日銀・短観にみる景気の実態
アベノミクスによる為替レートの円安効果で株価が上昇し、景気回復期待が実現しそうな雰囲気であった。ところが、それが現状では期待止まりで、実態はそうでもないという認識になりつつある。これが認識されるようになった大きな要因として、日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」の3月調査(回答期間2013年2月25日〜3月29日)結果がある。この調査結果発表で、大企業製造業の業況判断がマイナス8に留まり、前回の2012年12月調査(回答期間12年11月13日〜12月13日)の同マイナス12よりも改善したが、見込みほどではない判断されたことにある。
3月調査発表時には株価は下落し、株価は回復中断になった。とはいえ、前回調査の先行きは見通しはマイナス10であったことからみれば、マイナス8は改善になる。この乖離の背景には、従来から景気回復時には前回調査の先行き見通しよりも、調査結果は大幅改善になる傾向にあり、特に今回は2つの調査時点間の景気環境からその期待が大きくなる事情があった。
その判断要因はアベノミクスにある。12月調査時点は選挙で自民党が勝利し、安倍政権の成立が確実視され、金融緩和を含む景気対策への期待はあった。しかし、アベノミクス実施前であり、異常ともいえる金融緩和政策と1ドル=100円近くまでの円安は予想されていなかった。それが3月調査時点には明確になり、景気回復期待が広がってきたことで、それが業況判断にも大きく反映すると予測されていたのが、景気実態によって裏切られた形になった。
将来期待や見通しと現実との乖離は短観の産業別の売上高や経常利益をみれば、その要因が分かる。短観は年度上下期別の売上高や経常利益の実績だけでなく、事前の見通しになる計画、つまり調査時点での先行き関しての企業判断が調査されている。
3月調査の12年度下期の売上高計画は前年同期比で全産業0.4%減、製造業2.3%減、非製造業0.5%増である。非製造業がかろうじて前年水準を維持するのに対し、円安効果で輸出増が見込まれる製造業は顕著な売り上げ減である。特に輸出の比重の高い加工業種3.0%減の一方、素材業種は0.6%減であり、加工業種の不振が目立っている。
また、12月調査からの修正率は全産業マイナス0.5ポイント、製造業マイナス1.9ポイント、非製造業プラス0.1ポイント、製造業のうち素材業種横ばい、加工業種マイナス2.8ポイントである。12月調査時点は景気はほぼ底になったと推測できるが、企業がそれを感じて回答していたかどうかは不明でも、米国や中国の景気回復で、輸出主導で売上高が底打ち、回復に向かう期待を持っていたが、3月調査ではそれが実現しなかったことを伺わせる。
売上高は内外需別に調査されており、3月調査の内需額の12年度下期計画は全産業0.5%減、製造業3.1%減、非製造業0.5%増、素材業種0.8%減、加工業種4.3%減で、内需額でも加工業種の不振が目立つ。この業種別では自動車9.2%減、はん用機械5.1%減、生産用機械5.2%減で、自動車はエコカー補助金への駆け込み需要の反動減があり、はん用機械と生産用機械は景気回復といわれながら、設備投資低迷の影響と考えられる。
12月調査からの修正率は全体的には売上高と同様だが、その中で下方修正のマイナス幅はん用機械2.5ポイント、業務用機械3.7ポイント、電気機械3.3ポイントが大きい。前2業種は設備投資が予想以上に悪く、電気機械は株高効果が電気製品需要拡大には至らなかったことを表している。
一方、同様に輸出額の12年度下期計画は輸出比率の低い非製造業を除いて、全産業0.6%増、製造業1.0%増、素材業種0.8%増、加工業種1.1%増で、世界景気の回復を反映している。それでも、全産業2.9ポイント、製造業2.6ポイント、素材業種1.0ポイント、加工業種2.9ポイントのいずれも顕著な下方修正で、世界景気の回復が期待ほどでもなかったといえる。この中には中国との関係改善の遅れの影響も含まれている可能性はある。
また、3月調査の経常利益の12年度下期計画の前年同期比は全産業2.6%増、製造業9.5%増、非製造業1.0%減で、かつ、12月調査からの修正率は全産業1.8ポイント、製造業2.6ポイント、非製造業1.4ポイントのいずれも上方修正である。全体として上方修正だが、経常利益水準が低いことを考慮すれば、底を打ったという程度である。
全体として従来よりも世界の景気回復力が弱い影響を受けて、日本の景気回復速度も遅々とした歩みといえる。逆にいえば、アベノミクス効果は今のところ為替レートと株価に反映してだけになる。
また、13年度上期の売上高計画は全産業0.4%増、製造業0.1%増、非製造業0.5%増、経常利益計画はそれぞれ3.9%増、7.0%増、2.2%増と従来の回復期に比べれば控えめである。結果はどうなるかは別として、特に売上高がほぼ横ばいとみているのは、企業はアベノミクスに冷めた目で見ているといえる。そして、これであれば春闘の賃上げが望めないのは当然である。
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