民間設備投資の回復はまだ先
2013年1〜3月期の実質GDP成長率は輸出の底入れを受けて前期比0.9%増になった。この成長率を評価する意見もあるが、2年前の東日本大震災の影響で季節調整が大きく変動している可能性があり、1、2四半期の成長率で高い低いを判断してもあまり意味はないと考えられる。
GDPの需要項目の中で注目されていた民間設備投資は同0.7%減に留まり、12年1〜3月期から5四半期連続のマイナス成長になった。民間設備投資が注目されるのは、景気底入れと昨年末からの為替レートの円安で輸出産業を中心に企業収益が改善するとともに、景気回復期待が高まり、企業が設備投資に積極的になるとの期待からである。また、円安は製造業の海外移転を抑制し、さらには国内に復帰する見方も一部にはある。
現実には、GDP統計で民間設備投資回復の遅れが明らかになったが、それは先行指標の一般社団法人日本工作機械工業会の工作機械受注や内閣府の機械受注の推移から予想されたことである。機械受注より先行性の高い工作機械受注の内需は、前年同月比で12年6月から2桁台の減少が続いており、13年4月も22.0%減と大幅減少である。
また、機械受注は変動の大きい船舶・電力を除く民需(季節調整値)の前月比で、13年3月は14.2%増の高い伸びになった。しかし、月ベースでは変動が大きく、四半期ベースでは1〜3月期は同0.04%減の僅かだがマイナス成長で、これは4四半期連続のマイナス成長になる。また、4〜6月期の見通しは1.5%減で、為替レートの影響の大きい製造業では、1〜3月期まで6四半期連続のマイナス成長から、4〜6月期見通しは0.8%増の微増が予想されている。
これらの受注統計からは民間設備投資の底入れは近い可能性があるという程度である。結局、景気は12年10〜12月期に底を打って回復基調にあり、企業収益も改善が見込まれるが、民間設備投資は遅れ気味といえる。
その理由として3つ考えられる。第1に、基本的に人口が減少しているのに加え、雇用構造変化から民間最終消費の増加が期待できない状況では、日本経済の成長性が期待できないため、能力拡大投資は控えられる。
第2に、鉱工業生産指数は12年11月の86.7を底に回復していても、13年3月(確報)でも90.4でしかなく、東日本大震災前の11年2月の98.5からはまだ8%ほど下回っている。生産水準からみても能力拡大投資に乗り出す状態にはない。
第3に、円安でも国内投資に戻る可能性は少ない。最近の海外投資の目的は安い人件費から、海外の現地市場に合った商品開発・供給になってきており、為替レートの影響は小さくなる。また、6年前の07年も円安で1ドル=120円台になった時でも、経済産業省の海外事業活動基本調査をみれば明らかなように、海外進出は中国を中心に活発だった。少々の為替レートが変動しても影響は小さい。今は尖閣諸島問題と中国で人件費が上昇したため、中国進出を見直す動きがある。それでも、日本に戻るのではなく、中国以外の人件費の安い国・地域への進出になっているだけである。
従来、企業収益が改善すれば、能力拡大投資にまでは至らなくても、省力化・合理化投資は活発化する例は多かった。その場合、工作機械受注に結び付く新鋭のNC機、MC機への投資が増える傾向にあったが、工作機械統計をみる限り、その投資も低調である。
日本銀行・政府の金融政策の戦略は量的・質的金融緩和、黒田日銀総裁の言うところの異次元の金融緩和で、円安・株高を誘導する。そして、その効果を企業収益、投資収益の拡大から、民間設備投資の回復、個人消費の拡大に波及させていく路線である。現実には、1〜3月期のGDPを見る限り、一部に個人消費拡大効果はあったかもしれないが、民間設備投資には今のところほとんど影響していない。民間設備投資の本格回復には既存の産業には期待し難いため、新産業の誕生、成長が必要だが、それにはかなり時間が掛かる。
また、量的・質的金融緩和は当初から公的債務問題、金融緩和政策の出口問題などが指摘されていた。日銀・政府の理想形は企業収益の改善が個人所得に波及し、民間需要が盛り上がり、穏やかでも順調な景気回復路線に乗る。それで景気回復、脱デフレで税収が増えるのに加え、消費税増税も予定通り実施でき、財政赤字も改善に向かい、金融政策も正常化できるという姿である。
ところが、早くも金利が上昇、かつ大幅変動をもたらしている。弊害の顕在化が予想以上に早くなりそうで、将来不安から民間設備投資を冷やす効果も予想される。ただ、米国経済が穏やかでも回復基調を歩めば、日本経済は輸出主導でプラス成長を維持できる可能性はある。その場合でも、財政赤字の改善にはほど遠く、円への信任が無くなる円安の事態も考えら、浮かれる状況でないことは確かである。
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