スポンサードリンク

輸出にみる為替レート変動の影響

 2008年9月の米国のリーマン・ショックに続いて、欧州ソブリン危機(ユーロ危機)が発生した。これは09年10月のギリシャの政権交代によって、同国の財政赤字がそれまで公表されていた数字を大幅に上回ることが明らかになったのを契機に、欧州全体に広がった金融システム不安である。これを受けて、円の対ドルレートは07年7月頃から徐々に円高傾向にあったが、08年10月頃から円高が加速した。1ドル=100円を割り込み、11年央には70円台にまで進んだところで頭打ちになり、12年末頃まではほぼ横ばいの80円前後の推移になった。

 円高は欧州ソブリン危機が最悪期を脱出するまで続き、12年12月の第2次安倍政権の発足、日本銀行総裁に就任した黒田東彦氏が13年4月に発表した異次元の金融緩和施策で円安基調に転換した。そして、13年11月からはそれまでの一進一退から、100円を上回る水準が定着した。そして、16年頃からは基調変化も見られるが、まだ100円を下回る円高までにはなっていない。

 前回の円高時には、輸出産業は国内では採算を採れず、海外に流出する。逆にその後の円安時には、海外に立地した工場が国内に戻り、その効果で日本経済は成長するという意見が出ていた。しかし、日本企業の海外立地戦略はそれ以前から、低賃金労働力確保を目的とする発展途上国から、現地のニーズに合った製品を生産するための市場立地に変わっているため、為替レートの影響をあまり受けなくなっていると、この経済レポートで指摘してきた。今回のこの経済レポートはそれを財務省「貿易統計」で確認する。

 既に、日本に工場が戻って国内生産増になり、経済成長の加速もないことが明らかになり、円安による国内生産拡大を期待する声も小さくなっている。実態が明らかになってきただけでなく、最近では国内の労働力不足が深刻化し、雇用増に結び付く工場立地問題に関心が薄れたこともある。

 為替レートの立地への影響は経済産業省「工業統計」が利用できるが、発表されているのは15年のデータまでである。為替変化が立地に影響するまでには数年かかり、円安定着の13年頃からの2年ほどしか経っていない15年では、ほとんど円安の影響が現れていないと考えられる。このため、17年度が発表されている貿易統計の輸出資料を使って、為替レートの影響の有無を判断する。円高で海外立地すれば輸出は減り、反対に円安で国内に戻れば増加することになる。

 もちろん、為替レート変化は価格面での国際競争力にも影響するが、現実には輸出市場を維持するために、円高時に価格競争力維持のために現地価格を上げない価格戦略を採られることが多い。逆の円安時には現地価格を引き下げて輸出量を増やすよりも、価格を引き下げない、つまり、いずれにおいても現地価格はあまり変化させない輸出戦略である。それが最近のように円安になれば、輸出企業の高収益をもたらすことになる。

 貿易統計の主要輸出商品別の金額構成比の推移で、方向が明確なのは電気機器の減少傾向、反対に自動車部分品と化学製品の増加傾向である。これら以外は年によって上下し、その変動の方向は為替レートと関係ないのが特徴として挙げられる。結局、これらの商品はその時々の輸出先市場の需要変化を反映していると推測できる。

 減少基調にある電気機器は、労働集約型の組み立て分野と半導体産業に代表される技術集約型の両方の産業分野が存在している。労働集約型の分野では以前から低賃金労働力の確保を目的に東南アジアや中国などへ生産拠点の移転、海外立地が進んできた。ただし、これは80年代で終わっている。つまり、為替レートとは関係なくなっており、その後は技術集約型の先進的な分野が問題になる。この分野で急速に韓国、そして中国が台頭し、日本企業の市場が蚕食されている。ここでは資本力や技術力による競争になり、為替レートには関係なく最近の円安にもかかわらず、下降傾向を余儀なくされている。

 一方、自動車部分品の増加は80年代の日米自動車摩擦問題を契機に完成車の海外生産が増え、主要部品は日本から供給する構造になっているためである。それでも、人口の減少でピークを越えた国内需要に対して、その減少分を輸出で補って国内生産を維持しようとするため、完成車の自動車輸出は輸出先の需要によって上下しても、基調は横ばいか微増程度と変化は小さくなる。

 また、化学産業は装置産業で海外立地が難しい。それでも、近年は価格の安い原料の原油・ガス確保を目的として、中近東を中心に進出が目立っていても、為替レートとは関係ない。かつ、化学産業は技術集約型産業であり、技術力によって国際競争力を維持できる。例えば電機機器の液晶や有機ELのディスプレイ装置は韓国に負けるようになっているが、液晶や有機ELに使う化学製品は日本製で、技術力が問われるこれらの製品は為替レートの影響は小さい。

 以上のように輸出商品別の動向とその要因から、為替レートの変化が工場立地にほとんど影響しないことが分かる。今後、足元の1ドル=100円台の水準が維持されるかどうかは不明だが、現状の水準は輸出企業の高収益から評価すれば円安と言える。今回の円安は13年頃から始まっており、長期間続いていることになる。トランプ米大統領は円高を望んでいるといわれ、いつ急速な円高基調に転換してもおかしくない。その時に再び国内製造業の崩壊という見方に惑わされる事態だけは避けたい。

輸出の主要商品別構成

経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:経済全般

| 2018年05月01日 | 貿易 | comments(0) | - |

輸出数量指数はEUだけが比較的高い伸びで、全体ではマイナス成長

 為替レートは円高が進み、2015年の1ドル=120円台から、16年に入って110円台、そして4月からは100円台、6月には1時100円を割り込んだ。逆に、7月後半は一時的に100円台後半の円安になったが、国内取引は月末の29日に103円で月を越えた。為替レートが変化すると、かつては輸出や工場の立地戦略への影響が話題になっていた。ところが、最近では輸出企業を中心とする収益への影響は取り上げられても、輸出や立地に関してはほとんど無視である。

 以前からこの欄で指摘しているように、企業は最終製品は需要国・地域、労働集約型の分野は人件費の安い発展途上国に立地する立地戦略を採っており、為替レートの影響は小さい。また、輸出は市場確保からドル建て価格を維持するため、為替レートの変動は輸出数量には波及せず、企業収益の変動をもたらす傾向にある。このような事情が一般的に認識されるようになり、為替レートが大きく動いても、日本経済との関連で輸出への影響は議論の対象にはならなくなっている。

 日本経済の現状についても、回復力が弱いことは誰も否定できなくなり、政府は公共投資でてこ入れを図る方針を示している。しかし、1990年代以降の公共投資による景気対策は、その時だけGDP水準が高まっても、それが民間設備投資や個人消費に波及しなかった。危機対策効果が一巡すれば元に戻ることは何度も経験しており、財政赤字を拡大するだけであることが明らかになっている。

 国内需要の回復力が弱ければ、輸出に期待が掛かる。輸出の為替レートの影響が小さければ、輸出先国・地域の景気に依ることになる。足元は輸出も低迷を続けているため、日本経済も回復からほど遠い状態にある。輸出を輸出数量指数(2010年=100)でみると、16年6月(速報値)は前年同月比で2.9%増になり、2月の同0.2%増から4か月振りにプラス成長になった。2月はうるう年効果があったことを考慮すれば、17年6月の同0.1%増以来、1年振りになる。それでも、基調を判断するために、四半期別の推移をみると、4〜6月期は前年同期比1.4%減になり、5四半期連続の減少である。

 主要な輸出市場の3大国・地域では、前年同期比でEUの伸びが目立っている。EUの輸出数量指数は14年10〜12月期以降、7四半期連続のプラス成長で、16年4〜6月期は5.4%増と比較的高い伸びである。一方、同期の米国は5.2%減の5四半期連続のマイナス成長で、アジアは0.4%減の微減だが、マイナス成長は4半期連続になる。ただし、アジアに含まれる中国は2四半期連続の0.8%増である。中国経済は政府発表以上に実態が悪いという見方があるが、日本からの輸出でみる限り、良いとはいえなくても、非常に悪いと言うほどではないことになる。

 EUは比較的高い伸びでも全体では減少になるのは、基準年の10年のEUの輸出金額全体に占める構成比が11.3%と低いためである。これに対し、アジア56.1%、中国19.4%、米国15.4%である。ちなみに、15年はアジア53.3%、中国17.5%、米国20.1%、EU10.6%であり、この間に米国が金額では大きく伸びたことを示している。

 EUの輸出数量指数は13年以降、比較的高い伸びで推移しているが、日本に先行してマイナス金利を導入しているほどで、経済が順調に成長しているわけではない。ギリシャの財政問題に端を発した債務危機、いわゆる欧州ソブリン危機、ユーロ危機といわれる金融危機から13年頃から脱してきた効果である。これから考えれば最近の輸出数量指数の比較的高い伸びは一巡するのではと予想される。

 一方、アジアは欧米先進国依存の経済であり、欧米が経済成長しなければ成長は難しい。また、米国は経済成長が期待されながら、金利引き上げが遅れ気味になっているように、経済回復力が高まらない状況にある。加えて、日本企業の米国立地の他、日本製品の競争力の低下の影響が考えられ、特に後者であれば、今後の懸念材料になる。

 米国の経済成長力が高まらないのは、基本的に格差問題があると推測される。米大統領予選でトランプ氏やサンダース氏が予想を大きく上回る人気を得ている理由として、米国での所得格差問題が指摘されている。これは日本や欧州でも同様で、米国は人口増による個人消費拡大効果はあるが、基本的に大多数の国民の所得が増えなければ、個人消費主導の経済成長は見込めない。このような状況から考えれば、輸出収量指数がマイナス成長から脱したとしても、高い伸びは予想できず、GDP成長率の改善は期待できない。

 世界的に低金利にもかかわらず、経済が停滞状態から脱せないのは、低金利でもそれだけ収益が見込める投資機会が見当たらないため、設備投資が盛り上がらないことにある。また、消費税の引き上げの延期を国民は歓迎しているかもしれないが、それが福祉にしわ寄せされることを懸念している。寿命が延びる状況では、所得に少し余裕ができたとしても消費を増やす気分にはならない。雇用も含めて生活が見通せない現状で、小手先の政策をいくらいじくっても消費が拡大する可能性はない。



主要国・地域別輸出数量指数の伸び率の推移 (対前年同期比)

経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る


JUGEMテーマ:ビジネス

| 2016年07月31日 | 貿易 | comments(0) | - |

日・中間の経済規模格差は2014年2倍強から15年2.5倍以上に

 中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーになる参加締め切りの3月末に向け、EU主要国でG7のイギリスが3月17日、最初に参加を表明した。その後、ドイツ、フランスなども続き、参加を表明した国・地域は3月末までに50を超え、その後も増え続けている。

 一方、AIIBのライバルになるアジア開発銀行(ADB)に設立以来、総裁を出している日本はAIIBに消極的で、参加しないようにEU諸国への働きかけが裏切られ、日本政府のショックは大きいと報道されている。つまり、EU諸国が日中を比較して中国を選んだことになるが、冷静に日中の経済規模と成長性から判断すれば、当然の結果といえる。日本がヨーロッパ諸国に期待しても、客観的に見れば、完全に的外れな一方的な思い込みでしかない。

 日中の経済規模に関しては、2010年に中国が日本を抜き、日本がそれまでの世界第2位の経済大国から、第3位に転落したと、当時は話題になった。国際比較はドルベースで行われるため、ジェトロ(日本貿易振興機構)資料でドルベースの名目GDPを比較すると、すでに09年に中国5兆1,058億ドル、日本5兆351億ドルとなり、09年に日本は抜かれていた。確定値の発表まで時間が掛かるため、この1年のずれは大きな問題ではなく、それよりもその後の推移、さらには今後の見通しにある。

 中国はかつての実質GDPが10%を超える高成長から低下しても、14年で7.4%成長である。また、物価は上昇しているため、名目GDP成長率は13年まで10%を超え、14年は物価上昇率が下がり、8.2%成長にとどまっている。低下しても、日本と比較すれば名目、実質共に大幅な高成長である。かつ、対ドルレートは元高が続いており、ドルベースでは成長率はより一層高まる。

 日本は中国に抜かれる前年の08年以降で、実質GDP成長率がリーマンショック後の落ち込みから、反動増の10年の4.7%増が目立つ程度で、その以外はマイナス成長か、プラス成長でも1%台でしかない。加えて、デフレ状態が続き、名目成長率は10年でも2.6%増と実質の伸びを大きく下回っている。結果、名目GDPは08年の501兆円を下回る額で推移し、回復基調の14年(速報値)が08年以来の金額でも500兆円に届かない。

 ただし、ドルベースは異なり、日本のGDPは08年の4兆8,492億ドルから、12年の5兆9,602億ドルへと、22.9%増である。08年の1ドル=100円を超える円安水準から、80円前後まで急速に円高が進んだ効果で、ドルベースでは膨らんだ。それでも、日中間の経済規模格差は09年の1.4%から、12年24.1%へと拡大している。

 そして、安部政権下で円安が急速に進み、IFM資料の年平均で12年の79.1円から13年は97.6円へと20%以上も急落した。この影響で日本の名目GDPは拡大しても、ドルベースでは大幅減少の4兆8,985億ドル、前年比17.8%減、中国との格差は93.3%と2倍近くまで拡大した。これを受けて、昨年ごろから日中間の経済規模格差が約2倍、または超えたという意見が見られるようになった。

 ドルベースで14年の名目GDPの発表はまだないが、中国の自国通貨建ては国家統計局が63兆6,464億元、前年比11.9%増、日本は内閣府が速報値で488兆円、前年比2.1%増と発表している。これとIMF資料の14年の為替レート、1ドル=6.1434元、105.9円から推計すると、中国10兆3,601億ドル、日本4兆6,061億ドル、格差は2.25倍になる。日本は速報値で、数値は修正になるが、それほど大きく変わらないであろう。つまり、14年には中国が日本の2倍以上、それも少なくとも2.2倍程度になったのは確実といえる。

 また、元の対ドルレートの上昇速度は減速傾向にあるが、まだ元高基調にある。一方、14年の円レートは105.9円だが、これは平均値のためで、年末から120円前後の推移になっている。これで計算すると14年は4兆667億ドルまで縮小する。この金額だと、中国は日本の2.55倍になる。

 日本は4月以降は消費税増税効果がなくなるため、消費者物価上昇率は前年比ゼロ近く、場合によってはマイナスになることもあると日本銀行も認めており、より一段の円安を望んでいるのではと思われるほどである。ただし、米国がドル高で輸出が伸びないため、米国の反対でこれ以上の円安が可能かどうかは疑問があり、為替レートは大きな変化はないと考えられる。

 日本の15年の実質GDP成長率はプラスでもせいぜい1%台で、消費者物価の上昇率も低下すれば、名目で2%台に乗るかどうかになる。これに対し、中国は実質GDPで7%成長を目標にしているようだが、これには達成は厳しいという見方が多い。それでも、5%を下回るまでの悲観的な見方は見当たらない。経済成長率の減速に伴い物価上昇率も低下しているが、マイナスの物価は考えられない。名目で少なくとも5%以上は成長が予想され、為替レートも穏やかでも元高が続けば、ドルベースは元ベースよりも伸びは高くなる。

 結局、15年の日米間経済規模格差は少なくとも5%近くは拡大し、中国が日本の3倍にまではならなくても、少なくとも2.5倍以上、そして2、3年のうちにそれが3倍を超えると予測できる。以上のような現状、さらには今後の見通しを海外からみれば、日本より中国を選ぶのは当然である。日本は円安、株高で喜んでいるが、それが国際比較で日本経済の地位を貶めていることを認識しなければならない。


日中の名目GDP(現地通貨建てとドル建て)の推移


経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス
| 2015年04月29日 | 貿易 | comments(0) | - |

貿易赤字は2014年度上期がピークだが、改善速度は遅い

 2014年度上期の貿易収支は、現在の統計になった1979年度以降で最大の5兆4,271億円の赤字になったと財務省が発表した。同期の輸入額は前年同期比2.5%増に留まったものの、輸出の伸びそれを下回る同1.7%増になったため、赤字幅が拡大する結果となった。ところが、発表はまだだが上期の経常収支も赤字になる懸念が強まり、貿易収支赤字の拡大が続くのではという見方もある。

 絶対額では年度下期は相対的に輸入が多いため、上期より貿易赤字が拡大する可能性は高くても、季節要因を除けばこの上期が赤字のピークと考えられる。貿易収支が赤字になり、かつ、その幅が拡大してきた要因にはいろいろあっても、為替レートの円安要因を別にすれば、貿易収支は輸入面から改善の方向に向かう条件が出てきたからである。ただし、輸出量に高い伸びを見込めないため、その改善速度が早くなることは期待し難い。

GDPでは輸出入は実質の数量ベースが対象になるが、国際収支の貿易統計は金額であるため、数量だけでなく価格も重要になる。輸出数量は為替レートが円安でも増えないという認識は一般的になった。一方、輸入数量は生産を海外に依存している商品は、少なくとも短期的には為替レートで大きく変化することはなく、景気に影響される。13年度までは景気回復期にあり、輸入量が増えるのは当然といえ、それに加えて、原子力発電停止による火力発電燃料の輸入増があった。

 このような輸出入数量よりも、特に輸入価格の上昇が貿易収支の悪化要因になっている。輸出入価格は国際市況と為替レートによって変動し、輸出価格は企業の輸出戦略も関係する。

 輸出入価格は日本銀行が円ベースと契約通貨ベースに分けて、全体を指数で発表している。これらの推移から国際市況、為替レート、企業の輸出戦略の影響が推測できる。為替レートとの関係を分かり易くするために、現在の日本銀行の輸出入価格指数(2010年=100)に合わせ、月平均の対ドルレートを2010年=100とした指数にして比較すれば、価格要因がよく理解できる。

 現在までの推移を見ると、まず、輸入の半分ほどは食料や天然資源であり、輸入物価指数の契約通貨ベース(以下、輸入契約通貨指数、他も同様)はドル建ての国際商品市況を反映する。輸入契約通貨指数は世界経済の立ち直りを受けて10年末頃から急上昇したが、当時は円高だったため、相殺されて輸入円指数は比較的安定していた。そして、輸入契約通貨指数は11年年央以降、横ばい水準になったにもかかわらず、12年後半から円安が急速に進んだため、輸入円指数が上昇し、輸入数量の増加と合わさって輸入金額は高い伸びになった。

 一方、輸出は鉄鋼や化学製品のように国際商品市況で価格が決まる製品と、企業が独自に決められる製品、主に機械製品の2つがある。このため、11年から12年前半は前者の製品価格市況上昇の影響から、輸出契約通貨指数は上昇傾向にあったが、円高の影響が大きく、輸出円指数は下降していた。その後は輸出契約通貨指数が下降傾向になり、輸出円指数は穏やかな上昇になっている。機械製品の輸出は輸出量の拡大を求めず、為替レートが変化しても輸出先価格を一定に維持する戦略と推測できる。

 今回の貿易収支の急速な悪化は、国際商品市況の高騰で輸入価格が上昇したのに対し、輸出価格が相対的に安定していた。そして、円安によってこの輸出入価格の乖離が拡大したのが主要因として挙げられる。そこに原子力発電停止という特殊要因も加わった。

 今後に関しては、輸出は為替レートの影響が小さいことから判断すれば、世界経済にも依るが、いずれにしても上下の何れにおいても輸出量・金額に大きな変動は予測できない。

 一方、輸入は電力事業連合会の電力データによると、13年10月から原子力発電がゼロになっており、前年比で下期は原子力発電停止の影響が完全に解消される。加えて、受発電電力量は政府の節電要請とユーザーの電力価格の値上げ対策で、11年度から微減が続いている。結果、発電燃料の輸入量は減少が見込まれる。

 また、ドル建て価格は石炭、LNG、原油の何れも下落に転じており、このなかで、原油は日本の原油の主要輸入先であるOPECのバスケット価格(OPEC参加国の主要油種12油種の加重平均)をみると、8月以降、顕著に下落している。輸送に時間が掛かるため、日本の輸入価格にはまだ明確には現れていないが、これから顕在化してくると考えられる。

 発電燃料以外も景気動向から判断すれば、輸入が増える要因は見当たらない。つまり、今後は為替レート次第になるが、より一段の大幅な円安にならない限り、輸入額の拡大は予想できない。貿易赤字は14年上期がピークと推測できても、輸出が高い伸びにならなければ、その改善速度は遅くならざるを得ない。

輸出入物価と対ドルレートの推移


経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス
| 2014年11月03日 | 貿易 | comments(0) | - |

原発停止による輸入額増は一巡

 以前から一般人だけでなく、専門家と称される人も冷静な分析を抜きに雰囲気に流される傾向はあるが、その傾向が強まっていると思われる。ようやく、為替レートの円安が輸出を拡大する効果は小さいことが認識されるようになった。円安基調に変化してから1年も経っても輸出が顕著に増えなければ、その事実は認めざるを得ない。同様のことが原子力発電の停止による原油や液化天然ガス(LNG)の輸入増で経常収支の赤字をもたらすという見方にもいえる。

 2011年3月11日の東日本大震災後の原発停止で火力発電への依存が高まり、火力発電燃料の原油、LNG、石炭のエネルギー資源輸入額が増えた。結果、貿易収支、遅れて経常収支が黒字幅の縮小から赤字に転落した。この間の国際収支の悪化の主因は原発停止にあるのは確かである。

 しかし、今後も貿易収支、経常収支の赤字が拡大、長期化するかどうかは単純にはいえない。貿易・経常収支赤字の拡大や長期化の不安を煽るのは、原発再稼働の促進のためにする意見といえる。というのは、これからも原発停止で発電燃料のエネルギー資源輸入額の増加が続くとは考え難いからである。

 円ベースの輸入額は数量と円ベース価格の積になり、円ベースのエネルギー資源輸入額は資源輸入量、ドル建て資源価格、為替レートで決まる。電発停止による火力発電の増加は原油、LNG、原油の輸入量を増やし、また、リーマンショック後の世界景気の回復はドル建て資源価格の上昇をもたらした。なかでも、LNGは日本が確保に走ったことも高騰要因である。電力会社は原料価格が上昇してもそれを電力料金に上乗せできるため、もともとコスト意識が乏しいことも高騰要因になる。加えて、安倍政権の金融政策が円安をもたらしている。つまり、輸入量、ドル建て価格の国際市況、為替レートのいずれもエネルギー資源輸入額を膨らます方向に働き、輸入額は以上とも言える伸びになった。

 これからどうなるかはそれぞれの要因をみる必要がある。まず、輸入量はすでに全ての原発が完全停止しているため、原発停止による輸入量の増加は一巡している。後は電力需要によるが、すでに国民、企業は電力不足懸念、電力料金の値上げから節電努力をしている。昨年に続き今年も電力料金値上げの動きがあり、日本の経済成長率がプラスでも低成長であれば、節電から電力需要増は考えられず、むしろ微減でも減少と向かうと予測される。つまり、発電用エネルギー資源輸入量も減少に向かうことになる。そのなかで、炭酸ガス排出規制の影響はあるが、エネルギー価格の安い石炭(原料炭)へのシフトが進むと予想される。

 エネルギー資源のドル建て価格、国際市況は世界需給の影響を受け、その中で日本の需要の影響が大きかったLNGは11年4月から12年年初まで急騰したが、その後は頭打ちから微減傾向にある。一方、原油は11年から一進一退で高水準横ばい、逆に、石炭は12年央をピークに若干値下がりし、13年以降は値下がりした水準で横ばい基調である。

 為替レートは12年9月をピークに円安に転じ、13年末頃から1ドル=100円の壁を突破したが、2月に入って頭打ちになり、100円強で推移である。

12年からの発電用エネルギー資源別に輸入量の前年比推移をみると、図の四半期別ベースでも変動幅が大きいが、原油及び粗油とLNGの輸入量は12年10〜12月頃から頭打ちといえる。これに対し、エネルギー価格の安い一般炭は微増でも増加傾向にある。もちろん、これらは全て発電用燃料ではない。それでも、発電用の割合が高いため、その需要動向を反映していると考えられる。

 輸入量が増えず、国際市況も安定状態にもかかわらず、輸入額は前年比でいずれもまだ伸びが高い。原因は為替レートが安定傾向でも前年比ではまだ円安になることにある。円安に歯止めがなくなる事態は別の問題になるため、その事態は考えず、為替レートがほぼ横ばいの推移であれば、今後は国際市況による。

 現状は、原油、天然ガス、石炭の供給力に余剰があるところに、米国でシェールガス生産が増えており、全体として需給緩和基調にある。シェールガス生産には環境問題の批判はあるが、今のところ政策が変換される雰囲気はない。また、日本の電力会社も料金値上げのため、LNG輸入価格引き下げの努力をみせる必要があり、高くても買うという姿勢ではないのではないか。

 となれば、世界経済動向からエネルギー需要がどうなるかによる。世界的な金融緩和でも経済回復力に力強さが欠けるのは構造的問題があり、全体として低成長からの脱出は難しい。となれば、エネルギー資源需要も微増程度にとどまり、国際市況も安定が予想される。逆に、世界経済が堅調になれば、日本の輸出の伸びが期待でき、国際市況の上昇で日本の輸入額が増えても輸出額も増え、貿易・経常収支がどうなるかは単純には判断できない。

 基調としては今後、エネルギー資源輸入増による国際収支の悪化は徐々に解消に向かい、原発が再稼働しなくても輸入量、さらには額でも増加一巡で、プラスに働く可能性も否定できない。


エネルギー資源輸入量・金額の推移 (前年比伸び率)

経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス
| 2014年02月28日 | 貿易 | comments(0) | - |

円安による輸出入量への影響は軽微

 参議院選挙が自民党の勝利で終わり、その要因の一つとして安倍政権の経済政策、いわゆるアベノミクスへの評価がある。その期待と現実で、期待はこれから明らかになる問題としても、現実への評価も正確でないところが多い。

 異次元の金融緩和による為替レートの円安で輸出企業の収益が拡大しても、設備投資や雇用、賃金がそれほど増えないという判断ではほぼ一致してしている。一方、円安による輸出金額の拡大だけでなく、輸出量も増えているという見方は多い。1〜3月期の実質輸出が増えたこともその見方の根拠になっている。また、円安は同時に輸入量を抑制するが、これは火力発電燃料輸入金額の急騰を主因とする輸入金額の急増から、輸入量の抑制効果に関しては話題にもなっていない。

 実態は、円高時にこの経済レポートで何度か取り上げたように、為替レートに関係なく、企業の海外立地は進んでいる。円高でも今回のように円安になっても同じで、つまり設備投資が海外に向いていれば、円安になっても国内の設備投資への波及効果は小さい。そして、雇用増効果も期待できないという認識は一般的にも定着しつつある。

 足元をみると、輸出と生産が増え、景気が底入れから回復に向かっているため、何となく円安効果、政策効果という雰囲気がある。輸出が増えているのは、米国を中心に世界経済が力強さには欠けても回復基調にあるためで、円安効果は小さい。逆に言えば、為替レートとは関係なく、世界経済が息切れすれば、それに伴い輸出の減少から日本経済は再び、下降に転じることになる。

 これらの関係は経済産業省の「鉱工業出荷内訳表、鉱工業総供給表」の推移を見ればよく分かる。まず、東日本大震災後の2012年4月以降の鉱工業出荷指数(季節調整値、以下同じ)とそれを国内向けと輸出向けに分けた出荷指数の内訳表の推移はほぼ同じである。世界経済の変調で輸出向け出荷指数が減少するのと同時に、国内向け出荷指数のも減少し、日本経済は不況期入りした。その後、世界経済が回復するのに伴い輸出向けと国内向けの両出荷指数はいずれも底入れ、回復に転じている。ただし、底は全体の鉱工業出荷と国内向けが2012年11月に対し、輸出向けは10月と1カ月先行している。

 また、2005=100とする指数で、輸出向けが高水準にあるのは、相対的に輸出の伸びが高いことを示している。もし、円安で金額だけでなく、輸出の量が伸びるのであれば、さらに輸出向けと国内向けの乖離が拡大することになる。

 出荷指数に占める国内向けと輸出向けのウエイトは大体8:2で、圧倒的に国内向けの比重が高い。しかし、輸出向けの製品を作るための部品・材料等で国内から供給される、いわゆる間接輸出品への出荷は国内向けに含められる。また、輸出変化が関連サービス産業、雇用などを通して国内向けの鉱工業生産・出荷に間接的に影響する。結果、実際は2割以上の影響力を持ち、鉱工業出荷全体が輸出向けに引きずられ、似た推移になるのがここ数十年の日本経済の状況である。

 また、13年1〜3月期の輸出向けは前期比6.7%増になったのに対し、国内向けは同3.1%増と格差が目立っている。これは一時的現象で、4〜5月平均(5月は速報値)の対1〜3月期では輸出向け0.2%減、国内向け3.0%増となっており、格差分は調整されている。これから考えれば、6月の鉱工業出荷内訳表は鉱工業生産統計より発表が遅いため、実績はまだ不明だが、4、5月の実績を見る限り4〜6月期の実質輸出の伸びは期待できない。

 為替レートの円高は2012年7月がピークになり、10月頃からは円安傾向が顕著になり、ピーク時の1ドル=70円台後半から100円台まで円安にまで進んできた。1〜3月期であれば、円安効果がタイムラグを持って輸出向け出荷に現れた、つまり円安効果が存在すると言えたかもしれない。ところが、4、5月の結果は特別な効果はなく、世界経済でほとんど決まるとみるのが正当である。

 一方、為替レートと輸入量の関係は国内への鉱工業総供給表の輸入指数をみれば明らかになる。輸入指数も輸出向け出荷指数と同様、高い水準にあるが、円安の影響があれば、相対的に水準が低下することになる。最近時までの推移は特に変化はなく、国内の景気、鉱工業生産・出荷の推移の影響が大きい。輸入品は国内にない食糧、原材料が大部分であれば、為替レートは影響を受けない。また、影響を受ける製品も日本企業がコストの安い海外で生産して輸入していれば、少々の円安で輸入が増える構造にはない。

 結局、円安で輸出入が金額ベースでは膨らんでも、数量では変化がなければ、実質ベースのGDP成長率には関係しない。もちろん、少しはあり、また、金額で増え、輸出企業が増益になれば、少しはそのプラス効果はある。その一方で、輸入産業にはマイナスになり、輸入品の上昇分を製品価格に転嫁してマイナスを逃れたとしても、それは消費者物価上昇を通して国民が負担し、民間最終消費の足を引っ張るだけである。

 このような構造はそう遠くない時期に明らかになると思うが、いずれにしても、為替レートに日本経済の再生、活性化を期待している限り、それは実現しない。地道に新企業・産業育成に取り組むしかない。

鉱工業国内向け・輸出向け別出荷指数と鉱工業総供給国産・輸入別指数の推移(2005年=100)

※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
 PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。

経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス
| 2013年08月02日 | 貿易 | comments(0) | - |

貿易と同様に海外立地企業数でも1位の中国市場

 日本政府による尖閣諸島の国有化を契機に、中国での反日運動が盛り上がりをみせ、経済面への影響に関心が高まっている。この問題を取り上げる場合、中国(中国本土)への輸出が2011年度で約12兆円、全体の19.1%を占め、米国の約10兆円を上回る第1位の最大市場になっている。さらに、輸入は中国が約15兆円、同21.2%、米国の約6兆円を2倍以上も上回る第1位、当然、輸出入合わせた貿易額でも突出した第1位であることを指摘する例が多い。

 また、日本企業の中国現地工場や商店などが破壊された事件も取り上げ、日本企業は「中国進出を再検討するのでは」や「脱中国に向かうのでは」とみる意見は多いが、それが現実に可能かどうかの検討はされない。少なくとも経済産業省「海外事業活動基本調査」を利用して、日本企業の中国進出の実態を分析する必要がある。「海外事業活動基本調査」の精度に問題はあるが、大枠は把握できる。

 まず、最新の第41回海外事業活動基本調査(2010年度実績)の海外現地法人企業数をみると、全地域1万8,599法人のうち、中国本土(以下中国)だけで4,619法人、全地域の24.8%と4分の1を占める。香港の946法人と合わせれば5,565法人になり、海外の日系法人の3割ほどが中国に存在する。これは第2位の米国の2,649法人の2倍以上になり、中国に進出している企業が多いことをうかがわせる。

 ただし、現地法人の売上高(回答法人数は全地域1万6,194法人、中国4,299法人、米国2,189法人)は全地域約183兆円、米国約48兆円、中国約26兆円で、売上高では中国は法人数より10ポイントほど低い14.3%に留まる。平均売上高では中国は米国の3分の1程度に留まる。米国は現地市場に販売するための卸売業売上高が約22兆円、米国での売上高の45%を占め、これが全体を引き上げている。

 中国進出の特徴を業種別でみると、全地域に占める割合で法人数は合計の24.8%に対して、製造業33.8%、非製造業17.4%となっており、相対的に製造業、つまり工場が進出している。それでも、中国への各業種で幅広く進出しているのが特徴といえる。

 非製造業の中では小売業が23.8%と高く、中国の消費者への販売を目的とする進出も活発といえる。これから考えれば、製造業の進出も中国からの輸出だけでなく、中国市場での消費財販売を目的とする進出も少なくないと推測される。

 中国の全地域に占める法人数と売上高の割合が乖離している要因としては、金属製品、はん用機械、業務用機械などは乖離が少ない。乖離が大きいのは1.相対的に中国での製品が低価格品、2.進出企業が中小企業で企業規模が小さい、3.中国への進出は比較的新しいため、生産活動がまだ本格化していない、等が挙げられる。

 うち、どの要因が大きいかは海外事業活動基本調査で日本本社の規模別の進出先国別統計が発表されていないため、これだけでは判断できない。それでも、中国への進出企業が増えたのは最近で、その中心は資本金5千万円以下や5千万円超1億円以下の企業であることから推測すれば、中国進出は△涼羮企業が多いのが主因で、それに1.や2.の要因が加わっていると考えられる。

 とすれば、資本力や人材の面で余裕の少ない中小企業が「中国進出を再検討するのでは」や「脱中国に向かうのでは」と考えるのは、中国進出計画中の企業では可能であっても、既に進出しているところでは容易とは思われない。また、中国工場が輸出基地であれば、他国への工場移転は比較的容易といえても、中国市場での販売のための現地のニーズに合った製品供給が目的であれば、世界第2位の経済規模に成長し、かつ経済成長率が今後も高いと予測される中国市場からの移転は難しい。このようなことを踏まえた議論が必要である。

主要業種別海外の法人企業における中国の割合(2010年度)


※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
 PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。




経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る


JUGEMテーマ:ビジネス
| 2012年09月30日 | 貿易 | comments(0) | - |

輸出再下降で景気は後退へ

 日本経済は4月を底に3月の東日本大震災の打撃から立ち直ってきた。そこにタイの洪水が加わったが、洪水による減産は一部の企業・産業に留まり、11月中旬になって解決の見通しがみえるようになってきた。生産機能は正常化が期待できるようになる一方で、世界経済の変化の影響が日本の輸出にも波及しており、それに伴って景気が下降に向かう可能性が高まっている。


 日本の輸出を輸出指数の前年比推移でみると、2008年8月から減少傾向にあったところに、2008年9月のリーマン・ショック後の世界同時不況が加わり10月(速報)からは大幅減少になった。そして、09年2月の49.4%減を底に回復し、12月には12.0%増と前年を上回るようになった。前年水準の大幅減少の反動増効果で10年9月までは高い伸びになったが、10月以降は比較的安定した伸びに落ち着いてきた。


 ところが、東日本大震災によって生産設備が破壊され、輸出は海外市場に関係なく減少を余儀なくされた。減少は7月まで続き、生産機能の回復から8月に0.9%増の微減でも水面上に浮上した。生産機能回復が続いていると推測される9月も1.5%増に留まった。そして、10月の輸出は4.0%減の顕著な減少である。この間、輸出が抑制されていたことから推測すれば、海外で在庫不足状態になり、高い伸びになっても不思議ではない。低い伸びや減少は海外で景気悪化による需要不振の反映になる。


 10月の輸出は主要な国・地域別にみてもいずれも不振である。最大輸出地域のアジアは7.0%減で、8カ月連続の減少になるが、7.0%減は5月の7.9%減以来の大幅な落ち込みになる。米国は8月に5カ月振りに増加に転じた後、2カ月連続の4.7%減、EUは5カ月振り減少の2.1%減である。
 輸出減を円高の影響とする見方もあるかもしれないが、円高は08年頃から徐々に進んでいることから判断すれば、急にマイナス効果が生じることは考えられない。それよりも、米国は景気対策による景気回復一巡後の需要低迷、EUは経済危機が顕在化してきたといえる。一方、アジアは経済成長が鈍化していても、一定の成長は続いている。日本企業のアジアの位置づけは欧米への輸出基地であり、米国、EUへの間接輸出が打撃を受けているためと推測される。


 減少傾向が続くアジアは国別の輸出指数が不明なため、金額ベースでみると、10月のアジア全体で輸出は前年同月比6.6%減になり、輸出指数の減少幅に近い落ち込みである。国別ではシンガポール15.7%減、台湾14.4%減、香港10.4%減、マレーシア10.2%減などの落ち込みが目立っている。月によって国別では前年比伸び率の変動が大きい中で、特に、要因は不明だが、4月から6カ月連続の2桁台の減少が続く台湾の不振が特徴として挙げられる。また、10月にはタイの洪水の影響が出始めた時期になるが、タイへの輸出は5.1%減であり、それほど日本の輸出には影響はみられない。


 一方、10月の鉱工業生産指数(速報)は9月の前月比3.3%の大幅減少から同2.4%増に持ち直した。また、製造工業生産予測は10月見込み同2.3%増、11月見込み同1.8%増であり、これからみれば生産活動は引き続き増加基調が持続し、景気回復に変調はないといえる。


 ところが、10月の実現率は9月調査時の予測の0.6ポイント、11月の予測修正率は2.4ポイントのいずれも下方修正である。通常、景気下降期は実現率、予測修正率が下方修正、上昇期は逆になる。7月以降は実現率、予測修正率のいずれも下方修正が続いており、生産の回復力が企業の期待を裏切っている。輸出指数の変調の影響と考えられ、鉱工業生産が10〜12月期以降、頭打ちから減少に転じ、景気が下降に向かう可能性は高い。


主要国・地域別輸出指数の前年比伸び率の推移

※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
 PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。




経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス

| 2011年12月02日 | 貿易 | comments(1) | - |

タイ洪水の日本製造業への影響

 秋を迎えて、生産活動は東日本大震災の打撃からようやく脱しつつあったところに、新たにタイの洪水が懸念材料になっている。タイの洪水はタイ北部で7月下旬に始まり、それが徐々に南下していたが、日本では9月までほとんど報道されなかった。ところが、10月に入ると、日系企業が入居している工業団地にまで広がり、生産活動に影響が出始めた。その後、現地の部品生産の停止でトヨタの国内完成車生産が1割減産を余儀なくされるなど、日本国内の生産活動にまで影響が及んでいるからである。


 洪水は首都バンコクにも及び、洪水が収まるのは11月に持ち越しである。ほとんどの現地日系企業は直接、間接に大きな影響を受け、完全に復旧するのは年を越しそうである。タイ経済にとっては大打撃だが、日本経済全体への影響評価は大騒ぎするマスコミ報道に流されずに、冷静に客観的に行う必要がある。


 日本経済への影響を経済産業省「海外事業活動基本調査」で推測する。この統計には9月1日付けのこのレポートでも取り上げているように、海外の日系企業数、産業・業種別売上高、出荷先別売上高などが主要国・地域別に集計されている。当然、企業全てを網羅できるわけではないが、主要企業は回答していると考えられ、売上高のカバー率はかなり高いと判断できる。


 最新版の第40回の2009年度調査で、集計企業数全体は全世界で1万6,023、うちタイ1,283、8.0%、その中で製造業は全世界7,742、タイ817、10.6%になる。また、売上高全体は全世界165兆3,196億円、タイ10兆1,752億円、6.2%、製造業は全世界79兆1,593億円、タイ7兆9,000億円、10.0%となっており、日本企業のタイ進出は相対的に生産を目的としているといえる。


 タイ洪水の日本生産への影響は日本にどれだけ輸出されているかに係っており、それは出荷先別売上高で分かる。ところが、出荷先別売上高はタイにマレーシア、インドネシア、フィリピンを加えたASEAN4でしか発表されていないため、タイの日本への輸出はASEAN4の出荷先別売上高から類推するしかない。ちなみに、ASEAN4の製造業売上高のうちタイが51.6%占めており、タイの実態を反映しているとみてもよい。


 ASEAN4の売上高比率で日本向け輸出は20.1%でしかなく、現地販売51.7%、第3国向け輸出28.2%となっている。つまり、日本企業のタイへの製造業進出は日本に輸入するためよりも、現地の消費市場、最終製品を生産するための部品供給、第3国向け輸出のための生産が中心である。
  一方、工業統計表による2009暦年の製造業出荷額等は258兆1,545億円であり、タイの日系製造業売上高7兆9,000億円の2割程度は1%にも満たない。それが輸入されなくなっても、影響は軽微といえる。もちろん、トヨタは1割減産に追い込まれており、業種、企業によっては無視できない影響を受けていることは否定できない。


 タイの日系製造業売上高で割合が高いのは、輸送機械の59.3%が過半数を占めて突出して多く、以下、電気機械9.1%、電子部品・デバイス・電子回路を含む情報通信機械5.8%、化学4.5%、業務用機械3.8%、鉄鋼3.0%等が続く。企業数でも輸送機械が売上高割合よりも低いものの、26.9%で第1位である。輸送機械の進出が目立ち、かつ、相対的に工場規模が大きいことになる。


 これらの業種別で特徴的なのは、ASEAN4の出荷先別売上高で輸送機械(タイが61.0%)は日本向け輸出が6.2%しかないことが挙げられる。一方、現地販売61.0%、第3国向け輸出32.9%で、周辺国も含めて現地需要、第3国向け輸出のための生産が中心になる。現地での部品生産の停止で、完成車生産の1割もの影響を受けるトヨタは例外的といえる。


 逆に、日本向け輸出が多いのは情報通信機械(タイが23.8%)の47.3%、業務用機械(同76.6%)の32.0%、電気機械(同70.4%)の26.7%などである。業務用機械にはカメラが含まれ、タイには対日輸出のための電子部品工場が少ないことから、これらは最終製品であろう。年末商戦用の新製品販売に支障が出ているという報道があるように、これらの業種で製品輸入に影響はあっても、全体的にみれば一部の現象といえる。


 それらの製品を抱える業種や企業にとってはタイの洪水が打撃になる。加えて、浸水した設備の復旧費が必要になるため、日系企業の親企業は収益が悪化する。この減益が給与に波及し、個人消費を引き下げる効果など、景気へのマイナス効果も予想される。それでも、全体としてみれば、日本経済がタイの洪水で顕著な影響を受けるとは考え難い。

業種別タイ進出企業数・売上高構成比

※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
 PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。




経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

JUGEMテーマ:ビジネス

| 2011年10月30日 | 貿易 | comments(0) | - |

TPP不参加の輸出への影響は深刻か

  TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加意向を菅首相が表明したのを契機に、以前からのFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)をめぐる対立論争が再燃している。一般的に農業関係者は反対、企業経営者は賛成という関係にあり、反対意見は農産品の関税が撤廃されることで、価格競争力のない農業が存続できなくなり、日本の農業、ひいては農業地域が崩壊する。これに対し、賛成意見は日本の農産品は品質が良いので、価格が高くても売れ、打撃は少ない。むしろ、日本経済を支える工業製品は輸出相手国の関税分だけ価格競争力が低下することになり、輸出は減少し、日本経済への打撃が大きいというのがそれぞれの主張である。


 これらとは別に、9参加国(米国、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ニュージーランド、オーストラリア、ペルー、チリ)に日本が加わったとして、10カ国のGDP中、米国と日本が90%、さらに参加を希望するカナダ、コロンビアを加えても85%ほどを占め、実態は日米間の自由貿易協定という冷めた見方もある。環太平洋で比較的経済規模の大きい韓国は米国と2007年に取り交わしたFTA(自由貿易協定)で、10年に内容を修正する追加交渉で合意しており、TPPに参加しない意向という。中国も不参加の意向である。


 ただし、GDPでTPPを考えるのは日本よりも米国の方になる。米国からみれば、日本以外は参加する環太平洋諸国の経済規模が小さければ、日本が参加しないTPPは意味がない。経済規模が比較的大きい韓国とはすでにFTAを結んでいるため、TPPによる経済効果は小さく、また、中国は強要できる関係にはない。結果、日本抜きのTPPは考えられないとすれば、米国は日本、菅首相に参加圧力、それも強圧を掛けていると推測できる。


 一方、TPP参加賛成の意見は不参加の場合の輸出減による日本経済への打撃が深刻と考えていることにある。つまり、TPP不参加の日本経済への影響はGDPよりも輸出市場規模の方が重要になる。9カ国の10年の輸出シェは通関統計で24.8%、カナダ、コロンビアを加えて26.2%であり、いずれにしても4分の1ほどを占める。うち、米国が15.4%で最大だが、その他は10%前後で、小さくはない。ただし、国別で輸出市場といえるのはシンガポール3.3%、マレーシア2.3%、オーストラリア2.1%の3カ国程度である。


 輸出品別にみれば、TPP不参加が日本の輸出へのマイナス効果は、FTAを着実に進める韓国との競合製品、主として乗用車や家電製品の輸出額になる。最大の米国で影響が考えられるのは、10年の対米輸出で27%を占める乗用車程度で、家電のTV受像器は0.4%でしかない。


 日本の対米TV受像器輸出が少ないのは、日本の海外工場(メキシコ)からの輸出になっている以外に、韓国に米国市場を奪われている影響が無視できない。逆にいえば、関税とは関係なく韓国との競争で負けている。ただし、韓国製品の主要部品は日本製が多いため、韓国の家電製品の生産、輸出が伸びると、日本からの対韓部品輸出が増える構造がある。結果、10年の韓国への輸出は5・5兆円に対し、輸入は2・5兆円と半分以下であり、韓国とは分業構造が形成されている。製品分野だけで韓国の進出を脅威とするのは、韓国を過大評価していることになる。もちろん、中・長期的に韓国が部品でも国際競争力を高める可能性はある。


 また、シンガポール、マレーシア、オーストラリアなどへも家電製品の輸出は少ない。現地生産が進んでいるのか、周辺国で生産して輸出している、または韓国に負けているためと推測される。一方、いずれも乗用車輸出は多いが、日本からの輸出シェア2、3%の何割かであり、輸出全体からみれば影響は微々たるものになる。また、韓国が先行しているが、日本もこれら3カ国とはFTAを締結したり、交渉中であり、TPP不参加の日本の輸出への影響はほとんど無視できるほどである。


 結局、米国への乗用車輸出が懸念材料になるといえる。自動車も以前から現地生産を進める方向にあり、TPP不参加はそれを促進する効果を持つ程度であり、米国への輸出に打撃というほどの事態は予想されない。それよりも、現地生産を進めるためには、日本車が米国で評価されて売れる必要があるが、乗用車でも韓国の競争力が向上している。韓国車の人気が高まり、日本車のシェアを蚕食する時期とTPP不参加が重なり、韓国車の伸びをTPP不参加を原因とする主張される可能性はある。


 日本の輸出構造から判断する限り、TPP不参加が日本の輸出、ひいては日本経済に深刻とは考えられない。


TPP参加国別輸出額(2010)構成

※第1回から第10回までの内容をPDFファイルしたレポートも提供中です。
 PDFファイルにて経済レポートを入手した方は、こちらをどうぞ。




経済の視点
コミュニティー・プランナーズホームページへ戻る

| 2011年02月27日 | 貿易 | comments(0) | - |
スポンサードリンク
Copyright (C) 貿易 | 経済への視点. All Rights Reserved.