スポンサードリンク

景気と労働力需給指標の乖離の要因

 景気の現状の表現を楽観的な「穏やかな回復」、逆に厳しく「低迷」としても、いずれも期待される回復、拡大の状況からほど遠いことは政府も認めざるを得なくなっている。ところが、景気が労働力需給指標には反映せず、安倍首相はいわゆるアベノミクスの成果として雇用増を挙げている。昨年の9月1日付けのこの経済レポートで「GDP成長率と就業者数の伸びが乖離する要因」でも取り上げたが、むしろ乖離現象は酷くなっている。

 例えば、有効求人倍率(新規学卒者を除きパートタイムを含む、季節調整値)でみると、2013年11月に求人数が求職者数を上回る1水準を越えた後、前月比横ばいはあっても減少はなく、上昇一途の推移になっている。16年に入っても4月まで1.28、1.28、1.30、1.34の推移で、景気の影響を全く受けず、改善が一段と進んでいる。労働力需給は景気に対して遅行し、景気が頭打ちから下降に向かっても直ぐに悪化はしないが、いずれは景気変化を反映する。

景気回復が中断し、景気後退までは至らなくても長期的に回復中断状態が続いており、景気動向から判断すれば、労働力需給が改善を続けているのは異常といえる。その要因として、団塊の世代が60歳代後半になって退職年代に入ったためという見方があるが、高齢者の就業率が伸びていることを考えれば、それだけでは説明できまい。

 また、従来は労働力需給が逼迫、つまり有効求人倍率が1を大きく上回るようになれば、賃金が上昇するのが常であったが、今回は賃金上昇がみられないことも特徴として挙げられる。これは全体の平均賃金ではパートに代表される非正規雇用の増加で説明されるが、それでも2を大きく超える有効求人倍率のパートの需給逼迫が賃金に反映されないのも、従来の経済学では説明できない。

 この要因として、雇用の産業構造変化がある。産業別雇用を総務省「労働力調査」で、今回の景気回復局面で雇用が回復した13年からの推移をみると、全体の雇用者数は前年比で13年49万人、14年42万人、15年45万人と着実に増えている。そして、景気回復が期待を裏切っていると認識が広まってきている今年に入って、1〜4月は前年同期より90万人も増え、それまでの3年間の増加数と比較すればほぼ倍増で、むしろ雇用の拡大は加速の感がある。ちなみに、最近の雇用総数は5,700万人前後にまで達している。

 景気との関係では影響を受けないというよりも、逆転現象のようにみえる。月間でも前年同月比で15年12月に対して、16年1月からに急増しており、新年を迎えて企業は雇用拡大に乗り出したことになる。産業別で特に増加が顕著なのは医療・福祉で、13年から年間で28万人増、20万人増、27万人増、そして16年1〜4月の前年同期比27万人増と一貫して増加し、13〜15年は全体の増加数の半分ほどを占めている。高齢化による特に介護需要の増加を反映していると推測でき、また保育園拡大による保育士の増加もある。これは構造的な雇用者の増加であり、景気の影響は受け難い。

 このため、医療・福祉は16年1〜4月も増加数は変化がみられず、この期間の急増とは関係がない。他の産業は13年に景気回復を受けて雇用を拡大したところが多いが、いずれも一時的な現象に留まり、14年は医療・福祉を除けば全体では頭打ちである。そして、15年に盛り返し、16年に入って加速が付いており、景気の推移からみれば異常といえる。

 15年までと16年1〜4月との比較で、16年の増加が顕著なのは製造業9万人、運輸・郵便業9万人、卸売・小売業17万人、金融・保険業10万人、宿泊・飲食サービス業12万人である。このなかで、製造業は生産が回復していない状態での雇用増は不思議に思えるが、製造業の雇用者数は1,000万人前後で産業別では最も多く、以下、卸売・小売業1,000万人弱、建設業400万人前後、運輸・郵便業と宿泊・飲食サービス業300万人強などとなっている。1,000万人規模から考えれば、9万人は増加率からは小さい。

 これに対し、金融・保険業は150万人ほどの雇用者数に対して、10万人の増加は高い増加率になる。15年末頃から16年にかけての産業環境は為替レートの円高と株式の下落が進んでおり、むしろ業界にとってマイナスである。プラスは14年1月から始まったNISA(少額投資非課税制度)で、未成年者を対象とするジュニアNISAの口座開設が16年1月から始まった程度である。これで10万人もの雇用増とは考えられず、その要因は不明である。

 また、同様に雇用増の運輸・郵便業、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業のうち、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業は個人消費の影響が強く、14年4月からの8%への消費税引き上げ後の消費低迷からみれば、むしろ雇用は減少しても不思議ではない。個人消費の動向に逆行している要因としては、中国人の爆買いにみられる訪日外国人観光客の需要増が挙げられる。

 この要因であれば、運輸・郵便業も運輸業で訪日外国人の観光需要で運転手やガイドの採用を増やした結果と推測できる。15年までは外国人観光客需要に雇用を増やさずに対応していたのが、16年になってそれが限界にきたと考えれば、これら3産業は外国人観光客効果によることになる。

 ただし、爆買い需要は一巡傾向で、また15年末から着実に円高が進んでおり、従来の速度で外国人観光客の需要が増えることは期待し難い。それに加えて、今回の英国のEU脱退決定は円高、世界的な景気に対する先行き不安など外国人観光客需要を減少させる効果が予想される。このため、3産業の1〜4月の雇用増が今後も維持されるとは思えない。早ければ7月にも減少までには至らなくても、頭打ち傾向になると予測される。その一方で、構造的要因で増えている医療・福祉は今後も現在程度の年間20万台の雇用増は見込まれる。景気が大きく落ち込まない限り、医療・福祉が下支えすることで、今後も景気と雇用との乖離状態が維持される予測になる。

 一方、雇用が増えている医療・福祉の介護は低賃金であることは一般的にも認識されている。また雇用者数の多い卸売・小売業はパートやアルバイトの非正規雇用が多いのが特徴になっている。外国人観光客が2,000万人に増えて爆買いが続いたとしても、それは一時的滞在で、365日を通して暮らして消費する1億3,000万人近い日本の人口と比較すれば購買力は比較にならない。その日本国民が将来不安から節約に努めていれば、卸売・小売企業は引き続き販売価格の抑制努力が不可欠になり、ひいては雇用者の賃金も上げ難い。結局、労働需給が改善しても賃金は上昇しないことになる。労働需給と賃金の矛盾した状態も変わるとは思えない。

主要産業別雇用者数の前年(同期)比増減数の推移

経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス

| 2016年07月09日 | 景気 | comments(0) | - |
スポンサードリンク

コメント
コメント投稿フォーム:
 上の情報を次回も利用する
Copyright (C) 景気と労働力需給指標の乖離の要因 | 経済への視点. All Rights Reserved.