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GDP成長率と就業者数の伸びが乖離する要因

 先月のこの経済レポートで、2015年4〜6月期のIIP(鉱工業生産指数)が前期比で3四半期振りのマイナス成長になったことを取り上げたが、実質GDP成長率(1次速報値)も0.4%減のマイナス成長になった。個人消費が低迷し、内需の回復力が弱い状況のため、輸出によって成長が左右される構造にあり、4〜6月期に輸出が減少した影響が現れた。実質GDP成長率は14年度に消費税増税の影響もあって、3年振りにマイナス成長になった。15年度も基調としてはプラス成長でも、4〜6月期の速報値にみられるように、その足取りは重い。

 一方、労働市場は改善が続き、7月の有効求人倍率(季節調整値)は1.21倍と、92年2月の1.22以来、23年5カ月振りの高水準を記録している。もともと、労働統計は景気の遅行指標と言われ、景気とずれが生じるのは不思議ではないが、最近は労働統計とGDP統計に乖離が目立っている。

 総務省統計局「労働力調査」の就業者数は暦年で発表されているため、暦年と最近の四半期を原数値の前年同期比で、実質GDPと就業者数の伸び率を比較する。ちなみに、4〜6月期の実質GDP成長率は前期比ではマイナス成長だが、前年同期比では0.7%増、4四半期振りのプラス成長になる。

 まず、05年から年ベースで実質GDPと就業者数の伸び率を比較すると、11年まではほぼ同方向の推移である。10年は実質GDPが世界経済のリーマンショックからの立ち直りを受けて、前年比4.7%増の高い伸びになった。一方、就業者数は0.3%減と小幅でも減少である。これは前年が実質GDP同5.5%減の大幅減少に対し、就業者数同1.5%減と小幅に留まった影響と推測できる。

 企業は不況時に雇用を削減するが、非正規雇用者は解雇が比較的容易でも、正規雇用者はそうでもないため、就業者数の減少が遅れるのは当然といえる。これが労働統計は景気の遅行指標になる要因である。そして、それが12年に持ち越し、実質GDPが成長に転じても就業者数は減少傾向が続く要因になったと推測できる。ただし、非正規雇用者の増加はこの遅効性を短縮化することになる。

 また、実質GDP成長率と就業者数の伸び率を長期間の平均でみれば、企業は労働生産性を向上させるため、実質GDP成長率が就業者数の伸び率を上回るのが一般的である。つまり、実質GDPが成長しても、低成長であれば、就業者数が減少することはよくある。

 ところが、14年は実質GDPがマイナス成長率になったにもかかわらず、逆に、就業者数は増加している。四半期でみても、14年4〜6月期から15年1〜3月期まで4四半期連続で実質GDPのマイナス成長の一方で、就業者増で推移しており、従来からみれば、異常といえる。15年4〜6月期は実質GDPがプラス成長になったのに対し、就業者数の伸び率が1〜3月期より低下しただけで、14年の異常な状態が解消したとまではいえない。

 従来と異なる現象が生じているのは、何らかの構造変化が生じたためと考えられる。その変化として、非正規雇用の増加と労働力の減少見通し、高齢化、そして就業の産業構成変化の3つが挙げられる。

 非正規雇用、特に短時間労働のパートやアルバイトの増加は必要な1日当たり労働時間が同じであれば、雇用者数、就業者数を増やす効果を持つ。この影響は無いとはいえないが、短期的な構造変化でないため、最近の現象の説明要因にはならない。非正規雇用の多い就業構造の第3次産業化が進み、また、企業が日本の経済成長率の低下から、コスト削減を目的として非正規雇用化に力を入れだしたのは90年代からで、20年以上も前からである。そして、最近になって特に加速しているわけではないからである。

 また、労働力の減少見通し、高齢化は短期的な変化にはならない。労働力人口は労働者本人の意向を反映するため、正確性に欠ける欠点がある。それよりも、その母体になる人口が問題で、日本は人口の多かった団塊の世代がすでに65歳前後に達している。就業者数としてはまだ多く、年齢階層別では就業者数の増加数の大部分を占めている。しかし、体力や企業の雇用形態から考えれば、かなり前からフルタイムの労働者は少ないと推測され、これは非正規雇用の増加の1要因でもあり、同じことである。

 結局、就業の産業構成変化に求められる。就業者数は12年の6,270万人から、14年には6,351万人へと、81万人増加している。産業別就業者数で近年、最も増えているのは医療・福祉産業で、この2年間で706万人から757万人へと、51万人増である。就業者全体の増加の6割以上を医療・福祉産業が占め、景気にほとんど影響されず、うち高齢者のための福祉産業が増加の大半を占めると推測される。

 2年間で約50万人の増加は年間約25万人になり、6,000万人強の就業者の0.4%ほどになる。そして、この増加数は最近10年ほど安定的に着実に増加しおり、この2年間だけ特徴ではない。その影響が14年の実質GDPのマイナス成長で顕在化したといえる。09年は別として、1%未満の就業者数の変化の中で安定的に0.4%の増加があれば、下支え効果は大きい。例えば、医療・福祉産業を除けば、就業者全体の伸びが低かった14年10〜12月期と15年4〜6月期の就業者数は前年同期を下回り、マイナスの伸び率であれば、従来と違和感を生じなかったと思われる。

 医療・福祉産業の就業者が景気に関係なく安定的に増加し、加えて、非正規雇用によって就業者を増やす構造であれば、労働統計は景気指標に適しなくなる。これは労働者にとってプラスとみることもできるが、低賃金労働であることを考慮すれば、喜ぶべき構造変化とはいえない。

 また、日本経済のマクロの視点からは、実質GDPのマイナス成長下での就業者の増加は労働生産性の低下を意味する。人口・労働力の減少が避けられない時代を迎えて、経済発展のためには生産性の向上が課題になっている。それに対して、就業者増をプラスに評価することも可能だが、経済とは別の視点が必要になる。

実質GDPと就業者数の前年比伸び率の推移

経済の視点
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| 2015年09月01日 | 景気 | comments(0) | - |
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