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労働力不足下でも平均賃金が増えない理由を考える

 消費低迷の要因としてマスコミでも指摘されるようになった、国民が政府の社会福祉政策による将来不安から、生活防衛で支出を抑制している影響というのはよく理解できる。一方、有効求人倍率が上昇を続け、労働力不足は深刻化している。それにも拘わらず、所得は厚生労働省「毎月勤労統計調査」の平均賃金でも前年比で1%増にも満たない僅かな伸びでしかない。安倍首相も企業に賃上げを呼びかけ、経団連もそれに応える姿勢を示しているが、賃金にはほとんど反映していない。収入が増えず、将来不安が高まれば、消費低迷は当然といえるが、労働需給と賃金の関係が崩壊し、労働需給と賃金との乖離現象が現経済局面の特徴として挙げられる。

 かつては雇用者数が増えていても、その中身はパートで、正社員はむしろ減少していたため、それが平均賃金が増えない理由になり、説得力を持っていた。また、低賃金産業での雇用の増加を賃金が増えない理由として以前、この経済レポートで指摘したこともある。ところが、労働者不足傾向が強まり、2015年頃から正社員の雇用も底入れ、さらに増加に転じてきた。また、パートの人材不足から、パート賃金の値上げも一部で行われるようになり、正社員とパートの雇用動向や産業要因だけでは説明し難くなっている。

 今回は総務省「労働力調査」(詳細集計)の年間収入階級別でその理由を考える。労働力調査の詳細集計では正規職員・従業員(勤め先で一般職員や正社員などと呼ばれている人)と非正規職員・従業員(勤め先で「パート」「アルバイト」などと呼ばれている人、「労働者派遣事業所の派遣社員」・「契約社員」・「嘱託」など)に分けて、収入階級別に集計されている。

 これによると、東日本大震災後の12年からの推移で、正規職員・従業員数は14年の3,278万人をボトムに増加に転じ、16年には3,356万人にまで回復している。正規職員・従業員の年間収入は階級別で低賃金の「100万円未満」や「100〜199万円」の人数は減少傾向にあるのに対し、「400〜499万円」「500〜699万円」の階級は着実に増加している。つまり、正規は増加に転じているのに加え、全体として高収入階級に移行しており、この間の賃上げやボーナス増の恩恵を受けていることを示している。

 一方、非正規職員・従業員数は企業の雇用戦略を反映して一貫して増え続け、16年には2,015万人、全職員・従業員数の38%を占めるまで拡大している。年間収入の階級別は正規とは逆に「100万円未満」や「100〜199万円」の人数は引き続き増えており、その他の階級も増える傾向にあるなかで、正規がボトムになった14年を挟んで変化がみられる。

 非正規全体に占めるこれら低収入の2階級を合わせた「200万円未満」の割合は12年の75.5%から、16年は74.0%へと1.5ポイントも低下しているが、14年は74.2%である。つまり、12〜14年は「200〜699万円」の非正規が比較的高い伸びになり、「200万円未満」の割合が顕著に低下したが、14〜16年はそれにブレーキが掛かった状態になっている。これは正規を希望してもその就職先が見つからない人がやむを得ず非正規で働いていたのが、正規に転職できるようになり、それによって非正規が抑制された影響と推測できる。

 また、「100万円未満」と「100〜199万円」の人数はそれぞれ12年で731万人、638万人、16年で775万人、717万人、この間の伸び率は6.0%増と12.4%増であり、所得水準の高い「100〜199万円」の増加数が「100万円未満」を上回っている。全体としては低賃金の非正規職員・社員でも賃金水準が上昇していると判断できる。

 それでも正規職員・従業者は「200〜699万円」の収入が16年で2,438万人、正規の72.6%を占め、これに対し非正規は大部分が「200万円未満」であり、かつ絶対数は「100万円未満」の方が多いことは、全体の所得水準を引き下げる影響は大きい。また、14年からの正規の雇用増は全体の平均賃金を引き上げる効果になっても、その一方で、この間に非正規の中の高収入非正規の割合の上昇速度が低下すれば、非正規平均、ひいては正規も含めた全体平均の引き上げテンポを減速することになる。もちろん、各階級の金額幅は少なくとも100万円もあり、その幅の中のどの位置にあるかが分からないため、単純に評価はできないことに留意する必要がある。基本的には、着実に収入階級が上位に移行しなければ、賃金上昇には限界があるといえる。

 また、「100万円未満」の低収入階級が労働需要の拡大下で着実に増加し、また高齢者雇用の就業増と合わせて考えると、年金不足の補填や生きがいなど個々の事情は別として、パート労働志向の強い高齢者が増えてきていると判断できる。それは、通常の営業時間の企業にとっては、フルタイム従業員であれば1人で済むのを、複数の従業員が必要になる。結果、従来と同様の経済状態でもより多くの雇用者を使うことになり、それだけ求人数を膨らせ、有効求人倍率を実態以上に高めることになる。

 人手不足でも企業は人口減少、高齢化が進む日本の市場拡大に期待を持てないため、労働コスト抑制意欲が強く、建前では安倍首相の賃上げ要請に同意しても、賃上げには慎重になる。これらの要因が重なり、毎月勤労統計調査でみて前年比0%台増でしかない賃金上昇になっている。労働需給と賃金との乖離現象をもたらす現在の環境が変化することは想定し難い。このため、景気が不況に落ち込まない限り、労働需給の逼迫状況が続くと予想できても、賃金は上昇しない。そして、それは消費者物価の上昇を抑える要因にもなる。

年間収入階級別正規の職員・従業員数

年間収入階級別非正規の職員・従業員数

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| 2017年03月01日 | 雇用 | comments(0) | - |
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