スポンサードリンク
為替レートに関係なく進む海外立地
10月に開催されたG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)で為替レート安定の合意ができず、円高がどこまで進むか不透明な状態が続いている。ただし、最近はむしろドル安という方が正確だが、海外市場で一時的でも1ドル=80円を上回るまで円高が進んでおり、1995年4月29日に記録した79円75銭を上回る水準も視野の範囲にある。これを受けて、マスコミは製造業からの国内生産では採算が採れなくなり、海外移転するというを声を紹介することで、いわゆる産業の空洞化の懸念が広がりをみせている。
製造業の経営者が円高で輸出採算の悪化から国内生産を再検討するのは当然だが、海外に移転するかどうかは、円高の影響を直接受ける労務コストだけで決まるわけではない。海外立地には新規投資が必要になり、また、新増設分の新規立地と既存設備の国内から海外への移転では条件が異なる。特に、技術革新が進む分野では研究者、技術者の人材の確保や研究開発環境も重要であり、単純に円高による労務コストの相対的な上昇だけで海外立地が進展するわけではない。
過去の海外立地動向からみる限り、為替レートとの関係性はそれほど顕著ではない。まず、この30年間ほどの対ドルレートをみると、85年から円高傾向が顕著になり、86年にそれまでの1ドル=200円台から100円台に突入した。その後も円高基調で推移し、月次の平均ベースで88〜89年の120円台で一度は止まり、次の円高は93年からになる。そして、94年5月に100円を割り込み、95年4月29日に1ドル=79円75銭のピークを記録した。この時は、95年9月に100円台まで円安に戻した後、今回の円高までは円高でも100円を上回らず、安い時で140円台までの間で上下し、02年央以降は基調としてはじり高傾向で推移してきた。
このじり高基調から着実な円高基調への転換が今回の円高の始りになる。それは米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻したリーマン・ショック08年9月からになり、08年11月からは100円を上回る円高が定着した。
海外立地動向は経済産業省「海外事業活動基本調査」でみることができる。海外事業活動基本調査は日本企業に海外子会社に関してアンケート調査し、集計、分析している。この調査は、たとえば08年度調査で回収率69.2%とそれほど高くなく、かつ、回収率が毎回異なり、信頼性に問題はあるが、だいたいの傾向は把握できる。
上で示したような為替レートの推移下、この調査で海外生産比率[=現地法人売上高/(現地法人売上高+本社(日本)法人売上高)]は着実に伸びてきていても、90年度段階では6.4%でしかなかった。10%を超えたのは96年度になり、海外生産比率は10.4%であった。そして、03年度に15.6%、07年度に20%に一歩手前の19.1%までほぼ一直線に伸びてきたが、08年度は反落して17.0%とブレーキが掛かった形になった。リーマン・ショック後の世界不況の影響が相対的に海外で大きかった反映と推測され、一時的現象と予測される。
この間の推移で95年度の9.0%から96年度の11.6%と、2.6ポイントも増えているのが目立つ。これが94〜95年の円高効果とみることもできる。しかし、円高が始まって海外立地を判断し、海外の適地を調査・決定してから、新規の工場を建設せずに既存工場を利用して設備を発注、稼働させるとしても、数年はかかる。これから判断すれば、94〜95年の円高と96年度の海外生産の増加は結びつかない。ただし、既に計画していたものを急ぐことで、97、98年度頃に稼働・生産計画していたものが96年度に駆け込み稼働させることによる海外生産増はあり得る。
それよりも、その後の10年ほどの相対的な円安時にも海外生産比率が着実に増加していること考えれば、為替レートは海外立地にあまり関係しないといえる。もちろん、安い労務コストを求めての海外立地が進んでいることは間違いないが、それは為替レートに影響される以上の大幅な内外の労務コスト差があるためといえる。
また、海外市場で売るには、現地市場のニーズにあった製品を設計・開発、生産する必要があり、海外市場立地は企業が国内市場の伸びが見込めず、海外市場で成長するためには不可欠になる。つまり、海外への生産移転を産業の空洞化とすれば、為替レートと関係なく空洞化は進んでいることになる。
業種別で最も海外生産比率の高い輸送機械は07年度には42.0%と4割を超え、08年度は反落しても39.2%とほぼ4割である。海外生産比率の4割は、国内生産に対して3分の2水準になる。円安時にも着実に海外立地が進展していたことから考えれば、為替レートの円高が海外立地を促進する要因になるが、それによる産業の空洞化を心配するよりも、既存の製品・産業の海外立地は避けられないものとして、新技術・製品の開発による新産業育成を図るのが先進国日本の成長政策になる。
製造業の経営者が円高で輸出採算の悪化から国内生産を再検討するのは当然だが、海外に移転するかどうかは、円高の影響を直接受ける労務コストだけで決まるわけではない。海外立地には新規投資が必要になり、また、新増設分の新規立地と既存設備の国内から海外への移転では条件が異なる。特に、技術革新が進む分野では研究者、技術者の人材の確保や研究開発環境も重要であり、単純に円高による労務コストの相対的な上昇だけで海外立地が進展するわけではない。
過去の海外立地動向からみる限り、為替レートとの関係性はそれほど顕著ではない。まず、この30年間ほどの対ドルレートをみると、85年から円高傾向が顕著になり、86年にそれまでの1ドル=200円台から100円台に突入した。その後も円高基調で推移し、月次の平均ベースで88〜89年の120円台で一度は止まり、次の円高は93年からになる。そして、94年5月に100円を割り込み、95年4月29日に1ドル=79円75銭のピークを記録した。この時は、95年9月に100円台まで円安に戻した後、今回の円高までは円高でも100円を上回らず、安い時で140円台までの間で上下し、02年央以降は基調としてはじり高傾向で推移してきた。
このじり高基調から着実な円高基調への転換が今回の円高の始りになる。それは米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻したリーマン・ショック08年9月からになり、08年11月からは100円を上回る円高が定着した。
海外立地動向は経済産業省「海外事業活動基本調査」でみることができる。海外事業活動基本調査は日本企業に海外子会社に関してアンケート調査し、集計、分析している。この調査は、たとえば08年度調査で回収率69.2%とそれほど高くなく、かつ、回収率が毎回異なり、信頼性に問題はあるが、だいたいの傾向は把握できる。
上で示したような為替レートの推移下、この調査で海外生産比率[=現地法人売上高/(現地法人売上高+本社(日本)法人売上高)]は着実に伸びてきていても、90年度段階では6.4%でしかなかった。10%を超えたのは96年度になり、海外生産比率は10.4%であった。そして、03年度に15.6%、07年度に20%に一歩手前の19.1%までほぼ一直線に伸びてきたが、08年度は反落して17.0%とブレーキが掛かった形になった。リーマン・ショック後の世界不況の影響が相対的に海外で大きかった反映と推測され、一時的現象と予測される。
この間の推移で95年度の9.0%から96年度の11.6%と、2.6ポイントも増えているのが目立つ。これが94〜95年の円高効果とみることもできる。しかし、円高が始まって海外立地を判断し、海外の適地を調査・決定してから、新規の工場を建設せずに既存工場を利用して設備を発注、稼働させるとしても、数年はかかる。これから判断すれば、94〜95年の円高と96年度の海外生産の増加は結びつかない。ただし、既に計画していたものを急ぐことで、97、98年度頃に稼働・生産計画していたものが96年度に駆け込み稼働させることによる海外生産増はあり得る。
それよりも、その後の10年ほどの相対的な円安時にも海外生産比率が着実に増加していること考えれば、為替レートは海外立地にあまり関係しないといえる。もちろん、安い労務コストを求めての海外立地が進んでいることは間違いないが、それは為替レートに影響される以上の大幅な内外の労務コスト差があるためといえる。
また、海外市場で売るには、現地市場のニーズにあった製品を設計・開発、生産する必要があり、海外市場立地は企業が国内市場の伸びが見込めず、海外市場で成長するためには不可欠になる。つまり、海外への生産移転を産業の空洞化とすれば、為替レートと関係なく空洞化は進んでいることになる。
業種別で最も海外生産比率の高い輸送機械は07年度には42.0%と4割を超え、08年度は反落しても39.2%とほぼ4割である。海外生産比率の4割は、国内生産に対して3分の2水準になる。円安時にも着実に海外立地が進展していたことから考えれば、為替レートの円高が海外立地を促進する要因になるが、それによる産業の空洞化を心配するよりも、既存の製品・産業の海外立地は避けられないものとして、新技術・製品の開発による新産業育成を図るのが先進国日本の成長政策になる。
| 2010年10月30日 |
金融 |
comments(0) |
- |
スポンサードリンク
コメント