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消費者物価上昇の沈静化と食料品値上げラッシュの消費への影響

 消費者税増税の影響が一巡する4月以降、消費者物価上昇率は対前年比で0%台に低下し、一時的にはマイナスになる可能性もあるという見方が2014年度末頃から一般にも広がってきた。事実、消費者物価上昇率は生鮮食品を除く総合で3月の2.2%増から、4月0.3%増、5月0.1%増と上昇率はほぼゼロに近づいている。

 日本銀行の黒田東彦総裁も事前にこの見通しを認めざるを得なくなり、昨秋に15年度の消費者物価2%上昇目標を放棄していたが、その後は目標を1年先送りした上、2%を2%程度と言い直している。1年先送りしても、少なくとも2%近くまでの消費者物価上昇が実現するには、世界的な異常気象でも発生して食料の国際価格が高騰しない限り、為替レートの円安しか可能性はないと考えられる。

 為替レートは14年秋頃から1ドル=100円台から110円台へと一段と円安傾向を徐々に強め、15年5月にはそれが加速する勢いになった。6月2日には一時的に125円台にまで円安になり、次は130円の壁を突破かと思われた。ところが、黒田総裁が10日の衆議院財務金融委員会で、為替動向に関して「実質実効為替レートでは、かなり円安の水準にある」と発言し、冷や水を浴びせたことで、125円台から一気に122円台まで戻した。

 消費者物価の2%程度上昇には円安が必要と考えられ、黒田総裁は円安歓迎と推測していたのが、この発言は矛盾しているように受け取れる。その要因を推測すれば、自国景気の足を引っ張るドル高を心配し始めた米国への配慮と、政府総債務残高の対GDP比ランキングで突出した世界第1位で、かつ赤字国債を買い支える日銀の金融政策への不信を背景に、近づく円暴落への懸念、の2つが挙げられる。もちろん、経済環境は常に変わる可能性があり、しばらくしてから再度の円安になった場合、同様の発言が行われるかどうかは不透明である。

 一方、政府やマスコミは個人消費が回復としていても、実態はそうではないことは先月の経済レポートで示したが、新年度に入っても個人消費にマイナスになる食料品の値上げ報道が相次いでいる。生鮮食品でない食料品の値上げと物価上昇率の低下は矛盾しているように受け取れるが、もともと、消費者物価指数に占める食料品の比重は4分の1程度で、その中の一部で値上がりしても影響は小さい。かつ、メーカーが値上げを発表しても、競争の激しい小売の価格にそのまま転嫁は難しいであろう。

 それよりも、相次ぐ値上げ発表の個人消費への影響が懸念される。主婦にとっては日常的に購入、消費する食料品の比重は、消費者物価指数に占め以上に感覚的にかなり高くなる。食料品メーカーが発表する値上げが現実にそれが実現するかどうかは別として、発表するだけで消費抑制効果は大きいと考えられるからである。

 食料品値上げの理由として、円安に加え、天候異変による世界的な生産減の一方で、中国をはじめとする海外での需要増による国際市況の上昇が取り上げられることが多い。現実に、輸入小麦の政府売渡価格は6月から3%引き上げられ、それを受けてパンやパスタなどの値上げ予定されている。これら以外にも、食料油、乳製品、ソースなども原材料の上昇を理由に軒並み値上げである。

 ところが、現実には国際商品の中で原油価格は先行して大幅下落しており、石油製品の国内価格は顕著に値下がりしている。原油、ガソリンに代表される石油製品に関してはマスコミで報道され、一般的に認識されているのに対し、同様に食料品の国際商品市況も値下がりしているにも関わらず、報道は少ない。

 IMF資料でみると、金融緩和による投機資金の流入もあって、中東のドバイ原油は12年3月のバレル当たり120ドル台まで上昇した。しかし、それをピークに、15年1月には40ドル台まで大幅に下落し、その後は戻してもピーク時の半値程度の60ドル前後の推移である。世界的な景気回復の弱さによる需要の低迷と、シェールオイル供給圧力で需給が緩和しているからである。

 食料品は天候要因があるため、原油と同様には考えられないが、生産や投機要因は別として、需要が景気の影響を受けることでは同じである。IMFの2005年=110とする食料価格指数は12年夏から13年夏頃までの170台後半から180台半ばの高水準横ばいから、その後は170を下回る水準まで低下し、一度は天候要因で14年4月に先行ピークと同水準の185台まで再騰した。消費税増税の影響を除けば、当時は原油や食料の国際商品市況の上昇から高止まり状況で、その下で円安が続き、消費者物価が上昇した。

 しかし、その後は原油よりは遅れ気味だが食料価格指数も着実に下落し、最新の15年5月はピークの185の77%、142まで低下している。この間、為替レートは105円から121円に13%ほどの円安で、食料の国際商品市況の値下がり幅の方が大きい。もちろん、その時の国際市況価格で購入しているわけではなく、また、日本に輸入して小売りまでの加工・輸送の時間が必要になる。国際市況が消費者物価まで波及するには、政府が管理する小麦ほどではなくても、数カ月は掛かると推測される。

 このため、穏やかな値下がりで、かつ、円安傾向であれば、その影響は打ち消され、原油のように急落しなければ、消費者物価に反映されるまでには時間が掛かる。円安が止まったとして、食料の国際商品市況の下落が消費者物価に波及するのはこれからになる。

 個別の食料品でみても、主要な食料品は全てピークを打っており、遅れ気味だった牛肉もオーストラリア・ニュージーランド産で14年9月がピークである。今後も世界の食料生産に打撃を与えるような異常気象は別として、穏やかな円安で留まれば、少なくとも黒田日銀総裁が延長した1年程度でみれば、輸入食料品価格は値下がりが予想される。

 また、今年の賃上げ率は6月頃までの給与額が厚生労働省から発表されると明確になるが、昨年を顕著に上回るほどは見込めない。つまり、賃金面からの消費者物価引き上げ要因はほとんどなく、同時にそれは収入の伸びも低いことを意味し、消費を拡大する効果も小さいと判断できる。

 以上から考えれば、為替レートの円安が止まるか穏やかな円安は、個人消費の回復が期待できる。その一方で、公約かどうかが不明になりつつあるが、黒田総裁のいう消費者物価の2%程度上昇の実現は遠のく。逆に、円安が歯止めが無くなるか、異常気象で食料品の国際市況が高騰すれば、その実現の可能性が高まっても、個人消費の回復は望めなくなる。結局、近年の厳しい経済環境下で理想的な経済回復パターンを頭で描いても、どこかに矛盾が生じるだけである。

食料価格指数、主要食料価格、原油、為替レートの推移


経済の視点
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| 2015年07月01日 | 景気 | comments(0) | - |
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