消費者物価は何故マイナスにならないのか
日本銀行は7月20日の金融政策決定会合で、消費者物価の見通しを修正し、以前から目標にしていた消費者物価上昇率2%の達成を、これまでの2018年度頃から19年度頃へと先送りした。もともと、2%上昇は13年3月、日銀総裁に就任した黒田東彦氏が金融緩和によって2年間で達成する、と発表したことで注目を集めた。それから実現できずに今日に至り、今回の延期は実に6回目になる。また、就任した副総裁は「2年間で物価上昇を実現できなければ辞任する」と発言したが、現在も副総裁のままである。
当初は金融緩和の効果に加え、それまでの円高要因だったヨーロッパの金融危機が収まりつつあったため、為替レートが円安になった。同時に、国際商品市況が上昇したため、輸入物価上昇の影響で消費者物価上昇率はそれまでのマイナスからプラスに転じ、2%上昇の実現を期待を込めて予想する見方もでていた。
それに対し、消費者の実態から、円安と国際商品市況上昇の影響が一巡すれば、消費者物価上昇率は元に戻るとこの経済レポートで主張してきた。その後も所得があまり増えない一方、税・社会保険料の負担は増え、将来不安が少しでも改善する見通しはない。結果、消費者の節約志向が続き、それが日銀の6回もの延期表明の背景にある。
現在の消費者の状態は雇用需要が改善していても、特に将来不安は安倍政権発足以前とたいして変わらない。これからみれば、むしろ消費者物価上昇率はマイナスになる可能性が高いが、現状はマイナスまでには至っていない。
ただし、最近では16年4月から9月まで半年間、消費者物価上昇率は総合指数で前年比マイナスだった。原因は前年の為替レートが1ドル120円台だったのが、100円台にまで上昇した円高の影響である。それが再度、円安傾向になり、16年末には110円台に戻し、17年はほぼ110円台前半で安定した推移になっている。これを受けて16年10月以降は総合指数で0%台だがプラスの微増で推移している。
最新の6月の前年同月比上昇率は、総合は0.4%増、天候の影響を受ける生鮮食品を除く総合も同様に0.4%増、これに対し、生鮮食品及びエネルギーを除く総合は0.0%、横ばいである。原油価格上昇の影響を除けば、前年と同じになり、最近は基調として顕著な上昇にはならないが、マイナスにはなっていない。
消費者が節約志向、価格志向を強めているのを受けて、大手の小売企業は低価格のプライベート商品に力を入れている。このような消費環境からみれば、国際商品市況の上昇、円安にならない限り、過去の経験からの判断では、消費者物価上昇率はマイナスの予測になる。
ところが、現実にはそうなっていないわけで、構造変化が生じている。6月の消費者物価を10大費目分類でみると、前年同月比でプラス、マイナスの両方があるが、目立つのは原油価格上昇の影響を受ける光熱・水道の3.5%増だけで、マイナスの方では最大でも家具・家事用品の0.8%減でしかない。
消費財製造・販売企業は消費者のニーズに合わせて、コスト削減、低価格商品の開発・販売に力を入れている。従来、商品の低価格化は中国に代表される低賃金国で製造、輸入することで実現してきた。
ところが、中国、タイなどで賃金が上昇し、現在はこれらの賃金上昇国・地域から低賃金国・地域へと製造拠点を移転している。結果、表面的には同じ様に見えても、従来の日本から低賃金の国に製造拠点を移すことで実現できた、商品の低価格化、消費者物価の引き下げ構造とは異なる。最近の中国やタイなどからの製造移転は、これまでに実現した低価格を維持するために、アジア諸国内での製造移転になっている。つまり、海外生産による一段の値下げまでを目的にはしていない。
一方で、日本国内は労働力不足傾向にあり、低いとはいえ賃金水準は値上がりしている。これに対し、消費が回復しないなかで、小売企業は国内での人件費のコストアップを企業努力で吸収し、価格への反映は難しい。国内外の要因から、最近の横ばいから1%にも遠い微増の消費者物価上昇に現れているといえる。
結局、海外商品市況や為替レートを別にすれば、消費が回復しなくても消費者物価上昇率はマイナスまでには落ち込まない。しかし、日銀の予測か期待かは分からないが、2%上昇はもちろん、1%台の上昇も予想できない。
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