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労働力不足を技能実習生と留学生に頼る現状で良いのか

 政府は「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)で新たな在留資格を設け、最長10年の就労を可能にする方針を決め、来年4月から実施する予定である。これにより外国人労働者は3年から5年の技能実習を修了するか、業種ごとに導入される新たな試験に合格すれば、さらに最長5年の就労、最長10年間就労できることになる。

 現在、日本では高度の専門的な能力、熟練した技能、知識などを有する人材以外の一般的な労働者は、技能実習生としてか、または留学生のアルバイトとして就労が認められている。技能実習の建前は母国の発展に貢献できる人材の育成、留学生は日本で高等教育を受けるための資金の確保が目的だが、現実には国内の単純労働力の不足を補う手段になっている。

 今回の景気回復局面での雇用の推移をみると、有効求人倍率(季節調整値、パートを含む)が1を超えたのは13年11月、同(同、パートを除く)が1を超えたのは14年11月からで、29年まで上昇の一途で、最近は頭打ちの傾向がみられるが、高水準の推移である。また、就業者数は12年が底になり、前年比で13年46万人、14年45万人、15年30万人、16年64万人、17年65万人のいずれも増加である。この有効求人倍率と就業者数の推移から、15年頃から人手不足状況になり、16年頃からそれが深刻化しているといえる。

 法務省「在留外国人統計」によると、2017年末の留学者は31万1,505人、技能実習生は27万4,233人である。12年末からの技能実習生と留学生の推移は、日本の労働市場の動向を反映している。技能実習生は17年11月からそれまでの実習期間3年から5年に延長されているが、17年末の統計ではその影響は少ないと考えられる。

能実習生は増加基調が続いており、前年比で12年末9,483人、13年末3,729人、14年末1万2,420人、15年末2万5,029人、16年末3万5,944人、17年末4万5,645人のいずれも増加で、14年末からは加速がついている。また、留学生は10年末の20万1,519人をピークに、12年末の18万0,919人まで2年連続で減少した後は増加し、16年末、17年末は2年連続で前年比3万人以上の増加である。

 うち、大学・大学院生の留学生は文部科学省「学校基本調査報告書(高等教育機関)」で16年をみると、全留学生11万2,089人中、国費留学生9,123人、私費留学生10万2,966人と私費が大部分になっている。本来の目的は勉学だが、日本でアルバイトで稼ぐのを目的としている留学生は少なくないと推測でき、それが日本の労働市場の影響を受けて大きく変動している要因と判断できる。

 もちろん、勉学が本来の目的であるため、アルバイト時間は学業に支障がない範囲に制限され、週28時間になっている。週1日の法定休日がアルバイトにも適用されるため、学校が休みの土曜日か日曜日に8時間働くとして、残りの5日間で平均4時間労働になる。これでは平日に毎日学校に行きながらアルバイトすれば、十分な勉強時間が確保できるとは思えない。逆に、アルバイトを主として違法な長時間労働や複数就労によって28時間以上働くのは、マイナンバー制度は留学生も対象になるため、一般的な企業の就労では難しいと推測できる。

 図から明らかなように、留学生と技能実習生の差が縮小傾向にあり、その差は14年の7万6,899人から、17年には3万7,272人になっている。企業が留学生のアルバイトよりも技能実習生の採用に力を入れていることを反映していると推測できる。19年の滞在期間の3年から5年への延長、そしてさらに5年延長する今回の方針は、留学生は専門学校も含めて生徒数に限界があり、学生としては長時間労働であっても、一般労働者には労働時間が短く、使い難いという経営者側の要望によるのではないか。もともと、学生バイトに大きく依存する構造が間違っている。

 また、留学生と技能実習生の出身国は、留学生は17年末で中国が12万4,292人、全体の40%を占め、突出した1位で、第2位のベトナムは7万2、268人と大きく下回っている。ただし、中国がピークの10年末の13万4、483人から、14年末に10万5,557人で底を打って回復傾向でもまだ下回っているのに対し、ベトナムは増加一途である。17年末の留学生は以下、ネパール(2万7,101人)、韓国(1万5,912人)と続いている。

 一方、17年末の技能実習生はベトナムが12万3,563人、全体の46%を占めて第1位で、中国は第2位の7万7,567人であり、留学生とは逆になる。ただし、15年末までは中国が第1位であり、ベトナムが急速に増やしてきた結果である。また、技能実習では17年末の3位以下は、フィリッピン(2万7,809人)、インドネシア(2万1,894人)、タイ(8,430人)などが続いており、いずれも急速に増加している。

 中国は経済発展によって労働力不足傾向になり、賃金が急上昇している。結果、日本に仕事を求める需要が低下し、それが日本で働く技能実習生の頭打ちとなって表れている。その穴埋めとして、ベトナムをはじめとする東南アジア諸国に技能実習生を広く求めるようになっている。東南アジア全体としてみれば、人口は多く、さらにはインドも可能性があり、技能実習制度は人材確保策としては有効に働いてきた。今回の最長10年間の技能実習制度は、それをより確実なものにすると期待はできるかもしれない。

しかし、技能実習生は来日までに多くの費用を支払い、職場を変える自由もなく、違法に低賃金で長時間労働を強いられているものも少なくない。期待していた労働とは異なると反感を持つ技能実習生も多い。また、単なる労働力として長期間働かせて帰国するだけの政策に対して、人権問題とする意見もある。日本側の都合だけを考えた政策が、長期的に上手くいくとは思えない。期間延長だけでなく、禍根を残さないために、技能実習制度自体の見直しを優先すべきである。

技能実習生と留学生の推移

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| 2018年08月01日 | 雇用 | comments(0) | - |

低成長下の労働者不足は労働時間短縮が原因

 人手不足倒産が話題になるほど労働需給の逼迫が深刻化しているが、経済成長は低水準の推移である。実質GDP成長率はリーマンショック後の世界不況の影響で2008、09年度に2年連続のマイナス成長後、10年度から3.2%増、0.5%増、0.8%増、2.6%増、0.3%減、1.4%増、1.2%増、そして17年度速報は1.6%増の推移である。比較的高い成長があっても、それは1年だけで終わり、基調としては1%台程度の成長でしかない。

 企業は常に労働生産性向上に務めており、従来であれば1%台程度のGDP成長は労働生産性の向上で吸収され、労働力需要の増加効果はほとんど無いと考えられる。逆に、労働需要は減少し、失業問題が深刻化しても不思議ではない。ところが、現実には有効求人倍率(含むパート)はマイナス成長を記録した14年度に1.11まで改善し、求人数が求職者数を上回った。その後も倍率は上昇を続け、17年度は1.54にまで達している。最新の18年5月実績は1.60である。また、当初はパートの求人の伸びが目立っていたが、最近では正職員の求人も増え、17年度のパートを除いた有効求人倍率は1.41と高水準に達している。パートを含めた倍率よりは低いが、求人難状態にあることでは変わりはない。

 GDPが伸びなくても雇用が拡大する要因としては、GDPが付加価値であるため、産業構造が低付加価値で雇用吸収力の高い、労働集約型産業の比重が高まる方向への産業構造変化が考えられる。また、産業構造は変わらなくても、パート雇用が伸びているように、短時間労働者の増加から、結果として経済成長に対して、相対的に雇用の伸びが高くなっている可能性もある。

 どの要因に依るかは産業別の労働時間の推移によって判断できる。就業者の9割近くを占める雇用者の年間労働時間が内閣府「国民経済計算」で公表されている。16年度までの数字しか分からないため、雇用者数が近年の底だった11年度から16年度までの5年間でみると、全産業平均は1,779.5時間から1,738.1時間へと2.3%減、年率0.47%減である。

 この5年間の労働時間は毎年減少で、この間で比較的高成長だった13年度も労働時間が短くなっていたのは注目される。ただし、その前年の10年度から11年度にかけては年間1,775.4時間から1,779.5時間へと増えていた。ちなみに、この11年度からの5年間で、全体の雇用者数は5,648万人から5,890万人へと4.3%増、年率0.84%増で、人口減少傾向の中でも高齢者や女子の就業率が高まることで就業者数は増えている。

 景気変動と労働時間、雇用者数の関係は、不況期には仕事がないため労働時間、雇用者は減少する。そして、景気が回復に向かって仕事が増え始めても、当初は労働時間の延長で対応する。その後も景気回復が続き、上昇してくれば、労働時間の延長では対応できなくなり、雇用を増やす。一方、労働時間の増加は頭を打つようになる。

 従来であれば、このような労働時間と雇用者数のサイクルになるが、近年はこの関係が崩れている。16年度の有効求人倍率はパートを含めて1.39、パートを除けば1.23であり、人手不足倒産が話題になり始めた17年度より低くても、労働力不足状態であることに変わりはない。当然、採用が困難な労働市場の状況であれば、労働時間が減ることは考え難い。

 ただし、産業別では少し様相が異なる。主要産業の中で、製造業の年間労働時間は12年度を底に15年度まで増加してきたが、16年度は前年度より4.9時間減少して1,953.3時間である。うち、自動車産業の比重の高い輸送用機械はこの5年間増加しており、16年度は2,054.9時間になっている。これでもかつては2,100時間を超えていたことから考えれば、高水準とはいえない。

 また、景気対策やオリンピック需要で人手不足が深刻といわれる建設の年間労働時間は、14年度までは増加していたが、15、16年度は2年連続の減少である。それでも、16年度で2,044.5時間にもなり、輸送用機械に近い。この間は2,000時間を超えており、長時間労働産業の代表になる。長時間労働では運輸・郵便業も同様だが、減少を続けて6年度は2,019.0時間である。17年度には宅配便ドライバーの労働問題が発生するほど長時間労働への反発は強く、2,000時間を切るのは近いのではないか。産業・企業のイメージとしても2,000時間大台を割り込む効果は大きく、早ければ18年度にも実現するかもしれない。

 これらに対し、もともとパート労働依存率が高く、平均では大幅に労働時間の短い卸売・小売業や宿泊・飲食サービス業は、一段と減少が続いている。消費者の節約行動を反映して、価格引き下げのためのコスト削減努力の反映と推測できる。パート労働比率を高めるだけでなく、パート賃金が上昇しているため、労働時間をできるだけ減らす努力をしている影響ではないか。

 全体としてみれば有効求人倍率の上昇にみられるように、採用が困難になっている中で、各産業・企業は労働時間の短縮に務めているといえる。その背景にはブラック企業批判、過労死問題などから長時間労働への社会的関心が高まってことが挙げられる。加えて、行政の指導が厳しくなっている影響も考えられる。また、人口の減少が続く新卒者は長時間労働企業を避ける傾向が強まっており、その採用対策も考えられる。いずれにしても労働時間短縮努力は今後も続けられると予想でき、そのためには雇用を増やすか、労働生産性の向上が必要になる。労働生産性の向上が短期的には難しければ、雇用増しかなく、それが低成長下での労働市場の逼迫現象をもたらしていると考えられる。

 

 そのいずれも困難なために、経営者は労働時間を意識しなくて済む、働き方改革の高度プロフェッショナル制度導入を求めているのであろう。それが実現しても、多くの労働者が対象になるまで賃金水準引き下げなければ、経営者にそれほどメリットはない。メリットがでてくる水準にまで引き下げられた場合、高プロ社員の多い企業は実態としてブラック企業になるが、それで企業が発展するとも思えない。

主要産業別年間労働時間

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| 2018年07月02日 | 雇用 | comments(0) | - |

高齢化、需給のミスマッチによる求人倍率の上昇

 今回の景気回復局面の特徴として、有効求人倍率の上昇、人手不足の深刻化がある。2017年平均の有効求人倍率(含むパート、以下同じ)は1.50倍、統計史上では1973年の1.76年に次ぐ2番目の高水準となった。73年当時は年率10%を超える日本の高度成長は終わったが、一般的にはまだその認識はなく、企業は雇用拡大に積極的であった。

 ところが、過去に例のない金融緩和で為替レートが円安になり、企業収益が高水準とはいえ、実質GDP成長率はプラス成長でも1%台でしかない。経済成長率からみれば雇用環境が大きく好転する状況にはなく、高い有効求人倍率とは乖離している。

その要因を職業別の有効求人倍率から考える。職業別の有効求人倍率は常用雇用を対象としているため、一般的に取り上げられる有効求人倍率より低く、17年平均でも1.35倍になる。ただし、人手不足対策から企業は常用雇用を増やしており、18年2月の非常用も含む有効求人倍率(季節調整値)の1.58倍に対し、職業別の有効求人倍率(同)は1.51倍であり、急速に格差は縮小している。

求人数の多い主要職業で有効求人倍率が17年で高いのは、専門的・技術的職業の建築・土木・測量技術者5.07倍、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師5.57倍、サービスの職業の介護サービスの職業3.57倍、飲食物調理の職業3.16倍、接客・給仕の職業3.16倍、保安の職業7.23、輸送・機械運転の職業の自動車運転の職業2.72倍、建設・採掘の職業の建設躯体工事の職業9.21倍、建設の職業4.01倍、土木の職業3.62倍などである。

全体の職業別の有効求人倍率は15年から1倍を上回る、つまり求人が求職より多くなり、それ以前は1倍を下回っていた。ところが、これらの有効求人倍率が高い職業はそれ以前から1倍を上回っていたことが特徴として挙げられる。特に、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師は13年で6.91倍とむしろ高かった。求人数でも13年の26万人に対し、17年は22万人と減少してもこう水準で、不足状態にあることには変わりはない。

資格を取得するための教育期間が長く、それを担う大学の定員に制約がある医師、歯科医師、獣医師、薬剤師は特別といえるが、他の職業でも人手不足状態が長期化し、それが深刻化していることは、構造的な問題と考えられる。その代表が大工、ブロック積・タイル張従事者、屋根ふき従事者等の建設躯体工事の職業である。求人数は17年で約8万人、13年でも約7万人と少なく、かつ求人数が1割強程度増加しただけで、この間に5.93倍から9.21倍へと人手不足がより一層、深刻化している。

高齢化が進む中で就職を希望する若者が減少してためと推測できる。これは有効求人倍率はそれほど高くはないが、宅配便のドライバー不足で注目を集めた自動車運転の職業も同様である。求人数は13?17年で110万人から125万人へと1割強の増加で深刻化したことは、若者の車離れと無関係ではないと考えられる。

高齢化、長寿命化は長期的に働ける職業、つまり体力が必要な職業、長期的に需要が見込めない産業の職業は避けられるようになる。かつ、比較的容易に参入でき、労働条件が良くなければ、就職希望が増えないのは当然といえ、若者人口が減る中では構造的な人手不足職業になる。逆に低いのは事務的職業で、17年は0.44倍でしかなく、18年2月でも0.54と求職者の半分程度の求人で、労働需給のミスマッチの構造を裏付けている。

一方、有効求人倍率では同じように深刻化しているように見えても、介護サービスの職業は事情が異なる。介護サービスの求人数は13年の177万人から、17年には258万人へと46%も増えていることが人手不足の主要因である。資格が必要であっても、取得はそれほど難しくはなく、高齢者でも働ける職業であり、就業者は増えている。それでも有効求人倍率が高まっているのは、介護サービス需要の伸びが高いためで、需要の伸びが低下すれば労働需給の改善、均衡化が見込めるが、高齢化で潜在的な需要の伸びは高い。ただし、介護サービスに対する支払い能力から需要が抑制される可能性はある。

以上から判断すれば、景気が悪化すれば当然、有効求人倍率は低下するが、若者人口が今後も趨勢的に減少が避けられない状況では、構造的な要因からその低下速度は穏やかなものに留まるという予測になる。つまり、労働力対策が重要になり、速効性のある外国人労働力の導入の検討が必要と考えられる。しかし、安倍首相の支持層の日本主義者には反対意見が強く、政策議題にもなっていない。これに対して、企業側、財界から人手不足対策として真剣に取り組むように要請があっても良いと思われても、その動きは見られない。

穿った見方をすれば、人手不足による賃金上昇、需給ひっ迫化による物価上昇、つまり2%物価上昇を目指していると推測することもできる。ただし、その場合、経済に大きな打撃を与えないで、物価上昇に歯止めが掛けられるかどうかが新たな課題になる。

主要職業別有効求人倍率の推移

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| 2018年04月01日 | 雇用 | comments(0) | - |

企業規模に関係なく低い賃上げ率

 2017年4〜6月期の実質GDP成長率(一次速報値)が前期比1.0%増、年率4.0%増と比較的高成長になった。その主因の一つに実質民間最終消費支出がそれぞれ0.9%増、3.7%増になったことが挙げられる。一部には消費税増税による影響が解消し、個人消費が持ち直す兆しとする楽観的な見方も出てきている。

 消費が基調として改善に向かうには、消費者が将来を現状よりは悪化しないと思えなくてはならない。社会福祉政策面では長寿命化に伴って税・保険料負担を増やし、かつ医療・介護費の個人負担比率を引き上げられている。近年の高齢者就業率の上昇は、それだけ健康な高齢者が増加したといえる一方、蓄えを増やせなくても、少しでも減らさない目的もあると推測できる。

 となると、個人消費は雇用増と賃上げによる収入面からの改善効果に期待するしかない。雇用は長期的にひっ迫状況が続いていれば、求める労働条件を高くしない限り、就労の場の確保の心配は少なくなる。加えて、遅ればせながら正社員の需給も改善傾向にある。

 問題は賃金である。労働者1人当たりの賃金の伸びは、労働需給のひっ迫、政府の賃上げ要請のかけ声にも拘わらず、低い伸びで推移している。基本的に基本給が上がらない、つまり、賃上げが不十分なためである。

 賃上げを厚生労働省「賃金引き上げ等の実態に関する調査」でみると、17年の賃上げの発表はまだだが、16年までの実績は常用労働者(正社員以外の長期雇用の労働者も含む)100人以上の企業の加重平均で12年1.4%、13年1.5%、14年1.8%、15年1.9%、16年1.9%である。僅かでも賃上げ率が高まる傾向から、16年に頭打ちになった。

 この調査の17年は不明でも、同省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」では16年の2.38%から、17年は2.14%に下がっている。これから推測すれば、1.8%以下になっているとまではいえなくても、1.9%を超えるとは考えられない。

 16年の1.9%は金額では5,176円でしかない。税・保険料負担が増える中で、この程度の賃上げ額であれば、手取りが増えていても、その実感は乏しいと推測でき、17年も変わらないであろう。

 また、最近の特徴として4区分の企業規模間で賃上げ格差が小さいことが挙げられる。つまり、低水準横並びの推移である。12、13年は規模間賃上げ率格差が0.1ポイントしかなく、それも4区分のなかで、いずれも1つだけが0.1ポイント高いだけで、他の3つは同じである。

 賃上げ率が高まった14年は格差が拡大したが、それでも1.6〜2.1%で、最大で0.5ポイントの格差でしかない。そして、15年もその傾向が強まっても、1.6〜2.2%にとどまり、0.1ポイント広がっただけである。逆に、16年は1.8〜2.0%、最大で0.2ポイントに縮小し、均一化傾向にある。これは別掲の参考資料の製造業と卸・小売業の30〜99人も同様の推移であり、調査対象外の小零細企業の29人以下を除けば格差は小さい。

 いずれにしても、よほどの事情がない限り、マイナスの賃上げ、つまり賃金の切り下げはない。つまり、企業規模間の賃上げ格差が小さいのは、好景気で収益を挙げている企業が賃上げを抑制しているのが原因と考えられる。例えば、アベノミクスによる円安で、14、15年には輸出産業、特に常用労働者数でいえば5,000人以上の自動車の完成車メーカーは高収益を得ていた。しかし、その労働者への還元は賃上げではなく、一時金を増額する方法をとっている。

 結果、それほど収益が上がっていない企業は、採用のために高収益企業に対抗して賃上げする必要がないため、低く抑えるのは当然である。そして、低水準横並びの賃上げになれば、一時金収入時に消費支出を拡大しても、それは一時的で、基調としては抑制的にならざるを得ない。

 以上から判断すれば、個人消費は雇用増の下支え効果で悪化する可能性はないが、力強い回復は予想できない。四半期では季節的要因などで比較的高い伸びをすることはあり、4〜6月期の数字で消費回復とするのは過大評価になる。

 また、賃上げは賃金コストアップから製品・サービス価格の引き上げに繋がり、政府や日本銀行が求めている消費者物価上昇にも結び付く。しかし、1%台の上昇ではそのコストアップ分は企業努力で吸収され、消費者物価の上昇にならないことは最近の物価動向から明らかである。

 逆に言えば、製品・サービス価格の引き上げが需要の減少をもたらすため、企業努力で吸収できる程度の賃上げが現在の賃上げ率・額といえる。民間の判断すべきことに国が口を出す問題の評価は別として、企業が賃上げに消極的であるのに対し、賃上げを要請するのは景気、物価対策から正当といえる。しかし、強引な国会運営と比較すれば、消極的過ぎる結果が現状である。

常用労働者規模別賃上げ率の推移(加重平均)

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| 2017年08月30日 | 雇用 | comments(0) | - |

外国人労働者では留学生の「資格外活動」による就労が高い伸び

 人口、ひいては労働力人口の減少が始まり、労働力不足の深刻化が言われているが、現実にはこの前回のレポートでみるように、就業者数は微増で推移している。女性や高齢者の就業が増えているためで、就業を希望する人が性、年齢に関係なく働けることは評価できる。その一方で、高齢者の就業増は労働生産性からみれば懸念がある。また、当面は女性や高齢者によって労働力不足を何とか補えるとしても、いつまでもこの状態が維持できるわけではない。

 となれば、外国人労働力の導入を考える必要があるが、短期滞在の観光客としては歓迎しても、長期滞在、さらには定住する労働力としての外国人に対しては、治安の不安から反対する国民は少なくない。また、安倍首相を支持する右翼的な人は日本の伝統が崩壊する懸念から反対しており、当面は実現可能性は低いと考えられる。

 現在の外国人労働者の在留資格には専門的な能力を持つ「専門的・技術的分野の在留資格」、外国人技能実習制度による「技能実習」、留学生による「資格外活動」、戦前からの在日朝鮮・韓国人の永住者とその配偶者、日本人配偶者、日系人などの「身分に基づく在留資格」、数は少ないがワーキングホリデー、外交官等に雇用される家事使用人等の「特定活動」の5種類がある。

 技能実習はもともと技能を取得して本国に貢献するための制度で、資格外活動は学生アルバイトになり、生産性の高い労働者にはならない。一方、専門的・技術的分野の在留資格は生産性が高い可能性はある。また、身分に基づく在留資格は多様な労働者が混在していると考えられる。

 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」が現在に統計になった2008年から16年(各年10月末時点調査)までの8年間の推移をみると、全体では92.6%増である。在留資格別では、08年は技能実習と特定活動が分けられていなかったため、この2つは合計する。専門的・技術的分野の在留資格100.4%増、技能実習・特定活動1004.7%増、資格外活動147.2%増、身分に基づく在留資格163.2%増などとなっている。全体では8年間で2倍ほどになり、その中で就労による収入を目的とする留学生の増加が目立っている。一方、2000年代に入って移民の多いブラジルの経済発展と日本の不況で、日系ブラジル人のブラジルへの帰国が多かった影響で、定住者の身分に基づく在留資格の伸び率は低い。

 ただし、人数は16年で全体108.4万人中、41.3万人、38.1%と4割近くが身分に基づく在留資格になる。これに対し、専門的・技術的分野の在留資格20.1万人、全体の18.5%、技能実習・特定活動22.0万人、同20.3%(うち技能実習21.1万人が圧倒的に多く、同19.5%)、資格外活動24.0万人、同22.2%といずれも20万人強に留まる。

 8年間で2倍近い伸びは年率では10%近い伸びになり、外国人労働者は急増しているといえる。しかし、前回のレポートにみるように、16年の日本の就業者数の約6,500万人と比較すれば、この108万人に統計から外れている違法な外国人労働者が少なくないとしても、それを加えても就業者全体のせいぜい2%ほどでしかなく、全体の生産性に影響を与えるような存在ではない。

 特に、日本の経済発展、生産性向上に貢献が期待される専門的・技術的分野の在留資格は外国人労働者全体の伸びを若干上回る程度の増加で、今後に期待するとしても、現状からみればかなり先になる。ちなみに、16年の産業別外国人労働者数の産業別では、製造業が突出して多く、33.9万人、31.2%、以下、卸売・小売業13.9万人、12.9%、宿泊・飲食サービス業13.1万人、12.1%、教育・学習支援業6.0万人、5.5%、情報通信業4.4万人、4.0%などとなっている。

 これに対し、同様に専門的・技術的分野の在留資格は情報通信業が最も多く、3万3,656人、16.7%、以下、製造業3万994人、15.4%、卸売・小売業2万8,536人、14.2%、教育・学習支援業2万5,269人、宿泊・飲食サービス業1万3,065人、6.5%などである。

 外国人労働者の雇用は相対的にみて、製造業は技術者、研究者よりも製造部門が中心で、情報通信業はIT部門の技術者の採用が中心で、専門的・技術的分野の在留資格が突出して多い。また、卸・小売業は輸出入業務、訪日観光客への販売、教育・学習支援業は外国語教師に語学専門家として採用していると考えられる。

 生産性が高い専門的・技術的分野の在留資格の外国人労働者の拡大が課題とすれば、優秀な人材を巡って国際獲得競争の中で、彼らが来たいと希望する国になることが必要になる。その選択の一つに自由と民主主義があると思うが、この点で問題が大きい。

 国際的な評価の国際NGOの国境なき記者団(本部・パリ)による2017年の報道の自由度ランキングで、調査対象の180カ国・地域のうち日本は前年と同じ同じ72位、イタリア(52位)を下回り、主要国7カ国(G7)で最下位になった。また、政府が成立を急いでいる共謀罪に関して、国連人権理事会のプライバシー権に関する特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏(マルタ大学教授)が、いわゆる「共謀罪」法案について「プライバシーや表現の自由を不当に制約する恐れがある」と懸念を表明している。国連の最終報告書ではないが、国連組織の責任者の表明だけでも、自由と民主主義の国としての評価を引き下げることになる。広い視野での政策の検討が必要な時代である。

図 在留資格別外国人労働者数 

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| 2017年06月01日 | 雇用 | comments(0) | - |

労働力不足下でも平均賃金が増えない理由を考える

 消費低迷の要因としてマスコミでも指摘されるようになった、国民が政府の社会福祉政策による将来不安から、生活防衛で支出を抑制している影響というのはよく理解できる。一方、有効求人倍率が上昇を続け、労働力不足は深刻化している。それにも拘わらず、所得は厚生労働省「毎月勤労統計調査」の平均賃金でも前年比で1%増にも満たない僅かな伸びでしかない。安倍首相も企業に賃上げを呼びかけ、経団連もそれに応える姿勢を示しているが、賃金にはほとんど反映していない。収入が増えず、将来不安が高まれば、消費低迷は当然といえるが、労働需給と賃金の関係が崩壊し、労働需給と賃金との乖離現象が現経済局面の特徴として挙げられる。

 かつては雇用者数が増えていても、その中身はパートで、正社員はむしろ減少していたため、それが平均賃金が増えない理由になり、説得力を持っていた。また、低賃金産業での雇用の増加を賃金が増えない理由として以前、この経済レポートで指摘したこともある。ところが、労働者不足傾向が強まり、2015年頃から正社員の雇用も底入れ、さらに増加に転じてきた。また、パートの人材不足から、パート賃金の値上げも一部で行われるようになり、正社員とパートの雇用動向や産業要因だけでは説明し難くなっている。

 今回は総務省「労働力調査」(詳細集計)の年間収入階級別でその理由を考える。労働力調査の詳細集計では正規職員・従業員(勤め先で一般職員や正社員などと呼ばれている人)と非正規職員・従業員(勤め先で「パート」「アルバイト」などと呼ばれている人、「労働者派遣事業所の派遣社員」・「契約社員」・「嘱託」など)に分けて、収入階級別に集計されている。

 これによると、東日本大震災後の12年からの推移で、正規職員・従業員数は14年の3,278万人をボトムに増加に転じ、16年には3,356万人にまで回復している。正規職員・従業員の年間収入は階級別で低賃金の「100万円未満」や「100〜199万円」の人数は減少傾向にあるのに対し、「400〜499万円」「500〜699万円」の階級は着実に増加している。つまり、正規は増加に転じているのに加え、全体として高収入階級に移行しており、この間の賃上げやボーナス増の恩恵を受けていることを示している。

 一方、非正規職員・従業員数は企業の雇用戦略を反映して一貫して増え続け、16年には2,015万人、全職員・従業員数の38%を占めるまで拡大している。年間収入の階級別は正規とは逆に「100万円未満」や「100〜199万円」の人数は引き続き増えており、その他の階級も増える傾向にあるなかで、正規がボトムになった14年を挟んで変化がみられる。

 非正規全体に占めるこれら低収入の2階級を合わせた「200万円未満」の割合は12年の75.5%から、16年は74.0%へと1.5ポイントも低下しているが、14年は74.2%である。つまり、12〜14年は「200〜699万円」の非正規が比較的高い伸びになり、「200万円未満」の割合が顕著に低下したが、14〜16年はそれにブレーキが掛かった状態になっている。これは正規を希望してもその就職先が見つからない人がやむを得ず非正規で働いていたのが、正規に転職できるようになり、それによって非正規が抑制された影響と推測できる。

 また、「100万円未満」と「100〜199万円」の人数はそれぞれ12年で731万人、638万人、16年で775万人、717万人、この間の伸び率は6.0%増と12.4%増であり、所得水準の高い「100〜199万円」の増加数が「100万円未満」を上回っている。全体としては低賃金の非正規職員・社員でも賃金水準が上昇していると判断できる。

 それでも正規職員・従業者は「200〜699万円」の収入が16年で2,438万人、正規の72.6%を占め、これに対し非正規は大部分が「200万円未満」であり、かつ絶対数は「100万円未満」の方が多いことは、全体の所得水準を引き下げる影響は大きい。また、14年からの正規の雇用増は全体の平均賃金を引き上げる効果になっても、その一方で、この間に非正規の中の高収入非正規の割合の上昇速度が低下すれば、非正規平均、ひいては正規も含めた全体平均の引き上げテンポを減速することになる。もちろん、各階級の金額幅は少なくとも100万円もあり、その幅の中のどの位置にあるかが分からないため、単純に評価はできないことに留意する必要がある。基本的には、着実に収入階級が上位に移行しなければ、賃金上昇には限界があるといえる。

 また、「100万円未満」の低収入階級が労働需要の拡大下で着実に増加し、また高齢者雇用の就業増と合わせて考えると、年金不足の補填や生きがいなど個々の事情は別として、パート労働志向の強い高齢者が増えてきていると判断できる。それは、通常の営業時間の企業にとっては、フルタイム従業員であれば1人で済むのを、複数の従業員が必要になる。結果、従来と同様の経済状態でもより多くの雇用者を使うことになり、それだけ求人数を膨らせ、有効求人倍率を実態以上に高めることになる。

 人手不足でも企業は人口減少、高齢化が進む日本の市場拡大に期待を持てないため、労働コスト抑制意欲が強く、建前では安倍首相の賃上げ要請に同意しても、賃上げには慎重になる。これらの要因が重なり、毎月勤労統計調査でみて前年比0%台増でしかない賃金上昇になっている。労働需給と賃金との乖離現象をもたらす現在の環境が変化することは想定し難い。このため、景気が不況に落ち込まない限り、労働需給の逼迫状況が続くと予想できても、賃金は上昇しない。そして、それは消費者物価の上昇を抑える要因にもなる。

年間収入階級別正規の職員・従業員数

年間収入階級別非正規の職員・従業員数

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| 2017年03月01日 | 雇用 | comments(0) | - |

春闘を鉱工業生産指数から考える

 賃金上昇は特に、労働生産性向上が難しいサービス業の価格の値上げに結び付くため、消費者物価指数の2%上昇を目指す政府にとっては関心が高い。もちろん、それが低迷する消費拡大を通して経済成長率を引き上げる効果もあり、安倍首相は財界に異例といえる春闘の賃上げを要請している。これを受けて、経団連の榊原定征会長は2015年11月、業績が好調な企業に対し、16年春闘では「今年を上回る水準を期待する」との意向を表明した。

 ところが、今年に入って経団連の指針は昨年の基本給の引き上げを「選択肢の一つ」としていたのに対し、「一律的な基本給の引き上げに限られず、様々な選択肢が考えられる」と手当、一時金等を含める見解を示した。これだけでは抽象的で真意が分かり難いが、マスコミは昨年より後退したとしている。また、労働側も日本労働組合総連合で賃上げの基準になる金属労協が今年の春闘要求額を「ベースアップ月額3,000円以上」と、昨年の「6,000円以上」の半分に引き下げている。

 昨年の賃上げは企業収益が大幅に好転しているにもかかわらず、個人消費の回復をもたらすには期待外れであった。これらの動きから判断すれば、今年は昨年より賃上げ額が低くなり、個人消費の回復は見込み薄になる。ただし、これは名目の話で、政府や日本銀行の希望的観測とは逆に、消費者物価の上昇が止まり、さらには下落も予想されるため、名目賃金の伸びは低くても実質の個人消費は堅調ということはあり得る。

 14、15年の実績からみて、企業収益と賃金との関係が薄れている。基本的に企業が人件費の抑制に力を入れているためだが、もう一つの理由として、経団連の主要企業や春闘に影響力を持つ労働組合が製造業に偏っていることがある。

 工場労働者は需要が増えて忙しくなれば、好況感が生まれ、企業は儲かっていると思い、それを背景に賃上げに対して強気になれる。しかし、為替レートの円安で輸出や投資収益が膨らむ効果で企業収益増になっているだけでは、労働者にその実感はない。一方、経営者も円安が長期的に続く保証はないわけで、円安による収益増では賃上げには踏み切れないことはこの1、2年の実績が示している。

 製造業の生産動向を鉱工業生産指数でみる限り、景気回復といえるかどうか、ましてや好況とはほど遠い。2010年を100とする指数で、15年12月実績は速報値で96.5でしかなく、5年前の年間平均をまだ回復できていない。最近時で100を超えているのは15年1月の102.1だけで、ほぼ1年間100を下回っている。

 ただし、労働者の感覚は最近時の労働実態の影響が大きく、実感は景気の短期的な変動を判断するのに使われる季節的要因を除いた季節調整値よりも、原数値の前年比の方になる。四半期で季節調整値では15年4〜6月期1.4%減、7〜9月期1.2%減の2四半期連続のマイナス成長から10〜12月期は0.6%増へと回復である。これだけでは生産が好調かどうか分かり難い。

これに対し、原数値の前年同期は14年7〜9月期から15年10〜12月まで6四半期連続のマイナス成長である。特に、前年に消費税増税の駆け込み需要で生産が増えた影響もあって、14年10〜12月期1.5%減、15年1〜3月期2.1%減であった。消費税増税を考慮しても、15年春闘の賃上げの引き下げ効果は大きいと考えられる。つまり、安倍首相や経団連の賃上げ支援発言にもかかわらず、15年春闘の実績は低く、15年度の個人消費が低迷し、経済回復に勢いが付かない要因の一つになっている。

 そして、今年の春闘に影響する15年10〜12月期は0.4%減の微減でもまだ水面下で、12月は1.6%減である。このような状況が今年の金属労協の春闘要求額に反映していると推測できる。16年に入って生産が回復しても、急回復する条件は見当たらず、せいぜい前年並みか、微増程度であろう。経団連、連合の姿勢や鉱工業生産指数の推移から判断すれば、既に結果は出ている。

 もちろん、労使交渉で賃金が決まる正規労働者は一部で、多くの労使交渉のない企業の労働者、また組合員でない非正規労働者の賃金の方が全体として占める割合は大きい。これらの労働者の賃上げはより厳しいのが実態である。例えば、パートの有効求人倍率は1を大きく上回る状態が続き、労働需給は逼迫している。それでも非正規労働者の賃上げは少額でしかない。パートの需給逼迫が今まで長期的に続いていることからみて、16年に急に非正規労働者の賃金が上がるとは想定できなし。


鉱工業生産指数の推移

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| 2016年01月31日 | 雇用 | comments(0) | - |

高まる女性の就業率ー崩れるM字型就業構造

 前回のレポートで出生率を取り上げたが、今回はそれと相互に影響し合う女性の就業を考える。就業をみる場合、就業者数・率は景気の影響があるため、労働力人口・率を取り上げる例が多い。労働力人口は就業者と就職活動をしている人の合計で、就業者や就職活動も景気の影響を受け、また就職活動は失業保険の給付期間の影響もあるため、ここでは就業者でみる。

 女性の就業ではM字型就業構造が知られている。学校を卒業して就職し、就業率が上昇する。そして、結婚、出産で退職して下降した後、子育てが終われば就職して再度、就業率が上昇する。その後は高齢化に伴って徐々に退職していく結果、上昇、下降、上昇、下降のM字型になる。

 ところが、1994年、04年、14年の20年間の女性の5歳階級別就業率の推移をみると、94年は20〜24歳と45〜49歳をピークとするM字型が明確だったが、14年では30〜39歳で少しへこみがみえる程度で、顕著ではなくなっている。

 94年の最初のピークの20〜24歳から落ち込んだボトムの30〜34歳は、70.5%から51.4%へと20ポイント近い落ち込みである。これに対し、14年は最初のピークが高学歴化を反映して25〜29歳の75.7%になり、ボトムは同じ30〜34歳でも68.0%へと、減少幅は半分以下の8ポイントにもならない。

 この20年間で30〜34歳が27ポイント近くも就業率が高まり、30歳代でもほぼ7割もの女性が働いている。女性の非婚化、晩婚化、また、結婚しても出産しないか、出産退社せずに働き続けることが一般的になっているといえる。

 また、高齢者の就業率も高まり、60〜64歳で47.6%、半数近く、65〜69歳で30.5%と3割が働いている。一方、70歳以上は94年10.4%、04年8.7%、14年8.9%と増えているとはいえないが、長寿命化によって高齢者が増えるため、就業率が下がっても不思議ではない。

 70歳以上の女性就業者数でみれば、この間、73万人、91万人、124万人と増加数が加速する傾向にある。働きたくて働いているのか、生活が苦しいためかなどその理由は不明だが、70歳以上男性の14年の就業者は194万人である。13年から8万人増えており、15年には200万人を超えそうで、高齢者も人口減少時代を迎えて貴重な労働力になっている。

 ちなみに、男性の就業率は30から54歳まで90%台であり、女性を大きく上回っている。ただし、14年のピークは35〜39歳の93.2%に対し、94年には同じ35〜39歳がピークでも96.5%であり、男性の就業率は下がっている。つまり、男女間の就業率格差は縮小する傾向にある。

 女性の就業率の今後は不明だが、最近の動向をみる限り、上昇すると予想できる。産業構造がサービス経済化すれば、サービス業は相対的に女性に向いた仕事が多いため、女性の就業者が増えるのは不思議ではない。もちろん、女性側にも理由は別として働く意欲を向上させる要因が不可欠である。

 いずれにせよ、出生率を上げるには出産しても働ける社会の構築が必要になり、政府が進める保育所の拡大は適切といえる。ただし、それは需要側からの判断であり、供給側の保育士は労働条件が悪いため、就職希望者が少ない、つまり供給不足の問題がある。これは介護士と同じ構造で、一人で多くの幼児の面倒をみられないためである。保育士の待遇改善には親の負担を高くするか、税金で補助するしかない。

 現実は、低賃金の非正規労働者が増えているため、高い保育料を負担する能力のある人は少ない。今春闘も賃上げが叫ばれ、賃上げが行われたという報道が目立ったが、厚生労働省「毎月勤労統計」でみれば、労働者全体で賃上げが実現しているとはいえない。結局、税金で補助するしかないが、政府はそこまで考えているのかどうかが問われる。

女性の5歳階級別就業率の推移

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| 2015年11月30日 | 雇用 | comments(0) | - |

春闘賃上げは所得の伸びと結び付くか

 消費者物価の上昇率が所得の伸びを上回り、実質所得がマイナス成長状態であれば、当然のこととして民間最終消費支出(個人消費)は低迷する。この認識が広がったことで、政府は企業に今年度の賃上げを昨年度を上回るように要請し、財界も全体として企業収益が好調なため、一定の賃上げを認めている。個別でみれば、特に為替レート円安の恩恵が大きい輸出産業の自動車で、賃上げ額が高くなりそうな雰囲気である。

 賃上げと個人消費、景気の関係では、現実の所得にどれだけ反映されるかが問題になる。1年前も同様の雰囲気があり、2014年の賃上げ額は13年を上回った。といっても、厚生労働省の「賃金引き上げ等の実態に関する調査」によると、14年の全体の1人平均賃金の改定率は1.8%、13年の1.5%を0.3ポイント上回っただけである。かつ、この集計の対象は企業規模100人以上で、100〜299人1.6%、300〜999人1.7%、1,000〜4,999人2.1%、5,000人以上1.9%である。99人以下の中小零細企業ではせいぜい1%、さらには賃上げゼロの企業も多いと推測される。

 また、賃上げの対象になるのは正社員で、それ以外の実施は不明である。厚生労働省「毎月勤労統計」の5人以上事業所でみると、パートタイム労働者以外の長期の非正規労働者を含む一般労働者の所定内給与の前年比は、14年の後半でも1%増にも満たず、パートタイム労働者はほぼ横ばいである。つまり、正規職員は賃上げされても、その他の労働者はゼロか、少額でしかない。

 有効求人倍率は特にパート・アルバイトで1を大きく上回り、人手不足がいわれるが、それが賃金に反映していないのが実態といえる。賃金に対する企業の厳しい姿勢が窺える。その経営方針は円安で企業収益が改善しても変わらない。企業にすれば景気は変動するものであり、円安も長期的に続く保証もないからである。

雇用形態による有効求人倍率格差にみられるように、雇用構造の変化も着実に進んでおり、これが所得の伸びにも影響する。総務省統計局「労働力調査(詳細統計)」によると、役員を除く雇用者数(以下、雇用者数)は基調としては増加し、うち、正規の職員・従業者は07年の3,441万人をピークに減少を続けている。

 一方、パート・アルバイトは08年に減少しただけで毎年増加し、雇用者数に占める割合は08年の20.8%から、14年には25.7%と、6年間で5ポイントほど高まっている。また、パート・アルバイトを含む非正規の職員・従業員はこの間、34.1%から37.4%と4ポイント強の伸びであり、パート・アルバイト依存構造への変化が窺える。

 安倍政権下の景気回復で雇用者数は13年が前年比47万人、0.9%増、14年が39万人、7.5%増と2年連続で着実な増加となった。雇用面では明るいといえるが、所得面では雇用形態別の増減、雇用構造変化が問題になる。

 正規の職員・従業員は13年の46万人減から、14年は16万人減に減少幅は縮小している。12年から四半期の推移で、雇用は季節変化が大きいため、前年同期と比較すると、13年は前年同期比で40万〜50万人程度の着実な減少が続いていたのが、14年には減少傾向に歯止めが掛かり、7〜9月期は前年同期比10万人増となった。ところが、増加は1四半期で終わり、10〜12月期は2万人減である。まだ正規の職員・従業員増が見込める状況とはいえない。

 逆に、非正規の職員・従業員、うちパート・アルバイトは13年の大幅増加の基調から、14年は頭打ち傾向になっても、10〜12月期まで増加している。4〜6月期、7〜9月期と2四半期連続で実質GDPがマイナス成長になったにも関わらずである。正規の職員・従業員の推移と合わせて考えると、雇用を抑制してきた影響で、今後は分からないが、労働力不足状態にあったといえる。

 今後の雇用者数は景気次第だが、正規雇用から非正規雇用への構造変化にまだ歯止めは掛かっていない。雇用者の全体の所得は雇用者数と1人当たり賃金との積になり、雇用者が増えれば、雇用者所得全体は増える。ただし、雇用構造が低賃金の非正規化すれば、伸びは低くなり、マイナスの可能性もある。

 春闘の賃上げも同様で、一部の輸出産業で比較的高い賃上げが実現しても、全体として賃上げ額、ひいては「毎月勤労統計」の所定内給与はそれほど増えないのが実態である。結果、個人消費の回復力にも期待できない。正規雇用化への逆転が求められるが、それが難しければ、景気回復による春闘賃上げを幅広く雇用者に波及させるために、少なくとも同一労働、同一賃金が必要になる。

 15年度の個人消費に関しては、消費税増税による消費者物価の上昇が3月で一巡する。加えて、原油の国際価格は大幅に下落し、バレル当たり100ドルを超える水準から40ドル台まで下がった。その後、下がり過ぎから戻しても、50ドルを少し上回る水準で止まっている。当面は世界経済の回復力が弱いため、元の水準に向けて上昇する力はないと推測される。また、穀物をはじめ食料品の国際価格も天井を打っており、海外からの物価上昇圧力は低下している。

 天候要因や円安の可能性を除けば物価上昇要因は見当たらないため、15年度の消費者物価上昇率は1%を下回り、一時的にマイナスになっても不思議ではない。物価を考慮すれば、15年度の実質所得はプラス、ひいては実質個人消費もプラスも予想されるが、高い伸びは見込めず、穏やかな回復が予想される。



雇用形態別雇用者数


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| 2015年03月01日 | 雇用 | comments(0) | - |

毎勤統計から賃上げの実態をみる

 今年の春闘は景気回復と消費税引き上げ後の駆け込み需要の反動減対策で、自民党安倍政権が賃上げ要請するという異例の環境下で行われた。マスコミは比較的賃上げ額の大きい企業を報道し、何となく賃上げは近年ではかなり高くなったイメージが形成されている。一方で、最近の消費関連統計は明るくはない。マスコミはその時々の話題を大きく取り上げる体質があり、これが誤ったイメージを形成する可能性があるが、最終的な春闘賃上げ額の発表は遅くれるため、実態は不明である。


 もともと、賃上げの恩恵に与れるのは大企業の一部正社員でしかなく、賃上げされてもその効果は全体としてみれば小さいという批判もある。もちろん、春闘は正社員だけのものではないが、現実はそうである。ただし、今年は有効求人倍率が1を超え、人手不足倒産も話題として取り上げられ、パート、派遣社員などの非正規社員にも賃上げが波及することも考えられる。いずれにしても、雰囲気が報道されるだけで、実態は不明な状態である。


このため、厚生労働省「毎月勤労統計」の賃金動向から推測するが、春闘賃上げ額は労使間の交渉で決まるため、4月から一斉に上がるわけではなく、実施時期はばらつく。それでも、6月までにはほとんどの企業で実施されていると考えられる。6月までの「毎月勤労統計」(6月は速報値)の推移をみれば、今年の春闘の実態がある程度は分かる。


 従業者5人以上企業のパートと一般労働者を合わせた全労働者平均の現金給与総額は、昨年11月から僅かだが前年水準を上回るようになった。ただし、前年同月比で今年3、4月の0.7%増がピークで、5月0.5%増、6月速報0.4%増で、息切れ気味である。


 また、総額のうち春闘賃上げ額の影響が大きく、毎月決まって労働者が受け取る所定内給与は今年4月まではマイナスで、5月横ばい、6月は0.3%増である。前年のマイナス基調との比較すれば、1ポイントほどの賃上げ率引き上げ効果が窺える。


 現金給与総額が先行して前年水準を上回るようになったのは、景気回復効果で残業代などが増えたためだが、5月からは消費税増税の反動減で、企業活動が弱まっている影響がでている。ただし、夏のボーナスの伸びは高まる見込みで、7月は盛り返すと予測されるが、1%台の伸びになれば良い方であろう。


 一方、所定内給与が6月に前年を上回ったのは、今年の春闘賃上げ額が最近の伸び率低下傾向に歯止めが掛かり、回復したといえる。しかし、1%にも達しない伸びでは、3月までの物価上昇にも足りず、もちろん3%の消費税引き上に対しては全く不十分である。


 ちなみに、5月までしか分からないが、賃上げが大きいと思われる大企業が対象になる、従業者500人以上企業の一般労働者(パート以外の長期雇用で、正社員以外も含まれる)の5月所定内給与は0.1%増である。結局、大企業でも全体でみれば春闘賃上げ額は大したものではなかったと判断できる。


 その分、夏、冬の一時金が比較的高いの伸びになり、現金給与総額は増加基調が予測できる。それでも、生活を支える基礎的収入の所定内給与が安定的に増えなければ、個人消費の回復は見込み難い。また、就業者数の前年比伸び率は1%増以下で、これを考慮しても全体として所得の伸びは低い。これに対し、企業減税の一方、消費税以外でも税・保険料負担の拡大、社会保障の切り下げが予定されている状況ではより難しい。


 一方、有効求人倍率が1を超え、特にパート不足の深刻化はパート賃金から上昇も考えられる。ところが、これは低賃金のパート需要が増えているためで、その背景にはパート需要の多い小売り・サービス業が価格引き上げが困難な市場環境から、低賃金のパートを求めているという事情がある。そして、それは消費者が所得が増えないなかで、低価格商品・サービスに向かわざるを得ないためで、これがデフレの原因になる。


 国際商品市況の上昇、為替レートの円安の海外要因によって物価が上昇しても、それは一時的現象でデフレ解消とはいえない。国内の需給が改善し、国内要因から物価が上昇して初めてデフレ状態からの脱却になる。

 
給与額の推移(前年比伸び率)

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| 2014年08月02日 | 雇用 | comments(0) | - |
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