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製造業の衰退と工場立地構造変化

工場の海外立地・移転によって製造業が衰退しているというのが一般的な認識であろう。衰退は製造業の生産力自体の衰えと捉えられるが、一方、世界での相対的な地位低下という考えもあるかもしれない。前者であれば、日本経済の先行きは厳しいのに対し、後者であれば、再生の可能性はあるといえる。一般的には前者のイメージが強いと推測され、政治や人口問題などと共に日本経済への不安を高まる要因になっている。ただし、後者であっても、工場の立地構造変化による地域経済への影響は大きい。

韓国、中国などの新興国の台頭で、日本の製造業の地位が相対的に低下していることは否定できない。しかし、絶対的に低下、つまり生産力自体が衰退傾向にあるかどうかの判定は容易ではない。一般的にはその判定に出荷額(生産額)が使われるが、出荷額は景気による変動に加えて、物価の影響が大きい問題がある。円高とデフレ状態から物価が下落している状況では、出荷額が減少傾向にあるだけで生産力が衰退傾向にあるとはいえない。また、経済産業省「鉱工業生産指数統計」で生産能力指数が集計されているが、指数であるため実態が分かり難い問題がある。

それよりも同省「工業統計表」の用地・用水編の工場の延べ建築面積が生産設備に直結し、生産力の実態に近い。ただし、用地・用水編は従業者30人以上の工場を対象に集計しているため、小零細の工場が含まれない問題はある。それでも、従業者30人以上で出荷額等は同4人以上の9割ほどを占めており、これで全体の動向を推し量ることは可能と考えられる。

まず、工場の敷地面積は1996年の1万4,809ha(万平米)をピークに2010年は1万4,071ha、対96年比5.0%減の縮小傾向にある。主な要因は敷地面積の大きい素材産業の工場が減少してためである。ちなみに、従業者30人以上工場数は1991年の6万1,669工場をピークに2010年は約3割減の4万3,628工場である。ただし、従業者が減って29人以下になれば、集計対象でなくなるため、実際に工場がこれだけ無くなったとはいえない。この影響による敷地面積の縮小があっても、これらはもともと小規模工場であり、工場敷地面積全体への影響は小さいと推測できる。

また、工場の建築面積は90年代末頃から一進一退傾向にある。最近では、2008年の3万9,191haをピークに10年は1.7%減の3万8,510haだが、一進一退傾向から明確に縮小に向かっているとは言い難い。特に、08年以降は世界不況による人員削減で従業者29人以下になった影響は大きいと考えられる。

延べ建築面積は同様に08年の5万2,894haがピークだが、10年は微減の0.4%減の5万2,672haに留まっている。かつ、建築面積は09、10年の2年連続の減少に対し、延べ建築面積は10年は増加に転じている。もちろん、まだ発表されていないが11年は東日本大震災で大幅減少が避けられない。

敷地面積と延べ建築面積の乖離現象は敷地面積は化学や鉄鋼が減少しているのに対し、産業構造変化を反映して延べ建築面積は輸送用機械、食品などで増えている。ただし、延べ建築面積でみれば化学や鉄鋼も減少とはいえない。工場は閉鎖しても、研究所などはむしろ充実させているからである。

延べ建築面積をみる限り、生産能力は減少しているわけではないが、増加しているともいえない。産業構造の転換を伴いながらほぼ横ばい基調での推移とすれば、日本経済を維持、再生できる可能性はある。一方、全体的にはそうであっても地域別には問題がある。

地域別では格差が大きい。製造業の集積が進んでいる中央部で減少が顕著なのは関東臨海で、一方、東海は増加が目立っている。地方では九州、山陽、四国はまだ増加傾向にあるが、北海道、東北、北陸、山陽は頭打ちかむしろ減少し、地方でも2極分化傾向がみられる。

関東臨海は工場の延べ建築面積が減少、つまり製造業が衰退傾向でも、サービス業による経済発展が見込める。これに対し、地方は比重の高い第1次産業が長期衰退傾向にあり、サービス業に期待できず、製造業の誘致でなんとか地域経済の維持・発展を図ってきた。地方は製造業が減少にまで至らなくても、頭打ちや微増程度に留まれば、生産性の上昇を考慮すれば、従業者は減少することになる。その受け皿が無ければ経済の衰退が避けられない。延べ建築面積が微増程度では発展は期待できないのではないか。

結局、地域経済発展には地域の資源を有効活用するそれぞれの地域に合った戦略が必要という結論になる。このようなことは以前から言われてきたことで、それが難しいから工場誘致が進められてきた。1960年代に始まり、当時の平松大分県知事に名付けられて80年代に全国的にブームになった一村一品運動も、それによって大分県経済の活性化までには至っていない。その精神は大切だが、一部の町村レベルでは成功の可能性があっても、それで地域全体を引き上げるのは難しいことを示している。


工場の地域別延べ建築面積

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| 2012年10月30日 | 政策 | comments(0) | - |
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