今年の一時金、ボーナスは景気回復要因として評価できるか
自動車業界の今年の年間一時金、ボーナスが労働組合の要求通りの満額で妥結し、多くの自動車企業で2桁台の増額になったことで、アベノミクスの成果として個人消費拡大に繋がり、景気回復を支援すると評価する意見が多い。景気は輸出の底入れで2012年10〜12月期を底に回復に転じた可能性が高いが、自動車の一時金の妥協額を脱インフレの先駆けと期待するのは過大評価になり、期待が外れてマイナス効果になる懸念がある。
一時金に関しては二つの問題がある。まず、輸出産業の自動車が為替レート円安の恩恵を受ける代表的な産業であり、それが一時金に反映されても、その一方でマイナスの産業が存在することが無視されている。かつては輸出が輸入を大幅に上回り、円安効果が大きかったが、最近は輸入額が輸出額を上回っており、円安による交易条件の悪化も考慮すれば単純に喜べない。
かつての円高時には工場が国内から海外に流出する空洞化問題を強調する意見が多かったが、円安になったからといって、工場の海外移転を中止、さらには国内に戻るというような例はまだない。これに関しては当レポートですでに取り上げているので、ここでは説明しないが、その時々の動向で大騒ぎしても仕方がない。
もともと、一時金交渉の妥協までの時差の問題もある。自動車のように円安で増益になる企業は一時金を増やせるため、妥協も早くなる。一方、減益企業は抑制されるため、交渉は長引き、妥結は遅くなる。つまり、一時金妥結の発表は増益企業、増額回答企業が先行するため、これで一時金額全体を判断すると、実態からずれことになる。
化学、エネルギー、食品、繊維製品、卸・小売りなど原材料、製品を輸入に頼っている産業は少なくない。これらの産業の企業は製品価格を輸入価格の上昇に見合うだけ引き上げられなければ、収益は悪化する。これらの中で、電力・ガス料金、石油製品などは原材料の輸入価格を製品価格に転嫁する仕組みになっており、これらの企業では円安の負担増分をユーザーに転嫁することで、収益への影響は少なく、またはほとんど免れるといえる。
ところがり、製品価格の上昇はユーザーの節約をもたらすため、需要量が減少することになる。結局、需要減による収益への影響は避けられず、デフレ要因になる。これから考えれば、今年の夏は昨年以上に電力不足の可能性は少なくなる。
また、電力・ガス料金、石油製品は別として、円安によるコスト負担を消費者に転嫁できても、デフレ下ではその一部に留まり、かつ需要量の減少も避けられない。結果、減益は避けられず、これらの企業では一時金が減額になると考えられる。
景気が底入れしていることから推測すれば、全体として一時金が前年より増額になる可能性は高いと思われるが、2桁台はもちろん、1桁台でも高い伸びになることは予測できない。景気に対してはプラス効果になるが、景気回復を支援するほどの影響力を期待するのは無理がある。
もう一つは、一時金が過大評価になっている考えられることである。低額でも春闘の賃上げが行われているにもかかわらず、1人当たり賃金額が減少を続けている要因として、正社員から低賃金の非正規社員へと雇用構造の変化が進んでいることがよく指摘される。これは一時金は非正規社員にはほとんど関係ないという批判にも結び付く。
雇用構造以外に、一時金額が小さくなっている影響もある。一時金は今年の自動車のように、企業収益との相関性が高いという見方が一般的だが、1990年代央以降は好況期に若干増額になる程度で、基調としては着実に減少の推移になっている。企業が賃金負担の削減を非正規社員の増加と、正社員には定期給与を減らし難いため、一時金の減額で年間給与総額を減らす経営を行っているからである。
例えば、バブル前後の影響がほぼなくなった96年で、従業者30人以上規模企業は月数で夏1.59カ月、年末(冬)1.81カ月、年間で基本的に15.40カ月になる。これが12年の年末がまだ不明のため、11年でみると夏1.15カ月、年末1.22カ月、計14.37カ月になり、96年の6.7%減になる。年率で0.5%減とたいしたことはないようでも、賃金の伸びの低い中では無視できない。ちなみに、同様にもともと一時金が少ない中小企業も含めた同5人以上では、14.68カ月から14.07カ月、4.2%減になる。
また、一時金だけで計算すると年間でこの間に3.40カ月から2.37カ月、30.3%減であり、今年1年だけ10%台の2桁台の伸びでも、かつての水準からみれば低水準に留まる。
以上から明らかなように、雰囲気を明るくして景気を良くしたいという善意から、自動車の一金額を過大に評価しているのかもしれない。しかし、あまり実態とかけ離れた評価は円安の恩恵にあずかれない大多数の国民をしらけさせ、信頼を無くすことを通してマイナス効果をもたらすことも考えられる。
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