日本の貿易統計の輸出指数からみる世界経済と日本の輸出
ドイツ連邦統計局は5月25日、2023年1〜3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.3%減と発表した。22年10〜12月期の同0・5%減から2期連続のマイナス成長になり、同国の2四半期連続でマイナスになるとテクニカル・リセッションの景気後退として判断されることから、先進諸国の中で最初の景気後退公表国になった。
欧米は物価上昇対策から金融引締政策を強化してきた影響が顕在化し、景気後退に陥っても不思議ではない。特に、ドイツはエネルギーをこれまでパイプラインで安いロシアの天然ガスを輸入していたが、ロシアのウクライナ侵攻によって高価なLNG(液化天然ガス)への転換を余儀なくされた影響を受けている。エネルギーや石油化学原料のコスト上昇による企業収益の悪化や、物価上昇による消費抑制を通して景気を冷え込ませるため、景気後退入りが早くても不思議ではない。
欧米は22年に金融政策を引き締めに転換したが、当初は景気への影響は軽微にとどまり、徐々に景気への影響が現れる。これまで景気が頭打ち傾向になって物価が明確に安定に向かうのは23年後半以降という見方が多く、景気後退入りの議論までには至っていない。しかし、EU経済の中核であるドイツが景気後退入りしたことは、これから他のEU諸国の多くが続いて景気後退に陥ると予測できる。
経済予測に関しては希望を込めたものも多く、楽観的になる傾向にある。つまり、専門家の意見も正確性に欠け、各国の実態は分かり難いため、日本の輸出から世界経済を考える。日本の輸出は一般的に貿易統計の名目の輸出額が取り上げられるが、最近のように価格が大きく変化すると判断を誤る。実質ベースの輸出数量指数を使う必要がある。
その前に、名目の日本の輸出額を四半期ベースでみると、世界的に経済へのコロナの影響が最も大きかった20年中は前年水準を下回る推移だった。その後、21、22年は回復基調になり、23年1〜3月期も伸び率は縮小しても前年同期比4.8%増とプラス成長である。4月(速報値、以下同じ)も前年同月比2.6%増と前年を上回っている。この推移からは、世界経済は成長率が低下傾向になっていても、悪化とまでは言えないと思える。
ところが、2015年を100とする世界輸出数量指数では、前年同期比で20年の落ち込みから回復してきたのは21年7〜9月期までで、その後は回復が頭打ちになり、22年中はほぼ横這い基調である。そして、23年1〜3月期は同8.8%減の顕著な減少で、4月も前年同月比6.2%減で、輸出額とは乖離している。輸出額は円安と海外での物価高による水膨れ分がある。それが取り除かれる数量指数では、輸出環境を表す世界経済は頭打ちから下降に向かっていると推測できる。
ただし、地域・国別では格差は大きい。先行して景気後退になったドイツを含むEU輸出数量指数は21年1〜3月期までの前年同期比マイナスから、4〜6月期、7〜9月期は同2桁台の大幅な伸びで、その後は22年10〜12月期まで5四半期連続で1桁台でも比較的高い伸びを維持していた。しかし、23年にはいると1〜3月期同5.9%減、4月2.5%減と水面下に沈み、発表されたドイツの実質GDPの動向を反映している。
また、米国輸出数量指数は21年4〜6月期の1四半期だけ突出した伸びになり、その後は22年10〜12月期までの6四半期は基調としては前年水準を上回っている。ただし、EU輸出数量指数の伸びを下回る推移で、単純平均で3%台の伸び率である。そして、23年1〜3月期前年同期比5.0%減、4月前年同月比5.6%減とEUと同様に水面下に沈んでいる。
EUと米の推移は比較的似ているのに対し、中国は異なり、中国輸出数量指数は21年10〜12月期から先行して前年水準を下回った。コロナ対策で独自の強力な封じ込め政策を行った影響で、世界の中で中国経済は回復が遅れたからである。その後は前年同期比で減少幅が拡大傾向になり、23年1〜3月期には25.6%減まで落ち込んでいる。4月はコロナ対策が緩和された効果で、前年同月比10.0%減と減少幅は縮小しており、前年水準が低かったことから増加に転じると期待はできる。ただ、景気回復力が弱いため、大幅な増加は期待し難い。
アジア輸出数量指数には中国輸出数量指数が含まれ、指数の基準年2015年の実績で、中国はアジアの約3分の1も占めている。このため、中国が減少した影響は大きく、中国輸出数量指数が前年同期比で減少し始めた21年10〜12月期の翌四半期、22年1〜3月期からアジア輸出数量指数は減少になった。しかし、中国の比重と減少幅から計算すると、22年7〜9月期までは中国を除くアジア地域への輸出数量指数は前年水準を上回る。
しかし、22年10〜12月期からは中国を除くアジア地域も輸出数量指数は減少になる。23年4月は中国数量輸出指数の前年同月比10.0%減に対し、アジア輸出数量指数は同12.9%減と中国を上回る減少で、中国以外の地域への輸出が急速に減少している。EUや米国の景気の悪化の影響がアジアの景気に波及し、日本のアジア輸出にも及んできたと推測できる。これから考えれば、コロナ対策の緩和で中国輸出数量指数が増加に転じても、伸び率が2桁台の大幅増にならなければ、アジア輸出数量指数は減少傾向が続くことになる。
米国はいつ金利引き上げを止めるかを検討する段階だが、EUは米国より遅れる可能性が高く、景気刺激のために金利引き下げに転換するのは24年になる見通しである。この状況から考えれば、日本の輸出数量指数が底入れして本格的に回復に向かうのは、23年度内は期待し難い。
一方、輸出数量指数は23年1〜3月期には前年水準を下回ったが、内閣府が発表した同期の一次速報値の実質GDPは、原数値の実質輸出は前年同期比1.6%増とプラス成長になっている。同期の輸出26.8兆円の内訳は財貨21.2兆円、同3.5%減、サービス5.6兆円、25.3%増である。輸出数量指数に対応する財貨は減少しているのに対し、財貨の4分の1程度のサービスが大幅に増加し、サービス主導による増加である。
サービスはコロナ対策による入国規制で、ゼロ近くにまで激減していた外国人観光客が23年1月から入国規制が緩和され、23年に入って急増した効果である。今後も増加が期待できるが、すでに過去ピークの19年1〜3月期実績の6割まで回復していることから考えれば、今後は増加テンポの減速が予想される。
EUや米国の経済はドイツに続く形で悪化し、その影響は輸出に依存するアジア経済は、中国を除いて両地域・国の後を追う形になると予想される。中国経済は持ち直しが見込めるが、それだけでは牽引力は弱いため、日本も後追いでもEUや米国と同調した経済になるのは避けられない。ただし、今回のコロナによる変化で季節調整値も変調するため、景気のピーク判定は困難と予想され、海外ではドイツのように景気後退が判断されても日本は不透明のままの可能性もある。
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輸出金額は高い伸びでも、輸出数量は減少
貿易統計の貿易収支は赤字基調が定着し、2022年7月(速報値)まで12か月連続の赤字になって注目を集めている。原因は原油や天然ガスのエネルギー価格に代表される国際商品の高騰に加え、為替レートの円安で輸入額が膨らんでいるためである。また、ロシアのウクライナ侵攻で国際商品の高騰が長期化していることもある。一方、直接投資や証券投資などの収益も含めた経常収支は、一時的に赤字になっても基調として黒字が続いている。
貿易収支は輸出額と輸入額との差になるが、輸出価格がドル建て価格であれば、円安効果によって貿易統計の円ベースの輸出額も拡大する。貿易赤字に関心が高まり、輸出は金額が増えていることもあって、動向は無視されがちである。貿易統計の輸出額の前年比伸び率は、世界的にコロナの影響で経済活動が縮小した20年は大きく落ち込んだ。そして、コロナの影響が軽微になった21年は反動増で大きな伸びになり、22年に入っても円安効果で7月も19.0%増と順調で、貿易赤字でも輸出に問題がないように思える。
これが名目の金額でなく、実質、数量の伸びであれば、輸出は問題ないと言えるが、金額が膨らんでいるだけで、実質的には縮小している。実質の輸出を貿易統計の輸出数量指数(2015年=100)の前年比伸び率で見ると、対世界輸出数量指数は20年は金額とほぼ同様の推移だが、21年に入って徐々に数量指数と金額の伸びが乖離し、数量指数が金額を下回る方向にある。
22年の輸出数量指数の推移は1月に前年水準を下回り、2月は待ち直したが、1〜3月期では前年同期比0.9%減のマイナスである。3月以降は7月まで減少を続け、数量指数と金額は対照的な推移である。ちなみに、7月は輸出金額の前年同月比19.0%増に対し、数量指数は同2.0%減であり、21ポイントもの乖離がある。日本銀行資料による東京市場のスポット、中心相場の月中平均は1ドルが21年7月の110.3円から22年7月は136.6円へと大幅な円安である。下落幅は23.8%になり、ほぼ輸出額と輸出数量指数の乖離幅と見合っている。輸出金額の増加は円安効果が大きいことを示している。
数量指数を主要な国・地域別に見ると格差があり、特に、21年実績で最大輸出市場国の中国の減少が顕著である。中国は21年10月以降、減少基調で推移し、22年は特に4〜6月期は前年同期比20%近い大幅なマイナスである。中国はゼロコロナ政策で厳しい隔離政策で経済活動を抑制している影響と考えられる。そこに最近は異常気象による水力発電の減少で電力供給不足も発生しており、日本の輸出回復にはまだしばらく時間が掛かりそうである。ただし、最近になって降雨報道があり、電力不足問題やコロナ問題が解決まで至らなくても改善されれば、政府の経済対策で回復が期待できる。また、中国を含むアジア全体も中国よりは軽微でも21年12月以降は減少基調である。
一方、中国に次ぐ輸出市場国の米国は月により前年比伸び率の変動は大きかったが、22年5、6月に2か月連続で微減になり、7月は6.2%減の顕著な減少になった。米国は物価対策で金融引き締め政策に転換し、22年3月に政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利を引き上げ、その後も段階的に引き上げている。物価抑制の実現には景気を冷やす必要があり、当面は金利引き上げで米国向け輸出は減少傾向が続くと予想される。
これらの国・地域に対し、EU輸出数量指数は基調として増加を続けており、前年同月比で22年7月は17.4%増と6月の6.7%増から急増で、21年9月の15.4%増以来の高い伸びである。EUは日本の輸出に占める割合は低いが、輸出数量指数の減少を微減に留めている。しかし、経済は米国以上に厳しい環境にあり、米国に追随する金融政策の転換 で、これまで増加基調であった輸出数量の減少は避けられない。
EUの消費者物価上昇率は米国同様に前年比10%増近くまで高まっている。ロシアのウクライナ侵攻に対して反対していることへの報復として、ロシアがEUへの天然ガス供給を抑制している影響で、既にエネルギー価格が高騰している。さらに、エネルギー需要期の冬に向けて米国以上に今後もエネルギー価格は上昇する見通しである。
消費者物価上昇率は米国同様に前年比10%近くなり、物価対策から欧州中央銀行(ECB)は米国より遅れて7月に主要政策金利の引き上げを実施した。天然ガス価格、そして天然ガス不足で輸入を増やしているLNGの価格上昇に加え、天候異変による水不足で電力不足に陥っている。物価上昇と電力不足による経済活動の低下で、これから景気が急速に下降に向かう可能性が高い。エネルギー問題から判断すれば、EUへの日本の輸出は減少に転じ、回復は短期的には見込めない。
輸出は数量指数で中国経済が深刻な事態にならなければ、アジアは微減程度で済む可能性はある。それでも、米国やEUが顕著な減少予測の下では、輸出の大幅な減少は避けられない。
一方、内需はもともと力強さに欠け、特に低迷を続ける個人消費の見通しは厳しい。消費者物価上昇率が海外と比べれば大幅に低い前年比2%台の上昇率でも、収入の伸びはそれを下回り、実質ベースの収入は前年を下回るマイナスの推移である。政府への信頼性が低い中では、消費支出抑制が強まり、個人消費は着実に減少に向かう可能性が高い。
輸出額と数量指数との前年比伸び率格差に見られるように、輸出数量が増えなくても輸出企業が受ける円安の恩恵は大きい。しかし、それを享受するのは輸出企業だけで、輸出産業界全体には広がらない。
輸出産業の代表、自動車産業で見れば、円安は企業収益の増益要因になるが、その恩恵を受けるのは自動車を輸出する大企業の完成車メーカーだけだからである。下請の部品製造企業の中小零細企業の部品価格、加工賃には反映されない。もちろん、円安で輸入原材料価格の上昇によるコスト上昇分は引き上げられているだろうが、部品製造企業の収益増までは考えられない。
個人消費に結び付く給与でみれば、完成車メーカーは収益の一部を主に一時金の形で正規職員の給与に反映させているだけで、賃金の基本になる給与の引き上げは抑えられている。当然、下請の部品製造企業は収益増にならなければ、給与は上げられない。これらの従業者の方が数は多いわけで、これでは円安効果の消費への波及はごく一部に留まる。この関係は民間設備投資でも同様で、輸出産業界全体が投資を活性化することは期待できず、内需の見通しも厳しくなる。
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消費者物価は上昇に向かうのか
総務省発表の9月の消費者物価指数は、前年同月比で総合指数は1年1か月振りに前年水準を上回る0.2%増、日本銀行が物価目標にしている生鮮食品を除く総合指数は1年6か月振りの0.1%増となった。この上昇を受けて国際商品市況の高騰の影響によって消費者物価の上昇が始まった、さらには経済活動の停滞(不況)と物価上昇が重なるスタグフレーションに陥る、という見方が出ている。
しかし、工業用原材料や穀物などの国際商品市況の値上がりは消費者物価上昇の要因にはなるが、国際商品は消費者物価上昇要因の一部でしかなく、他の要因、特に人件費が大きい。前回の国際商品市況高騰時における主要商品の原油の価格と、日本の輸入物価、国内企業物価、消費者物価の動向を踏まえて、今回の特徴と今後の見通しから判断すれば、日本、世界の経済状況から消費者物価上昇の長期化や加速は予想できない。
前回の国際商品市況の高騰は2008年のリーマンショックによる市況暴落と世界的な経済不況後の景気回復で生じた。これをOPEC(石油輸出国機構)のバスケット価格の推移で見ると、バーレル当たりで08年7月3日の140.73ドルをピークに、08年12月24日の33.36ドルまで急落した。その後は世界経済の回復とOPECの原油減産で徐々に原油価格は上昇基調になり、投機も加わって11年2月からは100ドル台に乗せ、12年3月13日の124.64ドルがピークになった。そして、世界経済の悪化でピークを越えた後も、OPECによる共同減産で14年8月頃までは100ドル前後の高水準の推移になっていたが、オイルシェールの生産拡大によって減産効果が低下し、値下がり傾向が続いた。
原油価格のボトムは新型コロナウイルス禍で世界経済が影響を受けた20年4月22日の12.22ドルになり、その後、世界経済がウイルス禍から脱したわけではないが、経済回復によって原油需要は増加に転じている。その一方で、オイルシェール生産の頭打ちと原油減産の継続によって原油価格は持ち直し、今回の高騰では20年末に50ドル台に乗せ、このレポート作成時の21年10月には80ドル台まで上昇している。前回と比較すれば低水準と言えても、短期間での価格上昇が特徴として挙げられる。
減産が維持されているため、投機資金の流入で年内に100ドル台に乗せる可能性はあるが、抑制要因がある。潜在的なオイルシェールによる石油・ガス生産能力が重しになり、またウイルス禍の影響が解消するにはまだ時間が掛かり、今後は世界景気の回復速度の低下、さらには頭打ちも予想され、気候要因は別として需要の伸びが見込めないためである。
国際商品市況の消費者物価への影響を、国際商品市況を為替レートの変動も含めて反映する円ベースの輸入物価指数(「日本銀行」統計)、それが加工されて企業に販売される価格の国内企業物価指数(同)、最終段階の消費者に販売される消費者物価指数へと波及していく。当然、後者になるほど国際商品市況の影響は小さくなり、かつ、消費者物価指数には国際商品とはほとんど関係のないサービスの比重が高く、影響は一部に留まる。
前回の原油高騰時の12年から値下がり過程にあった15年の前半までを見ると、輸入物価指数は為替レートが12年末頃に円高から円安に転じた効果も加わって前年水準を上回るようになった。四半期で13年1〜3月期に10.6%増の2桁台の伸びになり、7〜9月期の17.8%増がピークで、10〜12月期は17.3%増である。その後は1桁台の伸び低下し、15年にはマイナスの伸びである。
これに対し、国内企業物価指数はピークでも14年4〜6月期の4.4%増でしかなく、15年1〜3月期からはマイナスに転じている。消費者物価指数はさらに低く、14年4〜6月期の3.6%増がピークになる。かつ、14年4月に消費税が5%から8%に引き上げられ、その影響が2%強もあったことを考慮すれば、実質的にはピーク時で1%台の上昇と推計できる。消費税増税がなければ、国際商品市況の高騰でもほぼ横ばい程度の基調になる。
国際商品市況の影響が消費者物価にほとんど影響しなかった要因として、消費者は所得が伸びず、将来不安が大きい中で節約志向を強めていたため、価格の引き上げが難しいことが挙げられる。最終製品の消費財価格が引き上げられなければ、それが上流の方にも波及し、国内企業物価へも抑制的効果になる。原油価格によって価格が決められる原油コストの比重の高いガソリンのような製品は例外的で、多くは需給状況の影響を受ける。
需給状況が悪ければ価格値上げは抑制され、企業は原材料コストの上昇を合理化で吸収する努力が必要だが、それよりも日本ではコストに占める比重の高い人件費が上がらない要因が大きい。消費者の大多数は労働者であり、日本の消費者が支出を抑制しているのは、賃金が上がらない、つまり収入が増えなければ当然で、その構造は現在でも変わらない。特に人件費の比重の大きいサービス業では料金は据え置きか、むしろ引き下げられる。
今回の国際商品市況高騰は新型コロナウイルスの影響が大きく、原油価格に見られるように短期間で高騰しているのが特徴になっている。20年は新型コロナウイルス感染対策で世界的に経済活動が抑制され、需要の減少で国際商品市況はほぼ全面安になった。そして、21年になると感染対策が進み、経済活動が再開されたことで市況は底入れから回復に向かった。ただし、感染者が減少しただけで、需要が元の状態に戻ったわけではない。その一方で、労働力不足、供給不足状態になり、潜在的な供給力はあっても需給が逼迫し、金融緩和による投機によって市況は底入れから短期間で急騰した。高騰要因としては労働力不足、コンテナ不足による海運コストの上昇もある。
21年7〜9月期の輸入物価指数は前年同期比で29.9%増と前回以上の大幅上昇で、これが消費者物価に波及し、インフレ懸念をもたらしている。この上昇率は前年の20年7〜9月期が11.3%減の大幅減であったのを考慮すれば、短期的な下落と反騰による一時的現象といえる。また、21年7〜9月期の国内企業物価指数も同様の要因で6.0%増である。
9月の消費者物価指数が前年同月比で1年1か月振りのプラス上昇になっても0.2%増でしかなく、むしろ、消費者の支出抑制行動は一段と強まっていると推測できる。これから考えれば、消費者物価指数の上昇に加速が付くとは考えられない。もちろん、国際商品市況の高騰が続けば別だが、消費者物価指数の上昇率がプラスを持続するとしても、日銀が目標とする2%はもちろん1パーセント台に乗るのも予測できない。
日本は消費者物価上昇からはほど遠いのに対し、多くの国で消費者物価が顕著な上昇傾向ある。世界的には物価対策から金融政策は引き締めの方向にあるため、国際商品市況は頭打ちから下落に転じる可能性が高まっている。世界の景気も転機を迎えており、また、感染が再拡大している国もあり、主要国際商品では気候要因による天然ガス・原油の値上がりを除けば、国際商品への投機も一巡し、今回の国際商品市況の高騰はピークを迎えつつあると推測できる。現状以上の大幅な円安にでもならない限り、日本の消費者物価が日銀の求めに応える可能性はほとんどない。
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貿易統計から国・地域別の経済状況を推測する
今回の新型コロナウイルス感染症の世界的大流行で、発表される経済統計はほとんどの国・地域で急速に悪化している。コロナウイルス感染で就労が困難になるのに加え、政府による外出制限や人との間隔(社会的距離)の維持、都市封鎖などの規制が経済統計に表れている。世界的に経済が下降線にあるのは確かでも、感染症流行が本格化しだしたのは今年に入ってからで、かつ各国・地域で発生、流行が拡大した時機に差があるため、現状の判断、回復時期などは予測困難な状態にある。全体的には期待を込めてと思うが、発表されている意見では大規模な感染症の第2波、3波はないとして、今年後半には底入れから回復に向かうとしている。ただし、来年の回復力は弱い予想である。
日本も患者数の減少から5月後半には規制緩和が始まり、経済対策も加わって4〜6月期を底に回復は見込める。しかし、その後の回復力は内需に期待できず、輸出、つまり海外経済に依ると予測される。当然、日本の主要輸出入先の米国、EU、中国、アジアの経済状況が重要になり、これらの経済状況を統計の信頼性に高く、発表の早い財務省「貿易統計」の貿易指数(2015年=100)から推測する。
輸出指数は全体(世界)として2019年から既に世界経済の頭打ち傾向を反映し、前年比で上下変動はあっても基調としてみれば、微減傾向で推移してきた。主要輸出市場の米国、EU、中国、アジアはいずれも減少基調の推移で、中国は経済成長率はプラスでも、国産化の進展や米中貿易摩擦問題を受けて、米国輸出に使われる日本製の原材料、部品の輸出減の影響から、米国やEUより減少幅が大きかった。
20年に入っても1、2月は19年の基調の推移を維持していたといえる。しかし、3月は全体で前年同月比2桁台の減少に急減した。米国と中国、そして中国と結び付きの強いアジアが減少し、特に、輸出全体の約2割を占め、最大輸出市場の米国が同15.9%減と中国同10.3%減、アジア同10.5%減を上回る大幅減少になった影響が強い。米国は消費に弱含み傾向がみられ、それにコロナウイルス対策の規制が加わり、日本の輸出に波及してきた。
一方、中国は春節休暇が当初の1月 24〜30 日から、コロナウイルス対策で2月2日まで延長になり、その後も多くの企業で同月9日まで延長になった影響が3月に残っていたと推測できる。春節休暇の延長による中国での陸揚げ中断が、日本の通関に反映するまで日数が掛かるためである。それでも、中国はコロナウイルスの影響で米国向けの間接輸出減と国内での日本製品の最終需要減を合わせても、米国よりは打撃が少なかったことになる。また、EUは同9.1%減の2桁近い減少だが、それまでの推移から判断すれば、特に減少幅が広がっているわけではなく、コロナウイルスによる需要減が現れたとはいえない。
4月は中国とその他の乖離が特徴として挙げられる。全体の輸出指数が前年同月比21.4%減と一段と落ち込み、米国の同36.8%減が目立つが、EUも同27.7%減と、いずれもコロナウイルス対策による規制で、需要の減少が顕著に反映している。これらに対し、中国は同2.4%減に留まり、2月までと同程度の減少でしかない。これだけみれば、コロナウイルスの影響はほぼ解消し、元の正常状態に戻っているようにみえる。
ただし、2月の春節休暇の長期化が輸送に要する日数の問題もあって、3月の日本からの輸出にマイナスに影響し、その反動のプラス効果が4月に含まれた可能性を考慮すれば、実態としてはもう少し低い水準も考えられる。それでもコロナウイルスの影響が本格化してきた2、3、4月の輸出指数の推移から、中国経済は他国・地域と比較すれば、打撃は軽微に留まり、いち早く脱出しつつあるといえる。
また、アジアは同11.8%減と3月と同水準程度の減少である。ただし、基準年の15年の輸出額がアジア40.3兆円、中国13.2兆円と、中国がアジアの3分の1ほどを占める割合から推計すると、小幅減少の中国以外のアジアは同20%近い減になる。
一方、輸入は日本の経済状況の影響が大きいが、今回のコロナウイルス問題では輸入先の生産・供給制約から、国内需要があっても輸入できない状況に陥る可能性がある。もちろん、19年はコロナウイルス問題はなく、輸入指数は日本市場の状況に依る。19年の日本経済は頭打ちから下降傾向になっていたため、全体として輸入指数も減少傾向であり、20年1月までは輸出指数同様の推移になっていた。
その後は乖離が生じ、輸入指数は20年2月に前年同月比17.3%減が一時的だが顕著な減少になった。これは基準年の15年の輸入全体の約4分の1を占める中国が、春節休暇長期化の影響を受けて同49.1%減とほぼ半減したことにある。これだけで17.3%減の7割以上の減少要因になり、これがなければ1桁の減少になり、それまでの推移より少し落ち込みが大きい程度である。
中国からの輸入指数は3月の同3.5%減から4月11.3%増では、春節による2月の減少分を取り戻したとはいえず、日本向けの生産はまだ水面下と推測できる。それでも、商品別で4月の機械系の部品の輸入は前年同月比で比較的高い伸びになっており、生産回復は急速に進んでいると推測できる。一時は中国からの部品不足が日本国内での供給不足をもたらしていたが、これが早期に解消されると期待できる。
3、4月は輸出指数が全体で急落してるのに対し、輸入指数は中国がほぼ元の状態に戻したのを受けて、全体では微増減である。このように貿易統計で輸出は3月からコロナウイルスの影響が現れているのに対し、輸入では2月の中国以外では表面化していない。その要因として、日本の需要の減少は4月頃から本格化し、かつ輸送に時間が掛かるためと考えられ、輸出から遅れて5、6月頃から顕著な輸入減が予想される。
今後の日本経済との関連からは輸出が問題になり、米国、EU、アジア(除く中国)のうち米国は3月、EUとアジア(除く中国)が4月から減少傾向を強めている。米国とEUは規制緩和が始まっているが、コロナウイルス感染の第2波を考慮しながら徐々にしか進められない。これから予測すれば、5月か6月頃が輸出減の底になると見込めても、大幅に落ち込んだ状態から急回復は期待できない。また、対米貿易摩擦問題を抱え、かつEU経済の立ち直りが穏やかと考えれば、中国の回復、成長が他国より早くても、その速度には限界がある。全体として輸出主導の回復になっても、それは国内需要の回復が遅いだけで、輸出水準が回復するのは来年に持ち越す予測になる。
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輸出は中国だけでなく、中国以外のアジアも減少、さらにEUも
昨年秋頃から景気の変調が話題になり始めた。その要因として中国向け輸出が急速に減少し、その他の国・地域が伸びても、輸出全体として頭打ちから減少傾向になった影響であった。ただし、輸出は金額(円)ベースの発表が注目されるが、最近は為替レートの変動幅が小さくなっていても、その影響を受けるため、動向を評価し難い問題がある。
それを補う統計に5年毎に基準年が変えられる貿易指数統計があり、現在は2015年基準になっている。貿易指数統計は米国に次いで第2位の輸出市場である中国と中国を含めたアジアでまとめられているため、中国以外のアジア地域への輸出動向が分かり難い問題がある。このため、15年の中国とアジア(含む中国)への輸出額13兆2,234億円と40兆3,287億円の割合から中国を除くアジア27兆1,053億円分の輸出数量指数を算出し、アジアを中国と中国以外の地域に分けて最近の国・地域別の輸出動向を見る。
輸出額から明らかなように、中国以外のアジアへの輸出は中国の2倍強になっており、この地域の影響は無視できない。現実に、昨年秋ごろからの輸出の減少は中国ほどではなくても、中国以外のアジアも減少しており、この影響も無視できない。ちなみに、同年の米国への輸出は15兆2,245億円、EUは7兆9,851億円で、これらの米国、アジア、EUの3国・地域で日本の輸出の8割以上を占める。
主要国・地域別輸出数量指数の前年比伸び率の図にみられるように、輸出は全体として18年上期から下期にかけて、さらに19年にはいってからと2段階で悪化している。輸出は18年上期は前年比で着実に増加していたが、下期には微減になった。下期は四半期別でも7〜9月期1.0%減、10〜12月期1.4%減で、いずれも微減である。
両四半期は全体では特に大きな差は見られないが、国・地域別では全く様相が異なる。米国、EU、中国、アジア(除く中国)の4国・地域の7〜9月期は、プラスは中国0.8%増、EU0.1%増、マイナスは米国1.6%減、アジア(除く中国)1.2%減に2分されるが、いずれもほぼ前年水準並みで、揃って頭打ちになったために成長が止まった。ところが、10〜12月期はEU6.2%増と米国5.2%増が持ち直したのに対し、中国8.6%減、アジア(除く中国)3.6%減とアジア地域が減少した。
トランプ氏が米国大統領に就任して以来、対中国輸入規制を強化してきたことで、中国に関しては経済への影響が予想され、当然、日本からの対中国輸出も減少が懸念されていた。同大統領は米国産業・経済を守るとして、18年にはいって緊急輸入制限(セーフガード)の発動で太陽光発電パネルや洗濯機などに追加関税を課した。ただし、当初は対象品目も少なく、米中貿易問題の影響は軽微であった。それが7月から拡大され、米中貿易問題が本格化してきた。18年前半頃までは中国経済への影響は顕在化しなかったが、米国の規制強化で経済成長率の鈍化傾向が見え始め、後半に入ってそれが日本の輸出にも波及してきた。
トランプ大統領の政策による打撃は早いか遅いかは別として、中国には予想通りといえる。一方、アジア(除く中国)にも同様の影響が出ているのは予想外になる。もちろん、トランプ大統領の政策は関係が無いとは思われなかったが、日本からの輸出の落ち込みからみれば、アジア(除く中国)は中国と同レベルまでは至らなくても、予想以上である。
当初は、アジア(除く中国)経済は発展して自立傾向を強め、中国の影響は軽微とみられていた。むしろ、米国が対中国輸入を規制すれば、それを避けるために周辺の国に中国から対米輸出工場が移転し、結果、日本の輸出が増えて中国への輸出減を補うという見方があった。
もともと、その見方は安易で、工場を建設するには年月が掛かる。加えて、従業員は中国から移転できるわけではなく、生産技術によるが、新たに従業員を育成するのは容易ではない。長期的には中国からの工場移転が進むと考えられるが、中国からの移転は人件費の上昇から予想されていたことで、米中貿易問題がそれを促進する要因にはなる。いずれにしろ、当面は中国の対米輸出が減少し、景気が低迷すれば、周辺のアジア地域もその影響を避けられないことを日本の輸出数量指数が示している。
さらに、19年に入ってより厳しくなっている。輸出全体では1〜3月期5.1%減、4〜6月期6.1%減と顕著な落ち込みである。国・地域別ではトランプ減税効果で景気拡大を維持している米国がこの間4.4%増、2.5%増と上昇幅は縮小傾向が見られてもプラスの伸びである。
一方、中国は11.7%減、6.7%減、アジア(除く中国)は5.8%減、5.6%減で、アジアの先行きは不透明である。米中貿易問題が解決する見通しはないため、アジアへの輸出は期待し難い。また、4〜6月期にはEUが5.1%減と1〜3月期までのプラス成長から一転している。欧州中央銀行は理事会で追加利下げや量的緩和政策の再開を検討していく方針を決めるほど経済の先行きに懸念が生じており、欧州への輸出も楽観はできない。
日本経済は輸出で景気が変動する傾向にあり、輸出に期待し難い状況で、今回は10月から消費税の引き上げが実施されるようである。引き上げによって消費が落ち込まないために軽減策が採られるが、一時的に軽減されてもその先の負担増は避けられないわけで、それまでに輸出が回復軌道に入っていなければ、景気の2番底が予想される。
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輸出の減少による鉱工業生産の落ち込み
前回の経済レポートで鉱工業生産指数が2018年の12月速報が前月比0.1%減(前回では速報値だったが、確報も同じ)と2か月連続の減少になり、下降の方向に向かっているのではと指摘したが、その変化の主因は輸出にある。特に、日本の輸出全体の2割近くを占める最大の輸出市場である中国の落ち込みが影響している。
これに関しては違和感を持つ人もいるかもしれない。それは内閣府が発表した18年10〜12月期の実質GDP(1次速報値)が前期比0.3%増と前期の同0.7%減から持ち直し、その一つの要因として、この間の実質財貨・サービスの輸出が同1.4%減から同0.9%増へと大幅に改善したからである。財貨・サービスの輸出には商品輸出以外に、サービス、特に急増している訪日外国人の増加効果も考えられるが、まだ商品の比重が大きく、サービスの影響は小さい。
統計は短期的な変動を示す季節調整値の前期比ではではなく、原数値の前年同期比の方が基調の方向性が分かり易い。実質財貨・サービスの輸出の原数値の前年同期比は4〜6月期の5.6%増から、7〜9月期に1.6%増と伸び率が急減し、10〜12月期も0.3%増と一段と低下している。
一方、貿易統計の輸出数量指数(15年=100)の前年同月比の推移は4〜6月期5.6%増、7〜9月期1.0%減、10〜12月期1.4%減となっており、7〜9月期から2四半期連続の減少である。それでもGDP統計の実質財貨・サービスの輸出が前年同期比でプラスになっているのはサービス増の効果である。19年1月(速報値)は前年同月比で9.1%減と大きく落ち込み、それ以前の18年11月同1.9%減、12月同5.8%減の推移からは下降傾向が続いている。このまま急下降するとは思えないが、19年1〜3月期の前年同期比は10〜12月期の1.4%減より減少する可能性が高い。
というのは、中国の減少が顕著なためである。17、18年の2年間の主要輸出先国・地域別に輸出数量指数をみると、四半期別で米国やEUは伸びても前年比1桁台の伸び、逆にマイナスになっても微減に留まり、変動幅は小さい。18年7〜9月期に米国が前年同期比1.6%減になり、これが原因で輸出全体が同1.0%減になったが、米国は10〜12月期には5.2%増に戻している。
これに対して、中国は18年1〜3月期までは前年同期比10%台の高い伸びであったが、その後は急速に縮小し、7〜9月期は同0.9%増に留まり、米国の減少を補えなかったために輸出全体としてマイナスになった。そして、10〜12月期は6.5%減になり、米国やEUが増加したが、全体として2四半期連続の減少になった。中国の19年1月は前年同月比20.8%減の急落で、輸出全体でも同9.1%減の大きな落ち込みになっている。
中国への輸出が18年にはいって伸び率が急速に縮小し、大幅な減少になった原因に米中貿易摩擦問題が挙げられる。米国の輸入規制で中国の対米輸出が減少すれば、中国の米国への輸出商品に使われる日本製部品の日本からの輸出が減少する。それに加えて、中国の景気が悪化し、それに伴う日本製品需要への影響もある。
米中貿易摩擦問題は両国がどこかで妥協するとしても、短期的に妥結する可能性は小さい。また、少なくとも貿易の均衡化の方向を目指すと推測され、米国に対中輸出を大幅に増やせる商品は見当たらないため、中国は対米輸出を抑制するしかないと考えられる。その場合、中国は対米輸出抑制で落ち込む国内景気を支えるため、公共投資を増やすことになっても、この日本の輸出増効果は小さい。結局、中国輸出数量指数の1月の減少幅は異常で一時的としても、減少基調が続くと予測される。
一方、中国の人件費の上昇から、日本企業はアジアの周辺国に工場を移転させる動きを強めているという見方が多かった。これに米中貿易摩擦問題が加われば、それが加速される可能性がある。そうであれば、日本の中国への輸出が減少しても、その分を移転先のアジア諸国への輸出で補えると考えられる。既に、中国からの工場移転が言われ始めてから数年は経ち、それが事実であれば、日本からの輸出は中国が頭打ち、減少傾向になる。その一方で、その他のアジアが高い伸びになり、アジア全体の輸出数量指数はあまり変化しないことになる。
17、18年の実績では中国とアジアが同方向に動いても伸び率の変動幅に関係性は見えず、工場移転の影響は顕著には表れていない。人件費だけでは工場移転が進み難い構造ができていると推測できる。もちろん、工場移転には時間が掛かり、現実の移転はまだ始まったばかりで、長期的には関係性が表れてくるという見方もできる。ちなみに、日本からの輸出額ではアジア(中国を除き、香港を含む)は中国の約2倍である。
結局、米中貿易摩擦問題から考えると、中国への輸出が現在のテンポで減少幅を拡大していくことはなくても、当面は大幅な落ち込み状態が続きそうである。それを米国やUEが景気を好転させて日本からの輸出が伸びて補うことは期待し難い。結果、全体として輸出は減少基調が続き、延いては鉱工業生産指数も前年を下回る推移になると予想される。
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輸出にみる為替レート変動の影響
2008年9月の米国のリーマン・ショックに続いて、欧州ソブリン危機(ユーロ危機)が発生した。これは09年10月のギリシャの政権交代によって、同国の財政赤字がそれまで公表されていた数字を大幅に上回ることが明らかになったのを契機に、欧州全体に広がった金融システム不安である。これを受けて、円の対ドルレートは07年7月頃から徐々に円高傾向にあったが、08年10月頃から円高が加速した。1ドル=100円を割り込み、11年央には70円台にまで進んだところで頭打ちになり、12年末頃まではほぼ横ばいの80円前後の推移になった。
円高は欧州ソブリン危機が最悪期を脱出するまで続き、12年12月の第2次安倍政権の発足、日本銀行総裁に就任した黒田東彦氏が13年4月に発表した異次元の金融緩和施策で円安基調に転換した。そして、13年11月からはそれまでの一進一退から、100円を上回る水準が定着した。そして、16年頃からは基調変化も見られるが、まだ100円を下回る円高までにはなっていない。
前回の円高時には、輸出産業は国内では採算を採れず、海外に流出する。逆にその後の円安時には、海外に立地した工場が国内に戻り、その効果で日本経済は成長するという意見が出ていた。しかし、日本企業の海外立地戦略はそれ以前から、低賃金労働力確保を目的とする発展途上国から、現地のニーズに合った製品を生産するための市場立地に変わっているため、為替レートの影響をあまり受けなくなっていると、この経済レポートで指摘してきた。今回のこの経済レポートはそれを財務省「貿易統計」で確認する。
既に、日本に工場が戻って国内生産増になり、経済成長の加速もないことが明らかになり、円安による国内生産拡大を期待する声も小さくなっている。実態が明らかになってきただけでなく、最近では国内の労働力不足が深刻化し、雇用増に結び付く工場立地問題に関心が薄れたこともある。
為替レートの立地への影響は経済産業省「工業統計」が利用できるが、発表されているのは15年のデータまでである。為替変化が立地に影響するまでには数年かかり、円安定着の13年頃からの2年ほどしか経っていない15年では、ほとんど円安の影響が現れていないと考えられる。このため、17年度が発表されている貿易統計の輸出資料を使って、為替レートの影響の有無を判断する。円高で海外立地すれば輸出は減り、反対に円安で国内に戻れば増加することになる。
もちろん、為替レート変化は価格面での国際競争力にも影響するが、現実には輸出市場を維持するために、円高時に価格競争力維持のために現地価格を上げない価格戦略を採られることが多い。逆の円安時には現地価格を引き下げて輸出量を増やすよりも、価格を引き下げない、つまり、いずれにおいても現地価格はあまり変化させない輸出戦略である。それが最近のように円安になれば、輸出企業の高収益をもたらすことになる。
貿易統計の主要輸出商品別の金額構成比の推移で、方向が明確なのは電気機器の減少傾向、反対に自動車部分品と化学製品の増加傾向である。これら以外は年によって上下し、その変動の方向は為替レートと関係ないのが特徴として挙げられる。結局、これらの商品はその時々の輸出先市場の需要変化を反映していると推測できる。
減少基調にある電気機器は、労働集約型の組み立て分野と半導体産業に代表される技術集約型の両方の産業分野が存在している。労働集約型の分野では以前から低賃金労働力の確保を目的に東南アジアや中国などへ生産拠点の移転、海外立地が進んできた。ただし、これは80年代で終わっている。つまり、為替レートとは関係なくなっており、その後は技術集約型の先進的な分野が問題になる。この分野で急速に韓国、そして中国が台頭し、日本企業の市場が蚕食されている。ここでは資本力や技術力による競争になり、為替レートには関係なく最近の円安にもかかわらず、下降傾向を余儀なくされている。
一方、自動車部分品の増加は80年代の日米自動車摩擦問題を契機に完成車の海外生産が増え、主要部品は日本から供給する構造になっているためである。それでも、人口の減少でピークを越えた国内需要に対して、その減少分を輸出で補って国内生産を維持しようとするため、完成車の自動車輸出は輸出先の需要によって上下しても、基調は横ばいか微増程度と変化は小さくなる。
また、化学産業は装置産業で海外立地が難しい。それでも、近年は価格の安い原料の原油・ガス確保を目的として、中近東を中心に進出が目立っていても、為替レートとは関係ない。かつ、化学産業は技術集約型産業であり、技術力によって国際競争力を維持できる。例えば電機機器の液晶や有機ELのディスプレイ装置は韓国に負けるようになっているが、液晶や有機ELに使う化学製品は日本製で、技術力が問われるこれらの製品は為替レートの影響は小さい。
以上のように輸出商品別の動向とその要因から、為替レートの変化が工場立地にほとんど影響しないことが分かる。今後、足元の1ドル=100円台の水準が維持されるかどうかは不明だが、現状の水準は輸出企業の高収益から評価すれば円安と言える。今回の円安は13年頃から始まっており、長期間続いていることになる。トランプ米大統領は円高を望んでいるといわれ、いつ急速な円高基調に転換してもおかしくない。その時に再び国内製造業の崩壊という見方に惑わされる事態だけは避けたい。
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輸出数量指数はEUだけが比較的高い伸びで、全体ではマイナス成長
為替レートは円高が進み、2015年の1ドル=120円台から、16年に入って110円台、そして4月からは100円台、6月には1時100円を割り込んだ。逆に、7月後半は一時的に100円台後半の円安になったが、国内取引は月末の29日に103円で月を越えた。為替レートが変化すると、かつては輸出や工場の立地戦略への影響が話題になっていた。ところが、最近では輸出企業を中心とする収益への影響は取り上げられても、輸出や立地に関してはほとんど無視である。
以前からこの欄で指摘しているように、企業は最終製品は需要国・地域、労働集約型の分野は人件費の安い発展途上国に立地する立地戦略を採っており、為替レートの影響は小さい。また、輸出は市場確保からドル建て価格を維持するため、為替レートの変動は輸出数量には波及せず、企業収益の変動をもたらす傾向にある。このような事情が一般的に認識されるようになり、為替レートが大きく動いても、日本経済との関連で輸出への影響は議論の対象にはならなくなっている。
日本経済の現状についても、回復力が弱いことは誰も否定できなくなり、政府は公共投資でてこ入れを図る方針を示している。しかし、1990年代以降の公共投資による景気対策は、その時だけGDP水準が高まっても、それが民間設備投資や個人消費に波及しなかった。危機対策効果が一巡すれば元に戻ることは何度も経験しており、財政赤字を拡大するだけであることが明らかになっている。
国内需要の回復力が弱ければ、輸出に期待が掛かる。輸出の為替レートの影響が小さければ、輸出先国・地域の景気に依ることになる。足元は輸出も低迷を続けているため、日本経済も回復からほど遠い状態にある。輸出を輸出数量指数(2010年=100)でみると、16年6月(速報値)は前年同月比で2.9%増になり、2月の同0.2%増から4か月振りにプラス成長になった。2月はうるう年効果があったことを考慮すれば、17年6月の同0.1%増以来、1年振りになる。それでも、基調を判断するために、四半期別の推移をみると、4〜6月期は前年同期比1.4%減になり、5四半期連続の減少である。
主要な輸出市場の3大国・地域では、前年同期比でEUの伸びが目立っている。EUの輸出数量指数は14年10〜12月期以降、7四半期連続のプラス成長で、16年4〜6月期は5.4%増と比較的高い伸びである。一方、同期の米国は5.2%減の5四半期連続のマイナス成長で、アジアは0.4%減の微減だが、マイナス成長は4半期連続になる。ただし、アジアに含まれる中国は2四半期連続の0.8%増である。中国経済は政府発表以上に実態が悪いという見方があるが、日本からの輸出でみる限り、良いとはいえなくても、非常に悪いと言うほどではないことになる。
EUは比較的高い伸びでも全体では減少になるのは、基準年の10年のEUの輸出金額全体に占める構成比が11.3%と低いためである。これに対し、アジア56.1%、中国19.4%、米国15.4%である。ちなみに、15年はアジア53.3%、中国17.5%、米国20.1%、EU10.6%であり、この間に米国が金額では大きく伸びたことを示している。
EUの輸出数量指数は13年以降、比較的高い伸びで推移しているが、日本に先行してマイナス金利を導入しているほどで、経済が順調に成長しているわけではない。ギリシャの財政問題に端を発した債務危機、いわゆる欧州ソブリン危機、ユーロ危機といわれる金融危機から13年頃から脱してきた効果である。これから考えれば最近の輸出数量指数の比較的高い伸びは一巡するのではと予想される。
一方、アジアは欧米先進国依存の経済であり、欧米が経済成長しなければ成長は難しい。また、米国は経済成長が期待されながら、金利引き上げが遅れ気味になっているように、経済回復力が高まらない状況にある。加えて、日本企業の米国立地の他、日本製品の競争力の低下の影響が考えられ、特に後者であれば、今後の懸念材料になる。
米国の経済成長力が高まらないのは、基本的に格差問題があると推測される。米大統領予選でトランプ氏やサンダース氏が予想を大きく上回る人気を得ている理由として、米国での所得格差問題が指摘されている。これは日本や欧州でも同様で、米国は人口増による個人消費拡大効果はあるが、基本的に大多数の国民の所得が増えなければ、個人消費主導の経済成長は見込めない。このような状況から考えれば、輸出収量指数がマイナス成長から脱したとしても、高い伸びは予想できず、GDP成長率の改善は期待できない。
世界的に低金利にもかかわらず、経済が停滞状態から脱せないのは、低金利でもそれだけ収益が見込める投資機会が見当たらないため、設備投資が盛り上がらないことにある。また、消費税の引き上げの延期を国民は歓迎しているかもしれないが、それが福祉にしわ寄せされることを懸念している。寿命が延びる状況では、所得に少し余裕ができたとしても消費を増やす気分にはならない。雇用も含めて生活が見通せない現状で、小手先の政策をいくらいじくっても消費が拡大する可能性はない。
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日・中間の経済規模格差は2014年2倍強から15年2.5倍以上に
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーになる参加締め切りの3月末に向け、EU主要国でG7のイギリスが3月17日、最初に参加を表明した。その後、ドイツ、フランスなども続き、参加を表明した国・地域は3月末までに50を超え、その後も増え続けている。
一方、AIIBのライバルになるアジア開発銀行(ADB)に設立以来、総裁を出している日本はAIIBに消極的で、参加しないようにEU諸国への働きかけが裏切られ、日本政府のショックは大きいと報道されている。つまり、EU諸国が日中を比較して中国を選んだことになるが、冷静に日中の経済規模と成長性から判断すれば、当然の結果といえる。日本がヨーロッパ諸国に期待しても、客観的に見れば、完全に的外れな一方的な思い込みでしかない。
日中の経済規模に関しては、2010年に中国が日本を抜き、日本がそれまでの世界第2位の経済大国から、第3位に転落したと、当時は話題になった。国際比較はドルベースで行われるため、ジェトロ(日本貿易振興機構)資料でドルベースの名目GDPを比較すると、すでに09年に中国5兆1,058億ドル、日本5兆351億ドルとなり、09年に日本は抜かれていた。確定値の発表まで時間が掛かるため、この1年のずれは大きな問題ではなく、それよりもその後の推移、さらには今後の見通しにある。
中国はかつての実質GDPが10%を超える高成長から低下しても、14年で7.4%成長である。また、物価は上昇しているため、名目GDP成長率は13年まで10%を超え、14年は物価上昇率が下がり、8.2%成長にとどまっている。低下しても、日本と比較すれば名目、実質共に大幅な高成長である。かつ、対ドルレートは元高が続いており、ドルベースでは成長率はより一層高まる。
日本は中国に抜かれる前年の08年以降で、実質GDP成長率がリーマンショック後の落ち込みから、反動増の10年の4.7%増が目立つ程度で、その以外はマイナス成長か、プラス成長でも1%台でしかない。加えて、デフレ状態が続き、名目成長率は10年でも2.6%増と実質の伸びを大きく下回っている。結果、名目GDPは08年の501兆円を下回る額で推移し、回復基調の14年(速報値)が08年以来の金額でも500兆円に届かない。
ただし、ドルベースは異なり、日本のGDPは08年の4兆8,492億ドルから、12年の5兆9,602億ドルへと、22.9%増である。08年の1ドル=100円を超える円安水準から、80円前後まで急速に円高が進んだ効果で、ドルベースでは膨らんだ。それでも、日中間の経済規模格差は09年の1.4%から、12年24.1%へと拡大している。
そして、安部政権下で円安が急速に進み、IFM資料の年平均で12年の79.1円から13年は97.6円へと20%以上も急落した。この影響で日本の名目GDPは拡大しても、ドルベースでは大幅減少の4兆8,985億ドル、前年比17.8%減、中国との格差は93.3%と2倍近くまで拡大した。これを受けて、昨年ごろから日中間の経済規模格差が約2倍、または超えたという意見が見られるようになった。
ドルベースで14年の名目GDPの発表はまだないが、中国の自国通貨建ては国家統計局が63兆6,464億元、前年比11.9%増、日本は内閣府が速報値で488兆円、前年比2.1%増と発表している。これとIMF資料の14年の為替レート、1ドル=6.1434元、105.9円から推計すると、中国10兆3,601億ドル、日本4兆6,061億ドル、格差は2.25倍になる。日本は速報値で、数値は修正になるが、それほど大きく変わらないであろう。つまり、14年には中国が日本の2倍以上、それも少なくとも2.2倍程度になったのは確実といえる。
また、元の対ドルレートの上昇速度は減速傾向にあるが、まだ元高基調にある。一方、14年の円レートは105.9円だが、これは平均値のためで、年末から120円前後の推移になっている。これで計算すると14年は4兆667億ドルまで縮小する。この金額だと、中国は日本の2.55倍になる。
日本は4月以降は消費税増税効果がなくなるため、消費者物価上昇率は前年比ゼロ近く、場合によってはマイナスになることもあると日本銀行も認めており、より一段の円安を望んでいるのではと思われるほどである。ただし、米国がドル高で輸出が伸びないため、米国の反対でこれ以上の円安が可能かどうかは疑問があり、為替レートは大きな変化はないと考えられる。
日本の15年の実質GDP成長率はプラスでもせいぜい1%台で、消費者物価の上昇率も低下すれば、名目で2%台に乗るかどうかになる。これに対し、中国は実質GDPで7%成長を目標にしているようだが、これには達成は厳しいという見方が多い。それでも、5%を下回るまでの悲観的な見方は見当たらない。経済成長率の減速に伴い物価上昇率も低下しているが、マイナスの物価は考えられない。名目で少なくとも5%以上は成長が予想され、為替レートも穏やかでも元高が続けば、ドルベースは元ベースよりも伸びは高くなる。
結局、15年の日米間経済規模格差は少なくとも5%近くは拡大し、中国が日本の3倍にまではならなくても、少なくとも2.5倍以上、そして2、3年のうちにそれが3倍を超えると予測できる。以上のような現状、さらには今後の見通しを海外からみれば、日本より中国を選ぶのは当然である。日本は円安、株高で喜んでいるが、それが国際比較で日本経済の地位を貶めていることを認識しなければならない。
貿易赤字は2014年度上期がピークだが、改善速度は遅い
2014年度上期の貿易収支は、現在の統計になった1979年度以降で最大の5兆4,271億円の赤字になったと財務省が発表した。同期の輸入額は前年同期比2.5%増に留まったものの、輸出の伸びそれを下回る同1.7%増になったため、赤字幅が拡大する結果となった。ところが、発表はまだだが上期の経常収支も赤字になる懸念が強まり、貿易収支赤字の拡大が続くのではという見方もある。
絶対額では年度下期は相対的に輸入が多いため、上期より貿易赤字が拡大する可能性は高くても、季節要因を除けばこの上期が赤字のピークと考えられる。貿易収支が赤字になり、かつ、その幅が拡大してきた要因にはいろいろあっても、為替レートの円安要因を別にすれば、貿易収支は輸入面から改善の方向に向かう条件が出てきたからである。ただし、輸出量に高い伸びを見込めないため、その改善速度が早くなることは期待し難い。
GDPでは輸出入は実質の数量ベースが対象になるが、国際収支の貿易統計は金額であるため、数量だけでなく価格も重要になる。輸出数量は為替レートが円安でも増えないという認識は一般的になった。一方、輸入数量は生産を海外に依存している商品は、少なくとも短期的には為替レートで大きく変化することはなく、景気に影響される。13年度までは景気回復期にあり、輸入量が増えるのは当然といえ、それに加えて、原子力発電停止による火力発電燃料の輸入増があった。
このような輸出入数量よりも、特に輸入価格の上昇が貿易収支の悪化要因になっている。輸出入価格は国際市況と為替レートによって変動し、輸出価格は企業の輸出戦略も関係する。
輸出入価格は日本銀行が円ベースと契約通貨ベースに分けて、全体を指数で発表している。これらの推移から国際市況、為替レート、企業の輸出戦略の影響が推測できる。為替レートとの関係を分かり易くするために、現在の日本銀行の輸出入価格指数(2010年=100)に合わせ、月平均の対ドルレートを2010年=100とした指数にして比較すれば、価格要因がよく理解できる。
現在までの推移を見ると、まず、輸入の半分ほどは食料や天然資源であり、輸入物価指数の契約通貨ベース(以下、輸入契約通貨指数、他も同様)はドル建ての国際商品市況を反映する。輸入契約通貨指数は世界経済の立ち直りを受けて10年末頃から急上昇したが、当時は円高だったため、相殺されて輸入円指数は比較的安定していた。そして、輸入契約通貨指数は11年年央以降、横ばい水準になったにもかかわらず、12年後半から円安が急速に進んだため、輸入円指数が上昇し、輸入数量の増加と合わさって輸入金額は高い伸びになった。
一方、輸出は鉄鋼や化学製品のように国際商品市況で価格が決まる製品と、企業が独自に決められる製品、主に機械製品の2つがある。このため、11年から12年前半は前者の製品価格市況上昇の影響から、輸出契約通貨指数は上昇傾向にあったが、円高の影響が大きく、輸出円指数は下降していた。その後は輸出契約通貨指数が下降傾向になり、輸出円指数は穏やかな上昇になっている。機械製品の輸出は輸出量の拡大を求めず、為替レートが変化しても輸出先価格を一定に維持する戦略と推測できる。
今回の貿易収支の急速な悪化は、国際商品市況の高騰で輸入価格が上昇したのに対し、輸出価格が相対的に安定していた。そして、円安によってこの輸出入価格の乖離が拡大したのが主要因として挙げられる。そこに原子力発電停止という特殊要因も加わった。
今後に関しては、輸出は為替レートの影響が小さいことから判断すれば、世界経済にも依るが、いずれにしても上下の何れにおいても輸出量・金額に大きな変動は予測できない。
一方、輸入は電力事業連合会の電力データによると、13年10月から原子力発電がゼロになっており、前年比で下期は原子力発電停止の影響が完全に解消される。加えて、受発電電力量は政府の節電要請とユーザーの電力価格の値上げ対策で、11年度から微減が続いている。結果、発電燃料の輸入量は減少が見込まれる。
また、ドル建て価格は石炭、LNG、原油の何れも下落に転じており、このなかで、原油は日本の原油の主要輸入先であるOPECのバスケット価格(OPEC参加国の主要油種12油種の加重平均)をみると、8月以降、顕著に下落している。輸送に時間が掛かるため、日本の輸入価格にはまだ明確には現れていないが、これから顕在化してくると考えられる。
発電燃料以外も景気動向から判断すれば、輸入が増える要因は見当たらない。つまり、今後は為替レート次第になるが、より一段の大幅な円安にならない限り、輸入額の拡大は予想できない。貿易赤字は14年上期がピークと推測できても、輸出が高い伸びにならなければ、その改善速度は遅くならざるを得ない。