2017年度の経済成長率は16年度を下回る見通しも
2015年度の日本のGDP統計が国際基準の改定に合わせて見直された。改定は幅広いが、その中では従来、GDPには入っていなかった研究開発投資を含められるようになり、GDP規模はそれまでの500兆円ほどから約30兆円増額修正された改定が目立っている。企業は生き残りのために研究開発を活発化させているため、この改定で経済成長率も高くなっているが、金額ベースで約30兆円、6%拡大しても、前年度比の成長率では影響は軽微になる。つまり、17年度の経済成長率予測では基本的に大きな変化はないと判断でき、統計の基準は変わったが、成長率はほとんど変化が無いとして比較する。
16年度の日本経済は景気後退までには至らないが、引き続き穏やかな回復状態が続いている。この経済レポートで指摘してきたように、14年4月からの消費税引き上げによる個人消費の低迷状態から16年度も脱せない状況にある。1年前の各予測機関の16年度見通しでは、名目GDP成長率は2%前後、実質GDP成長率は1.5%前後のプラス成長になっていた。これに対し、現実の推移から今回の16年度の実績見込みは名目、実質共にGDP成長率は1%強へと下方修正を余儀なくされている。名目と実質の乖離がほぼなくなり、消費者物価の上昇率が予想より低くなったことを示している。
消費者物価上昇率の1年前の見通しは1%前後の上昇であったのに対し、今回の実績見込みは逆に、何れも0.2〜0.3%減である。この要因としては、国際商品市況の底入れは予想されていたことから、為替レートの円高を見誤ったためといえる。ただし、物価は国際商品市況や為替レートによる輸入価格だけで決まるのではなく、需給の影響が大きい。それが物価抑制に働き、結局、消費者の将来不安、生活防衛による消費抑制心理を読めなかったと判断できる。また、前回の見通しは各予測機関共に、1.企業収益の増加で民間設備投資が横ばい基調から低い伸びでも着実に増加する、2.収益に加えて雇用増から賃金が増え、個人消費は回復し、特に、17年1〜3月期には消費税の再増税から駆け込み需要が発生する、3.輸出は穏やかでも米国主導で世界経済が回復することで伸び率が高まる、などのほとんど共通する判断に基づいていた。この中で、消費税の再増税延期による17年1〜3月期の駆け込み需要がなくなった影響があるとしても、それは小さい。つまり、消費者の将来不安が高まった結果と考えられる。
前回の16年度成長率見通しは過去に例がないほど各予測機関間で乖離が小さかったが、今回も同様である。17年度見通しを需要項目別にみれば、それぞれ乖離が目立つ項目もあるが、名目GDP成長率は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの0.6%増を除けば、1.2〜1.5%増で、実質は全てが0.9〜1.2%増と、格差は0.3ポイントの範囲内に収まっている。これは前回の16年度予測よりも控えめで、成長期待は弱まっていると推測できる。
また、15年度の実績を下回り、16年度実績見込みよりも低いところもあり、世界経済の回復・成長による高い輸出の伸びがない限り、日本経済は低成長を余儀なくされるということでは一致している。基本的に政府の経済政策効果は期待できず、景気対策とオリンピックに向けて建設本格化で、公的固定資本形成(公共投資)が増えても、波及効果は弱くなっている。逆に、建設分野では低金利や相続税対策需要などで高い伸びをしていた民間住宅建設が一巡傾向にあり、17年度は減少が見込まれる。輸出もトランプ米大統領の景気拡大策には期待できる一方、ドル高は発展途上国にとってはマイナスで、世界経済全体からみれば穏やかな回復が続き、輸出に牽引力が生まれないからである。
結果として、17年度の経済成長率見通しは実質GDP成長率で1%前後に収まって格差が生まれず、いずれも低成長が続くという判断になる。それよりも17年度見通しの特徴的として、為替レートがトランプ当選後の急激な円安を受けて、1ドル=105.7〜115円の年度ベースで円安、消費者物価(生鮮食品を除く総合)上昇率がプラス上昇の0.5〜1.0%増になっていることが挙げられる。為替レートは投機があるため、その判断で幅があるのは当然でも、いずれも大幅な円安ではない。その一方で、賃金上昇率が高まることは予想できず、介護保険制度や税制による負担増を考慮すれば、国民の将来不安は高まりこそすれ、低下することは全く予想できない。
つまり、消費者の消費抑制は続くと推測でき、このような環境下で商品・サービス価格の引き上げは困難になる。円安で物価上昇率はプラスになっても0.1〜0.2%増程度に留まると考えられる。もし、それが0.5〜1.0%増にもなるのであれば、国際商品市況の顕著な上昇、そしてその背景に世界経済の着実な拡大が必要になるが、そこまでの世界経済見通しは見当たらない。物価上昇率は課題見通しと考えられる。
17年度においても日本経済は世界経済に依ることになる。その攪乱要因にトランプ新大統領の米国がある。新政権の経済政策は不明だが、トランプ氏が強調している米国第一主義からは、ドル高は矛盾になる。国力の象徴として通貨高を評価する見方はあっても、ドル高はトランプ氏のホテル業でも外国人客にはマイナスになり、貿易収支を悪化させ、工場の海外移転を促進する。時期は不明でもドル安への転換が予想される。
また、ドル高もそうだが、トランプ氏を支持した白人労働者の期待に応えられる政策が実施できるかどうか疑問がある。労働者が求める雇用と賃上げ、特に賃上げは経営者出身のトランプ氏が実現するとは思えない。期待を裏切られた労働者によって政情不安が高まる可能性があり、17年度を楽観的にみることはできない。
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