日本の景気は良い、悪い?
2023年10〜12月期実質GDP(1次速報、季節調整値)の成長率は7〜9月期の前期比0.8%減に続き、同0.1%減の2四半期連続のマイナス成長になった。欧米では2四半期連続のマイナス成長は後期後退と判断されるが、日本では景気判断は内閣府の景気動向指数研究会が景気動向指数に基づいて決定する。特に、今回はコロナ禍による一時的な変動要因があるため、景気のピーク時期の判断は難しいが、現在はピークを過ぎたと考えられる。
一部には株価高騰で景気が良いように報じるマスコミがあり、それを受け入れる雰囲気がある。基本的に投機で変動する株価は景気の判断には使えないが、景気が悪化したと思いたくない人は株価に判断を頼る。また、実質GDPは季調値の前期比で2四半期連続のマイナス成長になっても、名目GDPの原数値は物価上昇による水膨れで、この2四半期は前年同期比で6.9%増、4.9%増である。季調値のない企業の売上高は前年比になり、名目GDPの前年比を反映するため、まだ比較的順調な伸びが続いていることになる。
企業収益も輸出企業は円安の恩恵を受け、輸入原材料比率の高い企業は原材料コストの上昇を製品価格の値上げに転化して収益増加になっており、不況感を感じ難い状況にある。ただし、需要が減少すれば製品価格は値上げできず、むしろ値下がりする。
現状の実質成長であれば数量ベースの生産量はほぼ横這いの推移になり、生産が増えない、さらには減産に陥る企業が増えてくる。生産が増えなければ生産性の向上は難しく、生産コストを通じて収益に影響する。いずれにしても、実質GDPの動向が企業収益にも波及し、現在の雰囲気による景気評価の誤りを認識するまでに時間が掛かるのは通常のことである。
景気動向指数研究会の決定にはより時間が掛かる。同研究会は前回のピークを18年10月と判断したが、判断時期は2年近く経った20年7月であった。当時、アベノミクスによる景気拡大は戦後最長の景気拡大「いざなみ景気」の73カ月を抜いたと一部マスコミが騒いだが、結果は2か月足らなかった。もちろん、期間よりも成長率が問題で、当時の安倍首相に忖度して期間が長いのを強調していた。同研究会の判断を待っていれば、国民や企業は景気への対応が遅れる。
基本的に、景気が悪化すれば責任が問われる政府の景気判断は、割り引いて見る必要がある。例えば、政府見通しになる内閣府「月例経済報告」は、23年10〜12月期実質GDP(季調値)の2四半期連続マイナス成長発表後の2月の報告が「景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している」であり、全く実態を反映していない。
今回はコロナによる変動で季調値だけでは判断し難いため、原数値の前年同期比で見ると、実質GDP(原数値)の前年同期比で4〜6月期2.3%増、7〜9月期1.7%増、10〜12月期1.0%増とマイナス成長ではないが、急速に成長率が低下している。24年1〜3月期は低所得者への給付金があるため、マイナス成長が避けられても、4〜6月期にはマイナスになる可能性が高い。月例経済報告は「悪化傾向にある」とすべきである。
景気の悪化はGDPで比重の大きい民間最終消費、民間設備投資のマイナス成長と輸出の牽引力不足にある。個人消費の実質民間最終消費は季調値の前期比で4〜6月期から10〜12月期まで0.7%減、0.3%減、0.2%減、実質民間企業設備も同様に1.4%減、0.6%減、0.1%減で、いずれも3四半期連続のマイナス成長である。
一方、実質財貨・サービスの輸出はインバンド需要でサービスが増えても、財貨が伸び悩み、全体ではこの間、3.8%増、0.9%増、2.6%増で、低成長でもマイナス成長ではない。結局、民間最終消費と民間企業設備の不振がマイナス成長要因になる。ちなみに、原数値の前年同期比で実質GDPはプラス成長を維持しているが、実質の民間最終消費と民間企業設備は4〜6月期のプラス成長から、7〜9月期、10〜12月期は両方共に2四半期連続のマイナス成長である。
民間最終消費は春闘賃上げ額が低く、所得が増えない状況で物価上昇があれば、実質所得がマイナスになり、それに伴って支出、消費が増えないのは誰でも理解できる。一方、企業収益、特に大企業は為替レートの円安と製品価格の値上げで改善しており、長期的に企業収益は良好で、設備投資資金は余裕がある。また、長期的に低金利が続いているのも設備投資の促進要因であり、以前から民間企業設備の増加が期待されていた。
しかし、現実には民間企業設備は減少しなくても、年率で1、2%程度しか伸びていない。国内市場は人口減から成長を期待し難い時代で、設備能力増強には消極的になり、かつ、輸出が伸びても海外での設備増強に向かう傾向にある。一時は円安で海外から国内に立地戦略が変わるという声もあったが、最近ではほとんど聞かれなくなった。
また、欧米企業だけでなく、台頭するアジアの企業との競争力が激しい時代であり、国際競争の中で生き残り、成長するには研究開発投資が重要になる。現実には研究開発投資もそれほど増えていない。これが日本の生産性の伸びを低くしている要因でもある。逆に、企業収益が増えているにもかかわらず、設備投資を拡大しないのではなく、設備投資を拡大しないことで収益を維持、増加させている面もある。
同様に、長期的に賃上げを抑えて人件費を抑制しているのも収益増要因になり、支出抑制で収益を維持・拡大させているといえる。いずれも企業の経営戦略に依るもので、企業戦略が変われば現在の日本経済の長期低迷下での成長鈍化、マイナス成長からの早期脱出が見込める。
設備投資は成長に向けて積極的な投資が求められ、賃金に関しては今春闘で4〜6%と最近では高い賃上げを表明する企業が出現している。昨年も今回ほどではないが、高い賃上げを表明する企業がマスコミを賑わしたが、結果は厚生労働省「毎月勤労統計」の結果に見られるように、従来からほとんど給与額の伸びは高まっていない。
この理由として二つ考えられる。一つは、高い賃上げ表明の企業はほとんど大企業で、就業者の大半を占める中小零細企業の賃上げ額が増えなければ、全体では伸びない。もう一つは、雇用の非正規化である。正規職員に比べて非正規職員は大幅に賃金水準が低い。正規職員だけでなく、非正規職員の大幅賃上げを表明している企業もあるが、低賃金の非正規化を進めれば、賃上げしても全体として賃金、給与の伸びは抑えられる。
企業の投資行動、賃金、社員構成が改善されれば、日本経済の成長性が高まると期待できる。一方、それは企業収益を悪化させる可能性があり。一時的な成長性の向上で終わるかもしれない。また、賃上げによる賃金コストの上昇を製品価格に転嫁すれば、実質賃金は増えない。物価上昇によって名目GDPの成長率は高まっても、実質GDP成長率は変わらず、国民は相変わらず苦しい生活のままになる。結局、設備投資で生産性の向上を図る必要があるが、企業の認識はどうか。
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