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春闘を鉱工業生産指数から考える

 賃金上昇は特に、労働生産性向上が難しいサービス業の価格の値上げに結び付くため、消費者物価指数の2%上昇を目指す政府にとっては関心が高い。もちろん、それが低迷する消費拡大を通して経済成長率を引き上げる効果もあり、安倍首相は財界に異例といえる春闘の賃上げを要請している。これを受けて、経団連の榊原定征会長は2015年11月、業績が好調な企業に対し、16年春闘では「今年を上回る水準を期待する」との意向を表明した。

 ところが、今年に入って経団連の指針は昨年の基本給の引き上げを「選択肢の一つ」としていたのに対し、「一律的な基本給の引き上げに限られず、様々な選択肢が考えられる」と手当、一時金等を含める見解を示した。これだけでは抽象的で真意が分かり難いが、マスコミは昨年より後退したとしている。また、労働側も日本労働組合総連合で賃上げの基準になる金属労協が今年の春闘要求額を「ベースアップ月額3,000円以上」と、昨年の「6,000円以上」の半分に引き下げている。

 昨年の賃上げは企業収益が大幅に好転しているにもかかわらず、個人消費の回復をもたらすには期待外れであった。これらの動きから判断すれば、今年は昨年より賃上げ額が低くなり、個人消費の回復は見込み薄になる。ただし、これは名目の話で、政府や日本銀行の希望的観測とは逆に、消費者物価の上昇が止まり、さらには下落も予想されるため、名目賃金の伸びは低くても実質の個人消費は堅調ということはあり得る。

 14、15年の実績からみて、企業収益と賃金との関係が薄れている。基本的に企業が人件費の抑制に力を入れているためだが、もう一つの理由として、経団連の主要企業や春闘に影響力を持つ労働組合が製造業に偏っていることがある。

 工場労働者は需要が増えて忙しくなれば、好況感が生まれ、企業は儲かっていると思い、それを背景に賃上げに対して強気になれる。しかし、為替レートの円安で輸出や投資収益が膨らむ効果で企業収益増になっているだけでは、労働者にその実感はない。一方、経営者も円安が長期的に続く保証はないわけで、円安による収益増では賃上げには踏み切れないことはこの1、2年の実績が示している。

 製造業の生産動向を鉱工業生産指数でみる限り、景気回復といえるかどうか、ましてや好況とはほど遠い。2010年を100とする指数で、15年12月実績は速報値で96.5でしかなく、5年前の年間平均をまだ回復できていない。最近時で100を超えているのは15年1月の102.1だけで、ほぼ1年間100を下回っている。

 ただし、労働者の感覚は最近時の労働実態の影響が大きく、実感は景気の短期的な変動を判断するのに使われる季節的要因を除いた季節調整値よりも、原数値の前年比の方になる。四半期で季節調整値では15年4〜6月期1.4%減、7〜9月期1.2%減の2四半期連続のマイナス成長から10〜12月期は0.6%増へと回復である。これだけでは生産が好調かどうか分かり難い。

これに対し、原数値の前年同期は14年7〜9月期から15年10〜12月まで6四半期連続のマイナス成長である。特に、前年に消費税増税の駆け込み需要で生産が増えた影響もあって、14年10〜12月期1.5%減、15年1〜3月期2.1%減であった。消費税増税を考慮しても、15年春闘の賃上げの引き下げ効果は大きいと考えられる。つまり、安倍首相や経団連の賃上げ支援発言にもかかわらず、15年春闘の実績は低く、15年度の個人消費が低迷し、経済回復に勢いが付かない要因の一つになっている。

 そして、今年の春闘に影響する15年10〜12月期は0.4%減の微減でもまだ水面下で、12月は1.6%減である。このような状況が今年の金属労協の春闘要求額に反映していると推測できる。16年に入って生産が回復しても、急回復する条件は見当たらず、せいぜい前年並みか、微増程度であろう。経団連、連合の姿勢や鉱工業生産指数の推移から判断すれば、既に結果は出ている。

 もちろん、労使交渉で賃金が決まる正規労働者は一部で、多くの労使交渉のない企業の労働者、また組合員でない非正規労働者の賃金の方が全体として占める割合は大きい。これらの労働者の賃上げはより厳しいのが実態である。例えば、パートの有効求人倍率は1を大きく上回る状態が続き、労働需給は逼迫している。それでも非正規労働者の賃上げは少額でしかない。パートの需給逼迫が今まで長期的に続いていることからみて、16年に急に非正規労働者の賃金が上がるとは想定できなし。


鉱工業生産指数の推移

経済の視点
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| 2016年01月31日 | 雇用 | comments(0) | - |
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