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復帰40周年を迎えた沖縄県経済の現状と課題
沖縄県普天間飛行場の名護市辺野古移転への県民の反対が強まり、久し振りに沖縄県の米軍基地問題が政治課題になっているところに、今年5月に復帰40周年を迎え、沖縄県に関心が高まっている。マスコミで取り上げられるのは米軍基地や観光地がほとんどで、返還後の沖縄県経済の評価には関心がないように思われる。一方、米軍基地がなくなると経済への打撃が大きいという意見も根強くある。それも単純に米軍関係の金額から主張しているだけで、マクロ面からの分析に基づく主張は少ない。今回は沖縄県の経済を取り上げる。
まず、内閣府「県民所得統計」で1人当たり県民所得の全県計(全国)に対する沖縄県の水準は、復帰年の1972年度の58.1%から75年度の73.9%まで急上昇し、その後は一進一退の65〜73%で推移する低所得県である。この間、72年度が過去最低、75年度が過去最高記録になり、不況期に高く、好況期に低いという特徴があるが、これは低所得県で共通にみられる現象である。理由は、好況期には大都市部の所得が増え、不況期には逆になるためである。ちなみに、この統計の最近時の2009年度はリーマン・ショック後の不況期に当たり、73.3%と比較高い。
沖縄県の1人当たり県民所得の全国での順位は最下位が多く、最下位を脱しても下から2番目か3番目で、長期的に低所得県である。同様の低所得には青森県、高知県、宮崎県、鹿児島県などがあり、いずれも地理的に中央から遠い県という共通項がある。産業構造は基本的に工業化が遅れている県になる。
この推移からみると、復帰で沖縄県は所得水準が上がったものの、一時的な効果でしかなく、長期的に低位横ばいに留まっている。また、復帰時においても米軍基地が縮小し、基地経済効果が減少すれば、沖縄経済は悪化するという見方があった。実際、沖縄県の統計資料によると、県民総所得に対する軍関係受取(米軍用地料、軍雇用者所得、軍基地内での建設工事、米軍等への財・サービスの提供など)は72年度の15.5%から減少してきた。77年度には8.6%と10%を下回り、80年代末から90年代央は5%を割り込んだ推移で、その後は持ち直しても5%台前半の推移である。
現状は、72年度からみれば10ポイントほども下がり、それでも県民所得から判断すれば、県全体としては経済への影響は軽微だったといえる。今後も、米軍基地が縮小してもなくなるわけではなく、縮小した水準から減少しても、県経済に深刻な打撃があるとは思われない。
もちろん、復帰に伴う沖縄振興計画で公共投資が行われ、それが沖縄県経済を下支え、牽引してきた効果は否定できない。現在ではインフラ整備が進み、また財政難下でかつてのような公共投資効果は予想できないが、すでに公共投資の比重も低下しており、影響力は弱まっている。
県内総生産(内閣府「県民所得統計」)に占める建設業の割合は90年代までは10%を越えていたが、2000年代に入って10%を割り込み09年度は8.6%である。ちなみに、同年度の全県計の建設業は5.0%と低く、沖縄県の建設業の高さが目立つが、これは他の低所得県でも同様である。
一方、米軍基地のマイナスを埋め合わせる産業として観光に期待する意見もある。これも沖縄県統計資料で県民総所得に対する観光収入比率の推移をみると、沖縄国際海洋博覧会が開催された75年度の12.7%がピークで、これが1人当たり県民所得の対全県計比の最高記録をもたらした。最近は10%前後の推移であり、この状況では観光に沖縄県経済の牽引役を期待するのは難しい。
沖縄県の県内総生産で比率を高めているのはサービス業で、09年度は29.1%を占めている。主要産業の中で最も高く、かつ、全県計の23.9%を大きく上回っている。沖縄県のサービス業は71年度は9.8%でしかなく、同年度の全県計は10.2%で09年度とは逆に沖縄県を上回っていたので、全国的にみても成長率も高い。一方で、サービス業に含まれる観光の収入は増えていないため、それ以外のサービス業が伸びていることになる。例えば、政策効果もあってコールセンターの沖縄県への立地が進んでおり、この点ではサービス業振興が一定の成功を納めている。
ただし、1人当たりの所得が伸びていないことは、集積しているサービス業が低賃金労働を目的に立地している産業になる。それでも、米軍基地からの収入の落ち込みを補った公共投資に代わり、サービス業は県経済を支えてきたわけで、米軍基地のさらなる縮小を乗り越えられる自信にもなる。そして、今後は既存、新規を問わず、サービス業も含めて産業の付加価値を高め、所得水準の向上を図ることが課題になる。
※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。
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まず、内閣府「県民所得統計」で1人当たり県民所得の全県計(全国)に対する沖縄県の水準は、復帰年の1972年度の58.1%から75年度の73.9%まで急上昇し、その後は一進一退の65〜73%で推移する低所得県である。この間、72年度が過去最低、75年度が過去最高記録になり、不況期に高く、好況期に低いという特徴があるが、これは低所得県で共通にみられる現象である。理由は、好況期には大都市部の所得が増え、不況期には逆になるためである。ちなみに、この統計の最近時の2009年度はリーマン・ショック後の不況期に当たり、73.3%と比較高い。
沖縄県の1人当たり県民所得の全国での順位は最下位が多く、最下位を脱しても下から2番目か3番目で、長期的に低所得県である。同様の低所得には青森県、高知県、宮崎県、鹿児島県などがあり、いずれも地理的に中央から遠い県という共通項がある。産業構造は基本的に工業化が遅れている県になる。
この推移からみると、復帰で沖縄県は所得水準が上がったものの、一時的な効果でしかなく、長期的に低位横ばいに留まっている。また、復帰時においても米軍基地が縮小し、基地経済効果が減少すれば、沖縄経済は悪化するという見方があった。実際、沖縄県の統計資料によると、県民総所得に対する軍関係受取(米軍用地料、軍雇用者所得、軍基地内での建設工事、米軍等への財・サービスの提供など)は72年度の15.5%から減少してきた。77年度には8.6%と10%を下回り、80年代末から90年代央は5%を割り込んだ推移で、その後は持ち直しても5%台前半の推移である。
現状は、72年度からみれば10ポイントほども下がり、それでも県民所得から判断すれば、県全体としては経済への影響は軽微だったといえる。今後も、米軍基地が縮小してもなくなるわけではなく、縮小した水準から減少しても、県経済に深刻な打撃があるとは思われない。
もちろん、復帰に伴う沖縄振興計画で公共投資が行われ、それが沖縄県経済を下支え、牽引してきた効果は否定できない。現在ではインフラ整備が進み、また財政難下でかつてのような公共投資効果は予想できないが、すでに公共投資の比重も低下しており、影響力は弱まっている。
県内総生産(内閣府「県民所得統計」)に占める建設業の割合は90年代までは10%を越えていたが、2000年代に入って10%を割り込み09年度は8.6%である。ちなみに、同年度の全県計の建設業は5.0%と低く、沖縄県の建設業の高さが目立つが、これは他の低所得県でも同様である。
一方、米軍基地のマイナスを埋め合わせる産業として観光に期待する意見もある。これも沖縄県統計資料で県民総所得に対する観光収入比率の推移をみると、沖縄国際海洋博覧会が開催された75年度の12.7%がピークで、これが1人当たり県民所得の対全県計比の最高記録をもたらした。最近は10%前後の推移であり、この状況では観光に沖縄県経済の牽引役を期待するのは難しい。
沖縄県の県内総生産で比率を高めているのはサービス業で、09年度は29.1%を占めている。主要産業の中で最も高く、かつ、全県計の23.9%を大きく上回っている。沖縄県のサービス業は71年度は9.8%でしかなく、同年度の全県計は10.2%で09年度とは逆に沖縄県を上回っていたので、全国的にみても成長率も高い。一方で、サービス業に含まれる観光の収入は増えていないため、それ以外のサービス業が伸びていることになる。例えば、政策効果もあってコールセンターの沖縄県への立地が進んでおり、この点ではサービス業振興が一定の成功を納めている。
ただし、1人当たりの所得が伸びていないことは、集積しているサービス業が低賃金労働を目的に立地している産業になる。それでも、米軍基地からの収入の落ち込みを補った公共投資に代わり、サービス業は県経済を支えてきたわけで、米軍基地のさらなる縮小を乗り越えられる自信にもなる。そして、今後は既存、新規を問わず、サービス業も含めて産業の付加価値を高め、所得水準の向上を図ることが課題になる。
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JUGEMテーマ:ビジネス
| 2012年05月31日 |
地域経済 |
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コメント
地場産業育成や沖縄県産品の消費・販路拡大と青少年の学力向上と貧困の解消と一人当たりの県民所得向上と老若男女関係なく中等教育・高等教育の機会を与える事が喫急の課題となっています。
末端迄に波及させる効果策も求められています。