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円高の度に起こる産業空洞化騒ぎ


 2010年10月に1ドル=80円台にまで円高が進み、80円を超えそうになり、マスコミが製造業からの国内生産では採算が採れなくなり、海外移転するという輸出関連企業の意見を紹介し、いわゆる産業の空洞化論が高まった。これに対して、同年11月1日付けのこの経済レポート「為替レートに関係なく進む海外立地」で、海外立地動向を経済産業省「海外事業活動基本調査」の海外生産比率[=現地法人売上高/(現地法人売上高+現地法人売上高)]の推移から、為替レートだけで海外立地が進んでいるわけではないことを説明し、以下の結論を書いた。
 「為替レートは海外立地にあまり関係しないといえる。もちろん、安い労務コストを求めての海外立地が進んでいることは間違いないが、それは為替レートに影響される以上の内外の労務コスト差があるためといえる。また、海外市場で売るには、現地市場のニーズにあった製品を設計・開発、生産する必要があり、海外市場立地は企業が国内市場の伸びが見込めず、海外市場で成長するためには不可欠になる」

 今回、8月に海外市場で為替レートが1ドル=75円台し、3月の東日本大震災直後の76円台を上回る円高を記録した。かつ、3月は一時的円高であったのに対し、今回は米国の政治経済状況からこの70円台の円高水準が長期化する可能性が高いため、3月には目立たなかった産業空洞化論が再燃している。また、今回の空洞化論は電力問題が絡んでいるのが新しい。

 現状でも前回の結論を変える必要はない。その理由を前回と同様に「海外事業活動基本調査」を使って分析するが、前回の海外生産比率に対し、今回は産業別の現地企業の販売先別売上高で行う。ただし、前回の10年11月1日付け経済レポートの海外生産比率は海外事業活動基本調査の第39回の08年度調査だが、今回はその後、発表された第40回の09年度調査による。

 現地企業の販売先別の09年度売上高構成は製造業全体で、現地売上61.9%、第3国向け輸出26.7%、日本向け輸出11.4%となっている。現地売上のうち、売上高全体に対する構成で現地の日系企業向け25.6%、地場企業向け34.5%、その他企業向け1.8%である。日系企業向けの中には販売先の日系企業の第3国向け輸出や日本向け輸出になる部品が含まれ、売上高構成よりも日本や第3国向けの輸出は大きいことに留意する必要がある。それでも、製造業の海外進出目的は現地市場の確保が中心と推測できる。

 主要産業で日本向け輸出の構成が大きいのは非鉄金属の45.2%になる。非鉄金属のアルミ精錬は生産コストに占める電力コストの比率が高く、電力価格の高い国内での生産が国際競争力を失ったため、アルミ地金はほとんど全量輸入依存になった影響である。

 また、業務用機械、電気機械、情報通信機械も日本向け輸出の構成が大きく、労働集約分野は比較的早期から海外に移転し、日本からみれば輸入産業である。同時に、これらの機械産業は第3国向け輸出構成も大きく、労働コストから国内では国際競争力が低下した分野を海外に移し、そこから日本や第3国に輸出する構造になっている。

 一方、機械産業の中で、輸送用機械は日本向け輸出が2.6%でしかないのに対し、第3国向け輸出が30.5%と顕著に大きい。これは自動車は大規模生産が必要な産業で、アジアへの立地が現地国市場だけでは不足し、周辺国市場への輸出も目的としているためと考えられる。

 海外立地の目的は現地市場確保と国内生産の国際競争力が低下・消失した産業分野の競争力回復にあり、為替レートの円高は国際競争力の低下・消失を加速する要因になる。その一方で、輸入品価格は値下がりし、国内の賃上げがほとんどゼロになっていることを考慮すれば、円高分の全てが価格競争力の低下に結び付くわけではない。過去の円高時の度に空洞化がいわれ、それを乗り越えてきた実績もある。

 空洞化は米国のように国際競争力の消失によって国内生産力が縮小し、ドル安になっても生産力が回復できない事態にまで至った状態と定義できる。日本が長期的にそのような状態には絶対に陥らないとはいえないが、為替レートの円高だけで、今のところそこまでは予想できない。

 ただし、今回は電力の問題が新しく加わっている。まず、電力不足に関しては、原子力発電の先行きが不透明だが、原子力に依存しなくても、省エネと火力発電によって克服できることが明らかになっている。

 その場合、天然ガスや石油の火力発電は燃料費の上昇もあって、電力価格の値上がりが国内生産コストを引き上げ、空洞化を促進すると懸念されている。空洞化との関係では、円高が燃料コスト引き下げ、ひいては電力価格要因であることを指摘しないのは片手落ちになる。それよりも、原子力発電が発電全体の3割を占めていた時でも、国内の電力価格は外国との比較で高かったことを考えれば、火力発電で電力価格の値上げを問題にするよりも、もともと高い電力価格の構造を問題にする方が先である。

主要産業別海外日系企業の販売先別構成


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| 2011年08月28日 | 政策 | comments(0) | - |
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