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トランプ政策の自動車産業への影響を考える

 トランプ氏が新米大統領に就任した直後から選挙公約を実行し、それも矢継ぎ早である。すでに、就任前から為替レートを通して株式市場が大きく変動しており、当面、直接、間接を問わず日本経済、産業への影響は避けられない。特に、日本との貿易格差問題、なかでも日本の対米自動車輸出へのトランプ氏の批判は大きい。

 かつて、1970年代に発生した2度の石油危機で原油価格が高騰した効果で、燃費の良い日本の小型乗用車への需要が米国で急増し、70年代末に日米貿易摩擦の再燃を経験している。遡れば、日米貿易摩擦は古くは50年代に繊維製品であったが、日本国内では大騒ぎになっても、米国では一部の問題でしかなかった。しかし、70年代末の自動車は米国の代表的産業であり、深刻な事態になった。

 このため、日本は81年から自動車輸出の自主規制に追い込まれ、そして自動車生産で対米進出が本格化した。それまでの海外進出は労働集約型産業で、低賃金労働者を求めて発展途上国への工場進出が中心であった。結果的には、日本の自動車メーカーは米国で自動車生産を成功させたことで、日本の企業は発展途上国、先進国を問わず、積極的に世界展開を図る要因になった。自動車メーカーは対米戦略でも市場の米国だけでなく、賃金の安いメキシコにも米国への輸出基地として立地している。

 一般社団法人日本自動車工業会によると、2015年の米国での日本の自動車メーカーの生産台数は385万台にも達しており、トランプ氏の批判は的外れとする意見は多い。しかし、それが正論であっても日米間の貿易格差に基づくトランプ氏の判断を覆すのは難しい。

 それを米国商務省データでみると、米国から日本への物の輸出は15年で640億ドルに対し、日本からの輸入は1,343億ドルと輸入がほぼ2倍である。長期的にもこの2倍程度の格差で推移している。ちなみに、物にサービスを加えた15年の輸出は1,083億ドル、輸入は1,637億ドルで、格差は縮小しても、輸入が輸出を5割ほど上回り、格差が大きいことに変わりはない。

 日本の対米輸出では自動車が突出した最大の輸出製品で、約3割(15年財務省貿易統計)も占めており、自動車が標的にされるのは避けがたい。対米輸出台数(日本自動車工業会統計)は米国生産の本格化で1986年の343万台をピークに、96年には3分の1以下の110万台まで減少した。しかし、それをボトムに米国景気の影響で変動し、リーマンショック前の06年には226万台にまで回復し、15年は160万台である。ちなみに、米国以外の輸出台数は86年317万台、15年292万台で、300万台前後の推移である。

 一方、全輸入台数(財務省貿易統計)は増加傾向にあるが、15年でも40万台でしかなく、全輸出の1割にも満たない。特に米国からの輸入は2.1万台と、輸出と比較すれば無視できるほどである。長期的にも2万台前後で推移しており、輸入で増えているのは欧州からである。石油危機で原油価格の高騰から需要が増えた燃費の良い日本の小型乗用車に対抗し、かつて米国の自動車メーカーも小型乗用車の開発に乗り出したことがあったが、競争力のある車を開発できなかった。米国メーカーは日本市場開拓を放棄しているといえる。その結果が米国からの対日自動車輸出がほとんどゼロという現状をもたらしている。もし、日米間の自動車の輸出入が均衡化すれば、日米間の全体の貿易収支格差は半分以下に縮小できる。

 現実には、日本の自動車メーカーが大規模に工場進出しているにも拘わらず輸出が多いのは、日本国内の事情もある。日本の自動車生産(日本自動車工業会統計)は08年のリーマンショック時の1,158万台を最後に1,000万台の大台を割り込んだままである。翌年の09年の793万台をボトムに回復し、12年には994万台と1,000万台に近づいたが、その後は再び減少に向かい、15年は928万台である。

 今後は1,000万台の回復はあっても1,100万台は回復しないと予測される。その要因として2つ挙げられ、1つは輸出における対米工場進出も含めて国際的な工場展開、もう1つは内需の基礎になる運転免許保有者の減少の影響である。日本は人口が減少する時代に入っているにも拘わらず、減少は若年者で、高齢者の運転免許保有者数はまだ減少していない。しかし、それも限界に近づいており、近いうちに運転免許保有者減の時代を迎える。現在の自動車内需の減少は景気、所得の影響が大きいが、これからは景気が回復して所得が増えても、運転者が減少すれば、下降に向かうことが避けられない。

 自動車メーカーは国内雇用の維持のため、生産能力を保持しているが、それも困難になってくると考えられる。内外需共に見通しは厳しく、生産が横ばいであっても、生産性の向上があるため、雇用者数は減少する。つまり、雇用者数を維持するには、生産の増加が必要になるからである。

 トランプ氏が日米間の自動車貿易の不均衡を完全に無くすところまでは主張しなくても、大幅削減を実現させるとすれば、少なくとも現状より年間100万台程度の対米輸出減か、米国からの輸入増が必要になる。それは現在の生産水準を1割以上の削減になり、裾野の広い自動車産業の日本経済への影響は大きい。

 同時に、トランプ氏の貿易の均衡化要求を考慮すれば、それが実際に実施されるかどうかは別として、当面は全体像が明らかになるまで対米輸出比率の高い企業・産業では、日本での投資には慎重にならざるを得ない。結果、当面の設備投資計画に影響すると懸念される。

 ただし、個別産業とは関係なく、マクロ経済からみれば、米国の貿易赤字、経常収支の赤字は米国経済の消費過剰体質にある。これを改めない限り、日本との間で均衡化しても、その分は他の国との不均衡に移転するだけで、解決にはならない。

 また、トランプ氏は政策で雇用増を強調しているが、米国の失業者数は高くない。トランプ氏を支持した白人労働者の不満はかつての所得水準が維持できず、低賃金雇用が増えていることにある。雇用が増えても賃金が低いままであれば、支持者は騙されたと思うことになる。経営者出身のトランプ氏が賃上げ、例えば最低賃金の切り上げ政策を行うとは思えない。

自動車輸出入台数の推移

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| 2017年02月01日 | 政策 | comments(0) | - |
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