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2%物価上昇、脱デフレは実現するか

 昨年末に2%の消費者物価上昇を目標にする自民党阿部政権が成立し、その政策目標に日本銀行白川総裁が屈服したため、金融緩和が一段と進む見通しが強まってきた。これを受けて、為替レートが円安基調に転換し、株価上昇が上昇傾向にある。いわゆるアベノミクスに脱デフレ、景気回復への期待が強まり、1980年代後半の金融緩和で生じたバブル景気の再現までには至らなくても、そのような状況を予想する見方も散見されるようになっている。

 バブル期はそれまでの消費者物価上昇率は今日と同様にゼロ前後の推移だったのが、89年4月には景気回復で今回の目標になる2%台に乗せている。それからは一進一退で上昇軌道をたどり、ピークは90年11月の4.2%増である。

 最近の議論で物価が上昇すれば景気は回復とする、つまり脱デフレになると誤解、物価の下落とデフレを同一の現象として扱う傾向が強い。実際は、物価の下落は文字通り物の価格が下がる現象であるのに対し、デフレは供給過剰による景気が悪化している状態をいい、それに伴って物価が下落するが、意味は同じではない。物価が上昇していても景気が悪いスタグフレーションに陥ることもあるわけで、物価が上がれば良いというわけではない。

 長期にわたってデフレ状態が続いているため、そこからの脱出をアベノミクスに求める心情は理解できるが、この間の環境変化を認識しない見方でしかない。よくいわれていることでは、金融緩和の景気回復効果は低下しているという指摘がある。

 金融緩和でマネタリーベースの供給を増やしても、それが企業への貸出に結び付かない、逆に言えば企業の資金需要が弱いためである。最近の2012年のマネタリーベースの推移をみると、前年比で2桁台の伸びになっても日本銀行券発行高はほとんど増えず、その代わり日銀当座預金が増えるだけである。バブル期はマネタリーベースを増やせば日銀券発行高は増えていた。その一方で、例えば1987年をみると、日銀当座預金は年初はマイナスの伸びで、年央以降は2桁台の伸びでも日銀券発行高の伸び率はほとんど影響を受けていない。

 要因は87年頃の日銀券発行高は22兆、23兆円程度であるのに対し、日銀当座預金は約9分の1の3兆円にも満たない水準であり、両者間の前年比伸び率に相関性はほとんどなかった。これに対し、その後の長期にわたる金融緩和で日銀当座預金が積み上がり、12年12月では日銀券発行高84兆円、日銀当座預金40兆円となっており、日銀当座預金は日銀券発行高の2分の1近い水準にまで達しているからである。それだけ長期にわたって金融緩和が続けられる一方、金融機関が貸し出したいと思える企業の資金需要が弱いまま推移してきたことを示している。

 バブル期頃を振り返ると、実質GDP成長率は5、6%成長を続けており、日本の人口減少は予想されていたが、人口減少が国内需要を減少させる影響までは実感できなかった。また、中国への工場進出も始まっていても、今日ほどは海外進出が広がっていなかった。結果として、投資は国内中心であり、国内での資金需要は強かった。

 これは雇用・賃金面にも現れ、当時の完全失業率は2%台と労働需給は逼迫でなくても(ただし、89〜90年には逼迫傾向がみられた)、供給過剰とまではいえなかった。このため、賃上げ率は「賃金引き引き上げ等の実態に関する調査」(厚生労働省)の加重平均で当時の最も低い87年でも3.6%あり、最近の1%台、定昇を考慮すれば実質ゼロと比較すれば、まだ賃上げが実施されていた。そして、これが消費者物価を引き上げる要因にもなっていた。

 労働人口が増えなくても賃金が上昇していれば、個人消費は拡大でき、日本経済の将来に関してはむしろ楽観的だった。これが企業の投資資金需要になる一方、金融機関も積極的に貸出を拡大させ、それが投機になって株高、地価上昇をもたらすバブルを発生させた。

 これに対し、最近は労働需給の改善は進まず、下落傾向にある12年11月でもまだ4.1%と高水準で、一時金は大幅に縮小し、年収は減少基調にある。加えて、人口減少、高齢化で国内市場の先細り現象が現実化し、企業は国内での能力拡大は考えず、国内投資は最低限に抑えている。これが国内景気を悪化させ、海外市場依存を強めるとともに、国内での競争が激化し、物価の値下がりをもたらしている。

 金融機関はバブル後に苦しんだ経験がまだ残っており、貸し出し審査が甘くなることは予想されない。阿部政権が笛を吹いても踊る状況は考えられない。株価が値上がり期待で上昇しても限界があり、人口減少時代には地価の上昇も一部の限られた土地に留まる。消費者物価上昇率も景気、賃金面からみて2%を実現する可能性は非常に低い。ただし、景気回復に関しては、中国と米国が景気回復すれば、輸出主導の回復は十分予想される。また、歯止めのない金融緩和が続き、円への信頼が無くなった場合も想定されないわけではない。そのときは、状況は全く異なる。

マネタリーベース(前年同月比伸び率)の推移
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| 2013年02月01日 | 政策 | comments(0) | - |
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