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タイ洪水の日本製造業への影響

 秋を迎えて、生産活動は東日本大震災の打撃からようやく脱しつつあったところに、新たにタイの洪水が懸念材料になっている。タイの洪水はタイ北部で7月下旬に始まり、それが徐々に南下していたが、日本では9月までほとんど報道されなかった。ところが、10月に入ると、日系企業が入居している工業団地にまで広がり、生産活動に影響が出始めた。その後、現地の部品生産の停止でトヨタの国内完成車生産が1割減産を余儀なくされるなど、日本国内の生産活動にまで影響が及んでいるからである。


 洪水は首都バンコクにも及び、洪水が収まるのは11月に持ち越しである。ほとんどの現地日系企業は直接、間接に大きな影響を受け、完全に復旧するのは年を越しそうである。タイ経済にとっては大打撃だが、日本経済全体への影響評価は大騒ぎするマスコミ報道に流されずに、冷静に客観的に行う必要がある。


 日本経済への影響を経済産業省「海外事業活動基本調査」で推測する。この統計には9月1日付けのこのレポートでも取り上げているように、海外の日系企業数、産業・業種別売上高、出荷先別売上高などが主要国・地域別に集計されている。当然、企業全てを網羅できるわけではないが、主要企業は回答していると考えられ、売上高のカバー率はかなり高いと判断できる。


 最新版の第40回の2009年度調査で、集計企業数全体は全世界で1万6,023、うちタイ1,283、8.0%、その中で製造業は全世界7,742、タイ817、10.6%になる。また、売上高全体は全世界165兆3,196億円、タイ10兆1,752億円、6.2%、製造業は全世界79兆1,593億円、タイ7兆9,000億円、10.0%となっており、日本企業のタイ進出は相対的に生産を目的としているといえる。


 タイ洪水の日本生産への影響は日本にどれだけ輸出されているかに係っており、それは出荷先別売上高で分かる。ところが、出荷先別売上高はタイにマレーシア、インドネシア、フィリピンを加えたASEAN4でしか発表されていないため、タイの日本への輸出はASEAN4の出荷先別売上高から類推するしかない。ちなみに、ASEAN4の製造業売上高のうちタイが51.6%占めており、タイの実態を反映しているとみてもよい。


 ASEAN4の売上高比率で日本向け輸出は20.1%でしかなく、現地販売51.7%、第3国向け輸出28.2%となっている。つまり、日本企業のタイへの製造業進出は日本に輸入するためよりも、現地の消費市場、最終製品を生産するための部品供給、第3国向け輸出のための生産が中心である。
  一方、工業統計表による2009暦年の製造業出荷額等は258兆1,545億円であり、タイの日系製造業売上高7兆9,000億円の2割程度は1%にも満たない。それが輸入されなくなっても、影響は軽微といえる。もちろん、トヨタは1割減産に追い込まれており、業種、企業によっては無視できない影響を受けていることは否定できない。


 タイの日系製造業売上高で割合が高いのは、輸送機械の59.3%が過半数を占めて突出して多く、以下、電気機械9.1%、電子部品・デバイス・電子回路を含む情報通信機械5.8%、化学4.5%、業務用機械3.8%、鉄鋼3.0%等が続く。企業数でも輸送機械が売上高割合よりも低いものの、26.9%で第1位である。輸送機械の進出が目立ち、かつ、相対的に工場規模が大きいことになる。


 これらの業種別で特徴的なのは、ASEAN4の出荷先別売上高で輸送機械(タイが61.0%)は日本向け輸出が6.2%しかないことが挙げられる。一方、現地販売61.0%、第3国向け輸出32.9%で、周辺国も含めて現地需要、第3国向け輸出のための生産が中心になる。現地での部品生産の停止で、完成車生産の1割もの影響を受けるトヨタは例外的といえる。


 逆に、日本向け輸出が多いのは情報通信機械(タイが23.8%)の47.3%、業務用機械(同76.6%)の32.0%、電気機械(同70.4%)の26.7%などである。業務用機械にはカメラが含まれ、タイには対日輸出のための電子部品工場が少ないことから、これらは最終製品であろう。年末商戦用の新製品販売に支障が出ているという報道があるように、これらの業種で製品輸入に影響はあっても、全体的にみれば一部の現象といえる。


 それらの製品を抱える業種や企業にとってはタイの洪水が打撃になる。加えて、浸水した設備の復旧費が必要になるため、日系企業の親企業は収益が悪化する。この減益が給与に波及し、個人消費を引き下げる効果など、景気へのマイナス効果も予想される。それでも、全体としてみれば、日本経済がタイの洪水で顕著な影響を受けるとは考え難い。

業種別タイ進出企業数・売上高構成比

※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
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| 2011年10月30日 | 貿易 | comments(0) | - |
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