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実質GDPの需要項目の構成変化からみた安倍政権の経済成長政策の評価

 2012年12月に就任した安倍首相は今年の8月に辞任を表明し、9月に退任した。約7年9か月の長期に亘った政権の評価は各分野で行われている。経済の分野では経済成長率が実質GDP成長率で年率1%程度しかなく、本人がアベノミクス効果を強調している割には成長が伴なっていないことは指摘されている。ここでは実質GDPの需要項目の構成変化から、経済成長政策を評価したい。  安倍政権の意向を受け、異次元の金融緩和でアベノミクスを共に推進してきた黒田東彦氏が13年3月に日本銀行総裁に就任しており、年度ベースでみて13年度から安倍首相の経済政策による日本経済になる。これから12〜19年度の7年間の実質GDP年平均成長率をみると、たった1.0%増にしかならない。これから経済成果を自慢しても、経済成長からみればほとんど効果がなかったといえる。

 その要因をGDPの主要な需要項目の構成比でみると、図にみるように各項目ともにこの間の変化は小さい。その中で、民間最終消費支出の構成比は13年度以降、微減でも着実に下降しているのが特徴といえる。13年度は12年度から横ばいの58.8%だったが、その後は55.5%まで6年間で6ポイントの減少である。

 一方、民間企業設備投資が基調として穏やかでも増加ようにみえる。実質GDPに占める構成比は12年度の14.5%から13年度15.1%、14年度15.6%までは2年間で1.1ポイント増の比較的高い伸びである。しかし、その後は頭打ち傾向で、19年度は16.0%にあり、18年度の16.1%から0.1ポイントの減少である。

 基本的に設備投資は景気、延いては企業収益の影響を受けやすい。安倍政権前の10、11年は欧州債務危機の影響で為替レートが円高水準で推移し、一時は1ドル=70円台まで円高が進んでいた。このため、輸出産業は採算が悪化し、民間設備投資も不振だった。先行ピークの06年度は16.1%、ボトムは10年度の13.7%であり、18年度はようやくその水準に戻っただけである。13、14年度の伸びが高くても、落ち込んだ後からの回復期であれば当然といえる。

 円高の影響が解消された13年度からは18、19年度までの5、6年間で1ポイントほどの増加であり、アベノミクスで企業収益が大幅に改善しても、設備投資拡大効果はそれほどではなかったことはよく指摘されるが、それはこの構成比からも明らかである。それが1%の実質GDP成長率の低成長にとどまた要因の一つになる。

 また、為替レートは日銀の金融緩和効果から長期的に円安状態が続いており、輸出も欧州債務危機による世界景気の影響を受けて設備投資と同様の推移になっている。12年度の14.5%をボトムに14年度の16.1%までは急拡大だが、18年度の17.4%をピークに、19年度は米中貿易摩擦問題をはじめとして世界経済のもたつきから17.0%へと0.4ポイントの縮小である。

 いずれにしても、各需要項目の構成比の変化が小さいことは日本経済を牽引する需要項目がなかったためである。もちろん、全ての需要項目が同程度の高成長になれば、結果として構成比が変化しないことは想定できる。しかし、現実には均等した成長にはならず、需要項目間で成長格差が生じる。今回の場合、この間の成長性では全体の6割近くを占める民間最終消費支出の不振の影響が大きく、構成比で2割未満の設備投資や輸出は伸び率が高くならない限り、全体を牽引するには力不足になる。

 また、設備投資は投資資金面から企業収益の影響を受けるため、景気変化に伴って大幅に変動する。ただし、収益が良くても、設備投資の必要性、つまり投資目的がなければ行われない。目的は主に需要増に対応する供給能力の強化と競争力強化のための生産性向上やコスト削減の2つになるが、特に前向きの能力増投資が重要になる。輸出されるものは別として、原材料や中間財、生産財は国内で最終的に消費されなければ需要に結び付かない。

 つまり、民間最終消費と輸出の増加が設備投資の拡大に結び付き、うち、輸出は海外経済に依る。外国人観光客のインバウンド需要は輸出に含まれ、伸び率が高くて期待は大きいが、インバウンド需要も含めてサービス需要は輸出全体の2割程度でしかない。海外の経済状況の影響は少ないとしても、輸出全体を引き上げる効果はまだ期待し難い。

 結局、民間最終消費の増加は設備投資にも波及し、海外の経済状況に関係なく、日本経済が一定の成長を維持するための必要条件になる。このため、安倍首相が民間最終消費を拡大するために所得のベースになる春闘賃上げを財界に求め、またこの間の雇用増を政策効果として強調するのは正当といえる。

 しかし、賃上げは不十分であり、雇用増も低賃金の非正規雇用が中心になれば、消費の裏付けになる所得は雇用の伸びを下回る。その解消のために正規労働者と非正規労働者の賃金格差をなくす方針から、同一労働・同一賃金制の導入を図っている。それに対し、企業は人件費抑制から対策を考えるため、厳しい罰則付きで実施しない限り、普及は難しい。もともと規制緩和で非正規雇用を採用しやすくしたのは安倍政権であり、本気で同一労働・同一賃金制導入に取り組む気があったとは思えない。

 また、この間に消費税が14年4月、19年10月からの2回の値上げが実施されたことも民間最終消費低迷の要因として挙げられる。収入が増えない中での消費増税が消費を冷やすのは当然といえる。それでも、それが社会保障の原資として使われ、国民は政府が国民生活を重視していると信頼し、将来への不安を解消する方向に向かえば、国民が消費に積極的になる可能性は高まる。現実には増税されても社会保障は切り下げられてきており、これでは民間最終消費が伸びない。安倍政権は日本経済の成長戦略を掲げていたが、失敗と言わざるを得ない。菅新政権によって転換が見込めれば良いが、安倍首相の政策を引き継ぐとするのに加え、「自助」意向が強いように受け取られるようでは、日本経済の成長率の向上は見込めない。

実質GDPの主要需要項目別構成比の推移

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| 2020年10月01日 | 政策 | comments(0) | - |

出生数が一段と減少に向かう状況で、日本経済は成長できるか

 新型コロナウイルス汚染による景気の落ち込みからの回復に関して、第2波とするかどうかは別にして、最近の感染者数の再拡大で、元の経済水準に戻るまでには1、2年は掛かるという見方が広がっている。この状況から中小企業の倒産、廃業の増加が懸念されているが、これに関しては長期的な要因も大きい。長期的に日本経済に期待できるのであれば、現状が厳しくても頑張って生き残る意欲が起きる。期待できなければ、その意欲は生まれないからである。

 長期的要因として大きく、予測可能な問題として人口、つまり出生数の問題がある。出生数が趨勢的に減少傾向にあるのはよく知られ、2019年は90万人を下回る87万人になった。90万人を下回ったことで一時的に注目されただけで、その後は忘れられた状態である。しかし、これは減少傾向が加速傾向になっている反映であり、日本経済にとって長期的視点からみて深刻な問題である。

 出生数は1990年代はほぼ120万人前後で推移し、1999年から2004年までの6年間は110万人台、そして05年から15年までの11年間は100万人台を維持していた。表面的には落ち着いてきていた。安倍首相が新三本の矢の一つとして、合計特殊出生率目標1.8を打ち出したのは16年である。前年の15年の合計特殊出出生率は1.45で、当時は05年の1.26を底に低水準でも回復傾向にあるように見えていた。それでも、出生数を増加に転じさせるのは容易ではなく、1.8は高過ぎて実現は不可能という意見が強い程度で、当時は深刻に考える人は少なかった。

 その後の推移は1.8目標発表の16年に100万人台、3年後の19年には90万人台を割り込み、減少速度が加速している。合計特殊出生率を取り上げた15年11月1日付のこの経済レポートで、この間の合計特殊出生率の変動要因として人口の多い団塊ジュニア世代、第2次ベビーブーマー世代にあることを説明した。

 合計特殊出生率は晩婚化に伴って出産年齢が遅くなった影響で、1974年までは2前後で推移し、75年以降は2以下が定着して基調としては下降線になっている。女子の人口千人当たりで5歳年齢別の出生数(以下、人口当たり出生数)は20歳代が減少する一方、30歳代が増加し、5年間隔で05年に30〜34歳がそれまで最大の年代だった25〜29歳を抜いた。しかし、20歳代の減少幅が30歳代の増加幅を上回っていたため、全体として出生数は減少してきた。 また、40歳代の出生数も30歳代と同様に増加してきた。ただし、人口当たり出生数は少なく、かつ、伸びも止まり、かつて30歳代が急増した現象の再現は見込めない。

 当然、出生数は人口当たり出生数だけでなく、母胎となる女子人口、特に出生数の多い20歳代、30歳代の人口の影響を受ける。人口の多い71〜74年生まれの団塊ジュニア世代の出生数は、最小が71年200万人(内女子97万人)、最大が73年209万人(同101万人)である。この世代が人口当たり出生数が伸びる30歳代に入り、出生数が下げ止まりから回復に向かった。当時の底は05年の106万人で、06年から08年の3年間は109万人前後の推移になった。

そして、人口当たり出生数が30〜34歳の半分程度に低下する35〜39歳に移行するのに伴い、再び減少傾向になった。40〜44歳は人口当たり出生数が35〜39歳の5分の1程度で、かつ、増加していた40歳代の人口当たり出生数の伸びは頭打ちである。このため、団塊ジュニア世代が40歳代になる10年代中頃からは出生数の減少が加速してきた。この問題は15年11月1日付経済レポートでも指摘したが、その時の予想以上の減少速度である。

 ちなみに、合計特殊出生率は2000年代前半の1.2台を底に、15年に1.45まで上昇したが、その後は微減の後、18年の1.42から19年は1.36へと急落している。19年は団塊ジュニア世代全てが人口当たり出生数が40〜44歳の5分の1程度の45〜49歳になった影響と推測できる。45〜49歳の人口当たり出生数は増えたといっても、19年で千人当たりで0.3人であり、出生数への影響は小さい。

 人口当たり出生数の伸びは各年代で頭打ちか微減傾向にあり、これからの出生数は母胎の女子人口の影響が大きくなる。19年10月1日の日本人の女子人口は、ほぼ団塊ジュニア世代の45〜48歳は94万〜98万人である。これに対し、年齢が若くなるのに伴ってこれまでの出生数の減少を反映して減少傾向が続く。43歳から80万人台、40歳から70万人台、33歳から60万人台になるが、28歳、26歳に60万人を切っても僅かで四捨五入すれば60万人になる。19歳まではほぼ60万台を維持し、18歳からは50万人台に下がる。

 40歳代後半の団塊ジュニア世代女子の90万人台から、30歳代、20歳代の60万人台へと急下降から判断すれば、当面は出生数の顕著な減少が続くと予想でき、人口の減少も避けられない。少なくとも、人口動向からは長期的に日本経済に明るい展望は描けない。

 もちろん、中小零細の企業経営者がこのような人口統計を見て、日本経済や自社の経営を考えてはいないと思うが、この人口動向は市場には顕在化する。一方、長期的な出生数、人口の減少と高齢化が加速しつつある日本経済の現状、将来見通しは社会の雰囲気に反映する。コロナウイルスによる経済状況から、倒産しなくても潮時と判断し、自主廃業する企業が増える可能性は高い。それを避けるには、積極的な外国人労働力の導入が必要と考えられるが、その場合は彼らが働きたくなる日本であるかどうかが問われる。

出生総数と女子人口当たり年齢5歳階級別出生数の推移

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| 2020年08月01日 | 政策 | comments(0) | - |

外国人旅行者のインバウンド消費は中国の景気次第

 日本政府観光局(JNTO)が発表した8月の訪日外客数(訪日外国人旅行者数、推計値)は、前年同月比2.2%減の減少になった。台風21号や北海道胆振東部地震の影響を受けた 2018年9月以来、11か月振りの減少である。18年9月は天候要因による一時的現象に留まったが、この8月は日韓関係の悪化による政治的要因で、韓国からの訪日客数が48.0%減とほぼ半減した影響が大きい。

 外国人旅行者が日本国内で消費するいわゆるインバウンド消費は、外国人旅行者の増加に伴って急増し、近年、明るい話題の少ない日本経済の希望の星の一つになっていた。それが韓国からの旅行者の急減で、まだインバウンド消費額がどうなったかは分からないが、今後の不安材料である。すでに、日本経済全体ではその影響が明確ではなくても、韓国人旅行者の多い九州地方では経済への影響が顕在化している。

 訪日外客数の18年の年間実績でみると、訪日外客の総数3,119万人中、中国が838万人で26.9%を占めて第1位で、次いで韓国の754万人、24.2%であり、この2か国で過半数を占めている。韓国は第2位でも中国と大差なく、4分の1近くになり、その半減の影響は大きい。以下、台湾476万人、15.3%、香港221万人、7.1%と続き、これらの東アジア4国・地域で4分の3近い。ちなみに、第5位は米国の153万人、4.9%である。

 韓国からの訪日外客数が変調をきたしたのは1年以上前の18年6月からで、それまでは前年比2桁台の伸びであったのが、6.6%増と1桁台になった。そして、7月には5.6%減と減少に転じたが、減少幅は一進一退傾向に留まり、12月には0.4%増と僅かだが増加になった。この結果、年間を通してでは18年は5.6%増とプラスだった。

 19年に入っても7月まではこの基調が続き、2月と6月は前年比微増で、7月は7・6%減である。そして、日韓関係の一段の悪化を受けて8月は半減になった。この大幅減少が続くかどうかは不明だが、9月以降も関係改善の兆しが見えないため、大幅な減少は避けられないと予想できる。年間を通して韓国からの減少幅は2桁台に乗る可能性が高い。

 一方、訪日外客数第1位の中国からは高水準の伸びが続いている。中国からの訪日外客数は17年の15.4%増から18年は13.9%増と伸び率が低下したが、19年に入って月によって変動が大きいものの、前年比で1?3月期11.6%増、4?6月期11.8%増と若干低下した後、7、8月計は17.9%増と盛り返している。1?8月では13.6%増であり、基調の変化はないといえる。

 19年の推移は韓国と中国のトップ2以外をみると、上位では前年比で米国が2桁台の伸びを維持している一方、台湾は4?6月期に減少になり、香港は1?3月期、7、8月計が減少になっている。これら以外の訪日客数は少ない国でも、ベトナムやフィリピンのように高い伸びを維持している国がある一方、インドネシアが4?6月期、7、8月計で減少、タイ、マレーシア、インドネシアなどのように月単位では減少が時々見られる国も増えている。全体として中国からの訪日外客に支えられて前年を上回ってきたが、8月に減少に転じ、その原因として韓国からの大幅減少が挙げられている。それは間違いではないが、その他の国・地域にも高い伸びから変調が見られることに注意する必要がある。

 訪日外客数の総数は13年に1,036万人で1千万台の大台に乗せ、16年2,404万人、18年3,192万人と短期間に1千万人単位で増加してきた。19年は前年比で8月に減少したものの、1?3月期5.3%増、4?6月期3.6%増、7、8月計1.9%増である。日韓間の問題解決が困難で、当面、韓国からの訪日外客数の大幅減少が続いても、総数は年間を通してみればプラスになるのは確実である。それでも、近年の高い伸びからの一服感は否めない。

 今後の訪日外客数の見通しを、これまでの増加要因から考える。政治的要因は別として、訪日外客数が急増してきた要因として大きく旅行コストの低下と所得増の2つの要因が挙げられる。そして、旅行コストは為替レートの円安と技術革新によるものの2つがある。為替レートは11年末ごろから12年初め頃までの1ドル=70円台をピークに、その後は円安に転じ、安ければ120円台、高くても100円台後半のレンジで推移してきた。円安は訪日外客にとっては日本での旅行コストを低下させる。

 また、航空機の大型化による輸送力拡大の影響がある。これによって1970年代末ごろから欧州や米国で始まった航空運賃の値下げ競争が激化し、航空業界の再編成が進展してきた。その波が2000年代に入ってアジア地域にも及び、10年代には急速に広がってきた。この国際航空運賃の値下がりによる旅行コスト低下効果も大きい。ただし、この経営革新も含めた技術革新効果は、今後は期待し難い。

 同時に、先行した東アジア地域を追うように、東南アジア地域も輸出主導で国・地域によって開始時期、速度に差はあっても経済発展が波及してきた。経済発展効果で所得が増え、生活に余裕があれば、旅行需要が高まる。その一方で、海外旅行コストが低下すれば、海外旅行が伸びるのは当然で、円安の日本に向かって訪日外客数の急増をもたらした。

 現状は政治的要因で急減している韓国からの訪日外客数減に注目が集まっているが、絶対数が少なくても経済発展と共に増えてきたその他のアジア諸国の中で、基調変化がみられる国・地域が広がりつつある。その中で、米中貿易戦争の影響で中国経済への打撃が言われているが、現状はそれほど明確ではなく、訪日外客数にはまだ現れていない。

 中国からの訪日外客数に変化はなくても、中国との関係の深い国には経済的打撃があるのに対し、対米輸出が規制される製品の生産の受け皿になる国には経済にプラス効果になり、その関係が訪日外客数の国・地域間の乖離現象となっている。全体としては、アジア地域経済における中国の比重の高さ、また米中貿易戦争による世界経済の悪化を通しての間接的なマイナス効果を考えれば、訪日外客数総数ではマイナス効果の方が大きいと推測できる。韓国との政治的問題は無くても訪日外客数の伸びは鈍化していたといえる。

 もちろん、訪日外客数の今後は比重の高い中国の影響が大きく、韓国からの減少下、中国からも頭打ち、減少になれば、総数の減少は避けられない。近年の中国は経済発展に伴う構造調整から経済成長率は鈍化傾向にあり、訪日外客数の伸び率も低下が予想される。その速度は米中貿易戦争の影響によるが、解決が困難であり、少なくとも経済成長率、延いては訪日外客数の基調として伸びの鈍化が明確になるのではないか。いずれにしても中国の景気次第である。

 また、日韓関係も長引くことが避けられないため、9月は18年9月の減少の反動増とラグビーワールドカップ効果、20年7、8月のオリンピック需要の一時的効果は別として、対東アジア各国の為替レートが大きく変化せず、中国経済の成長率の伸びが鈍化する程度であっても、基調としては訪日外客数の高い伸びは見込めない。韓国の影響が一巡する20年7月までは、微増でも増加すれば良いと評価すべきではないか。

主要国別訪日外客数(訪日外国人旅行者数)の前年比伸び率の推移

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| 2019年10月02日 | 政策 | comments(0) | - |

金融庁の老後資金問題を基準となる人口推計から考える

 金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループが6月に発表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」が話題になっている。報告書で平均的な高齢夫婦の無職世帯の毎月の収入と支出の差、赤字額が約5万円になるため、超長寿社会を踏まえると、公的年金以外に老後資金として2,000万円が必要とした。単純計算で予想より30年以上長生きすることになる。ただし、経済成長が低迷を続けている財政要因もあり、寿命予測だけの問題ではない。

 これに対して、公的年金で生活できないのは04年に自民・公明連立政権下で行なわれた年金制度改革「年金100年安心プラン」で、当時の自民・公明連立政権が説明していた内容と異なると反発が起こっている。現自民・公明連立政権は安心な生活を保障すると言っていないとしているが、そのように受け取られていたのは確かである。

 ただし、国民が本当にそれを信じたか、また現在まで信じていたかは別である。現実にはGDP成長率はせいぜい1%台でしかなく、所得も増えない状況で、社会保障制度の改悪が続いているため、高所得者は別として、一般人でそれを信じて安心して生活している人はほとんどいない。それは長期的な消費の低迷が続き、消費者物価が上がらないことから明らかである。国民は生活を切り詰め、貯蓄に励んでいても2,000万円はほど遠く、または生活するだけで精一杯で貯蓄どころではない状態である。一般の人からはあり得ない金額と感じるのがほとんどであり、それが反発、怒りの背景にある。

 年金100年安心プランと今回の報告書で明らかになった国民との乖離状態は、基本的に平均で計算していることにある。近年、特にアベノミクスによる金融緩和後の所得格差は一般的にも認識されているが、これは公的年金でも明らかである。国民年金は1か月あたり6万5,000円が上限といわれても、平均受給額は5万5,000円、夫婦で合わせても11万円にしかならない。持ち家かどうかでも異なるが、これに5万円を加えても、公的保険のほか、電力・ガス、水道、電話などの公共料金などの支出を考慮すれば、残りは食費でほとんど無くなり、余裕がある生活とは程遠いと推測できる。また、厚生年金でも男性で平均月額17万円弱、女性で同10万円強で、現在の高齢者で夫婦共に平均の厚生年金があれば、少しは余裕のある生活かも知れない。

 ちなみに、日本銀行が事務局の金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2人以上世帯調査)」(2018年)の「老後の暮らし(高齢者は、今後の暮らし)」の問いで、「それほど心配していない」は19.8%しかなく、残りは「多少心配である」43.0%、「非常に心配である」36.2%となっており、非常に心配している世帯は3分の1以上もある。政府をそれほど信頼していなくても、将来不安がある中で責任放棄と受け取れる今回の政府発言への反発が強いのは当然である。

 この報告書の目的は資産運用による自己資金で老後生活を送るように求めていると受け取れる。その背景には政府が約束するような経済成長が実現できず、年金不足に対して税収、また現役世代の年金負担も労働力人口の減少で増えない、財政面からの支払い能力に懸念が生じている。その一方で、高齢化が事前に推測した以上に進み、年金受給者が増える、つまり支給額が予想以上に膨らんでいることが挙げられる。需給両方の見込み違いが限界に近づき、報告書作成に踏み出したといえるが、既に遅すぎるという見方もできる。ただし、税制や財政支出面では何に支出するかは政治判断であり、この検討も必要になる。

 ここでは年金支出額推計の基礎にしていると推測する国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計」の年齢3区分別人口(中位)推計と、実態とのずれの問題を考える。同研究所の人口推計は5年毎に実施される「国勢調査」をベースに毎回推計され、発表されているのは1995年の国際調査に基づく07年の平成9年1月推計(以下9年推計)からになる。ここでは10年間隔で06年の平成18年12月推計(同18年推計)、17年の平成29年4月推計(同29年推計)で推計値変化の推移をみる。実績、推計値はいずれも10月1日の人口である。

 この変化で特徴として「0〜4歳」と「65歳以上」で分かれる。まず、「0〜4歳」の実績が出ている15年と18年は、9年推計よりも18年推計が低かった。これはこの15年11月1日付のこの経済レポートで指摘したように、結婚年齢の高齢化、未婚化によって出生数が減少し、その減少速度がより速いと18年推計は9年推計より悲観的に予測していた。ところが、20歳代の出産は大幅に減少したが、逆にそれ以前よりも30歳代、40歳代の出産が大幅に増え、15年と最近時の18年の実績に見られるように、18年推計ほどは低下しなかった。判断を誤ったためである。ただし、それでも減少傾向にあることには変わりはなく、40年、50年の推計値でも減少が続いている。

 一方、「65歳以上」は推計が後になるほど上方修正になっている。原因は実績が推計を上回り続けているためで、後追い的に推計値を増加させている。「65歳以上」の高齢者が増える、つまり長寿命化が着実に進んでいるためで、医療技術の進歩だけでなく、健康に気を付ける人が増えている反映と推測できる。評価すべき結果である。

 しかし、推計が後追い的に上方修正になっていることは、高齢化を進ませたくないという意図はなくても、年金は増やしたくないためではと邪推できる。もちろん、国立社会保障・人口問題研究所には関係ないことだが、年金財政からは高齢化が進まない方が望ましいからである。しかし、現実は長寿命化、高齢者人口の増加は進展するわけで、年齢に関係なく、就労意欲のあるひとに働いてもらい、その税収を年金資金に回す方が国民にも国にも望ましい。

 ただし、高齢化すれば個人間で肉体的・精神的格差が大きくなることへの配慮が必要になり、就労意欲がある人をできるだけ週力可能にする努力が大切になる。高齢化しても働いて収入があれば、当然、それが一般の人には実現困難な資産2,000万円の代わりになる。そのためには働き方改革だけでなく、発展するIT、AIを活用すればその可能性が高まると期待できる。それが従来の推計以上に高齢化が進展していることから考えれば、公的年金財政問題の悪化速度を少しは弱める程度の効果しか期待できない。しかし、少なくとも実態に合わせた人口推計、財政予測でなければ、国民の信頼は得られない。

年齢3区分別人口実績と将来人口推計

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| 2019年07月01日 | 政策 | comments(0) | - |

2019年度の民間の実質GDP成長率見通しは18年度に続いて1%以下

 2017年度の実質GDP成長率は1.9%増、名目成長率は2.0%増といずれも比較的高い成長率だった。1年前の17年度の実績見込みの見通しはそれぞれ政府1.9%増、2.0%増、主要な民間の予測機関1.7?1.9%増、1.6?1.9%増で、需要項目別では幅があるが、GDPは政府が実質、名目のいずれも実績通りで、各民間予測機関のGDPはそれより少し低い程度である。民間が低かったのは民間設備投資と輸出の見込みが低かったことにある。つまり、輸出が見込より多くなり、その結果、設備投資も見込みを上回ったと判断できる。

 全体として1年前の各機関の経済見通しは17年度の後半の状況を比較的的確に判断していたといえるが、それが正確な18年度経済見通しに結び付くわけではない。今回の19年度見通しの前提となる18年度実績見込の見通しでは、政府も含めて実質、名目ともにGDPで0.6?0.9%増である。

 一方、1年前の18年度経済見通しは政府の実質GDP1.8%増、名目GDP2.5%増に対し、民間はそれぞれ1.0?1.2%増、1.2?1.9%増だった。政治的判断で高く出す政府は別としても、17年度よりも低くなると予測していた民間予測機関でも1%台の成長であり、いずれも楽観的過ぎたことになる。もちろん、結果が出るのは半年ほど先で、18年度の実績が1%台に乗る可能性は否定できないが、12月中旬以降の株価の急落を見れば、むしろ下方に振れる可能性の方が高い。

 18年度経済見通しで1年前のGDP成長率が実質、名目ともに過大になった最大の要因は輸出入バランス、つまり財貨・サービスの純輸出にある。1年前には、いずれの見通しでも輸出が輸入を上回っていたが、今回の18年度実績見込みの見通しでは、ニッセイ基礎研究所が実質で財貨・サービスの輸出2.4%増、財貨・サービスの輸入2.2%増と、輸出が輸入を上回っているだけである。他はいずれも輸入が輸出を上回り、ニッセイ基礎研も逆とはいえ、輸出の伸び率は17年度実績の半分以下である。全体として、輸出主導の成長が頭打ち傾向に対し、日本の経済構造は輸入が減少し難い状況になっていることが挙げられる。

 一方、為替レートの見通しは対ドルで18年度は17年度とほぼ横ばいである。円安で生産基地は海外から国内にUターンするという説が広まった時期もあったが、実態はそうではなかった。円安になっても厳しい価格競争は続いており、現状程度の円安では国内生産の価格競争力の回復が困難なことを反映している。加えて、長期的な日本の人口減少、若年労働力不足の問題も無視できない。

 19年度経済見通しでは高い数字が求められる政府の実質GDP成長率1.3%増、名目GDP成長率2.4%増は別として、民間の各予測機関の実質GDP成長率は日本総合研究所の1.0%増以外は、2年連続でいずれも1%増を下回り、0.7?1.0%増に収まっている。各民間予測機関の18年度実績見込みの見通しとの比較では、上下はあっても0.3ポイントの範囲内で、全体としてほぼ横ばいである。

 需要項目別でも各予測機関間に大差はなく、19年10月に予定されている消費税の引き上げの影響も軽微という判断でも同じである。引き上げ幅が前回の3%に対し、今回は2%と小幅に留まることや、政府の影響軽減対策効果を予想しているためである。輸出も中国と米国の経済成長率の伸びが鈍化するとして、18年度と同程度でしかなく、高い伸びにはならないことで一致している。

 実質GDP成長率見通しは各民間予測機関で乖離が小さいのに対し、名目GDP成長率では1.1?2.0%と比較的大きいのが今回の予測の特徴として挙げられる。その要因として消費者物価見通しの格差がある。名目成長率を2.0%としている日本総合研究所と三菱総合研究所は、消費者物価(生鮮食品を除くい総合)上昇率で19年度をそれぞれ1.5%増と1.9%増としている。日本総研は0.4ポイント低いが、実質GDP成長率は1.0増と民間の予測機関では最も高い。これに対して、消費者物価(同)が最も低い三菱UFJリサーチ&コンサルティングは0.5%増で、三菱総研との乖離は1.4ポイントにもなる。

 両予測機関ともに消費税の引き上げを前提とし、為替レートや原油価格の予測には大差がないため、賃金上昇の消費者物価への波及効果の見方によって差が生じていると推測できる。19年度も人手不足から一定程度の賃金上昇の予測になるが、それを価格に転嫁できるとみるかどうかである。消費が弱いため転嫁は難しいと判断すれば、物価上昇は低くなる。一方、賃金をはじめコストアップで採算が厳しい状況にあり、転嫁せざるを得ない判断では高くなる。小売業は消費が冷え込んでいる状況下で、低価格化に力を入れていることから考えれば、消費者物価上昇率は低い方が正解になるのではないか。

 これらの見通しからは19年度も国民が好況を感じるようになるとは思えない。むしろ、株価が大幅に上下しながら趨勢的には下方に向かっている。各民間予測機関が発表した12月10日以降、その傾向が明確になっている。特に、米国は株価の消費に与える影響が大きく、すでに経済成長に頭打ち傾向が出始めていることを考慮すれば、年明け以降、米国の景気の頭打ちが明確になる可能性が高い。となれば、これらの各機関のGDP見通しよりも現状では低い予測になり、延いては消費税の引き上げの実施も難しくなる。

表 2019年度の経済見通しの主要項目別一覧

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| 2019年01月05日 | 政策 | comments(0) | - |

出入力管理法改正は2%消費者物価上昇目標と矛盾

 日本銀行は4月の金融政策決定会合で新たな経済・物価見通しを示し、目標として掲げていた消費者物価上昇率2%の達成時期を、それまでの2019年頃としていた表現を削除した。一般的にはこれでようやく日銀は2%上昇を諦めたと認識されている。労働力不足がパート・アルバイトなどで賃上げが低額でも進みつつあり、購買力向上と労働コストアップの需給両方から物価上昇は徐々にでも高まる可能性が見え始め、時間は掛かるが労働力不足によって2%上昇に向かうと予測することはできた。

 ところが、政府が財界の要請を受け、外国人労働力の導入で労働力不足を解消できるように出入国管理法の改正に乗り出し、改正法が国会で成立する見通しになっている。結果、労働コストからの消費者物価上昇要因は、改正法が実施される19年4月から直ぐに外国人労働力増にならなくても抑制される。労働コストからの消費者物価上昇の可能性はなくなり、2%上昇の実現はさらに遠のく。

 現実の消費者物価は18年度に入って上昇傾向にあるが、その要因は一巡傾向にある。当面、消費税引き上げの影響を除いて、物価上昇率は縮小に向かうと予測されるからである。長期的に賃金が上昇しなければ、消費税の引き上げの有無に関係なく個人消費需要は回復せず、基本的に需給要因が改善しない状況で値上げは困難である。もちろん、消費税引き上げはより一層消費を抑制することになる。

 消費者物価上昇率の推移をみると、日銀の4月金融政策決定会合時前に発表されていた2、3月は、全体の消費者物価指数は前年同月比で1.5%増、1.1%増、うち生鮮食品を除く総合で1.0%増、0.9%増、生鮮食品及びエネルギーを除く総合で0.5増、0.5%増で、全体を合わせた全体の1%台の上昇率は消費税引き上げが行われた14年度を除いて高い上昇率である。これら3指数の上昇率格差から明らかなように、異常天候による生鮮食品の高騰と、エネルギー、つまり原油を中心とする輸入物価上昇による卸売りの国内物価指数上昇が波及したことにある。輸入物価指数は原油や穀物の上昇に加え、為替レートの円安が重なった。

 

 もともと、目標の2%上昇には生鮮食品は除かれており、天候要因は一時的なもので、通常の状態に戻れば生鮮食品は値下がりする。事実、6月には生鮮食品を除く総合0.8増%になり、全体の消費者物価指数の0.7%増を下回っている。

 一方、輸入物価は世界経済の景気回復と投機資金の流入などもあって国際商品市況が上昇したが、この頃は一段の上昇は予想されなかった。また、為替レートも1ドル=110円台前半の水準からは円安が進み難くなっており、国際商品による物価上昇は解消する見通しになっていた。実際、消費者物価指数は4〜7月は1桁台の上昇率の推移である。

 ところが、消費者物価上昇率は8月に1.3%増と再び1%台に乗り、9月1.2%増、10月1.4%増である。台風や豪雨などの天候要因による生鮮食品の高騰の影響だけでなく、生鮮食品を除く総合でも9、10月は1.0%増と1%台の上昇である。ただし、生鮮食品およびエネルギーを除く総合は7〜9月の3か月が0.4%増であり、エネルギー、つまり原油価格高騰の影響の方が天候要因よりも大きい。

 国際商品市況は世界的な経済成長の鈍化を受けて頭打ち傾向にあった。その中で、原油は5月にトランプ米大統領がイラン核合意から離脱し、イランへの経済制裁を再開させると発表したことから、原油供給の減少を見込んで価格が高騰した。それ以前から需要は回復しており、原油価格は産油国による需給改善、価格引き上げのための減産で、17年頃から上昇傾向にあった。原油不足をにらんだ投機資金の流入もあって、18年5月には1バレル70ドル台に達していた。そこにイラン経済政策が加わり、10月初めには80ドル台になり、一時は100ドルを超えるという見方もあった。それが日本の7〜9月の物価指数に反映した。しかし、イラン原油が供給されなくても原油不足が避けられ、需要の伸びも高くないため、原油価格は10月中旬以降、顕著に値下がりしている。

 輸入物価指数は既に契約通貨ベースで7月、円ベースで8月をピークに上昇率は低下傾向にある。最近の為替レートは変動が少ないため、両ベースの輸入物価指数の上昇率は同レベルの推移になっている。この上昇率の低下は10月の統計ではまだ表面化していないが、今後、国内物価指数の伸びの鈍化を通して消費者物価に影響してくる。また、高騰していた季節商品の野菜も、天候の回復で11月に入って値下がりしている。この2つの物価上昇要因が一巡したことにより、11月以降、消費者物価上昇率は急速に低下し、生鮮食品を除く総合、生鮮食品及びエネルギーを除く総合のいずれもゼロ上昇率に近づくと予想される。為替レートもトランプの姿勢からみれば現状以上の円安は考え難いからである。もし、円高になれば消費者物価が再びマイナスなることも十分あり得る。

 このような状況がいつまで続くかは不明だが、出入国管理法改正は消費者物価上昇には抑制効果になる。政府は財界に求めた賃上げ要請は労働コストの上昇を通して物価を押し上げ、2%目標の支援策になる。一方、外国人労働力の導入は労働需給の緩和を通して賃金に対して抑制効果を持つため、消費者物価上昇率2%目標に対して矛盾する政策になる。

消費者物価指数と企業物価指数の対前年比上昇率の推移

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| 2018年12月02日 | 政策 | comments(0) | - |

2018年の地域別将来人口推計で東京圏集中から東京一極集中へ

 厚生労働省の試験研究機関「国立社会保障・人口問題研究所」が2017年に発表した日本の将来人口推計(中位の仮定、以下同じ)が15年の1億2,710万人から、40年1億1,092万人、45年1億642万人に減少する推計に基づき、地域別の将来人口推計を18年3月に発表した。日本全体の人口推計はもっと長期間だが、地域別には45年までの推計である。

 5年前の13年時点の人口推計は15年1億2,660万人、40年1億728万人であり、18年推計でわずかだが日本全体の人口は上方修正になった。上方修正の要因は生産年齢人口(15〜64歳人口)でも増えていることから、死亡率の低下になり、日本の少子高齢化の基調が基本的に変化したわけではない。

 少しでも人口推計が高くなったことは喜ぶべきことになるが、減少傾向に変わりはなく、今回の地域別推計では前回よりも、より一層東京一極集中が進む予測になった。地方の地域間経済格差に関しては、政府もその問題を認識している。14年12月の閣議で「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」が決定され、対策が講じられているが、その効果が政府機関によって否定されたことになる。

 前回の5年間隔の推計では、東京都は15年の1,135万人をピークに、20年から人口減少に向かう予測になっていた。都道府県別では出生率の高い沖縄県を除いて他はいずれも減少であった。その中で、東京都は相対的に減少率が低く、東京都の全国に占める割合は15年の10.5%から、40年には11.5%まで上昇になっていた。

これに対し、今回推計の東京都は15年の1,352万人から、20年には前回の減少から増加に転じて1,373万人になり、30年まで増加が持続して1,388万人でピークを打つ。減少に転じてもその速度が遅いため、東京都の全国に占める割合も上昇を続け、15年の10.6%から、30年11.6%、40年12.4%、45年12.8%へと着実に高まり、前回以上の速度で人口集中が進む予測である。

 沖縄県も同様にピークが30年になる。一方、両都県以外では15〜20年で埼玉県(726.7万〜727,3万人)、神奈川県(912.6万〜914.1万人)、愛知県(748.3万〜750.5万人)など増加に転じた県はあるが、いずれも微増程度に留まり、かつ20年がピークである。

 南関東(東京圏)の埼玉県、千葉県、神奈川県は東京都に牽引される形で、ベッドタウンとして人口集積が進んできた。すでに千葉県は15年には減少傾向にあり、埼玉県、神奈川県が東京都より10年早く先行して20年にピークになることは、東京都からの波及効果の低下、喪失を意味する。

 少子化による日本全体の人口の減少、日本経済の成長性の低下から東京圏の吸引力が低下していると推測できる。加えて、東京の湾岸地域の再開発で港区、中央区、江東区などで住宅建設が進み、人口が急増している。その背景には女性の就労増による職住近接ニーズ、また高齢化が医療や小売店が集積している都心の居住ニーズを高めており、都心、東京都の人口増をもたらしている。また、13年に決定した20年の東京でのオリンピック開催決定によって、競技施設も含めた東京再開発が活発化している影響もあると考えられる。

 ただし、この東京圏3県の人口が東京都より早く人口減少に向かっていても、日本全体と比較すれば相対的にその減少速度は遅い。このため、東京圏の1都3県の人口の全国に占める割合は15年28.4%、30年30.1%、40年31.3%、45年31.9%と着実に拡大している。それでも、15〜45年間で3.5ポイントでしかなく、うち、この間の東京都が10.6%から12.8%であり、2.2ポイントを占めていることから判断すれば、かつて言われた東京圏集中の時代は終わり、東京一極集中に向かっているといえる。

 地域間人口成長格差は高度成長期以来の日本の問題で、背景には経済発展格差がある。当時は地方から中卒者が就労の場を求めて東京圏への移動に加え、東京の大学への入学もあった。地方は教育コストを負担するだけで、その果実を東京圏に代表される大都市部に若者が流出することに不満があり、その対策が国の政策課題になった。

 これまでの過程で、高度成長による大都市部の労働力不足、工業用地不足によって、1960年代後半頃から工場の地方分散が進み、地域間格差が解消に向かうのではと期待を持たせる時期があった。ところが、国内の人件費の上昇に為替レートの円高が加わり、国内生産が困難になった分野から海外移転が始まった。80年代以降、国内工場は特に地方工場を閉鎖し、海外移転を進める動きが広まり、再度、地域間格差問題が深刻化してきている。

 最近の特徴はかつてとは異なり、日本の産業構造のサービス経済化で大都市圏の中で東京圏への一極集中が進んでいることが挙げられていた。それが衰退する大阪での橋下徹ブーム、維新の会ブームになったと推測できる。現実には府や市の制度、組織を組み替えたところで、産業をどう発展させるかの有効な戦略がない限り、大阪が発展し、人口が増えることは期待できない。

今回の地域別将来人口推計で東京圏の核、東京への一極集中が進んでいることが明らかになった。もちろん、13年と18年の5年間で推計が変化したように、今回の18年推計も今後の実績がどうなるかは不明だが、現状から見る限り、東京一極集中がより進む方向での変化は予想できても、逆に分散する方向への変化は予想し難い。

 政府は緊急経済対策で地域間格差問題の解消に取り組んでいるようだが、日本の課題となって半世紀以上になる。長期的に解決できなかった構造的な問題の答えが容易に見つけられる訳はない。現政権の重要課題として真剣に取り組む姿勢が見えない状態で、18年の推計が現政権の政策効果によって、結果として誤りだったということは予想できない。ただ、現状から政府に期待できないと判断し、自力発展を目指す地域が増えれば、その中から成功事例が出現し、それが広がれば、少しは期待が持てるようになるかもしれない。

日本の地域別将来推計(2013年3月推計と2018年3月推計)

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| 2018年08月31日 | 政策 | comments(0) | - |

団塊ジュニア世代が出産年齢を超え、出生数の減少が加速

 厚生労働省が発表した人口動態統計によると、2016年に生まれた子供(出生数、概数値)は97万6,979人と100万人を下回った。これは1899年に統計をとり始めてから初めてで、前年比2万8,677人、2.9%の大幅減少にも拘わらず、注目度が低いのが不思議に思える。一般的には待機児童問題への関心が高いのに加え、少子高齢化が以前から言われ、出生数が減少しても当然と受け止められているためと推測できる。

 待機児童問題に関しては、厚生労働省の「待機児童及び待機児童解消加速化プランの状況について」によると、待機児童の多い1・2歳児童の16年児童数203.9万人中、保育利用児童数は83万7,949人、待機児童数1万6,758人となっている。1・2歳平均では待機児童は1万人以下で、83万7,949人の2.9%は2万人以上になるため、出生数の減少だけで待機児童問題は1、2年後には解消が見込める。

 もちろん、女性の就業率が上昇しており、児童数が減少しても保育利用希望数は増える可能性はある。それでも、就業率の上昇には限界があり、児童数が減少していけば待機児童問題の終結が期待できる。ただし、マクロ的にはそうであっても、出生数が多く、保育施設の新設が困難な大都市地域では長引くことは否定できないが、それは一部地域になる。国ベースの社会問題としては、数年の内に解消すると予測できる。

 それよりも出生数の減少、少子高齢化の深刻化が懸念される。出生率に関しては15年11月1日付けのこの経済レポートで取り上げたが、それから2年近く経って、団塊ジュニアの人口のピークが出産年齢を超えようとしているからである。16年10月1日現在の統計で、女性人口の年齢構成は43歳の98.4万人がピークになり、それ以下の若い年代は着実に減少している。

 図で分かるように、再生産年齢の「15〜49歳」(だたし、この年齢以外での出産も含まれる)で、晩婚化を反映してかつては出生率の高かった「20歳代」は70年以降、急激に低下し、「30歳代」と「40〜44歳」が増えてきた。ただし、「30〜34歳」は14年の100.5人(女性1,000人当たり)をピークに16年は99.4まで下がっている。

 一方、「35〜39歳」と「40〜44歳」はまだ増加傾向にあるが、高齢出産では限界がある。「35〜39歳」と「40〜44歳」の16年の出生率は55.8人と11.2人で低い。また、「45〜49歳」(50歳以上を含む)は増加しているといっても、16年の出生率は0.3人でしかない。これから団塊ジュニアによって人口が増えたとしても、ほとんど出生数に影響はない。ちなみに、日本産婦人科学会の1993年の定義によると、高齢初産は「35歳以上の初産婦」と定義されているが、それ以前は「30歳以上の初産婦」となっていた。

 出生数は人口と出生率の積になり、人口の下で出生率が増加すれば、出生数の低下を防ぐ可能性はある。しかし、その実現は考え難い。晩婚化が相対的に若い年代の出生数を減らし、高齢者を増やしても、最終的には一人の女性が一生に産む子供の平均数、つまり合計特殊出生率の問題になる。

 合計特殊出生率は所得や教育費負担も含めた子育て費用などの経済的要因以外にも、社会、政治などからの精神的、思想的な問題の影響も受けると考えられる。これらのうち、経済的な要因では安倍政権の経済政策、アベノミクスに期待が高まった時もあったが、この1、2年でそれはほとんどしぼんでしまっている。

 一方、社会的な不安は特に変化しているとは思えないが、政治面では国民が反対、またはよく理解できない法律の導入が続いており、この面では積極的に出産するような雰囲気ではない。期待できるのは待機児童問題の解消になる。このプラス要因だけでは、経済的要因による合計特殊出生率の引き下げ効果が大きいと予想され、合計特殊出生率が高まることは予測し難い。

 また、16年10月1日現在の女子人口は43歳の98.4万人から25歳の57.1万人まで減少し、その後は下げ止まり傾向がみられる。原因は「団塊ジュニアのジュニア」時代に入った影響と推測できても、団塊ジュニアのように顕著な増加現象の再現にはなっていない。下げ止まったという程度で、一進一退になった後、これから再生産年齢の中心になってくる19歳以下からは再度、着実に減少し、4歳以下は50万人を下回っている。

 これを男女計の出産数の推移でみると、団塊世代のピークの49年は269.7万人、丙午(ひのえうま)の影響を除いたその後のボトムが57年の156.7万人である。そして、団塊ジュニアのピークになった73年の209.2万人からは趨勢的に減少基調が続き、16年には100万人を下回った。

 合計特殊出生率や女性人口の推移から判断すれば、出生数が回復する可能性は全くない。むしろ、女性人口構成からは減少に加速が掛かると予測できる。もちろん、その一方で長寿命化が進むため、人口の減少は比較的穏やかに留まる。国の基礎が国民にあり、経済は現役世代が支えることから考えれば、出生数問題にもっと関心が集まって然るべきと思う。

年齢5歳階級別出生率の推移(女性人口1,000人当たり)

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| 2017年07月01日 | 政策 | comments(0) | - |

トランプ政策の自動車産業への影響を考える

 トランプ氏が新米大統領に就任した直後から選挙公約を実行し、それも矢継ぎ早である。すでに、就任前から為替レートを通して株式市場が大きく変動しており、当面、直接、間接を問わず日本経済、産業への影響は避けられない。特に、日本との貿易格差問題、なかでも日本の対米自動車輸出へのトランプ氏の批判は大きい。

 かつて、1970年代に発生した2度の石油危機で原油価格が高騰した効果で、燃費の良い日本の小型乗用車への需要が米国で急増し、70年代末に日米貿易摩擦の再燃を経験している。遡れば、日米貿易摩擦は古くは50年代に繊維製品であったが、日本国内では大騒ぎになっても、米国では一部の問題でしかなかった。しかし、70年代末の自動車は米国の代表的産業であり、深刻な事態になった。

 このため、日本は81年から自動車輸出の自主規制に追い込まれ、そして自動車生産で対米進出が本格化した。それまでの海外進出は労働集約型産業で、低賃金労働者を求めて発展途上国への工場進出が中心であった。結果的には、日本の自動車メーカーは米国で自動車生産を成功させたことで、日本の企業は発展途上国、先進国を問わず、積極的に世界展開を図る要因になった。自動車メーカーは対米戦略でも市場の米国だけでなく、賃金の安いメキシコにも米国への輸出基地として立地している。

 一般社団法人日本自動車工業会によると、2015年の米国での日本の自動車メーカーの生産台数は385万台にも達しており、トランプ氏の批判は的外れとする意見は多い。しかし、それが正論であっても日米間の貿易格差に基づくトランプ氏の判断を覆すのは難しい。

 それを米国商務省データでみると、米国から日本への物の輸出は15年で640億ドルに対し、日本からの輸入は1,343億ドルと輸入がほぼ2倍である。長期的にもこの2倍程度の格差で推移している。ちなみに、物にサービスを加えた15年の輸出は1,083億ドル、輸入は1,637億ドルで、格差は縮小しても、輸入が輸出を5割ほど上回り、格差が大きいことに変わりはない。

 日本の対米輸出では自動車が突出した最大の輸出製品で、約3割(15年財務省貿易統計)も占めており、自動車が標的にされるのは避けがたい。対米輸出台数(日本自動車工業会統計)は米国生産の本格化で1986年の343万台をピークに、96年には3分の1以下の110万台まで減少した。しかし、それをボトムに米国景気の影響で変動し、リーマンショック前の06年には226万台にまで回復し、15年は160万台である。ちなみに、米国以外の輸出台数は86年317万台、15年292万台で、300万台前後の推移である。

 一方、全輸入台数(財務省貿易統計)は増加傾向にあるが、15年でも40万台でしかなく、全輸出の1割にも満たない。特に米国からの輸入は2.1万台と、輸出と比較すれば無視できるほどである。長期的にも2万台前後で推移しており、輸入で増えているのは欧州からである。石油危機で原油価格の高騰から需要が増えた燃費の良い日本の小型乗用車に対抗し、かつて米国の自動車メーカーも小型乗用車の開発に乗り出したことがあったが、競争力のある車を開発できなかった。米国メーカーは日本市場開拓を放棄しているといえる。その結果が米国からの対日自動車輸出がほとんどゼロという現状をもたらしている。もし、日米間の自動車の輸出入が均衡化すれば、日米間の全体の貿易収支格差は半分以下に縮小できる。

 現実には、日本の自動車メーカーが大規模に工場進出しているにも拘わらず輸出が多いのは、日本国内の事情もある。日本の自動車生産(日本自動車工業会統計)は08年のリーマンショック時の1,158万台を最後に1,000万台の大台を割り込んだままである。翌年の09年の793万台をボトムに回復し、12年には994万台と1,000万台に近づいたが、その後は再び減少に向かい、15年は928万台である。

 今後は1,000万台の回復はあっても1,100万台は回復しないと予測される。その要因として2つ挙げられ、1つは輸出における対米工場進出も含めて国際的な工場展開、もう1つは内需の基礎になる運転免許保有者の減少の影響である。日本は人口が減少する時代に入っているにも拘わらず、減少は若年者で、高齢者の運転免許保有者数はまだ減少していない。しかし、それも限界に近づいており、近いうちに運転免許保有者減の時代を迎える。現在の自動車内需の減少は景気、所得の影響が大きいが、これからは景気が回復して所得が増えても、運転者が減少すれば、下降に向かうことが避けられない。

 自動車メーカーは国内雇用の維持のため、生産能力を保持しているが、それも困難になってくると考えられる。内外需共に見通しは厳しく、生産が横ばいであっても、生産性の向上があるため、雇用者数は減少する。つまり、雇用者数を維持するには、生産の増加が必要になるからである。

 トランプ氏が日米間の自動車貿易の不均衡を完全に無くすところまでは主張しなくても、大幅削減を実現させるとすれば、少なくとも現状より年間100万台程度の対米輸出減か、米国からの輸入増が必要になる。それは現在の生産水準を1割以上の削減になり、裾野の広い自動車産業の日本経済への影響は大きい。

 同時に、トランプ氏の貿易の均衡化要求を考慮すれば、それが実際に実施されるかどうかは別として、当面は全体像が明らかになるまで対米輸出比率の高い企業・産業では、日本での投資には慎重にならざるを得ない。結果、当面の設備投資計画に影響すると懸念される。

 ただし、個別産業とは関係なく、マクロ経済からみれば、米国の貿易赤字、経常収支の赤字は米国経済の消費過剰体質にある。これを改めない限り、日本との間で均衡化しても、その分は他の国との不均衡に移転するだけで、解決にはならない。

 また、トランプ氏は政策で雇用増を強調しているが、米国の失業者数は高くない。トランプ氏を支持した白人労働者の不満はかつての所得水準が維持できず、低賃金雇用が増えていることにある。雇用が増えても賃金が低いままであれば、支持者は騙されたと思うことになる。経営者出身のトランプ氏が賃上げ、例えば最低賃金の切り上げ政策を行うとは思えない。

自動車輸出入台数の推移

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| 2017年02月01日 | 政策 | comments(0) | - |

2017年度の経済成長率は16年度を下回る見通しも

 2015年度の日本のGDP統計が国際基準の改定に合わせて見直された。改定は幅広いが、その中では従来、GDPには入っていなかった研究開発投資を含められるようになり、GDP規模はそれまでの500兆円ほどから約30兆円増額修正された改定が目立っている。企業は生き残りのために研究開発を活発化させているため、この改定で経済成長率も高くなっているが、金額ベースで約30兆円、6%拡大しても、前年度比の成長率では影響は軽微になる。つまり、17年度の経済成長率予測では基本的に大きな変化はないと判断でき、統計の基準は変わったが、成長率はほとんど変化が無いとして比較する。

 16年度の日本経済は景気後退までには至らないが、引き続き穏やかな回復状態が続いている。この経済レポートで指摘してきたように、14年4月からの消費税引き上げによる個人消費の低迷状態から16年度も脱せない状況にある。1年前の各予測機関の16年度見通しでは、名目GDP成長率は2%前後、実質GDP成長率は1.5%前後のプラス成長になっていた。これに対し、現実の推移から今回の16年度の実績見込みは名目、実質共にGDP成長率は1%強へと下方修正を余儀なくされている。名目と実質の乖離がほぼなくなり、消費者物価の上昇率が予想より低くなったことを示している。

 消費者物価上昇率の1年前の見通しは1%前後の上昇であったのに対し、今回の実績見込みは逆に、何れも0.2〜0.3%減である。この要因としては、国際商品市況の底入れは予想されていたことから、為替レートの円高を見誤ったためといえる。ただし、物価は国際商品市況や為替レートによる輸入価格だけで決まるのではなく、需給の影響が大きい。それが物価抑制に働き、結局、消費者の将来不安、生活防衛による消費抑制心理を読めなかったと判断できる。

 また、前回の見通しは各予測機関共に、1.企業収益の増加で民間設備投資が横ばい基調から低い伸びでも着実に増加する、2.収益に加えて雇用増から賃金が増え、個人消費は回復し、特に、17年1〜3月期には消費税の再増税から駆け込み需要が発生する、3.輸出は穏やかでも米国主導で世界経済が回復することで伸び率が高まる、などのほとんど共通する判断に基づいていた。この中で、消費税の再増税延期による17年1〜3月期の駆け込み需要がなくなった影響があるとしても、それは小さい。つまり、消費者の将来不安が高まった結果と考えられる。

 前回の16年度成長率見通しは過去に例がないほど各予測機関間で乖離が小さかったが、今回も同様である。17年度見通しを需要項目別にみれば、それぞれ乖離が目立つ項目もあるが、名目GDP成長率は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの0.6%増を除けば、1.2〜1.5%増で、実質は全てが0.9〜1.2%増と、格差は0.3ポイントの範囲内に収まっている。これは前回の16年度予測よりも控えめで、成長期待は弱まっていると推測できる。

 また、15年度の実績を下回り、16年度実績見込みよりも低いところもあり、世界経済の回復・成長による高い輸出の伸びがない限り、日本経済は低成長を余儀なくされるということでは一致している。基本的に政府の経済政策効果は期待できず、景気対策とオリンピックに向けて建設本格化で、公的固定資本形成(公共投資)が増えても、波及効果は弱くなっている。逆に、建設分野では低金利や相続税対策需要などで高い伸びをしていた民間住宅建設が一巡傾向にあり、17年度は減少が見込まれる。輸出もトランプ米大統領の景気拡大策には期待できる一方、ドル高は発展途上国にとってはマイナスで、世界経済全体からみれば穏やかな回復が続き、輸出に牽引力が生まれないからである。

 結果として、17年度の経済成長率見通しは実質GDP成長率で1%前後に収まって格差が生まれず、いずれも低成長が続くという判断になる。それよりも17年度見通しの特徴的として、為替レートがトランプ当選後の急激な円安を受けて、1ドル=105.7〜115円の年度ベースで円安、消費者物価(生鮮食品を除く総合)上昇率がプラス上昇の0.5〜1.0%増になっていることが挙げられる。為替レートは投機があるため、その判断で幅があるのは当然でも、いずれも大幅な円安ではない。その一方で、賃金上昇率が高まることは予想できず、介護保険制度や税制による負担増を考慮すれば、国民の将来不安は高まりこそすれ、低下することは全く予想できない。

 つまり、消費者の消費抑制は続くと推測でき、このような環境下で商品・サービス価格の引き上げは困難になる。円安で物価上昇率はプラスになっても0.1〜0.2%増程度に留まると考えられる。もし、それが0.5〜1.0%増にもなるのであれば、国際商品市況の顕著な上昇、そしてその背景に世界経済の着実な拡大が必要になるが、そこまでの世界経済見通しは見当たらない。物価上昇率は課題見通しと考えられる。

 17年度においても日本経済は世界経済に依ることになる。その攪乱要因にトランプ新大統領の米国がある。新政権の経済政策は不明だが、トランプ氏が強調している米国第一主義からは、ドル高は矛盾になる。国力の象徴として通貨高を評価する見方はあっても、ドル高はトランプ氏のホテル業でも外国人客にはマイナスになり、貿易収支を悪化させ、工場の海外移転を促進する。時期は不明でもドル安への転換が予想される。

 また、ドル高もそうだが、トランプ氏を支持した白人労働者の期待に応えられる政策が実施できるかどうか疑問がある。労働者が求める雇用と賃上げ、特に賃上げは経営者出身のトランプ氏が実現するとは思えない。期待を裏切られた労働者によって政情不安が高まる可能性があり、17年度を楽観的にみることはできない。

2017年度の経済見通しの主要項目別一覧

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| 2016年12月28日 | 政策 | comments(0) | - |
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