない目的もあると推測できる。
となると、個人消費は雇用増と賃上げによる収入面からの改善効果に期待するしかない。雇用は長期的にひっ迫状況が続いていれば、求める労働条件を高くしない限り、就労の場の確保の心配は少なくなる。加えて、遅ればせながら正社員の需給も改善傾向にある。
問題は賃金である。労働者1人当たりの賃金の伸びは、労働需給のひっ迫、政府の賃上げ要請のかけ声にも拘わらず、低い伸びで推移している。基本的に基本給が上がらない、つまり、賃上げが不十分なためである。
賃上げを厚生労働省「賃金引き上げ等の実態に関する調査」でみると、17年の賃上げの発表はまだだが、16年までの実績は常用労働者(正社員以外の長期雇用の労働者も含む)100人以上の企業の加重平均で12年1.4%、13年1.5%、14年1.8%、15年1.9%、16年1.9%である。僅かでも賃上げ率が高まる傾向から、16年に頭打ちになった。
この調査の17年は不明でも、同省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」では16年の2.38%から、17年は2.14%に下がっている。これから推測すれば、1.8%以下になっているとまではいえなくても、1.9%を超えるとは考えられない。
16年の1.9%は金額では5,176円でしかない。税・保険料負担が増える中で、この程度の賃上げ額であれば、手取りが増えていても、その実感は乏しいと推測でき、17年も変わらないであろう。
また、最近の特徴として4区分の企業規模間で賃上げ格差が小さいことが挙げられる。つまり、低水準横並びの推移である。12、13年は規模間賃上げ率格差が0.1ポイントしかなく、それも4区分のなかで、いずれも1つだけが0.1ポイント高いだけで、他の3つは同じである。
賃上げ率が高まった14年は格差が拡大したが、それでも1.6〜2.1%で、最大で0.5ポイントの格差でしかない。そして、15年もその傾向が強まっても、1.6〜2.2%にとどまり、0.1ポイント広がっただけである。逆に、16年は1.8〜2.0%、最大で0.2ポイントに縮小し、均一化傾向にある。これは別掲の参考資料の製造業と卸・小売業の30〜99人も同様の推移であり、調査対象外の小零細企業の29人以下を除けば格差は小さい。
いずれにしても、よほどの事情がない限り、マイナスの賃上げ、つまり賃金の切り下げはない。つまり、企業規模間の賃上げ格差が小さいのは、好景気で収益を挙げている企業が賃上げを抑制しているのが原因と考えられる。例えば、アベノミクスによる円安で、14、15年には輸出産業、特に常用労働者数でいえば5,000人以上の自動車の完成車メーカーは高収益を得ていた。しかし、その労働者への還元は賃上げではなく、一時金を増額する方法をとっている。
結果、それほど収益が上がっていない企業は、採用のために高収益企業に対抗して賃上げする必要がないため、低く抑えるのは当然である。そして、低水準横並びの賃上げになれば、一時金収入時に消費支出を拡大しても、それは一時的で、基調としては抑制的にならざるを得ない。
以上から判断すれば、個人消費は雇用増の下支え効果で悪化する可能性はないが、力強い回復は予想できない。四半期では季節的要因などで比較的高い伸びをすることはあり、4〜6月期の数字で消費回復とするのは過大評価になる。
また、賃上げは賃金コストアップから製品・サービス価格の引き上げに繋がり、政府や日本銀行が求めている消費者物価上昇にも結び付く。しかし、1%台の上昇ではそのコストアップ分は企業努力で吸収され、消費者物価の上昇にならないことは最近の物価動向から明らかである。
逆に言えば、製品・サービス価格の引き上げが需要の減少をもたらすため、企業努力で吸収できる程度の賃上げが現在の賃上げ率・額といえる。民間の判断すべきことに国が口を出す問題の評価は別として、企業が賃上げに消極的であるのに対し、賃上げを要請するのは景気、物価対策から正当といえる。しかし、強引な国会運営と比較すれば、消極的過ぎる結果が現状である。
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