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日銀「総括的な検証」の説得力

 日本銀行はデフレ対策で2013年1月に物価安定の目標を消費者物価上昇率で2%と定め、この実現のために4月に大規模な金融緩和「量的・質的金融緩和」を導入し、それから3年半ほど経った。2%に達しなくてもまだ消費者物価上昇率がプラスであれば、今後に期待ということもできるが、現状はマイナスである。この結果に対して、日銀が9月21日に発表した「総括的な検証」で、デフレが解消しない要因として、1.原油価格の下落、2.消費税引き上げ後の需要の弱さ、新興国経済の減速とそのもとでの国際金融市場の不安定な動き、を挙げている。これらは以前から黒田 東彦日銀総裁が記者会見で言い訳に使っていた要因で、いずれも説得力に乏しい。

 まず、国際価格(ドル建て)の原油価格は確かに、油種によって若干の時期のズレはあっても2011〜12年をピークに徐々に値下がり傾向になり、14年央からは急速に下落基調になった。しかし、それも15年に入って鈍化し、16年1月を底に回復に転じている。ただし、まだ低水準横ばいの推移ではある。

 日本経済への影響は円価格で見る必要がある。円価格は為替レートの影響があるため、円安から通関統計の原油及び粗油で14年8月がピークになり、ボトムは16年2月である。つまり、すでに原油輸入価格が底入れしてから半年以上も経っており、それが前年比ではまだ引き下げ要因であっても、前月比ではむしろプラス要因になる。ちなみに、資源エネルギー調査のレギュラーガソリン価格は16年3月の第1週をボトムに上昇に転じている。昨年までなら物価上昇目標の未達要因に挙げられるかもしれないが、現時点ではむしろ弱くても物価引き上げ要因になる。原油価格の下落を金融政策の効果を生まなかった要因にするなら、今後は期待できるとすべきである。

  以前の原油価格(ドル建て)が上昇から高水準横ばいで、円安から輸入価格(円建て)が上昇し、消費者物価全体を引き上げる要因になっていた時は、その影響を無視して金融緩和で脱デフレが始まったとしていた。確かに、金融緩和が円安要因でもあり、その効果も否定はできない。しかし、この経済レポートで何度か指摘したが、原油に代表される国際商品価格の上昇と円安による輸入価格の値上がりで物価が上がっても、それは脱デフレとは言い難い。原油価格の上昇に転じても無視し、下降時にはそれを強調するのは片手落ちと言わざるを得ない。また、円安に関しては、欧州ソブリン危機が解消に向かって円高圧力が低下した効果も無視できない。

 一方、消費税引き上げの個人消費への影響は予想以上といえる。従来であれば、引き上げ直後は駆け込み需要の反動もあり、消費が大幅に落ち込んでも、その後は徐々にでも回復に向かっていた。今回も反動減が少しは長引いても、従来のように回復すると見るのが一般的であり、その予想が日銀も外れたのは批判されることではない。

 しかし、その外れた原因、つまり消費者が財布の紐を締めたまま緩めない理由を考えなければ、検証の意味がない。それは結局、低い賃上げ、アベノミクスへの期待外れ、正規雇用化や社会保障制度などに期待が持てず、将来不安が高まっていることに求めることなる。賃上げは別として、政策批判にならざるを得ない。その検証が求められる。

 新興国経済や国際金融に関しては、もともと金融緩和時には国内の金融緩和で脱デフレ、物価の引き上げが可能として触れていない。もちろん、リーマンショックのような予想外の事態が発生すれば、言い訳に使っても批判はし難いが、世界景気の回復が期待や予想よりも低いのは事実としても、今さらそれを理由にするのは無理がある。

 検証するのであれば、それよりも従来のパターンと比較して世界景気の回復が遅れている問題、長期にわたって世界的に金融緩和・低金利政策が続いているにもかかわらず、低迷状態から脱せない要因が重要になる。つまり、構造的問題であり、そこまで踏み込まなければ説得力を持たない。

 また、金融緩和は予想物価上昇による需要拡大、デフレ脱却への期待が大きかったが、それが原油価格の値下がりで裏切られ、上手く行かなかった要因として強調されている。しかし、物価の予想自体に問題がある。企業は生産活動に必要な原材料仕入れ価格がどうなるかが経営計画を立てる上で重要なため、それを見通す担当者がいる。その専属を置く余裕のない中小企業でも仕入れ先の卸企業などから原材料価格見通し情報の入手に努め、上昇が予想されれば仕入れ量を増やして原材料在庫を積み増すのは当然であろう。

 これに対し、消費者は消費税の引き上げであれば、価格の値上がりは予想可能でも、金融緩和で物価上昇になると言われても、何が上がり、その額・率は予測不可能である。現実には、小売り・サービス店で見て初めて価格の上昇が分かるわけで、消費者にとっては消費者物価全体を予想できるわけはなく、単に毎日の買い物から値上がりを認識するだけである。消費者は家計簿を月間で集計しても、平均の物価上昇率は計算不可能である。

 予想物価上昇は消費者からみれば、値下がり傾向にある、横ばい、少し上がっている、かなり上げっている、高騰しているの4段階程度でしかなく、それも予想ではなく実感になる。かつ、もし予想できても、消費者のほとんどは将来不安の下、不十分な所得の中で、積極的に消費するようになるとは考えられない。また、企業も自社に関係する商品・サービスの価格以外は分からないわけで、予想物価上昇率調査は単に現状と短期的な先行きの予測を企業がどう判断しているかを知る材料に使える程度である。結局、出発点が間違っていれば、説得力のある説明は無理ということである。


                               原油価格の推移

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| 2016年10月01日 | 景気 | comments(0) | - |
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